めでたく候

めでたく候

田舎育ちの純朴な少女・玉(のちの桂昌院)が、大奥に渦巻く情念や陰謀を目の当たりにしながらも、将軍・徳川家光の側室としてしたたかに出世していく様子を描く歴史ロマン。「デジタルマーガレット」2019年9月から掲載の作品。

正式名称
めでたく候
ふりがな
めでたくそうろう
作者
ジャンル
時代劇
 
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あらすじ

序章

宝永2年(1705年)6月、江戸城三の丸。将軍徳川綱吉の生母・桂昌院が臨終の時を迎えていた。遠のく意識の中で、彼女は初恋の人である亮賢と再会し、死後の世界に向かう。そこには、夫の徳川家光をはじめとした生前桂昌院と縁のあった人々が集っていた。彼女はまるで映画館のような場所に案内され、これまでの人生がすべて映し出されることを告げられる。そして桂昌院は、波乱に富んだ自らの人生を振り返り始める。

幼少期

時は寛永14年(1637年)。10歳の光子(のちの桂昌院)は、光子の母と弟の平四郎と共に、京都の山奥の寺に身を寄せていた。ある時、光子は山中で行き倒れた旅の僧・亮賢を助けて介抱する。その際、光子は亮賢の美しい顔立ちに魅了され、初めて恋愛感情を抱く。ところが、再び旅に出た亮賢を見送った日、光子は一人の女に刃物で襲われる。光子の母は本庄宗正という商人の妾で、本庄の前妻に嫉妬されていたために襲撃されたのである。愛犬のシロが身を挺したおかげで光子は助かるが、シロは大ケガをしてそのまま行方知れずになってしまう。その後はいさかいも収まり、光子の母は本庄と正式に結婚し、光子と平四郎も京都の本庄家に引き取られる。本庄家では、跡取りである平四郎ばかり大切にされたため、光子は家庭内で疎外感を覚え始めた。そんな中、将軍・徳川家光の側室となった公家の娘・お万の方の侍女を探しているという話が本庄家にもたらされる。光子は家を出て、遠く江戸に奉公しに行くことを決断するのだった。

奉公の始まり

苦労の末に江戸までたどり着いた光子(のちの桂昌院)は、お万の方に仕える侍女として働き始める。江戸に出たばかりの頃、光子は悪人に騙されて危うく遊郭に売られそうになってしまう。しかし、狐の面をかぶった謎の侍が助けに現れ、悪人たちを討ち果たして去っていく。この侍は、お忍びで町を出歩いていた将軍の徳川家光だったが、光子はその正体を知る由もなかった。無事に江戸城に戻った光子は、御末という最下層の侍女から宮仕えを始める。出世のためなら平気で他者を蹴落とすような大奥の世界を目の当たりにする光子だったが、やがて出世の糸口をつかむ。田舎育ちのために薬草の知識に詳しく、調合した薬が侍女たちのあいだで評判になったのである。その評判は、大奥を束ねる春日局の耳にも入り、光子に興味を持った春日局は、自らのもとで働くように光子に申し付ける。

春日局のもとで

最下層の侍女だった光子(のちの桂昌院)は、春日局に取り立てられ「秋野」という名を与えられる。春日局は、大奥を取り仕切る人材として秋野を育てようとしていた。そんな中、秋野は主人であるお万の方が、徳川家光の子をいっこうに懐妊しないのを不自然に思い始める。実は、春日局がひそかにお万の方に薬を飲ませ、懐妊を妨げていたのである。秋野は春日局を問いただし、その真意を知る。公家の娘が将軍の世継ぎを産めば、朝廷が幕政に介入する恐れがあるという深謀遠慮から、春日局はお万の方の懐妊を妨害していた。秋野は怒りを覚えるが、お万の方の心の平穏を奪いたくないという思いから、真相を胸にしまう。春日局と共犯関係になったことに懊悩(おうのう)する秋野だったが、その一方で、国の行く末のために非情な選択をする春日局には敬意を抱き始める。

登場人物・キャラクター

桂昌院 (けいしょういん)

江戸時代前期に大奥に仕えた女性で、将軍・徳川家光の側室。幼名は「光子」、大奥に仕えた時の源氏名は「秋野」、次に「玉」、出家後は「桂昌院」を名乗る。幼少期は京都の山奥の寺で暮らしていたため、純朴で活発な性格だった。養父の本庄宗正に引き取られてからは、家庭内で孤独を感じ始める。しかし、町で出会った飴売りの老婆の教えで、どんな嫌なことも「はいよろこんで」と受け入れる処世術を身につける。そののち、家光の側室となったお万の方の侍女として江戸に上る。田舎育ちのために型破りな行動が多く、周囲の侍女を呆れさせることが多い。だが、薬草の知識を持っていたことが出世の糸口となり、持ち前の意思の強さもあって、侍女として異例の出世を遂げていく。実在の人物、桂昌院がモデル。

光子の母 (みつこのはは)

京都の山奥の寺に身を寄せていた女性。商人の本庄宗正とのあいだに平四郎を授かる。しかし、本庄の前妻との関係がこじれ、正式な結婚ができないまま、光子(のちの桂昌院)と平四郎を連れて寺の世話になっていた。のちに本庄と結婚することになり、二人の子供と共に本庄家に入った。

平四郎 (へいしろう)

京都の山奥の寺に身を寄せていた少年。光子(のちの桂昌院)の種違いの弟で、よくいっしょに遊んでいた。光子の母が本庄宗正と結婚したことで、寺を出て京都の本庄家に入る。本庄家の跡取りとして大切に育てられ、光子とは明確に区別されている。そのため、光子が本庄家で疎外感を覚える原因となった。

本庄宗正 (ほんじょう むねまさ)

京都で野菜の商人をしている中年の男性。前妻と離縁したあと、光子の母と結婚して京都の山奥の寺から子供たちを引き取る。平四郎は実子だが、光子(のちの桂昌院)とは血縁関係にない。平四郎を跡取りとして期待し、溺愛している。継子ながら光子のことも気にかけているが、男女の違いゆえに光子と平四郎の扱いのあいだには明確な格差がある。実在の人物、本庄宗正がモデル。

亮賢 (りょうけん)

旅の僧侶。幼い光子(のちの桂昌院)が暮らしていた山奥の寺の近くで行き倒れていたところを光子に助けられた。整った美しい顔立ちで、光子に思いを寄せられている。寺には短期間世話になっただけで旅立っていったが、光子の初恋の人として、その後もたびたび回想される。

お万の方 (おまんのかた)

京都の公家出身の女性。もとは出家の身であったが、将軍・徳川家光にその美貌を気に入られ、還俗(げんぞく)して側室に迎えられた。京都から江戸に輿入れする際、光子(のちの桂昌院)が侍女として仕えることになった。優しく親しみやすい性格で、光子はお万の方を心から慕っている。夫を心から愛しており、子を授かりたいと願っているが、春日局の深謀遠慮によって薬を盛られ、懐妊を妨害されていた。実在の人物、お万の方がモデル。

徳川 家光 (とくがわ いえみつ)

江戸幕府の将軍を務める男性。端正な容貌の美男子だが、非情な性格で自分に逆らう者は容赦しない。しかし、乳母である春日局にはまったく頭が上がらない。若い頃は身分を隠して江戸城を抜け出すことがあった。ある晩、光子(のちの桂昌院)が人さらいにあったことを隠密から伝えられ、悪人の隠れ家から救出した。光子は気づかなかったが、これが家光と光子の最初の出会いとなった。そののち、光子が田舎育ちで木登りが得意だと知り、興味を持って御前に呼び寄せる。その際、光子と猿に木登り競争をさせたことから、光子に悪趣味な嗜好の持ち主だと思われていた。その際、光子の物おじしない態度を気に入り、寝所に呼ぶことを決める。実在の人物、徳川家光がモデル。

春日局 (かすがのつぼね)

大奥を取り仕切る老齢の女性で、将軍・徳川家光の乳母。大奥の最高権力者で、侍女たちから恐れられている。最も身分の低い侍女だった光子(のちの桂昌院)の素質を見抜き、春日局自身のそばに仕えさせる。家光の側室であるお万の方に、侍女のお奈阿を通じて薬を飲ませ、ひそかに懐妊を妨害する。非情な陰謀を巡らせるやり方から、光子からは鬼のようだと評されている。しかし、それらの行いも国の安定を願ってのことである。実在の人物、春日局がモデル。

明石 (あかし)

大奥に使える若い侍女の一人。口の横にほくろがある。光子(のちの桂昌院)が大奥に入ったばかりの時に教育係となり、さまざまなしきたりを教える。出世欲が強く、最下層の侍女から上級の女中になることを目指している。出世のためなら他人を貶めることも辞さないが、人情家な一面も持ち合わせている。のちに将軍・徳川家光の手がつき、子供を懐妊して側室になる。実在の人物、順性院がモデル。

お奈阿 (おなあ)

大奥に仕える高齢の侍女。非常に温厚な性格で、光子(のちの桂昌院)からも優しそうな女性だと思われていたが、実は春日局の意向を受けて、懐妊を妨げる薬をお万の方に渡していた。大奥の恐ろしさを光子に実感させた人物の一人。春日局の没後、出家して尼となり「祖心尼」を名乗る。実在の人物、祖心尼がモデル。

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