デザイナー 渋井直人の休日

デザイナー 渋井直人の休日

デザイナーを生業とする渋井直人が、休日にさまざまな場所に出かけたり、仕事やプライベートで知り合った女性たちとの出会いと別れを経験したりする姿を描く、ショートストーリー。「宝島AGES」で2015年2月号から2016年9月号まで連載の作品。

正式名称
デザイナー 渋井直人の休日
ふりがな
でざいなー しぶいなおとのきゅうじつ
作者
ジャンル
日常
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

渋井直人は、アシスタントの杉浦ヒロシと共に生業としているデザイナー業に精を出しつつ、休日はカフェ巡りやショッピングなどを楽しむ日々を過ごしていた。新しい発見を何よりも楽しみにしている渋井は、ジャケットが面白いからと乃木坂48の楽曲を次々に購入したり、思い付きによって突拍子のない行動をしばしば実行に移す。そしてそのたびに、直人自身に負けず劣らずの個性的な面々が次々と現れる。渋井は、時に彼らに翻弄されて貧乏くじを引かされたり、時には女性たちといい関係になりかけたりするものの、空気を読まない発言にドン引きされてしまう。そんな渋井は、ある日居酒屋で知り合った三浦カモメに告白し、OKをもらったことで念願の恋人関係となる。それからは有頂天な日々の中、大きな仕事を受けることになり、一週間ほどカモメと会えなくなる。さらに、仕事を終えてカモメと再会するが、以前の彼氏とよりを戻したいと言われて別れを余儀なくされる。渋井はショックを受けつつも、彼女の新たな門出を見守る決意をする。

メディアミックス

テレビドラマ

2019年1月から4月にかけて、本作『デザイナー 渋井直人の休日』のTVドラマ版『デザイナー 渋井直人の休日』が、BSテレ東で放送された。制作はテレビ東京/C&Iエンタテインメントが担当した。監督は松本佳奈、久万真路、桑島憲司、脚本はふじきみつ彦、松本佳奈がそれぞれ務めた。キャストは、渋井直人を光石研、杉浦ヒロシを岡山天音、三浦カモメを黒木華が演じている。

登場人物・キャラクター

渋井 直人

デザイナーを生業とする男性。年齢は52歳で、黒い子犬を飼っている。仕事柄、新鮮なものに触れることや、自分の知らないものを発見することに喜びを感じている。休日にはおしゃれな格好で街に繰り出し、レコード屋巡りをしたり、カフェでまったりくつろいだりと自由を満喫している。ショッピングが趣味で、時折気に入った本やグッズを大量に大人買いする。やや短気で調子に乗りやすい性格で、他者を見る目も厳しいが、困ってる人を見ると放っておけないお人よしな一面がある。仕事に関する熱意も高いことから、業界関係者たちからの評価も高い。一方で、人に流されやすいところがあり、京川夢子率いるインディーズバンド「ヤムウンセンズ」の楽曲のジャケットデザインをミルトン・グレイザーの絵のイメージでと頼まれ、断り切れなかった渋井が絵の盗用が疑われそうになるなど、要領が悪い。また、物事にはつねに裏があると考えていることから、優柔不断になりがち。その結果、貧乏くじを引かされることも多く、そのたびに自分の行いを後悔する悪癖を持つ。デザイナーとしての経歴や優しそうな見た目から、若い女性に人気がある。渋井直人自身も惚れっぽく、声をかけられるとすぐにその気になる。しかし年齢にそぐわない軽薄な態度や、空気を読めない発言から幻滅され、大体は交際には至らないことが多いため、いまだに独身。アシスタントの杉浦ヒロシとは似た者同士で、事あるごとに内心で互いの欠点を指摘し合っているものの、機嫌がいいときは高価な食事を躊躇なくおごったり、逆に杉浦から若い世代の助言を受けるなど、良好な関係を築いている。

杉浦 ヒロシ

渋井直人のアシスタントを務めているデザイナーの青年。素直な性格ながら少々鈍感で、渋井の仕事に同行する際に打ち合わせに似つかわしくない服装で現れることもある。そのため、働き始めた当初は、渋井からは心の中で「なんでこんな子を取ってしまったんだろう」と、辛辣な評価を受けていた。しかし不用意な発言で、大御所アーティストの真田シンイチを怒らせ、さらに高田からも愛想をつかされた渋井に対して、「小難しい真田ではなく、渋井のアシスタントでよかった」と言葉をかけて気持ちを和らげた。仕事に関しては生真面目で、渋井が京川夢子のバンド「ヤムウンセンズ」のジャケットデザインをミルトン・グレイザーからの盗用だと疑われていることを知らされると、嫌悪感をあらわにした。また、渋井のすぐにムキになる性格も、杉浦ヒロシ自身はまったく気にしていない。渋井がモテることを面白がっている節があり、彼がデートに出かけるときは、からかいつつも準備を手伝ったりしている。だが、渋井が毎回貧乏くじを引かされる続けることを不憫に思うようになり、友人のヒカルと共に元気づけている。しかし、渋井からヒカルと恋人同士になりたがっていると誤解され、彼女を怒らせたこともある。ヒカルとは、のちに正式に恋人同士となる。

三浦 カモメ

渋井直人が居酒屋「食事処檸檬」で知り合った女性。年齢は35歳。食事処檸檬の店主とは仲がよく、彼女を母親のように慕っている。藤原史織の大ファンで、彼女が「ブルゾンちえみ」として活動していた時から追いかけている。しゃれた店ではなく、気軽な店での食事を好む。明るく無邪気な性格で、かなり年上の渋井や食事処檸檬の店主とも、友達感覚で屈託なく話をするなど、コミュニケーション能力が高い。また、かわいいものが好きで、渋井が飼っている子犬を一目見るなり気に入った。チョコレートが大好物で、チョコレートの輸入会社への就職が決まり、念願のチョコレートに囲まれた生活を送れるようになる。食事処檸檬で渋井と意気投合し、三浦カモメの何事にもポジティブにとらえる姿勢に魅力を感じた渋井から告白され、晴れて恋人同士となる。付き合った当初は、渋井との年齢差から照れもあり、恥ずかしがる様子を見せることも多かった。だが、慣れていくにつれて、焼き鳥屋でいっしょに食事するなど、円滑な関係を築いている。しかし、渋井が多忙で1週間ほど会えなくなると、寂しさから前の彼氏とよりを戻すことを考えるようになる。

食事処檸檬の店主

中目黒にある居酒屋「食事処檸檬」を経営している女性。不愛想な性格で、客の前でも笑顔を見せることは滅多にない。だが、面倒見がいいことから、三浦カモメをはじめとする常連客も多い。食事処檸檬の店主自身も常連客のために店を開けているようなもので、実に60年ものあいだ継続している。自分の店では日常を忘れてほしいと考えており、カモメが渋井直人に仕事の話を振ろうとした時も、制止していた。渋井からも居心地のいい店と認識されている。

木村 ひる美

渋井直人が愛用している書店に通っている女性。武蔵野美術大学の学生で、ギャラリーカフェで個展を開くほどの才能を誇る。渋井のことを書店の店主から聞いており、渋井を魅力的な男性だと周囲に吹聴し、さらに渋井を自らの個展に招こうとした。しかし実際は、客寄せ目的やデザイナーたちとのコネを広げるために利用しようとしていただけだと判明し、それを知った渋井はしばらく意気消沈していた。

真田 シンイチ

大御所として知られている、デザイナーの男性。渋井直人があこがれていた人物で、現在の自分がいるのは真田シンイチのおかげだと言っても過言ではないと言い切っている。ある時、渋井に仕事を発注して、彼を大いに喜ばせる。しかし、打ち合わせ当日に、渋井が知らなかったとはいえ、真田自身が携わってきた仕事の中で、最も嫌っている作品についての話題を切り出され、一気に機嫌を損ねる。その後も渋井が優柔不断な態度を取ったことから終始渋い顔を見せ続け、仕事のキャンセルこそしなかったものの、互いによくない印象を抱いてしまう。なお、その様子を見ていた高田は、渋井の失態に対して冷めた目を向けていたが、今回の仕事まで真田と会ったことがなく、彼を満足に知らない杉浦ヒロシは渋井を擁護し、落ち込んでいた彼を元気づけた。

高田

渋井直人に仕事を依頼している編集者の女性。渋井のほか、ライターの甲本ヒロミや、スタイリストの「引田ユミ」、フォトグラファーの「久米田ハルコ」、イラストレーターの「SHOGO」など、複数のフリーランスといっしょに仕事をしている。甲本と共に渋井が女性にモテると考えている。さらに、甲本の思い付きから渋井の家で食事会を開くことになり、渋井から「もしかすると自分に気があるのでは?」と思われる。しかし実際は、そんなことはまったくなく、それどころか飼い猫が逃げ出したという理由であっさりと食事会をキャンセルした。渋井が真田シンイチの仕事を受注した際は、打ち合わせのために渋井や杉浦ヒロシと共に真田と顔を合わせる。だが、渋井の不用意な発言で真田の機嫌を損ねて、それ以来、彼を冷ややかな目で見るようになる。のちの誕生日に、渋井が幹事を務めたサプライズパーティーが開かれ、歓喜する。ただし、渋井に対しては特に感謝する様子を見せず、いっそう彼を落ち込ませてしまう。

甲本 ヒロミ

高田と共に仕事をしている、フリーライターの女性。仕事上で付き合いがある渋井直人に対して、高田と共に渋井がどれだけ女性と付き合ったことがあるのか聞き出そうとするなど、俗っぽい一面を持つ。一方で、仕事に対してはまじめに取り組んでおり、渋井がデザイナーとしての持論を展開した時は熱心に聞いていた。さらに、彼が料理上手であることを聞き出すと、高田といっしょに渋井の手料理を食べたいとねだり、承諾させた。しかし、京都に取材に行く予定が入り、キャンセルを余儀なくされる。そのうえ、高田も都合が悪くなり、渋井は用意した料理を一人で食べる羽目となる。のちに高田が誕生日を迎えると、渋井の企画したサプライズパーティーが開かれ、参加する。

クライアント

渋井直人に「多肉植物とインテリア」と呼ばれる本のデザインを依頼した女性。洋楽が好きで、特にカナダのソウルバンドである「ザ・スパンデッツ」の曲がお気に入り。また、日本のバンド「cero」にも注目している。渋井の仕事を高く評価しており、彼の音楽センスのよさも認めている。ある日、同僚の仁藤と共にレコードショップを訪れた際に渋井と出会い、仁藤の紹介をしたうえで、渋井が現在凝っている曲に関心を抱く。しかし、渋井が買おうとしている商品の中から乃木坂46の楽曲を見つけると、怪訝そうな目を向け始める。さらに、「あるきっかけから橋本奈々未が好きになった」と明かされたところ、渋井の説明不足から異性として好きになったとカンちがいし、一気に引いてしまう。

仁藤

クライアントと同じ編集部に所属している女性。日本のバンド「cero」の大ファンであるクライアントから、いっしょに試聴するためにレコードショップに連れてこられたところで、渋井直人と知り合う。さらに、クライアントから渋井を紹介され、渋い外見や立ち居振る舞いを賞賛する。しかし、それが行き過ぎた結果「絶対にJ-POPなんて聞かなそう」と、勝手な妄想を持たれてしまう。

京川 夢子

インディーズバンド「ヤムウンセンズ」のボーカルを務めている女性。アメリカの大衆芸術をこよなく愛しており、ボブ・ディランやウォルト・ディズニー、アンディ・ウォーホルなど、複数のアーティストから影響を受けていると公言している。押しが強い性格で、渋井直人に新曲のジャケットのデザインを依頼した際に、できるだけミルトン・グレイザーの絵に似せるようにとせまり、断り切れなかった渋井が盗用を疑われかねないデザインを仕上げる結果を生んでしまう。このよくも悪くも強引な性格から目の仇にしている人も多く、無料ライブの際に心ない野次を浴びせられることもある。しかし、京川夢子自身はそんなことをまったく気にしておらず、力強いサウンドを奏でることで着実にファンを増やしている。

奈良 礼生

カフェ「マシュ・ケ・ナダ」の店主を務めている青年。渋井直人と個人的に親交があり、彼の音楽センスを高く評価している。そのため、店の中のイベントでは、客にあいさつ回りに行くあいだ、渋井にDJを任せることもある。宝島社の編集を務めている苅とも親しく、のちに渋井を紹介する。渋井が気に入っていたリサが苅に夢中であったことから、結局二人がなかよくなることはなかったが、奈良礼生自身はそのことを知らない。

宝島社で編集を務める男性。奈良礼生と仲がよく、彼が経営している「マシュ・ケ・ナダ」によく通っている。リサとは常連同士で仲がよく、カフェのイベントで遭遇しては、談笑に花を咲かせている。奈良の紹介で渋井と知り合い、いったんは意気投合する。しかし、渋井がリサを気に入ってることを知らず、彼女に気に入られようと一生懸命になっている渋井の努力が無駄に終わる。その結果、渋井から逆恨みされ、八つ当たりから宝島社の仕事はしばらく断り続けるという災難に見舞われる。

リサ

カフェ「マシュ・ケ・ナダ」に通っている女性。店主の奈良礼生や常連の苅と仲がいい。レゲエ好きで、DJをしていた渋井直人がかけた「ギブ・ミー・リトルモア」を気に入り、これがきっかけで彼に声をかける。さらに、渋井が最近凝っている乃木坂46の曲も好きなことから話が弾み、引き続きかかる曲を楽しみにしていると伝える。しかしそれ以降、リサ本人は渋井に特に興味を示すことはなく、宝島社で編集を務めるなじみの客・苅とばかり話して盛り上がっていた。そのことから、渋井から嫉妬されてしまい、渋井が宝島社の仕事をしばらく引き受けなくなるというとばっちりを苅が受けることになるが、最後までその状況を知ることはなかった。

警察官

中野駅付近の交番に勤務している男性。駅前でさまざまなグッズを買い漁ったあとの渋井直人の前に現れ、複数の紙袋を持っていた渋井を怪しんで声をかけた。さらに、ブロードウェイでナイフを買っていたことから疑惑を深め、渋井に職務質問を始める。渋井は誤解が重なったことでパニックに陥りつつも懸命に説明を続け、納得して渋井を解放した。しかし、その様子は通行人たちから興味本位の目を向けられて、渋井はこれ以上ない恥をかいてしまう。

岐阜の子

渋井直人とソーシャルネットワークサービス「Instagram」で交流していた女性で、年齢は28歳。岐阜に住んでいることから、渋井からは「岐阜の子」と呼ばれている。女優の臼田あさ美に似ているといわれている美人で、杉浦ヒロシからは、Instagramに投稿する際、容姿を加工しているかもしれないと疑うが、実際に美人であることがのちに判明する。渋井のことを気に入っており、東京に出かける際に、いっしょに食事をするように誘いかける。渋井もこの申し出に快諾するが、食事をするレストランの予約を間違えた渋井は店ズベリに陥り、その際に放った失言が原因で最悪の別れ方をしてしまう。その後、渋井のInstagramのフォローを外し、そのまま絶縁状態となる。

らんちまの主人

創作料理屋「らんちま」を経営している女性。以前はフレンチの店で働いていたが、のちに独立して現在の店を持つに至る。かつての経験から、和洋折衷の創作料理が得意で、その腕前は気難しい渋井直人が素直に賞賛するほど。さらに、上品な容姿と飾らない性格も相まって、渋井からは大いに気に入られている。しかし、らんちまの常連であり、渋井と同期のデザイナー・ルカニ可児と交際していることがのちに発覚し、渋井の思いは空回りに終わってしまう。

ルカニ可児

渋井直人の同期で、デザイナーの男性。創作料理屋「らんちま」の常連で、この店で渋井と知り合う。デザイナーとしての実績以上に、著名人の付き合いが多いことから、周囲からはコネで有名になったと思われており、その軽薄な印象から、ほかのデザイナーからの評判は必ずしも芳しくない。さらに、車会社の仕事をしたことで車を一台もらったり、2021年の東京オリンピックに関係する仕事も依頼されたりしていることから、渋井からは嫉妬されている。そのうえ、追い打ちをかけるかのようにらんちまの主人と恋人同士であることが発覚し、渋井を失意の底へと叩き落とす。のちに、フリーマーケットを開いている時に再び渋井と出会い、渋井のことを以前から知っており、その仕事に敬意を表していることを明かす。さらに、デザイナーという仕事に並ならぬ熱意を燃やしている様子をまざまざと見せつけ、渋井から見直される。

穴熊 茂雄

鳥取で陶芸を生業とする男性。腕は確かながら、根暗で人付き合いが苦手であることから、なかなか作品が売れずにいる。旅行に来ていた渋井直人と偶然遭遇し、妻と共にいくつかの作品を紹介する。しかし初対面の渋井にすら、物を売る才覚が致命的に劣っていると思われてしまう。せっかくだからと、渋井に作品をいくつか見せたところ、しっかり作られていることを認められ、商談はまとまったかのように見えた。だが、悪い意味でプライドが高く、売値が非常に高かったために結局売れず、代わりに数枚のポストカードを売ることにとどまる。

ヒカル

歯科助手を務めている女性で、杉浦ヒロシの友人。ある日、杉浦から不幸な出来事が続く渋井直人を元気づけようと誘われ、三人で中華料理屋に食事に出かける。しかし渋井は、杉浦がヒカルとの仲の後押しをしてほしいのだとカンちがいし、その影響で話がかみ合わず、徐々に機嫌が悪くなる。さらに、渋井が乃木坂46のシャツを着ていたことから「アイドル好きのおじさん」とこれ以上なく不名誉な印象を抱き、気を悪くして帰ってしまう。その後も怒りの矛先が杉浦に向かい、しばらく彼に対して愚痴をこぼし続ける。だが、最終的には仲直りをし、クリスマス前に杉浦と恋人同士となる。

その他キーワード

店ズベリ

渋井直人が時折陥る混乱の一つを言語化したもの。最初に予定していた飲食店が、営業していないなどの理由によって急に入れなくなったとき、急に思考停止に陥ってどのお店を見ても入りたいと思えなくなり、やがて「何か食べたいのに、何を食べたらいいのかわからない」と考えるようになる状態のことを指す。渋井は、岐阜の子とデートをする際に予約をミスしてしまい、杉浦ヒロシに紹介してもらった目当ての店に入れなくなる。その結果、重度の店ズベリに陥り、その際に放った失言によって、岐阜の子と絶縁状態となる。

SHARE
EC
Amazon
logo