ハトよ天まで

ハトよ天まで

幼い頃に両親を失った双子の少年・タカ丸とハト丸。侍になるため村を出て都を目指したタカ丸と、村八分になりながら村にとどまったハト丸は、それぞれ別の人生を歩む。やがて再会した2人は、対決へと導かれることとなる。漫画と絵物語の両方の形式で描かれた民話調物語。「サンケイ新聞」1964年11月11日号から1967年1月22日号にかけて掲載された作品。

正式名称
ハトよ天まで
ふりがな
はとよてんまで
作者
ジャンル
神話・伝承
レーベル
手塚治虫文庫全集(講談社コミッククリエイト)
巻数
既刊2巻
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概要・あらすじ

久呂岳(くろがたけ)の血の池の主であるアビルと、黒姫山の神である天狗の黒主は、1000年もの間、互いに争いを続けており、近くの村はどこも、そのあおりでひどい損害を受けていた。又八おかめの夫婦もまた、食べるものがなく、日々の暮らしにも困窮していた。夫婦には双子の男の子がいたが、又八は黒主に殺され、おかめは人買いのゴン六にさらわれ、双子の男の子たちはみなしごになってしまう。

又八に命を助けられたことがある大蛇の化身の立田姫は、この双子を拾い、母親代わりとなって彼らを育てるのだった。やがて双子のタカ丸ハト丸は、母親である立田姫に鍛えられ、怪力と俊敏さを持つ少年に成長。ずっと続いていた村の飢饉を救うため、アビルに戦いを挑む。

しかし、こてんぱんに負けたうえ、村は報復を受け、さらなる被害に襲われる。村人たちの逆恨みを受け、タカ丸は村を追われて侍になるため都を目指す。ハト丸は村にとどまったものの、村八分にされてしまう。折に触れ立田姫に助けられながら、2人は別々の人生を歩んでいく。やがてタカ丸は佐佐木大二郎と名乗る奇妙な武士との出会いを経て、都で天下の武将となり、ハト丸は地道な働きが評価されて村人たちの信頼を得、ついにアビルを倒すことにも成功する。

一度は離れたはずの2人の人生だったが、領主となって故郷の村を守ろうとするタカ丸と、自分たちの力で守ろうとするハト丸は、想いを同じくしながらも、その立場の違いから対決を余儀なくされてしまう。

登場人物・キャラクター

タカ丸 (たかまる)

ハト丸の双子の兄。幼い時から、偉くなりたい、日本中をあっと言わせるような人になりたい、という夢を抱いており、都へ行って剣を習い、侍になろうと考えていた。アビルに敗れて村を追われたのをきっかけに都を目指す。佐佐木大二郎や小鹿、星姫と月姫との出会いを経て、剣の技を身に付け、立身出世を果たし、都に名がとどろく武家の大将となる。 やがて村の領主として帰郷するが、村を自分たちの力で守ろうとする弟のハト丸と対立する。

ハト丸 (はとまる)

タカ丸の双子の弟。村一番の頑張り屋だと言われていた父親を尊敬しており、父親のようになって村を守りたいと考えている。弱い者いじめを嫌う優しい性格で、もともとは黒主からスパイとして送り込まれたお萩とボタ松にも、次第に慕われるようになっていく。常に村のためになる行動を心がけており、アビルに敗れて以降、ハト丸を村八分にしていた人々にも、いつしか受け入れられ、村の指導者となっていく。 村民による自立を旨とし、村の領主として帰郷したタカ丸と対立する。

アビル

久呂岳(くろがたけ)にある血の池の主。正体は白い大きな蜘蛛。向かいにある黒姫山の神である黒主とは、1000年もの間争い続けている。残忍な性格で、黒姫山を焼いたり、竜が渕に住んでいた立田姫の棲家を壊したりした他、干ばつや水害、雪害など多くの災厄を、近くの村にもたらし続けている。ツバメの子安貝が弱点。

黒主 (くろぬし)

黒姫山の神である天狗。向かいにある久呂岳(くろがたけ)にある血の池の主であるアビルとは1000年もの間争い続けている。立田姫に想いを寄せており、妻にしたいと願っている。短気で怒りっぽく、偶然に出くわした又八と争いになり、雷を落として殺してしまう。一方で、ハト丸を利用して、アビルの弱点であるツバメの子安貝を取りに行かせ、自分の手を汚さずに始末しようとするなど、狡猾な一面も持つ。

立田姫 (たつたひめ)

久呂岳(くろがたけ)と黒姫山の間にある竜が渕に棲んでいる大蛇の化身。女性の姿をしている。アビルに棲家を追われた時に、山津波で押し流された岩の下敷きになっていたところを又八に助けられた。その恩に報いるために、川に流されていたタカ丸とハト丸を拾い上げ、彼らの母親であるおかめになり替わって育てた。 いつしか実の子のように2人を愛するようになり、困った時には自分を呼び出せるクシを渡して、何度となく助けの手を差し伸べる。

又八 (またはち)

タカ丸とハト丸の父親。真面目で責任感の強い性格。アビルと黒主の争いにより食べ物が収穫できず、飢饉に襲われて村を捨てようとする村人たちを励ましていた。しかし洪水が起きて田んぼも畑も水の底に沈んでしまい、ついに村を捨てて出稼ぎに行くことを決意する。山津波で押し流されて岩の下敷きになっていた大蛇を助けた縁により、子供たちが大蛇の化身である立田姫に育てられるきっかけを作った。 畑を荒らしていた黒主と出くわして戦い、殺されてしまう。

おかめ

タカ丸とハト丸の母親。出稼ぎに行く又八とともに村を出るつもりでいたが、この時に又八がタカ丸たちを捨てようとしていることを知り、2人を連れて家を出た。道中で野犬に襲われ、危ないところをゴン六に助けられるが、代わりに自分のもとで働くように言われる。それきり子供たちとはぐれてしまい、20年後に都でタカ丸と再会する。

佐佐木 大二郎 (ささき だいじろう)

タカ丸が都へ向かう道中で出会った、奇妙な武士姿の男性。口が上手く、ひょうひょうとした性格で、利己的な振る舞いをするが、自分の真意は明かさない。敵とも味方ともつかない態度を取っては、タカ丸を利用することもある。旅の途中で出会った小鹿に惚れ込んだものの拒絶される。のちに小鹿がハト丸と結婚したことを知って、なにかとハト丸と対立するようになる。 時折どこかから「キーン」という謎めいた金属音が聞こえることがあり、非常に恐れている。

小鹿 (こじか)

タカ丸と佐佐木大二郎が都へ向かう旅の途中で出会った娘。怒海僧正という怪僧に操られている殿様を追い出そうという計画を立てている、フクベ党のリーダー。かつて処刑された弟に似ているタカ丸に親しみを抱き、武芸を教えた。実は前の領主の娘で、お家騒動のため、今の領主が両親を殺して城を乗っ取り、それを知らぬまま農家に引き取られた。 前の領主である父親に仕えていた家老に教えられ、後を継いで領民を救うために、フクベ党を結成した。タカ丸の故郷の村を訪ねてハト丸と出会い、のちに結婚する。

家老 (かろう)

小鹿の父親である前の城主に仕えていた男性。お家騒動で城を追われていたが、農民の娘として暮らしていた小鹿を探し出し、お家再興を持ちかけて、一緒にフクベ党を結成した。武芸や戦術を小鹿に教えた人物でもある。表向きは小鹿を敬っているが、心中では小鹿を推し立てて城を奪い返させておき、いずれは自分が政権を握ろうと考えている。

怒海僧正 (どかいそうじょう)

十郎潟の主である竜と、漁師の娘の間に生まれた男性。殿様を丸め込み、父親の竜から学んだ怪しげな術や道具を使って権力を手に入れ、好き勝手に振る舞っている。自分に逆らう村を焼き払ったり、小鹿の弟を捕らえて、見せしめになぶり殺しにするなど残忍な性格。竜の血を受け継いでいるために、体中に傷口を治すガマの油がみなぎっており、さらに爬虫類特有の再生能力も有している。 腕を切られれば腕、首を切られれば首が生えてくることから、決して死なない体を持つと恐れられている。

(りゅう)

十郎潟の入り江の主で、怒海僧正の父親。漁師の娘との間に生まれた息子に、雨乞いの術や、口から炎を吐く「竜炎車」の技を授けた。カッとなりやすい単純な性格で、怒海僧正の噓に乗せられて、タカ丸や小鹿たちが潜伏している山の集落を襲い、息子の窮地を察知して駆けつけた立田姫と戦う。

お萩 (おはぎ)

黒主の部下のキツネ。黒主に神通力を授けられ、ハト丸から立田姫を呼び出せるクシを盗むために送り込まれた。狡猾で抜け目がなく、人間は欲ボケでだらしないから、一番騙しやすいと考えている。臆病なボタ松を馬鹿にしており、手下のように扱う。何度もクシを奪おうとしては失敗し、任務のためにハト丸に付き従ううちに、彼の人柄にふれて心から慕うようになる。

ボタ松 (ぼたまつ)

黒主の部下のタヌキ。黒主に神通力を授けられ、ハト丸から立田姫を呼び出せるクシを盗むために送り込まれた。気が弱く臆病で、お萩には馬鹿にされている。何度もクシを奪おうとしては失敗し、任務のためにハト丸に付き従ううちに、彼の人柄にふれて心から慕うようになる。

犬彦 (いぬひこ)

山犬の皮を頭からかぶった大男。黒主の口車に乗せられたハト丸が、ツバメの子安貝を求めて訪れたホウライ島で出会った。侵入者のハト丸たちを攻撃する。幼い頃に、海の神の呪いによって家族をすべて失い、それから犬とともにずっと島で暮らしてきた。殺そうとしていた相手のハト丸に命を救われたため、家来に志願してお供するようになる。

星姫 (ほしひめ)

都に到着したタカ丸と佐佐木大二郎が士官を求めた菊麻呂の家の娘で、月姫の妹。非常に美しく、タカ丸は一目で心惹かれた。実は菊麻呂が描いた屛風から生まれた存在。北の殿様から結婚を申し込まれているが、断り続けている。無理矢理に嫁がされそうになったためタカ丸に助けを求め、部屋にある白い屛風を黒く塗りつぶしてくれるように頼む。

月姫 (つきひめ)

都に到着したタカ丸と佐佐木大二郎が士官を求めた菊麻呂の家の娘で、星姫の姉。妹とよく似て美しいが、その内面はまったく異なり、お金と権力を求める、欲深く自分勝手な性格で、星姫とは気が合わない。一族の繁栄のため、お金持ちで権力もある北の殿様と星姫を無理矢理に結婚させようとしている。のちに成長したタカ丸と結婚する。

菊麻呂 (きくまろ)

都に到着したタカ丸と佐佐木大二郎が士官を求めた家の主の男性。もともとは絵師で、若い頃から菊麻呂の描く絵には命が宿っているような瑞々しさがあり、誰もが「まるで動き出しそうだ」と褒めていた。それがある時、ついに1匹の鹿が襖絵から飛び出して大騒ぎになったため、さらに名を上げた。自分の描いた屛風から出て来た星姫を大事に思っているが、北の殿様の求婚を断るとどんな目に遭うか分からないため、仕方なく星姫を嫁がせることを決めた。

土佐衛門 (どざえもん)

都に到着したタカ丸と佐佐木大二郎が士官を求めた家に仕える侍頭の男性。一族の繁栄を願っているため、なんとかして星姫を北の殿様に嫁がせようと暗躍。立派な武士になって故郷の村へ帰りたい、というタカ丸の願いにつけ込んで利用する。

ゴン六 (ごんろく)

人買いの男性。野犬に襲われていたおかめとタカ丸、ハト丸を助けた。子供に会いたかったら、自分の言うことを聞けと騙して、金になるおかめだけを都へ連れて行き、双子は木に乗せて川に流してしまった。それから20年経っても、おかめを下女として働かせている。

スサリ姫 (すさりひめ)

大蛇の化身で、女性の姿をしている。立田姫を恋い慕う黒主が行ったヘビ寄せの秘法に引かれ、竜が渕にやって来た。長い間天と地の間をさまよっており、竜が渕を気に入って棲みつこうとする。鬼女のような恐ろしい顔と、震え上がるような声をしている。小鹿に頼まれて黒主を退治するために竜が渕を訪れた佐佐木大二郎と出くわし、食おうとして激しい戦いを繰り広げる。

フグ代官 (ふぐだいかん)

南の里の代官を務めている男性。南の里は、タカ丸とハト丸の故郷の村から、十の谷と十の山を越えたところにある。立田姫からもらった願いを叶えるヒョウタンを使い、山越えの道を作って南の里へやって来たハト丸を不審者として捕え、ヒョウタンを奪ったうえに牢屋に入れた。欲深く冷酷な性格で、村人たちが努力の末に豊かになったところに代官として赴任。 厳しく年貢を取り立て、賄賂を取り、逆らう者は皆牢屋に入れている。のちに牢を破って暴れたハト丸の両目を焼き、島流しにする。

カピ

金色の髪の毛と、透き通った水のような眼を持つ謎の男性。山中でハト丸と出会い、非常に危険な人物として佐佐木大二郎の人相書きを見せ、彼を追っていると語る。その後、囚人として島流しにされたハト丸と再会。この島では、囚人たちを指揮して高炉を造らせていた。ハト丸が脱走に失敗して吊るされ、死にかけても屈服しないことに感心し、自分の船に乗らないかと誘う。 カピが探していた大二郎は、かつて彼の船から逃げた船員であり、ハト丸をその代わりにしようと考えていた。ハト丸には誘いを断られ、高炉を占拠されてしまう。

書誌情報

ハトよ天まで 2巻 講談社コミッククリエイト〈手塚治虫文庫全集〉

第1巻

(2010-12-10発行、 978-4063738001)

第2巻

(2010-12-10発行、 978-4063738018)

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