ヒル

ヒル

家出をした佐倉葉子は、ある出来事をきっかけに人とかかわることをやめて、他人の生活に寄生する「ヒル」と呼ばれる生き方をしていた。しかしそんな葉子の前に、死んだはずの同級生・月沼マコトが現れる。居場所をなくした人たちが、自らのすべき道を見つけ出す姿を描いたドロップアウトストーリー。「月刊コミック@バンチ」2011年5月号から2013年10月号にかけて掲載された作品。

正式名称
ヒル
ふりがな
ひる
作者
ジャンル
裏社会・アングラ
 
ヒューマンドラマ
レーベル
バンチコミックス(新潮社)
巻数
既刊5巻
関連商品
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あらすじ

遭遇

佐倉葉子は父親との確執がきっかけで、家を出ることを決意。夜行バスで彼氏のもとにバスで向かうものの、アクシデントに遭ってサービスエリアでバスに乗り遅れてしまうが、なんとか彼氏の家にたどり着き、葉子は合鍵で部屋に入る。しかし彼氏が帰って来た際に葉子はとっさに隠れてしまい、彼氏の浮気現場を目撃する。さらに葉子は、自分の乗っていたバスが大事故に遭って乗客が全員死亡したとされ、自分も死者にカウントされていることを知る。世の中のすべてのことに嫌気が差した葉子は、彼氏の部屋に忍び込んだ経験から他人の部屋に忍び込み、生活を始めるようになる。その日も留守のOLの部屋に忍び込み、うたた寝していると、腕に自分に宛てた謎のメッセージを書かれているのに気づく。自分の名前を知る「誰か」がいると知った葉子は、すぐさま部屋を出る。そして街を放浪していた際に、葉子は声を掛けられる。それは中学時代のクラスメート・月沼マコトで、葉子は彼が自分にメッセージを残した人物であると知る。マコトは葉子のやっていることは「ヒル」と呼ばれる行為で、ヒルにもルールがあると語る。マコトは葉子にヒルの生き方をレクチャーすると言うものの、マコトを信用できない葉子はそのまま逃げ出してしまう。そして葉子は、元彼氏の部屋に忍び込むが、そこにヒルの男が現れる。葉子はその男が気になってあとをつけるが、男は包丁を取り出して葉子に襲い掛かる。葉子は包丁男によって窮地に陥るものの、マコトに助けられて九死に一生を得るのだった。

交錯

佐倉葉子月沼マコトからヒルに向いていないと忠告されるものの、反発心からその忠告を無視してヒルの生活を続けていた。包丁男の件も、危ない奴に近づかなければいいと楽観的に考え、葉子は今日も他人の部屋を漁っていた。そして葉子が元彼氏の浮気相手の部屋で休んでいると、その日、唐突に空き巣が現れる。葉子がいるのに気づいた空き巣は即座に逃げ出すものの、次の瞬間に部屋へ客が訪れる。葉子がその客を確認すると、その客は空き巣と同じ顔をしていた。客は「ウェイ」と名乗り、実はストーカーで空き巣とは生き別れの双子の関係だという。ウェイは葉子が部屋の住人でないことに気づいており、彼女を脅して部屋に押し入る。そして葉子が双子の弟のことを知っていたことから、彼女に弟・リンを捜すように依頼。葉子は偽造身分証の作り方と、ピッキングの方法を教えてもらうことを条件に、この依頼を引き受ける。葉子は当面はウェイの部屋を拠点に、リン捜しをするつもりだったが、そこにマコトが現れる。リンは強引な空き巣でヒルたちからも恨まれており、マコトはヒルの元締めともいえるナナシから依頼され、リンを捜していたのだ。一方、リンは人買いに売られ、持ち主を転々としていたが、街中でウェイを見かけて持ち主からの脱走を図り、彼を身代わりにしようと考える。しかしそこでマコトに見つかり、持ち主のもとに戻されそうになるが、持ち主はウェイをすでにリンと間違えて回収しており、リンはそのまま放置される。リンはそのまま逃げようとするが葉子に説得され、マコトとリン、葉子はウェイを助けるため、持ち主のもとに潜り込む。葉子たちは辛うじてウェイを助け出すものの、リンの身代わりとなって暴行を受けたウェイは重傷を負っていた。そして最後にウェイとリンは和解し、そのままウェイは息を引き取るのだった。

帰宅

佐倉葉子はこれまでの出会いと出来事を経験し、家族と向き合うことを決意。一度実家に帰り、今度は自分の言葉で父親に決別を告げようとする。だが、葉子の父親はひどく偏屈な性格で、葉子に暴力を振るっては言うことを聞かせていた。そんな父親の影に怯えていた葉子だったが、勇気を出して地元に舞い戻る。父親は相変わらず偏屈だったが、葉子は自分の部屋がそのままであることに気づき、家族としての絆がまだあることを実感する。しかし感慨に浸るヒマもなく、そこにヒルの男・テトリスが忍び寄る。テトリスは月沼マコトに執着しており、その知り合いである葉子に興味を持ち、ひそかに尾行していたのだ。テトリスはマコトに崇拝にも近い感情を抱いており、マコトを変貌させる葉子を危険視。様子を見にきた葉子の父親に重傷を負わせ、葉子を拘束したうえで、家に火を放って姿をくらませる。葉子はテトリスへの強い怒りから、燃え盛る部屋の中で自らを奮起させて父親を逃がすものの、飼っていた猫もテトリスに殺されてしまう。自分の居場所が本当になくなったことに、葉子は呆然とするが、そこでマコトの祖母と出会って彼女からマコトの話を聞く。そして葉子は、これまで自分がどれだけマコトに大切にされていたかを実感し、テトリスとの決着を着けるべく、再び東京に向かうことを決める。

究明

佐倉葉子は東京に戻ると、仕事終わりの警察官たちにナンパされ、食事を共にすることとなる。葉子は警察官の一人、佐藤ユキチヒルのことを調べていると知り、彼の鍵を盗んで部屋に忍び込む。葉子はユキチのPCからヒルと月沼マコトの情報を調べるが、その中にはマコトの凄惨な写真を発見し、彼のことをさらに調べようとする。一方、ユキチは殺人事件が起きた現場を目撃し、ヒルがかかわっていることを確信。そしてヒルのことを考えていた際に、偶然にも葉子を町中で見かける。すると葉子が自分の部屋の鍵を持っていることに気づき、ユキチは彼女がヒルだと察する。ユキチは葉子を尾行し始めるが、そこで葉子は謎の女に襲われる。謎の女・ロボは、マコトに依存しており、マコトを変貌させる葉子に強い憎悪を抱いていた。テトリスに葉子の殺害を依頼したのもロボで、死んだと思っていた葉子が生きているのに気づき、今度は自分の手で始末するべく現れたのだ。ロボは葉子に襲い掛かるが、ユキチに妨害されて失敗する。即座にロボは殺しを金で請け負うパクチーを雇い、葉子に差し向ける。しかしマコトが先にパクチーを雇っており、その企みは失敗。そしてロボのマコトへの愛は憎しみへと転じ、ロボは全財産を使ってパクチーを雇い、マコトを殺そうとする。ロボはマコトの仇敵である「赤い髪のヒル」の情報を利用し、マコトを誘い出してパクチーに殺させようとするが、パクチーが襲ったのはロボだった。ロボはパクチーの思惑を察し、自分の最期を悟る。だがそこでロボを守ったのは、皮肉にも殺そうとしたマコトだった。マコトはパクチーに倒されるものの、ロボはマコトを守るため、己の命と全財産を差し出すのと引き換えに猶予をもらう。そして目覚めたマコトが目にしたのは、ホテルのベッドに横たわる自分と、命を絶ったロボの姿だった。

意志

中学時代、月沼マコトは自殺を決意するが、自殺する寸前に自らを「ミシン」と名乗るヒルの女性に出会って、自殺を思いとどまる。ミシンのもとでナナシと共に生き方を学び、自分の居場所をつくったマコトであったが、ある日、ミシンは何者かに惨殺される。ナナシの言葉から「赤い髪のヒル」が仇だと知ったマコトは、復讐のために赤い髪のヒルの行方を追っていた。ロボは死の間際、マコトに赤い髪のヒルの居場所をメッセージとして残し、マコトに伝えていた。マコトは赤い髪のヒルであるテツと対峙するが、テツは自分を嗅ぎまわっている人間がいることに気づいており、襲ってきたマコトを返り討ちにする。また、佐倉葉子のもとにもテツの魔の手がせまるが、葉子は機転を利かしてそれを突破する。葉子はマコトのもとに向かおうとするが、そこにある人物が現れ、すべての真相を語り出す。そんな中、混迷する事態にテトリスも動き出し、すべての事態が一本の線に収束し始める。

関連作品

漫画

本作『ヒル』の続編に今井大輔の『ヒル・ツー』がある。『ヒル・ツー』は新潮社「バンチコミックス」より全4巻が刊行されている。2022年3月4日にはテレビドラマ版『ヒル』の放送に合わせて、特別読み切りの『ヒル・スリー』が「くらげバンチ」で配信された。

メディアミックス

テレビドラマ

2022年3月4日から本作『ヒル』のテレビドラマ版『ヒル』がWOWOWで放送された。「WOWOWオリジナルドラマ」として製作され、season1とseason2で6話ずつの全12話で構成されている。キャストは、佐倉葉子を飯豊まりえ、月沼マコトを坂口健太郎が演じている。

登場人物・キャラクター

佐倉 葉子 (さくら ようこ)

小柄な黒髪の女性。年齢は21歳。父親は暴力を振るって自分の言うことを聞かせようとするために仲が悪く、2か月前に父親の態度に耐え兼ねて家出する。夜行バスで東京に住む彼氏の家に向かうものの、サービスエリアで休憩中、うたた寝をして乗っていたバスに乗り遅れてしまう。しかし、そのバスはその後に大事故を起こして爆発炎上。乗客は全員死亡したとされ、自分も死んだ乗客の一人に数えられて戸籍を失う。荷物もほとんど失ったため、着の身着のまま東京に向かい、辛うじて彼氏の家にたどり着く。その際に合鍵を使って部屋に入るが、帰ってきた彼氏に驚いてベッドの下に隠れてしまう。しかし彼氏は浮気しており、隠れたまま彼氏の浮気現場を一部始終目撃。人間関係に嫌気が差し、そのまま死んだ者として生活を始める。それ以降、偽名を名乗る際は「ハコ」と名乗っている。元彼氏の家での経験がきっかけとなり、他人の家に忍び込み、生活する術を身につける。「元カレ」「浮気相手」「OLさん」などの家を渡り歩いて生活していたが、のちに月沼マコトに見つかり、その生き方は「ヒル」であると教えられる。マコトのことは当初は信用しておらず、ヒルのルールにも頓着していなかったが、包丁男に襲われた事件をきっかけに、変わり始める。当初はヒルとしての生き方も投げやりで、適当に生きてから、他人にバレたらそのまま死ぬつもりでいた。しかし、マコトをはじめとするさまざまな人と出会うことで、今までの生き方に向き合い、別の生き方を模索するようになる。のちに家族と向き合うために実家に戻るものの、そこでテトリスに襲われて実家は全焼し、父親も重傷を負ってしまう。家族と向き合ったことでマコトの真意にも気づき、彼と再び向き合うため、再び東京に舞い戻る。

月沼 マコト

ヒルの生活をしている黒髪の青年。ヒルのあいだでは「カラ」と呼ばれているほか、ルール破りを行うヒルを率先して排除しているため、「ヒル殺しのカラ」の異名を持つ。佐倉葉子とは中学時代の同級生でもある。ロボに依頼され、縄張りを荒らすヒルの抹殺を請け負うが、排除する相手が葉子であったため、何かと気に掛けるようになる。中学時代は根暗な性格からいじめに遭っていたが、唯一、明るく接してくれた葉子が救いとなり、彼女に恋心を抱いていた。だが、いじめに耐え兼ねて自殺を決意し、河原で睡眠薬を飲もうとしたところ、ヒルの女性・ミシンと会話を交わし、彼女に誘われてヒルとなった。この時、ミシンに「カラッポ」を意味する「カラ」と名づけられた。兄貴分のナナシと共に、ミシンのもとで居場所を手に入れたものの、ミシンは何者かに惨殺される。現場に赤い髪が残っていたことから、「赤い髪のヒル」と呼んで行方を捜しており、パクチーから戦い方を学び、ヒル狩りを行っている。それまでは眼鏡をかけていたが、相手がよく見えない方が残酷になれるという理由で眼鏡を外すようになった。冷酷で淡々とした仕事ぶりから、ヒルたちの信頼も厚かったが、葉子とかかわるようになって少しずつ人間味を取り戻したため、周囲から不審感を抱かれるようになる。ナナシからは根がまじめで弱い分、他人に依存する癖があり、名前の由来どおり「カラッポ」の人間だと評されている。

佐藤 ユキチ (さとう ゆきち)

空き巣を専門にする捜査三課に所属している警察官の男性。「ヒル」の都市伝説に興味を覚え、独自に調べている。しかし新人なため、まだ捜査能力は素人に毛が生えた程度で、ヒルの情報もネットで適当に集めた程度。ヒルの実態を把握しておらず、その生き方が悪いことだと考えながらも、一種の共感のようなものを抱いている。友人と飲みに行った際、友人が佐倉葉子をナンパしたことをきっかけに、ヒルの事件にかかわるようになる。一課への応援のため、殺人事件の現場に赴いた際に偶然、被害者の指紋が付いた合鍵を発見し、被害者の男性がヒルだと確信する。その後も葉子や月沼マコトとかかわりを持ち、マコトがテツに拉致された際に彼を助け、テツとテトリスを逮捕している。

ロボ

ヒルの生活をしている女性。髪を長く伸ばした美女ながら、全身整形をしているらしく、その事情を知る者たちからはそれを揶揄されることが多い。その美貌を生かして男性に取り入って部屋に誘われるように仕掛け、そのまま合鍵を作っている。また化粧品を使うために、女性の部屋をキープしている。自分が縄張りにするマンション「メゾン・ド・ルナ」を、佐倉葉子が勝手に漁り始めたため、月沼マコトに葉子の排除を依頼する。しかし、マコトが葉子を殺さなかったため、不信を抱くようになる。ナナシ、マコトとは長い付き合いで、マコトに強い執心を抱いており、その思いは不信感によって次第に憎しみへと変わっていく。特にマコトを変貌させる葉子には強い憎悪を抱いており、のちにテトリスに依頼して、彼女の排除をもくろむ。しかしそれも失敗したと知ると、遂に自ら直接排除に動くものの失敗。あらためてパクチーに依頼するが、マコトが先回りしてパクチーに依頼していたため、この依頼も拒否されてしまう。最終的に変貌したマコトに見切りをつけ、マコトの殺害を企む。パクチーに依頼してマコトを殺害しようとするが、パクチーをあやつるナナシはロボに見切りをつけて、彼女の殺害を決定。パクチーに襲われたことで、ナナシの意図を悟り、自らの居場所がなくなったことを察する。整形前は、デブで陰気な雰囲気を漂わせた引きこもりで、空き巣に入ったマコトと偶然遭遇し、彼の言葉をきっかけに自分を変えた過去を持つ。パクチーに殺されかけた際、マコトが自分を守ってくれたことでその過去を思い出し、最後は全財産と自らの命を差し出すことで時間の猶予をもらい、マコトにメッセージを遺して死亡した。

テトリス

ヒルの生活をしている男性。顔にハートと月の刺青があり、ピアスをつけている。歯が欠けており、テトリスのように歪な形をしている。月沼マコト(カラ)を尊敬しており、崇拝にも近い感情を抱いている。非常に粗暴な性格で、ヒル以外の人間も殺害している。ロボに依頼を受け、佐倉葉子を排除しようとするが、葉子とカラの関係を知り、「月沼マコト」について調べ始める。葉子が実家に戻った際に葉子を尾行して、彼女の実家に忍び込む。葉子の目の前で、彼女の父親を痛めつけ、家に放火してそのまま姿をくらました。その後、東京に戻ってカラに葉子を殺したことを伝え、カラの怒り狂う姿を見て、自分の尊敬したカラはすでにおらず、葉子によって月沼マコトに戻ってしまったと実感する。その後、すべてを破壊して「ヒルの世代交代」を行い、成り上がることを決意する。ナナシを襲撃してテツに情報を漏らし、マコトたちを追い詰める。自らも現場に赴き、マコトとの決着をつけようとするが、生きていた葉子と再び対峙。実は変わっていく周囲に置いて行かれる「さびしさ」を感じていた。葉子にその本心を見抜かれて謝罪されるが、すべてにやる気を失って自殺を図る。しかしマコトに自殺を阻止され、彼からも謝罪されたことで、完全に意気消沈。そのまま警察に自首して逮捕された。

ミシン

ヒルの生活をしている中年の女性。黒い髪を肩まで伸ばし、退廃的な雰囲気を漂わせている。中学時代、月沼マコトが自殺しようとした場所に居合わせ、彼をヒルに誘う。本名は不明で、マコトに名前を聞かれた際は「ミシン」と名乗った。人によって違う名前を名乗っており、ナナシには「マザー」と名乗っている。マコトに「カラ」という名前を与え、マコトとナナシを引き合わせていっしょに生活していた。気まぐれな性格で、気分によって「母」と「女」の顔を使い分けて生きていた。「私のために生きなさい」が口癖で、当時、生きる希望を失ったマコトにとって、この言葉は生きるうえで指針となった。マコトを自分の子供のように接し、彼からも慕われていたが、ある日、何者かに強姦されて殺害される。死体が発見された場所は一般人が寄り付かない場所で、手には赤い髪の毛が握られていたため、マコトは「赤い髪のヒル」と呼んで行方を捜すようになる。

ナナシ

ヒルの生活をしている男性。月沼マコト(カラ)の兄貴分で、ヒルたちの元締めのような存在。ヒルたちに指示を出し、彼らの利益調整を行っている。不治の病に冒されており、自由に身動きができない状態ながら、大金を支払って病院で治療を続けている。ミシンを「マザー」と呼んで慕っており、ミシンに命じられてカラの面倒を見ていた。カラにミシンが「赤い髪のヒル」に殺害されたと伝えたが、実はミシンを殺した張本人。カラの世話をしたことで、彼より自分の方が役立つことに優越感を抱くが、ミシンがカラに母親として愛を向けることに強い嫉妬心を抱く。カラへの劣等心と嫉妬からミシンを殺害。その際に赤い髪のマスクをかぶっていたため、「赤い髪のヒル」がミシンを殺したとカラに伝え、彼を復讐鬼に仕立て上げた。カラへの劣等心から、カラが自分に騙されて思惑どおりに堕ちていく姿に愉悦感を抱いていたが、同時にカラに対してある種の執着心を持っている。カラを変貌させた佐倉葉子に興味を覚えている。テトリスに襲われて重症を負うが、自らの命に執着していないために瀕死の中、人を使って葉子を呼び寄せる。そして葉子にすべての罪を告白し、カラの生き方を縛り付ける方法を彼女に教え、自分が死んでもカラの生き方を縛ることをもくろむ。しかし葉子にその企みを否定され、彼女にカラを託して死亡する。

パクチー

ナナシに雇われた男性。特殊部隊に所属していた元兵士で、高い戦闘力を誇る。非常に無口で、自分からしゃべることはほとんどない。ナナシに依頼され、月沼マコトに戦い方を教えた。ほかのヒルからも依頼を引き受けており、金と引き換えに殺し屋のような仕事もしている。ヒルから依頼を受けているが、基本的にナナシの命令を優先しており、彼の命令に従って暗躍していた。ナナシが自らの死を悟った際には、佐倉葉子を捜し出し、ナナシのもとに案内している。

ウェイ

中国人の男性で、リンの双子の兄。バイト先の常連客である「ミナミちゃん」に片思いしており、彼女の部屋を見張るなどストーカー行為をしている。ミナミちゃんは佐倉葉子の元彼氏の浮気相手で、葉子はミナミちゃんが元彼氏の家に入り浸っているのを知り、家に忍び込むことを決意。たびたび部屋に忍び込んでいたが、ウェイに見つかってしまう。ウェイもミナミちゃんの部屋に入りたかったため、通報しないのを条件に葉子と共犯関係となる。また、葉子が自分と同じ顔をした空き巣を見たことを知り、それが生き別れとなった弟のリンだと気づき、葉子に偽造身分証の作り方を引き換えに、その捜索を依頼する。リンと同じく一人っ子政策に反して生まれた「黒孩子」だが、リンと違って売られることはなく、偽造身分証を作って平穏に暮らしていた。その後、街中で偶然にリンを見つけるが、人買いの持ち主から逃げていたリンに、同じ顔であることを利用されて身代わりにされてしまう。持ち主のアジトで凄惨なリンチを受けるが、弟はずっとこの仕打ちに耐えてきたと考え、最後まで弟のことを気遣っていた。葉子に助け出されるが、すでに虫の息で彼女にミナミちゃんへのラブレターを託し、そのまま息を引き取る。

リン

中国人の男性で、ウェイの双子の弟。ウェイとそっくりな顔立ちをしている。一人っ子政策に反して生まれた「黒孩子」で、戸籍がない。5歳の頃に人買いに売られたあと、持ち主を転々として現在はゲイの空き巣に飼われている。自分を売って平気に暮らしている家族を恨んでおり、街の中で偶然、双子の兄・ウェイを見つけた際には強い憎悪を抱く。そしてリンは、同じ顔であることを利用してウェイになり代わることを計画する。ウェイを暴行し、身動きできなくなった彼を持ち主に回収させた。しかし実は、持ち主のもとから逃げたあとに空き巣をして生活していた行為がヒルたちの逆鱗に触れ、月沼マコトにリンの排除が依頼されていた。そして、ウェイの家に戻ったところ、マコトに叩きのめされて捕まってしまう。その後は偶然、マコトと居合わせた佐倉葉子を人質にして逃げようとするが、葉子の言葉に大きく動揺する。ウェイを助けに行った葉子を追いかけ、ウェイの死を看取った。葉子からウェイの本心を聞いたあとは彼の心残りを解消すべく、本人の振りをしてミナミちゃんにウェイのラブレターを手渡した。

包丁男 (ほうちょうおとこ)

ヒルの生活をしている高齢な男性。猿顔の小柄な体型をしている。歌を歌いながら他人の部屋を物色しており、佐倉葉子の元彼氏の部屋を物色中、葉子と遭遇する。葉子のことを一度は見逃したが、葉子が自分をつけてきたため、彼女に襲い掛かる。もともと猫を殺すなど異常な加虐性癖があり、葉子のことも包丁で惨殺しようとした。葉子が機転を利かしてゲームを提案し、それを面白がって受け入れる。ゲーム中に葉子に裏をかかれて無防備な状態をさらしてしまうが、葉子の立ち居振る舞いから彼女が素人であると見抜き、逆転する。葉子を後一歩まで追い詰めるが、乱入した月沼マコトに片耳を削がれて、そのまま逃走する。実は妻子がいたが、なんらかの理由で別れており、現在は疎遠となっている。娘の出産を機に再会し、やり直しを決意するものの、すでに娘の家庭に自分の居場所がないと感じ、その願いは叶わないことを知る。葉子は偶然、その一連の現場を目撃。同じく家族を捨てた者としてその末路に共感し、家族と向き合うことを決意する。

テツ

暴力的な性格をしている赤い髪の男性。違法行為にも手を染めている。月沼マコトが仇として狙う「赤い髪のヒル」で、彼に襲撃されるものの事前にテトリスから情報を仕入れていたため、返り討ちにする。その後、半死半生のマコトを人目の付かない場所に運び込み、殺害して遺体を遺棄するつもりだったが、佐藤ユキチが職務質問したことで断念し、一転して追われる身となる。実は「赤い髪のヒル」とは別人で、そもそもヒルですらない。テトリスから情報を得て、ゲーム感覚で人を痛めつけることを楽しんでいる節があり、マコトたちの事情に興味本位で首を突っ込んでいただけだった。ヒルの弱みを熟知しており、手下を使って佐倉葉子とマコトを追い詰めるが、彼らの反撃に遭ってユキチに逮捕された。

その他キーワード

ヒル

他人の生活に寄生する人々を指す言葉。住人が気づかないうちに合鍵を作り、部屋に忍び込んで、風呂や台所を使ったり、生活用品を気づかれない程度に盗んだりと、生き血をすする「蛭」になぞられて一部では「ヒル」と呼ばれている。ネットでは都市伝説のようにヒルの存在は語られているが、一般にはほとんど認知されておらず、「ヒル」という呼び名も一部の人が勝手に呼んでいるだけで正式名称ではない。ヒルは基本的に不干渉だが、「部屋に先客のヒルがいた場合は譲る」「ノックで合図を送られたら返す」「ほかのヒルの縄張りは荒らさない」という最低限のルールはあり、それらに反した場合は彼らから報復される。

書誌情報

ヒル 5巻 新潮社〈バンチコミックス〉

第1巻

(2011-09-09発行、 978-4107716323)

第2巻

(2012-03-09発行、 978-4107716538)

第3巻

(2012-09-07発行、 978-4107716781)

第4巻

(2013-04-09発行、 978-4107717030)

第5巻

(2013-10-09発行、 978-4107717221)

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