ピアニシモでささやいて

ピアニシモでささやいて

音楽や芸能界をテーマにした少女漫画。音楽を封印していた女子高校生の須佐朱が、渡会一意との出会いをきっかけに再び音楽の世界で活躍する様子や、恋愛模様を描く。小学館「プチコミック」1985年11月号から連載の作品。

正式名称
ピアニシモでささやいて
ふりがな
ぴあにしもでささやいて
作者
ジャンル
ラブコメ
 
恋愛
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あらすじ

第1巻

複雑な生い立ちを持つ女子高校生の須佐朱は、最近外出するたびに誰かの視線を感じることに悩んでいた。そんな中、親友の中川香菜子の歌手デビューが決定。朱は香菜子のデビューを心から祝福しつつ、自分が彼女のように音楽を自由に楽しめないことに、複雑な気持ちを抱いていた。朱は過去の出来事から須佐史子に音楽を禁じられており、彼女と暮らし始めてからは大好きな音楽を封印していたのである。そんなある日、朱は高行が営むライブハウスで開催されるミニライブに参加することになる。そこには音楽業界の伝説的なミュージシャン、渡会一意も訪れていた。実は、朱の音楽の才能に目をつけていた一意は、最近の彼女の行動をひそかに見守っていたのである。そして朱は高行から、一意がなんらかの理由で音楽を辞めていた事実を知る。そんな中、朱は将来を巡って史子と口論になり、その場に居合わせた一意は朱を引き取ると言い出す。こうして朱は、実家を離れて一意の家に引き取られることが決まり、彼と東久世貴子と共に新しい生活を始める。そして朱は一意との出会いをきっかけに人生が大きく変わると同時に、封印していた音楽の世界へと再び足を踏み入れる。

第2巻

渡会一意に引き取られた須佐朱だったが、一意は朱に冷たい態度で接して、時には厳しい言葉で朱を傷つけることもあった。朱は一意の家によく出入りしている東久世貴子のやさしさにすがりながら、心の安らぎを求めるようになる。そんな中、朱は日下部大樹と出会い、ほんの少ししか知らなかった一意の過去を知る。大樹は、一意と組んで音楽業界に戻り、鷹木與一に一矢報いてほしいと朱を説得し、一意が入室を禁じていたある部屋の鍵を渡す。朱がもらった鍵で部屋に入ると、そこには長く使われていないピアノがあった。いけないとわかりながらも、ピアノに触れずにいられなかった朱の前に、一意が現れる。一意は朱に、本音を我慢せず自分の道を歩むべきだと告げる。そして朱は一意や大樹たちの助けを受けながら、シンガーソングライターとしてデビューを目指し、音楽活動を再開する。デビューに向けて活動を始めた朱たちだったが、雑誌の特集をきっかけに朱の活動に一意がかかわっていることを知った與一による妨害が始まった。そしてタカギ・プロの圧力で、朱のデビュー曲は発売中止となってしまう。それでも朱は前向きに音楽に励み、活動を通して一意に信頼を寄せていく。そんな中、街でクリスマスを祝う朱たちを見かけた與一は、焦りからある行動に出る。

第3巻

タカギ・プロの妨害にも負けずに、仲間の助けを受けながら無事デビューを果たした須佐朱は、初コンサートの開催も決定する。しかしコンサート当日、朱の出番の直前にステージ衣装が破られるという事件が起こる。またタカギ・プロの仕業だと思った朱は、ステージに立つのが怖くなって混乱してしまう。渡会一意は泣きわめく朱を必死に励まし、白井和子の助けも受けた朱は、どうにかステージに立つ。しかし、ステージ衣装を破った犯人はタカギ・プロではなかった。事件の真相を知らぬまま音楽活動を続ける朱だったが、一意が自分を励ますために言った一言が、かつて加納美枝子がよく言ってくれた言葉とよく似ていることが気になっていた。朱に美枝子との関係を問われた一意は、美枝子は自分と血のつながった姉で、幼少期にピアノを教えてくれた師でもあったと語る。自分と一意が赤の他人ではなかったことを知った朱は、美枝子のことを思い出しながら、一意と自分のつながりを心から喜ぶのだった。後日、レコード会社「ミキレコード」の協力により、朱の正式なレコード発売が決定する。一意と日下部大樹は新聞を使った大々的な広告で宣伝を始める。一方、朱のレコードデビューを知った鷹木與一は、朱にとっても身近なある人物に狙いを定めていた。

第4巻

レコードデビューが決定した須佐朱だったが、発売予定だった新曲の譜面がタカギ・プロによって盗まれてしまう。さらに盗まれた新曲は、中川香菜子が作詞、作曲した曲として発表された。これを知って激しい怒りと悔しさを覚えた朱は、周囲の静止を振り切り、香菜子が出演する音楽番組に乗り込む。番組を妨害する騒動を起こしてしまった朱のイメージは下がるが、これもタカギ・プロの策略だった。朱は激しく落ち込むものの、渡会一意の励ましを受け、自分が今まで作った曲が再び盗まれぬよう、すべての楽譜を燃やす。一方、鷹木與一に渡されていた自分の新曲が、朱の曲であったことを知ってショックを受けた香菜子は、朱との仲に大きな亀裂が入った悲しみから高行にすがる。その後、高行との子供を妊娠した香菜子は、仕事に集中するために中絶の手術を受ける。だが、その当日に無理してコンサートに参加した彼女は倒れてしまい、代わりにステージに立った朱に、ファンの心は大きく動かされることとなる。一方、無理をしてステージに立った香菜子を心配する朱は、ライバルである香菜子への友情を捨て切れずにいた。後日、調布で朱の野外コンサートが開催され、多くのファンに応援された朱は感動しながらステージを終える。そこには、一意たちが「ヌシ」と呼ぶ鷹木会長も来場していた。鷹木会長が訪れていた理由が気になった日下部大樹は、彼と朱を会わせようとする。

第5巻

タカギ・プロによる須佐朱への妨害は続き、鷹木與一の策略で朱を囲む暴力団の写真が雑誌に掲載されてしまう。憤りの中、朱はこの事件と今までの事件の裏に、東久世貴子が関係していると疑い始める。いつも優しくしてくれた貴子が、その裏で自分への憎悪を募らせているかもしれない恐怖に怯える朱だったが、貴子に直接聞くことも、渡会一意に相談することもできずに行き詰まっていた。さらに與一が朱個人だけでなくダイジュ・プロへ狙いを定めたことで、日下部大樹も動きづらい状況になっていく。そんな中、朱は與一から直接呼び出しを受け、一人でタカギ・プロへ向かう。與一の目的は、一意と引き離すためにダイジュ・プロから朱を引き抜くことだった。何があってもタカギ・プロに行くつもりはないと與一を一蹴した朱は、彼や貴子への恐怖心が消えぬまま、暴力団との関係を否定するために記者会見に出ることになる。しかし記者たちには話を信じてもらえず、朱は芸能界への信用をなくしていく。そんな中、鷹木会長が大樹や與一を含む業界関係者を招集し、朱と暴力団の事件をもみ消すと宣言。鷹木会長が介入したことで状況が一変、次の日には朱への疑いが晴れると同時に、朱の恋愛に関する噂が立っていた。その後のコンサートを機に朱の人気は一気に上がっていくが、彼女が貴子に抱く疑いや不安は晴れぬままだった。

第6巻

いくつもの妨害を乗り越えて須佐朱が活躍を続ける中、渡会一意鷹木会長の紹介を受け、アニメ映画の音楽監督を担当することが決まる。一意の気持ちが朱や音楽に移っていることに不満を抱き続ける東久世貴子は、鷹木與一にゆすられるようになる。朱に睡眠薬を飲ませるように命令された貴子は罪悪感や葛藤に苦しみ、與一に渡された睡眠薬を大量に飲んで倒れる。朱のコンサート当日、貴子の自殺未遂の報せを受けた一意はその場を離れ、一意の代わりに日下部大樹がキーボードを務めることとなった。命に別状はなかった貴子は、一意や両親に自殺ではないと言い張る。一方、一意への思いに悩み続ける朱は、彼に対して自暴自棄な行動に出ることも増えていた。そんな朱は、相談相手になってくれたドラムの北沢と付き合うことになる。一意への未練を捨てられない朱だったが、北沢はそんな朱を受け入れようとする。そんな中、世界中のアーティストが集結する「世界ポップス祭」の国内予選がせまる。朱との交際を続ける北沢だったが、心の奥底で一意を思い続ける彼女を心から動かせるのは、一意しかいないことに気づく。北沢と別れることになった朱は複雑な孤独感を抱き、ふと須佐史子を恋しく思い、一人暮らしの母親を心配する。それでも史子と再会する勇気がない朱は、中川香菜子の自宅を訪れる。

第7巻

「世界ポップス祭」の国内予選当日、須佐史子タカギ・プロのスタッフに襲われる。敵の脅しに乗るまいと自ら腹を刺した史子は、同僚に助けられて命を取り留める。予選のステージを終えたあと、史子が自殺未遂で入院したという報せを受けた須佐朱は、ショックを受けながらも渡会一意と共に病院へ急ぐ。史子のアパートに立ち寄った朱は、史子が朱の音楽活動をずっと見守っていたことを悟る。後日、目を覚ました史子と再会した朱は彼女を叱咤激励する。久しぶりに史子とゆっくり話した朱は、史子の生い立ちや過去を知り、一意の家を出て母親と暮らすことを決意。一方、史子がただの自殺未遂ではなく、タカギ・プロが関係していることを見抜いた一意は、朱の家族まで巻き込んだ鷹木與一を本格的につぶそうと動き出す。タレントを次々に失っていた與一は追い込まれ、一意が差し向けたカメラマンによって淫行の証拠をつかまれる。一意たちの反撃によって破滅の道をたどったタカギ・プロは、鷹木会長によって自粛休業となる。一方、與一の騒動に巻き込まれた中川香菜子は、マスコミに追われる身となる。せつ子高行に助けられていた香菜子は実家に戻るが、家族が巻き込まれているのを悟り、すぐにその場を離れる。居場所を失った香菜子は、すがるように日下部大樹のもとへ駆けつけるのだった。

第8巻

鷹木與一と組んで渡会一意を音楽から遠ざけ、さらに須佐朱の妨害もしていた東久世貴子は、罪の意識から記憶喪失になってしまう。貴子や一意の思いを知った朱もショックを受けるが、朱にはツアーコンサートの日もせまっていた。ツアーコンサート初日、朱は貴子が記憶を取り戻したことを知る。貴子のもとを訪れた一意は彼女の謝罪を受けながら、朱への思いを語り出す。そして貴子への長年の思いも語った一意は、彼女に「一度別れよう」と告げる。東京でのコンサートが終わり、初日を独特のMCで開始した朱のコンサートは賛否両論だった。朱はこれらの結果を受け止め、自分の言葉や歌を応援してくれたファンの人々に感謝する。5月末には「世界ポップス祭」、6月には全国縦断ツアーを控えていた朱は、中川香菜子の家を訪れてある相談をする。そんな中、退院した貴子が書き置きを残して失踪。この報せを受けながらも、貴子がいつか帰ってくると信じていた一意と朱は冷静だった。鷹木会長や失脚した與一にも変化が訪れる中、さまざまな出来事に少しずつ幕が下がり、朱の周囲ではそれぞれの新しい生活が始まっていた。そんなある日、失踪していた貴子から朱あてに一通の手紙が届く。手紙を読んだ朱は、長らく顔を合わせていない一意にどうしても会いたくなり、彼の別荘へと向かうのだった。

登場人物・キャラクター

須佐 朱 (すさ あけみ)

複雑な生い立ちを抱えた、音楽好きの女子高校生。声楽家の加納玄明と、須佐史子の娘として生まれ、父親から受け継いだ天才的な音楽の才能を持つが、周囲にはそのことを隠している。ふだんは友人思いの優しい少女だが繊細過ぎるところがある。その一方で、窮地に立たされると居直ったような気丈さも見せる。3歳の頃に父親と、再婚した加納美枝子に引き取られ、二人が亡くなる13歳までは英才教育を受けて音楽を学んでいた。その後、本当の母親である史子に引き取られ、アパートで二人暮らしをしていた。史子からは音楽を禁じられていたが、歌手デビューを目指す中川香菜子に感化され、こっそり音楽を続けていた。史子と将来のことで口論になっていたところで、見かねた渡会一意に引き取られ、史子のもとを離れて一意の家に住むようになる。一意と同居し始めた当初は彼に冷たい態度を取られることが多く、気難しい彼とはやりづらさを感じていた。しかし、日下部大樹から一意の過去を教えられ、一意の音楽への強い思いを知り、少しずつ信頼を寄せるようになる。大樹の懇願や一意の思いを悟ったことで音楽業界に戻ることを決意し、一意や彼の音楽仲間たちの助けを受けながら、シンガーソングライターとしてデビューを果たす。デビュー前からタカギ・プロの妨害を何度も受けており、親友の香菜子との対立や一意への恋心をはじめとしたさまざまな困難に立たされているが、周囲の励ましや助けを受けながら音楽の道を進んでいく。

渡会 一意 (わたらい かずい)

かつて天才ミュージシャンと呼ばれた男性。「タカギ・プロ」のニューフェイスコンテストでは、テープ審査の段階で本選優勝候補とされていたが、本選には顔を出すことなく、音楽業界から去って伝説のような存在となった。その後は長らく音楽から離れていたが須佐朱と出会い、彼女の才能を見いだす。しばらく朱をひそかに見守っていたが、彼女が須佐史子とケンカしているのを目撃し、大金と引き換えに史子から朱を引き取る。その後、表向きは朱を遠縁の親族として自宅に招き、同居するようになる。一見気難しそうな性格で、朱にも冷たく厳しい態度を取ることが多いが、音楽をやっていた頃は明るい性格だった。音楽業界から去ったのは、ニューフェイスコンテストの本選前に鷹木與一の手下に襲われ、手を負傷した事件が関係している。犯人の鷹木を問い詰めようとしていたが証拠不十分なために叶わず、友人の日下部大樹のスカウトや説得も断り、三元重工のサラリーマンとして過ごしていた。音楽を捨てきれない朱を励まして彼女のプロデュースや指導を務めるようになり、大樹や音楽仲間たちと協力しながら、彼女の音楽活動をバックアップする。ただし朱の音楽活動の際は、関係者として渡会一意の名を出さないようにしている。実は與一や加納美枝子とは腹違いのきょうだいで、幼少期は美枝子からピアノを教わっていた。

中川 香菜子 (なかがわ かなこ)

須佐朱とせつ子の親友でクラスメートの女子高校生。愛称は「香菜ちゃん」で、ふわふわした癖毛は生まれつきの天然パーマ。高校在学中にシンガーソングライターとしてデビューが決まる。クールな性格の負けず嫌いで、朱とせつ子以外の同級生とはあまりかかわろうとしないが、心根は優しく友人思い。音楽活動で世話になっている高行に片思いしている。実家は貧しく父親は病弱で入院することもあるが、家族のことは大切にしている。実年齢よりも大人っぽく見えて、音楽を楽しむ様子は朱からあこがれを抱かれている。高校卒業がせまる頃にシングルを出して歌手デビューを果たすが、音楽番組をきっかけに朱がシンガーソングライターとして活動を始めたことや、朱が音楽の才能にあふれていることを知る。親友の朱が両親のことや音楽の才能を隠していたことにショックを受け、彼女に複雑な思いを抱くようになる。そして初コンサートに訪れた朱に本音を打ち明け、以降、すれ違いを繰り返す。のちに付き合うようになった高行の子供を妊娠するが、仕事に集中するために中絶。しかし中絶手術を受けた当日にコンサートに出たため、ステージ上で体調を崩してしまう。その際に朱の助けを受けたことで、ライバル関係を続けながらも朱との友情を取り戻していく。しかし、中絶を知った高行とはすれ違いの果てに別れる。のちに偶然出会った日下部大樹と意気投合し、付き合うようになる。

せつ子 (せつこ)

須佐朱と中川香菜子の親友でクラスメートの女子高校生。愛称は「せっちゃん」。香菜子の歌手デビューや音楽活動を、朱と共に応援している。香菜子と同様、朱の音楽の才能や活動は知らなかったが、音楽番組への出演をきっかけにデビューした朱のことも応援している。朱や香菜子よりもおとなしいが、朗らかで友人思いな明るい性格の持ち主。デビュー以来、朱と香菜子の仲に亀裂が入ったことを心配している。その後は体調を崩した香菜子の見舞いに行き、彼女と高行の連絡役も務めるようになる。しかし以前から高行に片思いしていたため、香菜子を心配しつつも複雑な気持ちを抱いていた。のちに香菜子と別れた高行と付き合うようになり、結婚する。結婚後も朱や香菜子との交流を続け、二人の活動を応援し続けている。

中川 秋史 (なかがわ あきふみ)

中川香菜子の6つ年下の弟。昔から姉の香菜子には甘やかされており、気の強い彼女が心を許して大切に思っている数少ない存在。デビューした香菜子が実家を出てからは、通学しながら父親の見舞いに通い、母親と共に暮らしていた。香菜子のスキャンダルが原因で同級生にいじめられるようになり、実家に帰ろうとしていた香菜子を拒絶する。しかし心根では香菜子を大切に思っており、彼女を追ってきた日下部大樹に諭され、再び受け入れようとする。

須佐 史子 (すさ ふみこ)

須佐朱の実の母親で、スナックで働いている。幼少期の朱とは離れていたが、加納美枝子の死後は朱を引き取って一人で育ててきた。朱を大切に思う一方で、自分から朱と加納玄明を奪った美枝子と音楽を憎んでいる。また、朱が美枝子に奪われる最大のきっかけとなった、朱の持つ音楽の才能を恐れている。このため朱を引き取ってからは音楽を禁じていたが、彼女がこっそり音楽を続けていたことには気づいていた。職場のスナックで朱とケンカしていたところ、偶然店に来ていた渡会一意に、大金と引き換えに朱を引き渡す。この際に朱に憎まれ口を叩いていたが、本音では朱が音楽の道に進んで幸せになることを願っている。一意の前で朱とケンカしたのも、伝説的なミュージシャンである彼に、朱を託すための芝居だった。朱と離れてからは彼女の活動を見守りながら一人暮らしをしていたが、酒に溺れて職場も放り出し、荒れた生活を送っていた。朱が「世界ポップス祭」予選に出た際にタカギ・プロの襲撃を受け、彼らの脅しに乗って朱の邪魔になるのを防ぐため、自ら腹を刺して倒れる。同僚に助けられ、入院した際に朱と再会を果たした。両親を早くに亡くして叔父のもとで育ち、18歳の頃に山形に出て本屋で働いて暮らしていた。本屋に楽譜を買いに来ていた貧乏学生の玄明と出会い、お茶をおごってあげたのをきっかけに交際を始めた。

加納 玄明 (かのう はるあき)

須佐朱の父親で、天才声楽家。大学時代に須佐史子と同棲し、娘の朱が生まれた。しかし妻の史子とは別れて加納美枝子と再婚し、美枝子と共に朱に音楽の英才教育をしていた。のちに美枝子と共に、交通事故で亡くなった。若い頃は音楽好きの貧乏学生で、楽譜を買うために通っていた本屋に勤めていた史子と出会い、付き合うようになった。

加納 美枝子 (かのう みえこ)

須佐朱の育ての母親で、いつもクールに振る舞う天才ピアニスト。須佐史子と別れた加納玄明の再婚相手であり、朱にとっては音楽の師でもある。朱からは「美枝子ママ」と呼ばれていた。玄明と共に朱に音楽の英才教育をしていたが、交通事故で彼と共に亡くなった。幼い朱と玄明を奪った女性として、史子からは恨まれている。実は渡会一意、鷹木與一とは腹違いのきょうだいで、一意の幼少期にピアノを教えていた。鷹木会長の娘でもあるが、鷹木家には愛想を尽かして早くから縁を切っていた。しかし幼少期に父親が掛けてくれた励ましの言葉は大人になってからも大切にしており、幼い一意や朱にも同じ言葉を掛けて励ましていた。

高行 (たかゆき)

中川香菜子がよく利用している渋谷のライブハウス「マーメイド」のオーナーで、眼鏡をかけている男性。デビュー前の須佐朱が音楽番組に出演したのをきっかけに、「マーメイド」での定期的なライブ出演を彼女に依頼する。ひそかに朱に片思いしていたが、香菜子に告白されて彼女と付き合うようになる。しかし香菜子からはプライベートの話や朱との事件のことを詳しく聞かされておらず、香菜子が高行の子を妊娠していたことも知らなかった。香菜子がコンサートで体調を崩したあとに妊娠と中絶の事実を初めて知らされ、相談もなしに中絶した彼女とすれ違いの果てに、別れを告げた。のちに香菜子を通してせつ子の思いを知り、彼女と結婚を前提に付き合うようになる。

東久世 貴子 (ひがしくぜ たかこ)

渡会一意の婚約者の女性で、日下部大樹とも友人。一意が勤める「三元重工」の一人娘で、愛称は「貴子姫」。一人暮らしの一意を気にかけ、彼の家によく出入りして家事などをこなしている。一意が須佐朱を引き取ってからは彼女の面倒も見るようになり、複雑な立場にある朱を励まし、姉のように優しく接している。一意の過去を知っているため、彼が再び音楽業界にかかわるのは心底反対していたが、一意の思いを知ってからは彼や大樹と共に朱を手助けする。大樹とは昔から仲が悪く、顔を合わせるたびに憎まれ口を叩き合っている。一意と恋仲になるきっかけとなった大学時代は文学部に所属し、男性たちがあこがれるマドンナのような存在だった。一意と朱は遠縁の親族であると一意から聞いていたが、本当は二人が他人である事実を知ってからは、一意への不安や疑心を抱くようになる。実は一意と婚約を交わしたばかりの頃からひそかに不安を抱いており、音楽に夢中な彼を業界から遠ざけるために、鷹木與一に妨害を依頼していた。また、一意との結婚を6年以上先延ばしにされていることや、彼と朱がなかよくなっていく様子に不安を募らせ、朱のコンサート衣装を破って妨害したことがある。その後は與一と裏で密通し、朱の曲を盗むなど彼女の活動をひそかに妨害し続けていた。次第に一意と朱への罪悪感から與一の命令を断るようになるが、彼にゆすられてしまう。

日下部 大樹 (くさかべ ひろき)

音楽事務所「ダイジュ・プロダクション」の社長を務める男性。渡会一意と東久世貴子の友人で、高校時代の部活の後輩だった一意とは、大学に入ってからは音楽仲間ともなった。わけあって音楽業界から去った一意を自身の事務所に引き戻そうとしており、何かと彼を気にかけている。同時に須佐朱の才能や気丈な性格を気に入り、引き抜こうとしている。真の目的は、一意と朱を組ませて音楽業界に引き入れ、かつて一意の活動を妨害した鷹木與一に一矢報いることであった。その後は一意やほかの音楽仲間と協力しながら朱の活動を全力でサポートし、彼女をダイジュ・プロダクション所属のシンガーソングライターとしてデビューさせた。以降も一意たちと協力しながら、朱の活動をバックアップしている。貴子とは昔から仲が悪く、顔を合わせるたびに憎まれ口を叩き合っている。しかし貴子には大学時代から片思いしており、朱のステージ衣装を破った犯人が彼女であることも気づいていた。一意の婚約者だと知りつつも貴子への未練が捨てきれず、かつての純真なマドンナだった頃の彼女に戻ってほしいと願っている。現在はマネジメント中心の業務だが、もともと音楽の才能があり、ピアノやキーボードの演奏もできる。大学時代はバンドリーダーも務めていたが、一意が加わってからは裏方に回るようになった過去を持つ。のちに偶然街中で会った中川香菜子と意気投合し、付き合うようになる。

貴子の父 (たかこのちち)

東久世貴子の父親で、三元重工の社長を務めている。三元重工に勤めている渡会一意の上司でもある。貴子の婚約者であり三元重工の次期社長である一意のことを、とても気に入っている。しかしライバル企業が協賛しているアニメ映画の仕事を一意が受けたと知ってからは、厳しい態度を取るようになる。

貴子の母 (たかこのはは)

東久世貴子の母親で、ふだんは和服を着ている。一人娘の貴子を厳しく教育していたが、心から大切に思っている。渡会一意を気に入っている貴子の父とは異なり、貴子との結婚を先延ばしにしがちな一意のことを快く思っていない。一意が貴子を傷つけるようなことがあれば、彼女を別の男性と結婚させるつもりでいる。

鷹木 與一 (たかぎ こういち)

大手プロダクション「タカギ・プロ」の令息。かつて渡会一意の才能を妬み、街中で彼を襲って手を傷つけ、彼が音楽業界から去る原因を作った張本人。しかし証拠不十分で罪に問われることはなく、一意や日下部大樹からは恨まれている。その後はタカギ・プロの専務となって、中川香菜子のプロデュースも手掛けるようになる。シンガーソングライターとしてデビューを目指す須佐朱の活動に一意がかかわっていることを知り、何かと朱を妨害したり、執拗な嫌がらせをしたりするようになる。大学時代は東久世貴子に片思いし、しつこく言い寄っていた。実は、一意が業界から去るきっかけとなった事件は、一意に不信感を抱いた貴子に依頼されて実行していた。貴子が朱のステージ衣装を破った犯人であることにも気づいており、その後は裏で貴子と密通して、朱の活動を妨害し続けている。のちに父親の鷹木会長の影響で、朱をタカギ・プロに引き抜いて一意と引き離そうともくろむも失敗。その後は父親の介入で動きづらくなるものの、朱や一意への罪悪感から妨害を断るようになった貴子をゆすって、朱への妨害を続けようとする。しかし一意たちの反撃により、アイドル志望の少女との淫行の証拠をつかまれてしまい、多くのタレントとタカギ・プロを失う。腹違いのきょうだいである一意と加納美枝子には、昔から強い劣等感を抱いていた。

白井 和子 (しらい かずこ)

人気ロックシンガーの女性。同じ音楽番組に出演することになった須佐朱と出会い、彼女の演奏と歌に感動して才能を見いだす。朱のことを気に入り、たびたび彼女を激励したり交流したりしている。朱の活動に渡会一意が関係しているのを知ってからは、彼に何度かプロデュースやアレンジを依頼している。朱の代わりにステージに立って場をつなぐなど、タカギ・プロの妨害に遭っている朱の音楽活動をサポートしている。

鷹木会長 (たかぎかいちょう)

調布で須佐朱が開催した野外コンサートにやって来た謎の男性。音楽業界と関係があり、渡会一意たちからは「ヌシ」と呼ばれている。沼津で一人落ち込んでいた朱を保護したのをきっかけに、彼女と知り合う。一見優しく親切な老人だが、実はタカギ・プロの創設者で、一代で業界一のプロダクションを築き上げた人物。現在はタカギ・プロの社長は妻に、専務は息子の鷹木與一に任せて、「ユウ・プロ」というプロダクションを営んでいる。現在も音楽業界や芸能界を動かせるほどの権力を持ち、事務所やタレントの生命を指先一つであやつれる立場にある。また、元は暴力団の息子であったために暴力団ともつながりがあり、目的のために容赦のない手段を取ることもある。一意には一目置いていたが結果論主義者なため、業界を去った彼のことは「負け犬」扱いしていた。朱の才能に目をつけ、ある事件に自ら介入して朱を助けるなど、時折彼女の活動を裏からサポートしている。実は一意の父親で、「ユウ・プロ」の名称も、一意の母親である妾のユウという女性から取ったもの。もう一人の妾の娘である加納美枝子の父親でもあるが、彼女には早くから縁切りされていた。いくつかの工作により、一意を貴子の父の会社である三元重工から引き離し、彼にタカギ・プロを継がせようとしている。

竹内 (たけうち)

鷹木会長の側近の男性。渡会一意のことを「坊ちゃん」と呼ぶ。鷹木会長の妾の子である幼少期の一意を、鷹木会長から頼まれて妻と協力しながら保護していたことがある。鷹木與一の失脚後は、徐々に立ち直っていったタカギ・プロの専務を任される。

北沢 (きたざわ)

渡会一意や日下部大樹の大学時代からの音楽仲間の男性。一意たちの要請を受けて須佐朱の音楽活動を手伝うようになり、ドラム演奏なども務めている。何かと窮地に立たされがちな朱の心情を心配し、時折相談相手にもなっている。のちに、一意への思いに悩み続ける朱と付き合うようになる。一意を思い続ける朱を受け入れようとしていたが、付き合ううちに彼女が心から愛せる男性は一意以外いないことを悟り、別れを告げた。

場所

タカギ・プロ

中川香菜子が所属している、音楽業界一の大手音楽プロダクション。創設者である鷹木会長の妻が社長を、鷹木與一が専務を務め、芸能界や音楽業界に大きな影響力を持っている。須佐朱のデビュー前から與一の策略により、卑劣な手を使って彼女の音楽活動を何度も妨害している。ついには朱の家族まで巻き込んだことで渡会一意の怒りを買い、淫行疑惑が浮上した與一の失脚によって自粛休業となった。

続編

ピアニシモでささやいて 第二楽章 (ぴあにしもでささやいて だいにがくしょう)

石塚夢見の『ピアニシモでささやいて』の続編。成長したシンガーソングライターの須佐朱の活躍や、再会した渡会一意との恋愛模様を描く、音楽や芸能界をテーマにしたメロドラマ。講談社「BE・LOVE」2003年... 関連ページ:ピアニシモでささやいて 第二楽章

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