天の血脈

天の血脈

日露関係が悪化してゆく明治時代末期、優秀であるが冴えない一高の学生、安積亮は、国家間の謀略に巻き込まれながらも力強く成長してゆく。安彦良和による『虹色のトロツキー』、『王道の狗』に続く、安彦近代史3部作の集大成となる歴史大作。

正式名称
天の血脈
ふりがな
てんのけつみゃく
作者
ジャンル
時代劇
 
その他歴史・時代
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概要・あらすじ

明治末期、日露戦争開戦前夜、満州の地に学術調査隊として参加していた優秀であるが冴えない一高の学生、安積亮は、馬賊による襲撃を受け捕らわれてしまうが脱出に成功、帰国し諏訪大社の巫女、翠と祝言をあげる。平穏な学生生活が送れると思われたが、日露戦争が勃発し国家の思惑に翻弄されることになる。

日本は戦争に勝利し、更に朝鮮併合へと乗り出すが、安積は天皇家に対し反旗を翻す革命勢力の陰謀に巻き込まれてしまう。

登場人物・キャラクター

安積 亮 (あずみ あきら)

帝大二科(一高生)。長野県諏訪出身。安曇野に入った海人族の末裔。満州にある古代の日朝関係が記されたとされる広開土王碑(好太王碑)調査のため、嬉田貞一 率いる一高・東京帝国大学合同の特別史跡調査隊に参加するが、調査中に馬賊による襲撃を受け、ロシア兵に囚われる。 内田良平に助けられ一命を取り留め、現地でハナという女性と出会い心を通わせるものの、内田の策略により離ればなれとなる。帰国後、親の計らいで幼なじみである諏訪大社の巫女、森谷翠と学生結婚するが、日露戦争が勃発する。日本政府が朝鮮支配へ乗り出してゆく中で反天皇家達革命グループの陰謀に巻き込まれたことをきっかけとして、新設の満鉄調査部のメンバーとして再び大陸へ渡ることを決意する。 見た目はへなちょこだが、九州では泣く子も黙るとさえいわれた玄洋社一の暴れん坊、内田に食ってかかる等、気が強い面があり、内田からは一目置かれている。

森谷 翠 (もりや みどり)

安積亮の幼なじみで諏訪大社の巫女。非戦闘論者でありクリスチャンである内村鑑三の言葉に感銘を受け、代々神官を務める家系に育ちながら、東京の学校に進学することを希望する。互いの親達の計らいで中国大陸から帰国した安積亮との結婚を条件に、東京のキリスト系女学院の明治女学校に入学する。 婦人矯風会大阪支部代表の一人、菅野スガに影響を受け社会主義思想に染まってしまう等、世の中を知らずウブな面があるが、感受性豊かで、一人の人間として常に向上心を持ち続ける女性。後に安積亮と共に中国大陸へ渡る。

内田 良平 (うちだ りょうへい)

福岡藩士が中心となり結成した政治団体の玄洋社で一番の暴れん坊。国家主義団体の国龍会の壮士(主幹)。剣と柔の術の使い手。天下万民の為の研究を成し遂げようとする嬉田貞一を見込んで支援する。襲撃された嬉田率いる特別史跡調査隊を救う為、武装したロシアのコサック兵の集団を刀一本でなぎ倒し退散させる。 日露開戦を控え、現地の馬賊を味方に引き入れる工作を行う為、中国大陸で暗躍していた。たしなめて抗弁してきた特別史跡調査隊のメンバー、安積亮に対して一目を置く。実在の人物、内田良平がモデル。

嬉田 貞一 (うれしだ ていいち)

一高教授。満州にある古代の日朝関係が記されたとされる広開土王碑(好太王碑)調査のため、一高・東京帝国大学合同の特別史跡調査隊を先導し調査を行う。調査中に馬賊による襲撃を受けロシア兵に囚われるが、かつてより親交のあった内田良平に救出され、日本の学者で初めて日韓が同祖であったことを証明するとされる好太王碑の全拓出に成功する。 何事も疑ってかかることが歴史学の神髄であるという信念を持つ。帰国後、これまでの研究と好太王碑文を合わせた歴史の真実を解き明かす過程において、皇統に関する意外な事実が浮かび上がることになる。それらの内容を論文として完成させることで帝大教授になることを目指していたが願い叶わず、仙台の二高講師として転ずることになる。 実在の人物、喜田貞吉がモデル。

(はな)

安積亮と中国大陸で出会い、心を通わせる からゆきの少女。 ロシア人と日本人の混血児で蒼い瞳を持つ。長崎から売られて中国大陸の九連城で体を売り働く。混血児であることに対し強いコンプレックスを抱く。本名は華だが、めんどうなので花と書いているらしい。 ロシア人からはアンナと呼ばれる。安積亮らと共に日本に帰国する直前、内田良平の策略により元陸軍情報将校予備役少佐である花田仲之助の組織に拘束され、日露戦争において花田が結成した満州義軍にによってハルビンにあるロシア軍の兵站司令部への潜入を命じられ諜報活動を行うことになる。 ロシア語と支那語を使える上、朝鮮語も判り、「救国の烈婦」として組織から重宝されている。

柳 斗星 (ゆ どうそん)

拳法の義和拳の奥義を極め、かつてはこの拳法で世の中を変えられると信じていたが、やって来たロシア軍に散々に負け仲間も家族も殺された。朝鮮に本当の独立が来る日を信じており、東洋が力を合わせ日本と朝鮮が兄弟のように結びつく為の活動を行う内田良平を師として慕う。内田が支援する学者の嬉田貞一を救う為、ロシアのコサック騎兵と闘うが守りきれず内田に助けられる。 だが時が過ぎ時代が変わり、日露戦争に勝利した日本が朝鮮を統治するに至ったことで、自分が内田に騙され続けていたことに気付き、闇夜に内田を襲撃するが失敗。内田とは敵対する関係となる。その後、中国大陸に渡り義兵闘争に加わることとなる。

花田 仲之助 (はなだ なかのすけ)

元日本陸軍情報将校予備役少佐。当初、花行一(かこういち、またはファクウイー)と名乗り、満州の中心都市奉天に支那人として潜伏していた。日露戦争においては馬賊を糾合し、「眼中の釘 」と恐れられる満州義軍を結成し、その隊長となる。日露の混血児である少女ハナを拘束し、ロシア軍の兵站司令部に潜入させ諜報活動を行わせることで、大いにロシア軍の後方をかく乱させ戦争を勝利に導く。 実在の人物、花田仲之助がモデル。

大杉 栄 (おおすぎ さかえ)

外語学生。「非開戦を論す」という反戦演説を開く師の内村鑑三の用心棒として諏訪に行った際に安積亮と出会う。自らを軍隊を素行不良で首になった人間であると吹聴しているが、実は、父親が軍人であった流れで入った幼年学校を、喧嘩三昧、教官への反抗、飲酒・喫煙等をして放校処分となったというのが正しい。 戦いを拒否する師とは反対に喧嘩をするし、内村鑑三と同じく洗礼を受けたクリスチャンでありながら奇跡を信じることが出来ず神の実在にも確信が持てない無神論者。東京では自称読者代表兼寄稿者として平民新聞に出入りしている。後に無政府主義者として目覚める。実在の人物、大杉栄がモデル。

張 作霖 (ちょう さくりん)

満州新民府(馬賊)の総大将(ツオンランバ)。若く小柄であった為、当初、安積亮から少年兵と勘違いされた。内田良平に協力し、安積亮ら一高と東京帝国大学合同の特別史跡調査隊を中国大陸から逃がす為に手を貸す。だが、親日という訳ではなく、あくまで敵対するロシアに対抗して馬賊集団をまとめあげようとしている内田の手腕を見込み日本に協力するというスタンスを維持している。 戦略に長け、白虎の張とも云われる。日露戦争においては日本側を支援する活動を展開し、後に奉天省の軍事・政治の実権を握り満州に君臨する。歴史上の実在の人物、張作霖がモデル。

宋 教仁 (そう きょうじん)

清国の留学生。清朝にとってはお尋ね者。満州人の王朝である清朝の打倒、中華民族の回復、民主共和国の建設、土地所有権を平均にするということをスローガンに掲げ、中国の辛亥革命を成功に導いてゆく。将来、支那の宰相になると目され、辛亥革命の実質的なリーダーで国民党設立の中心人物となる。 歴史上の実在の人物、宋教仁がモデル。

堺 利彦 (さかい としひこ)

幸徳秋水とともに平民社を作った社会主義者。以前は一高に籍を置いていこともあったが、学費滞納で除籍となる。その為、一高生で将来を嘱望され許嫁がいる有産青年である安積亮には反感を持ち、安積亮が師とし大陸進出をそそのかす嬉田貞一を大戦争犯罪者であると心底嫌っている。 実在の人物、堺利彦がモデル。

安曇のイサナ (あずみのいさな)

四世紀の海人族の少年。那津(なのつ)の磯鹿島(しかのしま)に住む安曇の水主(みずぬし)イソラの孫。代々、アズミの神・ムナカタの神・タゴリ姫より、奴国の王様が漢の帝からいただいた神宝、王の印を預かりいただいている。海を渡って韓国(からくに)を攻める為に訪れたヤマト国の大臣、武内宿禰の軍船に水主として搭乗し、倭の舟の大軍を韓国へ導いた。 遠征中、息長帯比売命と男女の関係を持ち、子をもうける。帰国後、役目を終えた仲間達は紀の国に引き上げたが、イサナは息長帯比売命に産ませた子供が大倭国の大王になった姿を見るため、ひとり大軍に帯同する。 この時、武内宿禰の息子である葛城襲津彦から襲撃を受け、片腕を切り落とされるものの、突然起きた日蝕に救われ生き延びた。

息長帯比売命 (おきながたらしひめのみこと)

四世紀の人物。後の応神天皇の母。日本武尊の第2子である第14代天皇の大王、帯中日子天皇(たらしなかつひこのすめらみこと)の正室。皇后。那津の香椎御宮にて神懸り、神の意志に背いた大王を呪い殺す。大臣の武内宿禰と共に、倭の舟の大軍の総大将として海を渡り、三韓征伐を指揮する。 韓半島を攻撃し新羅と百済を服従させる。遠征中、水主として舟に乗り込ませた少年、安曇のイサナの子を懐妊し、後に第15代天皇の応神天皇として産み落とす。外見はハナに似ている。日本書紀、古事記に記載される人物、神功皇后がモデル。

葛城 襲津彦 (かつらぎ の そつひこ)

ヤマト国を統べる大臣、武内宿禰の息子。三韓征伐を掲げた息長帯比売命を総大将とする倭の舟の大軍に帯同する。安曇の水主イソラに船団を先導させるため磯鹿島 に下り立ち、イソラ の孫である安曇のイサナと出会う。反抗的な態度を続けるイサナを毛嫌いし、三韓征伐を完了し役目を終えた後も大軍に帯同していたイサナを殺害しようと試み、三韓渡来の百連の名剣を使い片腕を切り落とすが、突然起きた日蝕によりとり逃がす。 日本書紀、古事記に記載される人物、葛城襲津彦がモデル。

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