平穏世代の韋駄天達

平穏世代の韋駄天達

「韋駄天」と呼ばれる不老不死の神々と、800年の封印からよみがえった魔族との戦いを描いたダークファンタジー。「ヤングアニマル」2018年17号から連載された。もともと天原がWEB漫画として発表していた作品を、クール教信者が作画を担当して商業連載化された作品。

正式名称
平穏世代の韋駄天達
ふりがな
ゆとりせだいのいだてんたち
原作者
天原
作画
ジャンル
ダークファンタジー
レーベル
ヤングアニマルコミックス(白泉社)
巻数
既刊8巻
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

800年の平和

かつて魔族に蹂躙されていた世界。近代兵器も通じない怪物の軍団を前に、人類は絶望に立たされていた。滅亡の危機に瀕した人類であったが、魔族を退けたいと願う人間たちの祈りから生まれたのは、韋駄天と呼ばれている戦いの神だった。人間の祈りに応えた彼らは魔族の封印に成功し、世界に平和をもたらした。そんな壮絶な死闘から約800年が経ち、過去の死闘は神話の中の昔話として忘れられつつあった。おだやかな世界で、戦いを好む韋駄天の少年・ハヤトは、師匠であるリンの教えのもとで、魔族が復活する時に備えて過酷な修行に明け暮れていた。ハヤト、イースリイポーラは平和な時代に生まれた韋駄天、つまり魔族との死闘の経験がないことから「平穏世代の韋駄天達」と呼ばれていた。そんなハヤトたちのもとに、氷河地帯でゾブル帝国の軍が集まっているという情報が届く。ハヤトはイースリイ、ポーラを連れて現地へ急行するが、そこには氷の中に封じられた魔族の生き残りであるギュードと、それを復活させようともくろむ謎の老人・オオバミ博士の姿があった。復活させられたギュードとの戦いに巻き込まれるハヤトたちは、それぞれが魔族の暴走を止めようと戦い、ハヤトは修行の成果を発揮して無事勝利を収めるが、ロボットの影武者であったオオバミ博士はその場から逃亡する。一方、自分たちの無力さを痛感したイースリイとポーラは、ハヤトを見習って強くなるための修行を再開しようと決意。しかしリンが主導する修行は、不死身の韋駄天であっても死を覚悟するほどに過酷なものだった。早くも心折れそうになるイースリイとポーラだったが、ようやく休憩に入ったところで、リンは韋駄天の秘密を語り出す。

ピサラ大将

生物の思念から発生する存在であり、その発生には「救いを求める心」が必要とされる韋駄天。彼らが800年前に魔族を封印したことで世界には平和がもたらされ、それ以降は新たな韋駄天が発生することはなかった。だが、平穏になったはずの世界で、ヒマを持て余すかのように人間同士で戦争や略奪が繰り返され、それは人間が救いを求めて祈る新たなきっかけとなり、その祈りはハヤトをはじめとする「平穏世代の韋駄天達」が生み出していった。イースリイは、ここ数十年で世界が荒れるようになった原因には、侵略国家であるゾブル帝国が絡んでいると考える。そして、オーバーMが率いる魔族たちの新たな動きは、武力・智略・政治・陰謀などが交錯する禁断のバトルロワイアルの幕開けを意味していた。そんな中、侵略を続けるゾブル軍の最前線で指揮を執っていたピサラ大将に、オーバーMから緊急帰還命令が下る。軍人たちからも敬愛されるピサラは実は人間ではなく、強力な力を持つ魔族の一人だった。ピサラだけでなく、彼女の仲間である魔族たちはゾブル軍のさまざまな役職に就き、周囲への侵略を進めながら国を裏からあやつっていたのである。そんなピサラたちによる韋駄天対策についての会議が始まり、彼女たちは韋駄天を抹殺すべきと判断し、最高戦力のニッケルを差し向ける。修行を続けるリンやハヤト、イースリイ、ポーラの前に降り立ったニッケルは、戦いを挑んできたハヤトを返り討ちにする。しかし、ハヤトをあっさり倒したニッケルを圧倒的な力で返り討ちにしたのはリンだった。さらに、監視役として遠くから戦いを見ていたジーサーティンもリンに瞬殺されてしまう。

プロンテア

捕食と破壊を繰り返し、死の世界を生み出していた魔族が封じられてから800年。種の滅びとは程遠くなり、私欲で殺し合う余裕ができた人間たちの裏には、なぜか人の姿で行動する魔族たちの陰謀が蠢(うごめ)いていた。戦火を世界規模に拡大させるゾブル帝国を根城にする魔族たちは、対策を練られる前に韋駄天に先手を打って戦うことを決めるものの、800年前を知る最強の韋駄天・リンの戦闘力に慌てふためく。人に紛れて存在してきた韋駄天と魔族が、800年ぶりに衝突したことで明らかになったリンの強さに危機感を覚えたオーバーMは、今は未熟なハヤトたちもいずれリンのような強さを得ると考え、ピサラ大将、ネプトコリーに抹殺指令を下す。一方でリンもまた、魔族の巣窟と化したゾブルを壊滅させることを決意し、万全を期すために弟子のプロンテアに協力を仰ぐことになる。その頃、イースリイはリンに殺されたニッケルの生首を抱えながら、プロンテアに連絡を取っていた。現時点で韋駄天側に負ける要素はないと確信するイースリイだったが、魔族にはいくつもの謎があった。800年前にはいなかった人型の魔族と、オオバミ博士として人型の魔族を作り出していた魔王・オーバーMの謎。数々の疑問の中で、韋駄天の勝利をより確実にすべく、自らの研究所にやって来たイースリイは動き出す。ルール無用な人でなし同士の生存が懸かった、大規模な知恵比べが始まろうとしていた。一方、ハヤトはプロンテアのもとで修行を開始するものの、新たな刺客として現れたのはネプトとコリーだった。プロンテアはネプトの相手をすることになり、ハヤトとポーラは協力してコリーを倒すことになる。

悪魔の洞察力

魔族の刺客・コリーとの戦いに、ハヤトポーラが苦戦する一方、プロンテアは圧倒的な強さでネプトを撃破する。自らの研究所を訪れていたイースリイは、髪の毛を自在にあやつるピサラと死闘を繰り広げていた。イースリイは緊張感のある頭脳戦の末に勝利を収め、ハヤトもまた長時間の戦いの末にコリーの撃破に成功。敗北したピサラ、ネプト、コリーの三人は、イースリイによって脳を改造されたうえで洗脳され、韋駄天たちの味方となる。二度の衝突を終えた結果、戦いは韋駄天サイドの圧勝となった。魔族の情報を得るため、イースリイはピサラたちからゾブル帝国に巣食う魔族や、魔王として暗躍するオーバーMの詳細を聞きながら、彼の正体にせまる。ピサラたちの話した情報を基に数々の考察を重ねたイースリイとプロンテアは、オーバーMの正体は魔族をベースとして発生した韋駄天ではないかという考えに行きつく。一方、仲間になったピサラたちを特訓相手に迎え、新たな修行に明け暮れるハヤトたちは体重の使い方を習得し、戦闘力を大幅に高めていく。同じ頃、ゾブルでは高い洞察力を有する調教・ミクが、韋駄天たちの戦闘や行動を慎重に観察し続けていた。その中でリンの守る旧世代魔族の封印に気づいたミクは、韋駄天対策を練りながら新たな行動に出る。

宗教国家サラバエル

韋駄天との絶望的な戦力差を前に魔族の滅亡は時間の問題のはずが、驚異的な洞察力で魔族たちの頭脳となったミクの存在により、状況に大きな変化がもたらされていた。ミクが韋駄天の弱点を探り続ける中、ブランディクライシラキバズの三人の子供を呼び出し、子供を連れて国外へ逃げるように直接指示を出す。一方、急速に強くなるハヤトの才能を見抜いたプロンテアは、ゾブル帝国への急襲を決意。イースリイポーラは、魔族殲滅(せんめつ)に全力を注ぐための事前準備も兼ねた人間との交渉を目的に、宗教国家「サラバエル」へ向かっていた。サラバエルの教会にやって来たイースリイとポーラは、ゾブル崩壊以降は自由都市「ホタエナ」とサラバエルの二国間での戦争を禁止すると、三代目大神官であるサギィシー・サクシュに通告。疑いと戸惑いを隠せないサギィシーたちに対し、二人は韋駄天としての力を見せつけることで説得に成功する。そうして準備を整えていった韋駄天たちは、大陸の一部を割って魔族の退路を断ったうえで、一気にゾブルに攻め込む。次々と魔族が倒されていく中、形勢不利と判断したミクは、仲間を連れてゾブルからすでに逃げ出していた。そんな中、奴隷として幽閉される女性たちの牢屋に来たハヤトの前に、ゾブル皇帝のタケシタが立ちはだかる。逃げる者と戦う者と祈る者、それぞれの思惑が交錯する中で、魔族と韋駄天の生存を懸けた、本能剥き出しの血みどろ抗戦が始まるのだった。

メディアミックス

TVアニメ

2021年7月より、本作『平穏世代の韋駄天達』のTVアニメ版『平穏世代の韋駄天達』が、フジテレビ「ノイタミナ」枠ほかで放送された。監督は城所聖明、キャラクターデザインは大津直が務めている。キャストは、ハヤトを朴璐美が、イースリイを緒方恵美が演じている。

WEB漫画

本作『平穏世代の韋駄天達』は、天原がWEBサイトで公開していたWEB漫画『平穏世代の韋駄天達』を原作としている。WEB漫画版は2016年から更新停止していたが、2018年に再構成されてクール教信者による作画で本作の連載が開始された。

登場人物・キャラクター

ハヤト

少年の姿をした韋駄天。80年前にリンの引き出しによって発生したため、800年前の戦いを体験していない「平穏世代の韋駄天達」の一人。明るいオレンジ色の髪で三白眼が特徴。強さを追い求める貪欲で負けず嫌いな性格をしており、単細胞で脳筋の修行マニア。若い世代の韋駄天たちの中では、もっとも高い戦闘能力と修行への意欲を持ち、つねに自分が強くなることしか頭にない。しかし、封印された魔族に対してあまり興味がなく、リンとは異なって魔族を倒さなければならないという使命感も薄く、自分の戦闘力を上げることばかりに情熱を燃やしている。ふだんは師のリンと行動を共にしており、極めて暴力的な彼女の修行にも耐え続け、ほかの韋駄天たちとは異なって唯一、彼女のしごきから一度も逃げ出していない。リンのことはババア呼ばわりして言葉づかいも悪いが、その強さを認めているため、彼女に少しでも追いつきたいと思っている。800年前に戦った前世代に対する責任感から強くなったリンや、単に叩きのめされた結果として強くなったプロンテアとは異なり、純粋に力を求めることで最強に至る可能性を秘めており、潜在能力は非常に高い。氷河地帯でのゾブル帝国の動きを知り、復活したギュードを撃破するものの、オオバミ博士のことは逃がしてしまう。その後はリンとの修行を続けながら、ゾブル帝国に巣食う魔族との戦いに身を投じ、時には刺客との死闘を繰り広げている。その過程で、プロンテアや仲間になったピサラたちともさらなる修行を重ねて体重のコントロールなどを習得し、プロンテアも驚くほどの急成長と活躍を見せている。

イースリイ

少年の姿をした韋駄天。100年前に自然に発生した。黒髪に眼鏡をかけ、理知的な風貌をしており、戦いよりも勉強を好む「平穏世代の韋駄天達」の一人。かつてはリンと行動を共にしていたが、彼女の修行の過酷さに耐えきれずに3か月程度で脱走したため、ハヤトが生まれてからも修行には参加していなかった。韋駄天の発生する理由や過程などをはじめ、学術的な観点からさまざまなことに強い興味を抱き、韋駄天たちの頭脳として活躍する。自然発生によって生まれたイースリイ自身の正体を知る目的で始めた研究がきっかけで、その過程で人体実験なども繰り返してきた。世界有数の大国「ホタエナ」建国にかかわっており、自由に利用できる国家規模の研究所を持つ。ふだんは本を読みながら、のんびり暮らしている。復活したギュードとの戦いを通して自分の無力さを痛感し、ポーラと共にリンの修行に再び参加する。脱走から50年ほどリンにかかわらないようにしていたため、怒った彼女に再会した際には土下座して直に修行を申し出ることで制裁を逃れた。長年サボっていたことから戦闘力自体はハヤトやプロンテアには及ばないが、韋駄天の持つ基本的な能力を活用し、持ち前の頭脳を用いて魔族に対しても有利に戦い、研究所で対峙したピサラの性格を瞬時に見抜いて心理戦に勝利した。その後はピサラをはじめとする魔族の脳を改造し、洗脳して仲間に引き込んだうえで魔族やゾブル帝国の情報を得る。仲のいいプロンテアとはかなり前から連絡を取り合い、彼に魔法の研究を依頼していた。右手からメスを出すことができる。

ポーラ

少女の姿をした韋駄天。16年ほど前にプロンテアの引き出しによって発生した。明るい金髪のツインテールの髪型で、白いブラウスとロングスカートをまとっている。子供っぽく見えるが、グラマラスな体型をしている。戦うことよりも、大好きな鳥たちと話しながらのんびり暮らすことを望む、「平穏世代の韋駄天達」の一人。天真爛漫で優しく、少々天然な一面がある。鳥と戯れたり泉で水浴びをしたりするのが好きで、無音移動を得意とする。韋駄天の中では最年少で、魔族の復活まではリンに会ったことがなく、プロンテアから戦い方を教わった経験もなかった。しかし、ギュードとの戦いを通して自らの無力さを感じ、イースリイと共にリンの修行に参加するようになった。初めてリンの修行を受けた時はただのリンチと評し、恐怖している。魔族が復活する前からイースリイと行動することが多く、彼の性格もよく把握している。ゾブル帝国侵攻の前にはイースリイと共に宗教国家「サラバエル」を訪れ、翼を出して浮かぶことで韋駄天の力を示し、人間たちに戦争をさせないための交渉・説得を成功させた。

リン

若い女性の姿をした韋駄天。ハヤトたちの師匠でもあるが、少なくとも800年前、当時の韋駄天たちが死闘の末に魔族を封印した時代には存在していた。オレンジ色のロングヘアをポニーテールにまとめている。中華風の衣装を身につけ、小柄な少女のように見えるが現在の韋駄天の中では最強であり、魔族をもはるかに超える戦闘力を持つ。おじいさまをはじめとする当時の韋駄天たちの中では最年少の少女として戦いを見届け、一人きりになったあとは50年逃げ続け、350年は修行に明け暮れていた。プロンテアが発生したあとは200年間、彼を鍛え続け、魔族が封印されてから600年経って初めて平和を実感する。その後は、平穏な世界で新しく発生してくる韋駄天たちを導く先導者となり、修行で鍛えるほか、おじいさまたちの意志を継ぎ、800年以上も魔族が封印された地を見守り続けている。かなりの乱暴者で、修行と称しているが骨折や流血は当たり前でほとんどリンチと変わらない厳しい内容となっており、実際にプロンテアとイースリイは修行から逃げ出し、初めて修行に参加したポーラも悲鳴を上げ、何度も心が折れそうになっていた。それでも心を鬼にして、ひたすら弟子たちをしごき続ける日々を送り、魔族復活を知ったあとはイースリイとポーラも再び修行に参加することになる。責任感の強さから現在も魔族と戦い続ける使命のもとに行動しており、魔族討伐のためならいっさい手段も選ばず、ゾブル帝国が魔族に支配されていると知った時には激しい怒りをあらわにしていた。地球最強ともいえる戦闘力を持つ一方で、少々脳筋なところもあるために頭脳戦は苦手で、それらの一面は弟子のハヤトに受け継がれている。ふだんは手足を武器としているが、本気を出すときは右手から大剣を出して戦う。

オオバミ博士

ゾブル帝国に所属している科学者。年齢不詳で、人間であるかどうかも不明。老人の姿をしたロボットを影武者として用いている。魔族たちに人間の姿と知能を与えて地上に復活させ、その力を利用しようと画策している。韋駄天たちとは敵対関係にある。

ギュード

「魔獣」の異名を持つ下級の魔族。牛に似た巨大な怪物だが、知能が極めて低く、ストローのように伸びた口から土地の栄養分や水分を吸い続けている。おとなしい性格で、人間に対してはほとんど敵対行動は取らないが、韋駄天には反射的に攻撃を仕掛ける性質を持つ。オオバミ博士の率いるゾブル帝国の軍隊によって復活させられたが、ハヤトと戦って殺害された。

ピサラ

ゾブル帝国の軍人で、階級は大将。金髪ロングヘアの若い巨乳美女の姿をしており、人間の軍人たちからも慕われているが、その正体は人型の魔族。色恋沙汰には奥手で、ふだんはクールながら性的な事柄には恥じらいを見せるなど、ウブで乙女な一面もある。このため、魔族を増やすための繁殖任務からは外されており、ミクからはよくからかわれている。ゾブル軍の軍隊を率いて、指揮官として周囲に侵略戦争を仕掛けていた。巨大な戦車を片手で持ち上げて投げ飛ばすほどの怪力の持ち主で、ミサイルの直撃を受けても平然としているなど、防御力も高い。自らの髪の毛を自在に伸ばしてあやつる能力を持ち、部屋中に髪を張り巡らせて罠を仕掛けることもできる。圧倒的な力で軍を率いており、仲間の魔族からの信頼も厚い。韋駄天への刺客として送り込まれ、イースリイの研究所で彼の暗殺をもくろむものの、恥じらいの心を利用され、頭脳戦に負けて返り討ちにされる。命は助かったもののイースリイの脳改造手術を受けて洗脳されてしまい、同様に洗脳を受けた仲間のネプト、弟のコリーと共に韋駄天側の仲間になる。その後はイースリイに魔族やゾブル帝国の情報を提供しつつ、ハヤトたちの修行にも付き合っている。

プロンテア

青年の姿をした韋駄天。400年ほど前にリンの引き出しによって発生した。人間の街に溶け込みながら平和に暮らす「平穏世代の韋駄天達」の一人。銀髪の長髪でジャージを着用している。ふだんはひょうひょうとしており、何事にも余裕で対応するなど陽気な性格で、冷静な観察力や判断力を持つ。発生後にリンによって200年もの修行を受けていたため、彼女が一番弟子と認めるほどの実力を持ち、若い韋駄天の中では最強ともいえる。しかし、厳しい修行が嫌になって途中で逃げ出し、リンの名前を出されたり気配を感じたりしただけでも、トラウマでパニックに陥るほどに恐怖の対象となっている。以前から親しいイースリイに依頼されて、平和な自由都市「ホタエナ」に滞在しながら、昔の韋駄天が使っていた魔法を再現する実験と修行を重ねていた。だが、実力者相手にはこけおどしくらいの効果しかなく、結局は直接殴った方が強いという結論に行きついている。また研究の過程で、電子機器に干渉する「思念ハッキング」の能力を身につけた。ゾブル帝国の魔族殲滅(せんめつ)作戦が決まった際にイースリイたちに協力を求められ、ハヤトたちの修行にも付き合い、リンとも再会を果たした。リンと同様に手から剣を出せるが、手元から離してほかの韋駄天に貸すことで、貸した相手に自らの力を貸しながら戦うことができる。しかし、プロンテアの手を離れていると剣のコントロールが利かないという弱点があり、威力の加減もできなくなる。ホタエナでは趣味のゲームやホビーを楽しみながら自由に暮らしており、人間の子供たちからも慕われている。

オーバーM (おーばーえむ)

ゾブル帝国に属する魔族たちをまとめる謎の男性で、オオバミ博士の正体。オオバミ博士と同様に老人の姿をしているが、体を破壊されたためにしばらくは頭部だけの状態で行動していた。極地や氷河で氷漬けになっていた魔族の肉体を回収し、それらを基にゾブル内で繁殖させることで魔族復活をもくろんでいる。これらの過程で生まれた人型の魔族は、表向きは人為的に作られた強化兵士ということになっており、「C・ソルジャー」などと呼ばれている。魔王として魔族とゾブル軍をまとめながら、ゾブルを隠れ蓑にして部下をさらに増やし、魔族と敵対する韋駄天の抹殺を目論んでいる。800年前に起きた魔族と韋駄天の激闘を知ってはいるが、その知識には穴があり、唐突に昔の記憶を思い出すこともある。イースリイの考察では、封印内で魔族の思念と戦いで犠牲となった韋駄天が混ざり合った存在と考えられている。しかし、オーバーM自身にはそれらの自覚もなく、自分という存在がなんなのかは理解し切れていない。昔は「オバマ皇帝」を名乗ってゾブルに君臨していたが、自分を死んだことにしてタケシタに皇帝の座を譲り、オオバミ博士として開発局で研究を続けていた。

おじいさま

800年前の世界を生きていた韋駄天の男性。老人の姿をしており、本名は不明。魔族に荒らされた過酷な世界を戦い抜いた英雄たちの一人であり、ほかの韋駄天と共にまだ幼いリンのことを守り、育てていた。魔族との戦いの果てに、リンを除く仲間たちと共に、魔族を封印する際に犠牲となった。リンからは、ネーミングセンスがかなり適当だったと評されている。

タケシタ

ゾブル帝国の皇帝で、人型の魔族。ブランディの夫でもある。見た目は冴えない中年男性だが、魔族としての実力はトップクラスで、オーバーMからの信頼も厚い。ほかの魔族のように肉体を変形させることはできないが、その分素手での格闘能力が高い。韋駄天によるゾブル急襲の際に、地下奴隷牢にてハヤトと対峙する。

ブランディ

ゾブル帝国の皇妃で、人型の魔族。露出の多いドレスをまとった、赤髪ロングヘアの巨乳美女の姿をしている。ニッケルと並んで戦闘力は最強クラスの魔族だが、同格のニッケルがあっさりリンに返り討ちで殺されてからは、韋駄天の力を恐れるようになった。自覚はないが、危険を察知して独断で三人の子供たちを逃がすなど、かなりの子煩悩。長く伸びる髪の毛をあやつって武器にしたり罠を張ったりするほか、髪につないだ人形や死体をあやつることができる能力を持つ。責任感の強い性格から、韋駄天との衝突を恐れ逃げ出すことを考えながらもゾブルに残り続け、市街地にてリンと対峙する。

ネプト

ゾブル帝国の海軍大将を務める人型の魔族。右目に眼帯を付けた、いかつい強面の男性軍人の姿をしている。曲者の多い魔族の中では比較的常識人。体全体が変形して魔物のような姿に変われるが、能力はふだんとあまり変わらない。韋駄天たちへの刺客の一人として送り込まれるが、プロンテアに返り討ちにされ、イースリイの洗脳手術を受ける。表向きの年齢は50歳だが、実はタケシタと同世代で実年齢は80歳を超えている。

コリー

ゾブル帝国軍の少年兵で、ピサラの弟。金髪のショートヘアで、小柄な少年の姿をしている。曲者の多い魔族の中では比較的常識人。食い意地が張っており、食料の豊富な海が好き。戦闘時は変形して戦うが、変形できるのは頭部のみ。韋駄天たちへの刺客の一人として送り込まれるもののハヤトに返り討ちにされ、イースリイに洗脳手術を受ける。

バコード

ゾブル帝国の帝都区役所「生き生き育児支援課」係長を務める中年男性で、人型の魔族。スーツを着用して眼鏡をかけており、見た目はどこにでもいる地味なサラリーマンのような風貌をしている。ほかの魔族より戦闘力は低めだが、情報の並列処理を得意とすることから重宝されている。

ニッケル

ゾブル帝国の防衛兵士長を務める少年で、人型の魔族。金髪の糸目で幼く見えるが、戦闘力だけなら魔族内最強であり、韋駄天への最初の刺客として送り込まれる。戦いを楽しむ残酷な性格をしている。ハヤトを返り討ちにするものの、リンにはあっさり敗北して死亡する。遺体の一部はイースリイの研究所に持ち帰られ、研究に使用されている。

ミク

ゾブル帝国の調教師で、人型の魔族。黒髪ツインテールで褐色肌の巨乳美女の姿をしており、露出の多いボンテージをまとっている。ふだんはゾブル軍が魔族繁殖用の奴隷として集めた女性を調教している。戦闘力も低いために戦闘には参加していないが、洞察力に優れ、知識にも長けている。どんな時もエロを優先する快楽主義者で、ブランディやピサラからも品のなさをあきれられているが、優れた頭脳は信頼されている。韋駄天に関する分析を任されており、戦いの映像などを観察する中で韋駄天の動きを見抜くなど、悪魔的な洞察力・分析力を持つだけでなく、作戦立案も得意としている。しかし慎重に観察した結果、今のゾブルでは韋駄天に勝ち目はないと判断し、ウメヨとメルクゥ、育成中の赤子二人を連れて逃亡した。集めた奴隷をあの手この手で調教しており、今まで調教した繁殖奴隷はエロ方面に振り切り過ぎているため、一部の男性からは評判が悪い。

クライシ

ゾブル帝国の第一王子で、人型の魔族。ほかの後継者候補とは異なり、三人しかいないタケシタとブランディの直系の一人。青年の姿をしている。魔族としての能力は低く、戦力外レベルであるためにブランディの独断で、バズ、ラキと共に国外への脱出を命じられる。その際、護衛となる魔族をそれぞれ一人ずつ連れて行くように言われたため、ゾブル風俗街元締の女性・フェルランディアを連れて行った。

バズ

ゾブル帝国の第三王子で、人型の魔族。ほかの後継者候補とは異なり、三人しかいないタケシタとブランディの直系の一人。少年の姿をしている。魔族としての能力は低く、戦力外レベルであるためにブランディの独断で、クライシ、ラキと共に国外への脱出を命じられる。その際、護衛となる魔族をそれぞれ一人ずつ連れて行くように言われたため、片思いしているゾブル空軍少佐の女性・メリアノを連れて行った。

ラキ

ゾブル帝国の第三王女で、人型の魔族。ほかの後継者候補とは異なり、三人しかいないタケシタとブランディの直系の一人。小柄な少女の姿をしている。魔族としての能力は低く、戦力外レベルであるためにブランディの独断で、クライシ、バズと共に国外への脱出を命じられる。その際、護衛となる魔族をそれぞれ一人ずつ連れて行くように言われたため、ゾブル王室執事の男性・クロフトを連れて行った。

ビアロフ

ゾブル帝国の宰相を務める中年男性。人間であるためにタケシタたちからはぞんざいに扱われがちで、彼の私的な集まりと称する魔族同士の会議をはじめ、魔族の集まりには参加できず外されている。部下の忍者・カゲキキに会議の内容を調べさせようとするものの、彼がニッケルに惨殺されたために、失敗に終わった。ゾブルの外交などを任されているが、侵略国家であるゾブルにとって他国はすぐに侵略する相手か、そのうち侵略するかの違いしかないため、外交においても宣戦布告するか、しないか程度の違いしかない現状に心底不満を感じている。

ギルティーナ

ゾブル帝国に侵略されたケンド自治区にある教会のシスターを務める若い女性。金髪のロングヘアで紺色の修道服を身につけており、三白眼が特徴。どんな時でもあきらめずに神の救いを信じ、祈り続ける健気で純粋な信心の持ち主。一人で教会にとどまっていたところでゾブルの軍人たちに暴行され、ゾブルに連行される。繁殖奴隷となったあとは同じく奴隷となった女性たちを励まし、ミクたちに反発しながら、自分の無力さを自覚しつつも神に祈り続けている。よくも悪くも善人であり、過酷な世界で生きる韋駄天や魔族含めた他者からはあまり共感されない。

ガチカマ博士 (がちかまはかせ)

イースリイの研究所に所属する科学者のオカマ。オネエ口調で話す。イースリイからは、主に魔族の研究を請け負っている。イースリイからは無茶な依頼をされる一方で、予算をケチられることもないため、納得のうえで協力している。ゾブル帝国の開発局にいたが、オオバミ博士の指示内容以外の研究は許されなかったために、嫌気がさしてゾブルを離れた過去を持つ。

サギィシー・サクシュ

宗教国家「サラバエル」の三代目大神官を務める老齢の男性。かつてはただ神に祈るだけだったサラバエルの宗教を、詐欺まがいのビジネスと化し、信仰心を利用して国民に低賃金労働をさせながら、国を繁栄させてきた。ゾブル帝国襲撃を控え、他国と戦争をしないように忠告しにやって来たイースリイとポーラの人ならざる力を見て、神が実在していることを実感する。今までの悪行を罰せられると思って恐れていたが、イースリイからは宗教をビジネス化して国を発展させたことを称讃されていた。

ウメヨ

ゾブル帝国の産婆で、人型の魔族。魔族の繁殖任務を担う、カリスマ産婆。大柄な太った中年女性の姿をしている。世話好きで少々せっかちな性格の持ち主。生まれたばかりの魔族を体内に取り込んで、人間と融合するまで育成するという、かなり希少な能力を持つ。見かけによらず戦闘力も高い。繁殖任務に欠かせない人物であったが、韋駄天のゾブル襲撃を察知したミクに連れられ、助手のメルクゥと育成中の二人の赤ん坊と共にゾブルを脱出した。

メルクゥ

ゾブル帝国の産婦人科助手を務める若い女性で、人型の魔族。いつもニコニコしている陽気なナースの姿をしており、繁殖奴隷として身籠った女性たちの出産を手伝っている。毛髪の一部を手術具に変化させる能力を持つが、助手レベルの知識や技術しかない。韋駄天のゾブル襲撃を察知したミクに連れられ、産婆のウメヨと共にゾブルを脱出した。

集団・組織

ゾブル帝国

盛んに侵略戦争を行っている国家。100年ほど前から各地で戦争を起こし続けている。ゾブル帝国の台頭によって苦しむ人間が増えたため、救いを求める人々の祈りによって、ここ100年のあいだにハヤト、イースリイ、ポーラらが発生した。

場所

ホタエナ

世界有数の大国で、自由競争主義国家。世界中の企業の大半が集結し、人口数と資本力では世界最大を誇る。ゾブル帝国の魔手が伸びておらず、多くの人間が暮らす最も平和な国でもあるが、それは金持ちだけであり、貧富の差は激しい。リンの修行を逃れていたプロンテアの滞在先でもあり、イースリイはこの国に大きな研究所を構えている。

サラバエル

800年前に魔族によって滅びかけた人類が、当時戦っていた韋駄天の助けを受けて作り出した宗教国家。当時の韋駄天が人間保護のために急造した地下シェルターに籠って生き延び、そこからサラバエルの原型となった宗教国家が建国された。プロンテアによる大改造が行われる前にサラバエルから出て行った人々は、ゾブル帝国や自由主義国家「ホタエナ」の原型になった国を作っていった。現在は神官たちによって宗教がビジネス化されている。

その他キーワード

韋駄天 (いだてん)

速力に優れた戦いの神。人間と同じような姿をしており、外見上、男性の韋駄天も女性の韋駄天もいるが、生殖によって生まれるのではなく個々に自然発生する。かつて魔族と戦い、800年前に魔族を封じ込めることに成功した。完全な不老不死ではないが、極めて長い寿命と、心臓が破壊されても死なない高い不死性を有している。人間の救いを求める願いに応えて発生するという性質のため、魔族が封印されて以降はほとんど発生しなくなった。過去800年に発生したいわゆる「平穏世代の韋駄天達」はハヤト、イースリイ、ポーラにあと一人を加えた四人だけである。

魔族

近代兵器がまったく通用しない怪物。かつて人類を滅亡寸前まで追い込んだが、韋駄天たちの活躍によって封印された。その生態などについては謎が多いが、確認された範囲では、ギュードという魔族が胴体に大穴を開けられた際に死亡しており、韋駄天のような不死性はないものと見なされている。

発生 (はっせい)

韋駄天がなんらかの形で誕生すること。韋駄天は性欲を持たず生殖活動も行わないため、人間を中心とする生物による大量の思念や長い年月、救いを求める心といった条件がそろっている地に誕生する。時間経過によって大量の思念が集まれば、自然に韋駄天が発生することもあり、この場合は「自然発生」とも呼ばれている。

引き出し (ひきだし)

韋駄天の発生のうち、ほかの韋駄天が自らの思念を上乗せすることによって時間を短縮させ、新たな韋駄天を発生させること。この引き出しによって発生した韋駄天の容姿や性格は、引き出しの条件がそろっていた時に、最も強い思念を発していた者の性別・外見・性格の影響を大きく受ける。

クレジット

原作

天原

書誌情報

平穏世代の韋駄天達 8巻 白泉社〈ヤングアニマルコミックス〉

第6巻

(2022-06-29発行、 978-4592163268)

第7巻

(2023-02-28発行、 978-4592163275)

第8巻

(2023-12-27発行、 978-4592163282)

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