新約Märchen

新約Märchen

幻想楽団「Sound Horizon」の7th Story CD『Märchen』の楽曲を、鳥飼やすゆきの解釈に沿ってコミカライズしたオムニバス作品。さまざまな状況で死、または苦難に追い込まれた女性たちの復讐を、自らの復讐を兼ねて手伝うメルヒェン・フォン・フリートホーフの姿を描く。エピソード「火刑の魔女」をはじめ、屍人姫を主人公とするエピソードは、いずれも童話をモチーフとしている。「少年マガジンエッジ」2015年10月号から連載の作品。

正式名称
新約Märchen
ふりがな
しんやくめるひぇん
原作者
Sound Horizon
漫画
ジャンル
ダークファンタジー
 
復讐
関連商品
Amazon 楽天

世界観

本作『新約Märchen』は、Sound Horizonの7th Story CD『Märchen』のコミカライズ作品である。しかしSound Horizonの楽曲は、聞く者それぞれの持つ解釈を大切にしており、かつ制作者であるRevoは楽曲の背景を明確にしない作風であるために、本作で描かれる物語や世界観、キャラクターの関係性などは鳥飼やすゆき独自の解釈によるものとなっている。またSound Horizonの楽曲は、アルバムやシングルの枠を超え、そのすべてがなんらかのつながりを持っていることから、あえて本作中で説明されない不明瞭な部分もある。なお、各作品の背景にはドイツの宗教改革や農民戦争をモチーフとした世情が描かれている。

あらすじ

イドへ至る森へ至るイド(第1巻)

テレーゼ・フォン・ルードヴィングは森の中で薬草を集めて、盲目の息子のメルツ・フォン・ルードヴィングと共に慎ましく暮らしていた。ある日、目を離したスキにメルツが自宅の裏にある井戸に転落してしまう。半狂乱になりながらも救い出すことに成功したテレーゼだったが、メルツが目覚めると、その視力は完全に回復していた。しかし、その日を境に近隣の村人たちから賢女と呼ばれ始めたことで、不幸へと転落していく。

宵闇の唄(第2巻)

トムハンスによって井戸に突き落とされて殺害されたメルツ・フォン・ルードヴィングは、井戸の底にいたクラリスの父親の意識と融合し、メルヒェン・フォン・フリートホーフとして自我を持つ。記憶を失っているメルヒェンに対し、人形のエリーゼ屍人姫の復讐を手伝うようにささやきかける。

火刑の魔女(第2巻)

アーデルハイトは貧しい生活ながらも、お母さんと共に幸せに暮らしていたが、ある日街に置き去りにされてしまう。拾ってくれた教会でシスターとして第二の人生を始めるが、今度は宗教改革で教会を破壊され、なぜ自分は捨てられてしまったのかを問いただすべく、生家を訪ねることを決意する。しかし生家にいたのは、記憶にある母親と似て非なる、森の老婆だった。エピソードモチーフは童話『ヘンゼルとグレーテル』。

黒き女将の宿(第2巻)

貧しい村で生まれたマルタは、戦争で働き手を失った村人たちの生活のために遠くの町へ売られた。宿屋の黒狐亭で女中として働くことになったマルタは、女将となかよくなり、居心地のよさを覚える。このまま平和に日々を過ごしたいと願うマルタだったが、女将が時折不審な動きをしていることに加え、ある日客のために用意した食材の肝臓が新鮮すぎることに不安を覚えていく。エピソードモチーフは童話『絞首台から来た男』。

硝子の棺で眠る姫君(第3巻)

生まれつき非常に美しい容姿を持つリヒルデは、継母である王妃(硝子の棺で眠る姫君)から疎まれていた。やがてリヒルデの美しさが王妃(硝子の棺で眠る姫君)を超えた頃にリヒルデは命を狙われ、なんとか森の中に逃げ延びる。そこで出会った七人の小人に助けられて静かな生活を送り始めたリヒルデだったが、リヒルデの生存を知った王妃(硝子の棺で眠る姫君)は、執拗に命を狙い続ける。エピソードモチーフは童話『白雪姫』。

生と死を別つ境界の古井戸(第3巻)

継母である寡婦や血のつながらない妹のちびちゃんと暮らすクラリスは、日々大量の家事や仕事を押しつけられていた。ある日、井戸の近くで糸を紡いでいたクラリスは、指が擦り切れたために血で糸を赤くしてしまう。さらに、洗い流そうとした際に紡錘を井戸に落としてしまい、寡婦からは「もぐってでも取ってこい」と命じられてしまう。仕方なく井戸に飛び込んだクラリスは、そこでおとぎ話に登場するホレおばさんと出会う。エピソードモチーフは童話『ホレのおばさん』。

薔薇の塔で眠る姫君(第4巻)

ある国の王女として産まれたヘレーネは、産まれた時の祝いの席でアルテローゼから「余命15年、紡錘に刺されて死ぬ」呪いと、アプリコーゼから「100年、死んだと見せて眠るだけ」という祝いをかけられた。国中の紡錘が破壊された15年後、鍵の掛けられた塔をのぼったヘレーネは、唯一残されていた紡錘で指を刺し、100年の眠りについてしまう。エピソードモチーフは童話『いばら姫』。

青き伯爵の城(第4巻)

地方領主の若き後妻として迎えられたニコールは、継子でありながらも年の近い青髭と親しく接し、心を通わせていた。そのうえ、青髭が妻をめとってから初めて、自分が青髭を愛していることを自覚してしまう。さらに青髭もまたニコールを愛していることを察した青髭の妻によって謀略され、不貞を犯した罪を問われ、死刑を言い渡される。エピソードモチーフは童話『青髭』。

関連作品

本作『新約Märchen』と同じく、Sound Horizonの7th Story CD『Märchen』をコミカライズした作品『旧約Märchen』が、講談社キャラクターズAから発行されている。またエピソード「薔薇の塔で眠る姫君」に登場するヘレーネが産んだ子供の、森に捨てられて以降の物語を綴った4th Story CD『Elysion 楽園幻想物語組曲』をコミカライズした作品『Elysion 二つの楽園を廻る物語』があすかコミックスDXから発行されている。

関連商品

CD

本作『新約Märchen』は、Sound Horizonの7th Story CD『Märchen』が原作となっている。同作品はSound Horizonの5作目のメジャーアルバムで、物語性のある歌詞とオーケストラを起用した壮大な音楽、そして声優や歌手による演技と効果音を用いて、さながらミュージカルやオペラのような作品となっている。エピソード「生と死を別つ境界の古井戸」では、『Märchen』のプロローグとなるマキシシングルCD『イドへ至る森へ至るイド』の会話が盛り込まれており、またエピソード「薔薇の塔で眠る姫君」に登場するヘレーネの子供は、4th Story CD『Elysion 楽園幻想物語組曲』に収録されている「エルの絵本 魔女とラフレンツェ」に登場している。

登場人物・キャラクター

テレーゼ・フォン・ルードヴィング

エピソード「イドへ至る森へ至るイド」に登場する。メルツ・フォン・ルードヴィングの母親であり、黒く長い髪を青いヴェールの中にまとめ、紺と青のドレスを身につけている。方伯(ラントグラーフ)家の娘だったが、結婚後、ルードヴィングに改姓した。しかしメルを懐妊後、アンネリーゼに毒を盛られたことから早産となり、その影響でメルが失明状態で産まれたことから森に放逐された。なんとかメルの目を癒やせないかと薬草学を学び、村人にも親切にしていたことから「賢女様」と呼ばれ、慕われている。居住地を転々としてメルにも友人を作らせないようにしていたが、かつてエリーザベト・フォン・ヴェッティンを蘇生したこともあり、エリーザベトだけはメルと親交を深めるのを許している。しかし、ハンスとトムが村人たちにイカサマ薬を売りつけられない腹いせにと、魔女であるという噂を流したため、火あぶりにされた。

メルヒェン・フォン・フリートホーフ

エピソード「宵闇の唄」「火刑の魔女」「黒き女将の宿」「硝子の棺で眠る姫君」「生と死を別つ境界の古井戸」「薔薇の塔で眠る姫君」「青き伯爵の城」に登場する。メルツ・フォン・ルードヴィングと、クラリスの父親の意識が融合して生まれた存在。白と黒のまだらな長い髪をうなじでまとめ、赤と黒の指揮者衣装を身につけた男性の姿をしている。生前の記憶を失っており、エリーゼが勧めるまま屍人姫の復讐を手伝っている。

アーデルハイト

エピソード「火刑の魔女」に登場する。修道女として育った女性。ミディアムボブの髪に、修道服を身につけている。洗礼名を「エステル」と名付けられた。幼少時は森の中でお母さんと二人で暮らしていたが、異教徒として近隣住民から迫害を受けていた。ある日街に置き去りにされ、教会の修道女に拾われたために敬虔な修道女として育つ。しかし宗教改革が起こったため、教会が破壊されたのをきっかけに、生家を探しに森へ戻った。生家に住んでいた森の老婆をお母さんとカンちがいし、本名を名乗って詰め寄ったが、その直後森の老婆に殺害された。また殺害される間際に、祭壇に血痕が残っているのを見つけ、森の老婆がお母さんではないことに気づき、屍人姫として復讐することになる。復讐の手始めとして、森に捨てられたヘンゼルとグレーテルを生家に誘導した。

マルタ

エピソード「黒き女将の宿」に登場する。貧しい村で生まれ育った少女で、頰にそばかすがあり、長い茶髪はツインテールにし、毛先を三つ編みに結っている。働き手の男たちがほとんど戦争で死んだため、遠くの町にある宿屋の黒狐亭に女中として売られた。口が悪く、「おら」「だべ」などの田舎言葉で話す。実は戦時中に怪しい動きをしていた黒狐亭を調査するために、売られたフリをしている。女将の優しさに居心地のよさを感じており、女将が以前村に住んでいた青年であることや、夜な夜な怪しい動きをしていると知りつつ、密偵には虚偽の申告をしていた。しかし女将が金儲けのため、料理に使用する肝臓を絞首刑にされた罪人から抜き取っているのを目の当たりにし、殺害される。屍人姫となって黒狐亭をノックし、女将に「肝臓を返せ」とせまった。

リヒルデ

エピソード「硝子の棺で眠る姫君」に登場する。王(硝子の棺で眠る姫君)の実子であり、王妃(硝子の棺で眠る姫君)の継子。通称として「雪白姫」と呼ばれていた。真雪のような白い肌と黒檀のように黒い髪、血潮のように赤い唇を持つ少女。青と白のドレスを身につけ、王冠を斜めにかぶっている。世界で一番美しいと言われたことから王妃(硝子の棺で眠る姫君)の不興を買い、暗殺されそうになったが、七人の小人の家に逃げ込み、生き延びた。その後も毒の仕込まれた櫛を刺される、胸ヒモをきつく結ばれる、毒林檎を食べさせられるなどして死にかけるが、無事に生還している。しかし、執拗に命を狙ってくる王妃(硝子の棺で眠る姫君)から逃げるため、盛大な葬儀を開いて「雪白姫」としては死んだことにし、王妃(硝子の棺で眠る姫君)への憎しみを抱いて数年間過ごしていた。だが、偶然やって来たアレクサンドロスが死体愛好者と知り、これを利用すれば王妃(硝子の棺で眠る姫君)に復讐できると考えて表舞台に戻った。アレクサンドロスには、自分に協力すれば世界で二番目に美しい死体をあげると約束している。

クラリス

エピソード「生と死を別つ境界の古井戸」に登場する。頰にそばかすがある少女で長い金髪を二本の三つ編みにし、緑色のうさ耳カチューシャを身につけている。継母である寡婦と、血のつながらない妹のちびちゃんと共に暮らしている。井戸に落ちて死んだ船乗りの娘であり、井戸を非常に苦手としている。本当に父親が墓に埋葬されているのか知るために墓を掘り返したところ、ちびちゃんに見つかり、他人に言わない約束でちびちゃんの言うことをなんでも聞いていた。そのせいで、ちびちゃんに割り振られた仕事もすべて一人でこなしたために自分の仕事が終わらず、寡婦から怒られるようになる。自分ばかり仕事をしなければならない状況に嫌気が差し、糸巻きを井戸に投げ捨てたが、「潜ってでも取ってこい」と言われて井戸に飛び込んだ。井戸の底の世界でホレおばさんに出会い、彼女のもとで懸命に働いたため、黄金を手土産に家に帰ることを許された。しかし、戻った村では住人たちが死に絶えており、精神を病んでしまう。

ヘレーネ

エピソード「薔薇の塔で眠る姫君」に登場する。王(薔薇の塔で眠る姫君)と王妃(薔薇の塔で眠る姫君)の子供とされている少女。ストロベリーブロンドの長い髪をハーフアップにし、薔薇があしらわれたピンクのドレスを身につけている。誕生した祝いの席でアルテローゼから「余命15年、紡錘に刺されて死ぬ」呪いと、アプリコーゼから「100年、死んだと見せて眠るだけ」という祝いの言葉を掛けられている。その結果、15歳の誕生日に紡錘に刺されて100年の眠りにつき、それに附随して城内の人間や動物も全員が同じく眠りについた。それ以降、城全体が野ばらに囲まれたことから後世では伝説として「野ばら姫」と呼ばれている。夢の中で何度も野ばらで殺害され続けたことから、アルテローゼを憎んでいる。パリスの口づけによって目覚めてから、アルテローゼを国外へと追放した。しかし、その際にアルテローゼによって腹部に呪いをかけられる。その後、パリスとのあいだに産まれた女児が血の気のない白い肌と老婆のような白い髪、血色の瞳を持っていたことから忌み子と言われ、生き延びさせるために森に捨てた。また、実は王(薔薇の塔で眠る姫君)の子供ではない。

ニコール

エピソード「青き伯爵の城」に登場する。青髭の父親が子供を産ませるためだけにめとった若い女性。立場上は青髭の継母だが、青髭を愛している。誰にでも優しく接し、戦争で身寄りのなくなった娘たちを使用人として雇い入れている。しかし、青髭もまたニコールを愛していると察した青髭の妻によって、使用人たちを買収され、不貞の疑いをかけられた。その際に不貞行為はなかったと断言したが、夫以外を愛していないかと問われ「ほかの男性を思うことだけでも不貞の罪になるのなら罪を犯した」と告白し、死刑に処された。青髭の屋敷にある秘密の部屋に死体がつるされたままになっている。

メルツ・フォン・ルードヴィング

エピソード「イドへ至る森へ至るイド」「宵闇の唄」に登場する。テレーゼ・フォン・ルードヴィングの息子で、長い銀髪をうなじでまとめ、茶色と黒のストライプの服を身につけている。産まれた時から盲目で光を感じることができず、光とは愛のことだと思い込んでいた。事故で家の井戸に落ちてしまったが、引き上げられた直後から奇跡的に目が見えるようになる。その後、偶然にエリーザベト・フォン・ヴェッティンが幽閉されている塔を通りがかり、窓からエリーザベトを引き上げ、夜の森で遊ぶようになった。引っ越す前日、エリーザベトにだけ別れを告げると言って外出する。その帰路、テレーゼに助けを求めているというトムとハンスに騙されて自宅に案内し、井戸に落とされて殺害された。しかし死後、井戸の底でクラリスの父親らしき男性の意識と出会い、融合してメルヒェン・フォン・フリートホーフになった。

アンネリーゼ

エピソード「イドへ至る森へ至るイド」に登場する。外見は不明で、テレーゼ・フォン・ルードヴィングと同じくルードヴィング家に嫁いだ女性ながら、正妻ではない。テレーゼと同時期に妊娠しており、テレーゼと当時まだ胎児だったメルツ・フォン・ルードヴィングを排斥するためにテレーゼに毒を盛った。しかし、アンネリーゼが身ごもっていた子供も体が不自由であり、世継ぎとして認められなかった。

ゾフィー

エピソード「イドへ至る森へ至るイド」に登場する。エリーザベト・フォン・ヴェッティンの母親。仮死状態に陥って埋葬されたエリーザベトをヴァルターと共に掘り起こし、錯乱状態でテレーゼ・フォン・ルードヴィングに蘇生を依頼した。

ヴァルター

エピソード「イドへ至る森へ至るイド」に登場する。ゾフィーとエリーザベト・フォン・ヴェッティンの従者。エリーザベトが埋葬されてから、錯乱状態に陥ったゾフィーを励ましてテレーゼ・フォン・ルードヴィングのもとにエリーザベトの蘇生を依頼した。また蘇生したエリーザベトが、地下に閉じ込められているあいだも成長を見守り、メルツ・フォン・ルードヴィングとの逢瀬も黙認する。しかし、エリーザベトが成長してからもテレーゼが処刑され、メルツが死亡したことをエリーザベトには打ち明けられずにいた。

エリーザベト・フォン・ヴェッティン

エピソード「イドへ至る森へ至るイド」に登場する。ゾフィーの娘で、門閥貴族の令嬢。長く豊かな金髪をポニーテールにして、白いドレスを身につけている。なんらかの原因で仮死状態に陥り、一度は墓の下に埋葬されたが、ゾフィーとヴァルターによって掘り起こされ、テレーゼ・フォン・ルードヴィングの手によって蘇生した。しかし、その後も地下に伸びる塔の中に幽閉されており、友人の一人もいなかった。だが、偶然通りかかったメルツ・フォン・ルードヴィングと夜な夜な森で遊ぶようになり、表情が明るくなった。メルツ殺害の当日、メルツが引っ越していくという話を聞いて、大切にしていた人形を自分の代わりにと手渡した。再会を約束し、成長してからもメルツが迎えに来るのをずっと待っていた。

トム

エピソード「イドへ至る森へ至るイド」「宵闇の唄」に登場する。瘦身の男性で、黒いマントにペストマスクをつけている。テレーゼ・フォン・ルードヴィングが作る薬のために、ハンスと共に売っているインチキ薬が売れないと逆恨みし、テレーゼを魔女として捕縛して教会へ突き出して火あぶりにした。その後、テレーゼの自宅を物色している際に謎の黒い霧に取り囲まれ、死亡している。

ハンス

エピソード「イドへ至る森へ至るイド」「宵闇の唄」に登場する。太った男性で、黒いマントにペストマスクをつけている。テレーゼ・フォン・ルードヴィングが作る薬のせいで、トムと共に売っているインチキ薬が売れないと逆恨みし、テレーゼを魔女として捕縛して教会へ突き出して火あぶりにした。その後、テレーゼの自宅を物色している際に謎の黒い霧に取り囲まれ、死亡している。

エリーゼ

エピソード「宵闇の唄」「火刑の魔女」「黒き女将の宿」「硝子の棺で眠る姫君」「生と死を別つ境界の古井戸」「薔薇の塔で眠る姫君」「青き伯爵の城」に登場する。長く豊かな金髪をポニーテールにし、黒いドレスを身につけた人形。かつてエリーザベト・フォン・ヴェッティンがメルツ・フォン・ルードヴィングに手渡した人形だが、メルツの死を悲しんだテレーゼ・フォン・ルードヴィングとエリーザベトの思いが宿り、かりそめの命を得た。メルヒェン・フォン・フリートホーフに愛を囁き、自分たちの復讐のため、屍人姫の復讐を手伝うようにメルヒェンに勧めた。

お母さん (おかあさん)

エピソード「火刑の魔女」に登場する。アーデルハイトの母親で、背中まで伸びた髪を頭巾でまとめている。かつては金貸しをしていた夫と森の中で裕福な暮らしをしていたが、アーデルハイトが産まれてしばらくしてから夫が行方不明となったため、生活に困窮していた。また、異教徒として迫害を受けており、具のないスープで暮らしを凌いでいたが、ある日アーデルハイトを街に置き去りにしている。かねてより皮膚病を患っており、病をうつされたと逆恨みした森の老婆によって殺害された。

森の老婆 (もりのろうば)

エピソード「火刑の魔女」に登場する。アーデルハイトの生家に住んでいた老婆。皮膚病を患った瘦せている女性で、背中まで伸びた白髪を頭巾でまとめている。かつては木こりの妻としてつねに腹を空かせた貧乏生活を送っていたが、ある日金貸しの男を殺害し、借金から解放された。その後、ヘンゼルとグレーテルを出産したが皮膚病を患ったことから、夫に家を追い出されている。その際、金貸しの妻であるお母さんが皮膚病を患っていたことを思い出し、うつされたと逆上して殺害した。また、当時はお母さんと年格好が似ていたため、身分や名前を詐称してそのままアーデルハイトの生家に住みついた。しかし、修道女となったアーデルハイトが戻ってきたことから犯罪が露見する危険を恐れ、アーデルハイトを殺害する。その後、金貸しが貸していた金が返済されたことで裕福な暮らしを送れるようになった。ヘンゼルとグレーテルが訪ねてきた際には母親であることを明かせないまま、精一杯の愛情を注ぐべく、たくさんの料理やお菓子の家を作って食べさせた。しかし、それがヘンゼルとグレーテルの不信感をあおる結果となり、かまどに蹴り入れられ、焼き殺された。

ヘンゼル

エピソード「火刑の魔女」に登場する。森に捨てられた少年で、グレーテルの兄。自宅までの道にパンくずを落とすことで道に迷わないようにしていたが、鳥に道しるべを食べられてしまい、路頭に迷っていた。偶然見つけたアーデルハイトの生家を、怖い魔女の家かもしれないと一度は疑ったが、餓え死ぬよりマシだと門戸を叩いた瘦せた体の少年だったが、森の老婆の作る料理を毎日食べるうちに、豚のように太ってしまう。そのせいで、グレーテルが森の老婆のことを「子供を太らせて食べてしまおうとする魔女」だと思い込むこととなり、彼女の意見に賛同し、森の老婆をかまどに蹴り入れて焼き殺した。

グレーテル

エピソード「火刑の魔女」に登場する。森に捨てられた少女で、ヘンゼルの妹。路頭に迷っていたが、偶然見つけたアーデルハイトの生家に駆け込んだ。太りにくい体質で、森の老婆の作る料理を毎日食べても体形が変わらなかった。しかしヘンゼルが豚のように太ってしまったのを見て、森の老婆のことを「子供を太らせて食べてしまおうとする魔女」だと思い込み、ヘンゼルの同意を得て、森の老婆をかまどに蹴り入れて焼き殺した。

女将 (おかみ)

エピソード「黒き女将の宿」に登場する。宿屋の黒狐亭の女将を務めている。長い銀髪をツインテールにし、非常に濃い化粧をしている人物。女物のドレスを着ているが年齢、性別共に不詳。マルタからは「クソババア」と呼ばれることも多く、口のきき方を何度も注意している。マルタのことをとてもかわいがっており、食べたこともないお菓子を手渡すなど優しく接している。実はマルタが生まれ育った村に暮らしていた青年で、女々しいという理由から村中の男たちからいじめを受けていた。しかしマルタだけはふつうに接してくれたことから、かわいがっていた。宗教に傾倒していく村人たちについていけず、逃げ出した先で先代の黒狐亭女将に拾われ、戦争で情報の横流しや内通者を密告する仕事を引き継ぐ。しかし戦争が下火となり、情報屋としての仕事に潮時を感じていた折に、絞首刑にされた罪人たちの肝臓を使用した肝臓料理が評判となった。マルタと生きていくために犯行を繰り返していたが、現場を見たマルタがいっしょに村に帰ろうと誘ったことからいじめられていた日々がフラッシュバックし、逆上してマルタを殺害した。その数日後、マルタが訪ねてくる幻覚を見て倒れ、肝臓の病で死去している。

王妃(硝子の棺で眠る姫君)

エピソード「硝子の棺で眠る姫君」に登場する。強国から嫁いできた姫君で、リヒルデの継母、王(硝子の棺で眠る姫君)の後妻でもある。磨琢(またく)のように白い肌と黒水晶のように黒い髪、紅玉のように赤い唇の持ち主で、昔から美しさを自慢にしていた。王(硝子の棺で眠る姫君)のことを心から愛しているが、王(硝子の棺で眠る姫君)が自分に前妃の姿を投影していることを気づき、ショックを受けた。そのため非常に美しく、前妃の面影を強く残しているリヒルデを憎んでいる。王(硝子の棺で眠る姫君)の瞳を鏡に例え、「鏡よ鏡、この世界で一番美しいのは誰なのかしら?」と問う癖がある。リヒルデが7歳の時、王(硝子の棺で眠る姫君)がリヒルデと性的関係になったことを知ってより深く憎むようになり、暗殺を企んだ。その後も七人の小人の家でリヒルデが生き延びていることを知り、毒の仕込まれた櫛を刺す、胸ヒモをきつく結ぶ、毒林檎を食べさせるなどして殺害を試みるが、リヒルデが硝子の棺に入った葬儀が行われたと聞き、ようやくあきらめた。しかし、アレクサンドロスとリヒルデの結婚式に招かれた際に真相を知り、真っ赤に焼けた鉄の靴をはかされて踊りながら死んでいった。

アレクサンドロス

エピソード「硝子の棺で眠る姫君」に登場する。金髪碧眼の青年で、青い装束を身につけている。リヒルデとは別の国の王子で、父親から早く結婚するようにとせまられている。しかし、自覚がなかったが死体愛好者であり、生きとし生ける女性すべてを愛そうとしても花嫁にしたいと思える女性が見つからず苦悩していた。花嫁探しの旅の途中で七人の小人の家を見つけ、硝子の棺で横になり、死体に見せかけていたリヒルデに一目惚れした。リヒルデが生きていると知った際には非常に落胆したが、リヒルデに協力すれば世界で二番目に美しい死体をあげるとそそのかされ、リヒルデとの結婚式に王妃(硝子の棺で眠る姫君)を招待した。

王(硝子の棺で眠る姫君)

エピソード「硝子の棺で眠る姫君」に登場する。リヒルデの実父であり、王妃(硝子の棺で眠る姫君)の夫。死に別れた前妃を深く愛しており、王妃(硝子の棺で眠る姫君)のことは前妃の身代わりとして愛しているにすぎない。しかし、強国の姫君である王妃(硝子の棺で眠る姫君)に逆らうことができないでいる。年々美しく、前妃そっくりに成長していくリヒルデに心を奪われ、リヒルデが7歳の時に性的関係を持った。嫉妬した王妃(硝子の棺で眠る姫君)がリヒルデを暗殺しようとしていることを知り、リヒルデに七人の小人の存在と家の場所を教えて逃がした。

ちびちゃん

エピソード「生と死を別つ境界の古井戸」に登場する。クラリスの血のつながらない妹で、寡婦の実子。長い黒髪をツインテールにしている。性悪な性格の少女で、クラリスが父親の墓を掘り返しているのを目撃し、誰にも言わない約束の代わりに、自分の言うことをなんでも聞くように脅迫した。寡婦から任された仕事をすべてクラリスに代わりにやらせており、自分はゴロゴロしている怠惰者。クラリスが井戸に飛び込んだと判明した直後、ペスト菌を持ったネズミに嚙まれ、黒死病に感染した。

寡婦 (はは)

エピソード「生と死を別つ境界の古井戸」に登場する。クラリスの継母で、ちびちゃんの実母。長い黒髪を後頭部でシニヨンにまとめている。クラリスからは「時々意地悪なことを言う」と評されているが、心優しい性格の女性。クラリスの様子がおかしいことに気づいて心配しているが、真相を知らされていないため、クラリスがなんらかの理由で怠けるようになったと思っている。そのため、ちびちゃんがクラリスに仕事を押しつけているとも考えていない。クラリスが糸巻きを故意に井戸に投げ捨てたのを察して、「潜ってでも取ってこい」と叱りつけた。しかし本当にやるとは思っておらず、クラリスが井戸に飛び込んだと知った時は泣きながら後悔していた。

ホレおばさん

エピソード「生と死を別つ境界の古井戸」に登場する。クラリスが井戸の底の世界で出会った老婆。しかし、初老まで若返ることもできる。肩で切りそろえた白い髪に、雪の飾りや三角フードのついた青いマントや白いワンピースを着ており、雪の結晶があしらわれたステッキを持っている。働き者のクラリスに声を掛け、羽布団を振るう仕事などを任せた。その後、クラリスがよく働いた褒美にと黄金を持たせ、帰郷させている。キリスト教が普及する以前に信仰されていた、土着の豊穣の女神であり、ネズミを使役している。キリスト教を取り入れて以降、土着の神々を魔女や悪魔に貶めた人間たちを憎んでいる。

パリス

エピソード「薔薇の塔で眠る姫君」に登場する。金髪碧眼の青年で、赤い装束を身につけている。ヘレーネたちが眠りについた100年後の世界で、ヘレーネたちが眠る城をはじめとした領土を支配している国の王子。理想の花嫁を見つけるために東奔西走していたが、領土内にある野ばらに囲まれた城の伝説を聞き、そこに眠るといわれている「野ばら姫」に運命を感じた。野ばらの生け垣に導かれて、眠り続けるヘレーネのもとに至り、口づけてヘレーネや王(薔薇の塔で眠る姫君)たちの呪いを解いた。

アルテローゼ

エピソード「薔薇の塔で眠る姫君」に登場する。深い森に住む、紅き賢女。あまりに強い力を持つため、魔女と恐れる者もいる。カールした長い金髪に黒いワンピース、フード付きの赤いマントを身につけている。王妃(薔薇の塔で眠る姫君)が秘密裏に会合し、子供を授けてほしいと願った。その際、「王妃(薔薇の塔で眠る姫君)の子であればいいという条件ならば可能」と助言し、報酬は子供が生まれるまでに考えておくと保留にしている。しかし、ヘレーネ出産を控えた王妃(薔薇の塔で眠る姫君)が、王に真実が露見する可能性や報酬に不安を覚えた結果、暗殺されそうになる。その時に隻眼となり、復讐としてヘレーネに「余命15年、紡錘に刺されて死ぬ」呪いをかけることを決意した。

アプリコーゼ

エピソード「薔薇の塔で眠る姫君」に登場する。ヘレーネが誕生した祝いの席に招かれていた賢女の一人。肩で切りそろえられた明るい茶髪の持ち主で、フード付きの橙色のマントに白いワンピースを着た女性。本来ならばヘレーネに星の如き煌めきを授けようとしていたが、アルテローゼが「余命15年、紡錘に刺されて死ぬ」呪いをかけたのを聞き、「100年、死んだと見せて眠るだけ」という祝いを授けて対抗した。

王妃(薔薇の塔で眠る姫君) (おうひ)

エピソード「薔薇の塔で眠る姫君」に登場する。ヘレーネの実母で、王(薔薇の塔で眠る姫君)の妻。なかなか子供に恵まれず、城内でも侍女たちから陰口を言われ、孤独を感じていた。そのため、秘密裏に強大な力を持つといわれている賢女のアルテローゼを訪ね、子供を授けてほしいと願った。その際、「王妃(薔薇の塔で眠る姫君)の子であればいいという条件ならば可能」と言われ、それを承諾した。しかし、臨月が近づくにつれて子供が王(薔薇の塔で眠る姫君)の子でないと露見したときの不安や、アルテローゼが報酬に何を望むかなど不安が大きくなり、真実を知っているアルテローゼの暗殺を企てた。

王(薔薇の塔で眠る姫君)

エピソード「薔薇の塔で眠る姫君」に登場する。ヘレーネの父親で、王妃(薔薇の塔で眠る姫君)の夫。王妃(薔薇の塔で眠る姫君)が懐妊したことを非常に喜び、出産後には12人の賢女を呼び寄せて、盛大な祝いの席を設けた。男性不妊の当事者だが、本人はそのことに気づいておらず、ヘレーネを実子と信じ込んでいる。そのため、ヘレーネを非常に大切にしており、アルテローゼがヘレーネに「余命15年、紡錘に刺されて死ぬ」呪いをかけた直後に国中の紡錘を破壊するように命令した。

青髭 (あおひげ)

エピソード「青き伯爵の城」に登場する。領主の息子で、戦争において人を殺すことにとまどいを覚える、優しい性格の男性。継母のニコールを愛しているが、父親に逆らうことができずに別の女性を妻にした。ニコールが不貞の疑いをかけられた際には無罪を祈っていたが、ニコールが死刑にされてから性格が一変した。激昂して父親を殺害したあと、父親がニコールの死体をつるしたまま保管していたことを知り、ニコール謀殺を画策した妻、そしてニコールに不利な証言をした侍女たちをニコールの死体の前で拷問にかけたうえで何人も殺害している。

集団・組織

七人の小人 (しちにんのこびと)

エピソード「硝子の棺で眠る姫君」に登場する。同じ容姿の小人たちで、長い白髭と長い白眉を持っている。衣装も色違いではあるものの、全員がそろいの三角帽にカボチャパンツを身につけている。語尾に「ゲン」「リッヒ」「シュタイン」などを付けるおかしな訛りがあり、基本的にノリが非常に軽い。小さなかわいい家に住んでおり、雪白姫が家で寝ているのを発見した際には「こういう場合は大抵王子様が接吻すればいいが、この際お爺様でもいいんじゃね?」と一斉にキスしようとしたが、直前に雪白姫が起床したため、未遂に終わっている。アレクサンドロスが雪白姫の死体をゆずってほしいと申し出た際には一度は抵抗しようとしたものの、剣をつきつけられたのをきっかけに「こいつどう見ても王子様だしいいんじゃね!?」とあっさりゆずり渡した。王子からは「小人たち」と呼ばれている。

その他キーワード

屍人姫 (しびとひめ)

アーデルハイト、マルタ、リヒルデ、クラリス、ニコール、エリーザベト・フォン・ヴェッティンの総称。殺害などによって本来あるはずだった人生を剥奪されたため、復讐の衝動に溺れた女性たちを指している。しかし、実際にはクラリスやニコールなど、復讐の体を成していない者もいる。エリーゼには「オバカサン」と呼ばれている。屍人姫の復讐を手伝うことこそが、エリーゼとメルヒェン・フォン・フリートホーフにとっての復讐となっている。

クレジット

原作

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