月とライカと吸血姫

月とライカと吸血姫

牧野圭祐の小説『月とライカと吸血姫』のコミカライズ作品。宇宙開発に二大国がしのぎを削る時代、若き宇宙飛行士候補生のレフ・レプスはある日、吸血鬼を宇宙に送り出す「ノスフェラトゥ計画」の実験体である少女、イリナ・ルミネスクのマネージャーとして選ばれ、彼女と共に宇宙を目指す。「宇宙飛行士(コスモノーツ)」になることを夢見た人々の青春と葛藤を、吸血鬼というファンタジーを交えて描いたコスモノーツグラフィティ。「コミックDAYS」で2018年3月より配信の作品。2021年10月に原作小説版がTVアニメ化。

正式名称
月とライカと吸血姫
ふりがな
つきとらいかとのすふぇらとぅ
原作者
牧野 圭祐
漫画
ジャンル
軍隊・軍人
 
宇宙開発
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

共和国編

世界を二分した巨大戦争を経て、宇宙開発に二大国がしのぎを削る時代。ツィルニトラ共和国連邦で宇宙飛行士を志すレフ・レプスは、国によって宇宙開発のために作られた街「ライカ44」で訓練の日々に明け暮れていた。しかし、過去に起こした上官への暴力事件によって補欠の立場に落とされていたレフが、ほかの候補生たちを差し置いて宇宙飛行士に選ばれる可能性はなきに等しかった。そんなある日、レフは宇宙開発の功績者であるスラヴァ・コローヴィン第一設計局長に呼び出され、「ノスフェラトゥ計画」への従事を命令される。世界初の有人宇宙飛行計画「ミェチタ計画」が急ピッチで推し進められる中、無重力空間での人間の安全性がいまだに確認できていない現状を解決すべく立ち上げられたのが「ノスフェラトゥ計画」。それは人間とほとんど同じ知能と肉体的特性を持ちながら、人間として扱われない「吸血鬼」を無重力空間へ飛び立たせるというものだった。実験体として選ばれた吸血鬼の少女、イリナ・ルミネスクの訓練の付き添いと監視を行うマネージャー役として抜擢されたレフは、当初こそ吸血鬼に対する偏見からイリナに対して恐怖を抱いていたものの、彼女の人間となんら変わることのない素振りや訓練に対するひたむきな姿勢を通して、次第に一人の人間としてイリナに接するようになる。一方のイリナもまた、迫害されてきた過去から人間を毛嫌いし、心を開かずにいた。しかし、自分の言葉をすべて信じると告げたレフの心根に触れ、訓練を通して持ち前の負けん気から彼と競り合う中で、徐々に心を開いていく。二人は信心深いサガレヴィッチ副長官によって過酷な訓練を課されながらも問題を乗り越え、日程を消化していく。だが、パラシュート降下訓練のため跳出塔の上に立った時、イリナの様子がおかしくなる。まともに立つことすらままならない彼女の様子に、彼女が高所恐怖症であることを理解したレフは、彼女がこのままだと実験体として処分されかねない未来を想像してしまう。そしてそれを阻止するため、レフは己の感情を殺して一つの決断を下すのだった。

休載期間

本作漫画版『月とライカと吸血姫』は、作者の掃除朋具の体調不良により、2019年1月、「コミックDAYS」のウェブ上で休載が発表された。

関連作品

原作小説

本作『月とライカと吸血姫』は、牧野圭祐の小説『月とライカと吸血姫』を原作としている。小説は小学館「ガガガ文庫」より刊行されており、イラストをかれいが担当している。

メディアミックス

TVアニメ

2021年10月から、本作『月とライカと吸血姫』の原作小説版『月とライカと吸血姫』のTVアニメ版『月とライカと吸血姫』がBS日テレほかで放送された。制作はアルボアニメーションが担当している。監督は横山彰利、音楽は光田康典、シリーズ構成は原作者の牧野圭祐が務めている。キャストは、レフ・レプスを内山昂輝、イリナ・ルミネスクを林原めぐみが演じている。

登場人物・キャラクター

レフ・レプス

ライカ44で、宇宙飛行士になることを夢見て訓練に励む候補生の男性。年齢は21歳で、階級は空軍中尉。優秀な成績を収めているが、少し前に起こした上官に暴力を振るった事件によって補欠の立場に落とされている。20人いる候補生の中で宇宙飛行士として選ばれる可能性は限りなくゼロに近く、焦燥に駆られる日々を送っていた中、第一設計局長であるスラヴァ・コローヴィンに呼び出され「ノスフェラトゥ計画」への従事を命令される。世界初の有人宇宙飛行計画「ミェチタ計画」の前身として、吸血鬼を宇宙に送り出し、無重力空間での人間の安全性を確認することが、「ノスフェラトゥ計画」の目的となっている。レフ・レプスは実験体である吸血鬼の少女、イリナ・ルミネスクのマネージャー役として、彼女の訓練の付き添いや監視を担うこととなる。当初こそ吸血鬼に対する偏見からイリナのことを怖がっていたが、徐々にふつうの少女と変わらない彼女の様子と宇宙へ賭ける強い信念を感じ、偏見を拭い去って一人の人間として接するようになる。正義感が強く素直な性格をしているため、ひとたびイリナのことを信じてからは彼女の心身に寄りそって物事を考えるようになり、ほかの訓練生たちがイリナに見せる吸血鬼への嫌悪感や偏見に対して、理解を示しながらも不満を感じている。その一方で、イリナがパラシュート降下訓練の際に高所恐怖症であると発覚した際には、このまま克服できなかった場合、彼女が実験体として人知れず処分される恐れがあると判断して、強引に跳出塔から突き落とすなど冷徹な判断を下した。また、「ノスフェラトゥ計画」を成功させることで宇宙飛行士の候補生として正式に復帰することを願っており、イリナに対する扱いと自分の求める成果とのあいだで苦悩する場面を見せることもしばしばある。

イリナ・ルミネスク

「ノスフェラトゥ計画」の実験体として選ばれた吸血鬼の少女。ツィルニトラ共和国連邦の西に位置するリリット国の出身で、衆目を集める美しい容姿をしている。一瞥(いちべつ)して人間と変わらない見た目をしているが、人よりも長く尖(とが)った耳と犬歯、白い肌と赤い瞳を持つ。暫定的に与えられた軍内での階級は空軍中尉で、年齢は21歳ということになっているものの、実際には17歳と未成年の少女である。また、158センチで43キロと、ほかの宇宙飛行士と比較して華奢(きゃしゃ)な体格をしている。世界初の有人宇宙飛行計画である「ミェチタ計画」に先立ち、無重力空間での人間の安全性を確認するために立案された「ノスフェラトゥ計画」で宇宙へ送られる吸血鬼として選ばれた。人間と比べて味覚がほとんどなく、太陽の光を浴びると肌がひりつくなどの違いはあるものの、イリナ・ルミネスク自身はほとんど人間と変わらない生活を送っている。一方で、吸血鬼を蔑む人間に対しては心を閉ざしており、当初は反応も最小限しか返さないなど毛嫌いしていた。しかし、彼女のマネージャー役となったレフ・レプスが、自分の言葉を信じてくれる素直な心根の持ち主であったことや、自分のことを「イリニャン」と愛称で呼び、吸血鬼に対して当初から偏見を持たず接してきたアーニャ・シモニャンらと触れ合う中で、素の性格を見せるようになる。実際の性格は非常に負けず嫌いで勝ち気。訓練生として訓練を積んできているレフに対しても素直に負けを認めず、体力測定で全力以上に競り合って見せた。その持ち前の負けん気からほかの訓練でも訓練生顔負けの成績を収めていくが、高所だけは唯一苦手で、パラシュート降下の訓練だけは跳出塔の上でまともに立つことすら叶わなかった。

アーニャ・シモニャン

空軍医学研究所に所属する研究員の女性。吸血鬼の生態を専門分野としている。年齢は18歳ながら、ほかの職員の娘とまちがわれるような幼い外見をしている。「ノスフェラトゥ計画」においてイリナ・ルミネスクの医学的データの採取と数値のチェックを担当しており、イリナに対しても物怖(お)じせず「イリニャン」と呼びかけるなど、非常に親しげに接する。また、研究者としても一端の矜恃(きょうじ)を持ち、たとえ実験体だとしても必要以上に粗末に扱う態度を見せるサガレヴィッチの様な姿勢に対し、「研究者の恥」と断言する信念を見せた。

ミハイル・ヤシン

ライカ44で、宇宙飛行士として訓練を行う候補生の男性。訓練生として優秀な成績を収めており、周囲からも一目を置かれ、注目されている。「ノスフェラトゥ計画」に選ばれたイリナ・ルミネスクが食堂に現れた際には、吸血鬼である彼女の特性をみんなが理解するため質問の場を設け、先陣を切って質問していた。しかし、その言いまわしは端々から彼女を自分たちと同じ候補生や人間として扱っていないことがうかがえるもので、レフ・レプスから嫌な言い方だと思われていた。

ローザ・プレヴィツカヤ

ライカ44で、宇宙飛行士としての訓練を行う候補生の女性。その抜きんでた美貌から「サングラードの白バラ」と称えられる。訓練生としても優秀な成績を収めており、性格もほかの男子候補生に劣らず負けん気が強い。そのため、「ノスフェラトゥ計画」の実験体としてではあるが、突如として宇宙飛行士として抜擢されライカ44に現れた吸血鬼のイリナ・ルミネスクに対しては、敵愾心(てきがいしん)をむき出しにして接している。

ナタリア

ライカ44の宇宙飛行士候補生たちが寝泊まりする宿舎で寮母を務める女性。エプロン姿で頭に布巾をかぶり、眼鏡をかけている。穏やかな笑みを浮かべ、吸血鬼であるイリナ・ルミネスクに初対面で物怖じせず柔らかに接するなど、優しい性格の持ち主。

ヴィクトール

ライカ44で、宇宙飛行士候補生たちの指導教官を務める男性。軍人で階級は中将。厳(いか)つい外見をしており、額の右側には十字型の大きな傷痕がある。教官として候補生たちに厳しく接する謹厳な人物で、不祥事を起こして候補生から補欠の立場となったレフ・レプスに対して、その優秀な訓練成績を慮(おもんぱか)ってか、候補生の立場を辞退し、戦闘機のパイロットとしてやり直すよう助言した。一方で、どうしても宇宙にかかわりたいのであれば事務職を世話するといった腹案も提案しており、厳しさ一辺倒というわけではない。

スラヴァ・コローヴィン

第一設計局長を務める男性。ツィルニトラ共和国連邦が築き上げたロケット開発の功績をもたらしたとされる傑物であり、その存在は国家機密として扱われ中将クラスの高官であっても居場所すら知ることのできない情報統制下に置かれている。そのため、対立国であるアーナック連合王国からは「東には妖術師がいる」といわれるほどで、その素性はほとんど知られていない。一方で、ライカ44で訓練を行う宇宙飛行士候補生たちは候補に選ばれた際に顔を合わせており、敬意を込めて「チーフ」と呼ばれている。世界初の有人宇宙飛行計画「ミェチタ計画」の成功を確実にするため、無重力空間での人間の安全性を吸血鬼によって検証する「ノスフェラトゥ計画」を実行するため、その説明にライカ44を訪れレフ・レプスと面会した。

モジャイスキー

生体研究所で博士を務める男性。鼻の下にカイゼル髭(ひげ)を生やしている。スラヴァ・コローヴィン第一設計局長に呼び出されたレフ・レプスが「ノスフェラトゥ計画」について、説明を受けた際に同席し、計画の詳細について説明した。吸血鬼のイリナ・ルミネスクをレフに紹介したのもモジャイスキーだったが、イリナ本人の前で彼女を実験動物と呼ぶなど、明確に人間とは異なる存在として扱っていた。この時はレフへの説明役を任じられていたが、主な業務は犬や植物の実験を行っている。

サガレヴィッチ

施設の副長官を務める男性。丸眼鏡をかけて鼻下と顎周りに髭を生やしている。「ノスフェラトゥ計画」においてレフ・レプスとイリナ・ルミネスクが熱気室など、施設を使って行う訓練の担当を担った。信心深く吸血鬼のことを忌み嫌っており、イリナのことを呪われし種と蔑んでいる。訓練初日から素人のイリナに過酷な訓練を課してケガをさせるなど嫌味な性格で、その性格はイリナどころか同じ研究者であるアーニャ・シモニャンからも研究者の恥と嫌われている。

場所

ツィルニトラ共和国連邦

世界を二分する巨大戦争後に、宇宙開発競争を繰り広げる2国の内の一つ。西のアーナック連合王国に対して優位に宇宙開発を進めており、すでに犬による月探査機の打ち上げに成功している。その上で宇宙開発競争における決定的な成功を収めるため、有人宇宙飛行計画「ミェチタ計画」を立ち上げたが、犬による飛行実験の失敗が続いており、人間を打ち上げることが不安視されていた。そのため、前段階として人間とほとんど同じ肉体的特性を持った吸血鬼による宇宙飛行計画「ノスフェラトゥ計画」が発案され、実行に移された。アーナック連合王国に宇宙開発競争で先んじているという印象を強めるため、実験の成功事例だけを公表しているが、裏では数多くの失敗事例があるなど、国家規模での情報隠蔽や統制が行われている。

アーナック連合王国

世界を二分する巨大戦争後に、宇宙開発競争を繰り広げる2国の内の一つ。東のツィルニトラ共和国連邦に対して宇宙開発で後塵を拝しており、1957年には生放送中に衛星打ち上げ用のロケットが傾き爆発するという事故を公然に晒(さら)す結果となった。なかなか成果を出せずにいる一方で、優秀な科学者を数多く抱えている。

ライカ44

ツィルニトラ共和国連邦が宇宙開発のために作り上げた街。国家機密として扱われ、存在は公には秘匿されている。街並みは大きく二つの区画に分かれており、一方はレフ・レプスたちのような宇宙開発に従事する職員たちが研究や訓練を行う開発区で、もう一方は居住区となっており、こちらには宇宙飛行士の宿舎をはじめとした住居に加えて、映画館や図書館、学校や教会といった施設が存在する。ノスフェラトゥ計画に際して、レフやイリナ・ルミネスクは前者の開発区にある生体研究所内に設けられた独房で寝起きし、食事の際などには居住区の宇宙飛行士の宿舎にある食堂へと移動する生活を送っていた。

リリット国

ツィルニトラ共和国連邦の西側に位置する国。イリナ・ルミネスクの故郷で、彼女はこの国で隔離されていた吸血鬼である。イリナの住んでいた場所は山の上に建てられた城で、麓と行き来するには1480段の階段を上り下りする必要があった。

その他キーワード

ミェチタ計画

ツィルニトラ共和国連邦が推進する有人宇宙飛行計画。アーナック連合王国との宇宙開発競争における優勢を決定づけるために急ピッチで計画が進められており、東暦1960年には来春の打ち上げが予定されるまでに至った。しかし、依然として無重力空間での人間の無事が確認されておらず、宇宙へ送ることに成功した犬にも嘔吐(おうと)などの症状が確認されるなど、安全性が不安視されていた。そんな中、政府中央委員会によって宇宙で軌道に乗った際に、国営放送を通じて大々的に発表することが決定される。計画は生放送中に爆発事故を起こす大失態を起こした3年前のアーナック連合王国を意識したもので、成功事例のみを公表してきたツィルニトラ共和国連邦にとって失敗は絶対許されない状況となった。そのため、無重力空間での人間の安全性を確認するための計画として、人間とほぼ同じ肉体的特性を持った「吸血鬼」を実験体として無重力空間に送り出す「ノスフェラトゥ計画」が立ち上げられ、2か月の準備期間を経て実行に移されることとなる。

吸血鬼 (のすふぇらとぅ)

巷間に人間の血を吸う怪物として伝わる吸血種族。肉体的には人間とほぼ変わらない特性を有していながら、人間と同じ種族として扱われていない。そのため、人類初の有人宇宙飛行計画「ミェチタ計画」において不可欠だった、無重力空間における人間の安全性を確認する「ノスフェラトゥ計画」の実験体として選ばれる。16世紀に蔓延(まんえん)した黒死病の原因として教会から迫害された歴史があり、その時に広まった「吸血鬼に血を吸われた人間も吸血鬼になる」といった逸話をはじめ、事実とは大きく異なる認識が世間一般に広まっている。実際には血液を栄養素として粘膜から取り込むことのできることや、太陽の光に弱い皮膚、長く尖った耳、ほとんど味覚がない舌といった特徴を除いてほとんど人間と変わらない特性を持っており、積極的に人間を害そうとする怪物からはほど遠い存在である。しかし、さまざまな物語で怪物として描かれてきたことで根付いた偏見は色濃く、特に信心深い者ほど吸血鬼を「呪われし種」として嫌厭(けんえん)している。

ノスフェラトゥ計画

人類初の有人宇宙飛行を実現する「ミェチタ計画に先んじて、無重力空間における人間の安全性を確認するためにツィルニトラ共和国連邦が立ち上げた計画。人間の代わりに、人間とほぼ同じ肉体的特性を持ちながら人間とは認められていない「吸血鬼」を無重力空間に送り出すという計画であり、実験体としてリリット国で隔離されていた吸血鬼の少女、イリナ・ルミネスクが選ばれた。また2か月という訓練期間のあいだ、彼女を監視・監督するマネージャーとして宇宙飛行士候補生の立場を不祥事によって降格され、補欠となっていたレフ・レプスが務めることとなった。

クレジット

原作

牧野 圭祐

キャラクター原案

かれい

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