有害都市

有害都市

実際に出版物に対して行われている「有害図書指定」を題材に、漫画家・日比野幹雄が苦悩しながらも面白い漫画を描くためにもがく姿を描いた物語。「ジャンプ改」2014年5月号から11月号、「週刊ヤングジャンプ」2014年52号、「となりのヤングジャンプ」2015年2/25更新分から10/9更新分にかけて掲載された。

正式名称
有害都市
ふりがな
ゆうがいとし
作者
ジャンル
作家・漫画家
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あらすじ

上巻

漫画家・日比野幹雄は、編集者・比嘉忠岑担当のもと、「DARK WALKER」という漫画の連載が決定した。ついに獲得した連載に喜ぶ幹雄だったが、比嘉からグロテスクな表現を控えてほしいと頼まれる。その理由として、幹雄は比嘉から、漫画を取り巻く規制が厳しくなっている事を知る。モヤモヤした気持ちを抱えながらも、何とか工夫して残酷描写をごまかす幹雄だったが、「DARK WALKER」の掲載誌が発売されると、出版社に元文部科学省大臣・故寺修から抗議の書簡が送られて来る。それがきっかけで、雑誌が回収される事が決定し、幹雄の漫画はたった1話で休載となってしまう。幹雄は落ち込みながらも、回収となった事で迷惑をかけてしまった、同じ雑誌の作家陣に謝罪して回る。そこで幹雄は、かつて有害作家認定を受けた松本慎吾に出会う。そして幹雄は、有害作家認定を受けて以降、無難な漫画を描くようになった慎吾の姿勢に疑問を抱く。自分は面白い漫画を描く事を何より優先したいと考えた幹雄は、「DARK WALKER」の過激描写を抑えずに済む、WEBでの連載を決意する。

下巻

WEB連載の「DARK WALKER」の人気が出始めた頃、日比野幹雄は、「DARK WALKER」の翻訳出版権の許可を取りに来日したアルフレッド・ブラウンから、有害図書に指定されないためのテクニックを教わる。だが幹雄は小手先での対応を拒み、あくまでも面白い漫画を描く事に尽力する。一方、有識者会議の参加者だった戸田ユキヲは、あまりにバカバカしい会議に呆れ、有識者会議を辞める事を決意。そして戸田は、かつて松本慎吾の作品が槍玉にあげられた松本事件で、主犯となった少年の父親のもとを訪れるのだった。その後、有識者会議によって「DARK WALKER」はついに正式に有害図書として指定され、幹雄は公開審議に呼び出される事となる。異例の呼び出しに戸惑いながらも幹雄は公開審議に出席するが、そこは裁判室であり、報道関係者が多数集まったその雰囲気は、まるで幹雄を裁くための場のようだった。幹雄は言いがかりのような指摘を受け続け、言葉を失ってしまう。そしてそこに、参考人として有害作家に指定された慎吾が姿を現す。

登場人物・キャラクター

日比野 幹雄 (ひびの みきお)

漫画家の男性で、年齢は32歳。ゾンビパニック漫画「DARK WALKER」で雑誌連載を開始したが、故寺修の抗議により、たった1話で休載させられた。面白い漫画を描く事を何よりも優先しており、「DARK WALKER」をWEBで連載再開する。かつて、ショートホラーを執筆しようとしていたが、タイミング悪く起きた通り魔事件のせいで、批判の危険が少ないブラックコメディーに内容を変えて連載したところ、すぐに打ち切りになってしまった過去がある。 小学生の頃は身体が弱く、勉強が得意でもないため、漫画を描く事が好きになった。

比嘉 忠岑 (ひが ただみね)

日比野幹雄の担当を務める編集者の男性で、年齢は42歳。ドーナツが好きで、いい漫画に出会うと多量にドーナツを食べてしまう癖がある。5年前は痩せていたが、この癖のせいで現在は肥満体型になっている。普段は大らかな性格だが、漫画に対しては情熱を持っており、漫画家の事をつねに気にかけている。

故寺 修 (ふるでら おさむ)

滫嬰文化大学の社会学部教授を務める男性で、元文部科学省大臣を務めていた。有識者会議の参加者であり、会議における発言権はもっとも強い。「DARK WALKER」を読み、出版社に直接投書を送りつける形で抗議を行った事から、「DARK WALKER」の雑誌連載が1話で終了する事となった。実は息子が漫画家を目指しており、そんな息子の事を家の厄介者だと思っている。

戸田 ユキヲ (とだ ゆきを)

劇作家・小説家の男性で、有識者会議の参加者。有識者会議ではできる限り作品を守る側として発言する。有識者会議の行き過ぎた規制に呆れて参加を辞退したのち、伊坂駿平君殺害事件について独自に調査を開始する。

金木 鈴 (かねき りん)

東京都浄化運動推進委員を務める女性。有識者会議の参加者で、特に児童ポルノにかかわる事に注力する。東京都内の公園で、「小便小僧」のブロンズ像を「放尿児童像」であるとして、撤去させている。

綾元 清志 (あやもと きよし)

世界を舞台に活躍する音楽プロデューサーの男性で、クールジャパン普及委員会代表を務める。有識者会議の参加者でもある。200日後に控えたオリンピックの事を強く意識しており、日本のポップカルチャーの評判を落とすような漫画本は、強引にでも市場から締め出すべきだと考えている。

松本 慎吾 (まつもと しんご)

社会派の作風で有名だった漫画家の男性。児童虐待問題をテーマに描いた作品「イノセンス」で、幼い子供を対象とした過激な暴力表現を描いていた。連載時に中学生が起こした殺人事件が、「イノセンス」の影響があるという疑いで、有害作家の指定を受けて表舞台から姿を消す。その後は、テレビ局が立ち上げた企画により作画担当として、別名義で連載を立ち上げる事になる。 既婚者である。

アルフレッド・ブラウン (あるふれっどぶらうん)

アメリカ・フロリダ州に住む翻訳家の男性で、35歳の時に起業した出版社「カミカゼマンガ」の代表を務めている。「DARK WALKER」を気に入り、翻訳出版権を取るために来日する。日本の小説や演劇を翻訳する会社で働いていた経歴を持ち、日本の漫画が大好きで、コミックスを1000冊以上所有している。有識者会議の参加者である戸田ユキヲとは面識があり、有害図書に関しても詳しい。

集団・組織

有識者会議 (ゆうしきしゃかいぎ)

有害図書を選定するための会議で、元文部科学省大臣、社会学者、精神科医、小説家など、13人の著名人および学職経験者によって構成されている。出版物を審議にかけ、内容によっては不健全図書か有害図書のいずれかに指定する。発行されるすべての本をチェックしているわけではなく、外部団体により選定された本のみを審議している。

イベント・出来事

伊坂駿平君殺人事件 (いさかしゅんぺいくんさつじんじけん)

N県の中学校で起きた殺人事件。生徒四人が、同じクラスの「伊坂駿平」に対し罰ゲームと称して、ビニール袋を頭からかぶせて窒息死させた。

松本事件 (まつもとじけん)

松本慎吾が有害作家に認定された事態。伊坂駿平君殺人事件の主犯格の生徒の自宅の部屋に、慎吾の漫画「イノセンス」が置いてあった事で、「イノセンス」が事件と強い関連性があると批難された。これがきっかけで表現規制の動きが一気に活性化する事となった。

その他キーワード

DARK WALKER (だーく うぉーかー)

日比野幹雄の執筆した漫画。「食屍病」という病に感染した人間が、人間を食べるというゾンビパニックもの。雑誌に第1話のみが掲載されたのち、故寺修の抗議を受けて休載。その後、WEBで連載再開され、人気を博している。有識者会議によって、有害図書に指定される。

不健全図書 (ふけんぜんとしょ)

犯罪行為全般を描いた作品、不適切な恋愛の形態を描いた作品など、青少年に好ましくないと判断された出版物。規定により、対象年齢は15歳以上推奨となっている。

有害図書 (ゆうがいとしょ)

過激な性・暴力・残虐表現や、反社会的・反権力的な描写が著しく、青少年の健全な育成を阻害すると判断される作品に指定された出版物。有害図書は、書店での陳列と18歳未満への販売が禁止される。

有害作家 (ゆうがいさっか)

有害図書の中でも、極めて悪質な作品を描いたと認定された漫画家。有害作家に認定された漫画家は、矯正プログラムの受講という行政処分が下される。

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