北神伝綺

北神伝綺

大和民族より以前から日本に先住していた「山人」にとらわれ続ける柳田國男と、その弟子にして山人の血を引く兵頭北神。戦争へ向かう時局の中、人口調査と銘打った山人狩りが行われ、いつしか2人は大きな時代の波に飲みこまれていく。

正式名称
北神伝綺
ふりがな
ほくしんでんき
原作者
大塚 英志
作者
ジャンル
その他恋愛・ラブコメ
 
ラブコメ
 
恋愛
 
歴史IFもの
関連商品
Amazon 楽天

概要・あらすじ

柳田國男は、自らが唱えた「日本先住民としての山人実在説」を放棄し、天皇を頂点とする大和民族の構築へ方向転換を図る。そして昭和10年には、国家支援のもと全国規模の山村調査を実施、山人狩りを行っていた。兵頭北神は、かつて師であった柳田から、死に絶えたはずの山人の末裔らしき少女を見つけ出すよう依頼される。行方を探すうちに、山人の少女ばかりを集めた娼館と、彼女たちを集める「神戸のおばさん」こと山姥にたどり着く。

北神はこの世の者ならぬ山姥を消滅させるが、この事件を機に、山人の生き残りの間に彼の存在が知れ渡ることになる。山人の血を引いているにもかかわらず柳田に協力する北神の前に、山人と、山人に魅入られた者達が次々に現れ、ある者は命を狙い、ある者は北神に未来への希望を託す。

やがて、あらゆる人々の思惑を飲みこみながら、日本は太平洋戦争へとなだれ込んでいく。

登場人物・キャラクター

兵頭 北神 (ひょうどう ほくしん)

山人の血を引く最後の男。柳田國男に師事していたが、柳田が切り捨てた「山人」や「幽世の物の怪」を論じた裏の民俗学に興味を示したため破門される。破門された後も柳田の調査に協力を続ける。

柳田 國男 (やなぎた くにお)

自分自身を「神隠しに遭いやすき気質」と語り、山人に強い執着を示す。その一方で、万世一系の思想を徹底するために山人を根絶やしにする計画に手を貸している。弟子であった兵頭北神に対しては愛憎半ばする感情を抱えている。日本民俗学の創始者である柳田國男がモデルである。

魔子 (まこ)

山人の血を引く娘の1人。幼いころの柳田國男と出会っており、神戸の娼館で客を取っていた。その後カフェの女給を経て、柳田に引き取られて女中となるが、自分の命を救ってくれた甘粕正彦と共に満州に渡る。

滝子 (たきこ)

兵頭北神と母親違いの妹で、芸者をしている。源氏名を「滝乃」と名乗っている。兄妹の情を越えた愛を北神に抱いているため、北神を利用する柳田國男を嫌っている。

神戸のおばさん (こうべのおばさん)

通称「山姥(やまうば、やまんば)」。山人の血を引く少女を集め、神戸で娼館を開いていた。兵頭北神の存在を知り、再び山人達の国を造ろうと目論む。

養老 (ようろう)

帝都大学医学部の解剖学教室助手で、滝子が働く料亭の客。幼女趣味という弱みを兵頭北神に握られ、情報を提供する。

宮沢 賢治 (みやざわ けんじ)

詩人で童話作家。花巻で石工場の技師をしている。山人の隠れ里についての論文「マヨイガ見聞記」を、民俗学研究家である佐々木喜善のもとに持ち込み、それが柳田國男の手に渡る。山人を滅ぼした日本人の非道を説き、柳田をいさめようという志を持っていた。「銀河鉄道の夜」「注文の多い料理店」などの作品を著した宮沢賢治がモデルである。

宮沢 とし子 (みやざわ としこ)

宮沢賢治の妹。賢治を始末し「マヨイガ見聞記」の原本である手帳を奪うためにやってきた兵頭北神に、黄泉(よみ)の水で作った黄泉国の食べ物である「ヨモツヘグリ」を食べさせて殺そうとする。宮沢賢治の実妹トシがモデルである。

緒方 非水 (おがた ひすい)

陸軍中尉。子供の頃に山中で山人と遭遇し、存在を危険視している。天皇を頂点とする国家体制を脅かすものとして、山人狩りの急先鋒を務める。軍の命令により北一輝門下に潜入していたが、北を支持する青年将校と共に2・26事件を起こす。

伊藤 晴雨 (いとう せいう)

緊縛される女性を描いた「責め絵」で知られる画家。絵のモデルは山人に限ると決めており、モデルだったお葉に惚れていたため柳田國男への復讐に手を貸した。日本画家で、責め絵や幽霊画を得意とした伊藤晴雨がモデルである。

竹久 夢二 (たけひさ ゆめじ)

数多くの美人画を残した画家であり詩人。「黒船屋」のモデルとなったお葉に惚れており、柳田國男への復讐を試みる。画家で詩人の竹久夢二がモデルである。

お葉 (およう)

山人の血を引く女性。伊藤晴雨や竹久夢二のモデルを務めた後に台湾に渡り、高地系台湾人の霧社人による武装蜂起を日本陸軍が鎮圧した「霧社事件」で死亡したとされている。大正時代に多くの画家のモデルをつとめた、「お葉」こと佐々木カネヨがモデルである。

立花 (たちばな)

東京朝日新聞社会部の記者。兵頭北神と滝子の昔からの知人で、情報提供や助言をする。

鳩山 八重子 (はとやま やえこ)

鳩山財閥の一人娘。大磯の坂田山で山本吉左右と心中をしたが、処女のまま死んだことが評判になり、レコードが発売され映画化もされた。鳩山八重子の死後、坂田山では後追い自殺が後を絶たず、その人数は600人にも及ぶ。

水原 めぐみ (みずはら めぐみ)

友人の付添いとして三原山で20人以上の自殺に立ち会う。本人は不治の病により急死。しかしその後も三原山での自殺が続いている。

甘粕 正彦 (あまかす まさひこ)

満州映画協会理事長。憲兵大尉だった時に、思想家の大杉栄及びその家族を殺害したとして有罪となる。魔子を愛しており、満州で故国を追われた人々や山人のための国家を造ろうとしている。日本陸軍を退役後、満州国建設に関わり、満州映画協会理事長をつとめた甘粕正彦がモデルである。

出口 王仁三郎 (でぐち おにさぶろう)

大本教教祖。満州事変を予言した。兵頭北神が山人の血を引くことを確かめた後で、情報や助言を提供する。新宗教「大本」の2大教祖の1人で、聖師と呼ばれる出口王仁三郎がモデル。

北 一輝 (きた いっき)

通称を「一輝」、本名は「輝次郎」。満州は滅びると予言する隻眼の革命思想家。巫女が口寄せした予言を「霊告日記」に付けている。万世一系の呪縛から解放された存在である山人に魅かれていた。兵頭北神と出会うことで、山人の実在を知る。陸軍皇道派青年将校によるクーデター未遂、2・26事件の理論的指導者として処刑される。 戦前の思想家で社会運動家だった北一輝がモデルである。

テル

北一輝の初恋の女性にして予言を与える巫女。北が兵頭北神により殺されることを予知し、軍部に手を回してひそかに北神を殺そうと試みる。

珠子 (たまこ)

滝子の芸者仲間。源氏名を「珠千代」と名乗っている。緒方非水の許嫁だったが、貧困のため売られてきた。緒方の上官に身請けされることが決まり首を吊る。

斗志見 (としみ)

ムー大陸の子孫を名乗る青年。満州にいた兵頭北神を訪ね、日本へ連れて行ってほしいと依頼する。柳田國男の未発表原稿「海上の道」を下敷きにした「失われた大陸ムー」を所持している。

江戸川 乱歩 (えどがわ らんぽ)

小説家で、本名は「平井太郎」。子供たちをさらう怪人赤マントの謎を追う私立探偵として、兵頭北神の前に現れる。事件の背後に国家的な陰謀が隠されていると推理している。作品への軍の検閲にうんざりしており、検閲のゆるい少年小説に転向する。満州に渡った明智小五郎に代わって怪人二十面相から帝都を守る少年探偵団の物語を、北神と滝子をモデルにして描く。 小説家、評論家で「怪人二十面相」「黒蜥蜴」などを著した江戸川乱歩がモデルである。

その他キーワード

山人 (さんじん)

さんじん、やまびと、やまうど、やまんど、やまどなど、読み方はさまざま。遠い昔に、日本民族より先に日本列島に住みついた土着の民の末裔。山人の多くは山奥に住んでおり、里には下りずに暮らしていた。並外れた運動能力や剛力(ごうりき)、鋭敏な知覚を持っている。骨格も日本民俗と異なっており、手足が長く西洋人のように真っ直ぐな脚をしているとされる。 天皇を頂点とする日本民族の国造り神話にそぐわない存在として、軍による山人狩りで全滅させられたはずだったが、少数の生き残りと先祖返りが潜伏している。

クレジット

原作

SHARE
EC
Amazon
logo