神のまにまに

神のまにまに

猗笠怜司の初連載作品。悪(あ)しき神への恨みから、たたり神となった少年、一進が、神狩りの一員となって神々に挑む姿を描いたダーク和風ファンタジー。集英社「少年ジャンプ+」で2021年7月から配信の作品。

正式名称
神のまにまに
ふりがな
かみのまにまに
作者
ジャンル
和風ファンタジー
レーベル
ジャンプコミックス(集英社)
巻数
既刊7巻
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

かみの産声

時は江戸時代、まだ神が人間と共にあった頃、正義感の強い少年、一進は、厳しいが家族思いな一進の父と、病弱だがとても優しい母親のおいよと共に暮らしていた。決して裕福な暮らしではなかったが、一進は信心や正義感の強い両親を見習い、神に祈りながら平和な日々を送っていた。だが、故郷の水無月村が日照りと飢饉に襲われたことで、父親は大事な刀を含めた家財を売り払うものの、まともな治療も受けられなくなったおいよは病が悪化していた。次々と人が死んでいく故郷を救うため、一進は藁(わら)にも縋(すが)るような思いで、雨を降らせてこの村が飢える者のいない地にして欲しいと、再び祈りを捧げる。神への祈りが届いたのか、一進の目の前に謎の黒い神が現れて雨を降らせるが、黒い神は一進が思っていたのとはまったく別の方法で村から飢えをなくしていた。それは飢えた村人を皆殺しにするという残酷な方法で、その対象は一進の両親も例外ではなかった。道を間違えたと強い責任や後悔を感じた一進は、すべてを奪った黒い神への恨みを心の奥底に抱えながら、両親の墓前で一人座り込んでいた。それから100年以上の時が流れ、時代は人々の信心が薄れた明治に変わっていた。水も食べ物も摂取しないままでなぜか村の中で生き残っていた一進は、生きる気力をなくしかけていたところで、化け物のような異形の牛神に遭遇する。牛神の言葉で自分が強い憎しみによって人からたたり神に変わったと悟った一進は、たたり神としてほかの神を殺し続け、いずれは黒い神に復讐(ふくしゅう)することを誓う。時代の変化により生きづらくなった神たちは、救うのではなく人を襲ったり呪いを与えることで自らの威厳を示そうとする恐るべき存在と化し、人に害をなす悪しき神を狩る「神狩り」という特殊部隊まで組織されていた。その神狩りの小隊と遭遇した一進は織部絹千世に捕縛され、神狩り本部へと連れて行かれそうになる。しかし事故により一進は、脚を負傷した絹千世と共に川に落ち、気づいた時にはどこかの森に流れついていた。絹千世は過去に己の判断を誤ったせいで、逃した神に大勢の人を殺された過去を語る。そんな彼女の境遇と後悔に自分の過去を重ね合わせた一進だったが、その場にはすぐに人食いの神が出現し、彼は傷ついた絹千世を守りながら戦うことになる。そんな姿を見た絹千世は一進にかけた捕縛の封印を解除したうえで、神が持つ「神器」を使って返り討ちにするよう教える。力の引き出し方を瞬時に把握した一進は人食いの神を一撃で倒し、ようやく彼を信用するようになった絹千世からあることを提案される。

手渡しの信用

織部絹千世から神狩りに入るよう提案された一進は、彼女と稲葉秋水について行く形で神狩り本部へと向かう。だが、到着するや神狩りから一進たちは総攻撃を受け、そのまま囚われの身となった彼は、実力のみで少将まで上り詰めた黒羊から手合わせを挑まれる。仲間であるはずの織部絹千世たちまでも攻撃した黒羊への怒りから、本気で彼に攻撃し始める一進だが、その拳はすべてかわされてかすりもしない。戦いのあと、黒羊からあの攻撃は神のみにしか効果がないため、絹千世も稲葉秋水も無事だと聞かされた一進は安心するが、彼から提案されたのは予想以上に過酷なものだった。神狩りの上層部は本来は敵であるたたり神の一進を新たな隊員としては認めず、黒羊は少しでも信頼されるためには神の命である心臓を渡せばいいと言われる。言われたとおり心臓を差し出し、黒羊の協力を得て正式に神狩りに入隊した一進は、絹千世、秋水と共に黒羊直属の新部隊である「黒白隊」の一員となる。組織の中で唯一、一進を認めている黒羊は、上層部にやや強引な交渉を持ちかけて一進を部下とする。黒羊は神と素手で戦えるほどの強さを持つ一方で、神狩りの現状には不満があり、自分の家族と神とのあいだにも事情や因縁を抱えていた。そして黒白隊の一員になった半妖の秋水は、神狩り内で自分を含めた半妖が道具扱いされていることに不満を抱き、任務をこなしながら手柄を立てて昇進し、自由になるのを目標としていた。そして自らの判断の誤りで、神の虐殺を許した出来事を今でも悔やむ絹千世も、改めて一進の仲間となり、今後は共に黒羊のもとで任務をこなしていくこととなる。神狩りはすでに一進の故郷である水無月村で起こった事件や、彼の追う黒い神について認識しており、戦っていけばいずれ黒い神に行きつくと黒羊から聞かされた一進は、人を悪い神から守るために自らの力を使おうと決意を新たにする。そのためには、任務を着実にこなして一進自身の有用性を、神狩り全体に示す必要があった。黒羊から命じられた任務は、村ごと消滅した代わりに不気味な鳥居が現れた村の住民たちの救出、そして原因となっている神の討伐だった。前回の任務以来、療養中の絹千世の代わりに秋水が同行することになり、一進は仲の悪い秋水と二人でこの任務に挑むことになる。村があった鳥居の奥に取り込まれた一進たちは、不気味な異空間のような場所に飛ばされるが、そこあったのは子供しか存在しない謎の村だった。

食欲の神

胎の神の討伐に成功し初任務をこなした一進は、上司の黒羊から黒い神に関する新たな情報を得る。そんな一進は、織部絹千世稲葉秋水と共に、新たな任務のためにとある港町に向かっていた。この港町は「食欲の神」という謎の神に支配され、この町で食事をした者は食欲だけで行動する豚と化し、人間すら襲うようになるという奇妙な事件が起こっていた。それを知らぬままで、先行していた神狩り隊員の井上と合流した直後に、乾パンを食べていた秋水は豚の姿に変化してしまう。建物の上で豚の群れに襲われる井上を救おうとした一進は、右腕だけを残して肉体を食われてしまう。以前であればどんな攻撃を食らってもすぐに体が再生する一進だったが、なぜか今回はまったく再生せず、右腕だけのままのという状態が続く。強い責任を感じた絹千世は一進や豚にされた人々を救うため、彼の右腕を井上に託し、元凶となっている食欲の神を一人で倒そうと動き出す。絹千世は進んだ先で豚のぬいぐるみのような姿をした食欲の神と遭遇し、彼女は札から召喚される式神を用いて食欲の神に対抗する。一時期はピンチに陥るもなんとか食欲の神を退治し、急いで一進と井上のもとへ戻るも、一進は体が戻らずに右腕のままとなっていた。ショックを受ける絹千世だったが、あきらめずに一進を本部に連れ帰って助けると誓い、彼女たちに心を動かされた井上も一進を助けたいと言う。だが、次の瞬間に井上の上半身は、何者かの攻撃によって一瞬で消滅。その圧倒的な力は突如現れた雷の神によるもので、絹千世は彼を今まで戦ってきた神とは格の違う存在だと一瞬で認識する。絶望しながらも絹千世は抵抗を試みるが、そこに割って入ったのは上半身だけが復活した一進の刀だった。神の命ともいえる心臓すら持たず、神をたたるたたり神を名乗った一進に強い興味を持った雷の神は一騎打ちを挑むが、強い怒りに囚われた一進は自らの心を失い、自分の中にいた何者かによって体を乗っ取られてしまう。姿も能力も大きく変わり、不気味な仮面をまとった恐ろしい神に変化した一進は、雷の神とその場で激闘を繰り広げる。秋水が絹千世のもとへ駆けつけた頃には、村は焦土と化して一進と雷の神によって周囲を巻き込む激しい死闘が続いていた。絹千世が応援部隊を呼んでいるあいだに一人で残ることになった秋水は、我を失って暴走する一進のあとを追う。

二者一択

雷の神との死闘の最中、悪しき神から人を救わなければという強い思いから謎の力に飲み込まれ、禍々(まがまが)しい姿に変貌したままで暴走した一進は、気づいた時には彼を止めに入った稲葉秋水にまで襲いかかっていた。何者かに体を乗っ取られてしまい、自分では止められずにこのままでは秋水を殺してしまうと焦った一進は、彼の体を乗っ取った者から、体の支配権を返す代わりにあるものをよこせと要求される。それは亡くなった母親、おいよに関する記憶で、存在自体は覚えたままで彼女の姿や思い出がすべて奪われるという過酷な要求であった。苦悩する一進は言われたとおりにかけがえのない記憶を差し出し、辛い決断の末に正気ともとの姿を取り戻したのちに、圧倒的な実力を持つ雷の神を前に秋水に先に逃げろと言い張る。だが、織部絹千世のもとへ一進を連れて行くと約束していた秋水は一進の指示には応じず、協力しながら雷の神と戦うと言い張る。こうして一進は秋水の協力を得ながら雷の神と戦うことになるが、二人がかりでも敵との実力の差は埋めようがなく、二人は苦戦とピンチを強いられる。体力だけが消耗されていく中で、秋水は一進にある提案をしたうえでその場を離れて近くの川に走り、残った一進は雷の神に対して時間稼ぎを試みる。それでも止まらない雷の神は、神の煙をまとった術「神威」を発動し、さらに強力な攻撃で一進を打ちのめす。神器を出して必死に対抗する一進の全身には川の水が降りかかり、それは秋水の水狐秘伝妖術が施された強力な水の鎧(よろい)に変化する。その鎧は水を一滴一滴あやつっている秋水の術によって、高純度の聖水と化したために雷の神の雷攻撃すら通さず、ようやく強敵への対抗手段を得た一進は一気に反撃を開始し、術によって強化された神器で雷の神の体を貫くことができた。強力な術の反動で倒れた秋水を背負って帰還しようとする一進だったが、次の瞬間には倒したはずの雷の神が復活し、一進は再び肉体を破壊されピンチに陥る。そこに駆けつけたのは、部下たちの危機と原始の神の気配を感じ取った黒羊だった。

べすとふれんど

一進たちを傷つけた雷の神に止(とど)めを刺そうとした黒羊の攻撃は、上空から突如現れた海の神によって妨害される。原始の神の一人である彼女の目的は、雷の神の回収と神狩り幹部への宣戦布告であった。黒い神によって率いられる原始の神たちの最後の戦い、そして驚異的な力を持つ敵を前に、一進は人々を守るために改めて強くなろうと決意するのだった。神狩り本部に帰還した一進の深く傷ついた肉体を回復させるため、黒羊は一進の心臓を預けている神狩り総大将の日ノ産姫の聖域へ向かう。肉体を乗り換えることで長い時を生きながらえている日ノ産姫は、黒羊の愛娘であるましろに宿る不思議な女性だった。日ノ産姫の子孫でもあるましろの幸せを願う黒羊は、彼女の運命を守るために神々との戦いを終わらせると誓う。原始の神による宣戦布告から3日後、神狩りの各所では海の神による襲撃を受けたことで、組織全体が最終戦争に向けてさまざまな準備を始めていた。体を回復させた織部絹千世も同様に最終戦争への準備を始める中で、一時的に心臓を取り戻し体を回復させた一進のもとへ向かう。その頃、黒羊は幹部を集めて一進に関する報告と会議を開いていたが、未知のたたり神である一進を生かすことに賛成する隊長は誰一人としていなかった。一進が隊長たちに少しでも認めてもらうには、彼が最終戦争での戦力になることを、1か月以内に証明する必要があった。それらの警告を受けた一進は、黒羊の指導のもとで神の力である「煙」をまとって神威を発動するための修業を開始する。だが、煙をまとう修行は簡単にはうまくいかず、人間にはわからない感覚であるために絹千世に相談しても修行は難航したままだった。休憩後、一進が実戦で伸びるタイプだと指摘する絹千世の提案で、彼女の親友である技術部部長の轟くくるに相談することになる。一流の技術者であるくくるの作ったカラクリ「ねうねう十八号」を相手に、実戦訓練を開始する一進だったが、彼女の作るカラクリは神をも殺すほどの力を持っていた。一進と出会ってから危険な目にばかり遭っている絹千世を心配するくくるは、ねうねう十八号が勝ったら絹千世は黒白隊を辞めて一進と離れるという条件を要求する。一進は自分が絹千世を守れることを証明すべく、くくるの強力なカラクリに立ち向かう。

登場人物・キャラクター

主人公

水無月村の村長の息子。江戸時代に武士の子供として育てられた。赤毛の長髪で、正義感が強くまっすぐな性格の少年。一人称は「わし」。水無月村は決して裕福な村ではなかったが、家族と村民のことをつねに考える一進... 関連ページ:一進

一進の父 (いっしんのちち)

水無月村の村長を務める武士で、一進の父親。かなり厳格で一進にも厳しく接しているが、信心深く家族思いの中年男性。一進が幼い頃から、彼に正義の心を説き続けた。村が飢饉に陥った時は、大切な刀を含む家財を売り払って村人を助けようとしていたが、状況はよくならずに妻、おいよの病気も悪化してしまう。一進の祈りにより黒い神が飢えた村人を皆殺しにした際に巻き込まれ、おいよと共に死亡した。

おいよ

一進の母親。病弱ながら、家族思いで優しい女性。神への信仰心は深く、毎日神に祈りを捧げている。人の命は意味あって神に与えられたものであり、命ある限り生きなくてはならないと、息子の一進に日頃から説き続けていた。これらの教えは一進の成長後も強い影響を与えている。正義感の強い一進の考えを否定することもなく、つねに温かく見守っている。水無月村の飢饉によって病状が悪化して動けなくなっていたが、一進の祈りにより黒い神が飢えた村人を皆殺しにした際に巻き込まれ、一進の父と共に死亡した。

黒い神 (くろいかみ)

水無月村付近の祠に現れた謎の神。黒の長髪で全身に黒い和服をまとい、顔の一部を札で隠した青年の姿をしている。体の周りにはつねに複数の黒い球体が浮かんでいる。村を飢饉から救いたいと祈る一進の「村に雨を降らせて欲しい」「村から飢える人をなくして欲しい」という願いを叶えるが、後者は飢えた村人を惨殺するという残酷な形で叶えた。一進の両親も惨殺して姿を消したが、強い後悔を抱いた一進に恨まれることになり、一進が人間からたたり神と化した要因になっている。一進が神狩りに入隊したあとも、原始の神をはじめとする強力な神たちを率いてあちこちで暗躍している。また、自らの持つ黒球をほかの神に与えており、これを体に取り込んだ神は凶暴性や残虐性が増す。雷の神をはじめとする原始の神を従えるほどの実力と神格を持つ。かつては着物姿だったが、時代が明治に変わってからは髪が短くなり、黒い洋装をまとっている。正式な名は「宵の大御神」。

織部 絹千世 (おりべ きぬちよ)

神狩りの陰陽隊に所属する少女。階級は少尉。切りそろえた青紫色のロングヘアで、くし型の髪飾りを付けている。まじめで責任感が強い性格をしており、基本的に温厚で優しいが神には容赦がない。神を追っている最中で一進に遭遇し、たたり神である彼を敵と見なして倒そうとする。しかし何度か命を救われて共に行動するうちに、一進のまっすぐな人柄に触れ、彼が人類の味方であると信じるようになった。一進と似たような過去を持ち、己の判断を誤ったせいで逃した神による虐殺を許してしまったことがあり、今でもその出来事を後悔し続けている。一進を信頼したあとは彼の目的や願いを知り、神狩り隊への入隊を勧めた。一進の入隊後は黒羊直属の部隊「黒白隊」の一員となり、彼と稲葉秋水の三人で行動することが多くなる。華奢(きゃしゃ)な少女に見えるが一人で神と戦えるほどの確かな戦闘力を誇り、家柄だけでなくその実力で少尉にまで階級を上げた。実際に食欲の神には一人で戦いを挑み、苦戦したものの討伐に成功している。専用の札を通して式神を召喚し、属性を与える陰陽術を使用する。属性ごとの札を持ち歩き、主に植物をあやつれる木属性や、体の一部を金属の鎧で強化する金属性などを使用する。姉の織部絹依は陰陽隊の隊長を務めるが、彼女からは愚妹扱いされて見下されるなど姉妹仲は悪く、昔から複雑な確執を抱えている。料理は苦手。

稲葉 秋水 (いなば あきみず)

神狩りの半妖隊に所属する半妖の少年。階級は上等兵。妖狐の一族であり、キツネ耳と尻尾が生えている。神狩り内で半妖が道具扱いされていることが嫌で、手柄を立てて昇進し、自由を手に入れようと思っている。また、自由になった暁には、滅んだ一族を復活させることを目指している。親は幼少期に人間によって殺害されており、捕まったあとはほかの半妖たちと共に実験動物のように扱われていたが、見かねた黒羊によって解放されたあとは神狩りに入隊した過去を持つ。一進の入隊後は黒羊直属の部隊「黒白隊」の一員となり、彼と織部絹千世の三人で行動することが多くなる。一進のことは当初仲間と認めずに殺そうとしていたが、何度か共闘したり共に任務をこなすうちに連携ができるようになった。水をあやつる「水狐秘伝妖術」を得意としており、攻守共に優れた戦い方をするだけでなく、病やケガの治療・応急処置にも応用できる。本来であれば不純物である水を清めることで電気すら通さない強力な水の鎧を作ることができ、これを全身にまとうことで雷からも身を守ることができる。この鎧を他者に施す術は使ったことがなかったが、雷の神との戦いで連携することになった一進にかけることに成功する。しかし、つねに一滴一滴を清めながら一進の俊敏な動きにも合わせて水をあやつる必要があるため、体への負担が大きく、長時間使用することはできない。目的から昇進には強いこだわりがあり、お調子者な一面もあるが、本来は正義感が強く仲間思いな性格の持ち主。

黒羊 (こくよう)

神狩り隊に所属する男性。階級は少将。隊服は着用せず、いつも黒いワイシャツを着ている。神狩り隊本部にやって来た一進をいきなり攻撃し戦いを挑むが、それは彼の覚悟や実力を試すためであった。組織の上層部とは異なり、幹部クラスの中では彼のことを唯一認めている人物でもある。一進に対してさまざまなアドバイスを与えると共に、信頼を少しでも得るために心臓を本部に預けることを提案した。その後は一進の入隊をバックアップし、自らが隊長を務める部隊「黒白隊」を作った。その後は一進、織部絹千世、稲葉秋水に各地での任務を命じると共に、神だけでなく上層部や幹部に狙われる一進のことを上司として守っている。神狩り隊員としての能力は不明で謎の多い人物だが、黒い神からも警戒されるほどの実力者であり、彼からは原始の神が最低三人以上で戦わないと瞬殺されると評されている。実際に雷の神をたった一人で打ちのめし、首だけになった彼に止めを刺す寸前にまでに追いつめている。総大将の日ノ産姫の血を引く「羊の一族」の一人であり、彼女の依(よ)り代となる血の濃い子供を残す使命のもと、実姉とのあいだに子供を作る。そうして生まれたましろという娘をかわいがっているが、姉とのあいだに男児は生まれなかったため、成長後に背負うことになる過酷な使命からましろを守り、彼女には自分たちのような辛い思いはさせたくないと考えている。そのため、ましろが成長するまでに、神との戦いを終わらせようと心決めている。神にはとことん容赦しないが部下思いであり、必要であれば上層部にも逆らうため、同じ神狩りでも敵に回したくない人物として一部から警戒されている。原始の神の宣戦布告後は、最終戦争に向けて一進を強化するための修行を手伝っている。

真墨 (ますみ)

神狩りの隊員で、黒羊の補佐官を務める青年。渡会将一が率いる武道隊に所属する。黒の長髪で中性的な容姿を持つ。感情をあまり表に出さず、いつも冷静に振る舞っている。かわいい女子の顔は殴らない主義。何かと奔放な黒羊に振り回されることも多いが彼への忠誠心は強く、彼のことになると一気に冷酷さが増し、歯止めが利かなくなる。黒羊直属の「黒白隊」ができてからは、サポートのために一進たちの任務について行くことがある。冷気をあやつる術を使用し、周囲の地面や物体を凍らせることもできる。羊の一族に仕えるためだけに存在する家系に生まれ、ましろが生まれる前から彼に仕えてきた。黒羊を守るためだけに武道と陰陽術を極め、自我を持たぬように名前すら与えられず、当初はそれが嫌で生きる意味すら感じていなかった。しかし、黒羊に真墨という名前と生きる意味を与えられてからは彼に恩義を感じ、忠誠を誓うようになった。

田所 孝之介 (たどころ こうのすけ)

とある村に住む男性。実年齢は32歳で「光太郎」という一人息子もいるが、村人に対して母親を名乗る「胎の神」の力の影響で少年の姿に変わっている。妻は光太郎を産んだあとに亡くなっており、一人で光太郎を育ててきた。しかし重病を患っており、胎の神から解放されて元の体に戻ったあとは、病が悪化して死亡する運命にある。任務で村に訪れた一進と稲葉秋水にはこれらの事情を話し、自分の運命を受け入れたうえで村を救って欲しいと依頼した。胎の神が退治されたあとは秋水の術を応用した処置を受けて炎症が抑えられ、わずかながら寿命を延ばすことができた。

井上 (いのうえ)

神狩りの隊員で、妻子持ちの男性。給料がいいからという理由で神狩りに参加したが、臆病な性格で自分にあまり自信が持てずにいる。特に少尉以上の階級の隊員とは、任務のたびに力の差を痛感している。食欲の神に支配された村を救出する任務でほかの隊員たちと共に行動していたが、自分がトイレから戻った時には仲間が全滅し、危険な村の中で孤立する羽目になる。応援に駆けつけた一進たちと合流後は共に行動することになるが、豚の群れから庇(かば)われた時に一進が食われて腕だけになってしまったあとは、彼の腕を保護しながら織部絹千世を待つことになる。絹千世が食欲の神を倒したあとに合流し、一進たちに心を動かされて彼女と共に彼を助けると決意するも、直後に雷の神の攻撃に巻き込まれて死亡した。

食欲の神 (しょくよくのかみ)

とある港町に現れた異形の神。巨大な豚のぬいぐるみのような姿をしている。一人称は「ぼくちん」。人間を食欲にとらわれた豚の姿に変える不思議な力を持ち、豚と化した者は人間すら襲って食らう怪物と化す。討伐に訪れた神狩り隊員を豚に襲わせたり豚に変えることで壊滅させ、駆けつけた一進が食われて腕だけになったあとは、織部絹千世と一騎打ちになる。通常、神は人の姿からかけ離れているほど知性が低いのに加えて力も弱いとされているが、異形の姿を持つ割には実力が高く、これは黒い神に与えられた黒球の影響である。あらゆるものを大きな口で食らう能力を持ち、離れていても食らうことができる。これらの力を活かして絹千世を追い詰めたが、最終的にはなんでも食らう習性を逆手に取った彼女の作戦と術の前に敗れた。

雷の神 (いかずちのかみ)

食欲の神に支配された港町に突如現れた謎の男性。その正体は原始の神の一人で、雷をあやつる。筋肉質な体格の大男の姿をしており、これまで一進たちが戦ってきた神とは桁違いの実力を持つ。金髪の長髪で体のあちこちに雷の紋様があり、両耳に三つのピアスを付けている。かなり好戦的で豪快な性格をしており、強い者との戦いに飢え、強敵との戦いに興奮する戦闘狂。好きなタイプは強くてエロい女性。一進たちの前に出現したあとは、雷攻撃で町を破壊して井上を一瞬で殺害する。強い女性を好み、食欲の神を一人で倒した織部絹千世をひと目で気に入る。一進と交戦する中で彼の中にいる神としての人格を目覚めさせ、驚異的な力を発揮する彼に興味を持つ。稲葉秋水と連携した一進をも追い詰めて町を全壊させたが、部下の救出に来た黒羊には敗北し、首だけの状態になって止めを刺されそうになっていたところを海の神に救出された。最終戦争の開始後は、火の神と共に神狩り東北支部を襲撃し、渡会将一と交戦する。無類の酒好きであり、ふだんは暴虐と被虐を好むが、気に入った酒や料理がある店に行きたい時はおとなしく人間のフリをしている。生まれたばかりの頃に海の神と出会い、母親代わりの彼女に育てられたが、その教育はかなり歪んだものだった。

海の神 (うみのかみ)

原始の神の一人。魔乳とも呼べるほどの豊満な巨乳を持つ。露出度の高い衣装をまとい、母性あふれるロングヘアの美女の姿をしている。水や巨大な水棲(すいせい)生物をあやつる力を持ち、大きな貝型の椅子に乗って移動する。黒羊に止めを刺されそうになった雷の神の回収のために人間たちの前に現れ、黒い神の伝言を伝えたうえで神狩り幹部に宣戦布告した。雷の神の育ての親であり、彼が昔から心酔している相手でもある。

日ノ産姫 (ひのうぶひめ)

神狩りの総大将を務める女性。自らの子孫である羊の一族に血の濃い子供を産ませて依り代とすることで、神と戦い続けるために長い時を生き続けており、現在は黒羊の娘であるましろを依り代としている。ふだんはましろの中で眠っているが、必要に応じて彼女と魂を入れ替えることで対話や活動が可能。一進の心臓を預かっている。

ましろ

黒羊の一人娘。黒羊と彼の実姉とのあいだに生まれた。切りそろえた黒のロングヘアで巫女(みこ)服をまとっている。母親はましろの出産後に死亡している。まだ幼い少女だが、総大将の日ノ産姫の子孫として彼女の依り代となる巫女の使命を持ち、ふだんは神狩り本部の奥にある結界の中で過ごしている。日ノ産姫を呼び出すと彼女と魂が入れ替わり、真っ白な少女の姿に変わる。羊の一族には日ノ産姫の次の依り代となる子供を作る使命があるが、黒羊に息子が生まれなかったため、ましろが子を産める状態に成長したあとは同じ一族の男性とのあいだに子供を作らなければならないという、過酷な使命を背負っている。父親である黒羊を慕っている。

轟 くくる (とどろき くくる)

神狩り技術部の部長を務める少女。織部絹千世の親友で、ロングヘアを二つのおさげにして白衣をまとい、丸い眼鏡をかけている。若くして一流の技術者であり、作ったカラクリの一つである「ねうねう十八号」は神をも殺す力を持つ。また、各地に設置されている本部に帰還するための井戸型移動装置の開発者でもある。絹千世の頼みで一進の実戦訓練に付き合うことになるが、実は一進にはひそかに不満を感じており、ねうねう十八号で本気の攻撃を繰り出し、止めようとした絹千世のことは発明品で拘束した。一進と出会ってから危険な目にばかり遭っている絹千世の身を心配しており、ねうねう十八号が勝ったら絹千世は黒白隊を辞めて一進と離れるという条件を要求する。結果として一進が勝利して彼とは和解したものの、この一件以来、絹千世とは気まずくなっていた。絹千世が一進と新たな任務に出る際に謝罪して彼女と仲直りし、一進には着物の上からまとえる特製の制服を渡した。

播磨 有栖 (はりま ありす)

神狩り半妖隊の隊長を務める若い女性。巻き毛のロングヘアで、水玉模様のリボンを付けている。麻呂眉で頭には鬼のような2本のツノが生えている。いつも優雅に紅茶を飲んでいるが、わがままな一面も見られる。ほかの隊長と同様に一進の生存には否定的。ふだんはお淑(しと)やかに見えるが、怒ると口調が粗くなる。

渡会 将一 (わたらい しょういち)

神狩り武道隊の隊長を務める青年。短髪で隊服を着崩している。ふだんは飄々(ひょうひょう)としており感情表現にも乏しいが、好戦的な一面を持つ。ほかの隊長と同様に一進の生存には否定的。東北支部が神に狙われた際の合同任務において指揮官を務める。二刀の刀を武器に戦い、太刀風(たちかぜ)流という剣術を使用する。武道隊に所属する部下でもある真墨の抱える事情や思いを知っており、彼を気にかけている。強力な神に対抗するために神狩りが編み出した「神喰み(かんばみ)」習得者であり、神の心臓を食らうことで強力な術と能力を手に入れている。通常であれば心臓を食らう儀式の時点で死亡する者が多いが、ほんの一握りの適合者として生き残り、術を使いこなしている。神喰みを発動すると髪が少し長くなり、服装も大きく変わる。

織部 絹依 (おりべ ぬい)

神狩り陰陽隊の隊長を務める若い女性。妹の絹千世とよく似た容姿を持つ美人だが、彼女のことは見下して愚妹呼ばわりしている。ほかの隊長と同様に一進の生存には否定的。大柄な巨乳の女性の部下と行動を共にしている。絹千世と同様に、札を用いた式神術をあやつる。東北支部での任務には総大将の心臓を守る任務を担当していた。

火の神 (ひのかみ)

原始の神の一人。火をあやつれる。炎のような赤毛のロングヘアをサイドテールにした美少女の姿をしており、下半身はふんどしのみを着用している。明るく情熱的な性格で、体温が非常に高い。一人称は「我」。神狩り東北支部にある総大将の心臓を狙って雷の神と共に支部を襲撃し、任務に来ていた一進たちと遭遇する。一進を含めた原始の神のことは家族だと思っているため、彼の姉を名乗っている。炎をまとった拳で攻撃する技を使用する。

集団・組織

神狩り (しんがり)

人間と敵対する神を狩るために結成された軍の特殊組織。明治以降、人を襲ったり呪いを与えることで自らの威厳を示そうと害をなす悪しき神が増加しており、これらの神を倒して人類を守ることを最大の目的としている。陰陽師を中心に半妖も所属しており、陰陽術を中心にそれぞれがさまざまな術を習得している。「陰陽隊」や「武道隊」などいくつかの部隊に分かれており、隊員はいずれかの部隊に所属している。白い隊服をまとう隊長以外は、紺色の隊服を着用している。少尉以上の階級に昇格するには家柄のよさも関係しているが、それだけでなく神を一人で倒せるほどの実力も必要となる。一方で、上層部の大半は政府との連絡係でしかない者が多い。神に対抗できるほどの戦闘力や知識を持ち、神の起こす事件に巻き込まれる人々の英雄的存在となっている。中でも、一進の上司となった黒羊は神狩りの中でもトップクラスの戦闘力を持つ。神のことは例外なく危険視しているため、黒羊の協力を得て入隊した一進のことを認めず、彼の生存に反対する者も多い。

その他キーワード

神器 (じんぎ)

すべての神が持つ特殊な武器。いずれもそれぞれの神の実力に見合った特殊能力をそなえている。神がまとった黒い煙に形を与えて武器化したものであり、「神器明解」という術によってこの世に顕現させることができる。神器以外にも煙を体にまとうことで肉体を直接強化する「神威(かむい)」という高度な術も存在するが、こちらは一部の神にしか使いこなせず、一進は習得できていない。

原始の神 (げんしのかみ)

日本に存在する八百万(やおろず)の神の中でも、大自然の力を有する超強力な神々。黒い神が率いており、雷の神、海の神、火の神が存在するが、中にはまだ目覚めて間もない神もいるため、それぞれの詳細な能力などは神狩りも把握できていない。雷の神が黒羊に敗れた際に、海の神によって神狩りに対する宣戦布告が行われ、神と人類による最終戦争が始まった。

書誌情報

神のまにまに 7巻 集英社〈ジャンプコミックス〉

第5巻

(2022-09-02発行、 978-4088832371)

第6巻

(2022-12-02発行、 978-4088833156)

第7巻

(2023-02-03発行、 978-4088833811)

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