王道の狗

王道の狗

加納周助は強盗事件を犯し、北海道の監獄に収容される。そこで出会った風間一太郎と共に脱獄する。2人は世のために何かを為そうとするが、正反対の道を歩いていく事になる。明治時代中期の日本と中国を舞台に革命の激動を生きていく2人の男を描いた作品。作中では実在した人物や事件などが数多く登場する。第4回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞。

正式名称
王道の狗
ふりがな
おうどうのいぬ
作者
ジャンル
時代劇
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概要・あらすじ

主人公加納周助は自由党の壮士として秩父事件や大阪事件に関わるが、逃亡中に資金難となり強盗事件を犯して北海道の監獄に収容される。そこで出会った風間一太郎と共に脱走し、アイヌ人のニシテや徳弘正輝らに助けられる。その後、金玉均の護衛を経て、勝海舟からの援助を受けて孫文や全琫準の協力者になり「王道」を目指していく。

一方、風間一太郎は、山師の財部数馬を殺害して彼になりすますと、東京へと向かい、陸奥宗光に近づく事で「覇道」を目指していく。

登場人物・キャラクター

加納 周助 (かのう しゅうすけ)

強盗事件を犯して北海道の監獄に収容される。そこで出会った風間一太郎と共に脱走する。アイヌ人のニシテや徳弘正輝たちに助けられ、武田惣角や金玉均、孫文らとの出会いを経て「王道」に目覚めていく。

風間 一太郎 (かざま いちたろう)

主人公である加納周助と共に北海道の監獄から脱走する。金鉱を探していた山師の財部数馬を殺して彼になりすましたり、アイヌ人であるタキと恋仲になり、彼女の思想に影響をうけることで「覇道」に目覚めた。その後、古河財閥に取り入ることで陸奥宗光に仕え、道を違えた加納周助と対決することになる。

ニシテ

『王道の狗』の登場人物で、アイヌの漁師。奇策を用いて熊を追い払った加納周助と風間一太郎に興味を抱き、自らの村に匿う。その後も2人のよき協力者となるが、ある時、婚約者であるイヨが売られると知り激昂。阻止するために暴れまわり、逮捕される。

武田 惣角 (たけだ そうかく)

武術家。丸中屋の用心棒から窮地に陥った加納周助とニシテを救い、その礼として徳弘正輝と面識を得る。後に加納周助に柔術を伝授し、彼の成長を促した。実在の武術家、武田惣角がモデル。

徳弘 正輝 (とくひろ まさき)

竹橋事件に関与したことで軍を追われていた人物。アイヌ人のふりをしていた加納周助を密偵と思い込み問い詰めるが、誤解だと知ると、加納周助に「王道」に立つ政治を説き、彼の往く道を示した。実在の人物、徳弘正輝がモデル。

タキ

徳弘正輝の妻の妹であるアイヌの女性。風間一太郎に一目惚れされ、間もなく彼と相思相愛の仲になる。後に風間一太郎が本土へ渡った際にはその後を単身追いかけるなど、並外れた行動力を持つ女性。その生きざまは加納周助にも大きな影響を与えた。

イヨ

ニシテの婚約者である小柄なアイヌ人。ニシテは結婚したら猟師を辞めて、2人で徳弘正輝の領地で畑仕事を営もうとしていた。しかし、父親が酒におぼれ借金を重ねてしまい、漁場の飯炊きへと売られてしまう。

財部 数馬 (たからべ かずま)

福島出身の山師で、金鉱を掘り当てるために北海道にやってきた。その際に風間一太郎に同行を申し出られ了承するが、探索の途中で休憩していたところを風間一太郎によって殺害され、戸籍を奪われる。

飯塚 森蔵 (いいづか もりぞう)

秩父事件で加納周助と知り合うが、程なくして離別してしまう。後に「後藤平吉」と名を改め、財部数馬の従者として北海道で加納周助と再会。お互いの顛末を語り合う。実在の人物、飯塚森蔵がモデル。

酉蔵 (とりぞう)

硫黄山から脱走した囚人で、逃走経路の確保のために徳弘正輝らが乗る馬車を襲撃する。加納周助に退けられるも、共に釧路に逃げる事を許される。それからは加納周助と腐れ縁となり、たびたび彼を手助けしている。

永山 武四郎 (ながやま たけしろう)

武田惣角の推薦によって、加納周助に対して金玉均の護衛を依頼した人物。同時に彼の腕を見定めるため、札幌の強豪を集めた大演武武道大会を開催した。実在の人物、永山武四郎がモデル。

和田 延次郎 (わだ えんじろう)

金玉均の護衛役を務めており、彼を強く慕っている。当初、新しい護衛役にと見定められた加納周助を快く思っていなかったが、小野寺重吾に捕えられたところを救出され、それ以降は態度を軟化。同志として信頼するようになる。

金 玉均 (きむ おっきゅん)

クーデターに失敗し日本に亡命していたところ、加納周助と出会い、彼に護衛の任と「貫真人(つらぬきまひと)」という新たな名前を授けた。この縁によって加納周助に慕われ、彼の生涯に多大な影響を及ぼすこととなる。実在の人物、金玉均がモデル。

小野寺 重吾 (おのでら じゅうご)

柳生心眼流の達人。大演武武道大会に出場し、優勝を果たした。準決勝では加納周助と対戦し、圧倒的な実力差で下す。その後、朝鮮政府の差し向けた暗殺者・李逸植にスカウトされ金玉均襲撃に助力、その際に今次郎吉に重傷を負わせている。その後、函館の立待岬で加納周助の暗殺指令をうけ、再戦するも成長した彼に敗れ去る。

陸奥 宗光 (むつ むねみつ)

富国強兵のために手段を選ばない策略家。風間一太郎を助手として取り立て、後に朝鮮、中国を手中に収めるため、李鴻章を利用し、日中韓の融和を図ろうとした金玉均を暗殺させた。この事によって、金玉均を強く慕う加納周助の復讐の対象となった。実在の人物、陸奥宗光がモデル。

福沢 諭吉 (ふくざわ ゆきち)

冷徹なリアリスト。朝鮮の現状に失望していた。自分を訪ねてきた金玉均に対し、欧米の技術を取り入れるのに消極的なままでは、朝鮮は滅び去ってしまう可能性すらあると言い放った。実在の人物、福沢諭吉がモデル。

朴 泳孝 (ぱく よんひょ)

福沢諭吉や勝海舟らと金玉均の会談の場を設けた人物。後に帰国し、親日派政府の大臣となった。実在の人物、朴泳孝がモデル。

勝 海舟 (かつ かいしゅう)

元海軍卿伯爵。江戸城無血開城などで活躍した人物。朴泳孝の依頼を受け、風間一太郎の策略によって石川島監獄に捕らわれていた加納周助を救出。「お前を見ていると弟子の坂本龍馬を思い出す」と告げ、金玉均のために成すべき道を指し示し、海外に渡るための乗艦「あじあ丸」を提供した。 実在の人物、勝海舟がモデル。

田中 正造 (たなか しょうぞう)

正義感が強く、足尾銅山の行いに対する反感を持っており、鉱毒事件を揉み消そうと企む風間一太郎を殴打し、逮捕されてしまう。捕らわれた先の監獄で加納周助と出会い、「初志貫徹」の言葉を伝え、今後の彼の行動指針に影響を与えた。実在の政治家、田中正造がモデル。

袁 世凱 (えん せいがい)

日本を憎んでおり、朝鮮を焚き付けて日清戦争を引き起こした人物。勝海舟からは「野心家で欲深い」と評されるとともに、加納周助に向け打倒しなければならない相手として名を挙げられている。実在の人物、袁世凱がモデル。

閔妃 (みんぴ)

クーデターを画策した金玉均に一方ならぬ恨みを抱き、彼を抹殺すべく李逸植や洪鐘宇を日本に差し向ける。金玉均暗殺成功の報が入るや否や、彼の遺体の四肢と首を切断し、さらに楊華津にて晒しものにするよう国王に進言した。実在した人物で、朝鮮の第26代王・高宗の妃、閔妃がモデル。

李 逸植 (い いるじく)

金玉均を始末するため朝鮮政府から差し向けられた暗殺者。函館で小野寺重吾と手を組み加納周助を襲撃させるが、失敗。後に東京で、自らの手で加納を暗殺するために尾行するが、既に察知されており、逆に取り押さえられる。その際に自分を暗殺する理由を言うよう、加納から詰め寄られるが、舌を噛み切って自害した。 実在の人物、李逸植がモデル。

孫 文 (そん ぶん)

上海で加納周助に助けられ、その際に封建の国である清に革命を起こし、日本、朝鮮と対等な関係にするという思想を説いて、加納周助と意気投合する。加納周助に中国の行先を決める人物かもしれないと言わしめる。感情がたかぶると大言壮語を吐く癖があり、それゆえに「孫大砲」という渾名で呼ばれることも。 実在の人物、孫文がモデル。

李 鴻章 (り こうしょう)

朝鮮政府、および陸奥宗光と裏で取引をしており、暗殺の舞台として金玉均を上海に誘いだしていた。さらに日本で埋葬するため和田延次郎が用意した柩ごと金玉均の遺体を奪い、朝鮮に持ち去らせてしまう。その復讐として、下関条約締結のさい、加納周助に唆された小山六之助によって銃撃を受け、負傷した。 実在した清の政治家、李鴻章がモデル。

景山 英子 (かげやま ひでこ)

大阪事件で爆発物を運送した罪を問われ投獄されるが、後に恩赦を受けて釈放される。大井憲太郎と一度は結ばれるも、その身勝手さに失望し離縁。加納周助と出会い、現在の大井憲太郎の醜態を見せつける。その際に加納周助より、加納家の家族に自分の現状を伝えるようにと頼まれた。実在の政治活動家、景山英子がモデル。

洪 鐘宇 (ほん じょんう)

閔妃の命を受け、素性を隠し金玉均に接触。上海に寄港した際に金玉均が体調不良を起こし、護衛の和田延次郎が医者を呼びに行った隙を突き、襲撃。暗殺に成功する。程なく逮捕されるも、「国王の勅命により叛逆者を討った」として無罪放免となる。実在の朝鮮の高官、洪鐘宇がモデル。

小山 六之助 (こやま ろくのすけ)

慶應義塾を退学したうえ、放蕩が祟って家族からも見捨てられ、自暴自棄に陥っていたところで加納周助と出会い、李鴻章への襲撃を後押しされる。下関で李鴻章の心臓を狙いピストルで狙撃するが、負傷させることはできたものの殺害には至らなかった。実在の政治活動家、小山六之助がモデル。

全 琫準 (ぜん ほうじゅん)

加納周助から武器を提供され、全州を攻略する際に役立てた。その後再度武器の提供を受けるも、それが日本に仇なすことになると非難するが、彼の説得を受けその人柄を認める。さらに広東に亡命するように持ち掛けられるが、部下を想いこれを拒否。農民軍を率いて決起するが、敗れて刑死した。実在の人物、全琫準がモデル。

宮崎 寅蔵 (みやざき とらぞう)

孫文が「東京で世話になった同志の一人」として加納周助に紹介した人物。その際にタキの写真を手にしており、惚れた相手と称して彼女の現状を明かした。実在の人物、宮崎寅蔵がモデル。

集団・組織

慶應義塾 (けいおうぎじゅく)

実在する東京の学校。作中では創設者である福沢諭吉が金玉均と会談をしており、加納周助や朴泳孝、和田延次郎らもその場に同席している。

大東流合気柔術 (だいとうりゅうあいきじゅうじゅつ)

『王道の狗』に登場する流派。実在の流派で、武田惣角によって創出された柔術。作中では、「王道」を歩むために力を欲する加納周助が武田惣角本人に教えを乞い習得した。相手より1拍遅れることで逆手を取る、いわゆる「後の先」を否定し、人の発する気に先んじて合わせる「先の先」を重んじている。

柳生心眼流 (やぎゅうしんがんりゅう)

『王道の狗』に登場する流派。実在の流派で、戦国時代の古きから伝わっている伝統武術。作中では小野寺重吾が使い手として現れており、大演武武道大会では加納周助を圧倒する技の冴えを見せた。小野寺重吾本人は「生かしも殺しもできる技」として、この流派に強い誇りを持っている。

場所

石狩道路 (いしかりどうろ)

『王道の狗』に登場する道路の名前。実在する北海道の地名。作中では建設途中で、重罪を犯した囚人たちが過酷な状況で働かされている。加納周助と風間一太郎も同様で、このままでは未来がないと悟った2人は脱走を決意。これが物語の発端となる。

硫黄山 (いおうざん)

『王道の狗』に登場する地名。実在する地名で、北海道に位置する山。作中では釧路集治監の囚人に強制労働を強いており、昼夜の別なく働かされ、硫黄のガスによる病気で多くの人が命を落としている。今次郎吉もかつて収監されていたが、脱走したところを徳弘正輝らに救出されている。

徳弘農場 (とくひろのうじょう)

『王道の狗』に登場する施設。徳弘正輝が拓いた農場で、多くのアイヌが作物を育てている。ニシテも将来は猟師をやめ、この農場で農民としての人生を歩もうとしていた。

札幌農学校 (さっぽろのうがっこう)

『王道の狗』に登場する施設。実在する施設で、北海道に位置する農業学校。作中ではこの学校の演武場にて、大演武武道大会が執り行われている。

永田町 (ながたちょう)

作中では陸奥宗光が国会議員を相手取り、富国強兵のための論理を展開し、手玉に取っている、また、彼と風間一太郎の出会った地でもある。

貸座敷若駒 (かしざしきわかごま)

『王道の狗』に登場する施設。東京へ向かうための資金と名声を得るため、「小春」と名乗るタキが働いている遊郭。女将は仁義を重んじており、憂国義士からはお代を取らない方針を貫いている。

立待岬 (たちまちみさき)

実在する地名で、函館に位置する岬。作中では和田延次郎を拉致した小野寺重吾が、加納周助との決闘の地としてにこの場所を選んだが、返り討ちに遭いこの地で没している。

足尾銅山 (あしおどうざん)

『王道の狗』に登場する場所。実在する銅山で、公害事件で有名。作中でも鉱毒事件が世間をにぎわしており、それに対する酷い対応に怒った田中正造が殴り込みをかけている。また、加納周助が農務省の技官となった風間一太郎と再会を果たした地でもある。

石川島 (いしかわじま)

『王道の狗』に登場する場所。実在する島。東京にあり、造船所や監獄が存在する。加納周助は風間一太郎の策略によってこの監獄に収監されるが、勝海舟によって助け出され、後に造船所であじあ丸を受け取ることになる。

上海 (しゃんはい)

『王道の狗』に登場する場所。実在する地域。作中ではこの地で、加納周助が孫文との邂逅を果たしている。また、李鴻章が金玉均との会談のためにこの場所を選んでいたが、金玉均は朝鮮政府の暗殺者によって襲撃され、この地で命を落としている。

楊華津 (やんふぁじん)

『王道の狗』に登場する場所。実在する地域で、漢陽近郊に位置する。作中では閔妃の要望により、首と四肢を切断された金玉均の遺体をこの場で晒しものとした。加納周助はいつか朝鮮で逢うことを金玉均と約束していたが、皮肉にも遺体との対面という結末を迎えてしまっている。

下関 (しものせき)

『王道の狗』に登場する場所。実在する地域で、本州の最西端に位置している。作中では李鴻章が講和のために訪れ陸奥宗光らと会談をしていたが、その帰路に就いていたところで小山六之助に撃たれている。

イベント・出来事

大演武武道大会 (だいえんぶぶどうたいかい)

『王道の狗』の舞台となった大会。主催者は永山武四郎。札幌の強豪が集い、札幌農学校の演武場にて開かれた。加納周助も大東流合気柔術の代表として参加し、金玉均を護衛するにふさわしい力量を見せようと奮戦するが、準決勝で小野寺重吾に敗北してしまう。

その他キーワード

あじあ丸 (あじあまる)

『王道の狗』に出てくる艦船。勝海舟より加納周助に譲渡され、彼の乗艦として長きにわたり活躍する。進水式の際には陸奥宗光の指示を受けた風間一太郎が爆薬で転覆させようと目論むが、予想以上に厚い装甲に阻まれ、目立った傷をつける事すら叶わなかった。

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