舞妓さんちのまかないさん

舞妓さんちのまかないさん

京都の花街を舞台に、屋形でまかないとして働く少女・野月キヨとともに暮らす舞妓たちの日常を描いた作品。小学館「週刊少年サンデー」2017年5・6合併号から連載。第65回「小学館漫画賞」少年向け部門受賞。2021年2月、NHK WORLD-JAPANにてアニメが配信。同年10月からNHK Eテレでも放映。2023年1月配信ドラマ化。

正式名称
舞妓さんちのまかないさん
ふりがな
まいこさんちのまかないさん
作者
ジャンル
グルメ
 
日常
レーベル
少年サンデーコミックス(小学館)
巻数
既刊25巻
関連商品
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あらすじ

キヨちゃん上京す

京都の真ん中にある花街。その一つであるで働く舞妓さんたちは「屋形」と呼ばれる家で共同生活を送っている。中学を卒業して、青森からやって来た少女、野月キヨも舞妓さん見習いとして、親友の戸来すみれと共に練習を重ねていた。しかし残念ながら力及ばず、市のおかあさんから故郷に帰ることをうながされる。そんな中、舞妓の毎日の食事を担当していたおばちゃんが倒れてしまう。屋形の食糧事情は一気に悪化し、やがて舞妓たちのやる気にかかわる問題に発展する。この状態を見かねたキヨは自ら台所に立ち、屋形にあった素材を使って親子丼を作り上げ、舞妓たちのモチベーションを保つことに成功。こうして屋形の危機を救ったキヨは、そのまま「まかないさん」として働くことになる。

買い出しの日

野月キヨで舞妓たちのまかないを担当するようになってから、約半年の月日が流れた。キヨは朝早くから仕込みに精を出し、美味しい料理を次々と作り出しては舞妓さんたちに振る舞い、次第に「まかないさん」として頼られるようになっていく。そんなある日、キヨは馴染みの店での特価セールで、大根やジャガイモなどの食材を、持っていたリュックと風呂敷がいっぱいになるまで買い込む。キヨは思わぬ幸運に頰をほころばせるが、帰り道に遭遇したおまわりさんから家出の疑いをかけられてしまう。キヨは自らが屋形でまかないとして働いていることを語り、実際におまわりさんを市に連れて行くことで誤解を解く。おまわりさんが自らの勘違いを改めて詫わびると、キヨは快く応じてあまり物で作ったチョコマフィンをプレゼントするが、うっかり夕飯の材料まで使ってしまい、再度スーパーマーケットに買い物に行く羽目になってしまう。

すーちゃん舞妓になる

野月キヨと共に青森から上京して、市で活動することになった戸来すみれは、まかないとして励むキヨを心の支えとしながら、日々踊りの練習に励んでいた。すみれはもともと舞妓としての才能あふれ、誰よりも自分に厳しいことから努力を怠らず、市のおかあさんから「100年に一度の逸材」と期待をかけられるようになり、京都の花街でも注目される。めきめきと頭角を現したすみれは、「百はな」として正式な舞妓に抜擢される。そして、自分の努力が報われたことを大いに喜び、自分を支えてくれたキヨに対して感謝の気持ちを伝える。キヨも親友のすみれが舞妓に選ばれたことを自分のことのように喜び、二人の絆はよりいっそう深まる。すみれはこの結果に驕(おご)ることなく、より高みを目指すために今まで以上に練習に熱を入れる。それを見たキヨもまた、すみれをはじめとした舞妓たちの力になるべく、美味しい料理を作ろうと励むようになる。

花街の年末

舞妓「百はな」として認められた戸来すみれは、市にいる同期の誰よりも早く店だし(デビュー)が決まり、周囲からの期待を集める。その一方で、舞妓としての生活に慣れないことから疲れを見せることもあったが、野月キヨに支えられる形で日々を乗り切っていく。そんな中、京都の花街にも冬が訪れる。まかないの調理のほかに、洗濯や家の掃除などの雑用を一手に引き受けていたキヨは、家の周囲の雪かきを引き受け、それを手伝うすみれと共に故郷である青森を思い出す。さらに、ケーキの代わりに用意したフルーツサンドを囲んで、二人だけのクリスマスを過ごすなど、忙しいながらも充実した日々を送っていた。そして年末。元旦にすみれと共に青森へ帰ることになったキヨは、市のおかあさんから福玉を受け取り、除夜の鐘が鳴り響く真夜中に、すみれと共にそれを開ける。翌日、市のおかあさんから京都のおぞうにをごちそうになった二人は、青森と京都では作り方がまったく違うことに驚きつつも、年始めの朝食を楽しむ。

帰郷

年始め。野月キヨ戸来すみれは、京都を離れて生まれ故郷である青森へと足を運ぶ。キヨは、帰宅早々に家の周りの雪かきをこなし、その寒さから故郷へ戻って来たことを実感する。そして、家を訪れたすみれや中渡健太と顔を合わせて年始の挨拶を交わすと、キヨのおばあちゃんに頼まれたくるみだれの作成の手伝いを行い、その中で思い出話に花を咲かせる。おせち料理やおばあちゃんから振る舞われたおぞうに<キヨちゃん家Ver>を食べ終えた三人は、初もうでのため近所の神社へと向かい、境内でそれぞれ願掛けを行う。そして、一年に向けて気持ちを改めるとキヨのおばあちゃんや健太に別れを告げ、京都へと戻るのだった。

今日もあの時も

2月を迎え、節分の季節がやって来た。京都の花街では、定例の行事であるお化けの開催が間近にせまり、に所属する舞妓たちは仮装するための衣装の用意に追われていた。家の舞妓たちは、『金色夜叉』や『西遊記』に登場する三蔵法師のまとう衣服など、さまざまな衣装を夜通し用意していた。あまりの忙しさに舞妓たちが精神的に参る中、百子さん姉さんのための衣装を作っていた戸来すみれも混乱の渦に巻き込まれ、気分転換のための軽食を出そうとする。そこに折よく現れてすみれから事情を聞いた野月キヨが、お夜食ホットドッグを用意したことで、舞妓たちは気力を取り戻す。舞妓たちと共に作業を進めていたすみれは「お化け」つながりで、かつて青森の高校での文化祭で、お化け屋敷の出し物を展示したことを思い出す。高校時代も今と変わらず努力家だったすみれは、構想していた形の出し物を実現するため、担任や同級生たちに時間ギリギリまで作業をするよう誘うが、すみれの熱意についていけなかった彼らから敬遠されてしまう。しかし、クラスメイトの中渡健太が協力を申し出て、さらにキヨも手伝うこととなり、小休憩のためにおいなりさんを作る。担任から居残りの許可を得たキヨ、すみれ、健太の三人は夜まで作業に没頭し、やがてすみれの構想どおりのお化け屋敷を作り上げることに成功する。そして翌日、キヨたちの当日の奮闘もあってすみれたちのクラスのお化け屋敷は大きな話題を呼び、新聞部主催の「全校出し物ランキング」のトップに選ばれる。

みんなのすきなもの

野月キヨは珍しく、晩御飯の献立に悩んでいた。そこで、食材から料理を選ぼうと思い立ち、買い物に出かける。商店街を巡ったキヨは、スーパーマーケットで卵を、八百屋で大根とジャガイモを安価で購入して料理をあれこれ思案する。その結果、京都土産屋からさつま揚げセットを勧められたことが決定打となり、メニューをおでんに決める。無事に夕飯を乗り切ったキヨは、片付けの最中に自作の紅ショウガを発見し、小学生の時キヨのおばあちゃんに作ってもらった運動会のお弁当を思い出す。運動会当日、戸来すみれ中渡健太と共に紅組に選ばれたキヨは、友達の応援に熱を入れ、声が枯れてしまうまで応援を続ける。そして、昼休みにすみれたちといっしょにキヨのおばあちゃんが作ったおいなりさんに舌鼓を打つと、午後に行われる徒競走の出場に備える。一方のすみれと健太は、校庭でアイスを売る屋台を発見する。午前の競技で負けてしまった健太は、自分の分も頑張って欲しいという願いを込めてすみれにチンチンアイスをおごり、激励する。彼の檄(げき)を受けたすみれも奮起するが、アクシデントによって膝にケガを負う。さらに、キヨも徒競走の最中で転倒するが、それでもめげずに最後まで走り切る。キヨの奮闘に勇気づけられたすみれは、ケガを押して最終種目のリレーに出場する。そして、ほかのチームの選手たちを次々に追い抜き、紅組の優勝に貢献した。

すーちゃんのお休みの日

戸来すみれは、月2回の公休日を翌日に控える。久々の休みを前にしたすみれは、舞妓の仕事をしっかりとこなしていたものの、野月キヨからふだんは食べられないギョウザを振る舞ってくれることから、浮ついた気持ちを隠せずにいた。公演を終えたすみれはキヨの作ったギョウザ(明日休みの人用)の味を楽しみ、気分を高揚させたまま床に就く。翌日、久方ぶりの休日を迎えたすみれは、同じく休みをもらっていたキヨを伴い、仲間の舞妓たちから頼まれた買い出しをこなしつつ、かつて青森で食べたチンチンアイスに似た形の三段アイスを食べたりして、舞妓ではなく一人の女の子として京都の散策を楽しむ。それから、スーパーマーケットで家の料理のための食材を買っていたところ、共に買い物に出掛けていたキヨに対して、自分も調理場に立って、舞妓たちのまかないを作りたいと頼み込む。キヨの協力を得たすみれは、スーパーマーケットで買った食材の一部と、先日キヨが作ったギョウザの材料の残りを使ってスコッチエッグを作る。お代わりをねだる舞妓も現れるほどの好評を得たすみれは、キヨから毎日のご飯を用意してもらえることがどれだけありがたいことかを改めて思い知る。そして、自分たちを支えてくれているキヨに対して改めて心の中で感謝をすると、彼女に報いるために一層舞妓として励むことを心に誓う。

あたらしい仕込みさん

野月キヨ戸来すみれが京都の花街で暮らし始めてから、1年の月日が経とうとしていた。あいさつ回りを終えたすみれは、キヨが用意したミートボールを中心とした夕食で疲れを癒していたが、そこに市のおかあさんが現れ、市の屋形に新しい舞妓の候補が入ってくることを告げられる。翌日、舞妓の見習いとして理子が訪れる。理子は、市のおかあさんから直々に舞妓になるための覚悟を問われるが、緊張していたことから彼女の言葉がまるで耳に入らない。そんな時、給仕をしていたキヨから差し入れられたウィンナコーヒーを口にして落ち着きを取り戻した理子は、改めて自らの信念を口にする。こうして花街の仲間入りを果たした理子は、花街の生活に慣れようと励んでいた。そんな中、着飾ったすみれを一目見ただけで心を奪われ、彼女を慕うようになる。さらに、彼女の誘いに応じてキヨの作った牛丼を食べたところ、その味に満足して、ウィンナコーヒーの件もあり、キヨにも一目置く。花街での生活に慣れてきた理子は、やがてつる駒さん姉さんと芸姉妹の関係となり、彼女から花街について学ぶことになる。しかし理子は、つる駒さん姉さんをすみれやキヨのように慕う気になれず、「メガネ先輩」と呼ぶなど、どこか軽んじている様子を見せる。そして、互いに意地っ張りな性格ということもあり、ついケンカになってしまう。その事実はすぐに仲間の舞妓たちに知れ渡り、仲直りするよううながされるが、二人は反発するばかり。理子は気分転換のために、キヨの料理を手伝おうとするが、そこには同じ目的を持ったつる駒さん姉さんがおり、なし崩し的に共同作業を行う。手伝いを終えた二人は、互いにぎこちない様子を見せつつも、ひとまずは互いに歩み寄りを見せる。

キヨちゃんのケーキ

舞妓の見習いとして京都の花街にやって来た理子は、市での生活に次第に慣れていく。その中で、ますます戸来すみれに惚れこみ、彼女の籠持ちを率先して行うようになる。よくも悪くも直情的な理子は、すみれ目当ての観光客の取った行動が失礼だと思い、嫉妬もあって威嚇するような姿勢を見せてしまう。それがたまたま男衆のお兄さんの目に留まり、舞妓が他者を睨(にら)んだりするのを見せられるのは、衣装を作る一人として悲しみを感じると諭される。そして男衆のお兄さんの言葉や、すみれの堂々とした振る舞いから、舞妓が多くの人々に希望を与えていることを改めて実感する。そんな中、すみれの誕生日が目前にせまっていた。舞妓たちのためにロールキャベツを作り、そのあと片づけを行っていた野月キヨは、通りがかったすみれに対して誕生日プレゼントのリクエストを尋ねたところ、バースデーケーキをねだられる。翌日、これまでにないほど真剣な表情で洋菓子のレシピブックと向き合い、気合を入れてスポンジケーキを焼き上げるが、そこに疲れた様子の市のおかあさんが現れる。キヨは、多忙のため朝食すら取っていない市のおかあさんのために、スポンジケーキを削っていちごオムレットを作り、さらにそれを見ていた仲間の舞妓たちにも振る舞う。これによって、すみれのためのケーキ作りに大きな支障が発生するが、余った材料を使ってお誕生日ティラミスを作る。その夜、公演を終えたすみれは、キヨ特製のティラミスを感動しつつ口にする。そして、小さなバースデーケーキに込められた気持ちを感じ取ると、キヨに深い感謝を示す。

春のをどり

京都は春を迎え、桜の鑑賞を楽しむ観光客で大いに賑わっていた。京都のアイコンの一つである舞妓たちも、宴会や撮影会に昼夜を問わず呼ばれ、今までにないほど忙しい日々を送っていた。そんな中、春の一大イベントである春のをどりが近づき、戸来すみれも参加者の一人として名を連ねることが決まる。さらに野月キヨも、市のおかあさんから「大ざらえ」と呼ばれるリハーサルの見学を許されたことを聞かされ、すみれの晴れ舞台を間近で見られることに心を躍らせる。中学時代に、すみれへのご褒美としてあずきばっとを作っていたことを思い出したキヨは、夜食として昔と同じあずきばっとを作る。おおざらえ当日、キヨは市のおかあさんに連れられ、劇場の広大さに大いに驚き、この大舞台ですみれが行う公演を心待ちにする。一方、舞台袖で準備をしていたすみれは、今までにない規模での公演に、わずかながらプレッシャーを感じていた。そして、おしろいの衣装への付着を防ぐための手袋をつけると、小学生時代に参加したピアノの発表会を思い出す。現在と同じように緊張していたすみれは、キヨから寒さへの対策として手袋を受け取ったうえ、ほうじ茶をごちそうになったことで落ち着きを取り戻し、みごと演奏を成功させていたのである。当時を思い出してリラックスし、さらに理子からキヨが見学に来ていることを聞かされたすみれは、平常心を取り戻して大ざらえに臨む。 

お母さんの日

5月も2週目を迎え、市の舞妓たちは「母の日」に向けた準備に追われていた。舞妓たちにとっての母は、「自分の屋形のお母さん」や「小物屋のお母さん」「お茶屋のお母さん」など複数存在し、彼女たち全員に感謝の気持ちを伝えることが通例となっていた。ほかのお母さんにプレゼントを済ませた舞妓たちは、市のおかあさんに対して何をプレゼントしようか話し合う。その中で、自分より家の舞妓たちを優先する彼女の意向でなかなか使ってもらえないことから、今年はみんなの目の前で使ってもらえるような工夫をしたいという意見が出される。さらに、野月キヨがプレゼントとしてお菓子を準備していることと、ごはんの時間は市のおかあさんが確実にみんなといっしょにいることに着目し、食事中にサプライズパーティーを開く計画が持ち上がる。そして、キヨの協力を仰ぎつつよくばりクレープを焼き上げて、当日の食事の時間に振る舞う。しかし市のおかあさんは、自らが娘たちのために励む「お母さん」であることを願い、自分一人でなく、キヨやすみれたちと共によくばりクレープの味を楽しむ。舞妓たちは、市のおかあさんがつねに自分たちを思いやってくれていることを改めて実感する。

出前で三食

戸来すみれつる駒さん姉さんたちのあいだでは、あるグルメ雑誌に載っていた「ステーキ丼」がひそかなブームになっていた。だが、舞妓はイメージを維持するために行列グルメに並ぶことができないためあきらめるほかなく、すっかり意気消沈していた。この姿を見た野月キヨは、理子と共にスーパーマーケットで牛ステーキ肉を購入し、これを調理して屋形の舞妓たちに自作のサイコロステーキ丼を振る舞う。舞妓たちは思わぬ食事に喜び、キヨに感謝する。しかしその夜、キヨはインフルエンザにかかってしまい、しばらく台所に立てなくなる。すみれは、小学生時代にキヨがカゼで倒れた時のことを回想していた。当時のすみれはキヨを心配するあまりつねに泣き顔になり、習い事を休んでまで彼女の家で看病をしようとする。しかし、キヨのおばあちゃんから、すみれが悲しそうな顔をするとキヨまで悲しくなってしまうと諭され、剝いてもらったリンゴをなかよく分け合い、自然と笑顔を見せる。その時からリンゴは、二人の思い出の一つとなり、それを思い出したすみれは仕事帰りにリンゴを剝いて、キヨに振る舞う。屋形ではキヨが倒れた影響により、出前を取ることを余儀なくされていた。市のおかあさんの意向で、好きなものを頼めることに舞妓たちは喜ぶが、次第にキヨの料理が食べられないことに物足りなさを感じるようになる。やがてキヨは回復し、屋形には久しぶりに彼女の作った朝食が並ぶ。舞妓たちは久しぶりの朝食を懐かしむと共に、キヨの回復に安堵(あんど)と歓喜を覚える。

神様にお願い

ある日、の屋形にキヨのおばあちゃんから鉄製のフライパンが届けられる。野月キヨは、屋形で使うフライパンに扱いづらさを感じており、青森で使っていたフライパンを届けるよう頼んでいたのである。戸来すみれは、フライパンの入っていた段ボールに、新聞の切り抜きを発見する。そしてキヨと共に紙面を確認し、中渡健太がエースピッチャーとして活躍した結果、彼の高校が春季県高校野球選手権大会に優勝し、東北地区大会への出場を決めたことを知る。キヨはすぐに、健太の家に祝いの電話をしようとするが、電話によって自らの舞妓としての活動に支障が出ることを懸念したすみれから、今は練習に忙しいだろうからと引き留められる。翌日、朝食の準備をしていたキヨは、すみれから球技全般にご利益のある神社の存在を聞かされる。そして、東北地区大会まで休みの取れないすみれの代わりに、キヨがお詣りに行くことが決まる。小学生時代、健太が野球を心から楽しんでいることを知っていたキヨは、お守りを購入する。屋形に戻ったキヨは、仕事を終えたすみれと共に、お守りと二人で作ったマドレーヌを入れたプレゼントボックスを、健太の住む青森に送る。これを受け取った健太は、友人たちからの激励を静かに喜び、左腕にお守りを身につけて全力を尽くすことを誓うのだった。

キミを訪ねて半年ぶり

6月になり、京都の花街も修学旅行シーズンを迎える。中渡健太は、通っている高校の修学旅行で京都に行くことが決まり、久しぶりに野月キヨ戸来すみれと会える可能性が生じたことに胸を躍らせる。そして修学旅行当日。健太は見学の合間を縫っては、片思いの相手であるキヨがいないかと探して回るが、いかんせん京都は広く、会う約束もしていなかったために姿を見つけることはできないでいた。気晴らしにロンドン焼を購入し、友人に付き合って恋みくじを引いてみるも、そこに書かれていたのは「待ち人来ず」という非情なものだった。健太は思い切って、自由時間のあいだにキヨやすみれの暮らす花街へと足を運ぶ。そこで舞妓目当ての観光客たちが騒いでいる声を聞き、その場所で目にした舞妓はなんとすみれ本人だった。すみれもまた片思いの相手だった健太に見つかったことで強く動揺する。すみれはその場をなんとか乗り切り、健太を屋形の玄関に待たせてキヨを連れてこようとするが、折り悪く彼女は外出中だった。さらに、健太が今日の新幹線で帰ってしまうことを知ると、健太にキヨを待つように伝えて仕事に戻る。そして仕事上がりに屋形に戻るが、そこではキヨが台所でのんびりしていた。彼女は買い出しが忙しく、健太とは年始に会えればいいと考えて早々に会うのをあきらめていたのだ。しかしすみれは、健太と彼女を一目会わせたいと考え、健太から聞いていた予定を確認して、彼がいるであろう三十三間堂へと向かう。こうしてキヨと再会を果たした健太は、甲子園大会への出場を目指しており、実現の暁には二人に応援に来て欲しいと告げる。

二人の道のり

京都の花街にも夏が訪れ、気温の高さと日差しの強さが本格化する。に所属する舞妓たちは、おしろいの乗りが悪くなることから紫外線に人一倍敏感になり、日焼け止めを塗ることを余儀なくされる。しかし理子は、中学時代から日焼け止めに抵抗があり、現在も塗ることに抵抗を感じていた。理子を案じるつる駒さん姉さんは、野月キヨに日焼け止めによさそうなメニューを頼もうとするが、頼りっぱなしはよくないと考え直し、理子に対して舞妓が紫外線を避ける重要性を説き、日焼け止めを導入させることに成功する。そんな中、戸来すみれがカゼを引いてしまうが、以前のキヨのようにインフルエンザというわけではなかったものの、喉を腫らして声が出なくなり、市の屋形で休むことになる。すみれを案じるキヨは、いつも以上に気合を入れて買い出しに出かけ、小学生時代にすみれがカゼを引いた際、お見舞いで差し入れたフルーツゼリーの材料を買い込む。さらに、舞妓たちの昼食を作ると、すみれのために干し貝柱のおかゆを用意する。食器の片づけに訪れたつる駒さん姉さんと理子は美味しそうなおかゆに見惚れるが、そこにすみれが現れる。すみれは現在も声を出せない状態が続いていたが、キヨは彼女を一目見るなり飲み物を所望していることを見抜き、喉の回復に役立つ白湯を差し出す。喉を潤したすみれは、寝床で干し貝柱のおかゆを食べ終えると、キヨと共に眠りにつく。つる駒さん姉さんと理子は、言葉がなくても通じ合える二人の絆に感動する。

健太に起きたこと

7月。京都の花街では祇園祭が執り行われ、今までにない熱気に包まれていた。に所属する舞妓たちも暑さにてんてこ舞いになり、野月キヨはそんな彼女たちのために冷たいレアチーズケーキを用意する。一方、戸来すみれは、祇園祭のみならず、中渡健太の通う高校の野球大会の勝敗にも強い関心を寄せる。そして、その様子に感づいたキヨに対して、もし健太が甲子園に出場できた場合、二人で甲子園まで応援に行こうと約束を交わす。すみれの健太に対する思慕の情はいっそう深まり、祇園祭を共にしていた百子さん姉さんからも、ますます美しくなったことに加えて、その表情から好きな人がいるのだろうと指摘される。そして、芸舞妓に昔から伝わっているという無言詣りを勧められる。その夜からすみれは1週間無言詣りを続けて、7日目の夜にいよいよ願い事をするため境内に立つ。そして、自らの恋が成就することを願おうとするも、キヨが気になっていることに薄々感づいていたことから思い直し、すみれ自身ではなく健太の思いが成就することを願う。それからも、すみれは健太の活躍が気になり、休憩の時間を見つけてはテレビやラジオで試合の情報に一喜一憂していた。しかしある日、健太の所属する高校がコールド負けを喫したという、信じられない結果が届く。さらに、その試合に健太は登板していなかった。すみれは混乱する中、健太と親しい間柄であるキヨのおばあちゃんからの電話を受け、それとなく健太の様子を聞き出そうとする。すると、健太は投球練習で負傷し、二度とマウンドに立てなくなってしまったことを聞かされる。最悪の事態となったことですみれはしばらく呆然とし、帰って来たキヨにすがりついて涙を流す。キヨはすみれを優しく抱きしめると、「何が起こってもすみれと健太は変わらない」と慰める。 

一時帰郷…青森へ

中渡健太の身に起こった悲劇を聞かされた戸来すみれは、悲しみに飲まれそうな自分に負けまいと奮起し、ビアホールでの公演でみごとな舞を見せ、いつも以上に力を出し尽くす。そんな中、親戚であるちかちゃんの結婚式を控えていたすみれは市のおかあさんから連休をもらい、出席するために青森に帰ることとなる。すみれは健太に会いたいという気持ちと、ケガで野球ができなくなった彼にどんな言葉をかければいいかわからず悩んでいた。しかし、野月キヨとのやり取りの中で、健太は窮地にあっても他者に八つ当たりをするような人ではないと思い返し、青森へ帰る決意を固める。ちかちゃんの結婚式に出席したすみれは、彼女から恋愛の話を振られるや否や、健太を思い出して赤面する。結婚式後、すみれは青森の街を一人で歩いていると、偶然健太と出会う。健太は右腕にケガを負って投手として活動できなくなったものの、野球自体は続けており、その様子もふだんと変わりなかった。すみれはその様子に安堵しつつ、共にキヨの家に向かう。そして、キヨのおばあちゃんと顔を合わせて、あんずのしそ巻きをごちそうになると、その帰り際にすみれは、キヨから預かっていたパンの耳ラスクを、お土産として健太に手渡す。健太は、思いを寄せるキヨからのお土産を喜び、滅多に見せない満面の笑顔でパンの耳ラスクを味わう。

いざ愛宕山へ

青森から京都の花街に帰って来た戸来すみれは、野月キヨと再会したことで、いつもの日常に戻ったことを実感する。そして、キヨがかつて言ったとおり、健太がいつもどおりの姿勢を崩さなかったことを改めて喜び、すみれは舞妓としての技量をますます向上させようと奮起する。7月31日の夕方が訪れると、キヨはおばちゃんから火伏の神様と呼ばれる愛宕神社のお札についての話を聞かされ、強い興味を抱く。さらに、7月31日から8月1日にかけて愛宕神社にお参りすると約3年ものあいだご利益を受けられることを聞くと、自ら愛宕山を登る計画を立てる。愛宕神社までの道のりは険しく、キヨ自身も身体が丈夫な方ではなかったため、屋形の舞妓たちからはやめるよう助言される。だが、すみれから自作のすーちゃんのおにぎりを渡され、激励されたことで登山する決意を固める。その夜、キヨは愛宕山の登山道を順調に進み、やがて五合目にまで到達する。そして、疲れを癒すために休憩所のベンチに腰を下ろしていると、参拝者の家族に声をかけられる。彼らは、息子が3歳までに愛宕神社を参拝すると火事に遭わないという言い伝えから、三人で愛宕山を登っていたが、息子がこれ以上登ることを嫌がったため、あきらめて降りるというものだった。しかし、息子がキヨと話しているうちにやる気を取り戻し、四人で残りの道を進むことになる。その後、愛宕神社に無事たどり着いたキヨは、お札を持ち帰って台所へと貼り付ける。そして、徹夜の疲れも見せないまま、迎えてくれたすみれと共に朝食の準備を始める。

夏休みの過ごし方

8月中旬。京都の花街はお盆を迎え、市の舞妓たちも3日間の夏休みを迎える。舞妓たちは地方出身者が多く、夏休みは故郷に帰るのが通例となっているが、戸来すみれは数週間前に青森に帰ったばかりで帰郷を見送り、野月キヨもまた、すみれや市のおかあさんと共に京都に残ることを選ぶ。キヨたちは、折角の夏休みを有効活用するための計画を立てる。そして、すみれは京都のガイドブック、キヨはホットコーヒーを用意して話し合う。しかし、予定を決められずに終わってしまうものの、二人は互いに楽しいひとときを過ごせたことに満足する。翌日、すみれは市のおかあさんからゆっくり休むようにうながされるが、休み慣れていないすみれは、どうやって時間を潰そうか悩んでいた。そして、ふだんやらないことをやろうと思い立ち、掃除や洗濯に精を出すも、持ち前の優秀さからすぐに終わらせてしまう。そんな中、春のをどりを録画したDVDを発見したすみれは、百子さん姉さんの晴れ姿に感動したり、自分の至らないところを見つけて今後の課題にするなど、結局は舞妓としての勉強の一日を過ごす。一方キヨは、市のおかあさんやすみれのために昼食を作ろうとするが、そんなキヨを思いやる二人は、彼女を休ませるために昼を外食で済ませようとする。当てが外れたキヨは、とりあえず自分が食べるためにラタトゥイユパスタを作るが、いつもの癖で作りすぎてしまう。そこに、一人での外食が味気ないと感じたすみれと市のおかあさんが帰って来て、持ち帰りした料理とラタトゥイユパスタを分け合う。

鴨川にて

季節は流れ、京都の花街には野月キヨ戸来すみれが訪れてから2度目の秋が訪れる。すみれは、ある公演のお座敷で、百子さん姉さんと偶然遭遇する。すみれの舞を見た百子さん姉さんは、すみれがさらに上達していることを喜び、客に対して自慢の妹であると誇って見せる。そして10月。秋にしては暑いことから衣替えを見送ったすみれは、青森から菊とキノコが送られてきたことをキヨから聞かされ、共に菊を食材として利用するため花をもぎ取っていると、キヨや中渡健太と共にキヨのおばあちゃんの手伝いをしたことを思い出す。数日後、休日を迎えたすみれは、百子さん姉さんから神頼みの大切さを説かれ、同じく休みだったキヨを伴い、「日本第一美麗神」と呼ばれる美容にまつわる神を祀る神社にお詣りへ向かう。そして、すみれは百子さん姉さんのような素敵な舞妓になれるようにと願う。願掛けを終えた二人は鴨川で休憩を取り、キヨが用意した干し柿とチーズのマフィンを味わうなど、のんびりとした時間を過ごす。そんな中、不注意によりキヨが川に落ちそうになってしまうが、彼女を助けたのはなんと青森にいるはずの健太だった。すみれはいきなりの再会を大いに驚くが、健太は京都で就職して暮らすことを伝えると、二人の前から立ち去ってしまう。

新しい街

戸来すみれは、中渡健太が突然京都に現れたことに驚きつつも、これからはつねに彼に会えることに喜ぶ。野月キヨもまた、かつて健太のために作っていたパンの耳ラスクを焼き上げるなど、健太の存在が二人の生活に波紋を投げかける。そんな中、すみれがデビューを果たしてから1年が過ぎ、市のおかあさんから新しいかんざしを手渡される。すみれはそれを真っ先にキヨに見せようと、その場に居合わせることを希望する市のおかあさんと共に台所に向かうが、キヨは買い出しに出ており不在だった。二人はコーヒーを飲みながらキヨの帰りを待つが、そこに男衆のお兄さんが現れ、健太の住所が記された名刺を渡される。

健太の日々

中渡健太は、夏休みが終わると同時に通っていた高校を退学し、京都に引っ越して来る。そして、ほぼ着の身着のままで洋食店「キッチンしらさぎ」のドアを叩き、見習いコックとして雇われる。慣れない環境での仕事は厳しかったが、生真面目で我慢強い健太は一生懸命に働き続け、先輩コックのセイちゃんキッチンしらさぎのウェイトレスの仲間たちとも次第になじんでいく。そんな中、野月キヨ戸来すみれがキッチンしらさぎを訪れると、健太は彼女たちのために自分の給料から天引きしてオムライスをごちそうするという気遣いを見せる。健太はキヨやすみれとわずかながら邂逅(かいこう)を果たすが、言葉を多く交わすことなく、互いに変わっていないということを確認しつつ別れる。キヨとすみれが京都で生き生きとしていることを改めて実感した健太は、自分も負けていられないと奮起し、朝から晩までの重労働をこなしていく。三人はそれぞれの仕事に懸命に励み、やがて季節は冬を迎える。キヨは、青森に住んでいた時、雪の降る朝にひっつみ汁を食べていたことを思い出し、さっそくの屋形の朝食として用意する。すみれは食卓でひっつみ汁を見て、窓の外を覗いて冬の訪れを実感する。健太もまた、京都の冬も青森と変わらず寒いことをひしひしと感じ、キヨの作るひっつみ汁を懐かしむ。

3人並び

京都の花街は年末を迎え、野月キヨ戸来すみれは、2度目の帰郷の準備を進めていた。だがキヨとすみれは、互いの帰郷日が別になったため、消沈してしまう。一方の中渡健太は、金がないという理由から、今年は帰郷せずに京都の家で料理の勉強に励もうと考えていた。しかし、キッチンしらさぎのシェフから自腹で購入した青森までの切符を渡されると、健太は彼の心遣いに感謝する。すみれは大みそかの日に先んじて青森への帰路につき、つる駒さん姉さんも、母親とケンカしていたことから帰郷を渋っていたが、和解したことで故郷に顔を出す決意を固める。さらに、予定より早く舞妓全員が屋形を出たため、キヨも早めに帰郷できるようになる。キヨは先に屋形を発ったすみれに追いつき、同じ新幹線の自由席で青森へ向かう。そして、キヨの作ったからあげ弁当ふたつやすみれが駅で購入した「よくばり弁当」と呼ばれるご当地弁当の味を楽しむ。一方、健太も新幹線に乗るが、奇(く)しくもキヨたちと同じ車両に乗り合わせていた。三人はこの偶然を喜び、共に青森へと向かうのだった。

おこたでいっしょに

同じ新幹線に乗って青森へと帰郷を果たした三人は、まずはそれぞれの家に赴く。野月キヨは、母親が祀られている仏壇と向かい合い、今年も京都で元気に役割を果たせたことを伝える。そして、キヨのおばあちゃんを手伝い、二人でおせち用の栗きんとんを作る。中渡健太は親戚たちに挨拶に回り、京都のキッチンしらさぎに就職したことを伝えるが、酔っぱらったおじさんから絡まれてしまう。困っていたところを健太の姉に助けられ、相変わらず無口であることに苦言を呈されつつも、立派な料理人になるようエールを送られる。戸来すみれも家に戻るが、すみれの母親は舞妓になることに反対しており、現在も互いにぎこちない様子を見せる。半年ぶりに自分の部屋に入ったすみれは、部屋にたまったホコリを除くべく掃除を始める。そこですみれの母親から、舞妓になることに完全には賛成できないが、キヨといっしょにいるのなら安心できると言われる。大晦日の夜、キヨの家に集まった三人は、かつてみんなでキヨのおばあちゃんを看病した時のことを思い出す。そして、その時から思い出の一つとなったりんごを、キヨのおばあちゃんを交えた四人で食べながら、年明けと同時に初もうでに出かけることを決める。しばらく休んだあとにキヨが年越しそばとして作ったカレー南蛮の味を楽しんだあと、初もうでに向かうため夜道を歩き出す。

ヒーロー見参

新年を迎え、野月キヨ戸来すみれ中渡健太は京都に戻り、それぞれの生活に戻る。すみれは、百子さん姉さんと共に奨励賞を獲得し、ますます舞妓として人気となっていた。二人は休憩時間に受賞を祝うため近くの喫茶店に赴き、すみれは百子さん姉さんに驕ってもらったスペシャルなパフェを味わい、満面の笑みを見せるが、それを百子さん姉さんからスマートフォンで撮影されてしまう。これが彼女なりの愛情表現であることを知るすみれは、恥ずかしがりながらもそれを受け入れる。そして、休憩時間終了後、百子さん姉さんはキッチンしらさぎで常連客の接待を行う。そこでもすみれの話を延々と聞かせて客をやきもきさせつつも、つつがなく会食を終える。しかし百子さん姉さんは、今後の予定が記されたスマートフォンをキッチンしらさぎに忘れてしまう。これを知ったすみれは、彼女のためにスマートフォンを取りに行こうとするが、次の仕事が控えていたことを思い出す。そこでキヨがすみれの代わりに取りに行くことになり、さっそくタクシーでキッチンしらさぎに向かう。そこでは健太がスマートフォンを預かっており、それを受け取ったキヨはすぐに引き返そうとするが、タクシーに乗れずに途方に暮れる。そこで健太が自転車に乗って、キヨの代わりにすみれにスマートフォンを届ける。彼からスマートフォンを受け取ったすみれは、自分がキヨと健太に支えられていることを、改めて実感する。

春のをどり、再び

3月。京都の花街では、再び春のをどりの期間となり、市でも多くの舞妓たちが練習のために忙しい日々を過ごしていた。天性の才能を持ちながら高みに至る努力を惜しまない戸来すみれは、次第に市の新人舞妓のエースとして注目されていく。しかし、すみれ自身は「百はな」としては確かにあこがれの存在なのかもしれないが、一人の少女としては決して立派なものではないと思い悩む。一方の野月キヨは、懸命に励む舞妓たちのためにまかないを作り続け、やがて市の舞妓のみならず、ほかの屋形の舞妓からも頼られるようになる。また中渡健太も、ふだんはいい加減に見えるセイちゃんが、実際は幼い頃から料理に打ち込んでいる努力家であることを知り、野球に未練を残している自分と葛藤を始める。すみれは大ざらえも無難にこなし、いよいよ2回目の春のをどりを迎える。そしてステージ公演をつつがなくこなし、百子さん姉さんと合同で開いたお茶席で大きな人気を集めるなど、順調に活躍していた。しかし最終公演日の朝、アクシデントから足にケガを負ってしまう。すみれは、ケガを押してでも公演をやり遂げたいと主張するが、市のおかあさんから娘のように思っている舞妓の足をこれ以上悪くすることは許せないと断ぜられ、それでもやり切りたいなら、その理由を示すようせまられる。すみれはその理由がすぐには浮かばないことに呆然(ぼうぜん)とするが、そこに百子さん姉さんから連絡を受けた健太が現れ、キヨが焼き上げたパンの耳ラスクを渡される。すみれは、舞妓の仕事を心から愛している自分と、そんな彼女を応援してくれるキヨと健太の存在に勇気づけられ、再度市のおかあさんに公演への参加を頼み込み、それを許される。そして最後の公演を成功させると、いつも背中を押してくれる健太とキヨに改めて感謝の意を伝える。

メディア化

WEB・テレビアニメ

2021年2月から、本作『舞妓さんちのまかないさん』のWEBアニメ版『舞妓さんちのまかないさん』がNHK WORLD-JAPANで配信された。制作はJ.C.STAFFとNHKエンタープライズが担当した。監督は鈴木洋平、シリーズ構成は山川進が務めている。キャストは、野月キヨを花澤香菜、戸来すみれをM・A・O、市のおかあさんを松田颯水、百子さん姉さんを片貝薫、中渡健太を高山みなみが演じている。2021年10月2日からは、NHK Eテレでも放映された。

配信ドラマ

2023年1月12日よりNetflixにて配信。総合演出は是枝裕和。主人公の野月キヨを森七菜が演じる。

登場人物・キャラクター

野月 キヨ (のづき きよ)

中学生の頃に見た舞妓さんの姿にあこがれ、卒業後に青森から市へやって来た少女。年齢は16歳。母親はすでに他界しており、それ以来親身になって面倒を見てくれたキヨのおばあちゃんを誰よりも大切に思っている。湯たんぽが大好きで、冬になるとしょっちゅうふところに忍ばせている。幼い頃から料理が得意で、ひっつみ汁やパンの耳ラスクなど、さまざまな料理を作っては戸来すみれや中渡健太、キヨのおばあちゃんに振る舞っていた。愛らしい外見をしているものの、踊りの才能は微妙。何度も失敗を重ねた結果、市のおかあさんに早々と見限られて故郷に帰ることをうながされてしまう。その時、市でまかないを務めていたおばちゃんが倒れ、代わりに台所に立つことになり、料理の腕を認められ正式にまかないさんとなる。明るく前向きな性格で、舞妓として活動できなかったことにもあまりショックを受けていない。また、すみれが成功すると自分のことのように喜ぶなど、友達思いなところがある。小学生時代は運動会でケガをしながらも最後まで走り続け、京都でも愛宕山を夜どおし登り切るなど、おっとりとした物腰とは裏腹に人一倍の根性を見せる。その反面、一つのことに集中しすぎるあまりに周りが見えなくなったり、気分転換のために料理や調理道具を使って一人芝居を行うなど、少々抜けたところがある。すみれにとってはかけがえのない存在の一人で、精神的にも癒されている。健太からは、大抵のことには動じない度胸と、いつも自分やすみれを思いやる姿勢に惹かれ、やがて思いを寄せられるようになる。しかし、野月キヨ自身は色恋沙汰に疎く、すみれが健太を好きなことも、健太から好かれていることにも、まったく気づいていない。

戸来 すみれ (へらい すみれ)

野月キヨの幼なじみの少女。年齢は16歳。キヨからは「すーちゃん」と呼ばれている。キヨと同じく舞妓さんにあこがれ、いっしょに青森から京都にやって来た。ストイックな性格の努力家で、天性の才能と自分を磨く向上心を併せ持ち、市のおかあさんや師匠はんから「100年に一度の逸材」と称される。その才能を早々に開花させ、「百はな」の芸名でデビューを果たす。さらに人気を集めている百子さんねえさんと芸姉妹の関係を結び、彼女と共に奨励賞を獲得する。身の回りのことをほとんど一人でこなし、外見も整っているため、市の舞妓仲間からも尊敬されている。一方で自分に自信が持てず、努力を怠らない姿勢は性格に起因している。軽い妄想癖があり、舞妓の姿で屋形に帰る途中で「からあげが食べたい」と口にしてしまい、通行人を驚かせたこともある。一つのことに真摯に取り組むキヨや中渡健太を子供の頃から頼りにしており、やがて健太に対して恋愛感情を抱くようになる。しかし、今の関係を崩したくない思いと、のちに健太がキヨに思いを寄せていることに気づいたことで、現在も打ち明けられずにいる。すみれの母親からは舞妓になることに反対されており、実際に舞妓になってからもぎくしゃくした関係が続いていたが、2回目の帰郷の際に彼女が内心でずっと思いやっていてくれたことを知り、和解する。春のをどりの参加経験もあり、2度目に参加した時は特に観客の目を引き、百子さん姉さんと並んで京都から注目の的となる。千秋楽の朝、アクシデントによって足にケガを負い、市のおかあさんから出場を止められそうになる。だが、百子さん姉さんから連絡を受けたキヨと健太にエールを送られることで奮起し、千秋楽を最後までやり遂げる。この経験から、舞妓としての活動に打ち込むことで、キヨと健太に報いようと考えている。

市のおかあさん (いちのおかあさん)

市の屋形で女将を務めている女性。年齢は二十代後半。知り合いの舞妓からは「市っちゃん」と呼ばれている。花街の女将さんの中では年が若いために気苦労が多いが、舞妓という仕事に強い誇りを抱き、そのひたむきな姿勢から花街の関係者から信頼を寄せられている。市の屋形に住んでいる舞妓を自分の娘のようなものだと考えており、練習時は厳しく指導しながらも、つねに彼女たちのことを思いやっている。このことから市の舞妓たちからは「市のおかあさん」と呼ばれ、慕われている。プライベートでは単独行動を取ることが多く、練習や夜の食事以外は屋形の舞妓たちと顔を合わせる機会を持てずにいる。

理子 (りこ)

舞妓さんを目指す新人の仕込みさん。野月キヨや戸来すみれより1年後に市にやって来た。中学時代はバスケットボール部に所属しており、身長が165センチと高く、運動神経も優れている。活発で気が強く、思ったことをはっきりと口にする素直な性格の持ち主。一方で、初めて市の敷居をまたいだ時は、これ以上なく緊張する様子を見せた。また、すみれの顔を見るや否や「美少女」と口走ったり、自分より年上のキヨを子供扱いしたりと、礼儀知らずな一面を持つ。舞妓として優秀で、私生活もきちんとしているすみれのことを、会うなりすぐに尊敬するようになる。やがてつる駒さん姉さんと芸姉妹の関係になるが、当初は彼女のだらしない一面を目の当たりにしたため、軽んじている姿勢を見せていた。また、気が強い者同士ということでケンカも絶えなかったが、キヨの手伝いをするうちに打ち解けていき、だんだんと互いを認め合うようになる。

つる駒さん姉さん (つるこまさんねえさん)

市の屋形で舞妓として活動している少女。戸来すみれの先輩。ふだんは眼鏡をかけているが、舞妓として人前に出る際は、眼鏡を外してコンタクトレンズを使用する。明るい性格ながら、おっちょこちょいでだらしないところがある。市のおかあさんと同様に、すみれの素質を高く評価している。大阪松竹歌劇団の大ファンで、落ち込んだ時は歌劇団のグッズや生写真ファイルを見ることで気分転換を行っている。理子が仕込みとして市の屋形を訪れると、彼女の芸姉妹となり、世話を焼くことになる。当初は性格の不一致や、すみれと何かと比較されるなどどこか軽んじられており、「メガネ先輩」と呼ばれていた。つる駒さん姉さん自身も彼女の生意気な態度に逐一反応し、口ゲンカに発展することもあった。しかし、キヨを通じて互いに打ち解けていき、やがて「メガネ姉さん」や「めがねさん姉さん」と呼ばれるようになる。プリンが大好物で、ほかの舞妓に自分の分を食べられて機嫌を損ねたこともある。

百子さん姉さん (ももこさんねえさん)

フリーランスの舞妓として活動している女性。戸来すみれと芸姉妹の関係を結んでいる。年始に表彰されるほどの売れっ子で、男女問わず高い人気を誇る。マイペースな性格で、私室は散らかり、キッチンしらさぎにスマートフォンを忘れたりと、私生活ではだらしない一面を見せることもある。すみれを溺愛しており、彼女の写真をスマートフォンの待ち受け画面に設定するほど。

おばちゃん

野月キヨの前に市のまかないを務めていた女性。料理の腕は優れていたが、腰を痛めて仕事を辞めてしまう。それ以降は専業主婦として家事に精を出しているが、市を離れてからもキヨとは親交を続けている。彼女からの電話を受け、カレーライスを作るために台所を使わせて欲しいと頼まれて、これを快諾する。また、7月の終わり頃にキヨと連絡を取った際は、愛宕神社の千日詣についての話を聞かせたことで、彼女が愛宕山を登るきっかけを作った。

キヨのおばあちゃん

野月キヨの祖母。青森に住んでいる。キヨが青森にいた頃は二人で暮らしていた。戸来すみれや中渡健太とも親しい。面倒見がよく親切な性格で、キヨからは実の両親以上に慕われている。キヨにひっつみ汁やおぞうに<キヨちゃん家Ver>など、さまざまな料理を教え、その経験はキヨが市のまかないとして活動するために大いに役に立っている。キヨが京都でまかないを始めてからは一人暮らしをしているが、年を取っていることから、時おり健太や健太の姉が心配して家を訪れている。

中渡 健太 (なかのわたり けんた)

野月キヨの幼なじみの少年。無口だが性根は優しくまじめな性格の持ち主。年齢は16歳。キヨや戸来すみれのことを気にかけている。キヨの作るパンの耳ラスクが大好物で、野球の試合の前に食べると決して負けないとゲン担ぎしている。我慢強く集中力も高いが、天然気味なためすみれからはキヨに似ていると評されている。すみれと同様に、キヨのひたむきで前向きな性格に好感を持っており、やがてひそかに思いを寄せるようになる。また、中渡健太自身も、すみれから好意を持たれるが、そのことにはまったく気づいていない。子供の頃から野球に打ち込んでおり、中学校を卒業したあとは名門と知られる高校に通っていた。そこで地道に努力を重ねていき、2年生の春にはエースピッチャーとなり、県大会で優勝を果たす。その年に控えた甲子園大会の地区大会でも順調に勝ち進んでいくが、練習に打ち込み過ぎたために腕を痛め、甲子園出場を目前にしながら敗退したうえに、その後二度とマウンドに上がることができなくなってしまう。このことに絶望することなく、野球以外に自分にできることがないかと熟考。そして、キヨやすみれからの話で京都に興味を持ち、夏休みが終わると同時に高校を退学し、京都のキッチンしらさぎで働くようになる。キッチンしらさぎの労働はハードで、調理経験がほとんどなかったこともあり、キッチンしらさぎのシェフやセイちゃんからは長続きしないだろうと思われていた。しかし、持ち前の根性で着実に仕事をこなしていき、次第に信頼を得ていく。

おまわりさん

京都の交番に勤務している青年で、若干疑り深い性格をしている。平日の昼間に大荷物を持って歩いていた野月キヨを家出少女と勘違いし、呼び留めて細かいことを根掘り葉掘り尋ねた。その過程で、市の屋形でまかないをしていることを聞き出すが、完全には信用しておらず彼女と共に実際に屋形へと赴く。そして、市のおかあさんから直接事情を聞き、キヨに疑ったことを詫びる。それ以降は、買い出し中のキヨに優しく声をかけたり、市のおかあさんがカゼで倒れた際にキヨちゃん風京風うどんの材料を教えるなど、親切に接している。

男衆のお兄さん (おとこしのおにいさん)

京都の花街で、舞妓の着付けを担当する男性。本名は明かされていないが、市のおかあさんや野月キヨをはじめ、関係者からは「男衆のお兄さん」と呼ばれている。基本的に男性禁制である屋形に出入りできる数少ない男性で、息子に役割を譲り、現在は裏方に回っている。スマートな見た目に反して怪力で、20キロ近くある着物を難なく持ち上げて、スムーズに着付けする技量を持つ。さまざまな舞妓たちを見てきたことから、彼女たちがどれだけ努力を重ねているかを知っているため、敬意を払っている。それだけに、理子が戸来すみれの通行を遮りかけた観光客を睨んだ時は、舞妓のあるべき姿に反することを言い聞かせるなど、厳格な一面を持つ。

師匠はん (ししょうはん)

市に所属している舞妓たちに踊りを教えている、老年の女性。市のおかあさんと仲がよく、彼女と共に戸来すみれの並みならぬ素質と、努力を惜しまない姿勢を早々に見抜いている。反面、舞妓の才能に恵まれなかった野月キヨのことは、その存在すら忘れかけていた。二度目の春のをどりでは、市の舞妓たちを熱心に指導を行い、すみれが思った以上の上達を見せていることに驚く。

藤原商店の店主 (ふじわらしょうてんのてんしゅ)

京都の花街で「藤原商店」と呼ばれる八百屋を営んでいる男性。市のおかあさんがカゼで倒れた際、おまわりさんに連れられて来た野月キヨと知り合う。青森と京都でうどんの作り方がまったく違うために戸惑うキヨの相談に乗り、九条ねぎや薄口しょうゆ、うどんを提供した。それ以降はキヨが藤原商店の常連になり、互いに顔見知りの関係となる。

健太の姉 (けんたのあね)

中渡健太の姉で、年齢は18歳。やや厳しめの性格で、健太には容赦のない物言いをすることが多いが、野月キヨに対しては温厚に接する。キヨのおばあちゃんとも仲がよく、いっしょに買い物に出かけたり、家周りの雪かきを手伝っている。ぶっきらぼうだが面倒見のいい性格は弟同様で、健太のことも表面上はぞんざいに扱っているが、内心では思いやり、彼が家族から離れて京都で一人暮らしを始めた際も、心配する素振りを見せた。彼が新年の挨拶のために帰郷した時は、素直じゃないながらも彼の成長を喜んでいた。高校卒業後は家を手伝っており、仕事をスムーズに進めるため、すぐに自動車免許を取得する。

すみれの母親 (すみれのははおや)

戸来すみれの母親で、すみれと同じく美しい容姿を持つ。小学生の彼女に買い食いを禁じるなど、厳格な性格をしている。また舞妓になりたいという、彼女の願いには一貫して反対する姿勢を見せ続け、最後は根負けするものの、応援することもできないことを明かし、気まずい関係が続いていた。しかし、彼女が舞妓になってからおよそ2年後に帰郷した時に、未成年のすみれが一人で京都に出ることを心配するあまり、反対していたことを明かす。さらに、野月キヨが彼女を支えていることを知ると、すみれの舞妓としての活動を応援するようになる。

ちかちゃん

戸来すみれの従姉にあたる女性。本名は明かされていないが、知り合いからは「ちかちゃん」と呼ばれている。すみれよりやや年上で、すみれが京都で舞妓を始める3年ほど前に東京に引っ越すが、結婚を機に青森に戻って来る。明るくおちゃめな性格で、すみれとは子供の頃から仲がいい。すみれの母親とは逆に、すみれが舞妓になったことを歓迎しており、松本に対しても、しばしばすみれのことを自慢の従姉妹として紹介していた。のちに松本と結婚し、すみれが結婚式に出席していることに気づいた際は大いに喜び、松本に対して改めてすみれを紹介した。

松本 (まつもと)

ちかちゃんの夫にあたる男性。東京の出身で、ちかちゃんとの結婚を機に青森へと引っ越す。戸来すみれのことはちかちゃんから聞いており、結婚式に参加した彼女を見るなり、ちかちゃんが言っていたとおりの美人だと驚く。しかし、ちかちゃんがすみれに彼氏ができたか、好きな人はいるのかと執拗に聞き出す姿を見た際は、その積極性にしばし呆然としていた。

参拝者の家族 (さんぱいしゃのかぞく)

野月キヨが愛宕山を登っている最中に出会った、参拝者の夫婦と幼い息子。愛宕山の頂上にある愛宕神社では、3歳以下の子供といっしょにお詣りをすることで高いご利益が得られるため、夫が息子を背負いつつ登ってきた。五合目まで登ったところで子供が帰りたいと言い出したことから、お詣りをあきらめ、しばらく休憩所で休んでから下山することを決める。しかし、休憩所で出会ったキヨと息子がなかよくなると、息子がキヨといっしょに登りたいと言い出し、キヨと共に頂上まで登り切り、無事にお詣りを果たすことができた。

セイちゃん

キッチンしらさぎでコックの見習いを務めている青年。本名は明かされていないが、知り合いからは「セイちゃん」と呼ばれている。ふだんは陽気な性格の女好きで、新入りの中渡健太に対して、京都で働こうと思ったのは舞妓がかわいいからと公言した。しかし実際は自分にも他人にも厳しい努力家で、内心では調理の腕を上げることばかりを考えている。また、キッチンしらさぎのシェフを尊敬しており、日々奮闘している。キッチンしらさぎの仕事は厳しく、今までも何度も後輩が辞めていることから、健太もすぐに辞めてしまうだろうと考えていた。そのため、時おり助言を与えるものの、本格的に指導しようとしなかったが、数か月ものあいだ彼がまじめに働く姿を見たことで、考えを改める。健太に対して厳しい点は相変わらずで、彼が野球に未練を残していることに気づくと、コックは雑念を持ったまま務まるほど甘いものではないと叱責した。

キッチンしらさぎのウェイトレス

キッチンしらさぎでアルバイトをしている女子大学生で、店内ではウェイトレスを務めている。ややおっとりした性格で、新人の健太に対しても、通勤用の自転車が売られている店を紹介するなど親切に接する。アクシデントに見舞われることが多いが、激務を懸命にこなす頑張り屋で、中渡健太やセイちゃん、キッチンしらさぎのシェフからも信頼されている。

キッチンしらさぎのシェフ

キッチンしらさぎでシェフを務めている男性。野月キヨにも劣らないほどの料理の腕を持ち、見習いである中渡健太やセイちゃんをはじめ、キッチンしらさぎのウェイトレスからも慕われている。ふだんは妥協を許さない厳格な性格で、その厳しさや激務に耐えかねて、すぐに辞める見習いも多い。しかし、働き始めた頃は料理の素人だった健太が、まったく弱音を吐かずに励む姿を見て、彼が生半可な気持ちでコックを目指しているわけではないことを知る。年末は資金不足で帰郷をあきらめていた健太に対し、自腹で彼の交通費を用意して労をねぎらった。

集団・組織

大阪松竹歌劇団 (おおさかしょうちくかげきだん)

京都で高い人気を誇る劇団の一つ。百年以上もの歴史を誇る女性の歌劇団で、男装の麗人や可憐な淑女が演じるステージ、美しいラインダンスが有名で、その人気は花街の舞妓にも劣らない。舞妓のみを客として招待する「総見」と呼ばれるステージもあり、その時は多くの舞妓たちが応援に駆け付ける。つる駒さん姉さんは大阪松竹歌劇団の大ファンで、ミニパラソルや生写真などのグッズを集めている。

場所

愛宕山 (あたごやま)

京都にそびえる山の一つ。標高は約900メートルで、登る際には約4キロメートルの参道を進む必要がある。頂上には「愛宕神社」と呼ばれる神社があり、そこで祀られている「火伏の神様」と呼ばれる神にお参りをすることで、火事の発生を防げるとされている。中でも、7月31日の夕方から8月1日の朝にかけてお詣りをすると1000日分のご利益があるため、その日は大勢の登山客で賑わう。また、3歳以下の子供といっしょにお詣りすることで、さらに高い効果を得られるため、参拝者の家族のように家族連れで訪れる人も少なくない。登山中、登る人とすれ違う際に「おのぼりやす」、下る人とすれ違う際に「おくだりやす」とあいさつする決まりがある。

(いち)

京都の花街に存在する、「屋形」と呼ばれる舞妓たちが共同生活を行う家の一つ。市のおかあさんによって運営されており、野月キヨがまかないを務めている。戸来すみれやつる駒さん姉さん、理子などが所属しており、師匠はんや男衆のお兄さんがそれぞれの生業のために出入りしている。家屋の大きさはふつうの家とあまり変わらない。現在はすみれが「百はな」として大きな人気を集めていることから、注目の的になりつつある。

キッチンしらさぎ

京都の商店街に存在する洋風レストランの一つ。キッチンしらさぎのシェフやセイちゃん、キッチンしらさぎのウェイトレス、京都に引っ越して来た中渡健太が働いている。ハンバーグ、ビーフシチュー、クリームコロッケなど、多種多様な料理が楽しめ、中でもオムライスは「当店自慢」といわれるほどの自信作で、野月キヨもその味に感動していた。人気のある店だけに、スタッフたちはつねに多忙で、その忙しさからすぐに辞めてしまう新人も少なくない。健太も料理の経験がなかったことから、ほかのスタッフから最初はすぐに辞めてしまうだろうと思われていた。しかし、彼らの予想に反して懸命に働き続け、やがて料理の技術も向上していく。

イベント・出来事

お化け (おばけ)

京都の花街で執り行われるイベントの一つで、節分の前後にかけて開催される。鬼を欺くために、金色夜叉や三蔵法師など、古今東西の物語の登場人物に仮装するという催しで、ハロウィンに似ていると考える人もいる。舞妓たちはさまざまな姿に扮して、用意した出し物を披露してお座敷をまわる。演目によって借りられる衣装もあるが、そうでないものは舞妓が手作りで用意しなければならない。そのため、前日はどこの屋形も大忙しになり、市の舞妓たちも準備に追われることになる。

春のをどり (はるのをどり)

京都の花街で執り行われるイベントの一つで、4月1日から1か月かけて開催される。複数の花街にある歌舞練場で行われ、毎年大勢の観光客や地元の住民たちが観劇に訪れる。花街の中でも最大級のイベントというだけあり、市の屋形の舞妓たちも総動員し、日々練習に追われる。戸来すみれは二度にわたって春のをどりに参加し、緊張しつつも野月キヨに勇気づけられることで演目を確実にこなしていき、多くの観客や関係者をうならせる程の踊りを披露する。しかし、2年目の最終日にアクシデントによって足を負傷し、市のおかあさんから千秋楽の棄権をせまられてしまう。

その他キーワード

パンプディング

野月キヨが得意としているメニューの一つ。卵、牛乳、砂糖、バニラエッセンスに細かく刻んだパンを浸し、カラメルソースをかけたうえでオーブンで湯煎焼きする。プリンによく似た味わいが特徴で、前日自分のために取っておいたプリンをほかの誰かに食べられたことで機嫌を損ねたつる駒さん姉さんのために内緒で作った。パンプディングを味わった彼女は感激し、機嫌を直す。

親子丼 (おやこどん)

野月キヨが得意としているメニューの一つ。台所のおばちゃんが倒れたことで弁当ばかりの生活になり、舞妓たちの気力にも影響が出た中で、屋形の台所にあった鶏もも肉と卵を使って作った。特別なものは特に入れられなかったものの、まかないがなくなって偏った食生活を嘆いていた舞妓たちには人気で、市のおかあさんからも好評を得る。この親子丼が、キヨが台所のおばちゃんの代わりに、市のまかないを務めるきっかけとなる。

ポテトコロッケ

野月キヨが得意としているメニューの一つ。半潰しにしたじゃがいもを材料にしたコロッケで、小判のような形をしている。ある朝、スーパーマーケットに買い出しに行った際にじゃがいもが目に留まり、さっそく舞妓たちのお昼ご飯として調理され、好評を得た。

チョコマフィン

野月キヨが得意としているメニューの一つ。砂糖、バター、溶き卵を混ぜて、小麦粉、ベーキングパウダー、牛乳、ヨーグルトを混ぜて生地の素を作り、さらにバラバラにした板チョコを好きなだけトッピングした状態で、型に入れて焼き上げる。家出と勘違いしたおまわりさんが、キヨを市の屋形まで送り届けた時に作り、おまわりさんにプレゼントした。なお、チョコマフィンを作った理由は、屋形の台所に牛乳と卵が残っていたと考えたためである。

カレーライス

野月キヨが得意としているメニューの一つ。ジャガイモ、玉ねぎ、にんじん、牛肉と、オーソドックスな素材によって作られるもので、付け合わせにはキヨのおばあちゃんが青森から送ってくれたタクアンを使用している。市の屋形の舞妓たちは、「故郷を思い出させてしまう」という理由でカレーライスを食べることが許されておらず、必然的に作ることも禁止されている。そのため、キヨはこれを作るためにわざわざ休みの日に台所のおばちゃんに連絡を取り、カレーライスを作るために台所を使わせてもらっている。

ひっつみ汁 (ひっつみじる)

青森県に伝わる郷土料理で、野月キヨやキヨのおばあちゃんの得意メニューの一つ。小麦粉と水を混ぜて一晩寝かせることで出来上がる生地を、にんじん、大根、ごぼうなど根菜やキノコを鶏がらだし汁と酒、みりん、しょう油で煮詰めた汁にちぎって入れる。冬の寒い日に暖まるために用意され、キヨが青森で暮らしていた時は、雪かきのような重労働を済ませたあとに食べることが多かった。戸来すみれや中渡健太の好物でもあり、現在もキヨやすみれが京都から帰郷した時にキヨのおばあちゃんから振る舞われることが多い。

プリンアラモード

野月キヨが得意としているメニューの一つ。大きなプリンにたっぷりとホイップクリームをかけて、周囲にみかんやりんご、キウイフルーツ、パイナップルなどの果物をトッピングする。キヨの周りで何か特別なことがあった時にお祝いとして作ることが多く、戸来すみれが「百はな」として舞妓デビューを果たした時にもキヨがこれを振る舞い、すみれが舞妓として大成する決意のきっかけとなった。

イカメンチ

青森県に伝わる郷土料理で、野月キヨが得意としているメニューの一つ。みじん切りにした玉ねぎやにんじん、イカに、小麦粉、塩、砂糖を混ぜた衣をつけて、油で揚げる。味はやや甘めでごはんとの相性がよく、付け合わせとして用いられることが多い。ソースやケチャップ、しょうゆなどをかけて食べるのが一般的とされるが、あえて何もかけずに食べることを好む人もいる。キヨが「秘策」と言い切るほどの自信作で、舞妓として励むあまり、食事を疎かにしがちな戸来すみれを確実に食いつかせるために作られた。

甘酒 (あまざけ)

野月キヨが得意としているメニューの一つ。発酵させた米と麹を鍋で煮詰めたノンアルコール飲料で、身体を芯から温める熱と、砂糖並みに甘い味わいが特徴。舞妓用の特別な枕に慣れることができず眠れなかった戸来すみれに対して、お腹を温めて安眠できるように作られた。なお、保存の際には毛布にくるんだ鍋を発泡スチロールに入れて置いておくという方法がある。

小っちゃいカツサンド (ちっちゃいかつさんど)

野月キヨが得意としているメニューの一つ。ソースをたっぷりとかけた刻みキャベツにとんかつを乗せて、食パンで挟む。これを九つに切り分けて皿に盛りつけ、最後にミニトマトやパセリを添える。かつて台所のおばちゃんが、舞妓に小さなサンドイッチを、見習いにふつうのサイズのサンドイッチを作り、それを見ていた戸来すみれは小さなサンドイッチを食べてみたいと考えていた。その気持ちを汲んだキヨが、すみれが舞妓として正式に活動を始めた記念として用意したため、「小っちゃいカツサンド」と呼ばれるようになる。

からあげ

野月キヨが得意としているメニューの一つ。片栗粉と薄力粉を混ぜた衣をつけた鶏肉を丹念に二度揚げして作られたもので、付け合わせとしてマヨネーズも用意されている。戸来すみれの大好物でもあり、ことあるごとにキヨのに対してからあげへの愛を語っている。さらに、激務によって空腹に悩まされた時は、舞妓の姿のまま街を歩きつつ「からあげを食べたい」と口走ってしまったこともあるほど。

なべっこ団子 (なべっこだんご)

青森県に伝わる郷土料理で、野月キヨが得意としているメニューの一つ。米粉を練って作られた団子を、小豆をたっぷりと入れたおしるこに投入する。名前の由来は、団子の形が鍋に似ているため。キヨや戸来すみれは青森で暮らしていた時、中渡健太の家の田植えが終わった時や近所の人たちの里帰りなど、人が集まる時によくなべっこ団子をごちそうになっていた。

フルーツサンド

野月キヨが得意としているメニューの一つ。黄桃やいちご、みかんを生クリームで包み、それをしっとりとした食パンで挟む。そして最後に小っちゃいカツサンドと同様に小さく切り分ける。市の屋形にはクリスマスを祝う習慣自体が存在しておらず、舞妓たちがそれを実感できるのは、お得意先からもらったクリスマスケーキを食べる時だけだった。さらに、戸来すみれは多忙から一つも食べることなくクリスマスの夜を迎え、落ち込んでしまう。そこでキヨは、彼女のためにクリスマスケーキによく似た材料で作れるフルーツサンドを用意して、二人でクリスマスを祝う。

しゃぶしゃぶ

野月キヨが得意としているメニューの一つ。複数の野菜やキノコ、牛肉、豚肉をふんだんに使った鍋料理。食堂に鍋を持ち込んで個人で食材を煮潜らせるという食べ方は、舞妓と市のおかあさんが全員で食事をとるという形式と相性がいい。停電によって暖房が機能しなくなり、寒さに震える舞妓たちのために、昼食としてキヨが用意する。熱した鍋に直接潜らせた肉や野菜は、暖房が機能しない中でも身体を暖めるには十分な効果を発揮し、結果としてその日の食卓はいつも以上の盛り上がりを見せる。

キヨちゃん風京風うどん (きよちゃんふうきょうふううどん)

野月キヨが台所のおばちゃんから学んだ料理の一つ。昆布とかつおぶしで合わせ出汁を作り、それに薄口しょうゆを混ぜて汁にする。そこにうどんを入れ、油揚げと「九条ねぎ」と呼ばれるネギを入れる。青森で育ったキヨは、レシピがかつて作っていたうどんととまるで違うことに驚くが、疲労によるカゼで倒れた市のおかあさんのために、台所のおばちゃんやおまわりさんなど、京都の人々の協力を得て無事に完成させた。市のおかあさんは、自分のために頑張ってくれたキヨの努力を感動し、口にする前に思わず涙を流してしまう。

焼きりんご (やきりんご)

野月キヨが得意としているメニューの一つ。キヨが初めて作った料理でもある。リンゴの芯をスプーンでくりぬき、できたくぼみに砂糖とバターをたっぷり入れて、200度のオーブンで20分間温める。キヨは幼い頃、キヨのおばあちゃんから包丁を触ってはいけないと言い聞かせられていたため、空腹を満たすために包丁を使わない料理を作る必要にせまられるが、スプーンさえあればできる焼きりんごを作ることを思いつく。ただし、砂糖を入れるのを忘れたため、すっぱい味になってしまう。この思い出は京都を訪れてからも、面白おかしい失敗談として脳裏に刻まれている。

お夜食ホットドッグ (おやしょくほっとどっぐ)

野月キヨが得意としているメニューの一つ。縦長のロールパンに切れ込みを入れて、そこに刻んだキャベツと和風のからしとケチャップを付けて、さらにチーズを巻き付けたウィンナーを入れ、オーブンで温める。お化けのために衣装を用意するのに大忙しで、夜通し作業を続ける市の舞妓たちのために、戸来すみれから事情を聞いたキヨが夜食として用意した。その効果は絶大で、徹夜で疲れていた彼女たちを元気づけることができた。

かますもち(落花生バージョン) (かますもちらっかせいばーじょん)

青森県に伝わる郷土料理で、野月キヨが得意としているメニューの一つ。みそや黒砂糖、落花生を混ぜて餡を作り、粉と熱湯を混ぜて作り上げた皮でギョウザのように包み込んで半分に折り畳み、熱湯でゆでる。キヨは、節分で豆まきを終えた市の舞妓たちのためにかますもちを作った。その際に、屋形のイベントによる豆まきで使われた落花生を利用していたが、青森では落花生ではなくクルミを使うのが一般的とされる。

クリームシチュー

野月キヨが得意としているメニューの一つ。玉ねぎやジャガイモ、にんじん、ブロッコリー、鶏肉を一口サイズに切り、クリーム、バター、牛乳、小麦粉を混ぜたシチューに入れて、ゆっくりと時間をかけて煮込む。特にキヨなりの工夫が施されているというわけでもないが、寒い日にこそ美味しく味わえるうえに、身体が芯から温まることから、市のおかあさんや舞妓たちからは高い評価を得ている。

豚汁 (とんじる)

野月キヨが得意としているメニューの一つ。ごま油で豚バラ肉を炒めて、そこに一口サイズに切ったにんじんや里芋、大根、ごぼう、ねぎを入れて火を通し、最後にみそを使った汁を投入してしばらく煮込む。百子さん姉さんが市の屋形を訪れた時に、キヨが作って振る舞った。その味は百子さん姉さんにとってまさに理想のものであり、彼女が思わず「もっと食べたい」とねだってしまったほど。

おいなりさん

野月キヨやキヨのおばあちゃんの得意メニューの一つ。甘酢で締めたご飯と、細かく刻んだ紅しょうがを油揚げで挟んだもので、キヨの好物でもある。小学校時代の運動会では、キヨのおばあちゃんが競技や応援に一生懸命励んだキヨのために用意した。これを知ったキヨは大いに喜び、戸来すみれや中渡健太と分け合って、午後の競技に対するモチベーションを上げるきっかけを作る。中学時代の文化祭前日では、最後の準備に取り掛かろうとするすみれと健太のためにキヨ自身が用意し、彼らが夜遅くまで活動するための英気を養う助けとなった。京都に移ってもレパートリーの一つとしてたびたび舞妓たちに振る舞っており、素材となる紅しょうがはキヨにとっての必需品の一つとなっている。

おでん

野月キヨが得意としているメニューの一つ。多くの舞妓がたくさん食べられるため、じゃがいもや大根、卵、ねりもの、こんにゃく、もち巾着、厚あげをふんだんに使って大きな鍋で煮込んでいる。キヨは青森に住んでいた頃、キヨのおばあちゃんと二人きりで暮らしていたが、キヨのおばあちゃんは「おでんは色々な具を入れたほうが美味しくなるが、二人だと食べきれなくなる」という理由から滅多に作ることはなかった。そのためキヨが京都に移ってからも、あまりおでんを作ることはなかった。しかしある日、夕食の献立に悩みながら京都の町を歩いていると、藤原商店の店主をはじめとした商店街に人々から色々な商品を格安で勧められ、それを買ううちにおでんを作ることを思い付く。

ギョウザ(舞妓さん用) (ぎょうざまいこさんよう)

野月キヨが得意としているメニューの一つ。ふつうのギョウザと違って一口サイズに整えられているほか、ニンニクやニラが使われておらず、代わりにしょうがや白菜、キャベツの量が多い。人をもてなすプロである舞妓は、香りの強いものを食べられることを禁じられているが、強い香りの原因となるニンニクやニラを排除することで、舞妓でも食べられるように調整されている。なお、翌日が休みの人には、ふつうの焼きギョウザを作ることもあり、キヨはそれを「ギョウザ(明日休みの人用)」と名づけている。

スコッチエッグ

野月キヨが得意としているメニューの一つ。ひき肉と小麦粉、パン粉でゆで卵を包み、油で揚げる。素材には、先日キヨがギョウザ(舞妓さん用)を作る際に余ったひき肉と、戸来すみれといっしょにスーパーマーケットで購入した卵が使用された。また、休みをもらったすみれがキヨの手伝いを申し出たことで、いつもよりスムーズに調理が終わったほか、キヨの奮闘を間近で見ることで、つねに支えられていることを実感させる。

ミートボール

野月キヨが得意としているメニューの一つ。ひき肉に刻んだ玉ねぎを加えて卵であえて、油で揚げる。タレにはキヨ特製のケチャップソースが使用しており、市の舞妓たちからは人気を集めている。白米と相性がよく、茶碗に盛ったご飯の上に乗せて食べる舞妓も多い。ただし、高い人気を誇るがゆえに、挨拶回りの影響で昼食に遅れた戸来すみれが、一つしか食べられなくなってしまうというトラブルが生じたこともある。

ウィンナコーヒー

野月キヨが得意としているメニューの一つ。濃い目のブラックコーヒーに、甘いホイップクリームを加える。緊張した気分を落ち着かせる効果があり、舞妓になるために市の屋形を訪れた理子がガチガチに緊張した姿を目撃したキヨが、彼女を落ち着かせるために作り、ウィンナコーヒーを差し出した。その結果、理子は落ち着きを取り戻し、市のおかあさんに対してしっかりとした受け答えをできるようになった。

ロールキャベツ

野月キヨが得意としているメニューの一つ。ひき肉に玉ねぎと刻んだベーコンを加えて肉だねを作り、薄いキャベツにくるんでからトマトソースに浸し、しばらく煮込む。肉だねをキャベツで包む作業は、地味ながら時間がかかるものだったが、作っている最中に理子が手伝ってくれたことで手早く済ませることができた。

いちごオムレット

野月キヨが得意としているメニューの一つ。フルーツサンドの簡易版に位置づけられる一品。薄くスライスしたスポンジケーキの生地に生クリームといちごを乗せて、くるむように巻く。キヨは当初、誕生日を控えた戸来すみれのために、大きなバースデーケーキを作るつもりでいたが、多忙ゆえに朝食を取れず、バースデーケーキの素材にするはずの生地を使い、いちごオムレットを作った。さらに、昼休みのために舞妓たちが戻って来たことから、結局ケーキの生地をすべて使い切る。

お誕生日ティラミス

野月キヨが得意としているメニューの一つ。戸来すみれのバースデーケーキとして用意されたもので、本来作るはずだった大型のスポンジケーキや生クリームをいちごオムレットのためにほとんど消費してしまったことで、小型のケーキを作る必要にせまられた結果、家に残っていたクリームチーズとココアパウダーと合わせることで急遽作った。さらにアルミホイルで型を取り、その上からココアパウダーを振って「すーちゃんおめでとう」とメッセージが加えられた。すみれは、工作が苦手なキヨのメッセージに感激し、「忘れられない誕生日になりそう」と心の中で感涙した。一方で、型を取るためのアルミホイルが中に残っていたという、キヨらしくないミスもあった。

長いもすいとん (ながいもすいとん)

野月キヨが得意としているメニューの一つ。温めた長芋を潰して片栗粉と混ぜ、棒状に転がして輪切りにし、これをにんじんやだいこん、鶏肉を含んだ鍋に入れる。もともと作る予定はなかったものの、キヨが昼食用のご飯を炊き忘れたというアクシデントに見舞われて慌てていたところ、先日キヨのおばあちゃんから長芋を送られたことを思い出し、苦肉の策として急遽作られた。

ホットアップルジンジャー

野月キヨが得意としているメニューの一つ。すりおろしたりんごとしょうがを鍋に入れて、レモンの汁と蜂蜜を混ぜてしばらく煮込み、シナモンを軽く振りかける。理子とつる駒さん姉さんのあいだで、理子の髪の毛を長くする方法について話し合われたところ、通りがかったキヨが、早く髪の毛が伸びる料理がないかと尋ねられる。あれこれ考えていたところ、もっとも身近な舞妓である戸来すみれがよく眠ることを提案する。そこでキヨは、理子に対してゆっくり眠れるようにとホットアップルジンジャーを提供した。

アメリカンドッグ

野月キヨが得意としているメニューの一つ。屋台で売られているものとは異なり、ウィンナーではなく、魚肉ソーセージをホットケーキの素で包んで揚げたもの。春のお花見で、観光客をもてなしていた市の舞妓たちが話題にしていることを知ったキヨが、昼食として用意した。なお、キヨと戸来すみれは青森にいた頃はアメリカンドッグを見たことがなく、京都の屋台で存在を知ったものの正式名称を知らなかった。さらに、ほかの舞妓たちも名前を忘れられていたため、思い出すまでのあいだ「屋台のあれ」の通称で呼ばれるようになってしまう。

あずきばっと

青森県に伝わる郷土料理で、野月キヨや健太の姉が得意としているメニューの一つ。小豆を煮て柔らかめのつぶあんを作り、ゆでたうどんと和える。キヨや戸来すみれが小学生の時、健太の家の農業の手伝いをした時に振る舞われるが、すみれはできあがった時間に間に合わず、やむなく冷蔵庫で保存する羽目になる。しかしすみれが「冷たいあずきばっとはご褒美の味がする」と発言したことから、キヨはすみれが冷たいあずきばっとを好きであることを知る。そのことを思い出したキヨは、ほかの舞妓のために出した残りを冷蔵庫に入れて、春のをどりの練習に励んだすみれへのご褒美として差し出す。

よくばりクレープ

野月キヨが得意としているメニューの一つ。ツナやコンビーフ、ハム、アボカドや、いちご、バナナ、キウイフルーツといった果物など、さまざまな具材を多数用意し、小麦粉と卵を混ぜて練り上げたクレープ生地で巻く。主食からデザートまでこなせる汎用性の高さが特徴で、生地の素材となる小麦粉は値段が高めのプレミアム商品を使用している。市のおかあさんへの母の日のプレゼントとして、市の舞妓たちの協力を得て作られた。

サイコロステーキ丼 (さいころすてーきどん)

野月キヨが得意としているメニューの一つ。白いご飯が入ったどんぶりに、味付けをしたうえで一口サイズにカットした牛ステーキ肉とカイワレを乗せる。京都で人気のステーキ丼を食べに行くことを禁じられている舞妓たちを見たキヨが、理子と共にスーパーマーケットで特売されていたステーキ肉を手に入れ、それを使って作った。二人の苦労の甲斐あって、舞妓たちはステーキ丼の味を楽しむことができた。しかし、素材を買いに行く際に冬の人込みに紛れたことで、キヨはインフルエンザにかかってしまう。

マドレーヌ

野月キヨと戸来すみれが、中渡健太のために用意したお菓子。かつてよくばりクレープを作るために使った小麦粉をメインに、バターや砂糖、アーモンドパウダー、はちみつなどをふんだんに使い、表面をこんがりとさせて中身がふわふわとなり、独特の食感を楽しめる。キヨはすみれの頼みを受け、青森にいる健太が野球の試合で活躍できるようにお守りを送ろうとしたが、その際、ただお守りだけを送るのも味気ないと、お守りのほかに手作りのクッキーを作ろうと考えた。すみれも手伝ってくれることになり、二人の奮闘の末に、みごとなマドレーヌが焼き上がり、受け取った健太を喜ばせた。

フルーツゼリー

野月キヨが得意としているメニューの一つ。みかんやパイナップル、桃、さくらんぼなど、さまざまなフルーツ缶詰をゼラチンで固めることで作られたゼリー。ひんやりとした食感が特徴で、カゼを引いて火照った喉を潤す効果を持つ。小学生時代、風邪を引いてしまった戸来すみれのために用意し、お見舞いの際に手渡した。この一件は、二人にとって懐かしい思い出の一つとなり、京都に出て来たキヨは、舞妓になったすみれがカゼを引いた時に、かつてと同じようにフルーツゼリーを作ろうと思い立つ。

干し貝柱のおかゆ (ほしかいばしらのおかゆ)

野月キヨが得意としているメニューの一つ。米とおかゆ用の汁を入れた鍋に卵を混ぜて、貝柱を少しずつ乗せながら煮込み、最後にしょうがと九条ねぎをトッピングする。フルーツゼリーと共に、カゼを引いてしまった戸来すみれのために用意された一品。健康にいいだけではなく味や見た目も優れており、キヨが作っているところを目撃したつる駒さん姉さんや理子が思わず注目した。

レアチーズケーキ

野月キヨが得意としているメニューの一つ。レモンで風味づけをしたクリームチーズやバター、牛乳にゼラチンを混ぜて、冷蔵庫で冷やす。台所に顔を出したつる駒さん姉さんの「ひんやりしたスイーツがあれば、暑い中でも涼しい顔ができるのに」という愚痴を聞きつけ、彼女たちのために急遽作って冷蔵庫に入れ、仕事から帰って来たあとに食べるよううながした。さらに、作るきっかけをもたらしたつる駒さん姉さんに対して、専用の器を用意する。

ホットコーヒー

野月キヨが得意としているメニューの一つ。市の屋形にある急須を使って淹れたブラックコーヒーで、砂糖やミルクなどはいっさい入れない。暑い真夏の昼下がりに、涼しいところで味わうのに適している。夏休みを迎えた市で、キヨと戸来すみれの二人きりになった時に、のんびり話をするために淹れられた。

ラタトゥイユパスタ

野月キヨが得意としているメニューの一つ。ゆでたパスタとラタトゥイユを混ぜて、軽く和えたもの。市の屋形が夏休みを迎えて、市のおかあさんや戸来すみれも出かけて一人で昼を過ごすことになった際に、キヨが自分で食べるために作った。しかし、つねに舞妓たちのために食事の用意をしていたことから、一人分の料理を用意することに慣れていなかったキヨは、ついつい多めに作りすぎてしまう。

干し柿とチーズのマフィン (ほしがきとちーずのまふぃん)

野月キヨが得意としているメニューの一つ。チョコマフィンと同じ素材を生地として使い、板チョコの代わりにナチュラルチーズと干し柿を練り込んでいる。チョコマフィンよりやや塩味が強く、コーヒーとの相性が抜群によくなっている。以前キヨがキヨのおばあちゃんからもらった干し柿を利用して、戸来すみれと共に休日を過ごすためのお弁当として作られた。

からあげ弁当ふたつ (からあげべんとうふたつ)

野月キヨが得意としているメニューの一つ。海苔を振りかけたご飯と卵焼き、そして戸来すみれの大好物であるからあげを詰めた弁当。キヨは年末に帰郷する際、新幹線の中で食べようと自分とすみれの分を用意した。しかしすみれは先んじて、京都の駅で「よくばり弁当」と呼ばれる弁当を買っていたため、それといっしょに食べることとなる。

栗きんとん (くりきんとん)

野月キヨやキヨのおばあちゃんの得意メニューの一つ。栗の甘露煮とサツマイモを混ぜ合わせたもの。キヨの家のおせち料理の定番で、戸来すみれや中渡健太からも好評を得ている。キヨが青森にいた時は、仕上げとして裏ごし用のざるを使っていたが、キヨのおばあちゃんが健太の姉からミキサーを使った調理法を教わってからは手順を簡略化できるようになった。

パンの耳ラスク (ぱんのみみらすく)

野月キヨが得意としているメニューの一つ。食パンの耳だけを切り落とし、油で揚げる。レシピは、かつてキヨが青森で暮らしていた時におばあちゃんから学んだもので、試しに一度作ってみたところ、おばあちゃんや戸来すみれから絶賛される。中渡健太の好物でもあり、彼からは野球の試合の前日に食べれば、負けることはないとゲンを担いでいた。

すーちゃんのおにぎり

戸来すみれが、愛宕山への登山を目指す野月キヨのために用意したおにぎり。いつでも食べられるよう、ふつうのおにぎりの半分程度のサイズで手軽に栄養を補給できるため、塩分がやや濃い目になっている。愛宕山の五合目まで差し掛かったキヨが、休憩所で食べていたところで参拝者の家族と出会い、彼らのお弁当の一部とすーちゃんのおにぎりを交換する。これが登るのを嫌がっていた家族の子供の考えを改めさせるきっかけとなる。

みそ貝焼き (みそかやき)

青森県に伝わる郷土料理で、キヨのおばあちゃんが得意としているメニューの一つ。ホタテの貝殻に、小さく刻んだホタテの身と水を入れて直火にかけ、煮詰まってきたところで味噌を入れて溶かし、最後にネギと卵を入れる。また、ご飯にかけて食べたり、ホタテの身を入れずにネギと卵だけで済ませるなど、いくつかのバリエーションが存在する。野月キヨと戸来すみれが京都に出る当日に振る舞われて、二人を奮起するきっかけの一つとなった。

焼きおにぎり (やきおにぎり)

キヨのおばあちゃんが得意としているメニューの一つ。こんがりと焼きあげたおにぎりの表面に、甘めのみそをたっぷりと塗り付ける。冬の青森は降雪が絶えないうえに気温も低く、ストーブが必需品となっているため、キヨのおばあちゃんはその余熱を利用して焼き上げている。雪かきの手伝いに訪れた健太にお礼として振る舞うが、空腹のあまり素手で焼きおにぎりを取ろうとした健太は、あまりの熱さにヤケドしそうになる。

おぞうに<キヨちゃん家Ver> (おぞうにきよちゃんちばーじょん)

キヨのおばあちゃんが得意としているメニューの一つ。キヨのおばあちゃんが考案した「くるみだれ」と呼ばれる甘辛いたれで作るおぞうにだが、野月キヨや戸来すみれ、中渡健太は年始めにおぞうに<キヨちゃん家Ver>ばかりを食べてきたため、これこそが本物の「おぞうに」だと思っている。このことから、キヨとすみれが市のおかあさんから京都のおぞうにを振る舞われた時は、おぞうに<キヨちゃん家Ver>とのあまりの違いに驚いていた。

お祝いの蒸しケーキ (おいわいのむしけーき)

キヨのおばあちゃんが得意としているメニューの一つ。小学生時代の運動会で野月キヨ、戸来すみれ、中渡健太が所属する紅組が優勝したことを祝って作られた蒸しケーキ。主にキヨのおばあちゃんが調理を担当するが、すみれも協力している。卵をふんだんに使っており、ふんわりとした食感がキヨたちから好評を得ている。また、紅組が優勝したことを祝うため、真っ赤な小豆が多く含まれている。

ほうじ茶

キヨのおばあちゃんが、小学生時代の野月キヨに持たせていた飲み物。子供でも飲めるように、ややぬるめにしてあるが、青森の冬の中では十分な暖を取ることができる。キヨが戸来すみれのピアノの発表会の応援に来た時も持たされていたが、緊張していたうえに手がかじかんでいたすみれのために差し出した。ほうじ茶を飲んだすみれは、身体を温めると共に緊張もほぐれ、発表会に全力で臨むことができた。

あんずのしそ巻き

青森県に伝わる郷土料理で、キヨのおばあちゃんが得意としているメニューの一つ。名前のとおり、あんずの果実をしその葉で巻いたもの。作り方こそ簡単だが、独特の味を楽しむことができ、特に夏は麦茶のお茶請けとして広く親しまれている。ちかちゃんの結婚式に参加するため帰郷した戸来すみれと、彼女と偶然再会した中渡健太がキヨのおばあちゃんの家を訪れた時、家の手伝いをしてもらったお礼としてキヨのおばあちゃんから振る舞われた。

京都のおぞうに (きょうとのおぞうに)

市のおかあさんが得意としているメニューの一つ。白みそ仕立ての汁に「かしら芋」と呼ばれる大きな芋と丸く切った餅を入れる。京都に住む人たちにとってはふつうのおぞうにだが、半年ほど前まで青森で暮らしており、年始におぞうに<キヨちゃん家Ver>を食べていた野月キヨと戸来すみれにとっては、見たことのない食べ物として強く印象に残っている。お正月の朝には、帰郷を控えたキヨとすみれのために市のおかあさんが用意し、二人から好評を得た。

福玉 (ふくだま)

京都の花街で年末に配られる、玉の形をした縁起物。白とピンクの薄い餅皮で作られ、除夜の鐘が鳴り終わるまで開けてはいけないという決まりがある。中身は福玉ごとに異なるが、おもに新年を占うためのものが入っている。大みそかの夜に、市のおかあさんから野月キヨと戸来すみれに渡された。なお、すみれの福玉には三味線の形をした置物が、キヨの福玉にはお菓子の詰め合わせが入っており、すみれは芸事の上達が、キヨはいつもと変わらない一年になることが、それぞれ暗示された。

イギリストースト

昭和42年頃から青森県の製パン業である「工藤パン」が販売している商品。しっとりした山型の二枚の食パンに、専用のマーガリンとグラニュー糖が挟まれており、ふつうの食パンとはまったく違う食感と味わいを楽しめる。青森県民なら知らない人はいない程の知名度を誇り、「青森県民のソウルフード」の異名を持つ。ややハイカロリーだが、青森県では、寒い冬を乗り切るためのエネルギー源として重宝されている。青森に住んでいた頃の野月キヨ、戸来すみれや中渡健太が好んで食べており、キヨとすみれが帰郷を果たした時は、軽く取り合いになることもあった。

チンチンアイス

東北地方の屋台で売られている、ご当地アイスクリーム。ソフトクリーム用のコーンに、ピンクや青、緑など、色とりどりのシャーベット状のアイスが乗っている。小学生時代の中渡健太が、運動会の昼休みに訪れた屋台から購入した。戸来すみれはすみれの母親から買い食いを禁止されているため、一度も食べたことがなかったが、6年目の運動会で、健太からおごられる形で初めて味わうことになる。健太は青い部分がおススメだと主張するが、すみれからはどの部分も同じ味しかしないと反論されてしまう。

ロンドン焼 (ろんどんやき)

京土産店「ロンドンヤ」で売られているお菓子。柔らかいカステラ風味の生地に、甘さ控え目の白あんが詰まっており、表面にはロンドンヤで作られたことを示す刻印が刻まれている。修学旅行で京都を訪れた中渡健太が、たい焼きの匂いに惹かれてロンドンヤを訪れた際に購入した。実際に食べてみたところ、たい焼きとも今川焼とも違う食感に最初は戸惑うが、食べ進めていくうちにその味を気に入り、野月キヨもロンドン焼を好きなのだろうと考える。

オムライス

キッチンしらさぎで出されているメニューの一つ。香ばしいご飯をふんわりとした卵で包み、その上から特製のデミグラスソースがたっぷりとかけられている。「当店おすすめ」と銘打たれるほどの自信作で、1000円の値段に見合ったボリュームと味を誇る。このことから、野月キヨや戸来すみれ、百子さん姉さんなど、店を訪れた多くの人々に絶賛されている。

スペシャルなパフェ

百子さん姉さんが行きつけの喫茶店で出されているメニューの一つ。いちごと生クリームがふんだんに使われており、おしゃれな見た目が特徴で、味もボリュームも申し分ないが値段がかなり高い。戸来すみれが喫茶店を訪れた際、百子さん姉さんに奢られる。すみれは一口食べるなり頬をほころばせたが、その様子を百子さん姉さんからスマートフォンで撮影されてしまう。

書誌情報

舞妓さんちのまかないさん 25巻 小学館〈少年サンデーコミックス〉

第1巻

(2017-04-12発行、 978-4091275622)

第2巻

(2017-07-18発行、 978-4091277268)

第3巻

(2017-09-12発行、 978-4091278289)

第4巻

(2017-12-12発行、 978-4091280282)

第5巻

(2018-04-12発行、 978-4091281883)

第6巻

(2018-06-12発行、 978-4091283290)

第7巻

(2018-09-12発行、 978-4091285379)

第8巻

(2018-12-12発行、 978-4091287526)

第9巻

(2019-03-12発行、 978-4091288837)

第10巻

(2019-06-12発行、 978-4091292582)

第11巻

(2019-09-12発行、 978-4091293893)

第12巻

(2019-12-12発行、 978-4091294890)

第13巻

(2020-03-12発行、 978-4098500888)

第14巻

(2020-07-10発行、 978-4098501298)

第15巻

(2020-11-12発行、 978-4098503162)

第16巻

(2021-03-12発行、 978-4098504893)

第17巻

(2021-07-12発行、 978-4098506842)

第18巻

(2021-10-12発行、 978-4098508013)

第19巻

(2022-02-10発行、 978-4098510108)

第20巻

(2022-07-12発行、 978-4098512096)

第21巻

(2022-10-12発行、 978-4098513628)

第22巻

(2023-01-12発行、 978-4098515844)

第23巻

(2023-05-12発行、 978-4098521319)

第24巻

(2023-09-12発行、 978-4098528479)

第25巻

(2024-01-12発行、 978-4098531431)

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