艶めく闇と溺れる光

艶めく闇と溺れる光

江戸川乱歩の小説『怪人二十面相』をはじめとする「少年探偵団」シリーズの世界観と登場人物をベースに、独自の解釈と設定を加えたミステリー作品。作中にはボーイズラブの要素も多分に盛り込まれている。戦後、名探偵の明智小五郎は事実上引退し、かつて「小林少年」と呼ばれた青年、小林芳雄が明智探偵事務所を引き継いだ。怪しげな魅力を持つ依頼人の速水荘吉がかかわる事件と、そんな速水と小林の愛の芽生えがスリリングに描かれている。「BLfranc」で2017年3月31日から2019年3月15日にかけて不定期配信された。

正式名称
艶めく闇と溺れる光
ふりがな
つやめくやみとおぼれるひかり
作者
ジャンル
探偵
 
BL
関連商品
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あらすじ

上巻

昭和二十八年、世間を騒がせた怪人二十面相は、警察官に追い詰められて自殺した。だが、永らく名探偵の明智小五郎の助手を務め、怪人二十面相を追っていた小林芳雄は、彼らしくない最期に違和感を覚えていた。そんな中、小林は記憶喪失の速水荘吉から、自身が何者なのか調べてほしいという依頼を受ける。小林はこれまで培ってきた直感から断るべき依頼だと感じつつも、速水の怪しい魅力と好奇心に抗えず、引き受けることにする。小林は速水と秘密倶楽部に乗り込んだり、非日常的な体験を重ねていくうちに、いつしか彼の不思議な魅力に心を奪われていく。そして、速水も小林の真っすぐな愛情に応えるかのように、恋人になってほしいと告白し、二人は真剣に愛し合うようになる。同時に速水は小林を抱くたびに、断片的ではあるものの、少しずつ記憶がゆおみがえってくる不思議な感覚を覚えるようになる。そんな中、速水は謎の人物から、とある探偵を殺してほしいと依頼を受ける。その探偵が小林ではないかと悟った速水は、小林を言葉巧みに世間から遠ざける。しかし、謎の人物の狙いは小林ではなく、速水自身であった。

下巻

小林芳雄は、中村警部から殺人事件の捜査依頼を受けて現場を訪れる。するとそこには、何者かによって殺害された速水荘吉が横たわっていた。憔悴する小林の前に遠藤が現れ、すべての謎を教えると彼を連れ出す。小林は遠藤から、速水が仮死粒子爆弾の研究資料を持ち出した人物であり、逃走中に仮死粒子爆弾を使用したことで、自身も記憶障害や白髪化の後遺症を負ったのだと打ち明けられる。そして同時に、その治療として特殊な体質を持つ小林との粘膜接触が有効だという事実を告げられる。殺されたと思われた速水は遠藤の助けもあり存命しており、小林と何度も性行為をしたため、記憶も白髪化した髪も本来の速水に戻りつつあった。そのまま速水は小林を監禁し、自身が本物の怪人二十面相だと打ち明け、性行為を繰り返す。そして、記憶を取り戻した速水は、どこか冷酷な印象の人格へと変わっていく。小林は速水が後遺症から解き放たれれば相手にされなくなると耐え忍ぶ一方で、かつて愛した速水の面影に心惹かれていく。速水自身も再び小林に心惹かれ、二人はあらためて愛を確認し合う。一方で仮死粒子爆弾の被害者たちは、速水への復讐のために動き出す。

登場人物・キャラクター

小林 芳雄 (こばやし よしお)

かつて名探偵である明智小五郎の助手を務めていた青年。当時は周囲から「小林少年」と呼ばれていた。明智からの信頼も厚く、戦後、明智が第一線を退いてからは彼の事務所である「明智探偵事務所」を引き継ぎ、探偵業を生業にしている。鋭い推理力を発揮して、周囲からは「二代目明智小五郎」と呼ばれる。しかし小林芳雄自身は明智を心から尊敬しており、自らが二代目と呼ばれることを受け入れてはいない。記憶喪失の速水荘吉から、自分が何者なのか調べてほしいとの依頼を受け、探偵の経験からかかわってはいけない危険な人物だと理解しつつも、彼に強く心惹かれていく。

速水 荘吉 (はやみ そうきち)

記憶喪失の男性で、白い髪に美しく整った妖艶な容姿を持つ。また、周囲の人物をたちまち虜にしてしまうカリスマ性を秘めている。自分の記憶を取り戻すため、小説家や実業家などさまざまな顔を持ち、ビジネス的にも大きな成功をおさめている。ある時、無造作に置かれていた新聞に目を通すと、偶然掲載されていた小林芳雄の写真に目が留まり、奇妙なひっかかりを覚える。もしかして小林なら速水荘吉自身の記憶を呼び起こしてくれるのではないかと望みを懸け、依頼したことで、小林とかかわりを持つようになる。当初は小林をあくまで自らの過去を探るための手段の一つとしか考えていなかったが、小林からの真っすぐな愛情を受け、次第に心惹かれるようになる。ひそかに自分が本物の怪人二十面相なのではないかと疑っているが、確信を持てずにいる。

明智 小五郎 (あけち こごろう)

戦前に活躍していた名探偵の男性。かつては小林芳雄を助手にし、怪人二十面相を捕えるために奮闘していたが、逮捕に至らないまま戦争が起こり、戦後は探偵業の第一線から退いた。さらに2年前、仕事中に傷を負って療養中で、明智小五郎自身はこのまま探偵業から引退するつもりでいる。現在は自らの事務所である「明智探偵事務所」を小林にゆずっている。

怪人二十面相 (かいじんにじゅうめんそう)

美術品を専門に盗む謎に包まれた怪盗。戦前は明智小五郎のライバルで、小林芳雄は明智と共に怪人二十面相を捕えることが大きな目標だった。戦後に復活したものの、美術品ではなく子供を誘拐し、失敗したとわかるや否や鉄塔から身を投げて自殺した。一連の行動により、小林からはこの時に死んだのは本物の怪人二十面相ではなく、別人なのではないかと疑われている。

遠藤 (えんどう)

怪しい魅力を漂わせた中性的な容姿の青年。長野と共に速水荘吉の身の回りの世話をしている。裏社会の情報に詳しく、速水をサポートしている。また、記憶のない速水の過去を知っているが、自分で思い出してほしいと助言はせずに見守っている。常人離れした身体能力を誇り、高い場所にも軽々とジャンプできる。速水に好意を抱いているため、小林芳雄に対してはライバル心をあらわにしている。

長野 (ながの)

遠藤と共に速水荘吉の身の回りの世話をしている男性で、屈強な肉体を誇る。記憶のない速水の過去を知っているが、自分からは話そうとしない。遠藤からよき相棒として信頼されているが、無口な秘密主義者で謎多き人物。

中村警部 (なかむらけいぶ)

警察官の男性で、捜査課に所属している。小林芳雄と組んで仕事をすることも多く、絶大な信頼を寄せている。小林が明智小五郎と、怪人二十面相を追っていた当時のことを知っており、よく部下に思い出話をしている。

場所

秘密倶楽部 (ひみつくらぶ)

上流社会の人間が淫猥な楽しみに耽る店。男性同士がカップルで訪れ、事前に教えられた暗号が一致することで入場できる。それぞれのプライバシーを守るために、仮面をつけることが義務づけられている。薄暗い店内では催されるショーを見たり、カップル同士が周囲を気にせず濃厚な絡みをしたりと、好きなように過ごす。店内には性的な欲求が高まる効果を持つ香が焚かれており、違法薬物の常用者も多く集う。店の幹部はすべて身分の高い女性で、集まった男性同士が猥褻な行為をしたり、時には暴力行為に及んだりする姿を見て蔑んでいる。

その他キーワード

仮死粒子爆弾 (かしりゅうしばくだん)

細胞や臓器の劣化と腐敗を抑制して、一時的な仮死状態にする未知の粒子。日本が戦争中に国内の核物理学の天才たちを中心に研究が進められていたが、何者かによって研究資料が持ち出された。その際に、まだ研究途中で不安定な状態の粒子を、その場にいた研究員たちに使用したため、研究員たちはそのまま死亡したり、一命は取り留めたものの体が腐敗していく後遺症に悩まされ続けていたりと、甚大な被害を及ぼした。そのため、持ち出した者に対して深い恨みを抱く者が多い。後遺症は一般的な医療では改善しないものの、特殊な体質を持つ者との粘膜接触を繰り返すことで治癒する。

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