神聖喜劇

神聖喜劇

太平洋戦争下の日本。召集によって補充兵となり、対馬にある重砲兵連隊で三ヶ月間の入隊教育を受けることとなった東堂太郎と、彼が所属する班の人々の姿を描いた群像劇。

正式名称
神聖喜劇
ふりがな
しんせいきげき
原作者
大西 巨人
作者
ジャンル
戦争
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概要・あらすじ

1942年1月、召集補充兵として重砲兵連隊の入隊教育を受けるため対馬要塞へと向かう東堂太郎。彼が所属することになった第三班の若者たちは、船の中で到着後班長となる大前田文七軍曹の中国大陸での恐ろしい逸話の数々を聞き、自分たちの前途を危ぶんでいた。鶏知の屯営で身体検査を受けた東堂は、同郷の軍医に療養を名目とした帰郷を勧められるが、三ヶ月であれば問題ないと軍医を説得する。

新聞記者でもあった東堂は軍部と戦争を憎む思想の持ち主であったが、自分自身についてそれを回避したいとは思わず、虚無主義から軍での死を望むようになっていた。

登場人物・キャラクター

東堂 太郎 (とうどう たろう)

24歳。福岡出身。対馬要塞重砲兵連隊教育召集兵第三内務班員。帝国陸軍二等兵。博覧強記にして凄まじい記憶力を持ち、一度読んだ本や聞いた言葉を正確に覚え、暗誦することができる。東京帝国大学に1年通った後、家の都合から九州大学法文学部に転学するも、高校時代の友人・西条靫負との関係から赤化の嫌疑をかけられ、二年半で中退。 その後、大東日日新聞社西海支社で新聞社員となっていたが、召集により対馬要塞で入隊教育を受けることとなる。妻子は無く、独身。誤ったことについては融通がきかない頑固さを持つ。戦争や差別を憎む思想の持ち主ではあるが、虚無主義に陥っている。

大前田 文七 (おおまえだ ぶんしち)

対馬要塞重砲兵連隊教育召集兵第三内務班の班長。帝国陸軍軍曹。前回の召集時、中国大陸に派兵され、杭州湾での戦いをはじめ四年にわたる激戦に参加してきた経験を持つ。戦地での婦女子暴行殺人や拷問など非道な行為も経験しており、上層部がどのようなきれいごとを言おうとも戦争の本質は「殺して分捕る」ことであると主張する。

神山 豊 (かみやま ゆたか)

対馬要塞重砲兵連隊教育召集兵第三内務班附現役三年兵。帝国陸軍上等兵。厳原出身。正規の学歴は厳原の高等小学卒業だが、その後京城でサラリーマンをしながら専検に合格、早稲田大学専門部の校外生となった。本人が努力した分、学歴コンプレックスが強く、言動の端々にそうした態度が出てしまう。

村崎 宗平 (むらさき そうへい)

対馬要塞重砲兵連隊教育召集兵第三内務班附既教育召集兵。帝国陸軍一等兵。やや不真面目だが、人情を感じさせる性格。元は炭鉱労働者であった。そのため同じ炭鉱労働者出身の鉢田が「モグラ」と言われて上官から馬鹿にされていたのを庇う。

冬木 照美 (ふゆき てるみ)

小倉出身の男。対馬要塞重砲兵連隊教育召集兵第三内務班員。帝国陸軍二等兵。嘘をつかずに筋を通そうとする性格で、東堂太郎が上官に事実を述べた時には、規則違反と見なされようとも同調する。謎めいた過去の持ち主。

橋本 庄次 (はしもと しょうじ)

福岡出身の男。対馬要塞重砲兵連隊教育召集兵第三内務班員。帝国陸軍二等兵。気のいい性格。食事のおかずが大根ばかりであることを手紙に書き、神山豊上等兵から叱責を受ける。故郷では「陰坊」を生業としていた。

生源寺 景文 (しょうげんじ かげふみ)

背が低く、めがねをかけた男。対馬要塞重砲兵連隊教育召集兵第三内務班員。帝国陸軍二等兵。苗字から大前田文七に僧侶と勘違いされるが、神主を生業としていた。32歳。妻と三人の子供がいる。

鉢田 忠男 (はちだ ただお)

対馬要塞重砲兵連隊教育召集兵第三内務班員。帝国陸軍二等兵。川筋出身。生まれつき左目が小さい。故郷に手紙を出す際、神山豊の書いた手本そのまま自分の名前を「何某」と書いたところから、「ナニボウ」とあだ名をつけられる。故郷では炭鉱労働者であった。

若杉 友三 (わかすぎ ゆうぞう)

対馬要塞重砲兵連隊教育召集兵第三内務班員。帝国陸軍二等兵。巨漢。召集前は出羽ノ海部屋の相撲取りだった。そのため、召集兵の規則である丸刈りを免れ、髷を結っている。

村上 真道 (むらかみ まさみち)

対馬要塞重砲兵連隊教官。帝国陸軍少尉。旧士族出身。質実剛健、清廉潔白の生きた手本とも言われる理想主義者。陸軍士官学校出の幹部候補生。大前田文七の語る戦争の本質とは「殺して分捕る」であるという主張を真っ向から否定する。

堀江 太平 (ほりえ たへい)

対馬要塞本部控置部隊隊長。帝国陸軍中尉。元は貧乏漁夫の息子で、少尉候補の試験を何度も落ちていた。しかし偶然大砲の演習中に腔発事故が起こり、一人だけ助かったことから特進した。毎朝馬に乗って屯営に通う。

西条 靫負 (さいじょう ゆぎえ)

京都帝大経済学部の学生。高校時代、東堂太郎の親友だった男。反戦・左翼的な傾向にあるだけでマルクス主義者ではなかった東堂とは異なり、明確なマルクス主義者。治安維持法違反で検挙され、獄中死した兄がいる。

東堂 国継 (とうどう くにつぐ)

東堂太郎の父親。企救農学校と城野実科女学校の教師を兼任。剣道四段、柔道三段の腕前を持ち、古武士的な気骨を持つ人物。全身に十三箇所の刀傷があり、そのうち六箇所は人違いの闇討ちにあった時のもの。

彼女 (かのじょ)

本名不明。細眉町の料亭「安芸」で働く広島出身らしき女性。東堂太郎が最後に房事を持った相手。女子専門学校を卒業後結婚するが、夫は日華事変で召集を受け陣歿。流産と自殺未遂を経験している。詩や文学、哲学などに通暁している。

クレジット

原作

大西 巨人

企画

岩田 和博

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