虫籠のカガステル

虫籠のカガステル

人が巨大な虫に変貌するという奇病が蔓延し、文明が崩壊した世界。その奇病、カガステルの謎に挑む駆除屋の少年、キドウの姿を描くSF作品。

正式名称
虫籠のカガステル
ふりがな
むしかごのかがすてる
作者
ジャンル
天使・悪魔
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

第1巻

駆除屋の少年、キドウは、ある商人の護衛をしていたところ、たまたま出会った死にかけた男性のグリフィスから、「娘」であるというイリを託される。グリフィスの死に傷つき悲しむイリは、はじめのうちキドウに心を開かず、逃走を謀る事さえあった。そんな中、イリは偶然にもスラムで暮らす少年と親しくなる。ガーデンマリオでの暮らしにもやがて慣れ始めたところ、イリはガーデンマリオの主であるマリオから頼まれたおつかいの途中で財布を盗まれてしまう。その犯人は、スラムで知り合った少年の知人であり、窃盗団「赤ネズミ団」のリーダーでもあるリジーという名の少女であった。一方キドウは、E-05で起きた連続殺人事件の謎を追う中で、素顔をフードで隠した殺人鬼、アハトと初めて遭遇する事になる。

第2巻

イリリジーから、財布を返してほしければ、自分を追いかけて捕まえるよう挑発される。騒ぎの末にイリはどうにかリジーを捕まえるが、そのあいだに意気投合していた二人は友人同士となる。一方、キドウアハトと交戦していた。実は半身が虫の身であったアハトに苦戦し、キドウは毒を受けてしまうが、駆けつけたイリが割って入り、助けを呼ぶ。アハトはそんなイリを殺そうとするが、すんでのところで何かに気づいて踏みとどまり、そのまま逃走。精根尽きて眠るキドウに、イリはそっと自分の恋心を伝えるのだった。

第3巻

リジーの恋の相手である軍人、カシムカガステル化してしまい、キドウはその手でカシムを討つ。また、キドウは自身の過去、ラザロと暮らし、カーラと親しくしていた日々を回想する。キドウはもともと孤児だったが、カシムに拾われ、彼の率いる駆除屋の一員に加わった。当時は未熟な子供であったので、ゴロツキ同然の仲間達からは粗雑に扱われたが、カシムはリーダーとして信頼されていたので、その実質的な養子として、かろうじてキドウは自分の居場所を得ていた。カーラと友人になり、キドウは束の間の平和な日々を得ていた。しかし、やがて軍とのあいだのトラブルからラザロ達のグループは壊滅してしまい、ラザロはカガステル化してしまう。キドウは自らの手で、完全にカガステル化する前のラザロを殺害してしまう。

第4巻

いつしか自分のキドウに対する想いを人前でも公然と口にするようになっているイリであるが、のどかな暮らしはそう長くは続かなかった。ガーデンマリオが軍の襲撃を受けたのである。キドウはイリを連れて逃げ出したが、そこにアハトが襲撃して来る。混戦の中、イリとキドウははぐれてしまう。そして同時に、イリは失っていた記憶、自分の本当の正体についての記憶を取り戻していた。イリの正体は、カガステルの女王となるべきものとしてフランツ・キーリオらの研究者によって人工的に生み出された存在であった。イリはその能力を使い、自分の友人を殺そうとした暴徒をカガステル化させた。さらに、アハトも同じ実験の中でイリより先に生まれた存在で、イリの兄である事が判明する。

第5巻

E-05にもともといた駐屯の軍の人々も、商人達の側に与した。キドウもまたE-05のために勇躍し、また駆除屋としての人脈を活かして、駐屯軍と商人達の協力関係の橋渡しをする。そのうえで、キドウはイリをその手に取り返すべく、E-05を去って行った。一方、アハトはイリに危害を加えようとした軍人達をその手で殺害し、イリに対して肉親としての優しい言葉をかけ、同時に別れを告げるのであった。E-01アドハム中将らもまた、キドウとアハトの暗躍によって混乱の中に陥りつつあった。

第6巻

イリを追う冒険の中、キドウはイリの正体を知ってしまう。常人の身ではなく、またそれを自覚するに至ってしまったイリは、もうE-05にもガーデンマリオにも戻る事はできない。だがキドウはそれを承知のうえで、自分といっしょに行こう、とイリに手を差し伸べる。そしてキドウはアドハム中将と戦い、その野望をくじく。だが、アドハムを倒したものの足場から落下してしまったキドウは、アハトとまた対峙する事になる。キドウはアハトの正体についても既に承知しているのであった。

第7巻

アハトは自らの死に場所、自分を殺してくれる存在を求めて、キドウに対し牙を剥く。戦いの末に、キドウはアハトを破るが、その思いとは裏腹にとどめは刺さなかった。自分を殺してくれと懇願するアハトにキドウは生きろと説く。アハトは「妹を頼む」と言って微笑み、キドウが去っていくのを見送る。同時に、E-05での戦闘は終結。キドウに致命傷を負わされてしまったアドハムは息を引き取り、彼の野望は完全に潰えた。イリはキドウの前で、自分はもう人の社会に交わって暮らす事はできない、と自分自身の正体と本質について自ら語る。だがキドウは愛を込めてイリを抱きしめ、それでも構わないと告げるのであった。こうして、二人はあてどもない旅に出る事になる。

登場人物・キャラクター

キドウ

駆除屋をしている少年。年齢は17歳。E-05にあるガーデンマリオで暮らしている。腕利きの駆除屋で、冷酷な一面もあるが、精神的にはまだ幼さを残している。ガーデンマリオの常連客などからは、畏敬と親しみの混ざったニュアンスで「オニ」とあだ名されている。

イリ

キドウによって救われ、E-05にあるガーデンマリオで働きながら暮らすようになった少女。年齢は14歳。のちに、恩人であるキドウに思いを寄せるようになっていく。かつてはA-47という田舎町で、グリフィスと共に牧畜をして暮らしていた。その正体は、カガステルの女王となるべき者としてフランツ・キーリオらの研究者によって人工的に生み出された存在であり、その意のままに人間をカガステル化させる事ができる。 また、グリフィスの行った施術の影響で、一時的に研究所やアハトに関する記憶を喪失していた。

グリフィス

カガステルにより虫に変貌した者に襲われて死亡した中年男性。イリの父親を自称していたが、実際には血縁者ではなく養父。その素性はフランツ・キーリオらと共にカガステルの研究をしていた科学者である。死の間際、偶然に出会ったキドウにイリを託した。

タニア

イリの母親。イリの産みの親であるが、イリは人工的な授精によって生まれた子であるため、夫にあたる人物はいない。タニア自身も、もともとはカガステル化した女性の子宮から取り出されて生まれた赤ん坊であった。その後、フランツ・キーリオの義妹として育てられ、科学者となった。

アハト

E-05に現れた殺人鬼。残忍な手口で駆除屋ばかりを狙って惨殺している。全身を覆うフードで姿を隠しており、性別すら不明であったが、素顔は少年。その正体はフランツ・キーリオらの手で人工的に作り出された、この世でただ一人理性を持つカガステルであり、またイリの兄にもあたる。身体の半分は虫となっている。

フランツ・キーリオ (ふらんつきーりお)

イリの血縁上の父親にあたる科学者の男性。中年ながら、外見は若々しさを保っている。カガステルの真実を追い求め、軍との協力関係のもとその支援を受け、さまざまな研究を行っている。イリに対しては冷たく、父親らしい振る舞いをする事は基本的になかった。

マリオ

E-05でガーデンマリオを営む大柄な中年のオカマ。怪我をして倒れていた素性も知れないキドウを助け、実質的な養い親として、その後の3年間を家族同然に過ごした。イリに対しても親代わりの存在として接する。実は高い戦闘能力を持っており、回転式の銃砲を好んで用いる。

リジー

E-05のスラムに暮らすストリートチルドレンの少女。数人の子分を引き連れ、盗賊団「赤ネズミ団」のリーダーを自称している。かつてカガステルにより虫に変貌した者達が引き起こした事件によって家族を失い、今の境遇に陥った。カシムに恋愛感情を抱いている。

カシム

E-05に駐屯している軍の指揮官を務めている青年。カガステルにより虫に変貌した者達と戦うだけではなく、町の治安維持や警察任務なども請け負っている。リジーが孤児になった事件とかかわっており、その事に悔恨を残している事からリジーら孤児達には優しい。

アドハム

E区の軍のトップの地位にいる壮年男性。階級は中将。カガステルを軍事利用する事で強大な権力を摑もうと画策する野心家であり、その目的のために研究者であるフランツ・キーリオらを支援している。イリやアハトの秘密にも深くかかわっている。

ラザロ

駆除屋をしていた男性。現在は故人。キドウを拾って養子とし、駆除屋としての仕事を教え込んだ。元の職業は聖職者であったが、奇病、カガステルに対して神や教義が無力である事に絶望して駆除屋となった。最後は自身もカガステル化し、キドウの手で討たれる。

カーラ

キドウの昔馴染みの若い高級娼婦。ラザロと親しく、またカーラ自身はラザロに恋愛感情を抱いていたが、恋愛対象として見てもらう事はなかった。ラザロを失ったあとのキドウに女を教えると共に、以後義理の姉を名乗るようになる。

場所

ガーデンマリオ

都市、E-05にある宿舎。実質的には旅籠のようなもので、レストランや酒場としての機能もある。マリオというオカマが経営者であり、イリはここでウェイトレスなどをして暮らす事になる。キドウもここに自分の居室を持っている。

E-05

キドウが住んでいる都市。それなりに繁栄している交易都市であるが、ストリートチルドレンが暮らすスラムなどの地区もある。商人達が強大な権限を握っているが、カシムをはじめとする、カガステルにより虫に変貌した者達から住民を守るための軍も駐留している。

E-01

E区の中で最大の都市。フランツ・キーリオらの研究所が置かれている。E区の軍のトップであるアドハムもこの街にいる。軍と研究所の手によって拉致されたイリを救うために、キドウはこのE-01に向かう事になる。

その他キーワード

カガステル

人間が巨大な虫に変貌してしまうという奇病。虫になった人間は無差別に人を襲い喰らう。虫になった元人間の事も「カガステル」と呼称する。感染してから虫に変わるまでには20分かかり、被害の拡大を食い止めるため、そのあいだに殺す必要がある。そのため、この時点で人を殺す事は罪に問われない。一部には、カガステルは病ではなく人の進化なのだと主張する研究者もいるが、その声は少数派である。

駆除屋 (くじょや)

奇病、カガステルに侵されて虫となった人間と戦う技能を持つ人々。キドウのような、矜持をもって仕事にあたるプロフェッショナルもいれば、ほとんどゴロツキ同然の者もおり、その質はさまざまである。怪物と化したカガステルを狩る事はもちろん、カガステル化の始まった人間を「駆除」するのも仕事のうちである。

虫籠 (むしかご)

カガステル化して虫となった者達の作る巣。内部には女王がいて、これに属して暮らすカガステルは、人としての理性は失っていても、何らかの社会性を持つのではないか、と研究者達は推測しているが、詳しい事は判明していない。なお、カガステルの中で生殖能力を持っているのは女王だけである。

SHARE
EC
Amazon
logo