男おいどん

男おいどん

青年・大山昇太は、ボロ下宿の四畳半で、歯を食いしばりながらも、未来に夢を馳せる。作者・松本零士が、自らの青春時代の体験をベースに描いた哀愁漂うコメディ作品。いわゆる「四畳半」ものの代表作。1972年度講談社出版文化賞を受賞。

正式名称
男おいどん
ふりがな
おとこおいどん
作者
ジャンル
ギャグ・コメディ
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概要・あらすじ

大山昇太は、中学校卒業後、大志を抱いて九州から上京する。昼間はアルバイト、夜は夜間高校に通うも、トラブル続きで、どちらの道も閉ざされてしまう。オンボロアパート「下宿館」の四畳半で、金も無い、腕力も無い、彼女もいない、という絶望的な状況の中、昇太は、男の意地と根性で生き抜いていくのだった。

登場人物・キャラクター

大山 昇太 (おおやま のぼった)

九州弁を使い、一人称は「おいどん」。中学卒業後、立身出世を夢見て上京。昼間は町工場でバイトし生活費と学費を稼ぎ、夜は定時制高校に通う。だが、トラブル続きで、バイトをクビになり、学校も休学せざるを得なくなる。上京して3、4年経つが、ボロアパートの下宿館の西向き四畳半で極貧生活を続けている。 家財道具も売り払ってしまい、財産は数十枚の汚れた縞パンツのみ。無芸大食、人畜無害、痩身短躯、ド近眼なれど、プライドは高く、意地っ張りである。正義感が強く、喧嘩っ早いのだが、腕力は滅法弱い。風呂嫌いで数ヶ月は入らなくても平気。こんな男だが、母性本能をくすぐるのか、なぜか興味を持ち優しくしてくれる女性は数多い。 だが、所詮は代用品か暇つぶし程度でしかなく、悲恋に終わることが多い。父親と弟の大山太が、時折上京し、下宿を訪ねに来る。

山田 マス (やまだ ます)

下宿館の女主人。夫に先立たれ、たった一人で下宿を切り盛りしている。様々な若者の成功や挫折を見続けており、下宿人達には、厳しいながらも情愛を持って接している。家賃滞納の常習者である大山昇太には、手を焼いているが、危急の際には、食料や資金の援助を惜しまない。料理も上手く、不気味なキノコ、サルマタケですら多種多様のメニューに変えてしまう。 トラブルの際には、ホウキや包丁を振り回して雄々しく立ち回る。姪に沖野奈美という美女がおり、一時期下宿館で暮らしていた。

紅楽園のおっさん (こうらくえんのおっさん)

大山昇太がよく通う中華料理店の店主。妻と二人三脚で経営し、出前も行っている。名物はラーメンライス。大山昇太を「おいどん」と呼び、その生き様を高く評価している。大山が困窮している時には、食事をご馳走したり、アルバイトとして雇ったりと、何かと世話を焼いてくれる。 さらに大山が落ち込んでいる際には、酒を振る舞い、自らもくだを巻き、暴れる。大山が、たまに売りつけに来る不気味なキノコ・サルマタケも買い取るものの消費できず、逆に繁茂させてしまっている。

トリ

『男おいどん』に登場する鳥類。大山昇太が自室で飼っているペット兼非常食。大山の部屋のお向かいに住んでいた浅野さんから貰い受けた。南米からタンカーの船員が連れて来たものらしく、種類は不明。物まねが上手く、レコーダーのように聞いた言葉を再生できる。普段は罵声や悪態を吐き散らす。空を飛ぶことも出来るが、基本、大山の四畳半に棲み着いている。 食欲は旺盛で、不気味なキノコ・サルマタケやインキンタムシの薬までも好んで食す。

パンツがたき

下宿館に隣接するアパートの浪人生。すでに5年も浪人しているらしい。大山昇太の部屋がすぐ近くのため、大山が騒ぐ度に、勉強の邪魔だと、パンツの塊やパンツで包んだコーラ瓶を窓から投げ込んでくる。対する大山は、汚れたパンツの巨大な塊を「集合力」と称して投げ込み勝利することが多い。 この乱戦にトリが加わると、対抗意識を燃やしてネコを飼うなどしている。大山と同様の縞のパンツを愛用しており、すでに混在して区別は付いていない。実は体を壊しており、一旦帰郷するが、しばらくして復帰する。意外にも彼女がいる。

サルマタケ

『男おいどん』に登場するキノコ。大山昇太の押し入れに繁茂する不気味なキノコ。押し入れに詰め込まれたパンツが作り出した高温多湿な環境により出現した。長雨などで水分を吸収すると数倍に大成長を遂げる。困窮時には大山の貴重な栄養源となる。ゆえに大山はサルマタケの栽培法や栄養分析の物理学的解説、料理法48コースなど研究に余念が無い。 それなりに美味らしく、生息地を知る前には下宿館の人間たちが、男女問わず一度は食している。その勢いは留まることを知らず、部屋から庭へ拡大し、隣の下宿まで脅かすまでになっている。

伊藤 朝香 (いとう あさか)

大山昇太が働いていた大町工場の事務の女の子。大山に好意を抱いており、兄の形見のドストエフスキー作『罪と罰』を貸してくれた。工場をクビになった大山を心配するが、自らも工場を辞め、結婚のため故郷へ帰る。夫との間に子供をもうけるが、度々工場や大山のアパートに挨拶に来る。

西尾 令子 (にしお れいこ)

練馬美大の学生で、シュールレアリズムの画家を目指し、下宿館に暮らす。大山昇太をヌードモデルのアルバイトに誘うが、逆に屈辱を味あわせてしまったことを後悔する。その後は、何かと大山の世話を焼き、パンツの山を洗濯したり、パンツを縫い合わせて布団を作ってくれたりもした。 だが、大山に対しては弟的な愛情止まりで、美大を中退した後に、松尾という高校の同級生と結婚する。その後もプレゼントを贈るなどして、ことある毎に大山を激励する。自ら下宿館を訪ねることもあり、変わらない大山の若さを羨んでいた。

中原 薰子 (なかはら のぶこ)

ボロアパート下宿館に暮らす女子大生。育ちが良いように見えるが、実家は下町の長屋育ちで苦学生でもある。コンタクトレンズを着用しており、大山昇太同様の近眼である。男の兄弟が多いため、大山のパンツの後片付けなど器用にこなす。大山に好意を寄せ、初キスの相手でもある。 京都の壬生大学の相良勇という恋人がおり、結婚して彼の実家のある京都へ移った。

林 厚子 (はやし あつこ)

あまり美人ではないが、さっぱりした性格の女の子。人前で男性に恥をかかせず、花を持たせる優しい心の持ち主。女性ながらインキンタムシに感染している。実は、古武道研究会の副部長で、男相手に組み打ちをやるためインキンタムシが移ってしまった。特効薬マセトローションを分けてくれた大山に恩義を感じ、ケンカ技を習得するように勧めている。 老朽化した下宿館を後にして、新築アパートへ引っ越していった。

場所

下宿館 (げしゅくかん)

『男おいどん』に登場するアパート。瓦葺きの二階建てアパート。主に学生や予備校生が利用する。洗面所とトイレは共同で、風呂は無く、住民は主に銭湯を利用する。1階には、大家の山田マスが住んでおり、住民に食堂や風呂を開放することもある。24時間住民が出入りできるように、原則として玄関の鍵はかけないので、泥棒が侵入したことも多い。 かなり古く傷んでおり、大山昇太が騒動を起こす度に天井が落ち、床が抜ける。大山は、階段を上ってすぐの西向きの部屋に住んでいる。この部屋から不気味なキノコ・サルマタケが無限に繁殖している。大山の向かいの部屋には、なぜか美人が下宿することが多い。

その他キーワード

インキンタムシ

『男おいどん』に登場する皮膚病。大山昇太の陰部を冒す皮膚病で、常に激しい痒みをもたらしている。作中に登場する『家の医学』によれば、インキンとタムシは別の疾病である。インキンは陰嚢部分の乾燥性の湿疹で皮膚が剥げる。タムシは白癬菌というカビによるものである。治療法としては、大山はマセトローションという軟膏を愛用していた。 大山を媒介として、下宿館の男性のほとんどがインキンタムシに感染している。

縞パンツ (しまぱんつ)

『男おいどん』に登場する下着。大山昇太が愛用しており、サルマタと呼称されることもある。近所の用品店で安売りのものを買ったり、実家から贈られてきたりと、常に数十枚備蓄している。大山が自ら洗濯することは希で、夏季は押し入れの中で蒸れて異臭を放ち、不気味なキノコ・サルマタケとインキンタムシの温床となっている。 冬季には水分が凍り付き、岩のような塊となってしまうこともある。大山は、パンツの山の中にくるまって布団代わりにして睡眠することが多い。

守り神 (まもりがみ)

『男おいどん』に登場する学帽と学生服。大山昇太が中学時代に着ていたもので、上京の際に母親がお守りを縫い付けてくれた。大山は、これを「守り神」と称して大事に押し入れの奥にしまっており、挫けそうになった時に出してきては、誓いを新たにしている。

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