累

演劇の世界を通じ、女性の「美醜」をテーマに描いた作品。美人女優の娘でありながら、醜い顔に生まれた淵累という女性を主人公に、他人と顔を交換する力を持つ口紅で別人になりすまし、美しい女優として脚光を浴びることの幸福と苦悩を描く。作者のデビュー作にして代表作。作者自身の手によってスピンオフ小説『誘』が執筆されており、そこでは累の母親である「誘」の過去が描かれている。また、江戸時代の怪談・「累ヶ淵」が作品のモチーフとなっており、キャラクター名のいくつかは「累ヶ淵」に由来している。

正式名称
ふりがな
かさね
作者
ジャンル
推理・ミステリー
 
俳優・女優
 
サスペンス
レーベル
イブニングKC(講談社)
巻数
既刊14巻
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概要・あらすじ

美しい姿のままこの世を去り、「伝説の女優」と謳われた淵透世の一人娘・淵累。母に似ず醜い顔に生まれたは、女優になる夢を持つものの、その醜さゆえに学校でいじめられていた。小学5年生の時、学芸会でシンデレラを演じることになったは、母が遺した「赤い口紅」の力で西沢イチカという同級生の美少女と入れ替わり、舞台の上で脚光を浴びる喜びを知る。

さらに高校では演劇部の先輩である美少女・五十嵐幾とも顔を交換し、「祭りよ、今宵だけは哀しげに」のジョバンニ役を演じる。が18歳になると、生前の母を知る演出家・羽生田釿互と出会う。母もまた口紅の力で他人と顔を交換していた醜い女性であり、欽互はその秘密を守る協力者だったという。

母の遺志によりを女優の道へ誘う欽互は、美しい顔を奪う標的として丹沢ニナを紹介する。利害が一致していたとニナは、顔を交換しながら女優として成功していく。しかしその協力関係にも様々な障害が待ち受けていた。一方では、母(透世)に瓜二つな顔をした美女・野菊と偶然親しくなる。

「本物の透世」の娘であり、腹違いの妹でもある野菊との運命の出会いだった。

登場人物・キャラクター

淵 累 (ふち かさね)

「伝説の女優」の名をほしいままにした美人女優・淵透世の一人娘。母に似ない醜い容貌のため、学校ではいじめられていた。小学5年生の時に、母の形見である「赤い口紅」を用いてクラスの美少女との入れ替わりを経験。その後、18歳になった時に母の正体を知る人物・羽生田釿互と出会い、丹沢ニナという美人女優を紹介され、ニナとの合意の上で顔を入れ替える。 その際、淵累という人間(中身はニナ)は「ニナのマネージャー」という扱いになった。演技力に関しては母親譲りの突出した才能を持ち、演劇経験に乏しい頃から台本に対する記憶力も高い。醜さへの劣等感や嫌悪感が強く、本来の姿では自信を保てないが、美しい姿を得ることで堂々とした演技を見せることができる。 ちなみに赤い口紅の力は髪の毛を入れ替えることはなく、髪型は小学生の頃から丹沢ニナに変身する時期に至るまで黒髪ロングストレートで一貫している。鉱小学校・晶川中学校・県立隼田高等学校出身。高校では演劇部で照明係をしていた。

(いざな)

淵累の実母。故人。演出家の羽生田釿互を協力者として、伝説の女優・淵透世として生き、海道与との間に累を産んだ。口づけをした相手の顔と声を奪うことのできる「赤い口紅」を累に遺し、死後も幻影として累の前に度々現れる。累は美しい顔をした母の姿しか見たことがないが、本当の顔は娘の累と同じく、化け物のように醜い。 作者である松浦だるまが執筆したスピンオフ小説『誘』では、誘が主人公である。朱磐村(あけいわむら)という集落で槻かづらという醜い女性の娘として生まれ、戸籍も与えられずに育ったという誘の出自と、羽生田釿互との出会い、そして「日朱(ひしゅ)」と呼ばれる赤い口紅と同じ力を持った朱顔料を入手して村を出るまでの様子が描かれている。

羽生田 釿互 (はぶた きんご)

18歳になった淵累が出会った男性。目付きの悪さと出っ歯が特徴で、職業は演出家。累の母・淵透世(誘)が生きていた頃の協力者であり、誘に頼まれて累の協力者になろうとする。作者である松浦だるまが執筆したスピオンオフ小説『誘』では、彼が朱磐村(あけいわむら)という集落で誘と出会った過去が描かれている。 それによると釿互の父親は誘の父親の兄にあたり、釿互と誘は血縁上の従姉弟の関係になる。また、「羽生田」は朱磐村を出てから養子になった家の苗字であり、それ以前は朱砂野釿互という名前だった。ちなみに『累』のモチーフとなった江戸時代の怪談・「累ヶ淵」には羽生村という地名が登場する。

丹沢 ニナ (たんざわ にな)

とても美しい容姿をした若い舞台女優。淵累が赤い口紅の力を用いて、西沢イチカと五十嵐幾に続いて顔を交換した3人目の女性となる。登場時に20歳であり、累より2歳上。数週間も眠り続けてしまうという、珍しい睡眠障害(通称「眠り姫症候群」)に16歳から悩まされている。学生時代は、その持病のため学校で孤立し、不登校になっていた。 その頃に参加した演劇ワークショップで演出家の烏合零太と出会い、女優となる道を示されて以来、彼に片想いをしている。その烏合が演出する「かもめ」の舞台に出演するため、羽生田釿互に紹介された累の演技力を利用しようとする。視力は悪く、子どもの頃は眼鏡をかけていた。 母親の名前は丹沢紡美。

野菊 (のぎく)

伝説の女優・淵透世の生き写しのように美しい顔をした女性。淵累の母親・誘に顔と名前を奪われた「本物の淵透世」の娘であり、戸籍もなく父親の屋敷に閉じ込められて育つ。野菊が「お父様」と呼ぶ父・海道与は淵累の父親でもあるため、野菊は累にとって腹違いの妹にあたる。「伝説の女優」としての淵透世に執着している与は、野菊にその面影を求めて近親相姦を強要していたが、母親とも死別している野菊はその境遇に耐え切れなくなり、屋敷を逃げ出そうとする。 屋敷の外に出ずに育ったため、世間知らずな性格。

海道 与 (かいどう あたえ)

誘との間に淵累を、「本物の淵透世」との間に野菊をもうけた2人の父親。ただし累はこの父親と会ったことがない。現在の職業は不明だが、淵透世(中身は誘)が演じる「サロメ」を演出したことがあるという。「伝説の女優」としての淵透世に固執する与は、醜い累を捨てて美しい野菊を娘として選んだが、誘が演じる「淵透世」のような才能を持たない野菊には失望している。 なお、作者である松浦だるまが執筆したスピオンオフ小説『誘』には、海道凪(かいどうなぎ)という同姓の男性が登場する。

丹沢 紡美 (たんざわ つぐみ)

丹沢ニナの実の母親で、眼鏡をかけた女性。数週間も眠り続けてしまう睡眠障害(通称「眠り姫症候群」)を抱えるニナに、22歳までに持病が完治しないのなら女優になる道を諦めるように勧めていた。その後、女優として成功していくニナ(正体は赤い口紅の力で顔を入れ替えた淵累)に対し、娘が別人になったのではないかと疑いの目を向けるようになる。

烏合 零太 (うごう れいた)

舞台演劇の第一線で活躍する男性演出家。丹沢ニナが不登校だった時期に参加した演劇ワークショップにおいて、女優としての道を彼女に示した人物でもある。現在は演出家として煮詰まっており、「かもめ」のニーナ役となる女優に似たり寄ったりではない何かを求めてオーディション公募を行う。

鷺沼 陽治 (さぎぬま ようじ)

放浪しながら売春をしていた野菊の客の1人となる男性。演劇の美術スタッフの仕事をしており、丹沢ニナ(正体は赤い口紅の力で顔を入れ替えた淵累)の出演作に関わっている。「淵透世の再来」とも呼ばれる丹沢ニナ(累)の演技を、淵透世に生き写しの美女である野菊に見せようとして彼女を舞台に誘おうとする。

天ヶ崎 祐賭 (あまがさき ゆうと)

肥満体型で、左目の上に大きな痣のある醜い男性。左目の下には黒子もある。売春をしていた野菊に魅了され、彼女を抱くためならなんでもすると言って淵累を探す協力を行う。職業は教師。職場である学校では、その容姿の醜さから女子生徒に存在を疎まれており、その憎しみから、女性を犯して壊したいという願望を抱えている。

五十嵐 幾 (いがらし いく)

淵累が赤い口紅の力を用いて顔を交換した2人目の相手。累が通っていた高校で演劇部の部長をしており、学年は累よりひとつ上。大きな瞳に長い睫毛、通った鼻筋に口角の上がった口元と、「美少女」と形容されるに相応しい顔立ちをしている。可愛いという理由で女友達からいじめられていた過去を持ち、その経験から、同じ演劇部の照明係だった累がいじめられていることに同情していた。 髪型は累と同じく黒髪ロングストレート。

淵 峰世 (ふち みねよ)

淵透世の姉であり、戸籍上は淵累の伯母にあたる女性。だが、血縁上は誘の娘である累とは血の繋がりがない(逆に「本物の透世」の娘である野菊とは血の繋がりがある)。透世(誘)の死後は累の後見人となっている。周囲からは優しくて聡明な女性だと思われているが、本来なら累が受け継ぐはずの母の遺産を横領し、陰では累を邪険にするような人物である。 右目の下にホクロがある。

淵 透世 (ふち すけよ)

淵累の母・誘によって顔と名前を奪われていた女性。故人。累の後見人である淵峰世の妹でもある。18歳で実家を出た後、淵透世の顔を奪った誘が女優として成功していく一方で、「本物の透世」は地下室で監禁生活を送らされることになる。誘の死後は地下室から出されているものの、不自由な境遇のまま亡くなっている。 また、海道与という男との間に「野菊」という戸籍のない娘を産んでいる。

その他キーワード

赤い口紅 (あかいくちべに)

単に「口紅」とも呼ばれる。淵累の母・淵透世(正体は「誘」)が形見として累に遺したルージュのリップスティックで、これを唇に塗って口づけをすれば、「顔」と「声」を1日ほど相手と交換できる。身体や髪の毛、視力は交換されない。誘は「かさねちゃんがひとりぼっちで本当に本当に本当につらいとき」に使うよう言い遺しており、累は小学5年生の時に初めて用いることになる。 作者である松浦だるまが執筆したスピオンオフ小説『誘』では、「日朱(ひしゅ)」と呼ばれる古代の朱顔料を誘が入手し、粉末状の日朱を唇に塗ることで、この赤い口紅と同じ効果を発揮する様子が描かれている。

書誌情報

累 14巻 講談社〈イブニングKC〉

第1巻

(2013-10-23発行、 978-4063524857)

第2巻

(2014-01-23発行、 978-4063524970)

第3巻

(2014-05-23発行、 978-4063545166)

第4巻

(2014-10-23発行、 978-4063545395)

第5巻

(2015-03-23発行、 978-4063545647)

第6巻

(2015-07-23発行、 978-4063545838)

第7巻

(2015-11-20発行、 978-4063545982)

第8巻

(2016-04-22発行、 978-4063546156)

第9巻

(2016-08-23発行、 978-4063546323)

第10巻

(2016-12-22発行、 978-4063546491)

第11巻

(2017-06-23発行、 978-4063546675)

第12巻

(2017-10-23発行、 978-4063546910)

第13巻

(2018-04-23発行、 978-4065111338)

第14巻

(2018-09-07発行、 978-4065125670)

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