贄姫と獣の王

贄姫と獣の王

人間と魔族が対立する世界で、魔族の生贄(いけにえ)とされた少女のサリフィ・クライノエルは、魔族の王、レオンハートに見初められることとなる。種族の壁を乗り越えて愛情を育みながら、人間と魔族、そして魔族同士にもある差別を見つめ直し、精神的に成長していくサリフィたちの姿を描いた恋愛ファンタジー。白泉社「花とゆめ」2015年17号から2020年22号にかけて連載された作品。

正式名称
贄姫と獣の王
ふりがな
にえひめとけもののおう
作者
ジャンル
ファンタジー
 
恋愛
レーベル
花とゆめコミックス(白泉社)
巻数
全15巻完結
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あらすじ

王妃の試練編

魔族の生贄になるために育てられたサリフィ・クライノエルは、魔族の国「オズマルゴ」の王でありながら魔族と人間のハーフであるレオンハートに見初められ、王妃にと望まれた。レオンハートは家臣たちの前では威厳のある振る舞いを見せながらも、魔族にも人間にもなりきれない孤独と、これまで生贄に捧げられてきた人間たちをひそかに逃がし続けており、その優しさをレオンハートの中に感じたサリフィは、自らも彼にふさわしい王妃となれるよう心に誓う。しかし人間の王妃を迎えることで、レオンハートの王としての地盤が揺らぐのではないかと危惧した宰相のアヌビスは、サリフィが本当に王妃としてふさわしい存在なのかを試すため、サリフィに一見無茶とも思える試練を与えることにする。その最初の試練は歴代王妃が必ず行っていた聖獣との契約だが、魔力を持たないサリフィにとって、その契約は命がけの試練であった。

王妃代理編

2度の試練を乗り越えたサリフィ・クライノエルは、今度は王妃代理として公務をこなすことで、その資質を問われることになった。王妃代理が人間だという事実に、領地や属国から続々と詳細を求める書簡が届くが、レオンハートはこれらを気にも留めず、一度でもサリフィの働きを直接目にしてからものを言うようにと突き返す。しかし、サリフィが最初の公務として訪れたサーブルでは、王妃のカルラがサリフィを快く思っておらず、王妃代理の祝福を受ける予定の第一王子のカルカラに指一本触らせまいと画策していた。このままでは公務を行うことができず、王妃として失格となってしまう。そんな中、少しでもカルラとの距離を縮めたいと考えていたサリフィの前に、サーブルの第四王女、テトラが現れ、カルラの機嫌を取りたいのならまずは自分の言うことを聞けと命令する。

亡国の幻狼軍編

ボルストバスの王、ティムル三世による悪政を暴いたサリフィ・クライノエルは、魔族の国「オズマルゴ」へ向かって海路を急いでいた。しかしそこで、反王制派組織、亡国の幻狼軍を率いて魔族の新たな王として名乗りを上げるフェンリルと、その右腕であるグレイプニルに強襲される。同乗していたクリスティナたちをかばうため自ら人質となったサリフィは、レオンハートへの伝言を残し、一人荒野へと連れ去られてしまう。一方レオンハートは王宮にて、各地で同時多発的に起こった反乱への対処に追われていた。アヌビスまでが反乱制圧のため現場指揮へと乗り出す中、ロプスによってサリフィが拉致されたとの伝令がもたらされる。即座にサリフィ奪還に動こうとするレオンハートだったが、助けに来ないで欲しいという伝言を受け取り、国民を安心させる偉大な王として王宮に留まることを決意する。その頃サリフィは、フェンリルから幼少期に出会ったレオンハートとの因縁を聞かされていた。

人間の国編

レオンハートの提案で、魔族の国「オズマルゴ」と人間の国の国交正常化に向けた会談の使者が立てられることになった。しかしオズマルゴと人間の国には相互不可侵の掟があり、使者に立つ魔族には命の危険があるという。それを聞いたサリフィ・クライノエルは、人間である自分が使者に立つと立候補する。危険のないようベンヌに乗って目的地近くまで赴くと説得するサリフィに、レオンハートも渋々許可を出す。久し振りに人間の国に降り立ったサリフィだが、声をかけてきたオセロットに正直にオズマルゴからの使者であり親書を持参したことを告げると、有無を言わせず投獄されてしまう。サリフィが確かに生贄としてオズマルゴへ送られたことを確認したオセロットは、サリフィの言い分と親書の内容を確認するためにと、魔族言語を読める可能性のあるアナスタシアという女性を王城へ連れてくるよう提示する。しかしアナスタシアは、近隣の住民たちから魔女と呼ばれて恐れられている人物だった。

失脚編

魔族の国「オズマルゴ」と人間の国とのあいだに完全な関係改善が成された場合、サリフィ・クライノエルの功績を認め正式な王妃とする決定が下された。しかしあまりに都合のよすぎる展開に、サリフィとレオンハート、そしてラントベルトたちは不安を覚える。そんな中、サリフィが人間の国との使者に立っていることを国民に対し大々的に知らせる式典の日がやって来た。レオンハートが国民の前に立ち、演説を始めた瞬間、突如としてオズマルゴを覆っている瘴気(しょうき)が晴れる。突然のことに驚く国民たちだったが、それよりも注目を集めたのは、瘴気が晴れたことで人間に近い姿へと変わってしまったレオンハートだった。咄嗟(とっさ)のことにレオンハートがサリフィと共に逃亡し、城内や国民が騒然とする中、法官のセトは「レオンハートに先代の王の血は流れておらず、自分こそが正統な王位継承者だ」と名乗り、国王代理として魔族の中にも厳格な階級制度を導入することを発表する。

登場人物・キャラクター

サリフィ・クライノエル

人間の少女。白い髪をミディアムボブにしており、青い目を持つ。捨て子だったが、実子を魔族の生贄にしないための身代わりとして養父母に育てられた。「サリフィ・クライノエル」とは古い言語で「犠牲、生贄」を意味する。好奇心旺盛で、物怖じせずに魔族の国「オズマルゴ」の王を務めるレオンハートと初めて対面した際にも堂々と振る舞っていた。本来なら天啓の日に逃がされるはずだったが、帰る場所がないことを理由に城に留まることを選び、妃に指名された。人間や魔族に関係なく、対峙した相手の心の中にあるウソを見透かすことができる。当初はレオンハートに対する気持ちを自覚していなかったが、アミトの恋愛話を聞き、恋を自覚した。次第に、サリフィ・クライノエル自身が強くレオンハートの妃になりたいと望むようになり、レオンハートにふさわしくあるためにと自らさまざまな魔族とかかわっていく。キュク、ロプスからは「サリ」と呼ばれている。

レオンハート

魔族の国「オズマルゴ」の王を務める、魔族と人間のハーフの男性。ふだんはたてがみの黒いライオンの頭部からヤギのような角が2本生えており、鋭い爪と犬のような尾を持った姿だが、天啓の日と人間の国では魔力を失い、長い黒髪で側頭部にヤギのような角を生やした人間の青年に近い姿になる。王に即位してからも生贄を求めていなかったため、生贄を食べる天啓の日には自らを傷つけて血を流し、生贄となった少女たちを逃がしていた。サリフィ・クライノエルも同様の手法で逃がすつもりだったが、サリフィが帰ることを拒んだため、サリフィを妃に迎えることにした。本来名前を持っていなかったが、サリフィによって「レオンハート」と名づけられ、この名前を気に入っている。即位以来一貫して種族平等主義を掲げており、かつては被差別種族とされていた種族の民をも一国民として大切にしていることから、支持者が多い。サリフィと二人きりの時は「レオ」、家臣たちが同席している場では「おーさま」と呼ばれている。

ベンヌ

サリフィ・クライノエルが契約した聖獣。不死鳥で、ふだんはヒナのような姿だが、本気になると翼に炎をまとった大きな鳥の姿になり、サリフィを背中に乗せて飛行することもできる。性別は不明。非常に口が悪いが、サリフィには忠誠を誓っている。サリフィとは魂の鎖のようなものでつながれており、離れた場所にいてもその居場所を追うことができる。

グウィバー

レオンハートが契約している聖獣。白龍で、全身に羽毛が生えており、大きな鳥の翼がある。性別は不明。ベンヌとも旧知の仲で、昔から口の悪さで揉め事を起こすベンヌとほかの聖獣のあいだに入って仲裁するなど、苦労させられている。

アヌビス

魔族の国「オズマルゴ」の宰相を務める魔族の男性。黒い毛並みに立て耳の犬に似た姿で、エジプト神話のアヌビス神を思わせる容姿をしている。代々王のために身心を賭す家系に生まれているが、幼少期はむしろ王族を嫌っていた。しかし、幼少時のレオンハートに身を挺してかばわれたのを機に、レオンハートを心から敬愛するようになった。サリフィ・クライノエルが妃に迎えられると知った際にも反対し、サリフィを王妃の座から退けさせるためにさまざまな策略を企てている。しかし、すべてはレオンハートの王位を盤石にするための気遣いでもあり、レオンハートの命令を受け、サリフィの教育係を兼任するような一面も見せる。ヨルムンガンドとは腐れ縁であり、気やすく話せる仲でもある。幼少期は「シリウス」と呼ばれており、サリフィからは「サイショーさん」、ヨルムンガンドからは「アビ」と呼ばれている。

セト

魔族の国「オズマルゴ」の法官を務める魔族の男性。黒い毛並みを持つシカに似た姿をしている。腹黒く嫌味な性格で、レオンハートやアヌビスのことを尊敬している様子を見せながらも、実際は見下しているところがある。特にレオンハートに対しては懐疑的で、王族以外立ち入りの禁じられている書庫で出生について調べたりしていた。実は先代の王と側室のあいだに産まれた子であり、魔術によってオズマルゴを天啓の日と同じ状態にした際には、レオンハートの人間としての姿を衆目に晒(さら)し、セトこそが先代の王の血を継いだ正式な王位継承者だとして国王代理を名乗った。また、国王代理の政策として魔族を上級種族と被差別種族に階級分けし、家族であっても接触を禁じようとした。

キュク

魔族の国「オズマルゴ」で、サリフィ・クライノエルの付き人をしている魔族。黒い球体に丸い2本の手が生えており、大きな目が一つだけある。性別不詳。片言で話すことができるが口下手で、ふだんはロプスの話した語尾だけを復唱している。サリフィからは「キューちゃん」と呼ばれている。

ロプス

魔族の国「オズマルゴ」で、サリフィ・クライノエルの付き人をしている魔族。黒い球体に鋭い爪の付いた2本の足が生えており、大きな口だけがある。性別不詳。饒舌で、オズマルゴでの基本的なことをサリフィに教えている。サリフィからは「ロプちゃん」と呼ばれている。

アミト

魔族の国「オズマルゴ」の南方にある属国、ムルガ国の第六王女。魔族で、ワニに似た頭部を持つ。人間のサリフィ・クライノエルを差別的に見ることなく一人の存在として認識し対応した初めての貴族であり、サリフィの友人として王宮に仕えることになった。ムルガがオズマルゴの属国になったばかりの頃、偶然出会ったヨルムンガンドに恋をする。非常に気が弱く、器量が悪いことを気にしているが、一目ヨルムンガンドに会えることを楽しみに、レオンハートとの見合いにやって来たのをきっかけにサリフィと出会う。王宮ではサリフィのために毎日お菓子を焼いて暮らしているが、王宮内外での騒動に身を置くにつれ、次第にしっかりとした芯のある人物へと成長する。

ヨルムンガンド

魔族の国「オズマルゴ」で、近衛隊長を務める魔族の男性。ヘビに似た頭部を持ち、両手の指がそれぞれ3本しかない。レオンハートを敬愛しており、レオンハートが妃に望むならとサリフィ・クライノエルのことも受け入れている。またアヌビスとは腐れ縁で、気やすく話せる仲でもある。他国の姫であるアミトが傷つくことを忌避しつつも、レオンハートとサリフィに忠誠を誓う仲間として信頼し、意外な勇敢さを見せるアミトのことを憎からず思っている。アヌビスからは「ヨル」と呼ばれている。

ラントベルト

魔族の国「オズマルゴ」で、サリフィ・クライノエルの親衛隊長を務める魔族の青年。片目が黒く変色し、ハイエナに似た頭部を持つ。被差別部族の母親と部族外の父親とのあいだに産まれたことから、オズマルゴの中でも被差別部族の自治区内でも孤立していた。病床の母親が差別によって治療を受けられず死亡したことで、差別を受けない身分に出世することを目標にしている。マースヤの新領主に選出されたブラウン・ブルーセを襲った犯人と疑われて一時的に拘束されたが、サリフィが真犯人を突き止めたことで釈放された。これを機に、サリフィに忠誠を誓っている。

ヴィヴィアン

魔族の国「オズマルゴ」の属国、ビゾンド公国の第二皇女。魔族で、長い金髪をした白ネコに似た姿をしている。野心が非常に強く、レオンハートのことを血筋で選ばれただけの愚かな王であると見下している。レオンハートを価値のない人間と考えているため、レオンハートの寝室に無断で入室し、夜伽(よとぎ)を強行しようとした。しかし、レオンハートがサリフィ・クライノエルにしか興味がないことを知り、サリフィを憎悪している。

イリヤ

人間の少年。金髪のショートヘアで、顔の左側に大きくタトゥーを入れている。サリフィ・クライノエルの唯一の幼なじみで、幼少期からサリフィに恋愛感情を抱いていた。小さい頃、目の前で魔族に妹を食べられたことから、魔族を激しく憎悪している。サリフィが生贄に差し出されたことを知り、単身でレオンハートの住む王宮に乗り込んだ。しかし、そこでサリフィがレオンハートの妃に望まれていることを知り、サリフィを奪還しようとする。

ガロア

魔族の国「オズマルゴ」の要所、イスタンの領主を務める魔族の老齢な男性。両頰と頭部にヒレがある魚に似た頭部を持ち、半身が焼けただれているために近くに寄ると非常に生臭い。数々の戦で武勲を立て、海における容赦のない戦いぶりから「海神ガロア」とも呼ばれている。非常に凶暴で部下に対しても非道な行いを繰り返していると噂が立っており、筋金入りの人間嫌いとも囁(ささや)かれていた。しかし実際は温厚な性格で、サリフィ・クライノエルの王妃としての資質を見るためにジョズにガロアを名乗らせ、暴君のフリをさせた。

ジョズ

魔族の国「オズマルゴ」の要所、イスタンの総大将を務める魔族の男性。ガロアの部下。シャチに似た姿で、頭部を含めた全身に大きな刀傷がある。当初はサリフィ・クライノエルの王妃としての資質を見るため、暴君としてのガロアのフリをしていた。本来は情に篤(あつ)い人物で、人当たりもいい。非常に惚れっぽく、アミトに一目惚れして結婚を申し込んだ。

カルラ

魔族の国「オズマルゴ」の属国、サーブルの王妃。魔族で、ネコ科のカラカルに似た頭部を持つ。夫のテト七世とのあいだにテトラを含む四人の王女と第一王子であるカルカラをもうけている。しかしカルカラを生むまでは、家臣や実家の親族から心ない言葉を浴びせられ続け、泣き暮らしていた。人間のサリフィ・クライノエルを快く思っておらず、サリフィが王妃代理としてカルカラに祝福を与えるのをなんとしてでも回避しようとしている。

テトラ

魔族の国「オズマルゴ」の属国、サーブルの第四王女。魔族で、ネコ科のカラカルに似た頭部を持ち、小学校低学年くらいの頭身をしている。母親であるカルラが泣き暮らしていたのは、テトラ自身が嫌われていたからだと思い込み、弟である第一王子、カルカラが生まれたのを機に、自殺を図っている。しかし、その内心の淋しさをサリフィ・クライノエルに看破されたあと命を救われ、サリフィの友人となった。他人の恋路をいじることを至高の楽しみとしており、レオンハートとサリフィの恋も心から応援している。

トッド

魔族の国「オズマルゴ」の王宮で、料理長を務める魔族の男性。トドと似た頭部を持つ。若い頃は料理人として傲慢な態度を取っていたが、王宮料理人に抜擢された際にレオンハートに失敗作の料理を食べさせてしまったことがある。だがレオンハートはそれをいっさい責めず、しかも完食までしたことから、彼に忠誠を誓うようになった。また、人間のサリフィ・クライノエルの食事を手がけているのもトッドで、いつも完食しているサリフィに感謝している。サリフィにはまかない用の厨房の使用許可を与えており、サリフィとレオンハートの仲を応援している。

テイリン

魔族の国「オズマルゴ」の領地で、マースヤの駐屯部隊長を務める魔族の男性。キリンと似た頭部を持つ。種族にとらわれない公平な考え方の持ち主で、ラントベルトがブラウン・ブルーセを襲撃したと騒ぎになった際にも、あくまでラントベルトの無実を信じるサリフィ・クライノエルに付き添い、真犯人逮捕に協力した。

ブラウン・ブルーセ

魔族の国「オズマルゴ」の領地で、マースヤの領主を務める魔族の高齢男性。ヤギに似た頭部を持つ。調印式の早朝、何者かによって襲われて軽傷を負った。サリフィ・クライノエルが王妃代理として調印に訪れた際にも、サリフィが人間であることを気に留めずに歓迎した。

マアロ

魔族の少年。アルマジロに似た姿をしている。見世物や剝製にするために人間の国に誘拐されたところを、イリヤによって救われた。素直な優しい性格で好奇心が旺盛なため、人間の国の動植物や文化にも興味を持っている。イリヤが初めて助けた魔族であり、イリヤが持っていた「魔族はすべて大人になれば人間を殺す」という偏見を見直すきっかけとなった。

ティムル三世 (てぃむるさんせい)

魔族の国「オズマルゴ」の属国、ボルストバスの国王を務める魔族の男性。黒いヤギに似た頭部を持つ。レオンハートとサリフィ・クライノエルに対しては非常に腰の低い態度を見せるが、実はレオンハートが禁止している奴隷制度をひそかに復活させており、暴利を貪っている。かつては「スムダ」と呼ばれていた。

ネシリ

魔族の国「オズマルゴ」の属国、ボルストバスの国民で、魔族の少年。ヤギに似た頭部を持つ。ひそかに奴隷制度を復活させ、苦役を強いているティムル三世の行為を白日の下に晒そうと、レオンハートの乗る御料車の前に飛び出した。投獄されたが、奴隷となった魔族の王女、クリスティナが人質となっていることをサリフィ・クライノエルに打ち明け、奴隷解放を願った。

クリスティナ

ボルストバスで奴隷となっている種族の王女。魔族で、ゴリラに似ているが、ふだんは大きなオレンジ色の頭巾をかぶっており、あまり顔を見せないようにしている。ティムル三世によって奴隷にされた自国民がひどい目に遭わされないよう、あえて人質としての立場に甘んじておとなしく投獄されている。しかし、本来は非常に力が強く、牢の鉄格子も素手で曲げることができる剛力の持ち主でもある。

フェンリル

反王制派組織である亡国の幻狼軍を率いる魔族の男性。白い毛並みの狼に似た頭部を持ち、左耳がない。魔族の新たな王として「狼王フェンリル」を名乗っている。かつては魔族の国「オズマルゴ」の属国の王子だったが、下克上を企てていた父親によって役立たずだと判断され、王位継承権を失った上に放逐された。しかし成長後、故国に反旗をひるがえし、父王を惨殺している。弱肉強食の世界を目指して王になることを望んでおり、レオンハートが寵愛しているサリフィ・クライノエルを誘拐した。誘拐後もフェンリルに怯(ひる)むことなく堂々と接するサリフィに興味を持ち、フェンリルが王座に就く時には妃にしようと考えている。

グレイプニル

反王制派組織である亡国の幻狼軍の副リーダーを務める魔族の男性。シェパードに似た頭部を持ち、左目を縦に裂く大きな傷がある。2本の短剣を用いて戦うが、投擲(とうてき)した剣を魔力であやつることができ、かつて王子の地位にあったフェンリルに命を救われて以降、グレイプニル自身がフェンリルの一部であり、フェンリルの望みのためにはなんでもすると誓っている。フェンリルからは「ニル」と呼ばれている。

アーサー

魔族の国「オズマルゴ」の国民で、魔族の男性。カモノハシに似た姿をしている。泳ぐのが得意で、3日間休まず泳ぎきることができる。自分のフルネームを覚えるのに10年かかったという愚鈍さを恥じる一方で、威厳あるレオンハートに強くあこがれている。レオンハートを一目見るために首都であるカランブルを目指して水路を泳いでいたはずが、王宮内に入り込んでしまう。サリフィ・クライノエルとラントベルトにカランブルを案内された際、サリフィがスリによって紛失させられた指輪を、水路に潜って取り戻した功績から、正式にレオンハートに謁見することになった。将来はイスタン海軍に入隊し、ガロアのもとで戦いたいという夢を持っている。フルネームは「アーサー・アキレウス・シグムンド・シグルズ・ゲオルギウス・ディアルマド・ヘラクレス・ペルセウス・アレキサンダー」。

オセロット

人間の国で、マクスヴィアナ王国退魔騎士団団長代理を務める人間の男性。金髪碧眼で、中性的な容姿をしている。基本的に人の話を聞かず、一方的に自分の考えを主張するところがあり、マクスヴィアナの国王にもそこが玉に瑕(きず)だと評価されている。アナスタシアの幼なじみで、連絡の取れないアナスタシアを心配し続けていた。レオンハートからの親書を持っていたサリフィ・クライノエルの身分確認をし、魔族の文字を読める可能性があるアナスタシアを王城まで連れてくることができたら、サリフィの持参した親書を信用すると話した。

アナスタシア

人間の国で、「魔女」と呼ばれている人間の女性。長い黒髪で、初対面のサリフィ・クライノエルは人間の姿に近くなった時のレオンハートに似ていると感じた。マクスヴィアナの辺境にある小さな村のはずれに、人目を忍んで暮らしている。何代か前の祖先が魔族と交わって子を成したために、一族全員が魔女と呼ばれて迫害され、自分だけを残して家族はどこかに行ってしまったと語っている。かつてオセロットがアナスタシアを裏切って逃げたと信じ、恨んでいた。サリフィとオセロットからは「アーシャ」と呼ばれている。

カペル

魔族の国「オズマルゴ」の元神官長で、魔族。全身に黒い毛が生え、ヒヅメを持った兎のような手足を持ち、口が縫い合わされている。性別は不詳。先代の王の時代に行方不明になっていた。レオンハートの出生の秘密を知る唯一の人物であり、死後もその秘密を漏らさないよう、王宮の地下で生ける屍(しかばね)となって秘密を守り続けていた。

集団・組織

亡国の幻狼軍 (ぼうこくのげんろうぐん)

フェンリルとグレイプニルが率いる反王制派組織。魔族の国「オズマルゴ」の各地でレジスタンス活動を行っていた小さな反王制派組織をまとめ上げて作られた。ただし、構成員に軍事的知識や策略を考えるだけの知能がないため、グレイプニルが指揮していないとまとまりがない。

場所

オズマルゴ

レオンハートが統治する魔族の国。32の主要都市と15の従属国から成っており、首都、カランブルには「魔廻樹」と呼ばれる巨木に埋もれるようにして王宮が建っている。瘴気が漂う禁忌の世界で、天啓の日以外は雲も晴れないため花すら育たない。かつて人間たちと大戦争をしていたが、レオンハートの父親が独断で人間側と和睦、停戦して100年が経過している。ただし停戦の条件として、毎年人間たちの中から生贄を差し出させている。

旧要塞都市ダグタウ (きゅうようさいとしだぐたう)

魔族の国「オズマルゴ」で、もっとも人間の国に近い都市。100年前に停戦した大戦ではもっとも激しい戦地となった場所であり、ほとんどが廃墟となって荒涼としている。レオンハートやレオンハートの父親をよく思わない過激反乱分子の根城ともなっており、停戦した現在も人間とたびたびいざこざを起こしている。オズマルゴの中でも特に瘴気が薄いため、唯一花が咲く場所でもある。

サーブル

魔族の国「オズマルゴ」の属国。オズマルゴの首都であるカランブルから最も近い場所に位置している。サリフィ・クライノエルが王妃代理となった際、最初の公務を行った場所でもある。サリフィが第四王女のテトラと友人になって以降、強い友好関係を結ぶようになった。

マースヤ

魔族の国「オズマルゴ」の領地。かつて反王制派による反乱が起き、それ以降、長い間領主不在の土地になっていたため、テイリン率いる駐屯部隊が駐留していた。ブラウン・ブルーセが領主に選任されたため、サリフィ・クライノエルが単独で領主任命の調印式に赴いた。

ボルストバス

魔族の国「オズマルゴ」の属国。ティムル三世が国王を務めている。オズマルゴとは海を隔てた対岸にあり、北東の国境が人間の国、さらに北西の国境はオズマルゴに属していない魔族の国に接している。建物はイスラム建築に近く、国の大通りなど目立つ場所は非常に派手に飾り立てられているが、レオンハートが禁じている奴隷制度をひそかに復活させるなど後ろ暗い政治が行われている。

人間の国 (よあな)

人間の住んでいる国。大小いくつもの国々からなり、政治の中心は聖地を抱える大国、マクスヴィアナが担っている。魔族の文化を研究することをいっさい禁じられており、魔族の文字を読み解ける者はいないとされている。

その他キーワード

天啓の日 (てんけいのひ)

魔族の国「オズマルゴ」を覆っている瘴気が晴れる日。オズマルゴの王が人間の国から送られた生贄を食べる日でもあることから「供犠の夜」とも呼ばれている。この日はレオンハートが魔力を失い、魔族としての姿から人間に近い姿になってしまうため、一晩中照明のない隠し部屋で過ごしている。

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書誌情報

贄姫と獣の王 全15巻 白泉社〈花とゆめコミックス〉

第1巻

(2016-05-20発行、 978-4592215417)

第2巻

(2016-09-20発行、 978-4592215424)

第3巻

(2017-01-20発行、 978-4592215431)

第4巻

(2017-05-19発行、 978-4592215448)

第5巻

(2017-09-20発行、 978-4592215455)

第6巻

(2018-01-19発行、 978-4592215462)

第7巻

(2018-04-20発行、 978-4592215479)

第8巻

(2018-07-20発行、 978-4592215486)

第9巻

(2018-11-20発行、 978-4592215493)

第10巻

(2019-03-20発行、 978-4592215509)

第11巻

(2019-08-20発行、 978-4592223016)

第12巻

(2019-12-20発行、 978-4592223023)

第13巻

(2020-04-20発行、 978-4592223030)

第14巻

(2020-08-20発行、 978-4592223047)

第15巻

(2021-01-20発行、 978-4592223054)

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