雪月記

雪月記

猪熊しのぶによる初めての和風ファンタジー作品。戦乱の時代、手を触れた者の死が見える異能力「浄天眼」を利用して軍師として活躍し、稼ぐ術を持たぬ村人たち全員を庇護する少年がいた。そんな照遠緋乃が運命に翻弄される苦悩、葛藤を描く。原作は山上旅路。

正式名称
雪月記
ふりがな
せつげつき
原作者
山上旅路
作者
ジャンル
時代劇
関連商品
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概要・あらすじ

戦国時代よりもずっと前の時代。照遠という隠れ村に住む照遠緋乃は、金さえ積めば必ず勝利に導く名軍師としてその名を知られ、彼に助けを求める国は後を絶たなかった。しかし緋乃は自らの異能力、浄天眼を用いて人の死と未来を知ることができ、その流れに乗じているだけに過ぎなかった。2年後に迫った、照遠の村が壊滅する未来を回避すべく、緋乃は未来を改変する術を模索する。

登場人物・キャラクター

照遠 緋乃 (てるとお ひの)

隠れ村、照遠の当主にして常勝の軍師。一目見た誰もが、美しい女と見間違えるほど整った顔をしている青年。生まれながらに人の死と未来を見る浄天眼の能力と、花芽をつけた姫榊の痣(あざ)を持っている。自分が19歳で死ぬことと、その際に照遠が壊滅している未来を見ており、それを回避するために軍師として他国と取引を繰り返し、多額の金銭を蓄えている。 もともとは蕃海に住んでいたが、実父の死後、母親である渦芽が再婚した先代当主に引き取られたが、渦芽の死後はなぜか疎まれ、繰り返し虐待を受けた。その過去から照遠の村を憎んでいるが、住人たちのことは心から慈しんでいる。過徒のことを信頼し、留守中の照遠のことを一任している。歴代当主は、照遠の村人たちからは神の子と敬われ、「神子様」と呼ばれている。

過徒 (すぎと)

長い白髪を下ろしたままにしている、飄々とした男性。初見の人間からは照遠の当主と間違われるほど、威厳のある佇まいをしている。もともとは薬売りを生業とした行商人だが、照遠に居着いている。照遠緋乃から絶対の信頼を得ており、緋乃が望んだ際には、どれだけ離れていても目の前に現れる、という不思議な行動が見られる。荒屋のお婆によれば、40年余り前に現れた時から、顔も背格好もまったく変わらない姿を保っているという。 照遠の隠居たちからは「お迎え様」と呼ばれ、本来は当主以外の立ち入りを禁じられている浄天眼の場に、入ることも許されている。また緋乃も知らない浄天眼の秘密を多数知っている。

銀次 (ぎんじ)

照遠緋乃を支える裏方衆の1人。中年の男性。元は行商人で村外の人間だったが、お妙を娶ったことで照遠の一員となった。幼い頃から見知っている緋乃のことを「坊っちゃん」と呼び、我が子のように接している。過徒のことを怪しんでおり、行動を注視している。

お妙 (おたえ)

銀次の妻。やせ型の中年女性で、照遠緋乃を幼い頃から見知っている。緋乃のことを「坊っちゃん」と呼び続け、浄天眼による幻の流血などにも胸を痛める心優しい性格。緋乃を我が子のように思っており、結婚のことなど、なにかと世話を焼きたがる。

佐知 (さち)

照遠緋乃を支える裏方衆の1人。緋乃の幼なじみの女性。裏方衆の中でも特に忠誠心が強く、人目を惹く美しさと、女性であるという点を最大限に利用。緋乃の策を進める手駒として、自らの肉体を使うことも辞さない。また、目的のためであれば、当主である緋乃が目の前で痛めつけられても、顔色一つ変えない強い精神力を持っている。

伊並 (いなみ)

照遠緋乃を支える裏方衆の1人。緋乃の幼なじみの青年。佐知に好意を寄せ、守ろうとするあまり緋乃に反抗することも多く、佐知からは何かと苦言を呈されている。斉田櫂之進が唯一心を開いた相手として、しばらくの間は斉奥に留まる。

初依 (はつい)

照遠緋乃を支える裏方衆の1人。緋乃の幼なじみの青年。与えられた任務は忠実にこなす。しかし、伊並が死んだ際に緋乃がなんの対処もできず、またその下手人を罪に問わなかったため、緋乃のことを軽蔑するようになる。

荒屋のお婆 (あばらやのおばば)

照遠の山中に住む老婆。過去に村の禁忌を犯して村八分になった一家の生き残り。すでに村八分は解けているが、頑なに山の中腹にある荒屋に住んで、村に降りてこようとしない。過徒をお迎え様と呼び、照遠緋乃のことを案じている。かつて過徒とともに村を出ようとしたソメの姉で、お迎え様に関する情報を銀次に伝える。

斉田 信光 (さいだ のぶみつ)

斉奥の領主の男性。塚原仁兵衛を忠臣として重用しており、そのため由賀攻略の作戦において塚原を見殺しにした照遠緋乃と照遠を憎んでいた。だが、養子である斉田櫂之進が伊並に心を開いた様子や、依頼内容に対する緋乃の冷静な状況把握の才を見て、再び緋乃の言葉を信じて策に乗る。

塚原 仁兵衛 (つかはら じんべえ)

斉田信光の忠臣。斉田櫂之進の実父。口元を隈どるような髭が特徴的な男性。斉奥の危機に際し、依頼を取り付けるため、少数で照遠緋乃の指示通り、三日三晩雪山を彷徨うほど実直な人物。由賀攻略の際にはひげの形と髷の位置を変え、自ら密偵を買って出た。

斉田 櫂之進 (さいだ かいのしん)

斉田信光の養子。塚原仁兵衛の実子。10歳の少年だが大局を見据えており、個人的な感情から判断を下すようなことはない。両親ともに亡くしてから自らの感情を抑えて過ごしていたが、伊並に出会って以降は、子供らしい笑顔を見せるようになる。

真弓 伊左衛門正之 (まゆみ いさえもんまさゆき)

由賀の領主。痩せ型で、常にだらしなく口元が緩んでいる男性。派手好きの放蕩家であり、珍しいものを好んで収集し、さらに好色家としても知られている。照遠緋乃が女手相師として変装した際には、あまりの美しさに目を奪われ、その場で側室へと誘った。

宇賀神 草介 (うがじん そうすけ)

真弓伊左衛門正之の家臣だった男性。土狩に内通して馳常盤守宗頼の家臣となった。しかし照遠を訪れた際に佐知に不埒を働こうとしたところを照遠緋乃に見咎められ、照遠に、戸狩の情勢を伝える獅子身中の虫としての役を命じられる。

馳 常盤守宗頼 (はせ ときわのかみむねより)

土狩の領主である青年。照遠緋乃に、由賀での戦の戦後交渉と折衝役を依頼する。非常に強欲。物品だけでなく、美しい人間も男女ともに手に入れ、生死を問わず手元に置いておかないと気がすまない性分。放免を願った人間ははく製にして、まとめて一室に飾っている。

湊戸 義彰 (みなと よしあき)

蕃海の先代領主の直系の息子にあたる青年。照遠緋乃の幼なじみ。腹違いの兄、湊戸隆彰による家臣たちへの凶行や、自分を領主に推す勢力との板挟みに悩み、緋乃に仲介の依頼を持ちかけた。内乱寸前の城内において誰も傷つけたくないと願うような、優しいというよりも、少々甘えが強い性格。

杏春院 (きょうしゅんいん)

湊戸義彰の実母。先代領主の正室であり、非常にプライドの高い初老の女性。幼い頃、蕃海に住んでいた照遠緋乃が不意に見てしまった浄天眼によって、人の死を予見したことを不気味に思っており、非常に蔑んでいる。義彰を差し置いて領主に任命された湊戸隆彰を疎んでおり、義彰を領主にする企てを進めている。

湊戸 隆彰 (みなと たかあき)

蕃海の領主の青年。湊戸義彰の腹違いの兄であり、照遠緋乃の幼なじみ。常に蝶の柄の単衣を羽織っており、髷も結っていない傾奇者(かぶきもの)。先代領主の妾腹だが、遺言によって家督を継いだ。嘘や気休めは口にしない主義で、人を出し抜くような真似も好まない実直な性格。しかし自分の信念に邪魔な人間は、容赦なく処分できる冷酷な一面も持っている。

(かなえ)

蕃海の姫。照遠緋乃の幼なじみの少女。思い立ったらすぐ行動を起こし、男性の着物もためらいなくはぐようなお転婆な性格。自分のことを名前で称したり、思う通りにならないことに駄々をこねる子供っぽい部分もあるが、家臣に対しては威厳ある態度ではっきりとものを言う。

ソメ

荒屋のお婆の2歳差の妹。好奇心旺盛で、村外に出ることを禁じられている照遠に住んでいながら、常に外の世界への憧れを口にしていた。40年余り前に現れて村に居着いた過徒に憧れ、世話係に任命されてからは、ともに村を出る約束を交わしていた。

渦芽 (うずめ)

照遠緋乃の母親。ソメの娘。過徒から逃げのびたソメが、蕃海で結婚して産み落とした女性だが、本編には人柄を察せる描写はない。照遠の先代当主が後妻として迎え入れたが、肺を病んだことが原因で、たった1年でこの世を去った。

先代当主 (せんだいとうしゅ)

渦芽を後妻に娶り、照遠緋乃を引き取った養父。照遠の当主たるべく行動を制限されており、自分の欲求を理由に動くことを一切許されていなかった。表情も乏しかったが、渦芽が後妻に入ってからは、笑顔を見せるようにもなっていた。しかし渦芽の死後は酒におぼれ、酔うたびに緋乃に激しい虐待を加えるようになる。

集団・組織

裏方衆 (うらかたしゅう)

照遠の歴代当主に仕える者たちの総称。照遠緋乃の代になって以降は、あらゆる場所で情報収集に動き、各地に散らばって生活している草を統括している。原則として、村人たちは村外に出ることは許されていないが、この裏方衆に任じられた者は、当主に従って外出することが許されている。

(くさ)

照遠の歴代当主に仕え、土着の間諜として生きている者たちの総称。どの国、どの城の中にもいて、当主の命令によって一斉に動き出す。土狩においては、裏方衆からの連絡、指示に従って城を制圧し、馳常盤守宗頼が捕らえていた女たちを手引きして斉奥へと逃がした。

場所

照遠 (てるとお)

刹宝山と呼ばれる雪深い山の中にひっそりと存在している山村。照遠緋乃が当主を務めている。1年のほとんどを雪に閉ざされ、作物が何一つ育たない。そのため当主が浄天眼を用いて呪術と称し、村全体の生計を支えていた。照遠に生まれた者が村を離れることは重い罪とされており、本人だけでなく家族まで村八分の処分を受ける。

斉奥 (さいおう)

斉田信光が領主を務めている国。栄養豊かな土地に恵まれ、実り豊か。さらに海に面しているために諸外国との交易も盛んで、常に隣国から侵略の脅威にさらされてきた。しかし、近隣三国が同盟を組んで攻略を仕掛けてきたため、照遠の助力を乞うことになる。

由賀 (ゆいが)

真弓伊左衛門正之が領主を務めている国。斉奧から助力を乞われた照遠緋乃が、浄天眼を用いて見た未来で、戦場になることが映し出された。領主が派手好きの真弓に代替わりしたことで、旅籠町全体の暮らしも非常に落ち込み、宿屋でも粗末でまずい料理が出されるほどになっている。

土狩 (とかり)

馳常盤守宗頼が領主を務めている国。領主である長谷家は、代々奴隷商人として財を成した家柄で、国名は「人狩り」から転じて名付けられている。城下では馳の目に留まった美しい女性たちが、奴隷商人に引っ立てられている姿も珍しくない。

流山 (るざん)

斉奧と由賀、土狩の国境に位置する山。良質の硫黄が産出される鉱山。由賀に属していた頃の宇賀神草介の領地だったが、戦後の領地分配で斉奥の領地となった。地盤が不安定で、ほぼ十年ごとに山崩れを起こす、という文献が多く残されている。

蕃海 (はんかい)

海辺にある国。先代領主が世を去ってから、遺言によって家督を継いだ湊戸隆彰派と、正室だった杏春院の子である湊戸義彰派に分かれて内乱寸前の情勢となっている。さらに隆彰は、中心とされている家臣を次々と刑死させており、国全体が緊張感に包まれている。

その他キーワード

浄天眼 (じょうてんがん)

照遠の本家筋に近い血筋の者に現れる特殊な能力。霊触れを行い、その人物が半年以内に死亡する、という条件がそろった時のみに発動する。死に際の人間に憑依する形で、死と痛みを体験して未来を見るため、発狂してしまう場合もある。体験中は周囲の人間からも、傷や出血が幻視できる。照遠の血を引く者の魂を代償に発動しており、一度使うごとに民の1人が確実に死に至るが、照遠緋乃はこの事実を知らない。 ごく稀に、当主の意志を介さず現れることがある。

霊触れ (たぶれ)

照遠の当主が浄天眼を使用するために必要な手順の1つ。未来を見たいと思っている相手の手に触れ、その顔を見ることの呼称。照遠緋乃は、軍師としての依頼を受けた国の未来を見るため、女手相師に変装して、できるだけ多くの市井の民にこれを行っていた。

お迎え様 (おむかえさま)

照遠の当主の命を狩る者。照遠の隠居たちの間でしか周知されていない。当主が死ぬ1か月ほど前になると必ず現れ、その魂を食らう人外の者とされている。当主が自分の欲のままに生きると現れない、とも言われる。過徒がお迎え様だと言われており、荒屋のお婆は17歳の頃に、当時の当主からえぐり出した心臓を食らう過徒を目撃している。

クレジット

原作

山上旅路

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