プリニウス

プリニウス

古代ローマを舞台に、百科全書『博物誌』の著者である博物学者・プリニウスを主人公として、彼の人生と時代の流れを描く本格歴史漫画。ローマ史への愛着と知識を持つ作者二人により、当時のローマ世界が圧倒的なリアリティを持って画面の隅々まで精緻に描かれている。二人による合作だが、一般的な原作と作画による分担作業ではなく、原作も作画も両人が行なっている。漫画誌ではなく総合誌「新潮45」に、2014年1月号から連載中。

正式名称
プリニウス
ふりがな
ぷりにうす
作者
作者
ジャンル
その他歴史・時代
レーベル
バンチコミックス(新潮社)
巻数
全12巻完結
関連商品
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世界観

本作『プリニウス』は、博物学者・プリニウスを主人公とした、史実をもとにした歴史ロマン漫画である。建築物や衣服、小物に至るまで、古代ローマ当時の風景、生活が細かく描かれ、作品のリアリティを演出している。しかしリアリティ一辺倒ではなく、プリニウスの著作『博物誌』に記述のある奇妙な生物も作中に出現し、虚実入り混じった物語となっている。プリニウスの生涯に関する記録は少なく、そのため自由にキャラクターを動かせると作者たちは語っている。単行本には「とりマリ対談」が収録され、本作をより楽しむための細い説明や、執筆の裏話などが明かされている。

作品誕生のいきさつ

ヤマザキマリは大ヒット作『テルマエ・ロマエ』の次に「お笑いじゃない古代ローマを描きたい」と構想していた。とり・みきには『テルマエ・ロマエ』終盤で、背景アシスタントで協力してもらっており、その際に、とりの古代ローマへの造詣の深さや精密な画力を知ったヤマザキは、二人での合作を考案し、本連載が開始された。

時代設定

博物学者・プリニウスの生きていた紀元23~79年の古代ローマ時代が作品の舞台。ローマでは皇帝・ネロが混乱した政治を行なっていた時期であり、様々な謀略に満ちた宮中の様子も描かれる。大都会であるローマ市内だけでなく、プリニウス一行が旅の途中で訪れる港町や田舎町、海や山など豊かな自然も描写される。

あらすじ

博物学者・プリニウスは、エトナ山の噴火を観測するため、シチリア属州総督代行として島へと赴任してきた。そこで噴火被害に遭った青年・エウクレスと出会い、彼を秘書として採用した。皇帝・ネロから至急戻るようにと命を受けたプリニウスは、渋々ローマに取って返した。ローマ帝国はネロの愛人・ポッパエアが権力を握り、政局が混沌としていた。人間同士の醜い争いに嫌気がさしたプリニウスは、ぜんそく療養のため、再びローマを出て南方への旅に出た。

表現上の特徴

原作と作画に役割分担されておらず、お互いにキャリアの長い漫画家同士による合作という特徴がある。基本のネームをヤマザキマリが描き、それをもとに二人で議論をして訂正や変更を入れる。作画はヤマザキが主に人物を、とり・みきが主に背景を担当。別々に描いた絵を最後にとりが同一画面に「合成」する。とり自身はこの作業を、偏愛する特撮作品になぞらえて「特技監督」と呼んでいる。ヤマザキはイタリア在住、とりは日本在住だが、インターネットを介してデータをやりとりしているからこそできる合作体制である。

関連作品

「新潮45」編集部編『プリニウス 完全ガイド』が2016年6月に発売されている。作者二人のイタリア取材旅行の様子が、多くの写真とともに収録。そのほか、登場人物紹介や関連年表、漫画評論家の夏目房之介、小野耕世によるプリニウス論、歴史学者と作者二人との座談会などが収録されている。作者二人による複雑な合作の仕組みも、実際の原稿を掲載して詳細に説明されている。

登場人物・キャラクター

ガイウス・プリニウス・セクンドゥス (がいうすぷりにうすせくんどぅす)

古代ローマの博物学者の男性。百科全書『博物誌』を著し、後の知識人に大きな影響を与えた。史実ではウェスウィウス火山の噴火の観測中に命を落とした。並外れた好奇心と行動力を持つ人物。自然科学や歴史をはじめとした森羅万象への知識も豊富であり、熱中すると長広舌が止まらない。自然の雄大なる営みに比べて、権力争いの絶えない人間という種族のちっぽけさに苛立ちを隠さない。 そのため、時の権力者である皇帝・ネロの前でも取り繕うことなく、反抗的。軍人でもあり、地位は高いが、協調性などはなく、周囲からは変人と見られている。人間の実態を観察できるとして、ローマ市内では、あえて治安の悪いトラステヴェレに住居を構えている。 大きな身体で堂々たる体格の持ち主だが、ぜんそく持ちである。

エウクレス

ギリシャ人の青年。プリニウスの秘書。口頭記述係を務めており、入浴にまで付き従い、プリニウスの言葉を常に書き留めている。数学者の父を持ち、自身はギリシャ語とラテン語の文法学を学んだ。シチリアで暮らしていたが、父が病死した後、エトナ山の噴火で故郷が壊滅した。途方に暮れていたところ、ローマから総督代理として赴任してきたプリニウスと偶然出会い、18歳にして彼の口頭記述係の一人となった。 のどかな島から一変して、大都会ローマや様々な土地を転々とすることとなり、価値観を大きく揺さぶられ、時には悩みながらも、博識なる大人物プリニウスに仕えてゆく。

フェリクス

ローマ人の軍人。頭髪の薄い中年男性。プリニウスに付き従っている。皇帝・ネロの命令さえ無視し、自分の好奇心を満たすことを優先させるプリニウスの行動に、常に翻弄される。平凡な価値観の常識人。古代の知恵や自然科学の知識が豊富な、プリニウスのスケールの大きい常識はずれな発言を、眉唾ものと思っているふしもある。 職務には忠実。複数の男を素手で撃退できる程の戦闘能力を持ち、浮世離れしたプリニウスを守る。5人の子持ちの大所帯。遠征が多く、ローマ市内の家は妻ミリアムにまかせっきりであり、そのため彼女には頭が上がらない。

シレノス

ギリシャ人の中年男性。酒好きで女好き、娼館に入り浸りだが、ローマでは屈指の名医。プリニウスとは軍隊の遠征以来20年の付き合いで、ぜんそく持ちのプリニウスの主治医でもある。しかしプリニウスは現在の医師よりも、古来の人々の記録した医術のほうを信用しているため、二人は会うと常に口論となってしまう。 人口が増え都市化が進むローマの悪い空気が、プリニウスのぜんそくにとって一番良くないと考えている。

ネロ

ローマ帝国の若き皇帝。ギリシャの詩や音楽など芸術を愛する男だが、皇帝としての責務に日々忙殺されている。母とセネカによって皇帝に祭り上げられたと考えており、己の地位に耐えきれず、精神が不安定になっている。権力の行使でしか自由を感じることができず、猜疑心から実の母も亡き者にした。しかし自責の念からか、母の亡霊にうなされるなど、苦しみの日々が続いている。 夜な夜な下町や娼館を訪れ、御付の者とともに傍若無人なふるまいをしてストレス解消をしている。愛人のポッパエアに籠絡され、うまく操縦されている。知識人への憧れを持つが、そのぶんコンプレックスも強く、自分に従わないプリニウスを憎らしく思っている。

ポッパエア

ローマ人の女性。皇帝・ネロの愛人。正式に妃の座に付くことを狙い、婚礼をネロにせっついている。権力欲が強く、クレオパトラに憧れ、ロバの乳の風呂に入るなど豪奢な暮らしぶり。流刑されているネロの妻・オクタウィアの座を横取りしたとして、ローマ市民からは評判がすこぶる悪く、街に出ると石を投げられる始末。 ネロの子を妊娠し、派手な婚礼の儀式と正式な妃の座を要求する。自分が皇后になろうとするのを快く思わない臣下を、排除するなど裏工作にはげみ、権力の座を昇り詰めようとしている。

オクタウィア

皇帝・ネロの妻。ローマ市民からは真面目で敬虔だと評判が良かった。しかし愛人のポッパエアにネロが籠絡されたことにより、流刑に処されていた。その後ネロとオクタウィアの離婚が告知され、それから程なくしてオクタウィアが死去したことも発表された。表向きの死因は明らかにされなかったが、市民の間では、誰の陰謀で彼女が最期を遂げたのかは、公然の秘密となっている。

セネカ

ネロの家庭教師だった男性。皇帝となったネロの治世をサポートしてきたが、ポッパエアとの結婚を反対したため、ネロにより遠ざけられ、政治の中枢からは身を引いた。自ら有能な右腕を失ったネロの政治は、それ以後混迷をきわめてゆくこととなる。ローマの行く先を案じるセネカは、ネロから目の敵にされているプリニウスに対し、ローマ市内から出てゆくことを勧める。

プラウティナ

ローマ市内の娼館で客を取らされている短髪の少女。ブリタニア出身。唖者であり、しゃべることはできない。エウクレスは彼女と偶然出会い、好意を寄せる。しかし苦境から彼女を救い出すことなど出来るはずもない。エウクレスは思い悩み、彼女が伝説の生物ユニコーンといっしょにいる様子を幻視するまでになる。

ミラベラ

若き女性の水道技師。祖父の影響で同じ職業についている。ローマ市内で暴漢たちに絡まれていたところをプリニウス一行に助けられ、彼らと知り合った。その後、水道の異常を調べにポンペイを訪れたところ、静養旅の途中のプリニウスたちと再会。そこで地震に遭遇した。被災したポンペイの窮状を記したプリニウスの手紙を預かり、ローマに届けた。 美しい外見だが男勝りの性格で、馬術もたしなむ。

アルテミオス

プリニウスに古くから仕える書記の中年男性。ローマ市内のプリニウス宅に4年以上も籠りっきりで、プリニウスの『ゲルマニア戦記』の清書作業に没頭している。生涯をかけてプリニウスに心酔している知識人のうちの一人。

ブッルス

ローマ帝国の高官。親衛隊長官。ポッパエアが皇帝・ネロを籠絡して操り、ローマの財政を圧迫して、政治に混乱を招いていることを危惧する。ポッパエアの権力拡大を防ごうと敵対的な態度を取るが、そのため彼女の陰謀により暗殺されてしまう。

ティゲリヌス

ブッルスの死後に後任として親衛隊長官となった男性。ポッパエアの息がかかっており、彼女の命令に従う。複雑で老獪な男であり、ポッパエアと性的な関係にあるようでもあり、彼女の権勢をうまく利用している様子でもある。

ルキウス

プリニウスの妹・マルケラの夫。ローマより北の自然豊かなコムムの街に暮らしている。産まれた子供を会わせるため、ローマのプリニウス宅へとやってきた。

アンナ

アテネ出身の女性。父も兄も教師だったため、高い教養を持ち、複数の言語を会得している。夫と息子を病気で亡くしてひとりぼっちとなり、代筆業で暮らしていた。我が子の家庭教師を探していたルキウスの目にとまり、彼の家族に雇われた。エウクレスが、ローマで人間の醜さを知って迷いが生じ、プリニウスの療養旅へのお供を断った時、彼に知識や教養の大切さを説いて、迷いを振り払った。

ラルキウス

長髪ひげもじゃの男性。ポンペイのワイン商人の息子だった。商用で出かけた先で多様な人種と出会い、世界の広さを知りたくなって故郷に戻らず、何十年も旅を続けていた。故郷ポンペイが地震の被害にあったと知って帰省したところで、プリニウス一行と出会った。長く東方を旅しており、マケドニアで採れた磁石を見せたり、エチオピアで見たという不可思議な人種の話を披露したりして、プリニウスの知的好奇心を刺激した。

アッセリーナ

ポンペイの街で代々羊毛業を営んでいる中年女性。代々女性が強い家系なので、男性に対して一歩も譲らない強い心の持ち主。地震で崩れた浴場の再建を巡って、造営委員と揉めていたときに、プリニウス一行と出会う。自分の商売で使う運搬船に、プリニウス一行を乗せる手筈を整えてくれる。

子供 (こども)

海洋民族の子供。浅黒い肌にとび色の瞳、黒い髪を持つ。単行本5巻の時点では、性別も名前も不明。静養のためローマを離れたプリニウス一行が、乗り込んだ船で航海中に出会った遭難舟の生き残り。カラスの「フテラ」が相棒。フテラだけでなく、様々な動物と意思を通じ、会話することができる。まだ小さい子供だが、一般の船乗りなみの自然知識を持ち、星の位置や風向きから船の座標を読むことなどはたやすい。

ガイア

プリニウスの飼い猫。茶虎。多彩な標本などモノで溢れているプリニウスの自宅で、毎日退屈せずに暮らしている。心地よいのでパピルス紙の上で寝るのが好き。静養のためローマを離れて旅に出たプリニウス一行に同行する。一行のマスコット的存在。

半漁人 (はんぎょじん)

シチリアの海岸に上陸したとされる怪物。子供が目撃し、プリニウスに説明した。頭部は魚だが、身体は人間の形をしており、全身もじゃもじゃの毛で覆われているという。プリニウス著の『博物誌』の中でも「虚」に相当する記述と思われるが、本作の中では、プリニウス一行の背後の海にこっそり登場。本作がリアリティ一辺倒の歴史漫画よりも、幅広い表現方法をとっていることの現われのひとつと言える。

場所

ウェスウィウス

ポンペイの街の背後にそびえる山。現在は緑に囲まれているが、プリニウスはこの山が火山なのではないかと考える。ポンペイの図書館の文献を漁ったプリニウスは、古代の記録でウェスウィウスが噴火したという記述を発見し、己の説に確信を持つ。史実では、この山が大噴火を起こした際に、プリニウスは観測に出かけ、そこで命を落とすこととなる。

その他キーワード

博物誌 (はくぶつし)

プリニウスが著した書物の中で、唯一後世に残ったもの。全37巻の大著であり、天体の法則から地理・歴史・医学・動植物・鉱物・美術・農業などあらゆるジャンルの知識を一同に集めている。プリニウス自身の見聞だけでなく、古代書物からの引用も膨大。伝説上の怪物や奇妙な人種、摩訶不思議な出来事の記述も多く、虚実入り乱れた内容が、後の知識人に与えた影響は計り知れない。

タツノオトシゴ

プリニウス著の『博物誌』には、頭髪の薬としてタツノオトシゴが効果があると記述されている。煎って灰にしたものにブタの油を加え、コウイカの粉を頭にまぶした後に塗りこめば、頭髪が復活するという。お供のフェリクスがハゲているので、プリニウスは港町でタツノオトシゴが売っているのを見つけ、彼に教えてあげた。その時には不要だと宣言したフェリクスだったが、やはり気にしていたようで、後でこっそり買い込んでいた。

書誌情報

プリニウス 全12巻 新潮社〈バンチコミックス〉

第2巻

(2015-02-09発行、 978-4107717993)

第5巻

(2017-02-09発行、 978-4107719546)

第7巻

(2018-07-09発行、 978-4107721006)

第8巻

(2019-04-09発行、 978-4107721761)

第10巻

(2020-09-09発行、 978-4107723192)

第11巻

(2021-07-08発行、 978-4107724076)

第12巻

(2023-07-07発行、 978-4107726209)

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