星の時計のLiddell

星の時計のLiddell

長い年月、ずっと同じ夢を見続けている青年ヒュー・ヴィックス・バイダーベックと友人のウラジーミル・ミハルコフ、そして2人に関わる人々がたどる、夢と現実が交差する時空への旅路を描く。叙情性と哲学をより合わせたファンタジー・ミステリー。「ぶ~け」1982年6月号から1982年11月号、1983年1月号から1983年8月号にかけて掲載された作品。

正式名称
星の時計のLiddell
ふりがな
ほしのとけいのりでる
作者
ジャンル
その他
関連商品
Amazon 楽天

概要・あらすじ

亡命ロシア人3世のウラジーミル・ミハルコフは、生まれながらに故郷を失っているため虚無感を抱えながら、世界中を旅していた。ウラジーミルは、2年ぶりに大学時代からの友人ヒュー・ヴィックス・バイダーベックが暮らすアメリカ中西部の街にやって来たが、ヒューが相変わらず同じ夢を見続けていると聞かされ、その夢から怪しい死のにおいを感じ取る。

ヒューの夢の謎を解き明かすべく、ウラジーミルは知人のリチャード・ロイドに声をかけ、彼が主催するサークルの会合に参加して、神秘的な日本人女性・葉月、彼女に好意を寄せるジョン・ピーター・トゥーイといった仲間たちに出会う。彼らはヒューを「人類の種としての限界を越えうる予感」だと語り、強い興味を示す。

一方のヒューは、ある傷害事件に巻き込まれたのをきっかけに夢の中で出会った少女リデルが実在していると考えるようになり、さらにアンティークショップでリデルにそっくりの少女が写った写真を発見したことで、リデルと夢の家を探す旅に出ることを決意する。夢に引き寄せられていくヒューの正気を疑い、彼の存在の消失を恐れるウラジーミルは、ヒューの旅に同行する。

やがて2人は夢の家を発見し、夢と現実の交差する地点に足を踏み入れていく。

登場人物・キャラクター

ウラジーミル・ミハルコフ (うらじーみるみはるこふ)

ロシア革命の動乱を逃れて亡命した祖父を持つ青年。資産家で世界中の至るところに家屋敷を持っているが、生まれながらに故郷を失っていたという空白を心中に抱えており、いつも旅ばかりしている。大学時代からの友人であるヒュー・ヴィックス・バイダーベックが暮らすアメリカ中西部の街を訪れ、昔聞かされた夢を今でも見ていると知り、その夢から怪しい死のにおいを感じ取る。 さらに夢を見ている最中はヒューの呼吸も心音も止まってしまうことが分かり、死を回避するべく夢の謎を解こうと試みる。しかし否応なく夢に囚われていくヒューを止められず、ついに夢に現れる家と少女を探す旅に出るヒューに同行することを決める。

ヒュー・ヴィックス・バイダーベック (ひゅーゔぃっくすばいだーべっく)

ウラジーミル・ミハルコフと大学時代から付き合いのある青年。現在はアートディレクターとして働いている。凍てついた青い星と南国の海が交差するような碧い目を持つ。長い年月、ずっと同じ夢を見続けており、夢を見ている最中には呼吸も心音も止まってしまう。その夢は、小さな屋根裏部屋のあるヴィクトリアン・ハウスの中を歩き回るというだけのものだったが、ある時夢の中でバラの茂みにたたずむ少女リデルと出会い、言葉を交わしたのを境に、夢にのめり込んでいく。 ある夜、現実の世界でリデルの呼びかけを聞き、アンティークショップでリデルの写真を見つけたため、夢の家の実在を確信して家とリデルを探す旅に出る。

リデル

ヒュー・ヴィックス・バイダーベックが昔から見続けている夢の家に、ある時突然に姿を現した少女。最初はバラの茂みに隠れてたたずんでいたが、ヒューの呼びかけに応えて話をするようになった。ヒューを「幽霊さん」と呼ぶ。見た目は13~14歳ほどだが、エドガー・アラン・ポーの詩『幻の郷』を暗唱してみせるなど、大人びた言動をする。

ヴィズバーン

ウラジーミル・ミハルコフとヒュー・ヴィックス・バイダーベックの友人の女性。以前は女優をしていたが、今はデザイナーのチーフ・アシスタントをしており、師匠でもあるデザイナーに、ニューヨークへ行って本気でデザインをやらないかと誘われている。ヒューに魅かれており、ウラジーミルのことは「ヒューをめぐるライバル」と見なしているが、ヒューには男女としての付き合いを望んでいるわけではなく、人間として愛しているのだと語っている。 反面、ヒューには自分のことは女性として愛してほしいと思っており、それが不可能だと知るとヒューのもとを去ることを決意する。

リチャード・ロイド (りちゃーどろいど)

ウラジーミル・ミハルコフの知人の男性。コミック専門店「コミック・キングダム」の店主を務めている。大学時代に心理学を学んでいたため、ヒュー・ヴィックス・バイダーベックの夢に怪しい死のにおいを感じ取ったウラジーミルに、その謎を探る一助になればと声をかけられた。自らを「好奇心が人間の縫いぐるみを着てるみたいな男」と称しており、知人を集めて議論を交わすサークルを主宰している。

葉月 (はづき)

リチャード・ロイドが主宰するサークルに参加している日本人女性で、情報科学を専攻している大学生。学生組織「環境科学クラブ」にも所属し、総合的な環境問題の研究活動をしている。人類の種としての限界を敏感に察知しており、その向こうにある「新たなもの」の予感を探している。ヒュー・ヴィックス・バイダーベックがそれなのではないかと考え、関心を抱いている。 ペンギンをこよなく愛している。

ジョン・ピーター・トゥーイ (じょんぴーたーとぅーい)

リチャード・ロイドが主宰するサークルに参加している17歳の男子高校生。葉月に淡い恋心を抱いている。バスケットボールが得意で選手として将来を期待されているスポーツマン。葉月と親しくなったウラジーミル・ミハルコフに嫉妬し、時おり棘のある言葉を投げてくるが、根は邪気のない性格のため、非を認めれば素直に謝罪する。 強い直感力を持ち、ヒュー・ヴィックス・バイダーベックに通常の人間とは異なる何かを感じ関心を抱いている。

ジェイムス

リチャード・ロイドが主宰するサークルに参加している私立探偵の男性。ウラジーミル・ミハルコフから、ヒュー・ヴィックス・バイダーベックが夢で見ている家を探すよう依頼を受けた。探偵仲間のつてをたどって幽霊屋敷の写真ばかり集めているコレクターと会い、何千枚という写真の中から夢の家を見つける。粘り強さと親切さを併せ持ち、ウラジーミルとヒューを家の持ち主のもとへ送り届けた。

ロアルド・ダール (ろあるどだーる)

アートディレクターとしてのヒュー・ヴィックス・バイダーベックのアシスタントを務める男性。ヒューを気に入っており、公私にわたって世話をしている。手先が器用で細やかな工作が得意。ヒューのマネジメントも請け負うなど仕事に関しては有能だが、少々ドジなところがあり、物を落としたり道を歩いていて柱にぶつかったりすることがある。 ヒューの夢に関する事情から自分のことを遠ざけようとするウラジーミル・ミハルコフに苛立ちを見せる。

アレクサンダー・ミハルコフ (あれくさんだーみはるこふ)

ウラジーミル・ミハルコフの家族が暮らすロードアイランドの屋敷にある、図書室を管理している男性。ウラジーミルの父親が所蔵している、各国の言葉で書かれた何万という書物のほとんどを読破している。ヒュー・ヴィックス・バイダーベックの夢の謎を解く鍵を探して図書室を訪れたウラジーミルの手助けをする。

アーティス

明るい性格で、ちょっと信じがたいほど無垢な精神を持っていた13歳の少年。しばしば夜眠るのを怖がり、そのために葉月の知人である精神医学の助教授グレイのもとに通っていた。ある夢を見ることによって、自分が両親から隔絶していき、やがては現実世界から離脱してしまうに違いないという強迫観念を持っていた。睡眠時に仮死状態に陥るというヒュー・ヴィックス・バイダーベックに酷似した症状を有しており、四度目の仮死状態に陥った時、そのまま蘇生せず亡くなった。

ボリス・カーロフ (ぼりすかーろふ)

ヒュー・ヴィックス・バイダーベックの夢に登場する屋敷を所有する老人。昔から幽霊屋敷として名の通っていた家を、19世紀末にボリス・カーロフの父親がスターリング・ノースから無償で譲り受け、それから家族で住み続けていた。現在は高齢のため入院しており、また息子たちはそれぞれ外に家を持っているため屋敷には誰も住んでいない。 父親から、ウラジーミルという人物が訪ねて来たら屋敷を譲渡するようにという遺言を引き継いでおり、病院を訪れたウラジーミル・ミハルコフと話をした翌日、約束を果たして安心したかのように息を引き取った。

スターリング・ノース (すたーりんぐのーす)

ボリス・カーロフの父親の友人だった男性。西部からやって来て屋敷を買い取り、しばらくしてどこからか連れて来た13~14歳ほどの少女と一緒に暮らしていた。カーロフ氏の父親に屋敷を譲渡した後の消息は不明。金木犀が花をつける頃に、「ウラジーミル」という名の青年がやって来ると言い残していた。

メアリ・ターナー (めありたーなー)

ヒュー・ヴィックス・バイダーベックの夢に登場する屋敷を管理しているターナー家の夫人。長い間カーロフ家の使用人として働いており、屋敷の中で幽霊を見たことがある。穏やかな性格で料理も上手く、屋敷に移り住んできたヒューとウラジーミル・ミハルコフの身の回りの世話をする。

SHARE
EC
Amazon
logo