黒薔薇アリス

黒薔薇アリス

優秀な雄として吸血樹に選ばれた男性たちと、彼らの中から1人だけを選ぶ責務を負った女性が「良い雄とは」を考えながら交流を深めていく物語。「月刊プリンセス」に平成20年4月号から連載開始され、平成23年9月号で第1部が完結。第2部については現在発表されていない。

正式名称
黒薔薇アリス
ふりがな
くろばらありす
作者
ジャンル
ダークファンタジー
 
恋愛
レーベル
フラワーコミックス α(小学館)
巻数
既刊6巻
関連商品
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世界観

ヴァンパイアを通常の「吸血鬼」ではなく吸血樹と表記し、繁殖を終えると死亡してしまう植物として設定しているのが特徴。個体数が減少し滅びに向かう吸血樹を次世代に残すため、優秀な種の選択を迫られる女性の、男性の選定方法とそれによる葛藤を描いている。

あらすじ

ウィーン編(1~2話)

1906年。テノール歌手和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキは、友人のアニエスカ・フォン・ローゼンフェルトの誕生日を祝うべくウィーンに戻った際、交通事故に遭い瀕死の重傷を負ってしまう。奇跡的に一命をとりとめたディミトリだったが、その日から周囲に不審死が相次ぎ、自らの身体にも異変が起きていることに気づく。そんな彼の元に、謎の男性マクシミリアンが現れ「貴方はヴァンパイアになった」と告げるのだった。

東京編(3話~)

2008年。東京都の高校に勤める菊川梓は、教え子の生島光哉から熱心なアプローチを受けていたが、彼の想いを信じることができず悩んでいた。実際は両想いであるにもかかわらず、梓は光哉の心変わりを恐れわざと遠ざける日々が続いていたが、ある日2人は交通事故に遭い、光哉は瀕死の重傷を負ってしまう。悲嘆に暮れる梓の元に現れたのは、謎の外国人男性だった。彼はある条件と引き換えに光哉を助けると語り、その条件を受けた梓はアニエスカ・フォン・ローゼンフェルトの身体に魂を移植し、新しい人間アリスとして生きることになる。

特殊設定

「愛と繁殖」が作品のテーマ。長命な吸血樹の人生を描くため、作中では20世紀初頭のウィーンから21世紀の日本まで、百年以上に及ぶ時代に起きた出来事が語られる。主に現代日本での物語をメインに、主人公の和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキが人間だった頃、初めて日本を訪れた頃、もう1人の主人公である菊川梓に出会う前、出会って以降の4つの時代が順に描かれていく。

メディアミックス

ドラマCD

2009年12月、サイバーフェイズよりドラマCD版が発売された。主人公の和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキ役を中村悠一、もう1人の主人公の菊川梓役をゆかなが演じている。

作家情報

水城せとな(みずしろ せとな)は主に女性漫画誌で活躍中の漫画家。1993年『冬が、終わろうとしていた。』で、「プチコミック」からデビュー。他の作品に『失恋ショコラティエ』『脳内ポイズンベリー』などがある。誕生日は10月23日で、血液型はA型。

登場人物・キャラクター

菊川 梓 (きくかわ あずさ)

21世紀の東京都にある神泉東高校で、国語教師として働いていた28歳の女性。聡明で生真面目な性格で、厳格な態度から生徒たちにとっては賛否両論の存在だった。通っていたピアノ教室がきっかけで教え子の生島光哉と親しくなり想いを寄せ合うようになるが、立場や年齢の問題から交際に踏み切れず悩んでいた。

アリス

菊川梓が和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキと契約を結んだことで、新たに誕生した人物。亡くなったアニエスカ・フォン・ローゼンフェルトの身体に梓の魂が移植された人間として、精神は梓、肉体はアニエスカの状態で存在している。28歳の梓が16歳のアニエスカの肉体を得たことで精神はやや幼くなり、アニエスカの容姿に強く影響を受けた言動をする。

和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキ (いずみこうじでぃみとりれゔぁんどふすき)

20世紀初頭のウィーンで、テノール歌手として名を上げていた26歳の男性。黒髪を長く伸ばした涼し気な雰囲気の人物で、美声も手伝い女性に非常に人気があった。母親はドイツ系のロマで、父親はポーランドの貴族と聞かされて育ったが、真相は定かではない。6歳の頃、歌声をテオドールの父であるマイアー侯爵に見初められ引き取られて以降、テオドールとアニエスカ・フォン・ローゼンフェルトとは親しく過ごしていた。 あることをきっかけに、和泉小路姓を名乗るようになる。

楠瀬 太一郎 (くすのせ たいちろう)

渋谷の邸宅に和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキたちと住む吸血樹の1人。長めの前髪を真ん中で分け、眼鏡をかけた柔和な雰囲気の人物。明るく他者に気を遣う性格で、自分よりも住民たちの気持ちを優先して行動するところがある。あだ名の「レオ」というのは生前雑誌モデルを勤めていた際の芸名。かつて事務所社長と対面した時、緊張のあまり「たいちろう」を何度も「たいちれお」と噛んでしまったことから「レオ」という芸名になった。 アリスのことを深く愛し、積極的にアプローチをする。

(かい)

渋谷の邸宅に和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキたちと住む吸血樹の1人。ふんわりした髪の毛を外に跳ねさせた、左目の下にほくろがある人物。人見知りで寡黙なため、アリスと積極的にコミュニケーションをとることはないが、性格は朴訥として真面目。料理が得意で、アリスに毎日食事を作ってくれる。和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキや楠瀬太一郎とは違い、死亡前後の記憶がないと語っている。 アリス争奪戦には消極的で、双子の弟である玲二に譲りたいと考えている。

玲二 (れいじ)

渋谷の邸宅に和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキたちと住む吸血樹の1人。櫂同様シャイな雰囲気だが人当たりの柔らかい心優しい人物。一方で潔癖で傷つきやすく、倫理的に許せない存在にはつらく当たることも。デザート類を作るのが彼の得意分野で、毎日様々なメニューを振る舞ってくれる。アリスには、彼女がアニエスカ・フォン・ローゼンフェルトの肉体に入ったまま眠り続けていた頃から恋している。

生島 光哉 (いくしま こうや)

神泉東高校に通う男子生徒で、菊川梓の教え子。左目の下にほくろがあるのが特徴。梓が自分の母親のピアノ教室に通っていたことから親しくなり、厳しい性格の彼女を周囲の生徒が煙たがる中「顔も性格もだいすき」と公言し慕っていた。

鳴沢 瞳子 (なるさわ とうこ)

吸血樹たちが経営する喫茶店「静寂館」の常連客。職業は小説家で、著書の「御厨探偵シリーズ」は和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキの蔵書にもあるほどの人気作家。職業柄人間観察が得意で、楠瀬太一郎のアリスへの想いにもいち早く気づく。身体にある問題を抱えており、それにも関連して、太一郎と急速に親しくなっていく。

和泉小路 彰子 (いずみこうじ あきこ)

大正時代、和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキが身を寄せた和泉小路伯爵の娘。父を頼って日本に渡ったディミトリとマクシミリアンに関心を示し、やがてディミトリに恋するようになる。ややおっとりしているが寛容で素直な人物で、吸血樹や遣い魔の存在もたやすく受け入れてしまう柔軟な心の持ち主。

和泉小路伯爵 (いずみこうじはくしゃく)

和泉小路彰子の父親で、大正時代和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキとマクシミリアンを家に迎え入れた人物。彼の妻の誕生日にディミトリが歌を贈ったことで知り合い、20年の時が経っても彼を覚えていた。世界各国の怪談や物の怪に強い関心があり、吸血樹を名乗るディミトリとマクシミリアンを信じ、受け入れる。

あかね

櫂と玲二が、生前思いを寄せていた女性。玲二とは両想いで幸せに暮らしていたが、身体の弱い彼のことを常に心配し不安に思っていた。櫂のことは「櫂くん」、玲二のことは「玲ちゃん」と呼び、2人の家に頻繁に出入りするほど親しかったが、それが悲劇を招いてしまう。

中西 灯 (なかにし あかり)

20年前、義父から暴行を受けそうになっていたところを和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキに救われた女性。貧しく苦しい境遇に追い詰められ、ディミトリと一緒にどこかへ行きたいと考えていたが、ディミトリはそれを止め「大人の女性になったら再会しよう」と約束をした。その後20年間、いつかディミトリと再会できることを信じ、明るく懸命に生きていた。

アニエスカ・フォン・ローゼンフェルト (あにえすかふぉんろーぜんふぇると)

和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキが想いを寄せる貴族の女性で、テオドールの婚約者。長い金髪ウェーヴヘアの、純粋無垢な人物。幼い頃、ディミトリが歌う姿を「天使のようだ」と感じて以来彼を慕っており、ディミトリも彼女を、この世で数少ない清らかな存在として大切に想っていた。しかし、ある事件により16歳の若さで亡くなってしまう。

テオドール

和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキの親友で、ディミトリを引き取ったマイヤー侯爵の息子。金髪で明るい雰囲気のいたずら好きな青年で、ディミトリとはよく一緒に馬鹿なことをして過ごしていた。婚約者のアニエスカ・フォン・ローゼンフェルトのことは、女性と言うよりも妹のように捉えており、彼女以外の女性とも関係を持っている。

ローレンツ侯爵夫人 (ろーれんつこうしゃくふじん)

和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキのパトロンを務める女性。ディミトリが19歳の時、代役で主演した「ファウスト」を観劇して以来、彼の才能に惹かれ支援を続けている。ディミトリの境遇を知って尚彼を愛するが、あまりにも行き急ぐその姿を不思議に思っている。ディミトリには「アンナ」と呼ばれているが、正式なフルネームは不明。

マクシミリアン

和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキのもとに現れた吸血樹。恋愛において幸福とは言えない生涯を送っており、ディミトリは彼を幸せにできなかったことを悔やんでいる。厳しく近寄りがたい雰囲気だが、嘘をつかない誠実な人物。なかなか他人に心を開くことはないが、和泉小路彰子を少しずつ信頼するようになる。

ブラッドレイ

マクシミリアンの元主人で、死亡する際繁殖を行い、和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキに種を植え付けた男性。マクシミリアンは彼のことを、飄々としながらも時に残忍で何をするかわからない人物で、プライドが高く自分より上に立とうとする者がいればどんな手段を使っても跪かせ、欲しいと思ったものには躊躇なく手を伸ばすと評している。

チェシャ

菊川梓が飼っていた猫。梓の死後、彼女とは離れ離れになっていたが、生前の生活につながるものがあった方が混乱や淋しさを和らげられて良いと、ある人物が気遣って連れてきた。アリスをすぐに梓と認識し、これまで通り懐くようになる。

場所

静寂館 (しじまかん)

屋敷の離れにある、和泉小路ディミトリ・レヴァンドフスキたちが経営する喫茶店のこと。渋谷駅から歩いて10分、道玄坂を上がり猥雑な小径を抜け、地下に続く階段を入った場所にある。店の看板に年輪のマークを載せ、吸血樹の自覚のない男性が頼りにしてくれることを目的としていたため、これまであまり熱心な経営はしてこなかった。 しかし、アリスの提案で劇的に生まれ変わることとなる。

その他キーワード

吸血樹 (きゅうけつき)

人間の男性の屍に寄生し、体内に虫の姿をした遣い魔を宿す植物のこと。寄生された男性は蘇生し、以降遣い魔を使役しながら血や死肉を糧に生活する。食欲は薄いが、水分さえとれば通常の食事は不必要な存在でもある。非常に鋭敏な感覚を持つため、昼間は体調がすぐれず、主に夜間に行動する。非常に長命な不老の生き物で、手段を選ばなければ大抵のことを可能にするが、繁殖を終えると死亡してしまう。

年輪 (ねんりん)

吸血樹が首に持つ薔薇の形をした傷のこと。まず首の裏側に発生し、やがて首全体を囲むように薔薇の茨の形の傷が伸びていく。完全に首を1周すると、その首は落ち、吸血樹は寿命となるため、その前に繁殖を終えなくてはならない。

繁殖 (はんしょく)

吸血樹が命と引き換えに行う活動のこと。人間の女性を抱くことで繁殖が成立し、蝶の遣い魔がその種を抱えて次の繁殖に有利な優秀な男性の死体を求めて飛び回る。遣い魔が良い寄生相手を発見するとその身体に着床し、種に憑かれた死体は、新たな吸血樹として蘇生する。その際、寄生先の身体にできる薔薇の形の傷は、年輪と呼ばれるその痕跡である。

遣い魔 (つかいま)

吸血樹が使役する虫たちのこと。虫の種類によって得意分野が異なり、たとえば蜘蛛は体内に養力を多く持ちモノを修復する力に長け、クワガタムシは痛みをせき止めて感じさせなくなる力を持つ。このように、多種多様な虫たちが、それぞれの能力を活かした方法で主人をサポートしている。

(けん)

吸血樹が心を決めた女性に使う、二股の剣のこと。この剣で愛する女性を貫くことで、その女性に不老不死の身体を与えることができる。一度貫かれた女性は、契約の証として左手の薬指に薔薇の指輪をはめ、吸血樹と繁殖を行うまで、生き続けることができる。剣は普段は茨に包まれ、杖のように見える。

書誌情報

黒薔薇アリス(新装版) 6巻 小学館〈フラワーコミックス α〉

第1巻

(2016-08-10発行、 978-4091386380)

第2巻

(2016-08-10発行、 978-4091386397)

第4巻

(2016-09-09発行、 978-4091386496)

第5巻

(2016-10-07発行、 978-4091386786)

第6巻

(2016-10-07発行、 978-4091386793)

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