きりひと讃歌

きりひと讃歌

人が獣のような姿に変形してしまう奇病モンモウ病。青年医師小山内桐人は、モンモウ病に冒され、犬の顔をした男として放浪を強いられる。それが医師会会長選挙のための竜ヶ浦博士の陰謀だと知るが、復讐はやがて皮肉な結末へ。奇病を巡って、自分の生き方を追い求める人々を描き、医学漫画に変身テーマを盛り込んだ作品。

正式名称
きりひと讃歌
ふりがな
きりひとさんか
作者
ジャンル
医療
レーベル
手塚治虫文庫全集(講談社コミッククリエイト)
巻数
既刊2巻
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概要・あらすじ

M大医学部付属病院の小山内桐人は、人が獣のような姿に変形してしまう奇病モンモウ病を風土病であると仮説をたて、伝染病説を採る竜ヶ浦博士に疎まれるようになる。モンモウ病が発生する徳島県犬神沢へ調査に訪れた小山内桐人は、閉鎖的な村人から殺されそうになり、村の娘たづと結婚することで村の一員となるが、やがて、自身がモンモウ病に冒されてしまう。

犬男として台湾、中東を放浪し辛酸をなめ、ようやくシリアの難民居住区の医者として居場所をみつけたのもつかの間、自分の病が竜ヶ浦博士の陰謀であったことを知る。復讐を誓って帰国した小山内桐人は、医師会会長選挙の場で竜ヶ浦博士の行いを暴露するが、モンモウ病はその竜ヶ浦博士の体をも蝕み始めていた。

登場人物・キャラクター

小山内 桐人 (おさない きりひと)

M大医学部付属病院の医師。モンモウ病が伝染病であるとする竜ヶ浦博士に対して、風土病であるという仮説を立てる。モンモウ病が発生する犬神沢で自身がモンモウ病に罹ってしまう。村で生きるため村娘たづと結婚するが、何者かにおそわれたづは殺され、小山内桐人は拉致されて台北の万大人の屋敷で見世物にされる。 女芸人麗花とともに万大人の屋敷を脱走し、帰国の途につくもスパイと間違われシリアへ拉致され砂漠を放浪。難民居住区の医者となるが、自分がモンモウ病に罹ったのが竜ヶ浦博士の謀略だと知り、帰国。医師会会長選挙の場で一切を暴露する。

竜ヶ浦博士 (たつがうらはかせ)

M大医学部付属病院第二内科医長。日本医師会の会長選に出馬。モンモウ病が伝染病であるとする自説に対立する仮説を封殺しようと、風土病説を支持する小山内桐人を犬神沢へ調査にいかせる。自らもモンモウ病に冒されてなお、かたくなに伝染病説を固持するが、フランクフルト大学のマンハイム博士がモンモウ病に似たクオネ・クオラレ病を風土病と断定し、また、モンモウ病の原因である犬神沢の水からもビールスは発見されず、放射線を出す希土類が見つかったことから、その伝染病説は覆され、失意のうちに命を終える。

占部 (うらべ)

M大医学部付属病院の医師。小山内桐人の同僚で小学校からの友人。小山内桐人の婚約者である吉永いずみを襲って強姦する。南ローデシアでモンモウ病とそっくりなクオネ・クオラレ病を視察し、ヘレン・フリーズと出会う。竜ヶ浦博士が、対立する仮説を唱える小山内桐人を人体実験に供したのではないかと疑い、恩師と医師としての倫理の間で板挟みとなり、救いを求めるようにヘレン・フリーズとも無理矢理に関係を持ってしまう。 中度の精神分裂症を発症し、走るトラックの前に飛び出して自殺する。

吉永 いずみ (よしなが いずみ)

小山内桐人の婚約者。失踪した小山内桐人の行方を探る。精神的に追い詰められた占部によって乱暴される。匂田市(かぎたし)のスラム街で、ハレ病(はれやまい)に苦しむ人々の世話をするヘレン・フリーズを助けて、そのお産に立ち会う。

たづ

犬神沢にやってきた小山内桐人にあてがわれた娘。父親はモンモウ病で死ぬ。排他的で村にあって、秘密とされていた開かずの小屋、それは、モンモウ病にかかった者が生肉を食べるための小屋だったが、その秘密を知ってしまった小山内桐人の命を守るため、彼と結婚することによって村の一員とする。 暴漢に襲われ殺される。

ヘレン・フリーズ

南アフリカ連邦(現南アフリカ共和国)の白人の修道尼。人種差別が当然である国で黒人だけがかかる病気とされていたモンモウ病に罹り、それを隠蔽しようとする修道院長に撃たれる。同じく、院長に撃たれた占部に助けられ命を取り留めるが、その占部にむりやり乱暴されその子どもを宿す。 スラム街で、カシン・ベック病に苦しむ人々を救うことに自らの使命を見いだす。

麗花 (れいか)

万大人に雇われて人間天ぷらの芸を見せる女芸人。絶望する小山内桐人を慰めてともに万大人の屋敷を脱走する。障害のある人間と交わることで喜びを感じる変質者で、そういった者たちを山小屋へ連れ込んでは死ぬまで味わい尽くすことを繰り返していた。小山内桐人の催眠療法でその性癖が治まる。 小山内桐人とともに日本へ向かうが、スパイと間違われシリアへ拉致され砂漠を放浪、バザールの見世物で人間天ぷらの芸に失敗し悲壮な最期を遂げる。

マンハイム博士 (まんはいむはかせ)

フランクフルト大学の博士で、モンモウ病とそっくりな病気、クオネ・クオラレ病を放射能障害による風土病であると発表。伝染病説を固持する竜ヶ浦博士に衝撃を与える。

万大人 (まんたいじん)

幼い頃の極貧生活から資産数10億元といわれる台北の富豪となる。あたりまえの快楽に飽き足らず、客を招いては酒池肉林の宴を開き、赤ん坊を大蛇に呑ませるといった常軌を逸した猟奇的な見世物を供する。拉致した小山内桐人にむりやり契約させ、日本から来た犬男として、発情した雌犬と交尾させようとする。 犬神沢の水を使った頭痛薬知恵水を常用していたことからモンモウ病に罹り、M大付属病院で死亡。

吉永 (よしなが)

吉永いずみの父。竜ヶ浦博士の後援会長。竜ヶ浦博士を日本医師会会長にするために奔走する。

マクラッケン

南アフリカ連邦(現南アフリカ共和国)の修道院長。人種差別が当然である国で黒人だけがかかる病気とされていたモンモウ病に白人の修道尼ヘレン・フリーズが罹ったことを隠蔽しようと、ヘレン・フリーズと占部医師を銃で撃つ。

山形教授 (やまがたきょうじゅ)

奥羽大学医学部教授。竜ヶ浦博士のエリート意識が気に入らず、医師会会長選挙で竜ヶ浦博士の対抗馬となる黒住東吾を応援している。占部が連れてきたヘレン・フリーズの顔の変形を手術で元に戻そうとするが、モンモウ病が未だに進行中であると言われ、手術を断念。

場所

犬神沢

『きりひと讃歌』の登場する村。徳島県にあるモンモウ病が発病する閉鎖的な村。ここへ調査に来た小山内桐人は、村人に襲われそうになるが、村の娘たづと結婚することで村の一員となる。

その他キーワード

モンモウ病 (もんもうびょう)

『きりひと讃歌』の登場する奇病。体のあちこちが麻痺し骨が変形、顔はとがり、背骨は丸くなり、手足の骨が萎縮し、たってあるくこともできなくなる。犬のような姿になってしまう。最初は激しい頭痛が起き、病気が進行する過程で悪寒戦慄、無力感、排泄障碍、めまい、耳鳴りなどのメニエール症候群のほか、生肉を食べたくなるなど異物嗜好症などの症状がある。 阿波剣山地犬神岳の犬神沢に特有の奇病。南ローデシアでも同様の奇病が発生している。M大医学部付属病院竜ヶ浦博士は伝染病説を唱え、同病院の小山内桐人は風土病だと主張する。犬神沢の水を使った薬から、伝染病のビールスは検出されず、放射線を出す希土類が見つかったことから、風土病説が確定する。

書誌情報

きりひと讃歌 2巻 講談社コミッククリエイト〈手塚治虫文庫全集〉

第1巻

(2010-02-10発行、 978-4063737431)

第2巻

(2010-02-10発行、 978-4063737448)

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