拡散

拡散

世間との違和感を感じている繊細で内向的な少年が、身体が拡散してしまう自分の存在意義を求めて世界をさまようSF作品。自己と世界との葛藤を、「身体が拡散する」という独自の表現で描き出した、哲学的で壮大なテーマを持つ作品。作者のデビュー作にして代表作。濃密な描き込みで表現される唯一無二の世界観は日本漫画離れしており、絵画やバンド・デシネを思わせる。海外での人気も高い。過剰な描き込みの画風のためか作者は寡作であり、本作も雑誌掲載は断続的で、完結までに6年以上を費やした。

正式名称
拡散
ふりがな
かくさん
作者
ジャンル
その他SF・ファンタジー
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概要・あらすじ

女子高生の瀬下あざみは、5年ぶりに生まれた街に戻ってきた。幼なじみのカッちゃんこと東部克彦と再会するのを楽しみにしていたあざみだが、彼は自閉的に成長し、世間から隔絶した生活を送っており、周囲からは変人扱いされていた。何とかカッちゃんの心をほぐそうとするあざみだったが、彼は「自分は拡散してしまうのだ」とのメッセージを残し、姿を消してしまう。

周囲の人々はただの失踪だと考えたが、あざみカッちゃんの言葉を信じ、今もこの地球のどこかに彼は漂っているのだと思い、いつか彼が自分のもとに帰ってきてくれるよう願いながら暮らし、成長してゆく。克彦は日本からアフリカ、アメリカへと世界中を旅しながら、自分が拡散してしまう理由の解答を求めて彷徨を続けてゆく。

登場人物・キャラクター

東部 克彦 (とうべ かつひこ)

母親を病気で亡くしてから父親との2人暮らし。変わった子で、幼なじみの瀬下あざみしか友達がいなかった。常にキャップをかぶっていて、トレードマークとなっている。小さいころから世界に対する違和感を抱えており、周囲からは異端扱いされ続けてきた。5年ぶりに再会したあざみに、自分が拡散してしまうという秘密を明かし、姿を消した。 世間からはただの失踪だと思われていたが、克彦は実際に拡散してこの世に偏在しており、あざみの成長を傍らから見守り続けていた。あざみが大学生となり街を出たのを機に、克彦もまた新たな土地に旅立つこととなる。そして自分が拡散してしまう理由を求め、様々な体験を重ねてゆくこととなる。

瀬下 あざみ (せしも あざみ)

短髪でボーイッシュな女子高生。両親との3人家族。バスケ部所属。カッちゃんとは幼なじみで小学生のころよく遊んでいたが、引っ越しにより離れ離れになっていた。5年ぶりに元の街に戻りカッちゃんと再会したが、彼は登校拒否をする自閉的な少年に成長していた。何とか彼の心を開き、昔のように明るく活発なカッちゃんに戻ってほしいと願うあざみだったが、カッちゃんは「拡散してしまう」という言葉を残して姿を消す。 彼の言葉を信じ、いつか帰ってきてくれると願いながら、あざみは藤枝竜二をパートナーとして選び、生活を続けてゆくことにする。

藤枝 竜二 (ふじえだ りゅうじ)

瀬下あざみの通う高校に転校してきた男子。サラサラヘアのナンパな雰囲気で、あざみに好意を持ち、付き合ってくれるよう告白した。失踪した幼なじみのカッちゃんのことが忘れられないあざみのことを理解し、寄り添って支えるようになる。優しくおだやかだが、不良だった時期もあるらしい。あざみと同じ大学に進み、卒業後も同居を続けている。

(しずく)

長髪の女子高生。母親と2人暮らし。母は温泉街でスナックを営んでいる。周囲からは軽い女とみなされている。「拡散」して空気中に漂っていた克彦は、雫が男子学生たちに強姦されている現場を偶然目撃し、なぜか実体化して彼女のそばに出現した。哀しげで澄んだ目をしたこの不思議な少年に惹かれた雫は、彼といっしょに暮らし始める。 物静かな克彦と暮らすうちに、雫の心は癒され回復してゆく。克彦もまた勝ち気な雫から影響を受けてゆく。拡散するという消極的な生き方ではなく、命を燃やして生きてゆくべきだと雫から教えられた克彦は、彼女のもとを去り、旅を続ける。

ミラ

アフリカのとある部族の娘。温泉街に住む孤独な少女の雫のもとを去った後、克彦はミラの前に姿を現わした。空中から急に実体化した克彦のことをミラや村の人々は精霊だと思い込み、彼を歓迎した。ミラと克彦は心を通わせ、彼はこの村にすっかり溶け込んで暮らしていた。しかし克彦が拡散しかけるのを村人に見られてしまい、精霊が村から去らないようにと克彦は軟禁されてしまう。 精霊ではなく一人の人間としての克彦を、ミラは理解し受け入れようとしたが、克彦は再び拡散し、帽子だけをミラに残してどこかへ消えてしまった。

センセー

写真家の中年男性。アフリカで幻の村の撮影に訪れたときに偶然、その地で暮らしていたミラと克彦を写真におさめた。大学卒業後にセンセーの助手を務めていた瀬下あざみは、そのピンボケ写真を偶然見つけ、ここに写っているのはカッちゃんだと確信する。

ベア

常に熊の毛皮をかぶり素顔を明かさない人物。アメリカの荒野の田舎で密造酒を売って暮らしている。ミラのもとから拡散して去った克彦は、彼の前で倒れていたところを助けられた。ベアの正体はインディアンの血を引く思慮深い中年男性だった。ベアは克彦の話を信じ、大切なのは方向を間違わずに実際に行動にうつすことだと教え諭し、彼の迷いを払拭した。

ジェーン

ベアが密造酒を売りに来るバーの経営者の娘。主人である父親はもう年老いているため、店は彼女が切り盛りしている。無愛想で口数も少ないベアに対して不器用な愛情を寄せている。

黒崎 幸子 (くろさき さちこ)

アメリカのとある荒野のうらぶれたバーに3年も居続けているバックパッカー風の日本人女性。謎の男ベアがこのバーに売りに来る密造酒のとりこになっている。

哲也 (てつや)

ヤクザまがいのチンピラの若い男。父親が裕福なのでマンションを所持し、悪い仲間と遊び暮らしている。銃も所持している。小さいころに父の浮気が原因で母が自殺してしまい、それ以来世界に対する憎しみに囚われたまま自暴自棄な生活を続けている。アメリカから拡散し再び実体化した克彦は、彼のマンションのベランダに現われた。 彼が拡散する様子を見た哲也は、彼のことを面白がり、そばに置くことにした。

涼子 (りょうこ)

ヌードモデルを生業としている若い女性。関西弁を話す。瀬下あざみの師匠である写真家のもとでモデルをしており、あざみとも近所なので仲が良い。チンピラの哲也と男女の関係にある。拡散する謎の男性、克彦が目の前に現われてから、哲也が不安定になっていることに不安を感じている。

克美 (かつみ)

雫の一人娘。10年前に女子高生だった雫の前に克彦が現われ、およそ一ヶ月の間奇妙な共同生活を送った。その最後の晩に二人は肉体関係をもったが、その時にできた子供が克美であるらしい。名前は克彦にちなんでつけられたと思われる。克美は日本に戻って来ていた克彦と公園で偶然交流し、それを母である雫に伝えた。 雫はすぐに克彦の姿を探しに走ったが、二度と会うことはできなかった。

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