花と悪魔

花と悪魔

地上に降り立った悪魔の男性と、彼に拾われた少女が、成長するに従ってお互いを異性として意識し、ゆっくりと愛情を育んでいく。種族という垣根を越えて結ばれる、2人の心の内を綴った温かなラブストーリー。「花とゆめ」平成19年8号から平成22年24号にかけて連載された作品で、第33回白泉社アテナ新人大賞デビュー優秀者賞を受賞している。

正式名称
花と悪魔
ふりがな
はなとあくま
作者
ジャンル
ファンタジー
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世界観

悪魔が題材。魔界からやってきた悪魔のビビが、古い時代の日本に似た国に降り立ち、人間の少女はなと絆を深めていく姿を描く。序盤は主にビビとはなの住む屋敷の中で物語が展開するが、中盤からは魔界や学校といった場所に舞台を移し、さまざまな出会いの中ではなが成長する様子も語られていく。2人の住む国は日本に似ているが明言はされておらず、また、人間たちは皆和服を着ていることから、明治時代や大正時代をイメージした世界であると思われる。

作品構成

作者の音久無は、コミックスの6巻で「1から34話までが第1部で、35話からが第2部である」と語っている。第1部では疑似親子のような関係だったビビはなが、第2部ではお互いを1人の異性として捉え、恋愛するようになっていくのがその理由とのこと。

あらすじ

魔界での暮らしに嫌気がさして地上にやってきた悪魔のビビは、ある冬の日、ほんの気まぐれから捨てられていた人間の赤ん坊を保護する。14年後、はなと名付けられた赤ん坊は可愛らしい少女に成長し、ビビをまっすぐに慕うようになっていた。しかしビビははなを大切に想う一方で、悪魔の自分が彼女に触れれば傷つけてしまうのではないかと恐れ、距離をとるようになっていくのだった。

掲載情報

最初の1話は読み切り版として「花とゆめ」平成19年8号に掲載され、不定期掲載が続いた後、6話から本格連載が決定。定期的に休載する形をとりながら全58話が掲載された。

メディアミックス

ドラマCD

2008年「花とゆめ」の応募者全員サービスとしてドラマCDが制作された。主人公のビビ役を神谷浩史、もう1人の主人公のはな役を神田朱未が演じた。

評価・受賞歴

本作『花と悪魔』は、第33回白泉社アテナ新人大賞デビュー優秀者賞を受賞している。

登場人物・キャラクター

ビビ

魔界史上最年少で叙爵された、約200歳の男性大悪魔。魔王ルシフェルの子孫でもある。爵位は公爵。黒髪の、目が隠れるほどの長い前髪をした身なりの良い青年。魔界の行く末を担う存在として将来を嘱望されていたが、地位や名誉には興味がなく、地上へ出たところではなと出会った。基本的には面倒くさがりで、何事にも無関心で執着の薄い性格だが、はなのことは非常に大切に想っている。 学生時代に受けた罰から、猫が苦手。はなの通う学校に潜入した際は「亜久間」という苗字を名乗った。

はな

ビビと暮らす人間の14歳の少女。淡い茶色の髪の毛を切りそろえ、胸のあたりまで伸ばした髪型にドレスを着ている。赤ん坊の頃、ビビの城の前に捨てられていたところをビビに拾われ、花のような笑顔で笑うことから「はな」と名付けられた。無邪気で素直な性格で、ビビを一途に慕い彼とずっと一緒にいたいと考えている。自分とビビを繋いでくれたという理由で、花をとても愛し、ビビに毎日花を贈っている。 絵を描くのが非常に下手だが、本人に自覚はない。学校に入学する際は「亜久間」という苗字を名乗った。雷を強く恐れている。

フェルテン

ビビの学生時代からの友人で、医者としても活動している若い男性の悪魔。前髪を右寄りの位置で分けた金髪の、軟派な雰囲気の人物。以前の爵位は伯爵だったが、魔界の長老たちの孫娘に片っ端から手を出したことが原因で格下げされ男爵となった。格下げ後は50年ほど地上に旅に出ていたが、魔界に戻った直後にビビを地上から連れ戻す命を受け、ビビたちの屋敷へやってくる。 「女性であれば誰でも大好き」という無類の女好きで、許嫁にエリノアがいるものの、当面は誰とも結婚したくないと考えている。

クラウス

ビビの子供の頃からの知り合いで、彼を魔界へ連れ戻しにやってきた若い男性の悪魔。爵位は男爵で、エリノアの双子の弟でもある。暗い灰色の髪の毛に赤い瞳をし、よくロリポップキャンディーを持ち歩いている。優秀なビビを子供の頃から一方的にライバル視しており、ビビがいつも自分より先を行くことを悔しく思っていた。 最初の連れ戻しに失敗して以降も、ことあるごとにビビにちょっかいを出す。

トーニ

ビビの従者を務める若い男性の悪魔。年齢は199歳。耳が隠れるほどまで伸ばした赤い髪のボブヘアにスーツを着ている。10歳の頃にビビの下男となり、従者として彼を正しく諫めたことがきっかけでビビに気に入られ長く仕えるようになった。役職は執事だが、屋敷では給仕から花の世話まで幅広い範囲で仕事をしている。祖父のフリッツのような優秀な執事になることが夢。

二条 菖蒲 (にじょう あやめ)

ビビに血を与える役割を務める、人間の若い女性。前髪を真ん中で分け、ゆるくウェーヴがかった長い髪の毛を胸のあたりまで伸ばした、和服の人物。地上で唯一ビビの正体を知る存在で、定期的に屋敷を訪れては彼に血を提供している。夫を亡くし、トラブルに巻き込まれていたところをビビに助けられて以来、彼に想いを寄せている。

エリノア

クラウスの双子の姉で、フェルテンの許嫁の若い女性の悪魔。黒髪に赤い瞳を持ち、長い巻き髪をツインテールにしている。放浪を続けるフェルテンを50年待ち続けていたが、魔界に戻ってきてすぐにまた地上に行ってしまった彼に業を煮やし、彼を追いかけて地上へやってきた。自分の性格をがさつで可愛げがないと捉えており、フェルテンに好かれないのはそれが原因であると考えている。 怒ると巨大なハンマーを取り出して攻撃する。

ミヒェル

魔界からやってきた若い男性の悪魔。長い前髪で両目を隠した猫背の人物。通称「猫男爵」と呼ばれるほどの大の猫好きで、常に猫と行動し、自宅は猫屋敷と化している。基本的には自宅にこもって猫にまつわる怪しげな研究ばかりをしていたが、クラウスから依頼を受けビビの屋敷を訪れる。

ローゼマリー

魔界に住むビビの婚約者。若い女性の悪魔で、爵位は女子爵。ウェーヴがかったショートヘアにドレスを着ている。ビビへの恋愛感情はないように見えるが、大悪魔と結婚することで得られる権力には強い関心を持っており、彼と早く結婚することを望んでいる。そのための障害はすべて排除すべきと考え、魔界で出会ったはな弐號を狙って地上へ訪れる。 家はいわゆる没落貴族で、お家再興のため幼い頃から熱心な教育を受けて育った。方向音痴で、よく道に迷っている。

谷崎 桃 (たにざき もも)

地上に住む少年で、谷崎生花店の息子。性別は男性だが、花を愛する父親から「桃」という花の名を付けられ、自らの名前にコンプレックスを感じている。あることがきっかけではなと知り合い、お互いに花が好きなことから親しくなった。学校に通っているものの校内では不良で通っており、同じクラスに転入したはなに迷惑をかけまいとそっけなく振る舞う。

荒井 蓮太郎 (あらい れんたろう)

谷崎桃の友人で、同じ学校の同じクラスに所属する男子生徒。真ん中で分けたストレートヘアを、耳の下あたりまで伸ばしている。二条菖蒲に想いを寄せており、彼女と親しいはなのことを一方的に嫌っている。桃同様、校内では不良で通っている。

石田 (いしだ)

谷崎桃と荒井蓮太郎の友人で、2人と同じ学校の同じクラスに所属する男子生徒。坊主頭が特徴。蓮太郎とは対照的に笑顔を絶やさぬ穏やかな性格で、はなにも友好的。蓮太郎の冷たい発言のフォローに回ることも多い。

ルシフェル

魔界の魔王を務める悪魔。姿を自由自在に変えることができ、長髪の若い男性や少年の姿で現れるが、左目の下に2つの星型の印があることで彼と判別できる。子孫であるビビをいじめるのが趣味で、顔を合わせては激しいダメージを与えているため、ビビには激しく嫌われている。ビビが執着するはなに関心を持っており、ビビを利用してはなとコンタクトを取ろうとする。

ギルベルト

ルシフェルの従者を務める若い男性の悪魔。真ん中で分けた長髪と三白眼、そり落とした眉毛、とがった耳が特徴。無表情で不愛想な人柄で、ルシフェルの命を受けてビビたちのもとに現れては淡々と任務をこなしていく。のちにビビの秘書となるゲルダは妹。

桐野 (きりの)

二条菖蒲に仕える年老いた男性。オールバックにした白髪に眼鏡をかけ、スーツを着ている。菖蒲のおさがりの着物を頂きに二条家を訪れたはなに、服の説明をしに行ったことで知り合う。菖蒲の心情を見抜く力に長けている。

田中 蘭子 (たなか らんこ)

はなが通う学校の、同じクラスの女子生徒。前髪を斜めに分け、胸のあたりまで伸ばした髪をゆるくウェーヴさせている。教師として赴任してきたビビを気に入り、はなに仲を取り持ってほしいとねだるが、その行動には不審な点が多い。

モーリッツ

はなたちの通う学校に潜んでいた若い男性の悪魔。前髪を斜めに分け、ゆるくウェーヴのかかった髪を耳の下あたりまで伸ばした、太い眉と長いまつげが特徴の悪魔。爵位は公爵。何事も徹底的に行うことをモットーとしており、変装して学校生活を送っていた。人を操る術に長け、はなを術にかけてまるで別人格の「はな様」にしてしまう。 妻のマリアンネとは非常に仲が良い。

西島 椿 (にしじま つばき)

谷崎桃の友人で、はなたちと同じクラスに所属する女子生徒。ショートカットに長身で、口元のほくろが特徴。風邪でしばらく欠席しており、荒井蓮太郎や石田よりも後にはなと知り合った。桃とは幼なじみで、クラスでは浮いている桃たちのグループに積極的に話しかける唯一の人物でもある。家は裕福で、別荘を所持するほどのお金持ち。

桃弐號 (ももにごう)

はなが書店で出会った谷崎桃の従兄の男性。長身で、桃が成長したような外見をしている。本名は不明だが桃によく似ているため、通称としてはなが「桃弐號」と名付けた。桃の依頼で、はなに「あるもの」を見せようと声をかける。その後、「数年後にまた会おう」と謎の言葉を残して去っていった。

ヴェルンハルト

エリノアの父が、エリノアの新たな婚約者候補として選んだ若い男性の悪魔。爵位は男爵。長髪を1つに結んだ、軽薄な印象の青年。聡明ではあるが女性関係が激しく、評判は芳しくない。

ビアンカ

ローゼマリー付きの少女メイド。前髪を斜めに分けたおかっぱヘアの、メイド服を着た悪魔。幼い頃親に捨てられ、下級悪魔に襲われていたところをローゼマリーに助けられたのがきっかけで彼女のもとで働くことになった。雇用された経緯からローゼマリーを熱心に慕っており、ビビとの結婚には反対している。

クルト

ローゼマリー付きの少年執事。切りそろえた短い髪に眼鏡をかけ、スーツを着ている悪魔。ビアンカが雇用された後、ローゼマリーに「男性もいた方がいい」という理由で街で拾われ、彼女のもとで働くことになった。ビアンカ同様、ローゼマリーの結婚には反対しているが、反対するあまりぶしつけな発言をするビアンカをたしなめることも多い。

谷崎 梅 (たにざき うめ)

谷崎桃の姉で、谷崎生花店の娘。年齢は16歳。切りそろえた前髪に、髪を1つにまとめて和服を着た、そばかすが特徴の人物。弟よりも地位が上なため、桃を配達等でこき使っている。桃が体調を崩した際に往診に訪れたフェルテンに憧れているが、エレノアの存在を知りすぐに失恋してしまう。

フリッツ

トーニの祖父で、魔界にある方のビビの屋敷の執事を務める年老いた男性の悪魔。白髪をオールバックにし眼鏡をかけ、スーツを着ている。仕事熱心で礼儀に厳しい人物で、主相手であろうとも問題点は正しく指摘する姿はトーニにも引き継がれている。

(とり)

ビビが自分の影から生み出した黒い鳥。自分の不在中、はなに「自分の代わりに一緒に遊べるように」という理由で与えた。はなに懐いており、秘薬などで彼女の姿が変わっていても正しく判別する力を持っている。その出自から、ビビと雰囲気が似ている。特定の名前は付けられていない。

(ねこ)

はなが屋敷の付近で見つけた黒い子猫。全身が震え弱っており、はなが保護して屋敷でこっそり飼うことになった。本来猫はビビが張った結界により、敷地内には立ち入れないはずなのだが、この猫は侵入できた等不審な点がある。特定の名前は付けられていない。

場所

魔界 (まかい)

ビビがかつて暮らしていた、悪魔たちの住む世界のこと。人間たちが住む地上の、1つ下の階層にある。太陽は存在せず、悪魔たちは朝も夜も常に薄暗い中で生活している。魔王を頂点として構成される縦社会で、上級悪魔には爵位が与えられる。上から大公、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の6階級があり、大公や公爵レベルの存在になると「大悪魔」と呼ばれることもある。 上級悪魔たちはたいてい政略結婚することとなり、幼い頃から許嫁がいることが多い。

地底 (ちてい)

魔界のさらに下にある階層のこと。瘴気のたまり場だが、濃すぎる瘴気は悪魔に害があるどころか魔界すら飲み込む恐れがあるため、小さな穴が開いて地底が露出するだけでも非常に危険な状態となる。もとはルシフェルの力で均衡が保たれていたが、ある事情からそれは崩れようとしている。

その他キーワード

悪魔 (あくま)

魔界に住む人ならぬ存在たちのこと。人間の魂を喰らうとされ、高エネルギー源である人の血を好んで飲むことも珍しくない。高い治癒能力を持ち、かすり傷程度であれば数秒で完治する。その他にも、直接触れると花が枯れてしまう、太陽のない魔界で暮らしているため日差しには免疫がない、などの特徴を持っている。

瘴気 (しょうき)

地底に多く存在する、悪魔が好む空気で、魔力を増幅させる力。人間にとっては害で、長期的に吸っていると体調を崩し、発熱してしまうことがある。また、あまりにも濃い瘴気は悪魔そのものすら喰らうほどの力を持つ、非常に危険なものである。

秘薬 (ひやく)

生物の身体を一時的に成長させる薬で、魔界でも入手は困難なもの。基本的に魔界で使用されている薬だが、人体に影響がないのは実証済みで、人間が服用した場合数時間ほど効果が得られる。もとはエリノアからフェルテンを助けるために用いたものだったが、その後も意外な形で使用することになる。

はな弐號 (はなにごう)

はなが秘薬を用いるなどの方法により、大人の女性の姿になっている時の呼び名。「はなの姉」という意味ではな自身が考えた名前だったが、先に生まれたはずの姉が「2号」になっているなど矛盾がある。ビビはこの姿になっている時のはなに特に弱い。

はな様 (はなさま)

モーリッツの術にかけられ、別人と化している時のはなの呼び名。目つきが悪くなる、男性のような口調で話す、不遜な態度を取るという理由から「様」付けで呼ばれるようになった。この状態になるとビビへの関心を一切なくし、モーリッツに夢中になってしまう。

花のネックレス (はなのねっくれす)

はなの15歳の誕生日に、ビビが贈ったアクセサリー。細い鎖に薔薇の花のチャームが一つ付いた、シンプルなデザインをしている。贈られて以来はなは常に身に着けており、2人の絆を象徴するものとしてたびたび重要な役割を果たす。

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