達人伝 -9万里を風に乗り-

達人伝 -9万里を風に乗り-

中国の春秋戦国時代。一人の若者が、強大な秦国に対抗するため、さまざまな技能を持つ「達人」たちを結集するべく戦う戦国ストーリー。「漫画アクション」2013年1/22号から連載開始。

正式名称
達人伝 -9万里を風に乗り-
ふりがな
たつじんでん きゅうまんりをかぜにのり
作者
ジャンル
その他歴史・時代
レーベル
アクションコミックス(双葉社)
巻数
全34巻完結
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作品誕生のいきさつ

王欣太は、コミックスのカバー折り返しにある作者コメントにて、本作『達人伝 -9万里を風に乗り-』誕生のいきさつについて語っている。当初、「漫画アクション」編集者に執筆を依頼されたのは、ユリウス・カエサルを題材にした作品だったという。しかしカエサルの生涯を描くには相当な準備が必要なうえ、どのような切り口で描くかという点でも熟考が必要だった。そのため、いったん別の作品を描くことが決定。その際、編集者が提案したのが中島敦の「名人伝」。王欣太は以前『蒼天航路』を執筆した際に老荘思想に関心を持ったこともあり、意欲を刺激されて本作の執筆に至ったという。

あらすじ

中国春秋時代。荘子の孫にあたる青年の荘丹は、突如、自らの住む国が斉国に攻め込まれ、親友の玄信と王の琰王を殺害されてしまう。しかしなおも屈さず立ち向かった荘丹はその勇気を買われ、斉国の将軍・朱涯から、「9年間荘丹の国の安全を保障する代わりに、秦国に対抗できる達人たちを結集しろ」と交換条件を持ちかけられる。こうして、達人たちを探す荘丹の旅が始まるのだった。

登場人物・キャラクター

荘丹 (そうたん)

王宮衛士を務める若い男性。のちに「丹の三侠」の一人となる。前髪を上げて額を全開にし、肩につくほど伸ばした長い黒髪を一部お団子にしてまとめている。度胸の据わった落ち着いた性格で、弁舌に優れ、言葉を用いた交渉を大の得意としている。そのため玄信をはじめ周囲には「大ボラの達人」と呼ばれていた。目の前で琰王を殺されてなお屈さなかった荘丹の勇気を買った朱涯と、9年間祖国を守ってもらう代わりに秦国に対抗できる達人たちを結集するという約束をする。 荘子の孫にあたるが、荘子の偉業についてはほぼ知らず、彼から唯一教わった生きる極意である深呼吸「大呼吸」を大切に生きている。

無名 (うーみん)

荘丹の仲間で、「丹の三侠」の一人。前髪を上げて額を全開にし、くせのある髪の毛をお団子にしてひとつにまとめている。年齢は二十代半ばの若い男性。左頬に入った小さな傷と、長く伸ばしたもみあげが特徴。関西弁のような口調で話す。荘丹とは紀昌を追いかけている最中に知り合い、体調を崩した荘丹を助けたのがきっかけで仲間になる。 今は「無名」と名乗っているが、いつか本当の名を歴史に残す男になろうと考えている。そのため孟嘗君をはじめとする有名人の情報にめっぽう強く、簡単な特徴だけで正体を見抜く力を持っている。荘丹の祖父である荘子に憧れている。正体は周国の王族でかつては「周翔」という名だった。しかし現在は周王朝と複雑な関係にあるため、その名を隠している。

丁烹 (ていほう)

荘丹の仲間で、「丹の三侠」の一人。料理人の若い男性で、頭に巻いたバンダナが特徴。初対面の荘丹が玄信と見誤ったほど、容姿が玄信によく似ている。無名に荘丹のことを頼まれたのをきっかけに彼に同行することになる。情に厚く侠を重んじ、荘丹に親身に接する。伝説の料理人と言われた庖丁を伯父に持ち、彼から与えられた包丁「牛刀」を非常に大切にしている。 本人も素晴らしい料理の腕の持ち主であり、無名からは「庖丁」と呼ばれている。喧嘩はあまり強くない。

盗跖 (とうせき)

義賊の男性。前髪を上げて額を全開にし、パイナップルの葉のような大きな髪飾りでまとめている。稲妻のような形の眉とがっしりした身体、派手な服装が特徴。破格の大侠として知られており、豪快で懐の深い人物。義賊として周囲の小国の何倍もの財宝を持つことから、秦国に命を狙われている。もとより秦国のことは快く思っておらず、無名を追ってやってきた荘丹を気に入り、協力することになる。 なお、「盗跖」は本名ではなく、代々続く名を継いだもの。今の盗跖は8代目にあたる。実在した人物、盗跖がモデル。

盗扇 (とうせん)

盗跖の妹。セクシーな雰囲気の若い女性で、髪型や服装をよく変える。孟嘗君の奥方を騙り酒や料理を手に入れようとしていたところに無名と丁烹と出会い、無名を気に入って仲間に引き入れる。盗跖を「お兄ちゃん」と呼び慕っており、周囲からは「お嬢」と呼ばれている。荘丹の演説を聞いて以来、彼のことを気に入っている。 好きな食べ物は肉。

謀幹 (ぼうかん)

盗跖の部下。前髪を上げて額を全開にし、白髪をお団子にしてまとめている年老いた男性。長い顎ひげと、左目が見えない隻眼なのが特徴。かつては秦王に仕えていたが、秦王の残酷なやり口に苦言を呈した際に左目を焼かれ国を追われた。今は盗跖を慕い、彼と行動を共にしている。

孟嘗君 (もうしょうくん)

戦国四君の一人。前髪を上げて額を全開にし、肩のあたりまで伸ばした長髪をした年老いた男性。数千人もの食客を囲い、ちょっとした小国の王よりも有名な人物だが、荘丹は知らず、盗跖を通じて知り合った。秦国をけん制できる唯一の人物だったが、現在は体調を崩し臥せっている。攻撃や侮辱を受けた際は徹底して報復を行う主義の持ち主で、自らの王である斉国の湣王に命を狙われた際も返り討ちにした。 一方で食客たちには慕われ、深く愛されている。荘丹の祖父である荘子には二度命を救われており、深い恩を感じていた。また、荘子の助言から、優秀な人物であれば逃亡者や罪人も食客に加えるようにしている。実在した人物、孟嘗君がモデル。

白起 (はくき)

秦国の将軍。前髪を上げて額を全開にし、薄紫色の長髪をお団子にしてまとめている。並はずれた長躯と筋肉の持ち主で、人の心理を操る力に長け、数々の武術の心得、そして素晴らしい軍才も持つ。出陣のたびに勝利し、短期間で将軍の位まで上りつめた人物で、秦国は白起の存在によりさらに勢いを増したと言われている。愛馬の名前は「白輝(はくき)」。 実在した人物、白起がモデル。

春申君 (しゅんしんくん)

戦国四君の一人。前髪を真ん中で分けて額を見せ、肩まで伸ばした長髪を外にはねさせている。口を囲むようにはやした髭が特徴。楚国に暮らし、白起と交渉するべく国の危機に駆け付ける。そして楚国の遷都と、太子を自分と共に秦国の人質にすることを提案する。実在した人物、春申君がモデル。

呂不韋 (りょふい)

商人の若い男性。前髪を上げて額を全開にし、肩のあたりまで伸ばした長髪を4本の三つ編みにまとめて、帽子をかぶっている。才知に長け目端の利く落ち着いた雰囲気の人物。荘丹、無名、丁烹とはある町で出会い、3人の馬が盗まれたと伝えたことで知り合う。その際に無名を気に入るが、3人が盗跖の仲間と知り、自分の仲間にするのを諦めた。 実家は裕福な商家。実在した人物、呂不韋がモデル。

信陵君 (しんりょうくん)

魏国の王族の男性。前髪を上げて額を全開にし、肩のあたりまで伸ばした長髪を一部お団子にし、かんざしを挿してまとめている。争いを嫌う飄々とした雰囲気の人物だが、非常に聡く機知に長け、戦場では素晴らしい采配をふるう。孟嘗君の紹介でやってきた荘丹たち「丹の三侠」を連れ、共に洛陽へ向かうことになる。盗跖とは若い頃からの腐れ縁にある。 女性が大好きで、眠っている時も女性を抱く夢を見るほど。実在した人物、信陵君がモデル。

チータイ

無名の師で、旅芸人の若い女性。前髪を上げて額を全開にし、肩のあたりまで伸ばした黒髪を三つ編みにしている。胡族で、楽器演奏が得意。無名に洛陽の外の世界を教えた人物であり、無名が関西弁のような口調をするのは彼女の影響から。現在は行方不明で、好色な旻公に襲われた際、拒んだのを理由に殺害されたと考えられている。

王齕 (おうこつ)

秦国の将軍。とがった大きな耳が特徴の年老いた男性。范束と共に洛陽を攻めに現れる。圧倒的な実力を持ち、マントを鳥のように広げて騎乗し飛んで戦う。范束を強く信頼しており、彼の作戦を基に行動し、残忍な殺戮を行う。しかし日が高いうちは万全でなく、完全な実力は発揮できない。「黒衝騎(こくしょうき)」という特攻部隊を所有している。 実在した人物、王齕がモデル。

范束 (はんそく)

王齕に仕える軍師。長いまつげと厚い唇、大きな耳が特徴。王齕の強い信頼のもと、共に行動し戦略を練っている。王齕からはよく両耳を引っ張られていたりもするが、王齕を強く慕っている。涙もろく、感情が高ぶるとすぐに涙を流す。

蔡要 (さいよう)

魏国の軍師。魏国随一の戦略家と呼ばれており、信陵君の頼みで荘丹たち「丹の三侠」に戦略を教えることになる。講義中は非常に厳しく話が長いことから、荘丹たちに逃げられてしまうこともある。

鈍平 (どんへい)

魏国の兵士。がっしりした大きな身体が特徴。体格に比して非常に警戒心の強い性格で、危機察知能力に長ける。不安を感じると声を上げて怯える性質を荘丹たちに見出され、意外な形で大きく貢献することになる。

秦王 (しんおう)

秦国の王。黒い肌とどこかうつろな瞳が特徴。政治は宰相と高官に委ね豪奢な生活を送っていたが、他の6国を滅ぼすため、ある時期を境に自ら権力をふるい覇業へと乗り出した。大量殺戮将軍である白起の存在すらさほど意に介さない、恐ろしい人物。実在した人物、昭襄王がモデル。

朱姫 (しゅき)

元流民の少女。肩のあたりまで伸ばした黒髪と、口元のほくろが特徴。一人さまよっていたところを旅芸人の一座に拾われ、舞子として笛を吹く仕事をしていた。そこで呂不韋と出会って見出され、身請けされる。幼名は「雛朱」。

藺相如 (りんしょうじょ)

趙国の王の家臣。前髪を上げて額を全開にし、肩のあたりまで伸ばした長髪を束ごとに外へはねさせている。秦王相手に単独で渡り合うほどの知性の持ち主で、趙王の使者として秦に向かった際の「和氏の璧」にまつわる出来事は「完璧」の語源となった。実在した人物、藺相如がモデル。

范雎 (はんしょ)

秦国の宰相。傷だらけの顔に、歯が多く欠けているのが特徴。かつて魏国の魏斉に殺されかけ、名誉を深く傷つけられたことから魏国へ強い恨みを持っている。わずかな攻撃にも必ず復讐する執念深い性格だが、同時にどんなに小さな恩も必ず返す義理堅さもある。秦王に気に入られている。実在した人物、范雎がモデル。

平原君 (へいげんくん)

戦国四君の一人。趙王の弟でもある。前髪を上げて額を全開にし、お団子にしてまとめている男性。髪の一部だけが白髪になっているのが特徴。自分を探していた荘丹たち丹の三侠に、偶然自分から声をかけたのがきっかけで知り合う。人望厚く、無名には「人たらし」と評されている。実在した人物、平原君がモデル。

異人 (いじん)

秦の公子である少年。人質として趙国の邯鄲に住まわされている。前髪を上げて額を全開にし、お団子にしてまとめている。澄んだ瞳と黒く太い眉が特徴。安国君の20人近くいる息子の一人で、世継ぎとなる可能性は極めて低い存在。しかし直感的に異人に強く惹かれるものを感じた呂不韋は、異人に近づき「秦の太子にしてやる」と持ち掛ける。 朱姫の舞う姿を見て以来、朱姫に憧れのような感情を抱いている。生母は夏姫。実在した人物、異人がモデル。

華陽夫人 (かようふじん)

安国君の正夫人。前髪を真ん中で分けて額を全開にし、長髪を頭上でまとめている。安国君からの深い寵愛を受けているが子には恵まれていない。そこに目をつけた呂不韋は、華陽婦人に近づき異人を養子に迎えさせようとする。容姿に優れるだけでなく非常に聡明な人物で、呂不韋の意図を見抜きつつ、彼を味方に付けようとする。

孟梁 (もうりょう)

趙国の将軍。太い眉と口ひげが特徴。荘丹、無名、丁烹とは、平原君が3人を上党駐屯軍副将に任命したことで知り合う。しかし3人を認めておらず、「馬骨」「馬骨三兄弟」と呼び見下している。名将である趙奢を継ぐ者は自らと自負しており、プライドの高い性格。しかし実際は趙国の将軍が残り少なくなっていることに怯えており、必死に虚勢を張っている。

廉頗 (れんば)

趙国の将帥。前髪を上げて額を全開にし、白髪をお団子にしてまとめている。口ひげと顎ひげが特徴。趙国随一、不敗の名将として知られており、一見穏やかな雰囲気だがすさまじいプレッシャーを放っている。王齕のことを本気で戦える数少ない相手と捉えており、彼との戦いを望んでいる。実在した人物、廉頗がモデル。

玄信 (げんしん)

荘丹の友人。王宮衛士を務めている若い男性。前髪を上げて額を全開にし、黒髪を一部お団子にしてまとめ、後ろ髪は外にはねさせている。顎ひげが特徴。朱涯に攻め込まれた際、黥骨に殺害された。琰王を「最高の王」と強く慕っていた。

琰王 (えんおう)

荘丹と玄信の国の王。あらゆる人材を用いて国を富ませ、小国ゆえの結束と機動力、そして外交を駆使して国を守ってきた。しかし斉国に攻め込まれた際、朱涯が連れてきた黥骨に殺され亡くなった。玄信をはじめ、民には非常に慕われていた。危機的状況でも沈着冷静に振る舞う落ち着いた心の持ち主。

朱涯 (しゅがい)

斉国の大将軍。白くなった太い眉と、長く伸ばした白い顎ひげが特徴の年老いた男性。斉国と隣国にあたる荘丹と玄信の国を襲い、黥骨に琰王を襲わせ殺害する。その際、琰王と玄信を殺されてなお自らに屈さなかった荘丹に見どころを感じ「秦国の手から9年間荘丹たちの国を守る代わりに、秦国に対抗できる達人を集めよ」と交換条件を持ちかける。 以来荘丹との約束を守り、ある家庭への援助も行っていた。食客たちには慕われており「御大」と呼ばれている。

黥骨 (げいこつ)

秦国の刺客。褐色肌にスキンヘッドの男性。頭部に多くの傷跡があるのと、顔の周囲一面に生やした髭が特徴。すさまじい剣技の持ち主で、玄信と琰王を荘丹の目の前で殺害。その後も洛陽に現れ旻公や信陵君の命を狙う。

集団・組織

丹の三侠 (あかしのさんきょう)

荘丹、無名、丁烹の3人組の総称。秦国に抗うべく、世の達人を結集することを目的としている。「丹の三侠」の「丹」とは荘丹のことであるとともに「赤色」の意味もあり、熱く鮮やかで変わらない強い覚悟を表している。厳密には荘丹は「侠」とは言い難いものの、その場合「二侠とホラ吹き一人」という名になってしまうため、荘丹も「侠」として数えている。 無名が勢いで柳洄に名乗ったのがきっかけでこの名が付けられた。3人を馬の骨扱いする孟梁からは「馬骨三兄弟」と呼ばれている。

その他キーワード

大呼吸 (だいこきゅう)

荘丹が祖父の荘子から唯一教わった深呼吸のこと。荘子は大呼吸を「生きる極意」と呼び、「深く深い呼吸を繰り返すことで、全身に血が巡るのを感じよ。自ずから然り、自分を自然に還す。水のように、赤子のようにあるがまま」と教えた。そのため、荘丹はここ一番という時にこそ大呼吸をし、心を落ち着けてから弁舌をふるうようにしている。 また、大呼吸の効能の高さは荘丹の周囲にも知れ渡っており、いざという時は仲間たちもこの大呼吸をしている。

書誌情報

達人伝~9万里を風に乗り~ 全34巻 双葉社〈アクションコミックス〉

第32巻

(2022-08-25発行、 978-4575857511)

第33巻

(2023-08-28発行、 978-4575858808)

第34巻

(2023-08-28発行、 978-4575858815)

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