双亡亭壊すべし

双亡亭壊すべし

人ならざる者が住む、呪われた屋敷、双亡亭を巡り、さまざまな思惑を持った者たちがその破壊に挑む怪奇アクション。「週刊少年サンデー」2016年第17号から連載の作品。

正式名称
双亡亭壊すべし
ふりがな
そうぼうていこわすべし
作者
ジャンル
怪談・伝奇
レーベル
少年サンデーコミックス(小学館)
巻数
既刊24巻
関連商品
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あらすじ

第1巻

絵本作家を志す青年の凧葉務と親交を深めていた近所の少年、立木緑朗は、務の無責任な発言を真に受けて幽霊屋敷と名高い双亡亭に忍び込み、精神を病んで入院してしまう。奇しくも同日、内閣総理大臣の斯波敦の指示で双亡亭に空爆が行われるが、双亡亭にダメージを与える事はできなかった。報道で双亡亭の恐ろしさを知った務は責任を感じて緑朗の見舞いに向かうが、そこで45年前に行方不明となり、先ほど少年の姿のまま帰還したという親戚の凧葉青一と出会う。戸惑う務を尻目に、双亡亭への復讐を考えるようになった緑朗は、同じく双亡亭の破壊を望む青一と意気投合し、病院を抜け出してしまう。務は緑朗の姉、柘植紅と共に青一と緑朗を追うが、連れ戻す事は叶わなかった。青一と緑朗は廃墟と化した青一の家に立ち寄ると、黒い影のような存在を蹴散らし、決意も新たに双亡亭を壊すべく町へと繰り出していく。

第2巻

お祓いの能力を買われた柘植紅は、特殊災害対策室宿木に請われ、双亡亭破壊プロジェクトに参画する。双亡亭に挑む民間の協力者は超常現象のスペシャリストばかりだったが、双亡亭の主である坂巻泥努の私家版を読んだ事があるという理由で、凧葉務も屋敷への同行を許可された。作戦が始まると、突入班は随所に散りばめられたトマソンに翻弄されながらも、双亡亭に取り込まれた元人間達を蹴散らし、歩みを進める。しかし、突如として屋敷は不自然な暗闇に包まれ、分断されたメンバーは一人、また一人と屋敷に飾られた肖像画の中に引き込まれてしまう。一方、小学校に忍び込んで夜を明かした凧葉青一立木緑朗は、首相官邸に招かれて斯波敦および防衛大臣の桐生信一と対面し、学生時代に双亡亭に踏み込んだという彼らの話を聞く。

第3巻

双亡亭で絵に引き込まれた人間は、正気を失ったような状態で屋敷へと帰還し、正気を保っている人間を次々と襲い始めた。凧葉務も絵の中に引き込まれるが、トラウマを抉るような精神攻撃を振り切り、正気を保ったままで屋敷へと帰還。肖像画の中の男との交流を経て手に入れた瞬間移動能力、黒い腕を使用し、柘植紅のもとへと急ぐ。紅も絵の中に取り込まれて精神攻撃を受けていたが、務の言葉によりトラウマを払拭し、無事に双亡亭へと帰還。続けざまに民間協力者のフロル・ホロパイネンの救出にも成功する。一方、凧葉青一立木緑朗は、斯波敦桐生信一の案内で国会議事堂にある溶ける絵の控室へ赴き、第34代総理大臣の真条寺禅一の肖像画に潜んでいた怪異を討伐する。控室に居並ぶ歴代の首相経験者は青一の力に希望を見出し、首相が代替わりする度に双亡亭から送られて来る首相の肖像画について語り始めた。

第4巻

双亡亭で奮闘する凧葉務達は、民間協力者のトラヴィス・アウグスト宿木と合流し、おかしくなってしまったアウグストの部下、カークマックスを撃破する。一方、溶ける絵の控室では首相の肖像画によって発生した被害の説明がなされ、それを受けた凧葉青一は自身が巻き込まれた旅客機、RHA航空北海道行き707便の消失事件の真相を語り始める。こうして、人間に味方する異星の液状生命体、白い海の存在、白い海を捕食する液状生命体、黒い海の存在が明らかとなった。その後、同席者は青一の身体から滴る白い海を浴びて、テレパシーのような形で、青一が体験した45年にも及ぶ異星間戦争の記憶を追体験する。 

第5巻

敵の正体が黒い海と呼ばれる異星からの侵略者である事を把握した斯波敦桐生信一凧葉青一を伴い、双亡亭へと急行する。青一の後押しにより、立木緑朗も随行した。一方、双亡亭では民間協力者のジョセフィーン・マーグと夫のバレット・マーグが黒い海に支配された民間協力者の朽目洋二と交戦。駆けつけた凧葉務達の支援を受けて撃破する。その直後に民間協力者の鬼離田雪代鬼離田琴代が絵に取り込まれてしまうが、務達の活躍によって絵からの脱出に成功した。

第6巻

双亡亭突入からわずか3時間にして、人員は満身創痍となっていた。宿木は一時撤退を指示するが、凧葉務が、知恵を出し合って協力する、という人間の最強の技をまだ試していないと喝破した事で、メンバーは一人、また一人と作戦の継続に賛同。情報共有した一行は敵の弱点が窒素である事に気づき、その後の偵察で敵の狙いが、水路を探し当てて窒素の存在しない海へ進出する事だと看破する。しかし、黒い海支配された民間協力者の鬼離田菊代に見つかってしまい、中央が吹き抜けになった巨大な螺旋階段上で挟み撃ちとなる。一行が決死の迎撃を行う最中、フロル・ホロパイネンはテレパシーで外部と連携し、液体窒素の手配を開始。テレパシーを聞き届けた凧葉青一は液体窒素の運搬をサポートするべく、双亡亭の家屋を次々と破壊。立木緑朗も大人達のあいだを立ち回り、液体窒素の手配に奔走した。

第7巻

宿木達はフロル・ホロパイネンが転送したボンベを用いて窒素爆発を起こし、黒い海支配された夥しい数の元人間達を一網打尽にする。しかし、宿木達の消耗は激しく、黒衣の格好をした女性、帰黒の力で爆死こそ免れたが、一時撤退を余儀なくされた。宿木の計らいで爆心地から遠ざかっていた柘植紅は、帰黒から立木緑朗双亡亭に踏み込んだという情報を得ると、彼女と共に緑朗の保護に向けて動き出す。黒い腕でフロルを救出した凧葉務は自衛隊にフロルを預けるが、黒い腕が務自身の脱出を許さず、屋敷内に連れ戻されてしまう。再び肖像画の中の男と面会した務は疑問を投げかけるうちに、彼の正体が坂巻泥努である事を知る。一方、双亡亭の破壊を始めた凧葉青一は、黒い海に支配された大日本帝国の軍人、井郷照清の率いる残花班の襲撃で窮地に陥るが、颯爽と現れた残花班の本来の隊長、黄ノ下残花に救われ、目的の一致から協力関係となる。

第8巻

凧葉務坂巻泥努の案内で、双亡亭の地下室に湧き出る黒い海を目の当たりにする。そして、泥努が地球侵略を企む黒い海を絵の具として活用している事、黒い海が泥努に屈服して支配下に置かれている事を知る。一方、立木緑朗は黒い海が少女を模した姿である「しの」と遭遇。双亡亭の成り立ちに関する情報と引き換えに、「しの」を体内に受け入れる事を約束してしまう。異変を察知した帰黒柘植紅を先行させるが、紙一重の差で間に合わず、紅は緑朗の体内に「しの」が侵入する瞬間を目撃する。

第9巻

立木緑朗へ侵入した「しの」(黒い海)は緑朗の支配を企むが、緑朗の体内に残されていた一滴の白い海に阻まれて失敗。緑朗は激しい怒りで「しの」の行動を封じ込めると、持ち込んでいた液体窒素を飲むという捨て身の作戦を敢行するが、緑朗の身を案じた柘植紅が身体を張って阻止したため、未遂に終わった。一方、凧葉務残花班に襲われていた帰黒の救出に向かい、致命傷を負う。駆けつけた凧葉青一黄ノ下残花の活躍で窮地を脱した帰黒は紅や緑朗と合流し、務の治療に着手した。治療の最中、務の精神は肉体を離れて異星へと旅立ち、白い海が人を模した姿である「あの人」と対面する。治療が成功しても務の精神は肉体に戻らず、行き掛けの駄賃とばかりに坂巻泥努と「しの」の動向を探りに向かい、泥努が制作を進めている巨大絵の完成と同時に、異星から大量の黒い海が地球に雪崩れ込むという情報を得るのだった。

第10巻

凧葉青一は自らの家族が描かれた肖像画に魅入られ、絵の中に取り込まれる。そして黒い海の精神攻撃により家族を失ったトラウマを呼び起こされ、抵抗の意思を削がれてしまうが、駆けつけた黄ノ下残花の奮闘もあり、辛うじて支配を免れていた。目を覚ました凧葉務立木緑朗と共に青一を救い出すが、そのあいだに巨大絵のモデルを探す坂巻泥努柘植紅を拉致。帰黒が戦力不足を指摘すると、務は臨死体験の最中に、助っ人の要請に奔走していた事を明かす。務が頼ったのは一時撤退した双亡亭破壊プロジェクトの仲間だったが、彼らは特殊災害対策室のトップである斑目の判断で第2緋立保健病院に軟禁され、行動を制限されていたのである。これは鬼離田雪代鬼離田琴代が「彼らは黒い海の支配下にある」と指摘した事が原因だったが、宿木は雪代と琴代こそが黒い海に支配されていると考え、孤独な戦いを始めていた。宿木を除くメンバーは既に戦意を喪失していたが、務の霊体の呼び掛けによって再び闘志を漲(みなぎ)らせ、施設からの脱出に挑む。

登場人物・キャラクター

凧葉 務 (たこは つとむ)

貧乏な絵描きの青年。外ハネの髪を、首の後ろで束ねている。縁なし眼鏡をかけて、絵の具に塗れた上着を羽織っている。達磨の描かれた肩掛けカバンを愛用し、簡素な画材をつねに持ち歩いている。美術大学を卒業したばかりで、絵本作家を志しているが、作品の暗い雰囲気が祟り、12社からボツを言い渡されてしまう。ボロアパート、翠峰荘(すいほうそう)に住んでいたが、双亡亭への空爆の余波で家屋が焼け落ちてからは避難所や友人宅で雨風を凌いでいる。立木緑朗を双亡亭に向かわせてしまった事を悔やみ、双亡亭破壊プロジェクトへの協力を決意。坂巻泥努の私家版「奇しき芸術 我が家」を読んでいた事から、突入作戦への同行を許可された。臆病ながら自分を奮い立たせて行動に移せる人物で、絵に取り込まれた際には務の父に関するトラウマを呼び起こされているが、父親を恐れた自分は過去のものだと言い切って異星の生命体、黒い海の支配を免れている。運動は苦手と公言しており、怪異と戦う力も持たないが、身体を張って仲間をかばう場面は多く、泥努から屋敷内で借り受けた異能、黒い腕を活用して次々と仲間の危機を救っている。また、バラバラに戦う仲間に演説を振るって団結させるなど、次第に双亡亭攻略の中心人物となる。

凧葉 青一 (たこは せいいち)

異星の生命体、白い海を宿す少年。凧葉務の祖父の兄の子供だが、務が誕生していない小学6年生の頃に旅客機、RHA航空北海道行き707便の消失に巻き込まれたため、面識はなかった。失踪後は白い海のもとで生活していたが、白い海を捕食する黒い海の襲撃に抗うため、白い海と同化して反撃の口火を切った。その後、45年に及ぶ戦争を生き延びた青一は、黒い海の逃亡先である双亡亭を破壊する使命を帯びて地球へ帰還。務や立木緑朗と出会い、双亡亭へ突貫する。もともとは柔和な顔立ちだったが、白い海と同化しているあいだに変質し、目つきは鋭く、瞳は赤くなった。黒いマッシュボブヘアも薄青色の長髪に変化している。肉体年齢は子供のままで、精神年齢は退行気味。特に言語能力は退化し、発言は片言で、カタカナ表記されている。帰還する際に同化していた白い海の大部分を返還した事で弱体化しているが、身体の硬質化やテレパシーなどの異能は現在も使用可能。身体能力や自然治癒力も人間離れしている。手足を変形させて作るドリルは黒い海に由来する存在にも有効だが、凧葉青一本人が人間を傷つけたがらないため、黒い海に支配された元人間に対しては無力である。

柘植 紅 (つげ くれない)

立木緑朗の姉。霊刀の吐月を携えた刀巫覡。髪型は姫カットの変形で、有事には臀部に達する長さの後ろ髪を鞘を使って結い上げる。唐草模様の大風呂敷を愛用し、平時はセーラー服、刀巫覡として活動する際には巫女装束を着用している。オシャレとは無縁だが、「きめ細かく綺麗な肌」「怒った顔も愛くるしい」「筋肉と関節が解剖学的にも美術的にも美しい」など周囲にはよく容姿を褒められている。幼少期から才能豊かで、両親の離婚後は母親に引き取られ、大分県久重山の神社で本格的な修行を受けた。不注意から緑朗に火傷を負わせた過去があり、緑朗に対して過保護になっているが、弟を傷つけた罰と捉えて自分を追い込んだ結果、巫女として日本一のお祓い能力を持つと噂されるまでに成長した。また、二雷流短刀術を修め、対人戦も得意としている。女学生でもあり、体育の成績は5。外国人と英語で意思疎通できる程度の学力も備えている。嫌味な人物を真正面から叱るなど正義感も強く、他者への気遣いもできるが、感情の起伏が激しく、高揚すると大分弁が出てしまう。家族が双亡亭の被害に遭った事を知ると、上京して双亡亭破壊プロジェクトに参画。緑朗を通じて知り合った凧葉務と共に双亡亭へ突入する。

立木 緑朗 (たちき ろくろう)

柘植紅の弟。沼半井小学校に転入したばかりの小学6年生の男子。目と鼻は丸みを帯びて、背中には生後8か月の頃に負った大きな火傷の跡がある。心優しい性格で、絵を描くのが好き。不在がちな両親に代わって姉に面倒を見てもらう事も多かったが、両親が離婚してしまい、緑朗の父に引き取られて、二人で暮らしている。引っ越しから間もなく近所に住む絵描きの凧葉務となかよくなるが、彼の発言を受けて忍び込んだ双亡亭にて父親を失い、自らも異星の生命体、黒い海の脅威に晒され、一時的に心神喪失状態に陥ってしまう。その後、我を取り戻した緑朗は怒りの感情から双亡亭への復讐を決意。双亡亭の破壊を望む凧葉青一と行動を共にするようになり、友情を育んでいく。やがて、斯波敦を含む歴代首相との対面を経て、双亡亭に潜む敵の正体を知ってなお、臆する事なく双亡亭に乗り込んでいった。特殊能力を持たない凡人ながら、液体窒素の手配や重傷を負った務の治療方法の考案など、双亡亭の攻略に大きく貢献している。また、黒い海の化身、「しの」を怒りで体内に縛りつけるなど、強靭なメンタルの持ち主でもある。なお、青一からは「ラクロ」、稀に「ラクロー」と呼ばれている。

斯波 敦 (しば あつし)

双亡亭の破壊を悲願とする現職の内閣総理大臣。老年の男性で、眼鏡をかけている。防衛大臣の桐生信一とは昔なじみで、名前を呼び捨てにされるほど仲がいい。少年時代は、恐ろしいもの、不思議なものに関心があり、特に幽霊に対して強い興味を持っていた。1972年、中学生の頃に同級生の桐生、金山奈々子と連れ立って双亡亭に忍び込み、恐ろしい体験をする。その恐怖は45年を経ても悪夢に魘(うな)されるほどである。新政権を構築した斯波は、歴代の首相が対処できずに申し送り事項としていた双亡亭の問題を自らの代で解決するべく、物理的な破壊作戦を考案。空爆やモンケンなど、外部からの破壊を試みるが、その悉くに失敗し、世間から強い反感を買ってしまう。その後、内部から破壊工作を行う双亡亭破壊プロジェクトを発案した斯波は248億円もの報奨金を用意して、民間の協力者を募る。自身も桐生と共にバックアップに奔走しており、溶ける絵の控室に凧葉青一を招き、情報交換を行うなどしている。

桐生 信一 (きりゅう しんいち)

双亡亭の破壊を悲願とする現職の防衛大臣。恰幅のいい老年の男性で、頭頂部は禿げ上がっている。内閣総理大臣の斯波敦とは昔なじみで、「シンちゃん」と呼ばれている。斯波と同様にオカルトに傾倒していた時期があり、45年前には斯波、金山奈々子と共に双亡亭を探検し、大きな恐怖を味わう事となった。その後、桐生は斯波内閣の防衛大臣として彼を支えるようになり、世間を敵に回しつつも、双亡亭の破壊に尽力している。情報提供者の凧葉青一がモナカを気に入った際には、店ごと買ってあげたいと発言するなど、気前のいい人柄である。

森田 (もりた)

特殊災害対策室の生活安全課に所属する男性職員。髪を七三分けにしている。体格は大柄で、温厚な性格の持ち主。失踪から45年の時を経て帰還した旅客機、RHA航空北海道行き707便に乗っていた凧葉青一の身柄を引き渡す際に凧葉務と面識を持ち、その人柄から信頼されるようになった。中学1年生の頃に溺れそうな子犬を見捨てた事があり、大人になった現在も心の傷となっている。双亡亭破壊プロジェクトには情報担当として名を連ねていたが、絵の中に取り込まれてトラウマを呼び起こされ、異星の生命体、黒い海に支配されてしまう。その後は味方に向けて銃を乱射した挙句、朽目洋二の験力を浴びて死亡した。

宿木 (やどりぎ)

特殊災害対策室の作戦課に所属する女性職員。階級は二尉。前下がりのショートボブヘアにしている。睨めつけるような三白眼が特徴で、眉毛は生えていない。銃の扱いに長け、部隊対抗の射撃競技会では負けなしの実力を誇る。リアリストを自称し、任務の遂行を優先するあまり、歯に衣着せぬ物言いになる事も多い。入院中の立木緑朗から双亡亭の情報を得ようとした際には、彼の心情を慮(おもんばか)る事なく、緑朗の父の焼死体の写真を見せつけるなどの蛮行に及び、凧葉務を激怒させている。務のみならず、緑朗や凧葉青一からも苦手意識を抱かれているが、上司の斑目からは優秀な人材と認識されており、双亡亭破壊プロジェクトにおいては前面部突入部隊の隊長を任されている。窒素爆発に巻き込まれて一時的に戦線離脱する事になり、第2緋立保健病院に軟禁されてしまうが、状況を打破しようと真っ先に行動を起こし、務の発言に背中を押された事もあって、再び双亡亭に挑む意欲を示した。

坂巻 泥努 (さかまき でいど)

肖像画の中の男の正体。1904年生まれで、岡山県出身の芸術家。本名は「由太郎」。親友の黄ノ下残花からは「よっちゃん」と呼ばれていた。他人の思考や経験を把握できる体質を持っているが、関東大震災の頃から言動がおかしくなったと伝わっている。20歳の時に海外の建築物を見聞して影響を受け、綿糸紡績業で財を成した父親の遺産を投じて双亡亭を建てた。その後は誰も見た事のないものを生み出そうと創作に励むが、画壇から色彩が悪いなど酷評を受け、絵の具の調合にも着手する。しかし思い通りの色を作れず、次第に脳にある色さえ再現できれば絵が売れると思い込むようになった。1929年には双亡亭の地下で異星の生命体、黒い海を発見。これを絵の具にして最愛の姉、坂巻しのぶを描くが、彼らの棲む星と地球をつなぐ「通路」が形成されてしまい、絵に取り込まれて精神攻撃に晒される。泥努は自分の手で姉の首を締める光景を執拗に見せつけられるが、強靱な精神力でこれを跳ね除け、逆に黒い海を支配下に置き、名実共に双亡亭の支配者となる。その後、老化から解放された泥努は世の中への興味を失い、時間を忘れて創作に没頭。黒い海の地球侵略を許容し、気が向いた時には協力すると約束している。

緑朗の父 (ろくろうのちち)

立木緑朗、柘植紅の父親。職業は建築士。パンチパーマで、眼鏡をかけている。紅を巫女の修行に出すか否かで妻と口論になり、3年前に離婚が成立。以降は緑朗と共に暮らしている。双亡亭の角の家に越して来るが、緑朗を連れ戻そうとして双亡亭に踏み入った際に、自らが描かれた肖像画の中に取り込まれ、異星の生命体、黒い海に支配されてしまう。一時は緑朗に襲いかかっているが、辛うじて残された自我によって緑朗に侵入しようとする「サカナ」(黒い海が人間を支配する際に生み出すヒル型の生物)を力ずくで剝ぎ取ると、自らの身体に火を放ち、緑朗を守り抜いた。死の間際には緑朗に双亡亭を壊す者を呼ぶように言い遺している。 

朽目 洋二 (くちめ ようじ)

修験道を極めながら、教えに背いて外道に落ちた男性。三白眼で、乱雑に伸ばした長髪を後ろに流している。頭襟、鈴懸、結袈裟、手甲、錫杖という山伏の標準的な装備を身にまとっているが、胸板や腕部を露出するなど随所を着崩し、左肩には「G・S・U・B・D」の文字を添えた薔薇のタトゥーを入れている。また、鋲ベルトと髑髏のあしらわれたポーチを身につけ、懐には短刀を忍ばせている。金と女に目がなく、回峰修行で面識を持った柘植紅の潔癖さに惚れ込んでいるが、当の紅からは蔑まれ、露骨に避けられている。戦闘能力は極めて高く、山で鍛えた脚力を活かした近接戦闘のほか、宙空に九字を切る事で験力を発揮し、遠距離から攻撃する事も可能。その威力は壁や床を粉砕し、人体をバラバラに粉砕するほどである。報奨金を目当てに双亡亭破壊プロジェクトに名乗りを挙げるが、絵に取り込まれて幼少期に運搬用エレベーターに閉じ込められたトラウマを呼び起こされ、異星の生命体、黒い海に支配されてしまう。その後、凧葉務を襲う過程で森田を殺害し、ジョセフィーン・マーグ、バレット・マーグを追い詰めるが、務達がマーグ夫妻に加勢した事で劣勢となり、無残にも焼死した。

トラヴィス・アウグスト (とらゔぃすあうぐすと)

アメリカ超自然現象研究協会のリーダーで、博士号を持つ老人。大柄で、顎髭は鳩尾(みぞおち)に届くほど長い。効率重視の性格で、時間の無駄を嫌い、部下のミスを追及する際には痛烈に罵るなど、苛烈な面が目立つ。しかし、亡くなった部下に憐れみの言葉を掛ける場面もあり、実験体として扱うフロル・ホロパイネンからも信頼されている。研究テーマは心霊と磁気の関係で、アウグストいわく、心霊とは生命体の電磁放射エネルギーが特定環境に蓄電され、死後に現れる現象である。日本語が堪能で、共同実験で知り合った柘植紅とは互いの能力を高く評価する間柄。双亡亭を心霊サンプルの宝庫と聞き及び、双亡亭破壊プロジェクトに参画するが、計測した磁気の数値から心霊ではなく生物の仕業だと判断し、早々に撤退を決断。その後、異星の生命体、黒い海に支配された部下の襲撃で窮地に陥るが、凧葉務達の協力を受けて撃破している。以降も人形、パイロメアリーの火力向上をヒントに黒い海の弱点を見破るなどチームに貢献しているが、窒素爆発に巻き込まれて戦線離脱する事になり、第2緋立保健病院に軟禁されてしまう。その後、務の要請を受けて、改めて双亡亭に挑む決意を固める。

フロル・ホロパイネン (ふろるほろぱいねん)

トラヴィス・アウグストの養女。アメリカ超自然現象研究協会のメンバーで、双亡亭破壊プロジェクトに名乗りを挙げた民間の協力者。フィンランド出身で、年齢は15歳。内巻きのセミロングヘアで、タイトな膝上丈の黒いワンピースを着ている。遠方に存在する物質を自身の周辺に瞬間移動させるアポーツ(物質現出)能力者だが、使用すると心身に負荷がかかり、限界を超えて多用した場合は死に至る恐れがある。テレパシーも可能だが、相手に素質がなければ使用できない。双亡亭において凧葉務、柘植紅に窮地を救われ、協力して怪異に立ち向かうようになった。螺旋階段上の戦いでは命を賭したアポーツにより大量の液体窒素を引き寄せ、危機的な状況を打破するキーパーソンとなっているが、消耗が激しく、戦線離脱する事になった。その後、第2緋立保健病院に軟禁されてしまうが、務の言葉に耳を傾け、改めて双亡亭に挑む覚悟を決めている。なお、フロルのアポーツ能力は両親から売春を強要された際、自身を守るため無意識のうちに覚醒したもの。アウグストはフロル・ホロパイネンを単なる実験対象と公言して憚らないが、フロルにとってアウグストは自身を辛い環境から連れ出してくれた恩人である。

ナンシー

トラヴィス・アウグストの娘。アメリカ超自然現象研究協会のメンバーで、双亡亭破壊プロジェクトに名乗りを挙げた民間の協力者。髪型はゆるくウェーブしたロングヘアで、眼鏡をかけている。日本語を話す事ができる。父親からアウグスト家の恥晒しと呼ばれ、鞭で打たれていた暗い過去があり、期待に応えようと躍起になっていた。しかし、双亡亭において絵の中に取り込まれ、トラウマを刺激されて異星の生命体、黒い海に支配されてしまう。その後は転換器を装着して、突入班を次々と手にかけている。

鬼離田の三姉妹 (きりたのさんしまい)

霊能力を持つ三つ子の占い師、鬼離田菊代、鬼離田雪代、鬼離田琴代の事。古風な女性語を使うかしましい姉妹で、人を嘲笑するような振る舞いが目立つ。現存する民間の霊能力者として最高峰の感知能力を持つとされているが、「憑き物落としに二打ち無し」と謳われる拝み屋でもあり、「加幻満流鬼神招請」と呼ばれる異能を用いれば、心霊のみならず生物にも対抗できる。幼少期はバケモノの子として金網を張った木箱に押し込められ、謎の缶詰を糧に育てられた。霊能力の修行と称した滝行や炭火渡り、雪の降り頻る墓地での夜明かしなどを強要され、時には割れた竹の棒で叩かれる事もあった。過酷な日々は次第に彼女達の精神を蝕み、やがて感情に反して笑い続ける事で心の安定を保つという歪んだ性格が形成されてしまった。一時は母親のちとせが人間である事を確信して、自分達はバケモノの子ではないと希望を抱いた事もあったが、先師からちとせを孕ませた父親こそバケモノであると聞かされ、深い絶望を味わっている。 

ジョセフィーン・マーグ (じょせふぃーん まーぐ)

発火能力(パイロキネシス)の使い手で、夫のバレット・マーグと共に双亡亭破壊プロジェクトに名乗りを挙げた民間の協力者の女性。車椅子に乗った上品な佇まいの老婆だが、目は虚ろで、簡単な単語を繰り返すように意思表示する癖がある。しかし、発言の多くは肌身離さず抱えた人形のパイロメアリーへの語り掛けであり、他人と会話する事は稀である。発火能力は娘の死をきっかけに覚醒したもので、パイロメアリーを媒介に人間すら瞬時に焼き焦がす強力な火球を放つ。また、遠方から敵の武装だけを加熱し、使用不可に追い込むような芸当も可能である。双亡亭での任務遂行中に朽目洋二や鬼離田の三姉妹から正気を失っていると笑い者にされた際には、火球で報復する素振りを見せているが、柘植紅が潤滑油となり、未遂に終わった。異星の生命体、黒い海に支配された朽目と戦った際には苦戦を強いられつつも、凧葉務達の協力を得て、撃破に成功している。窒素爆発に巻き込まれて戦線離脱すると、第2緋立保健病院に軟禁されてしまうが、務の助けに応じ、バレットと共に改めて双亡亭に挑む意思を見せている。ちなみに、バレットいわく逞しい男性が好みである。

バレット・マーグ (ばれっと まーぐ)

デジタル家電を扱う多国籍企業、バレットコーポレーションの元社長。妻のジョセフィーン・マーグと共に双亡亭破壊プロジェクトに名乗りを挙げた民間の協力者の男性。トラヴィス・アウグストほどではないが、大柄な体格の老人で、髪型はオールバックに整え、口髭を蓄えている。服装は白タキシードにネクタイというフォーマルなもので、ポケットチーフを挿すなど、身形(みなり)には気を遣っている。つねにジョセフィーンの傍に侍り車椅子の扱いを担当するほか、妻のわずかな発言から真意を汲み取って周囲に伝える役目も担っており、日本語を話す事もできる。双亡亭で異星の生命体、黒い海に支配された朽目洋二と戦った際には、朽目の錫杖を素手で取り上げるなど、高い身体能力を示した。窒素爆発に巻き込まれて戦線離脱すると、第2緋立保健病院に軟禁されてしまうが、務の呼び掛けに応え、改めて双亡亭に挑む姿勢を示している。

肖像画の中の男 (しょうぞうがのなかのおとこ)

凧葉務が双亡亭に設置された肖像画の中で出会った絵描きの青年。短髪で目つきは鋭く、黒い衣服を身にまとっている。務の見立てによれば、年齢は自分と同じか少し上。また、務から男前と評価されているが、当人は自覚していない。自らの芸術表現を「診察」と称するなどエキセントリックな性格で、はじめは務の事を、芸術を見る目のない凡俗と見下していた。しかし、自らも絵描きだという務に芸術家としての苦悩を言い当てられ、絵と芸術について語り合う仲となった。務と別れる際には異能、黒い腕を与え、生き延びる事ができたら再び絵の話をするという約束まで交わしている。務と再会した際には「脳髄を揺らす」のが人間にとって最も重要であるという持論を展開したうえで、自らの正体が坂巻泥努である事を明かし、務のさまざまな疑問に答えた。また、務のスケッチに対してアドバイスを行い、写生のモデルに相応しい女性について語り合っている。

金山 奈々子 (かなやま ななこ)

斯波敦、桐生信一が小学生の頃に知り合い、友人となった朗らかな性格の少女。二人からは「ナナちゃん」と呼ばれていた。1972年、中学生の時分に斯波、桐生と連れ立って双亡亭に忍び込み、自らの描かれた肖像画に取り込まれてしまう。その後、異星の生命体、黒い海に支配された金山奈々子は左の眼窩から元の身体を脱ぎ捨てて再誕し、それを目撃した斯波と桐生に45年の月日を経ても拭い去る事のできない強い恐怖を焼きつけた。なお、彼女の末路は10巻までに明らかにされていない。

斑目 (まだらめ)

特殊災害対策室の室長を務める男性職員。スキンヘッドの髪型をしている。体格は細身で、眉毛は生えていない。双亡亭破壊プロジェクトのブリーフィングに登壇し、双亡亭の概要やこれまでに行われた警察介入の経緯について説明した。部下の宿木を含む突入部隊が生還した際には、鬼離田雪代と鬼離田琴代の指摘を聞き入れて生還者の脳を調べ、異様な影が写っている事を確認。異星の生命体、黒い海に支配されている疑いがあるとして、第2緋立保健病院への収容を指示した。基本的には組織の責任者として毅然とした態度で事にあたっているが、軟禁状態にある宿木の要請に応じて、禁じられていた面談の機会を設けるなど、部下思いな面もある。

真条寺 禅一 (しんじょうじ ぜんいち)

第34代内閣総理大臣を務める男性。1938年に双亡亭から送られて来た自身をモデルとする首相の肖像画を受け取り、のちに溶ける絵の控室と呼ばれる事になる国会議事堂の議員控室に飾った人物。絵を飾って間もなく正気を失い、控室の中央で頭からゆっくりと爆散した。その異様な死に様から箝口令(かんこうれい)が敷かれ、世間的には持病の悪化により急死した事になっている。死の直前に握りしめていた紙には、震えたひらがなで、双亡亭から石神井川まで水路を引けという指示が記されていた。

矢内 (やない)

東京憲兵隊、残花班の男性隊員。階級は兵長。異星の生命体、黒い海に支配されてからは井郷照清に従い、双亡亭の警護に就いている。剣の腕に自信があり、以前から黄ノ下残花との真剣勝負を熱望していた。双亡亭で残花と戦う機会を得た際には顔を隠したまま戦うのは失礼であると発言し、ガスマスクを外したうえで挑戦している。矢内の心身の強さを高く評価していた残花は、正々堂々と戦いに応じているが、戦いの最中に豹変した矢内の発言が残花の怒りに触れてしまい、弱点である窒素の含まれる屋外へと叩き出されてしまう。その後、肉体が溶ける前に残花班のメンバーに回収されている。

ちとせ

鬼離田の三姉妹の母親。19歳の頃に沼半井町で神隠しに遭い、10日後にバケモノの住処と噂になっていた双亡亭の玄関先で発見された。この時に身籠ったのが鬼離田の三姉妹と考えられているが、詳細は不明。ちとせ自身は出産から間もなく死亡している。

白い海 (しろいうみ)

異星の生命体。白色の液体で、1滴1滴に共通の意識が宿る。星の地表を満たすほどの規模から白い海と表現された。20億年の歴史と高い知性を持つが、感情は遥か昔に失われてしまった。形質を変化させる事が可能で、人間の記憶から生物や物体を再現できる。また、テレパシーや霊的存在との交流も可能で、人間と同化して自身の能力を付与する事もできる。近隣の星に棲む生命体、黒い海に養分として汲み取られ続け、その容積は100分の1程度まで減少していたが、45年前に保護した旅客機、RHA航空北海道行き707便に乗っていた人間から感情を教わると、人間と同化して攻撃器官、怒りのカタチを形成し、黒い海への反撃を開始する。戦いが佳境に至ると、黒い海の逃亡先である双亡亭の破壊を成し遂げるべく、凧葉青一と凧葉まことを地球へと帰還させた。なお、人間と交流する際には相手が親しみを感じるであろう者の姿を模して現れ、青一やその家族と対面する際には煙草を咥えた禿頭の老人(青一の祖父)の姿を模した事から「おじいちゃん」と呼ばれていた。また、「あの人」とも表現されている。青一に宿る白い海を浴びた立木緑朗は、わずかにハッカの香りを感じている。

黒い海 (くろいうみ)

異星の生命体。黒色の液体で、1滴1滴に共通の意識が宿る。星の地表を満たすほどの規模から黒い海と表現された。20億年の歴史と高い知性を持つが、感情は存在しない。形質を変化させる事が可能で、平面に広がると「通路」となり、時空を隔てた場所まで同胞を導ける。他生物の意識を支配する事も可能だが、高濃度の窒素に晒されると一瞬で死滅してしまう。また、触れた者の意を汲んで変色する性質を持つ。遥か昔、星の寿命を悟った段階で身体の断片を宇宙に飛散させており、その一部が平安時代の日本に漂着。およそ700年後に双亡亭に湧き出し、坂巻泥努に絵の具として活用され、不完全ながらも異星と地球をつなぐ「通路」が形成された。その後、地球を狙う「侵略者」として動き始めると、窒素から身を守るべく双亡亭を改造し、人間を手足として利用するようになった。泥努とは協力関係にあるが、精神的に屈服しており、逆らう事ができない。また、泥努と交流する際には坂巻しのぶを模した姿となる事から「しの」と呼ばれている。異星に残った身体は類似の生命体、白い海を養分として生き残っていたが、思わぬ反撃を受けて存亡の危機に陥り、地球への移住を熱望している。

黄ノ下 残花 (きのした ざんか)

東京憲兵隊、残花班の隊長を務める男性。階級は少尉。軍人気質で堂々としているが、融通が利かず、バカまじめとも揶揄される。昭和7年、双亡亭で幼なじみの坂巻泥努と再会するが、絵の中に放り込まれ、心身の支配を狙う異星の生命体・黒い海から精神攻撃を受ける。その内容は少年時代に目撃した「泥努が坂巻しのぶの首を絞める場面」を再現するというものだったが、黄ノ下残花は泥努への怒りで我を取り戻し、支配を免れる。しかし、代償として右目と全身の皮膚を損傷し、這う這うの体で屋敷から脱出。応急処置を受けるが、精悍な青年将校の姿は失われ、包帯ずくめの身体に軍装を着込んだ怪人へと変貌してしまった。その後、白水白城教の霊水で戦えるまでに回復した残花は帰黒を伴って双亡亭へ再突入。凧葉青一と出会い、行動を共にするようになった。軍刀の扱いに長け、銃で武装した複数の敵を瞬時に斬り捨てるなど、対人戦では無類の強さを誇るが、人外に有効な異能は持っていない。また、皮膚を失った身体を霊水で維持している事から、長時間の戦闘が苦手。なお、一人称は「己(オレ)」で、青一からは「ホータイサン」と呼ばれている。泥努、しのぶからは「ざんちゃん」と呼ばれていた。

帰黒 (かえりくろ)

新興宗教、白水白城教の巫女を務める少女。生き神として奉られていた。物腰丁寧で、やや古風な女性語を話す。昭和7年(1932)、18歳を迎えた夜に黄ノ下残花と出会い、双亡亭への同行を申し出る。その後、柘植紅と出会い、行動を共にするようになった。常人離れした白い肌、白い長髪を育ての親である白城瑞祥から「屍蠟のよう」「吐き気を催すほど醜悪」などと刷り込まれたため、教団を去ってからは黒衣のような格好をして、覆い隠している。しかし、素顔を見た紅に言わせれば「綺麗な女(ひと)」。また、ボディラインは美しく豊満で、ルノワールが描いたような女性をモデルにしたいという凧葉務の発言を受けた坂巻泥努は、帰黒をモデル候補に挙げている。さまざまな異能を持っており、有事には硬軟自在の髪を巧みに操って応戦する。その硬度は大規模な窒素爆発を耐え凌ぎ、軍刀を容易に弾き返すほど。また、傷の治りが早く、霊水で仲間の傷を瞬時に癒す事もできる。周囲の空気を舐める事で、その味から事象を把握する「味智覚(みちかく)」も備えている。なお、幼少期の記憶は失われており、瑞祥に拾われた時に握っていた何かの部品のような物体だけが手がかりとなっている。

カーク

アメリカ超自然現象研究協会のメンバーの男性。双亡亭破壊プロジェクトに名乗りを挙げた民間の協力者。眼鏡をかけた長身面長で、アマチュアボクシングの経験があり、グラハムから頼りにされているが、日常的に母親を殴っていた危険人物でもある。双亡亭において異星の生命体、黒い海に支配され、正気を保っているフリをして不意を突き、グラハムを絵の中に叩き込んだ。その後、同じく黒い海に支配されてしまったマックスと協力してトラヴィス・アウグストに襲い掛かるが、救援に駆けつけた凧葉務達との連携によって敗れている。

マックス

アメリカ超自然現象研究協会のメンバーの熟年男性。双亡亭破壊プロジェクトに名乗りを挙げた民間の協力者。孫ができたばかりで、トラヴィス・アウグストに従うスタッフの中では最年長となる。双亡亭において異星の生命体、黒い海に支配され、同じく黒い海に支配されてしまったカークと共にアウグストを襲撃。拮抗していたが、最終的に凧葉務達との連携によって撃破されている。

鬼離田 菊代 (きりた きくよ)

占い師の鬼離田の三姉妹の長女。双亡亭破壊プロジェクトに名乗りを挙げた民間の協力者。膝下ほどの長さのロングヘアで、蝶の蛹(さなぎ)がデザインされた着物を着用し、ラウンド型のサングラスをかけている。頭には布を巻きつけ、後頭部に結び目がある。平時から心眼によりさまざまな事象を見通す事が可能だが、次女の鬼離田雪代、三女の鬼離田琴代から「まなこ」を借りる事で能力を強化する事もできる。なお、借りている最中は自前のものも含めて、左右の眼球に3つずつ、計6つの「まなこ」が存在する事になる。双亡亭にて姉妹から「まなこ」を借り受けた状態で異星の生命体、黒い海に支配されてしまい、皮肉にも姉妹を自らの手で絵の中に叩き込む事になった。その後も霊視によって黒い海が渇望していた暗渠を発見するなど、黒い海の企みに大きく貢献している。

鬼離田 雪代 (きりた よきよ)

占い師の鬼離田の三姉妹の次女。双亡亭破壊プロジェクトに名乗りを挙げた民間の協力者。膝下ほどの長さのロングヘアで、蝶の幼虫がデザインされた着物を着用し、ウェリントン型のサングラスをかけている。頭には布を巻きつけ、右側頭部に結び目がある。双亡亭では三女の鬼離田琴代と同じく、眼球から「まなこ」を長女の鬼離田菊代に貸し与えた事で視力を失うが、心眼で周囲の状況を察知し、問題なく行動していた。菊代が異星の生命体、黒い海に支配された際には琴代と共に立ち向かうが、敢えなく返り討ちとなり、絵の中に取り込まれている。この時、鬼離田雪代の心身を乗っ取ろうとする黒い海に、姉妹の出生に起因する心の傷を抉(えぐ)るような精神攻撃を受けるが、凧葉務と、先んじて救出されていた琴代によって救い出されている。その後、務達と連携して作戦を継続するが、窒素爆発に巻き込まれて戦線離脱。自分と琴代以外の生還者は黒い海に支配された状態にあると報告し、生還者達の軟禁を招いている。

鬼離田 琴代 (きりた ことよ)

占い師の鬼離田の三姉妹の三女。双亡亭破壊プロジェクトに名乗りを挙げた民間の協力者。膝下ほどの長さのロングヘアで、蝶の成虫がデザインされた着物を身につけ、ウェリントン型のサングラスをかけている。頭には布を巻きつけ、額に結び目がある。双亡亭では次女の鬼離田雪代と同様に眼球から「まなこ」を長女の鬼離田菊代に貸し与えて視力を失いながらも、持ち前の心眼で周辺の状況を把握し、足手まといになる事はなかった。菊代が異星の生命体、黒い海に支配された際には雪代と協力して事にあたるが、呆気なく敗北してしまい、絵の中に押し込まれている。この時、鬼離田琴代の支配を目論む黒い海に、姉妹の過去に関するトラウマを刺激されているが、駆けつけた凧葉務と柘植紅によって救助された。その後、雪代に従って作戦を継続するが、窒素爆発に巻き込まれて戦線離脱。ほかの生還者の身体は黒い海に支配されているという報告を雪代と共に行い、生還者達の行動を制限させた。

坂巻 しのぶ (さかまき しのぶ)

坂巻由太郎(のちの坂巻泥努)の姉。おさげ髪で、遠方から縁談が齎(もたら)されるほど器量がよかった。絵の才能にも恵まれ、高等小学校では何度も賞を獲得している。絵の勉強をするため、弟の反対を押し切って東京の美術学校に入学するが、帰郷して病床にある時、弟に何かを依頼し、直後に首を絞められて死亡している。周囲に対しては病死の扱いとなっているが、真相は10巻時点では明かされていない。なお、幼少期から甲斐甲斐しく弟の面倒を見ており、当時は禿(かむろ)のような髪型だった。坂巻しのぶの幼少期の外見は異星の生命体、黒い海が人を模した姿である「しの」のモデルとなっている。

務の父 (つとむのちち)

凧葉務の親父。務が小学生だった15年前、凧葉進学館という学習塾の塾長兼経営者を務め、問題に答えられなかった生徒の頭を竹刀で叩くという、スパルタ式の指導を行っていた。務に対しては特に厳しく、誤答をする度に頭を3回叩くルールだった。学習塾は生徒数の低減から衰退して破綻に至り、務が中学生の頃には務の父はアルコール中毒に陥っていた。その後、務は父親の世話とアルバイトに明け暮れる苦学生となるが、父親のその後については10巻までに語られていない。

白城 瑞祥 (しらぎ ずいしょう)

新興宗教、白水白城教の宗祖である庇髪の老婆。ある雪の日に亀和戸(かめわど)天満宮の境内で、真っ白な外見の女の子を拾い、帰黒と名付け、自らの娘として育てた。名前には「醜いまでの白さを我が法力で黒に戻す」という意味が込められている。当初は帰黒に身の回りの世話をさせていたが、彼女が16歳になると、教団の生き神、生き本尊として信者の前に立つように命じた。帰黒が自分の容姿に自信を失い、顔を隠して活動しているのは、白城瑞祥が帰黒に対して、「お前は醜い」という旨の言葉を刷り込んだ事に起因している。

凧葉 まこと (たこは まこと)

凧葉青一の年下の「キョウダイ」。短髪で柔和な顔立ちの子供だが、10巻までに性別は明かされていない。田舎の祖父に会うために家族と共に旅客機、RHA航空北海道行き707便に搭乗し、異星の生命体、白い海と黒い海の45年にも及ぶ異星間戦争を戦い抜く事となった。長いあいだ、白い海と同化していた事で、青一と同様に髪色が黒から薄青に、瞳は赤く変色し、テレパシーなどの特殊能力を使えるようになった。また、戦闘時には紐状の怒りのカタチを用いて、敵の拘束や攻撃を行っていた。のちに同化していた白い海の多くを返還し、707便に乗って青一と共に地球への帰還を試みるが、敵の攻撃を食い止めるために単身で機体を離れ、時空の捻れに飲み込まれてしまった。この時、青一と双亡亭で再会する事を誓っている。

樺島 (かばしま)

東京憲兵隊、残花班の男性隊員。階級は上等兵。異星の生命体、黒い海に支配されてからは井郷照清に従い、双亡亭の警護に就いている。肥後の出身で二刀の扱いに長けているが、腰が重いのが難点で、仲間に戦闘を任せて、自身は後ろに控えている事が多い。しかし、帰黒と交戦した際には終始攻勢に出て圧倒し、残花班の隊員を大いに鼓舞している。その後、仲間と共に黄ノ下残花に挑むが、実力が及ばずに敗走。後に坂巻泥努の用事を受けた凧葉務を刺していた事が問題視され、泥努の手で処刑された。泥努より肉体の修復が可能である旨が示唆されているが、修復を実行されているかどうかは10巻時点では不明である。

井郷 照清 (いごう てるきよ)

東京憲兵隊、残花班の男性隊員。階級は准尉。異星の生命体、黒い海に支配されてからは隊長不在の残花班をまとめ上げ、双亡亭の警護に就いている。元部下である事から黄ノ下残花の強さと生まじめな性格を熟知しており、戦闘においては弱点を突くような采配で残花に対抗している。

グラハム

アメリカ超自然現象研究協会のメンバーの男性。双亡亭破壊プロジェクトに名乗りを挙げた民間の協力者。爽やかな印象の好青年で、フロル・ホロパイネンと交際している。ハイスクール時代には飛び級するほど優秀な生徒だったが、トラヴィス・アウグストからは元天才という芳しくない評価を受けており、フロルとの交際も強く反対されている。双亡亭において頼りにしていたカークから不意打ちを受け、絵の中に引き込まれてしまった。

集団・組織

特殊災害対策室 (とくしゅさいがいたいさくしつ)

斑目が室長を務めている環境省の付属機関。通称は「特対」。作戦課、生活安全課など複数の部署に分かれており、宿木や森田も特対に籍を置いている。超自然現象や原因不明の事柄の調査や対応が主な活動内容だが、心霊や人面犬などの都市伝説めいた案件に駆り出される事が多く、一般人への認知度は低い。凧葉務も特対の存在を把握していなかった。現在は斯波敦の考案した双亡亭破壊プロジェクトを主導する立場にある。

アメリカ超自然現象研究協会 (あめりかちょうしぜんげんしょうけんきゅうきょうかい)

心霊をはじめとした超自然現象を科学的に解明しようとする組織。トラヴィス・アウグストを筆頭にナンシー、フロル・ホロパイネン、カーク、マックス、グラハムが来日し、双亡亭破壊プロジェクトに参画している。過去にハーバード大学で行われた日米合同心霊実験にて柘植紅に協力を仰いだ事があり、紅はメンバーを優れた心霊研究者と評価している。なお、フロル以外のメンバーは白衣を着用。双亡亭への突入時、各種計測機器に加えて、転換器(リバーサー)で武装している。

残花班 (ざんかはん)

黄ノ下残花が隊長を務めていた帝国陸軍東京憲兵隊沼半井小隊第四分隊の通称。軍帽、軍服、外套に身を包み、軍刀と拳銃で武装している。昭和7年(1932)、残花班は残花の指示で五・一五事件の犯人を追いかけ、目下建設中の双亡亭に侵入し、隊員の悉くが異星の生命体、黒い海に支配されてしまう。その後、残花班は井郷照清に率いられ、双亡亭の警護を担当するようになり、屋敷に舞い戻った残花や、双亡亭の破壊を望む凧葉青一などと激闘を繰り広げている。なお、隊員は黒い海に支配されてからは当時の軍装に加えて、弱点である窒素への対策として、ガスマスクを常用するようになった。

白水白城教 (はくすいしらぎきょう、びゃくすいしらぎきょう)

白城瑞祥が興した新興宗教。昭和7年(1932)の時点では、亀和戸(かめわど)天満宮の裏に拠点を置き、加持祈禱や怪我を癒す霊水の配布などで信者からお布施を集めていた。霊水の源である帰黒を生き神、生き本尊として信仰の対象に仕立て上げていたが、霊水を求めて現れた黄ノ下残花に帰黒を連れ出されてしまう。なお、寺社仏門に明るい柘植紅は白水白城教の存在を把握しておらず、平成の時代に現存しているかどうかは不明である。作中のルビに揺れがあり、正式な読みは定かではない。

場所

双亡亭 (そうぼうてい)

1925年に起工し、10年後に竣工した木造邸宅。所在は東京都豊島区沼半井町2-5-29。敷地面積は2178坪で、深い傾斜を含む。アトリエ兼住居として坂巻泥努が建てたもので、複数の棟を連結した構造と無数のトマソンが相まって、迷路の様相を呈している。神隠しなどの怪奇現象が相次いだ事から地元では幽霊屋敷と噂され、神社仏門の間では不祓(はらえず)案件として有名だった。本来の双亡亭は敷地中央にある放射状の廊下を持つ母屋のみで、大半は異星の生命体、黒い海が自身を含ませた木材で建築したもの。屋敷内は彼らが生存できるよう窒素が薄められ、地球侵略の前線基地として機能している。航空写真に写らない、ドローンの類が制御不能になる、衝撃を弾き返すなどの特性を備えており、空爆すら通用しない。また、囲いなどの破壊可能な部位は一定時間で再生する。内側からの攻撃であれば通用するため、その弱点を突くべく双亡亭破壊プロジェクトが立案された。例外として、異星の生命体、白い海の力を宿した凧葉青一であれば、家屋を外部から破壊できる。なお、屋敷内は時間が捻れており、異なる時代の人間と遭遇する事態も発生している。

溶ける絵の控室 (とけるえのひかえしつ)

国会議事堂の3階にある秘密の部屋。扉を塗り固める事で部屋の存在は秘匿されているが、古参の議員のあいだではいわくつきの部屋として噂になっている。もともとは議員控室として使用された豪奢な設(しつら)えの部屋だったが、現在は部屋中に茶色のシミが残り、暖炉の上に飾られていた真条寺禅一の肖像画は、雑に打ち付けた板切れによって封印されている。部屋の様相を知るのは歴代の内閣総理大臣経験者のみで、室内に設置された巨大金庫には首相が代替わりする度に双亡亭から送られて来る首相の肖像画が収められており、「恐怖の捨て場」と呼ばれている。凧葉青一と立木緑朗はこの部屋で歴代の首相と対面し、双亡亭と絵に関する情報の交換を行った。

第2緋立保健病院 (だいにひりゅうほけんびょういん)

環境省が管轄する巨大病院。地下には広大な研究施設に加えて、特殊災害対策室が確保した収容対象を隔離し、長期的に軟禁しておくための設備などが用意されている。斑目の指示により、異星の生命体、黒い海に支配された疑いのある宿木、トラヴィス・アウグスト、フロル・ホロパイネン、ジョセフィーン・マーグ、バレット・マーグの五人が緊急収容され、24時間体制の監視が行われる事になった。緊急収容にあたって、黒い海の弱点である窒素を充満させる装置などが急造されているが、出入り口のセキュリティーが旧式のIDカードで管理されている点、ストレス緩和のための運動ルームに収容対象が集合できる点など、杜撰な部分も存在し、増援スタッフからはお役所仕事とも揶揄されている。なお、立木緑朗が入院する事になった無印の緋立保健病院にも研究区画が存在し、特例収容対象である凧葉青一の管理を行っていた。

沼半井町 (ぬまなからいちょう)

東京都豊島区の地名。平安時代の後期まで沼地だった事から「沼」の字が含まれている。江戸時代に大規模な埋め立て工事が行われて村が誕生したが、沼の直上の土地は人間を含むあらゆる生物が忌避し、寄りつかない場所となっていた。帰黒曰く、呪われた土地だが、大正14年(1925)に坂巻泥努が沼の直上の土地を購入し、双亡亭を建設している。藤原貞宗の書いた「星月記」には「寿永元年の春、東の空が赤く燃えて星が落下した」「沼の水が沸き返った」という旨の記述が残っており、異星の生命体、黒い海の地球漂着エピソードと内容が符合している。

その他キーワード

パイロメアリー

ジョセフィーン・マーグが肌身離さず抱えている球体関節人形。頭部を中心に焼け焦げており、髪の毛は疎(まばら)になっている。ジョセフィーンの発火能力(パイロキネシス)の媒介でもあり、開閉式の口部から強力な火球を吐き出す。双亡亭に入ってから火力が増しており、これは屋敷内の酸素濃度が異様に高い事に起因している。トラヴィス・アウグストはこれをヒントに屋敷から窒素が排斥されている事に気づき、敵の弱点が窒素である事実に迫っている。なお、フロル・ホロパイネンがテレパシーを使ってジョセフィーンとの交流を試みた際に、パイロメアリーは6歳という情報を聞き出している。

霊刀・吐月 (れいとう とげつ)

柘植紅が愛用する武器。験力刀匠、転害正行(てがいまさゆき)の打った一対の業物。外見は簡素な白鞘の短刀で、刃渡りは場面により異なるが、概ね紅の握り拳3個~5個程度の長さで描かれている。知識のない凧葉務は霊刀、吐月を「ドス」と呼んでしまい、紅の怒りを買っている。

転換器 (りばーさー)

携帯式電磁エネルギー放射システム。トラヴィス・アウグスト、ナンシー、カーク、マックス、グラハムが使用する。両椀に装着するグローブ型の装置で、バッテリーを消費して任意の位置に放電を行う事ができる。本来は霊体に対抗するための装置だが、生物を容易に黒焦げにするほどの威力がある。なお、転換器の放電は転換器の放電で相殺する事が可能。また、絶縁システムが搭載されているが、連続して放電を続けると、キャパシティーを上回って使用者が感電してしまう恐れがある。

霊水 (れいすい)

帰黒の髪の毛から滴る、治癒能力を秘めた液体。傷口に浴びせれば瞬時に傷が塞がり、体内に浸透させる事で深い刺し傷なども治療できる。白水白城教ではお布施を出した信者に対して、真水で10倍に希釈した霊水が配布されていた。双亡亭で重傷を負った黄ノ下残花は「信者10日分」もの霊水を浴びる事で、軍刀を振るえるほどに回復しているが、失われた右目が再生する事はなかった。現代においても、手を負傷した柘植紅の治療、腹部を負傷した凧葉務の治療など、さまざまな場面で重宝されている。

首相の肖像画 (しゅしょうのしょうぞうが)

内閣総理大臣が代替わりする度に双亡亭から送られて来る肖像画。第34代の真条寺禅一を皮切りに、現職の斯波敦に至るまで継続している。肖像画を飾ってしまった首相は悉くが爆散や溶解などの不可解な死を遂げており、これを恐れた首相は溶ける絵の控室に設置した金庫に肖像画を封印するようになった。なお、肖像画は不思議な力に守られており、通常の手段による破壊や焼却は不可能である。のちに異星の生命体、黒い海を絵の具として描かれた作品である事が判明する。

加幻満流鬼神招請

鬼離田の三姉妹が扱う異能。人そのものを依童(よりわら)にして荒鬼神を呼ぶ「護法地天秘法(ごほうちてんひほう)」、人の思いが宿る物質を依代(よりしろ)にして荒鬼神を呼ぶ「護法現人秘法(ごほうあらひとひほう)」などが存在し、多くの荒鬼神は人型の異形で、能面のような顔つきをしている。通常は行者が依童となるが、「加幻満流呪禁之荒邪行(じゅごんのあらじゃぎょう)・すだま」を用いれば、修行を積んでいない者を依童にできる。鬼離田菊代は妹達を依童に半身ずつの荒鬼神、お糸童子を招請し、針と糸の能力で異星の生命体、黒い海に支配された者達に対抗した。菊代が黒い海に支配された際には、双亡亭で行方不明となっていた行者二人を依童に、お鋏童子と玄翁童子を招請し、妹達が呼んだ半身だけのお糸童子を圧倒するほどの実力を見せている。また、鬼離田琴代が「すだま」で柘植紅を依童とした際には小刀童子が、凧葉務の絵を依代とした際には務の絵と同じ外見のタコハ童子が、呼び出されている。なお、人間が依童の場合は生命力が荒鬼神の力の源となり、荒鬼神が倒されると依童が負傷する。物質が依代の場合は、その物質が作られた際に込められた念が荒鬼神の力の源となる。

刀巫覡 (かたなふげき)

室町期の葦田神道の流れを汲む巫(めかんなぎ)。一対の短刀に鬼神を降ろし、悪霊や厭魅(のろい)の蠱物(まじもの)を断ち切る者と説明されている。巫女の中でも特別な存在として知られ、特例神道従事法15項により市中での帯刀すら許可されている。柘植紅は刀巫顕としての卓越した能力に加えて、二雷流短刀術と呼ばれる戦闘技術を習得しているが、二雷流の習得が刀巫顕としての修行に付随するものであるかは不明である。なお、作中にて「鬼神を降ろす」という表現で解説されているが、鬼離田の三姉妹の扱う加幻満流鬼神招請のように鬼神が視覚的に確認できる状態で現れる類の能力ではない。

双亡亭破壊プロジェクト (そうぼうていはかいぷろじぇくと)

歴代の内閣総理大臣が成す術なく申し送り事案としていた双亡亭の問題を解決するべく、斯波敦が発案した計画。自衛隊による空爆に晒されて無傷だった双亡亭を確実に破壊するため、特殊工作班を送り込み、内側から爆破解体するプランが採用されている。説明会の段階では248億円という高額の報奨金に釣られて、解体や斫(へず)りの職人も集まっていたが、双亡亭の陰惨極まる資料映像を目の当たりにしてなお、参加を表明した民間人は超常現象の専門家ばかりだった。双亡亭に関する情報を持っていた事から、凧葉務も協力者として名を連ねている。先陣は超常現象の専門家と、銃器で武装した志願隊員によって構成され、前面部突入部隊の指揮は宿木が担当した。家屋の破壊に関しては後続の爆破部隊(デモリションユニット)に託されていたが、先陣が予想外のアクシデントに見舞われ、実行される事はなかった。

RHA航空北海道行き707便

1972年、飛行中に失踪した旅客機。少なくとも、乗員乗客を合わせて140人が乗り合わせていた。異星の生命体、黒い海によって彼らの棲む星へと引き寄せられるが、人間に興味を持った異星の生命体、白い海に助け出され、白い海の棲む星に不時着する事となった。機体は海中に沈んでしまったが、のちに白い海によって引き上げられ、凧葉青一と凧葉まことが時空の捻れを通って地球へ帰還するための乗り物として使用されている。なお、帰還を果たしたのは失踪から45年後。双亡亭に空爆が行われた直後であった。

黒い腕 (くろいうで)

双亡亭に踏み込んだ凧葉務が、肖像画の中の男から借り受けた特殊能力。何処からともなく伸びてくる無数の腕が務を摑み、望む場所まで一瞬で連れて行ってくれる。そのビジュアルから黒い腕、あるいは黒い手と呼称されているが、正確な名称は定かではない。移動先が絵の中であろうと瞬時に移動できるなど、双亡亭の攻略においては非常に有用で、務は黒い腕を利用して窮地に陥った仲間を何度も救っている。しかし、能力を借り受けた際に肖像画の中の男と「絵の話をする」という約束を交わしているため、務が双亡亭から外に出ようとすると、自動的に発動した黒い腕によって内部へと引き戻されてしまう。

支配 (しはい)

異星の生命体、黒い海の使用する能力。「サカナ」と呼ばれるヒル型の器官を人体に送り込む事で成立し、標的となった人間の心身を乗っ取る事ができる。目や口から強引に「サカナ」を送り込む事も不可能ではないが、対象の精神を弱らせてから実行すればスムーズな支配が可能。対象の人生における最悪の体験を見せつける事で心の傷を開き、その傷から「サカナ」を送り込むのが常套手段となっている。また、弱点である窒素を避けるため、多くの場合は黒い海の住処とつながる絵の中に対象を引き込んで実行される。人間の記憶を維持した状態で心身の自由を奪えるため、周囲を欺くような振る舞いも可能。身体の伸縮など通常の人体ではあり得ない駆動も実現するが、弱点が維持されるため、双亡亭の外に出ると短時間で死滅する。手助けなしで支配に抗う事は困難だが、凧葉務と坂巻泥努は精神力によって「サカナ」の侵入を阻んでいる。黄ノ下残花も「サカナ」を物理的に引き抜くという荒技で支配を免れた。なお、支配されかけた人間は暗闇を明るい場所と同様に見通す能力、体内の黒い海を視認する能力が発現する場合がある。

同化 (どうか)

異星の生命体、白い海の使用する能力。身体を人体に潜行させる事で成立し、宿主となった人間は意識を残したまま、多様な異能を扱えるようになる。異星の生命体、黒い海の侵略に抗う意思を見せた人間に対して行われ、飛行やテレパシー、攻撃器官である怒りのカタチの形成など、さまざまな異能が披露された。一般人を強力な戦士に仕立て上げる事が可能だが、長期的に同化していると宿主の肉体が変質し、最終的には液状化して白い海と完全に一体化してしまう。ただし、大人と子供で進行速度が異なり、大人の方が顕著に現れる。子供は45年間の同化を経ても溶けている描写はなく、髪が薄青色に、瞳が赤色に変色するという軽微な変質に留まっていた。ただし、成長の停止やテレパシーの多用による言語能力の退化など、さまざまな弊害が発生しているため、完全に無害とは言い難い。なお、白い海の含有量に応じて発現できる能力に差異がある。例えば、凧葉青一は白い海の一部返却と共に飛行能力を失っている。

怒りのカタチ (いかりのかたち)

異星の生命体、白い海が、同化した人間の怒りのイメージを読み取って形成する攻撃器官。異星の生命体、黒い海に対抗するために生み出されたもので、凧葉青一はドリル型、凧葉まことは紐型の怒りのカタチを現出した。ほかにも刃物型、錐型、ハンマー型、ジェット機型など、さまざまな怒りのカタチが登場し、黒い海との戦いに利用されている。

二雷流短刀術 (にらいりゅうたんとうじゅつ)

柘植紅が使用する一対の短刀を用いた戦闘技術。逆手持ちを基本としており、相手の足を一刀で地面に釘付けにした状態で、脛を切り裂く奥伝二本目(おくゆるしにほんめ)「十文字(じゅうもじ)」、鷹羽の構え(順手)に持ち替えて地面を転がりながら複数人の足を柄で打ち砕く多勢戦(おおぜいのいくさ)の秘伝「地躺(ちしょう)」などの技が存在する。二雷流に裏打ちされた紅の短刀捌きは正確無比で、剣の達人である黄ノ下残花からも高く評価されている。

書誌情報

双亡亭壊すべし 24巻 小学館〈少年サンデーコミックス〉

第1巻

(2016-07-12発行、 978-4091271792)

第2巻

(2016-10-18発行、 978-4091274045)

第3巻

(2017-01-18発行、 978-4091274854)

第4巻

(2017-04-18発行、 978-4091275585)

第5巻

(2017-07-18発行、 978-4091276674)

第6巻

(2017-10-18発行、 978-4091278586)

第7巻

(2018-01-18発行、 978-4091280770)

第8巻

(2018-04-18発行、 978-4091282309)

第9巻

(2018-07-18発行、 978-4091283344)

第10巻

(2018-09-18発行、 978-4091284938)

第11巻

(2018-12-18発行、 978-4091285959)

第12巻

(2019-03-18発行、 978-4091288073)

第13巻

(2019-06-18発行、 978-4091291691)

第14巻

(2019-09-18発行、 978-4091293367)

第15巻

(2019-12-18発行、 978-4091294548)

第16巻

(2020-03-18発行、 978-4091295675)

第17巻

(2020-05-18発行、 978-4098500734)

第18巻

(2020-07-17発行、 978-4098501670)

第19巻

(2020-10-16発行、 978-4098502738)

第20巻

(2021-01-18発行、 978-4098502769)

第21巻

(2021-02-18発行、 978-4098503940)

第22巻

(2021-03-17発行、 978-4098504008)

第23巻

(2021-04-16発行、 978-4098505210)

第24巻

(2021-06-17発行、 978-4098505623)

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