人間失格

人間失格

太宰治の同名小説を題材に、主人公の「大庭葉蔵」を現代の人物として蘇らせた作品。金、世間、他人という掴みどころのない存在に翻弄され、女と酒に溺れながら堕ちていく青年を描く。「週刊コミックバンチ」2009年2月20日号から2010年7月9日号まで不定期に連載された後、同誌の休刊に伴って掲載誌を移し、「月刊コミック@バンチ」2011年3月号から2011年6月号にかけて連載された。

正式名称
人間失格
ふりがな
にんげんしっかく
作者
ジャンル
ヒューマンドラマ
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概要・あらすじ

裕福な家庭で万人に好かれる美少年として育った大庭葉蔵は、本当は人に怯えながら無気力に生きる道化、虚無の人間だった。高校3年生の春、素行不良により父親からの援助を打ち切られた葉蔵は、行きずりの女性に寄生しながら飢えを凌ぐことを覚える。他者を理解することも愛することもできず、流されるままに重ねた行為の数々が葉蔵の人生に影を落とし、彼は徐々に破滅へと向かっていく。

登場人物・キャラクター

大庭 葉蔵 (おおば ようぞう)

成績優秀、眉目秀麗で何事も器用にこなす青年。実際には他者を恐れ、自己を偽りながら生きてきた。父親から多額の援助を受け、高校生ながら六本木のマンションに1人で暮らすなど、悠々自適の生活を送っていた。その援助が打ち切られたため、堕落した生活に身を投じる。天性の女たらしで、数々の窮地を岬やアゲハ、田中静子といった女性に寄生してやり過ごしていく。 他人に迷惑ばかりかけて生きてきた代償が、いつか自分に降りかかるだろう、と恐れながら暮らすなかで、朝井佳乃と出会う。

堀木 正雄 (ほりき まさお)

垂れ目がちな目元と下まつげ、大きな口が特徴の青年。大庭葉蔵の友人。美術予備校で葉蔵と知り合って以来、数々の夜遊びをともにした。葉蔵が父親からの援助を打ち切られて退学した後も、度々気にかけて様子を見に来る。予備校卒業後はイラストレーターとして働いており、葉蔵と田中静子が出会うきっかけを作った。大した努力もせず、見た目の良さだけで世間を渡っていこうとする葉蔵を、尊敬するとともに軽蔑もしており、その経歴を「罪人」と表現した。 一方の葉蔵は、堀木正雄のことを「裏表がない正真正銘の道化」と評している。

佐々木 (ささき)

睨みつけるような目と、しゃくれた顎が特徴の男性。政治組織「大日本労働者維新連合会」の代表。東京大学の博士号を持っているが、就職先に恵まれず、現在はニートである。日本の現状を憂い、志を同じくする者を募っていたところ、たまたま訪れた大庭葉蔵と出会う。熱心に集会に参加するようになった葉蔵を信頼し、組織の最終的な計画を明かすとともに、実行隊長に任命した。 岬と付き合っている。

(みさき)

小さな目と豊かな胸が特徴の女性。政治組織「大日本労働者維新連合会」のメンバー。組織ではマドンナ的存在として慕われており、よく手料理を振舞っている。父親からの援助を打ち切られた大庭葉蔵が、最初に頼った女性。お小遣いと称して金銭や食事、ノートパソコンを与えた。酒の勢いで葉蔵と身体を重ねた直後、佐々木の彼女だったことが判明。 その関係を佐々木に見咎められた葉蔵が、組織から逃げ出す原因となった。

アゲハ

キャバクラ勤務の女性。明るい茶髪に右目のほくろ、右手の甲に彫られたアゲハ蝶の刺青が特徴。実際は30歳だが、店では24歳と偽っている。既婚者で、夫は服役中である。政治組織「大日本労働者維新連合会」から逃げて来た大庭葉蔵を匿い、身体を重ねたことで好意を抱くようになった。葉蔵と侘しさを共有し、お互いを慰め合うように訪れた鎌倉で、心中を決意して海に入る。 葉蔵が初めて心を許した女性。

渋田 平蔵 (しぶた へいぞう)

骨董商を営む中年男性。平たい顔に離れた目、大きな鼻が特徴で、「ヒラメ」の異名を持つ。仕事柄、世話になっていた大庭葉蔵の父親に頼まれ、葉蔵を居候させる。その代わりに、毎月25万円の収入を得る契約をした。葉蔵が幼い頃は、よく遊び相手になっていたが、今では容赦なく「クズ」呼ばわりするほどに、接する態度を変えている。自暴自棄になった葉蔵が自殺を図らないよう、2階の和室に閉じ込める。 しかし、更生を誓った葉蔵に騙され、脱走されてしまう。

魔娑斗 (まさと)

坊主頭の痩せぎすな少年。渋田平蔵の息子。平蔵の不在時、大庭葉蔵の見張りを命じられている。外出時でもこっそりと尾行し、不審な行動をしないか報告する役を担っていた。しかし、葉蔵に力づくで振り切られ、脱走を許してしまう。父親の口調に感化されてか、同居することになった葉蔵を「クズ」と呼ぶことがある。

田中 静子 (たなか しずこ)

丸顔に眼鏡、丁寧な物腰が特徴の女性。出版社「大衆文藝舎」に勤める編集者。田中栞の母親で、母子家庭。堀木正雄に依頼していたイラストを受け取りに堀木家を訪れた際、渋田平蔵の家から逃げ出していた大庭葉蔵と知り合う。葉蔵の境遇に同情した結果、身体を重ね、同居することになった。葉蔵が漫画の仕事をしたいと打ち明けると、「大衆文藝舎」の幼年誌を紹介し、「セッカチピンチャン」が連載されるきっかけを与えた。

田中 栞 (たなか しおり)

髪を二つ結びにした女子小学生。田中静子の娘。急に同居することになった大庭葉蔵にすぐに懐き、一緒に遊ぶようになった。葉蔵の絵が上手いことを知ると、イラストや漫画をねだり、その様子を見ていた静子が、葉蔵の実力に気づくことになった。葉蔵が田中家を離れたあとも、変わらず「セッカチピンチャン」の愛読者で、単行本を繰り返し読んでは、葉蔵に会いたいと静子に話していた。

立柿 (たちがき)

短くちぢれた頭髪と無精ひげが特徴の中年男性。出版社「大衆文藝舎」が刊行している幼年誌「月刊コロボン」の編集長。田中静子に紹介された大庭葉蔵の「セッカチピンチャン」を読んでその才能を見抜き、掲載を決定。と同時に、アンケートで上位に入れば連載も確約する、という破格の待遇で葉蔵を受け入れた。連載決定後は部下の布川を、葉蔵の担当に任命した。

布川 (ふかわ)

坊主頭に大きな鼻、小太りな体型が特徴の男性。出版社「大衆文藝舎」で編集者として働く派遣社員。立柿の部下で、年齢は34歳。仕事一筋で、今まで女性と付き合った経験がない。幼年誌「月刊コロボン」の創刊から参加しており、大ヒット作を手掛けたこともあるなど、その腕には確かなものがある。大庭葉蔵が連載するようになった「セッカチピンチャン」の担当となり、そのヒットに尽力する。

ママ

アップにした明るい茶髪と優しげな微笑みが特徴の熟女。バー「マノス」を経営している。立柿と布川に連れられて訪れた大庭葉蔵を、「愛すべき馬鹿な男」と慰め、暖かく迎え入れた。田中静子の家を飛び出した葉蔵を受け入れ、住み込みのバーテンダーとして、一時的に雇用する。葉蔵いわく、そのしなやかな侘しさにはアゲハの面影を感じさせる部分がある。

朝井 佳乃 (あさい よしの)

長い黒髪と大きな瞳、柔らかな物腰が特徴の女性。バー「マノス」の近くにあるタバコ屋の娘。大庭葉蔵に惚れられ、会話を重ねるうちに意識するようになり、ついにはそのプロポーズを受け入れた。「信頼の天才」と葉蔵が評するように、人を疑うことを知らず、どことなく浮世離れした雰囲気をまとっている。葉蔵からアゲハや田中静子との過去を打ち明けられても、動じずに葉蔵への愛を誓った。

古屋 兎丸 (ふるや うさまる)

ショートカットの黒髪、スクエア型の眼鏡が特徴の男性漫画家。アシスタントを帰らせた後の仕事場で、次の連載のネタ作りのため、たまたま閲覧したサイト「大庭葉蔵の日記」で大庭葉蔵に興味を持つ。後日、彼の消息を追って立柿やバー「マノス」のママのもとを訪れるが、手がかりを得ることはできなかった。

集団・組織

大日本労働者維新連合会 (だいにほんろうどうしゃいしんれんごうかい)

資本主義社会の打倒を画策する政治的集団。代表は佐々木。最終的には国会議事堂や大企業の爆破を計画している過激組織で、街外れにある倉庫で集会を繰り返している。実際に現地を訪れて、標的となる建物の情報を集めたり、時限式の爆弾を所持したりと、非合法な行為にも手を出している。大庭葉蔵は、もっぱら人間観察のために集会に参加していた。

場所

大衆文藝舎 (たいしゅうぶんげいしゃ)

東京都渋谷区にある出版社。田中静子や立柿、布川が勤務している会社。大庭葉蔵が「セッカチピンチャン」を連載するようになった「月刊コロボン」という幼年誌の編集部があり、そこでの利益が収入の要となっている。社の経営自体は芳しくないようで、派遣社員をリストラすることで立て直しを図ることがある。

マノス

ママが経営しているガード下のバー。外見は寂れており、電車の音もうるさいが、内装は整っている。大庭葉蔵に連れられて訪れた堀木正雄も気に入っていた。店の奥に4畳ほどの厨房があり、葉蔵はそこに寝泊まりしながら、約1年ほど住み込みで働いた。ママが醸し出す雰囲気も手伝って、葉蔵は自分の懺悔を聞いてくれる教会のような場所だと思っている。 近所には朝井佳乃が働いているタバコ屋がある。

その他キーワード

大庭葉蔵の日記 (おおばようぞうのにっき)

大庭葉蔵の半生をなぞる日記体の文章がまとめられたインターネットサイト。小説家になろうとして書いていたが、公開したのは葉蔵ではなく、堀木正雄である。トップページには「大庭葉蔵のアルバム」と題して3枚の写真が掲載されており、それぞれ葉蔵が6歳、17歳、25歳だった時の様子がうかがえる。古屋兎丸は、3枚の写真がそれぞれ持っている異様な雰囲気に魅せられ、葉蔵に興味を持った。

セッカチピンチャン

大庭葉蔵が「ヨータロー」というペンネームで執筆した漫画。「大衆文藝舎」が刊行する「月刊コロボン」という幼年誌で連載されている。編集担当は布川。擬人化されたカエルのピンチャンと、鼠のオタさんとの掛け合いを軸に話が展開。可愛いながらも毒のある内容が人気となり、第1巻は発売されて早々に重版が決定した。田中栞をはじめとして、小学生に人気がある。 ファンレターが届くこともあったが、葉蔵はそのことで自身の本性とのギャップに悩み、酒を飲みながら執筆をしていた。

クレジット

原案

太宰治

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