女帝の手記

女帝の手記

孝謙天皇、称徳天皇として知られる実在の人物である阿倍を主人公にした歴史ドラマ。当時権力を掌握していた藤原一族に生まれたがゆえに、女性でありながら皇太子となった阿倍は、宮廷での苛烈な権力闘争に巻き込まれていく。そんな彼女の、女性として満たされずに葛藤する姿と、仲麻呂や道鏡との恋を描く。

正式名称
女帝の手記
ふりがな
じょていのしゅき
作者
ジャンル
時代劇
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あらすじ

第1巻

太政大臣、藤原不比等の血を引く安宿の娘、阿倍は、生まれた時から藤原一族の広大な館で育ち、藤原一族の娘としてその正義を信じていた。しかし、同腹の弟で皇太子だった を呪い殺したとして左大臣の長屋王が逮捕され、自殺した際に長屋王の妻、長娥子が藤原一族を非難したのを聞き、一族に疑惑が芽生える。安宿はその後、子宝に恵まれなかった。首には県犬養広刀自が生んだ安積がいたが、男子である彼を差し置いて、阿倍が藤原一族の権力を守るために、女性として初めての皇太子となった。

第2巻

は何度も遷都を行い、国分寺創建、さらに大仏建立を画策しており、国庫を危機に陥らせている。首の前の天皇である氷高はその状況を憂いており、阿倍を天皇にするのに反対だった。そこで、首を退位させて自分が天皇に復帰し、安積を皇太子にしようと画策する。しかし、安積は若くして謎の死を遂げる。首と安宿に重用されていた仲麻呂によって殺されたと多くの者が疑っていたが追究できなかった。母の安宿と仲麻呂の親密な様子に嫉妬を感じていた阿倍だが、彼と一線を越え、恋人関係になる。その後、政治よりも仏教に没頭していた父の首に代わり、阿倍がついに天皇として即位した。

第3巻

仲麻呂は自分よりも地位が高く、邪魔な左大臣の橘諸兄を策略によって廃し、自分の息のかかった皇族、大炊王を皇太子にするなど、権力の掌握を進めている。遂に橘奈良麻呂の乱によって兄の藤原豊成まで廃し、独裁政治を行うようになる。天皇でいたら愛する仲麻呂と結婚できないと、阿倍は大炊王に天皇の地位を譲って退位したが、仲麻呂は一向に結婚しようとせず、阿倍は失意の中、重い病になってしまう。

第4巻

病を癒し、生きる気力を与えてくれた新しい恋人の道鏡を得て、自分の愛を利用していた仲麻呂から解放された阿倍は、出家して決意を新たにし、上皇として政治を自分で執り行う事を宣言する。仲麻呂との確執は決定的なものになったので、恵美押勝の乱に発展し、戦に敗れた仲麻呂は討ち死にする。さらに大炊王は天皇の地位をはく奪されて流罪となり、暗殺される事となった。一方、道鏡は天皇と同等である法王の地位を与えられた。阿倍が道鏡を重用したのは、彼への愛だけでなく、藤原一族の野望を断ち切りたいという願望によるものでもあった。阿倍は、藤原一族でない彼を天皇にしようと考えていたのである。

登場人物・キャラクター

阿倍 (あべ)

首と安宿の娘。女性として初めて立太子し、「孝謙天皇」「称徳天皇」として二度天皇として即位した。両親共に藤原一族の出身で、祖父である太政大臣、藤原不比等の広大な館で育つ。弟の基が早世したため、女性でありながら天皇になり、結果、女性天皇は結婚できないため、一生独身を通す事になる。恋人の仲麻呂を巡って自分を天皇にした母の安宿には複雑な感情を抱くようになる。当初は安宿と仲麻呂のいいなりなっていたが、安宿の死をきっかけで心境に変化が起こった。自分との結婚を避け続ける仲麻呂に自分への愛はないと感じ、失意のあまり病気になってしまうが、素直で心優しい新たな恋人の道鏡に救われ、彼を重用するようになる。その事により、かつての恋人、仲麻呂と対立し、恵美押勝の乱が起こり、仲麻呂を討つ。藤原一族の野心に人生を振り回された事を恨んでおり、藤原一族の力をそぐため道鏡を天皇にしようと画策するが、それはかなわなかった。晩年に道鏡を政治の世界に引き込んだ事を悔い、権力の座から下り、道鏡と二人で生きていく事を望んだが、52歳で崩御した。実在の人物、孝謙天皇がモデル。 

安宿 (あすかべ)

阿倍の母親で、首の妻。太政大臣の藤原不比等と県犬養橘三千代の娘であり、藤原一族の人間としての自覚は夫以上で、一族の中で発言権も強い。本来皇族の女性しか資格のない皇后の地位に就き、「光明皇后」と呼ばれた。夫の首とのあいだに男子を望まれていたが、息子の基が早世したため、娘の阿倍を天皇にしようと試みた。美人で権力志向が強く、そのために阿倍を支配し続けため、阿倍にとって高く超えられない壁となっていた。仲麻呂と安宿が恋人同士であったかどうかは不明だが、阿倍にはそう思われており、女性としても嫉妬されていた。亡くなる時には、阿倍が男でなかった事に心の奥でこだわり続けていた事を明かしている。実在の人物、光明皇后がモデル。

(おびと)

阿倍の父親で、安宿の夫。「聖武天皇」であり、退位してからは「上皇」と呼ばれていた。太政大臣、藤原不比等の孫で、妻の安宿と娘の阿倍と同じく、不比等の館で育った。毅然とした性格の安宿とは違い、優しいが繊細で、国が疫病に見舞われる事も自分の責任ではないかと悩む。その精神的葛藤から何度も遷都を行い、信仰に助けを求めて奈良の大仏建立を行う。政治は実質的に安宿や仲麻呂に任せていた。阿倍に天皇の地位を譲ったあとで亡くなった。実在の人物、聖武天皇がモデル。

仲麻呂 (なかまろ)

太政大臣、藤原不比等の孫にあたる男性。藤原一族の中で最も頭がよく、勤勉で天才といわれていた。藤原一族が起こした乱である広嗣の乱の頃から頭角を現す。安宿に重用されるようになり、大仏建立に、民衆から人気のある行基の力を借りる事を提案し、玄昉に代わって、安宿の片腕となった。阿倍には安宿と男女の関係ではないかと疑われていたが、自分の意のままにあやつるため、阿倍を口説いて彼女の恋人になる。自ら皇帝となって、最高の権力に上りつめる野心を抱いており、阿倍を利用して、自分を父親と慕っている大炊王を天皇にした。しかし、道鏡に阿倍の寵愛が移った事で、阿倍と対立する事となった。恵美押勝の乱で敗れ、58歳で非業の死を遂げた。実在の人物、藤原仲麻呂がモデル。

県犬養橘三千代 (あがたのいぬかいたちばなのみちよ)

太政大臣の藤原不比等の妻で、安宿の母親。藤原一族の中で実権を握っており、娘の安宿を支えていた。孫である阿倍に藤原一族としての価値観を植え付ける。実在の人物、県犬養橘三千代がモデル。

長屋王 (ながやおう)

文武天皇時代の左大臣の男性。吉備内親王と長娥子を妻に持つ。「長屋王の変」を起こしたといわれる人物。「長屋王の変」とは、首の息子であった基を呪い殺したとされる事柄で、この件についての真偽は定かではないものの死罪となった。実在した人物、長屋王をモデルにしている。

氷高 (ひだか)

首の前の天皇である「元正天皇」。首の叔母にあたり、内親王である。藤原一族によって廃された長屋王の正妃、吉備内親王の姉であっため、長屋王を助けるように首に願い出た。女性である阿倍が藤原一族の権力保持のために、安積を差し置いて皇太子になった事に反感を持っていた。安積を皇太子にしようと画策したが、そのせいで安積は仲麻呂に殺される事となった。亡くなるまで、阿倍を皇太子として認める事はなかった。実在の人物、元正天皇がモデル。

安積 (あさか)

首と県犬養広刀自の息子。通称「安積親王」。基亡き後は唯一の首の親王だった。首の前の天皇だった氷高によって、阿倍に代わって彼を皇太子にする動きがあったが、仲麻呂に先手を打たれて殺害された。実在の人物、安積親王がモデル。

県犬養広刀自 (あがたのいぬかいひろとじ)

首の妻であり、安積の母。元々政治の中枢にいたが、一族の県犬養橘三千代、次期皇太子と目されていた安積が相次いで亡くなったため、急速に影響力を失い、表舞台から姿を消した。実在した人物、県犬養広刀自をモデルにしている。

長娥子 (ながこ)

太政大臣、藤原不比等の娘で、左大臣、長屋王の妻。夫である長屋王は、安宿が皇后になる事に反対したため、長屋王の変により自殺してしまった。藤原一族の娘であったため、長娥子は罪に問われずにすんだが、心正しかった夫を慕っており、一族を恨んでいた。実在の人物、藤原長娥子がモデル。

宮子 (みやこ)

太政大臣、藤原不比等の娘で、文武天皇の妻。首の母親だが、出産後、気を病んでしまい、息子である首にも会いたがらず、不比等の館の自室に閉じこもっていた。玄昉の治療により正気に戻った。実在の人物、藤原宮子がモデル。

下道 真備 (しもつみちの まきび)

元遣唐使で学識に定評のある人物。まじめな性格で穏やかな男性。皇太子であった阿倍の教育係も務めていて、彼女からの信頼は厚かった。仲麻呂によって一時期的に左遷されて都を追われ、再び遣唐使として派遣された。阿倍の寵愛が、仲麻呂から道鏡へと移ったあとに都に呼び戻される。最終的には右大臣になり、地方豪族出身としては異例の出世を果たした。高齢にもかかわらず、阿倍の死後も引きとめられて、しばらく政務を行っていた。実在の人物、下道真備がモデル。

玄昉 (げんぼう)

安宿と首が重用した僧侶。皇太子であった阿倍の教育係も務めていた。安宿と男女の仲であると噂されていた。出産以来気の病だった宮子を回復させる。国分寺政策、大仏建立にも尽力するが、最終的にはその立場を仲麻呂や行基に奪われた。筑紫の観世音寺に左遷された後、雷に打たれて不可解な死を遂げる。彼の解任を求めて乱を起こして処刑された藤原広嗣の祟りではないかと噂された。実在の人物、玄昉がモデル。

大炊王 (おおいおう)

舎人親王の息子。のちに天皇となり、作中でも「淳仁天皇」を名乗った。仲麻呂の息子の未亡人であった粟田諸姉と結婚し、妻と共に仲麻呂の館に住んでいる。入り婿のような形になっており、公式にも仲麻呂を父親と呼んでいた。仲麻呂に頼りきりで性格が卑しく、誇りがないために阿倍からは嫌われていた。仲麻呂の策略により皇太子になり、天皇になるが、仲麻呂の死によりその地位を追われて流罪になり、そこで殺害された。実在の人物、淳仁天皇がモデル。

道鏡 (どうきょう)

僧侶の男性。恋人であった仲麻呂との関係に傷つき、失意のために病の床に臥していた阿倍を暖かく励まし、回復させた。心優しく素直な性格の持ち主。阿倍と道鏡の恋はかつての恋人、仲麻呂との対決に発展し、恵美押勝の乱が起こる。阿倍により僧侶でありながら大臣の地位に就き、一族も取り立てられ、法王にまで上りつめる。阿倍は道鏡を天皇にしようと画策するが、それはかなわなかった。阿倍の死後に下野国の薬師寺へ流され、2年ほどで亡くなった。実在の人物、道鏡がモデル。

橘 諸兄 (たちばなの もろえ)

県犬養橘三千代と、藤原不比等と結婚する前の夫だった美努王とのあいだの息子。安宿の兄である藤原四兄弟が疫病により亡くなったため、代わりに政治を権力を握る。阿倍の立太子と同時に左大臣になり、最高権力者になる。まじめな性格で人当たりがよく、首を敬う好人物。何度も遷都を行い、大仏建立の計画を進め、国庫を危機に陥らせる首の下で苦労を重ねていた。首が上皇となったあと、上皇を批判したという噂をたてられ自ら引退する。

(もとい)

阿倍の実弟。母親は安宿で、通称「基親王」。父親は首。男の子であるため、将来の天皇として期待され、生まれてすぐに皇太子として即位した。しかし、もともと身体が弱く、1歳にもならずに亡くなってしまう。基を失って父親の首が取り乱す姿を見て阿倍は大きなショックを受けた。実在の人物、基王がモデル。

清麻呂 (きよまろ)

阿倍に仕える広虫の弟。仲麻呂亡きあと、阿倍に重用された。しかし、道鏡を天皇にするための根拠となる信託を聞きにいく役目を言いつけられた際、逆に天皇は皇族のみしかなってはいけないという報告をしてしまう。阿倍の怒りを買い、姉・広虫と共に流罪。名前も「穢麻呂」と改めさせられ、貶められた。実在の人物、和気清麻呂がモデル。

井上 (いのうえ)

首と県犬養広刀自の娘で、通称「井上内親王」。幼少の頃より神に仕える斎王として伊勢神宮にいたため、長年異性と接する事はなかったが、穏やかな性格で静かな暮らしを気に入っていた。白壁王と遅い結婚をして、40歳を過ぎてから出産する。阿倍の異母姉であり、自分と同じように結婚ができない立場である井上に阿倍はシンパシーを抱いていたが、最後は女性の幸せをつかんだ井上への嫉妬に苦しんだ。実在の人物、井上内親王がモデル。

広虫 (ひろむし)

仲麻呂の部下である葛木戸主の妻で、阿倍に仕えていた女性。非常に信心深く、孤児の世話をしていた。阿倍が出家した際にいっしょに出家した。仲麻呂亡きあとも阿倍に仕え続け、弟・清麻呂と共に重用される。しかし、道鏡を天皇にする事を弟・清麻呂が阻んでしまったため流罪になり、名前も「狭虫」と改めさせられ、貶められた。実在の人物、和気広虫がモデル。

藤原 豊成 (ふじわらの とよなり)

太政大臣・藤原不比等の孫で、仲麻呂の兄。仲麻呂より先に出世し右大臣になったが、阿倍と安宿のお気に入りだった弟・仲麻呂の方が大きな権力を持っていた。長屋王と長娥子の息子・安宿王、黄文王らが仲麻呂の権力に反発して乱を企てた際に、その計画を知っていながら報告しなかったとして左遷される。しかし、弟・仲麻呂が恵美押勝の乱で敗れたあと、右大臣として復帰した。

場所

平城京 (ならのみやこ)

古くから奈良にある都。都としての機能は盤石であり、天皇がここで政治を行ってきた。首の遷都によって阿倍もしばらくは恭仁京で暮らしていたが、後に都を再び平城京へ戻した。

恭仁京 (くにのみやこ)

首が作った新しい都で、都としての機能はまったくない状況から急に遷都が行われたため、大急ぎで宮や各省庁の建物を作ることになった。のちに阿倍によって恭仁京から平城京へ遷都することになる。

その他キーワード

大仏 (だいぶつ)

首が熱心になって作らせたもの。大仏像は金銅製であり、銅を流し込み、その上から金でメッキをする。首は大仏建造を生きがいとし、国中のお金を集め、大仏を創らせることに晩年注力したが、大仏完成を見ることなく亡くなる。

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