天沼矛

天沼矛

桜にまつわる3つのエピソードからなる短編。第一話が日本神話、第二話と第三話は現代の日本を舞台にしている。「グレープフルーツ」1986年27号に掲載された作品で、文春文庫ビジュアル版の『月読 自選作品集』に収録されている。

正式名称
天沼矛
ふりがな
あめのぬぼこ
作者
ジャンル
ヒューマンドラマ
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

第一話 夜櫻

一人ぼっちでとても寂しい神さまがいた。神さまの御殿はいつも暗い夜で、神さま以外は誰一人おらず、ただ1つの篝火すらも音もなくきらめき燃えるのみ。神さまは寂しさのあまり涙を流し、その涙が小さな水沼となった。神さまが天沼矛(あめのぬぼこ)で水沼をかき回し、天沼矛をそっと引き抜くと、したたり落ちた1滴の雫から、美しい少女が生まれた。しかし、少女は蛇神である神さまの姿を見て、恐れおののき震えるばかり。己が姿を恥じた神さまは、花霞の帷の中へ身を隠してしまうのだった。

第二話 緋櫻

この秋に結婚を控えた佐江子は、郷里の実家の庭を新居の土地として提供してもらうことになり帰郷する。その庭には桜の木があるのだが、彼女が桜を見て思い出すのは、女性が桜の木に釘を打ち込む、丑の刻参りの悪夢だった。業者を呼んで桜の木を切ってもらうと、中から大量の五寸釘が見つかる。

第三話 薄櫻

検査で右肺に影が見つかった少年、は、東京の郊外にある療養所で療養生活を過ごしていた。ある日、同じ病室の子らが、人魂を見たという話で持ち切りになる。そして、その年のクリスマスの夜を同じ病室の荒雄と過ごしていた節は、窓の外を揺らめく人魂を目撃する。

登場人物・キャラクター

神さま (かみさま)

エピソード「第一話 夜櫻」に登場する。若い男性の神。切れ長の目と美しく長い黒髪、額と二の腕に飾りをつけ、首飾りもつけている。上半身は裸。蛇神で、下半身は山を十重、二十重にとりまくほど長い。

佐江子 (さえこ)

エピソード「第二話 緋櫻」に登場する。結婚を間近に控えた若い女性。郷里の実家の庭を新居の土地として提供してもらうことになり帰郷する。その庭には大きな桜の木があり、幼い頃は桜の木に女性が釘を打ち込む丑の刻参りの悪夢に悩まされた記憶がある。新居の建設で桜の木を切り倒す現場に立ち会う。

(たかし)

エピソード「第三話 薄櫻」に登場する。坊ちゃん刈りの少年。女の子のような可愛らしい顔立ちをしている。小6の夏に右肺に影があることがわかり、東京の郊外にある療養所に入っている。実家は老舗の割烹店で忙しいため、なかなか家族が見舞いに来ないことを寂しく思っている。病室から人魂を見たという噂を聞き、少し怖がる。

少女 (しょうじょ)

エピソード「第一話 夜櫻」に登場する。神さまが天沼矛(あめのぬぼこ)で水沼をかき回し、沼矛をそっと引き抜いたときに矛の先端からしたたり落ちた1滴の雫から生まれた美しい少女。神さまの蛇のような長い体を見て恐れおののく。

荒雄 (あらお)

エピソード「第三話 薄櫻」に登場する。節と同じ病室にいる少年。年は節よりも2つ上。頬のこけた目の鋭い顔立ちで、名前のとおり荒々しい性格のため、療養所の子供たちからは敬遠されている。見舞い客はなく、同じ境遇の節とクリスマスを祝うことになる。

SHARE
EC
Amazon
logo