どんぐりの家

どんぐりの家

重複障害を抱えた子どもたちの懸命に生きてゆく姿を、彼らの親たちやろう学校の教師など、子どもたちを取り巻く人々の試行錯誤を通して描いた、事実に基づくヒューマン・ドラマ。社会的に大きな反響を呼び、実際に障害を抱えた子どもを持つ人々に勇気を与えた。障害児の置かれた厳しい現実を世間に広く知らせる役割も果たした。綿密な取材と支援者の協力を得て描かれた、作者の代表作。第24回(1995年度)日本漫画家協会賞優秀賞受賞。

正式名称
どんぐりの家
ふりがな
どんぐりのいえ
作者
ジャンル
ヒューマンドラマ
関連商品
Amazon 楽天

概要・あらすじ

第一部は埼玉県大宮市に住む重複障害を抱えた女の子、田崎圭子が主人公。大平ろう学校幼稚部に入学した彼女が同級生や先生と関わりながら成長してゆく様を中心に、障害を持つ子どもの親たちが障害者の共同作業所「どんぐりの家」を設立するまでを描いている。第二部では境ろう学校の重複障害児宮井信夫阪本みどり山田翔らを中心に、日本における障害者教育や行政の問題点を問いかける。

彼らの親たちと教師たちが団結し、共同作業所「ふれあいの里・どんぐり」を設立するまでの道のりを描く。

登場人物・キャラクター

田崎 圭子 (たさき けいこ)

昭和42年生まれ。聴覚障害と知的障害を持つ重複障害児の女の子。幼少時は自傷行為などの問題行動が多かった。大平ろう学校に入学し、安田先生たちの粘り強い教育で、ゆっくりとだが成長してゆく。両親も、ひとり娘が障害児だったことで数多く苦労し、世間に対し負い目を感じ絶望に囚われた時期もあったが、少女から大人の女性へと成長してゆく圭子と共に暮らすうち、娘と自分たち家族を肯定できるようになった。

柏木 清 (かしわぎ きよし)

聴覚障害と知的障害を持つ重複障害児の男の子。自閉傾向が強く、自傷行為も多かった。石に執着し、集めたり並べたりを繰り返す。大平ろう学校の同級生、田崎圭子とは仲良し。パン屋を営む父、母、姉の家族は清の世話に疲弊していたが、彼が石を集める意味を知ってからは、彼を支えて生きてゆこうと決意した。 弟が障害児であることをからかわれた経験があり清をうとましく思っていた姉の光子も、彼の存在を隠すことなく学校の課題の作文で発表するなど、彼を受け入れるようになった。

芝山 努 (しばやま つとむ)

聴覚障害と知的障害を持つ重複障害児の男性。大平ろう学校で安田先生の教え子だった。高等部を卒業した後、地域の福祉作業所に通っていたが、耳が聴こえないことが原因で同僚にけがを負わせてしまい、そのショックから自分の殻に閉じこもり、徘徊などの問題行動を起こすようになる。その後自動車事故に遭い歩行困難となり、自宅へこもりっきりになってしまった。 彼の人生は、障害者が社会と共存して生きてゆくことの困難さと、日本の行政の問題点を浮き彫りにしている。その後、共同作業所「ふれあいの里・どんぐり」に通うようになり、少しずつ本来の姿を取り戻しつつある。

安田先生 (やすだせんせい)

大平ろう学校の教師。がっしりした体格でひげの濃い中年男性。数多くの障害児たちと長年接するが、卒業したはいいが、その後社会にうまくとけこめない障害者が多い現状を憂いている。生徒たちが卒業後も働き育っていけるような共同作業所が必要だと考え、生徒の親たちや境ろう学校の教師たちと協力して、どんぐりの家設立に向けて運動を始める。

宮井 信夫 (みやい のぶお)

境ろう学校ひまわり組の児童。聴覚障害と知的障害を持つ重複障害児の男の子。自閉傾向が強く、自傷行為を行なっていた。信夫の障害が原因で母親は離婚し、現在はひとりで信夫を育てている。一人でトイレに行くことができなかったが、三田先生や野中先生の熱心な指導により、行けるように成長した。

阪本 みどり (さかもと みどり)

境ろう学校ひまわり組の児童。聴覚障害と知的障害を持つ重複障害児の女の子。明るく表情が豊か。味覚が敏感なため、偏食が激しかった。父と母の間に産まれたひとり娘。すくすく育っていったが、失踪事件を起こしたこともあり、娘の将来を案じた母親は、早野先生たちの提案する共同作業所設立の運動に協力してゆく。

山田 翔 (やまだ しょう)

境ろう学校ひまわり組の児童。聴覚障害と知的障害を持つ重複障害児の男の子。パニックを起こすと走り回るなどの問題行動をとる。父と母の間に産まれたひとり息子。同居していた父親の実家から、障害児は世間体が悪いと追い出され、父親は転職し、家族で団地に移り住んだ。団地暮らしでも周囲の住人の無理解と差別に悩まされることもしばしばだった。 だが、子供会の行事に参加するなど交流をはかるうちに、周囲の誤解もだんだんと解けていった。

早野先生 (はやのせんせい)

境ろう学校に勤務する教師。やせ型で優しい顔立ちの若い男性。妻子あり。教師志望の大学生時代にボランティアで初めて触れ合った重複障害児の女の子、村中織江との交流を通して、障害児教育の重要性を痛感した。教師となり境ろう学校に赴任し、毎日試行錯誤しながらも、根気強く児童たちを教育する。 後に、大平ろう学校の安田先生や親たちと協力し設立した共同作業所「ふれあいの里・どんぐり」の初代施設長に就任した。

村中 織江 (むらなか おりえ)

筋ジストロフィーと知的障害を持つ重複障害児の女の子。早野先生が大学生の頃にボランティア活動で初めて担当した障害児。筋力が失われる進行性の難病なので活発な反応を示すことができないが、じょじょに早野先生と打ち解けていった。おもちゃの電話を使った電話ごっこや、二人の会話をテープに録音する遊びが好きだった。 やがて少女のまま病気が進行して亡くなったが、早野先生に障害児と向き合う大切さを教え、彼に大きな影響を与えた。

野中先生 (のなかせんせい)

境ろう学校の寄宿舎に勤務するベテランの寮母。重複障害児の宮井信夫のトイレ指導を定年退職前の自分の最後の仕事と考え、粘り強く指導に励む。重度の障害を持ち若くして死去した兄がいた。山奥の施設に隔離された兄の存在を初めて知らされたのは、彼女が8歳の時だった。この体験から、社会から存在を黙殺されている障害者には支援が必要と感じ、障害者教育の道へと進んだ。

斉藤 ゆり子 (さいとう ゆりこ)

聴覚障害と知的障害を持つ重複障害児の女の子。自閉傾向が強く、唯一、藤子・F・不二雄作の漫画「ドラえもん」の絵にだけ強く固執する。境ろう学校ひまわり組に入学してきた当初は周囲に無反応だったが、メガネをかけ、外見がドラえもんの登場人物「のび太」にそっくりの塩見先生のことが大好きになり、感情を表に出せるように成長していった。 退職した塩見先生との別れを通して、「淋しい」という抽象概念を理解した。

島 祐太 (しま ゆうた)

境ろう学校の児童。聴覚障害を持つ男の子。母親が妊娠中に風疹にかかった影響で難聴児として生まれた。それでも持前の明るさで元気に暮らしていたが、難聴が原因で自動車事故に遭い、左足が不自由になってしまった。それ以後は周りの子どもたちと同じように体を動かして遊べない自分に苛立ち、他の児童とトラブルを起こすことも多くなった。

三田先生 (みたせんせい)

境ろう学校に勤務する教師。メガネをかけ、顔にそばかすの残る若い女性。当初は食事や排便もままならない重複障害児の児童たちに手を焼き、彼らに嫌悪感すら覚えていた。トイレ指導がうまくいかない宮井信夫に苛立ち、手を上げてしまったこともあるが、後に信夫が一人できちんとトイレに行けるようになるなど、少しずつだが確実に成長してゆく彼らの姿を見て、粘り強く教育を続けてゆくようになる。

場所

ふれあいの里・どんぐり (ふれあいのさとどんぐり)

『どんぐりの家』に登場する施設。ろう学校卒業後の障害児たちの受け皿として設立された共同作業所。当初は埼玉県大宮市のはずれの畑の中に建つ小さな一軒家を「どんぐりの家」として使用していた。その後、バザーの収益や募金活動で貯めた2億円の資金をもとに、2千坪の入居型共同作業所「ふれあいの里・どんぐり」として移転・設立された。 本作のモデルとなった同名の施設は実在する。

SHARE
EC
Amazon
logo