この世 異聞

この世 異聞

呪われた一族に生まれて不治の病に侵された青年と、彼を病魔から守るために現れた獣の耳を持つ守り神の男性。2人が次第に惹かれあっていく様を描くボーイズラブファンタジー。基本的に登場人物は同じで、全10話構成のうち、第1話から第7話までは山根昭雄とセツを中心に、第8話から第10話までは白田紡とクラヨリを中心に物語が展開する。「BE・BOY GOLD」「MAGAZINE BE×BOY」「b-BOY Phenix」に2005年から2012年にかけて不定期に掲載された作品。

正式名称
この世 異聞
ふりがな
このよ いぶん
作者
ジャンル
BL
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概要・あらすじ

代々、病により早死にするという呪われた一族に生まれた山根昭雄(昭)は、たった1人の家族である祖父を病気で亡くした直後、不治の病に倒れる。苦しみもがきながら、昭は一縷の望みを託して祖父の遺した言葉どおりに仏壇を調べるが、そこには獣の牙が収められているだけだった。この苦しみから逃れる術はもうないのだと絶望する昭だったが、彼が握りしめた獣の牙から、獣の耳としっぽを持つ「守り神」の男性が姿を現す。

一族を守るため現れたというその男に、当主となった昭は「セツ」と名付け、自分の病を治すことを望んだ。セツは昭の体をまさぐり、快楽を求めながら体に巣食う病のもとを探し出し、体内から外へと引きずり出す。すると部分的にではあるが、昭の体調には回復の兆しが見えたのである。

こうして昭はすべての病のもとを追い出すまでセツとともに生活を送ることになり、複雑な想いを抱きながらも、次第にセツに惹かれていくのだった。

登場人物・キャラクター

山根 昭雄 (やまね あきお)

市役所の横にある小さな市民美術館に勤めている男性。代々早死にする家系で、親戚筋からは祟られた家系だと忌み嫌われている。両親を車の事故で亡くし、祖父と暮らしていたが、その祖父も亡くした直後から、不治の病にかかってしまう。死を待つより他に手の施しようがない状態となった時、現れた守り神のセツと生活をともにすることになる。 セツは、山根昭雄の体内にある病のもとを見つけ出しては体外に出してくれるが、その都度いやらしいことを強要してくるため、それが精神的に受け入れられず、反抗的な態度を続けている。しかし次第にセツの存在が大きなものになり、心から彼を必要とするようになっていく。

セツ

山根昭雄(昭)の家系を守る守り神。昭の家の仏壇に収められていた獣の牙から姿を現した。半人半妖で、通常は獣の耳と尻尾が付いた男性の姿をしているが、狼の姿になることもある。昭の血族が末代まで祟られた原因を作ったとされる人物と縁があり、昭の一族を守ってはいるものの理由は使命によるものではなく、単純に個人的な趣味。「真の名」は昭の先祖に渡したため持っておらず、当主が変わるたびに新たに名を付けてもらうことで関係を成立させている。 昭の祖父が彼を呼び出した時には、亡くなった妻「セツ子」の名を彼に付けた。それを知った昭が、今生では「セツ」と名付けた役割は、呼び出した当主の望みを叶えることなので、当主自身が望まないことは叶えることができず、望みが果たされればまた獣の牙の姿となって眠ることになる。 昭は病気を治すことを望んだため、彼の体内に巣食う病のもととなっている黒い物体を、セツが昭の体に触れることで体内から探し出し、体外に引きずり出している。セツはその病のもとを食べることで消滅させられるが、セツ自身もダメージを負ってしまうため、昭を一気に全快させることはできない。 遠い昔、「森羅」という名を持つ人間だった過去があり、狼の化け物である「万象」と同化することで現在の状態になった。クラヨリとは旧知の間柄ではあるが、犬猿の仲。酒と昭が大好き。

白田 紡 (しろた つむぎ)

由美の息子で16歳の男子高校生。きれい好きで、自分で弁当を作ったり裁縫をしたりと器用で女子力が高い。そのため、男子にも拘わらず「いつでも嫁にいける」とよくからかわれている。5歳の頃から、炊事、洗濯、掃除など、白田家の家事の一切を担ってきた。それは近い将来、自分がクラヨリ様のお世話をすることになると聞かされていたからであり、本人もそれを自然と受け入れ、望んでいた。 16歳になり、クラヨリ様との婚姻の話が、男であるがゆえに拒絶され、ショックを受ける。幼い頃からクラヨリ様のために作り続けた稲荷ずしの味が認められたことをきっかけに、その後、無事に嫁として認められる。母親と再婚し、離婚した義父の南浦啓一郎とは、血の繋がりはないがなぜかよく似ている。

クラヨリ

白田紡の家系を代々守る守り神。まだ人間だった遠い昔、占い師だった頃に愛する者を守るため、狐の化け物を食らうことで同化し、半人半妖となった。通常は狐の耳としっぽの付いた和装の男性の姿をしているが、耳としっぽをしまったり、狐の姿になることもできる。本来は女の子に仕える狐の神様で、白田家に生まれた孫娘との婚姻を条件に、呼び起こされるごとに白田家のために尽くしていた。 しかし、孫娘が生まれなかったため、男の紡を嫁として差し出された。当初はそれを受け入れられるはずもなく機嫌を損ねるが、以前から食べていた稲荷ずしが、紡の手作りによるものだと知り、彼の存在を認め始める。「蔵依」という名は、蔵にばかり籠っている者という意味であり、実際の名前ではない。 本来は白田家の者に呼び出されるたびに新たな名を付けてもらうことで、関係が成立する仕組み。しかし、紡がなかなか名前を付けなかったこともあり、人間だった頃の名「野背」と呼ぶことを紡だけに特別に許す。

南浦 啓一郎 (みなみうら けいいちろう)

市役所の横にある小さな市民美術館の館長を務める男性。山根昭雄(昭)の上司にあたるが、昭の亡くなった祖父とは昔からの知り合いだったため、もともと昭とも互いに良く知る知人関係にあった。子供の頃、目が見えなかったが、それを「セツ子」だった頃のセツに見えるようにしてもらった。この時、初めて目にした「人」であるセツに恋をしたため、南浦啓一郎にとってセツは恩人であり、初恋の人。 過去には結婚歴があり、結婚と同時に上京したが、離婚して故郷へと出戻っている。その際、子供の頃よく遊んであげた鳩木哲市と再会し、それ以降密かな想いを寄せている。

鳩木 哲市 (はとき てつし)

市役所の横にある小さな市民美術館に勤める男性。山根昭雄の3歳年上の幼なじみ。実家が古物商であることもあり、その目利きを買われて美術館に配属された。物静かで面倒見が良いお兄さん的な存在だが、10代の頃から不愛想と言われることが多く、気にしている。酒が好きで、つまみに作る料理はいつも焼いただけの肉。そのうえ、味付けは柚子胡椒と決まっている。 南浦啓一郎には、幼い頃によく遊んでもらった仲だが、大人になって再会して以降、密かな想いを抱いている。意図せずに相手を落とす殺し文句を口にするため、南浦と佐々木から「天然たらし」「マダムキラー」の名を拝命している。

佐々木 (ささき)

市役所の横にある小さな市民美術館の事務を務める女性。3か月前に結婚したばかりの新婚。しかし自分が新妻である自覚をあまり持っておらず、病み上がりの山根昭雄(昭)が自分の胸に飛び込んでこないことを不満に思ったり、昭の家で行われる男性ばかりの快気祝いの飲み会に自分が誘われないことに不満を漏らす。

小太 (こた)

「森羅」という名の人間だった頃のセツの過去に関わりのある人物で、小次の父親。皿のようなまん丸な物が割れた際、もとに戻す特別な能力を生まれ持っている。これまではこの能力が人に知られることはなかったが、妻の葬儀の際に小次が割った形見の皿を直したことがきっかけで、周囲に知れ渡ることになる。小太自身は危機感を持たず言われるままにその能力を見せるため、彼をさらって見せ物にしようと家に訪れる者が後を絶たない。 そんな頼りない小太を、まだ半人半妖になる前のセツがいつも側で心配していた。

小次 (こじ)

「森羅」という名の人間だった頃のセツの過去に関わりのある人物。小太の息子で壱加の弟。しかし拾われた子のため、血の繋がりはない。森羅を慕っていたが、彼がいつも父親である小太の心配ばかりしており、なかなか自分との時間を作ってくれないため不満を抱いている。小太が、自分の能力の重要さを考えずに暮らすため、不甲斐ない父親に代わって家族の中では一番のしっかり者となっている。 姉の代わりに家事もこなしている。

壱加 (いちか)

「森羅」という名の人間だった頃のセツの過去に関わりのある人物。小太の娘で小次の姉。体が弱く、調子の良い時以外は床に臥せっている。森羅に想いを寄せていたが、まともにとりあってくれない彼に、怒りを含むやりきれない思いを抱えている。近所にいた流れ者のまじない屋を訪ね、祟りによる病に侵されてしまう。

戸田 (とだ)

市役所の横にある小さな市民美術館の事務を務める女性。結婚し、産休に入った佐々木の代わりに事務員としてやって来た。山根昭雄とは中学校まで一緒だった同級生のため、和気あいあいと仲良くやっている。南浦啓一郎に想いを寄せている。

菊乃 (きくの)

白田紡の祖母で、由美の義母にあたる女性。家の繁栄のため、クラヨリを復活させた。紡を女と偽って将来クラヨリに嫁として差し出すため、花嫁修業と称して家事炊事の一切をこなせるように紡に教え込んできた。紡の父親が作った借金を株で返済しているが、それがうまくいっているのもすべてクラヨリの力があってのこと。

由美 (ゆみ)

白田紡の母親。紡の父親と離婚後、南浦啓一郎と再婚し、また離婚した。その後は菊乃とともに紡の父親が作った借金の返済に奔走する日々を送っている。クラヨリや、その後に姿を現すセツの存在を目の当たりにし、激しく困惑する。

茅野 (かやの)

クラヨリが人間だった頃、占い師である彼の弟子として生活をともにしていた女性。術師として天才的な能力を持っており、誰も実行しようとしないような危険を伴う術を熱心に研究していた。のちに妊娠し、子供を産んでクラヨリに託し、若くしてこの世を去った。

(かい)

真川勇一と行動をともにしている少年。真川によって偶然再生された妖で、真川に不必要とされれば骨に戻ってしまうため、彼に嫌われることを怖れている。その姿は、中学生くらいの少年や、大学生くらいの青年などさまざまに変化させることができるが、もともとは妖や、半人半妖を喰うウサギ。妙に明るく人懐こいが、得体のしれない恐ろしさを持っている。 真川を慕っており、彼を「ゆーち」と呼ぶ。

真川 勇一 (まがわ ゆういち)

櫂といつも行動をともにしている男性。婚約者を亡くして以来、ふさぎ込んだ状態にある。手首には自殺をためらった末の深い傷跡がたくさん付いている。自身の存在すべてを再生することができる半人半妖のセツやクラヨリのことを知り、亡くなった婚約者を再生することを目的に、その術の謎を解き明かそうと、櫂を連れて半人半妖のことを調べて回っている。 半人半妖を分離させる効果のある薬品を持っている。櫂からは「ゆーち」と呼ばれている。

(かみ)

妖が集う酒場に現れた謎多き者。大きな角を持ち、顔を薄布で隠している。しかし、セツとクラヨリに対して友であるとして気安いところがあり、およそ神様らしくない軽い振る舞いも見られる。何かを聞けば受け流し、聞いていないのかと思えば聞き耳を立てている不思議な人物。真川勇一と櫂の動向について目を光らせており、最終的に彼らをどう罰するかを決める。

その他キーワード

半人半妖 (はんじんはんよう)

遠い昔、茅野の研究により可能になった、人が妖を喰い、新たな妖となる「呪禁の法」を使い、半分人で半分妖という同化した存在となった者。半人半妖となった者の寿命は、もとの妖と同じ長さになる。その寿命は永遠ではないが、骨や牙など自分の一部分だけになった状態で眠りにつけば力の消耗を抑えることが可能で、必要な時にのみ起こされることでその寿命を最大限まで引き延ばすことができる。 ただし、目覚めて肉体を再生する際には他者の血が必要となる。セツやクラヨリは、自らの目的のため、妖を喰い半人半妖となった。半人半妖は、自身に血を与えて目覚めさせた者の望みを叶える。その望みが叶えられ、半人半妖が必要なくなった時点で骨や牙に戻り、眠りにつくことになる。 また、自らの意思で眠りにつくことも可能。なお、一度眠りについた後は、同じ者の血で再び起こすことはできない。

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