瞬きもせず

瞬きもせず

高校に進学した晩生の主人公が、サッカー部の少年との初恋をゆっくりと育んでいくストーリー。純粋ゆえになかなか発展しない恋愛を主軸に、友情、部活動、家族関係など、青春期ならではの出来事が、さり気ない会話やモノローグで描かれる叙情的な作品。全編を通して会話には山口県の方言が使われ、架空の田舎町ののどかな風景と相まって、主人公たちの素朴な世界観が広がる物語となっている。

正式名称
瞬きもせず
ふりがな
まばたきもせず
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あらすじ

第1巻

豊央高校に入学して3か月。小浜かよ子は、親友の藤井美つ子と共に学校生活を謳歌していた。そんなある日、授業を受けているかよ子のもとに「恋人はいるのか」「夏祭りは誰といくのか」といった質問が書かれた匿名の手紙が送られて来るようになる。かよ子が正直に返答していると、その手紙の相手はサッカー部の紺野芳弘である事が判明。かよ子は紺野から告白され、二人の交際がスタートする。しかし、初めての恋愛にとまどい、かよ子は紺野に対してうまく振る舞う事ができない。さらに、紺野に父親・小浜一雄を見られたくないかよ子は、ますます紺野を遠ざけるようになっていく。そのまま夏休みは過ぎ、当初はかよ子を追いかけていた紺野も、距離を置くようになってしまう。

第2巻

小浜かよ子紺野芳弘の交際がスタートしてから半年。二人の距離は相変わらず縮まらずにいた。かよ子と紺野は学校で直接顔を合わせると会話もできず、電話で話すだけの日々が続く。そんなある日、かよ子が藤井美つ子達と紺野のサッカーの試合を観戦に行くと、紺野が顧問の蓑輪と揉めている姿を目撃する。かよ子はなぜ二人がそんな状況になっているのかもわからず、かといって気軽に聞く事もできずにいた。そんな中、かよ子は紺野からの誘いを受け、初めてのデートをする。そこでかよ子は今まで知らなかった紺野の家族の事や、中学生時代の出来事を聞いて楽しい時間を過ごすが、学校生活に戻ると会話が弾まない。そんな中、かよ子達は2年に進級。豊央高校では2年生からは男女別のクラス編成になるため、かよ子と紺野は一日一回顔を合わせる程度の関係となり、かよ子は寂しさを募らせていた。一方、蓑輪は紺野のポジションを新入生に交代する事を決め、紺野はショックを受けていた。さらに女子更衣室で着替えをしていたかよ子が、覗き被害に遭うトラブルが発生する。

第3巻

紺野芳弘は、ますます部活動のサッカーにのめり込んでいき、小浜かよ子は彼との距離を感じ、寂しさを覚えていた。そんなある日、かよ子の下駄箱に、「かよ子がほかの男となかよくしているから紺野がサッカーに集中できず、レギュラー落ちした」という旨の匿名の手紙が届く。かよ子はその手紙で初めて紺野が新入生にポジションを奪われた事を知る。そしてかよ子は、今の進展のない交際に終止符を打つ事を決断する。一方、かよ子の家では、兄・小浜次男が東京行きを反対する父親・小浜一雄と激しく衝突し、家族に書置きを残して家出をしてしまう。かよ子が急いで駅へ向かうと、そこには偶然にも紺野がいた。次男の事で取り乱す自分を励ましてくれる紺野に対し、かよ子は初めてこれまで言えなかった紺野に対する自分の本心を打ち明ける。しかし、紺野はもうすでに彼女がいると告げ、かよ子の思いを受け入れる事はなかった。しばらくショックを受けていたかよ子だったが、やはり自分は紺野の事が好きだと確信し、紺野がサッカーの試合をしている場所へと向かう。

第4巻

水谷輝哉が、東京からやって来た風俗嬢と行方をくらませる。紺野芳弘が輝哉の親友である事から、蓑輪は紺野が彼を匿っているのではないかと責め立て、サッカー部を退部するよう迫る。一方、輝哉は風俗嬢と関係のある男から暴力を振るわれ、駅のベンチで倒れていたところを発見される。そんな中、豊央高校では東京への修学旅行が行われる事となった。輝哉に片思いをしている藤井美つ子は、彼が風俗嬢の女性に会いに行くのではないかと不安を覚える。そして美つ子の不安は見事に的中し、輝哉は紺野と共に女性が働く新宿へと向かう。蓑輪は紺野と輝哉を追うが、その途中で暴力を振るって従わせていたかつての教え子らに絡まれ、雨の中で土下座をする羽目になってしまう。その場面を目撃した紺野は、このまま蓑輪についていくべきなのかと悩み始める。修学旅行も終わり、サッカー部の練習に参加しなくなった紺野は、いっしょに勉強しないかと小浜かよ子を誘う。しかし、紺野がサッカー部を休んでいる事を知ったかよ子は激怒し、自分を現実逃避の道具にしないでほしいと紺野に食ってかかる。

第5巻

高校3年生になった小浜かよ子紺野芳弘は、自然と手をつなぐ仲にはなったものの、恋人としての関係は進展しないままだった。紺野はサッカー部の部長となり、下級生の女子生徒の中には紺野の熱狂的なファンも現われる。そして紺野率いるサッカー部は全国大会に向けて大きく動き出し、かよ子も紺野の夢を応援する。そんな中、藤井美つ子はついに水谷輝哉に告白をするも、あっけなくふられてしまう。そして輝哉は、卒業をしたら東京に出て、風俗嬢の女性に会いに行くと宣言する。一方、最初は地元で働くと言っていた紺野だったが、輝哉の助言もあり、やはり東京で就職する事を決意。かよ子も紺野と共に上京したいと願うが、父親・小浜一雄は絶対に許そうとしない。かよ子はそんな一雄を説得して上京する気にもなれず、いずれ離れ離れになる時間を惜しむかのように、紺野と関係を深めていく。

第6巻

紺野芳弘が部長を務める豊央高校サッカー部は、全国大会のキップを賭けた強豪校との試合に敗北してしまう。紺野は、この試合に勝ったら東京から帰って来るのを待っていてほしいと小浜かよ子に告げるつもりだったのだ。その後、地元の短期大学で保育士を目指すかよ子と東京で働く事が決まった紺野は、別れを惜しむようにデートを重ねる。しかし、寂しさを募らせるかよ子は、認知症の祖母・小浜つるに感情的になり、母親・小浜梅代から平手打ちを受ける。自暴自棄になったかよ子は一人電車に乗り込み、行方をくらませてしまう。紺野はそんなかよ子を追い、地元から離れた駅で見つけるも、既に終電はなかった。そこでかよ子と紺野はさまざまな話をしながら、自分達の住む街へと歩いて向かう。翌日、かよ子が登校すると、担任から東京の短期大学への推薦枠を使わないかと声を掛けられる。

第7巻

短期大学に通う事になった小浜かよ子と、東京で就職が決まっている紺野芳弘は、二人そろって上京を果たす。すでに東京に住んでいた水谷輝哉と、その友達から盛大に迎え入れられるものの、二人はどこか居場所のなさを覚える。さらにかよ子が上京してから、すぐに母親・小浜梅代に血栓が見つかる。父親・小浜一雄からは帰って来なくていいと言われるものの、かよ子は上京して2週間で実家へと戻る事を決める。紺野はそのまま東京で仕事を続けるが、職場の上司に大好きなサッカーをバカにされるなど、居心地の悪さを感じていた。一方のかよ子は、地元の保育施設で働くようになり、何となく紺野と連絡を取れずにいた。そんなある日、かよ子は勇気を出して、紺野に会うため再び東京へ向かうのだった。

登場人物・キャラクター

小浜 かよ子 (こはま かよこ)

高校1年の夏にクラスメイトの紺野芳弘に告白され付き合いはじめる。自己主張は強くないものの、よく笑う明るい性格。中学のとき頑張っていた陸上短距離走に限界を感じ、高校ではテニス部を選択する。四人兄弟の末っ子として皆に可愛がられ育ったため素直で家族思いだが、芳弘との交際をきっかけに、父親とぎくしゃくしはじめる。

紺野 芳弘 (こんの よしひろ)

小浜かよ子の彼氏。サッカー部所属でポジションはフォワード。2年の秋以降はキャプテンを務める。穏やかな性格で笑顔を絶やさないが、芯はとても強い。中学時代、陸上競技大会に選手として出場していたかよ子を見初めて以来、ずっとかよ子を思っていた。実家はフラワーショップを経営しており、病気で入院している父親と母親、妹の4人家族。

藤井 美つ子 (ふじい みつこ)

小浜かよ子の親友で部活も同じテニス部。紺野芳弘や水谷輝也とは同じ中学出身。活発な性格で、芳弘との恋に悩むかよ子の良き相談相手。実は中学時代から輝也のことを思っていたが、近くで笑い合っていられる友人関係を崩すのが怖く、苦しい片思いを続けている。

水谷 輝哉 (みずたに てるや)

紺野芳弘の親友。やんちゃな性格で中学時代は荒れていたが、芳弘と出会って角が取れた。恋愛下手な芳弘を叱咤激励する良きアドバイザーでもある。高校2年の夏に出会った年上の風俗嬢に入れ上げ、卒業を待たずに彼女のいる東京へ行く。

蓑輪 (みのわ)

豊央高校サッカー部監督。芳弘たちが2年になった年に就任。かつて東京のサッカー強豪校に行き、ジュニアユース代表にも選ばれたことがある。東京の高校で監督を務めていたが、部員たちとトラブルを起こし、故郷の山口県に戻ってくる。右あごの傷跡はその時のもの。生徒を駒のように扱ってサッカー部員らの不信を買っていたが、紺野芳弘らと関わるうちに寛容へと変化を見せる。

相下 龍二 (あいした りゅうじ)

紺野芳弘の一年後輩にあたるサッカー部員。監督就任の際、蓑輪が引き抜いてきた有望選手の一人。ポジションはミッドフィールダー。芳弘のことを「にやけた奴」と評し傲慢な態度を見せていたが、共に練習を重ねていく中で信頼関係を築くようになる。

小浜 つる (こはま つる)

かよ子の祖母。認知症を発症し、いつもかよ子の牛乳を飲んでしまう。時折、孫の次男を他人と見なし、夜になると家から追いやってしまう。

小浜 一雄 (こはま かずお)

かよ子の父。職業は自動車整備士。かよ子をととても可愛がっているが、デリカシーに欠ける一面が。そのため芳弘と付き合いはじめたかよ子とたびたび衝突する。

小浜 梅代 (こはま うめよ)

かよ子の母で理解者。つると共に畑を耕し、家事全般をこなす。過労気味のうえ心臓に持病があり、作中二度倒れた。

小浜 長男 (こはま ながお)

かよ子の長兄。父親とともに自動車整備士として働く。毎朝、食事そっちのけで新聞を読みふけり、母親に諫められている。

小浜 次男 (こはま つぐお)

かよ子と一つ違いの次兄。都会に憧れており、「東京へ行く」が口癖。父親と衝突し、実際に家を出て東京へ行くが、都会の厳しさに負けて帰郷する。祖母が自分の存在を忘れてしまったことに傷ついている。妹思いで、かよ子のために紺野芳弘に意見したこともある。

小浜 桃子 (こはま ももこ)

かよ子の姉。就職して実家を離れている。結婚し、一児を儲けてからは、たびたび実家を訪れる。

(きよし)

小浜かよ子が好きなシンガーソングライター。ライブを見た紺野芳弘は、十代の若さで大衆を惹き付けるその存在感に影響され、上京して夢を追う決意をする。

集団・組織

豊央高校 (ほうおうこうこう)

山口県の架空の都市中央市に位置する県立高校。小浜かよ子らが通う。のんびりした校風で、勉強も部活も中の下ぐらいの位置付けだったが、蓑輪が監督就任したサッカー部はまったくの無名チームから大躍進し、紺野芳弘の世代で選手権予選ベスト8、翌年には決勝進出を決める。

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