イエスタデイをうたって

イエスタデイをうたって

大学を卒業するがフリーターを選択した魚住陸生、5年前に偶然出会った陸生に想いを寄せ続ける野中晴、亡くなった幼なじみにとらわれ続ける森ノ目榀子、そんな榀子の想い人の弟で榀子に恋焦がれる早川浪。この4人と周囲の人間の恋愛事情を中心に描いた恋愛群像劇。冬目景の他作品である『羊のうた』や『ももんち』と、登場人物や舞台設定など一部の世界観を共有している。

正式名称
イエスタデイをうたって
ふりがな
いえすたでいをうたって
作者
ジャンル
恋愛
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あらすじ

第1巻

大学の就職活動時期になってもやりたい事が見つからなかった魚住陸生は、コンビニのアルバイトスタッフとして働いていた。ある日、陸生が近くにいたカラスに廃棄弁当を与えていたところ、飼い主だと名乗る野中晴が現われる。そして、その日から晴は陸生が勤務するコンビニにたびたび訪れ、あからさまにアプローチしてくるようになる。しかし、大学在籍中に好意を寄せていたが、告白前に地元に帰ってしまった森ノ目榀子への思いがいまだ消えていない陸生は、そんな晴のアプローチには何の反応も示さずにいた。

そんなある日、突然陸生の働くコンビニに榀子がやって来る。東京に非常勤講師として戻って来たと話す榀子との再会に、陸生の恋心は再び燃え上がり、改めて榀子に告白を決行する。しかし、陸生は友達だからと榀子からは断られたうえに、「このまま友達の関係でいたい」という榀子の我儘も受け入れてしまう。一方、晴は榀子が勤務する高等学校に通っていたが、現在は退学していた事実を知る。さらに、陸生の好きな人が榀子だと知った晴は榀子を牽制するが、榀子は自分の好きな人は死んでしまったと打ち明ける。そんな中、陸生のもとに榀子の金沢時代の幼なじみだと名乗る高校生の早川浪が現われ、二人の関係を問いただす。(エピソード「社会のはみ出し者は自己改革を目指す」「愛とはなんぞや?」)  

第2巻

野中晴は母親の秋本陽子の三度目の結婚が決まり、複雑な感情を抱いていた。そんな中、晴は魚住陸生を映画デートに誘う。一方で森ノ目榀子は、早川浪に振る舞った手料理の残りを陸生に届けていた。その後、器を返却しようと榀子に連絡した陸生は、彼女が風邪をひいて寝込んでいる事を知る。榀子を放っておけず、陸生は泊まり込みで看病を行うが、その途中でつい寝てしまい、晴とのデートをすっぽかしてしまう。

後日、晴になぜデートに来なかったのかと問われた陸生は、事の次第をすべて正直に話してしまう。それを聞いた晴は激怒し、それ以来、陸生が働くコンビニに姿を見せなくなってしまう。罪悪感を覚えた陸生は狭山杏子から晴の自宅の住所を聞き、彼女の家を訪ねる。すると雨の中、ずっと陸生を待っていた晴は風邪をひいてしまっていた。陸生は、そんな晴を精一杯看病する。(エピソード「ゆらゆら」)

浪は榀子に打ち明けないまま、美術予備校「関東美術学院」に通い出す。浪は榀子と両思いで出来のよかった故人の兄、早川湧に唯一勝てる特技が絵だったため、その道に進もうと考えていたのだ。(エピソード「川は流れる」)  

第3巻

魚住陸生がアルバイトをしているコンビニに、木ノ下楼子がやって来る。そして、兄の木ノ下に自分達が撮影している映画の音楽を担当してほしいと依頼するが、断られてしまう。何となく映画撮影が気になった陸生は、ロケ地だという公園に足を運ぶ。そこで熱意を持って映画撮影に取り組んでいる高校生達の姿を見た陸生は、自身の写真や映像撮影の知識をアドバイスをするなどして、自然と彼らとかかわるようになる。しかし、8ミリフィルムで撮影していたために、クランプアップ間近で撮影費用が不足してしまう。それを知った楼子は、撮影していたメンバーに内緒で8ミリフィルムの費用を稼ぐため、狭山杏子が経営する喫茶店「MILK HALL」で年齢を偽り、短期アルバイトとして働く。しかしアルバイトの最終日、運悪く楼子が通う高校の先生に見つかってしまい、謹慎処分が下ってしまう。(エピソード「少年達と浮遊青年」)

森ノ目榀子は休暇を利用し、故郷の金沢へ帰省していた。そこで早川浪の父親から、引っ越しのため荷物の整理をしていると打ち明けられる。それは同時に早川湧の遺品を整理する事も意味していた。榀子は湧の遺品を眺めながら、まだ湧が健在だった頃を思い出す。一方、金沢に帰ったと聞いた陸生は、もう二度と榀子が東京へと戻らないのではないかと不安になった事から、つい野中晴に当たってしまい、険悪な雰囲気になってしまう。(エピソード「榀子帰郷」)

陸生は写真ギャラリーでもアルバイトを始めたが、なかなか仕事に慣れずにいた。そこに、湊航一が新人アルバイトとして入ってくる。晴は湊と偶然同じ高校に通っていた縁もあり、親交を深める。しかし、実は晴と湊は高校時代に言葉を交わしており、湊は密かに晴に対して恋心を抱いていたのだ。今の晴の心が陸生にあると知った湊だったが、恋心が再燃していく。そして晴をモデルにした写真でコンテストに応募し、見事1位を獲得。湊は陸生に対して晴を奪うと宣戦布告する。(エピソード「ミナトという男」)

第4巻

コンビニでのアルバイトが終わった魚住陸生は、浴衣姿で待ち受けていた野中晴から半ば強引に花火大会へと連れていかれる。そんな中、陸生は人ごみの中で森ノ目榀子に似た女性を発見する。勘違いかと思う陸生だったが、実は榀子は早川浪と二人で花火を観に来ていたのだ。陸生は晴と、榀子は浪とそれぞれ微妙な関係の中で、花火大会が始まる。(エピソード「夏と花火と金魚の背中」)

榀子が引っ越す事になり、陸生、浪、晴はその手伝いをしていた。車を出す予定だった浪の父親が急遽キャンセルになり、晴は車を所持している湊航一を呼び出す。引っ越し修了後、晴は手づくりのおにぎりを差し入れする。しかし晴の未知なるものを探求する好奇心から、おにぎりの中身はジャムやチョコレートなどお菓子ばかりで、陸生、榀子、浪の手は止まる。しかし、湊だけは晴が作ってくれたものだからと、すべて食べるのだった。(エピソード「引っ越しの手伝い」)

晴に好意を寄せる湊は、晴がアルバイトをしている喫茶店「MILK HALL」に毎日のように行き、帰宅時は自宅まで送り届けていた。鈍感な晴も次第に湊が好意を寄せている事に気づき始めたところで、湊は晴を今度の土曜日に映画へと誘う。一方、榀子は陸生に対し、今度の土曜日は自身の買い物に付き合ってほしいとお願いする。そして土曜日、晴は湊と映画を観に行っていいものか直前まで悩んでいた。そんな中、晴のペットのカラスのカンスケが行方不明になってしまう。焦った晴は陸生にも声を掛け、必死にカンスケを探す。(エピソード「行方不明のキモチ」) 

陸生がアルバイトをするコンビニに柚原チカが偶然やって来た。雰囲気の変わったチカにすぐに気づけなかった陸生だが、次第に高校時代に交際したものの、たった4か月で自分を振った元彼女だと思い出す。チカは家賃滞納でアパートを追い出され、行く先がないから陸生の部屋に3週間泊めてほしいと言い出す。すぐに追い出すつもりの陸生だったが、高熱を出して倒れてしまう。チカはそのまま部屋に留まり、陸生を看病する。その部屋に運悪く榀子と晴が訪れ、二人はチカを彼女だと勘違いしてしまう。榀子は自分が怒る立場にないと言うが、晴は自分達が知らない彼女がいた事に憤りを覚える。そんな中、晴は、湊から大学を中退し、本当に自分がしたい事を見つけると告げられ、同時に恋心を抱いていたと打ち明けられる。晴は嬉しさを覚えつつも、自分が二番目であっても、やはり陸生をあきらめられないと、心中を打ち明ける。(エピソード「思い出に帰る人達」)

第5巻

早川浪は目標としていた芸術大学に現役合格できずに1浪する事になる。さらに、ひたすらに合格を目標にして励んでいた頃と比べ、浪は絵に対して行き詰まりを感じるようになっていた。さらに現役合格を目指す高校3年生の女子生徒の絵に自分にない才能を感じ、自分自身が何をしたいのかがわからなくなっていく。言いようのない不安から、浪は片思いをしている森ノ目榀子に対して自分の気持ちをぶつけてしまう。一方、魚住陸生野中晴から緊急事態のため、自宅へ来てほしいと依頼される。何事かと陸生が彼女の自宅へ向かうと、晴の部屋にはゴキブリが出没。退治した陸生に対し、晴は泊まっていかないかと誘う。(エピソード「青春の蹉跌」) 

陸生、榀子と同じ大学出身で共通の知人、福田タカノリが結婚式を挙げる事になり、二人は招待される。陸生は結婚式のカメラマンを任されるが、今後はどうカメラと向き合っていくべきか迷いが生じていた。一方、榀子は結婚式の引き出物を渡しに浪の自宅を訪れる。浪の父親と雑談をしていると、偶然帰宅した浪と鉢合わせる。いつの間にか背が高くなり、すっかり男らしくなった浪に対し、榀子は早川湧の面影を感じ、切ない衝動に駆られてしまう。そんな榀子の衝動を浪は感じ取り、湧の代わりでいいから自分を好きになってほしいと改めて告白をする。しかし、榀子は返事ができず、行き場のない気持ちのよりどころとして陸生を頼ってしまう。(エピソード「恋人たちの予感」)

第6巻

魚住陸生は以前からアルバイトをしていた写真ギャラリーから誘われ、正社員になる事を決意。同時に木ノ下もコンビニのアルバイトを辞めてしまう。その事を知らない野中晴森ノ目榀子は時々コンビニを覗きに行くが、陸生と木ノ下の姿が見えず、がっかりしていた。そんな中、陸生は榀子に直接、正社員になった事を報告する。そこで陸生自身は榀子が好きだが、晴に対しても意識している事に気づかされる。そんな陸生の葛藤を知らない晴は、陸生の仕事の帰りを遅くまで待っていたが、陸生にこれからは待たなくていいと突き放されてしまう。陸生はもう少しで榀子に手が届きそうになっているにもかかわらず、決断できない自分にふがいなさを覚えるのだった。(エピソード「イノセント・ブルー」) 

陸生は晴と榀子のあいだで揺れている心を自覚していたが、自分は昔から榀子が好きだったと思い直す。そして自分の心を惑わせる晴とは距離を取る事にした。そんな陸生に対し、以前のように積極的に行動できなくなった晴は迷い、陸生の職場や自宅にも行けない日々が続く。そんな中、クリスマスイブの日に、陸生は新婚の福田タカノリの自宅へ遊びに行き、榀子は仕事帰りに早川浪の家でささやかなクリスマスを楽しんでいた。一方、晴は雨宮から美術予備校「関東美術学院」のクリスマスパーティーに参加していた。榀子は浪の家から自宅へと戻る途中、陸生もいる福田の家に立ち寄り、陸生と榀子は帰り道、二人きりになる。そして榀子は陸生に対し、正月をいっしょに過ごさないかと誘う。(エピソード「クリスマス・キャロル」)

第7巻

魚住陸生と連絡のつかない野中晴雨宮からの誘いもあり、大晦日の夜に初詣へと向かう。しかし、雨宮が何を話しても晴の頭の中には陸生の存在があり、雨宮との時間を楽しめずにいた。一方、陸生と森ノ目榀子はぎこちないながらも大晦日の夜に食事をする。そしてそのまま榀子の部屋に行った陸生に対し、榀子はゆっくりと時間をかけて付き合っていこうと告白。陸生と榀子はついに恋人同士となり、陸生は初めて榀子を抱きしめ、その日は帰宅する。元日も陸生と榀子は会い、榀子の手づくりカレーを食べる。しかし二人の関係はキスどころか恋人らしい会話もなく、陸生は本当に付き合っていると言えるのかと疑問に感じる。そんな中、陸生が帰宅すると、家の前には晴が待っており、陸生は晴の存在も意識していると実感する。(エピソード「はじまりの新年」)

早川浪は無事、芸術大学に合格。春から新生活を始めるため、大学近くに引っ越す事になった。浪は受験生だったため、榀子は陸生との交際については話さない事にしていたが、合格をしてからも浪に伝えるタイミングを逃していた。一方、陸生も晴に榀子との交際を打ち明けられず、お互いに周囲には知らせずに付き合っている状態だった。ある時、晴は一人暮らしをしている自宅の庭に不審者を発見し、陸生に助けを求める。一度晴の母親が暮らす家に戻った方がいい、とアドバイスをする陸生だったが、大丈夫だからと晴は応じない。狭山杏子にも知らせておこうと考えた陸生は、喫茶店「MILK HALL」を訪れ、そこで雨宮と顔を合わせる。晴といっしょに帰ると知った陸生は、晴にもそういった相手がいるのではないかと嫉妬心を抱く。そして後日、陸生の自宅前を通りかかった晴は、部屋から陸生と榀子がいっしょに出てくる姿を目撃する。その後、晴は陸生に対して何か自分に報告するべき事はないかと質問し、陸生は榀子と交際している事実を告げる。(エピソード「はるの嵐」)  

第8巻

魚住陸生森ノ目榀子が交際している事を知った野中晴は、祝福したい気持ちと、未だに陸生をあきらめきれない気持ちのあいだで揺れていた。そんな晴の様子を見ていた雨宮は晴に急接近していく。一方の陸生は榀子と交際できて幸せなはずなのに、なかなか進展しない関係を複雑に感じていた。榀子は潔癖症ではないものの、やはり男として陸生を受け入れる心の準備ができずに悩む。さらに榀子は幼なじみの早川浪に対し、浪が自分に好意を向けている事を知りつつも、相変らず陸生との交際を告げられずにいた。そんな中、浪は大学に油絵のヌードモデルとしてやって来た莉緒と知り合う。浪は莉緒の奔放な性格に振り回されつつ、一人で食事をするのが嫌いな莉緒に付き合い、いつの間にか親しくなっていく。さらに、晴にアプローチを続ける雨宮の前にみもりが現われる。晴は雨宮に別の女性の影を感じつつも、自分は言えた義理ではないからと複雑な思いを巡らせる。 

第9巻

野中晴雨宮に対し、いい人である事を認めつつも交際をするイメージを持てずにいた。それどころか雨宮と比較しても悪いところの多い魚住陸生の事を、今でも好きだと気づかされるばかりだった。その一方で晴は、優しくしてくれる雨宮を突き放せずにもいた。そんな中、晴は雨宮からデートに誘われる。待ち合わせの時間、雨宮はみもりが駅で倒れたのでいっしょに来てほしいと晴に依頼する。みもりと顔を合わせた晴は、雨宮とみもりのあいだには同じ故郷出身というだけでなく、それを超えた何かあるのだと感じ取る。一方、陸生と森ノ目榀子がデートをした帰り道、ついに二人で歩いているところを早川浪に目撃されてしまう。陸生の事を隠されており、そして何よりこれまで榀子から子供扱いされていた浪は怒り、その場を立ち去る。いつかは告げるべき真実だったと榀子は考えつつも、ずっと浪の事ばかりを考える日が続く。一方浪は自暴自棄になり、莉緒の家で同棲生活を開始する。大学にも行っていないと聞いた榀子は浪が暮らすアパートの前で待ち、やっと浪と再会。しかし浪は放っておいてくれと榀子を突き放し、榀子はそれを受け入れる。そんな中、晴は陸生と偶然再会し、そのまま近所の中華料理店で夕食を取る日が続く。雨宮が気になるものの、やはり心はまだ陸生にあるのだと感じる日々の中、晴がアルバイトをしている喫茶店「MILK HALL」にみもりがやって来る。一方の陸生の家には再び柚原チカが転がり込んできた。

第10巻

喫茶店「MILK HALL」を訪れたみもり野中晴を呼び出し、自分は雨宮が好きだと告げる。そしてみもりは晴に対し、雨宮に対する気持ちをはっきりしてほしいと直訴する。そのみもりの姿に、かつて自分が魚住陸生森ノ目榀子のあいだで揺れていた自分を思い出した晴は、自分の気持ちをはっきりさせようと、狭山杏子にしばらく休むと書置きをし、誰にも行先を告げずに祖母が暮らす田舎へと旅立つ。陸生と雨宮を始め周囲は晴を探すが、その足取りはつかめずにいた。一方、早川浪は父親から送られてきた荷物を渡すため、榀子と連絡を取り合う。そこで浪は莉緒と同棲している事を告げると、榀子は思わず涙してしまう。複雑な心中で莉緒の待つ家に帰った浪に対し、莉緒はイタリアにいる実母が再婚するため、生まれ育ったイタリアに帰ると言い出す。そして莉緒は浪も留学という形でいっしょに来ないかと誘う。そんな中、陸生は仕事中に莉緒と会い、その縁で久々に浪と顔を合わせる。莉緒から浪と同棲していると聞かされた陸生は、ここ数日榀子の元気がないのはこのせいではないかと思い始める。そしてお互いに遠慮をし合って本心を見せていないと感じた陸生は、デートの帰り道、複雑な胸の内を榀子にぶつける。

第11巻

雨宮は行方の知れない野中晴の居場所を尋ねようと、彼女の母親である秋本陽子のもとへと向かう。一方、晴は祖母の家の近くで喫茶店のウエイトレスのアルバイトをしていたが、そこに偶然にも湊航一が訪れる。湊は東京へと戻り、魚住陸生と会った際に晴の居場所を伝え、陸生と雨宮の二人は晴が今暮らしている場所を知る事となる。一方、早川浪莉緒と共にイタリアに行くと森ノ目榀子に話すが、榀子が止めるそぶりを見せなかった事から、自分は厄介者だと悟り、イタリア留学へと旅立つ決意を固める。そんな中、陸生は榀子に初めてのキスをしようとするが、榀子が懸命に受け入れようとしている姿を見てしまう。陸生と榀子は再び話し合い、榀子は浪に惹かれている事を認める。そして陸生もいつしか晴に心奪われていた事を受け入れ、二人は恋人ではなく友達に戻った。その一方、晴は東京に戻ろうと決心し、荷物をまとめて駅へと向かう。同じタイミングで雨宮は晴の祖母の家に行き、すれちがいになる。そして雨宮は急いで駅へと向かうが、その途中で泣きじゃくるみもりから、みもりの父親が倒れたからいっしょに病院に来てほしいと電話が入る。雨宮は晴と再会し、いっしょに東京へと帰るが、その後すぐにみもりのもとに行かなくてはいけないと告げる。それに対し晴は、自分と付き合うのであれば、みもりのところに行かないでほしいと切り出す。雨宮はそれはできないと返答し、晴から身を引く。駅で雨宮の乗る電車を見送った晴のもとに、今度は陸生が現われる。

登場人物・キャラクター

魚住 陸生 (うおずみ りくお)

大学での就職活動時期に自分のやりたいことが見つからず、過大な責任を負わないで住むフリーターとしてコンビニで働いていた。廃棄弁当をカラスに与えて餌付けしていたところ、そのうちの一羽・カンスケの飼い主である野中晴に話しかけられる。その後、晴からあけすけな好意を向けられるようになり困惑。 実は野中晴に本命の大学受験時、落とした受験票を拾ってもらいったことがあり、それがきっかけで晴は陸生に想いを寄せるようになったのだが、陸生はその話を晴に聞くまで忘れていた。大学時代の友人である森ノ目榀子に長らく想いを寄せており、卒業時に告白しようとしたが牽制するような言葉を聞かされたことで断念。 社会人となり地元の金沢に戻った榀子が、東京で職を得たため再び上京したことで事態が動き始める。榀子への気持ちに勘付いた晴に発破をかけられた陸生は、けじめをつけるために告白。しかし、榀子からの返事は「友だちのままでいたい」というものだった。落ち込む陸生だったが、思い悩んだ末に「関係を断つことはしないが、単なる友だちにはなれない。 とはいえ榀子を困らせるつもりはないので友だちのように振る舞うが、自分が好きでいることは変わらない」と決意。その想いを榀子に伝えた。さらに榀子の幼なじみである早川浪が登場し、榀子の過去を知らされる。榀子との付かず離れずの関係の一方、晴に言い寄る男性が現れると不快に思うことがあり、そうした自分に戸惑う。 のちに榀子とつきあうようになり、ようやく訪れた幸せを噛みしめるが、榀子は浪に自分たちの関係を伝えず、同時に自分も晴に榀子との関係を伝えられなかった。その後、晴にも浪にも付き合いが発覚し、それゆえに榀子とぎくしゃくしてしまう。 趣味は写真で、それを知る友人の福田タカノリから写真ギャラリーでのバイトを紹介される。さらにそのつてで写真スタジオでもバイトするように。当初はコンビニと掛け持ちしていたが、のちに正社員として採用される。実家は横浜で帰省は簡単なものの、フリーターのときは避けていた。

野中 晴 (のなか はる)

もともとは十泉高校の生徒だったが、校則で禁止されている飲食店でのバイトが学校に発覚して停学となり、そのまま中退した女性。ただし、バイトの一件は中退の直接の原因ではないと本人が述懐。その後は、MILK HALLというバー兼喫茶店でウェイトレスのバイトをしている。両親は離婚し母親に引き取られたが、母親の旧姓・秋本ではなく野中姓を変えなかった。 実家を離れ、母方の祖父が遺した一軒家で怪我をしたカラスのカンスケと暮らしている。中学生だったある日、本命大学の受験に向かう魚住陸生に遭遇し、なぜか心を奪われてしまう。その後、何度か陸生を見かけたことはあったが一度も接触することはなかった。 しかし5年にわたり想いを寄せ続け、偶然コンビニでバイトをする陸生に気づき、陸生が自身が飼うカラスのカンスケに餌付けをしていたところに声をかける。陸生に榀子という想い人がいることを知るがそれでも構わないので待ち続けると告げ、また十泉高校在籍時の副担任でもあった榀子には宣戦布告(ただし晴と榀子の普段の関係は良好)。 積極的に陸生にアプローチするも、女性として扱われることは少ない。のちに陸生と榀子が付き合い始めたことを知り、かつて「それでも構わない」といった手前、陸生に祝福の言葉をかけるがショックを隠しきれなかった。それと相前後して、MILK HALLのお得意様である美術予備校・関東美術学院で講師を務める雨宮から好意を寄せられるように。 優しく紳士的に接してくる雨宮に気持ちが揺れ動くが、それでもやはり陸生への想いは消えなかった。いっぱいいっぱいになった晴は、周囲に行き先を告げずに祖母が住む地方へと向かうのだった。

石川県金沢出身。幼いころから、早くに母親を亡くした幼なじみの早川湧、早川浪兄弟の面倒を見るため早川家に出入りし、家事の手伝いなどをしていた。そうしたうちに兄の湧に恋心を抱くようになる。しかし生まれつき... 関連ページ:森ノ目 榀子

早川 浪 (はやかわ ろう)

石川県金沢出身。森ノ目榀子の幼なじみで、早くに母親をなくしたため早川家では食事の世話を榀子に焼いてもらっていた。早くから榀子のことを思い続けているが、兄の早川湧と榀子の関係を特別なものと捉えている。湧が高校生のときに死去したのちも榀子が湧に縛られていることを知るが、浪の榀子への気持ちはずっと変わらなかった。 のちに榀子が東京の十泉高校に職を得るようになると、父親の転勤に伴い上京し十泉高校に編入。そこで榀子と親しくする魚住陸生の存在を知り、敵視するように。幼いころから絵が上手で、それが唯一湧に優っているところだったため、進路に美術大学を志望。 高校2年時から美術予備校の関東美術学院に通い始める。現役時は不合格に終わるが、一浪ののちに美大に合格した。美大でモデルを務める年上の女性・莉緒と知り合い、親しくなる。そんなとき榀子が陸生と付き合い始めたことを、一緒にいるところを目撃したことで知ってしまう。榀子が陸生を選んだことはもちろん、それを隠されていたことに傷つく。 やるせない気持ちを抱えた浪が頼ったのが莉緒で、ふたりはそのまま同棲を開始。その後、帰国子女だった莉緒が母親のいるイタリアに戻ることになり、一緒に行かないかと誘われ、思い悩む。

湊 航一 (みなと こういち)

野中晴が十泉高校に在籍していたときの同級生。十泉高校では写真部に所属し、文化祭の展示で晴から自分が撮った写真が欲しいと乞われる。その写真は寂しい雰囲気の作品で、普段明るい晴には似つかわしくなかったため航一には意外であり、以後晴のことを気にかけるようになった。 晴が十泉高校を中退したのち、航一は大学に進学。大学生でありながら写真の技術が高く、出版社などでカメラマンとして働き始める。魚住陸生がバイトをする写真ギャラリーでも働くようになり、陸生に会いに来た晴と再会。ただし当初は晴には覚えられていなかった。その後、晴の働くMILK HALLに通い詰めるようになる。 写真への意識が高く報道カメラマンを志望する一方、なんとなく写真ギャラリーで働いている陸生を快く思っていなかった。のちに長年の想いを晴に告白するが、邪険に扱われつつも陸生を思う気持ちを諦められない晴に振られてしまう。ただし航一はこの結果を予期しており、告白したときには大学を中退し、カメラ片手に世界放浪の旅に出ることを決めていた。

狭山 杏子 (さやま きょうこ)

野中晴がアルバイトをするMILK HALLのオーナー店長。もとは祖父が経営していたMILK HALLを母親とともに継いだが、大学3年生のときに母親が亡くなったため一人で切り盛りするようになった。大人の女性であり、晴のよき理解者でもある。魚住陸生を思う晴を知り、そんな晴を思う雨宮を知るが、皆が皆いい人だけに面倒くさいと感じることも少なくない。 そんな杏子も自身の恋愛は不得手で、高校時代の同級生で現役の美大生、かつ関東美術学院で講師をする居沢と付かず離れずの関係にとどまっている。しかし、居沢の父親が病没し、居沢が家業を継ぐために九州に行ってしまうことを知ると動揺を隠せなかった。

柚原 チカ (ゆずはら ちか)

魚住陸生の高校時代の同級生。陸生が高校2年のときに恋人同士になるが、4か月で陸生を振った。真面目な生徒だったが男性関係にはだらしない一面があり、卒業時に振られた男性たちによる被害者の会があったほど。大学に進学し、卒業後は電機メーカーに就職するが半年で退職してしまう。 その後はバイトを転々としながら、幼いころから嗜んでいたピアノを活かしてバンド活動も始める。しかしバンドに入ると複数の男性メンバーと関係を持つようになり、そのバンドは必ず解散してしまうため、界隈で破壊王との異名を取るようになった。コンビニでバイトする陸生の存在には少し前から気づいていたが、家賃滞納でアパートを追い出された際に陸生のもとを訪れ居候させてくれと頼み込む。 居候時に陸生が高熱を発し寝込んでいた際、偶然野中晴と森ノ目榀子が連れ立って陸生のアパートを訪問。悪気なくチカが応対したことで、3人の関係が動き始める。その後、職を見つけ陸生のもとを去ったが、のちに再登場。再度、3人の関係を動かす役目を担う。

福田 タカノリ (ふくだ たかのり)

魚住陸生と森ノ目榀子の大学同期で友人。陸生とは異なりまっとうに就職するが、卒業後も何かと陸生のアパートを訪れていた。榀子が東京に戻ってきていることを伝えたり、写真ギャラリーでのバイトを紹介したり、陸生の人生に影響を与える。徹底したリアリストであり、経済的合理性の観点から早々に結婚を決めた。 学生時代は趣味に没頭する面もあり、熱帯魚飼育に夢中になったり、バイトに明け暮れてミニクーパーを購入したりした過去も。しかしミニクーパーは結納金調達のため売却してしまう。陸生の人生相談に乗ったり一方的にアドバイスしたりすることがあるが、そうした際はリアリストの視点から厳しい意見を述べることが多い。 なお物語冒頭では陸生に総一と記された名刺を渡すシーンが描かれるが、のちに登場した際にはタカノリとなっていた。これは総一表記を忘れていたためで、タカノリが正式な名前であると作者インタビューで明かされた。

居沢 (いざわ)

関東美術学院のバイト講師で、現役の美大生でもある。もともと九州の出身で、高校受験時に上京した。高校では狭山杏子と同級生で、美大に進むか普通の大学に進むか悩んでいた際、美大を選ぶようアドバイスされる。その言に従い、5浪のすえに美大に合格。ちなみに高校の卒業式の日、杏子に告白したが振られてしまう。 しかしその後も杏子への気持ちは変わらず、彼女がMILK HALLをひとりで切り盛りするようになった後には関東美術学院で贔屓にするなど、その力になるよう努めた。ながく杏子と付かず離れずの関係をしていたが、大学院に進学しようか悩んでいたときに、九州で染物屋を営む父親が倒れ、病没。 その結果、実家に戻って家業を継ぐことを決意する。

雨宮 (あまみや)

現役の美大生で、関東美術学院でバイト講師を務める。MILK HALLからの出前で関東美術学院に出入りする野中晴を気に入り、MILK HALLに通うようになった。紳士的な態度で晴に接し、陸生との関係に悩む晴からも一定の信頼を置かれるように。もともとは長野の母子家庭で育った。 ある冬、母親が、再婚予定の相手を車で迎えに行ったときに事故に遭い死亡。再婚予定の相手は雨宮を引き取ると申し出たが、結局、伯母夫婦の養子になり横浜に引っ越した。再婚予定の相手にはみもりという名の娘がおり、みもりは雨宮に想いを寄せている。みもりからはユウちゃんと呼ばれているが、詳細なファーストネームは不明。

みもり

獣医を目指して大学進学し、上京して来た女性。実家は長野県で動物病院を経営している。母親がおらず、父親は雨宮の母親と再婚予定で、本来雨宮とは義理の兄弟になる予定だった。しかし、再婚間近で雨宮の母親がみもりの父親を車で迎えに行った際、事故に遭い死亡。みもりの父親が引き取る話が出たが、雨宮は伯母夫婦の養子になった。 一度は兄弟になる予定だったものの、雨宮にずっと恋をしている。儚げでかわいらしい容姿をしているが、野中晴に対して雨宮への気持ちをはっきり伝えるなど、大胆な一面を持つ。

莉緒 (りお)

高名な画家・上岡紫成の専属モデルだが、上岡紫成が日本を離れているさい、早川浪の通う美大でモデルをすることになり浪と知り合った。浪とは一緒に飲みに行く程度の間柄だったが、魚住陸生と森ノ目榀子が付き合い始めたことを知った浪が、ほかに頼る相手を思いつかず転がり込んでそのまま同棲するように。 登場時は24歳だが、13歳までローマで暮らしていた帰国子女。イタリアに残った母親が現地で再婚することになり、日本でのモデル稼業に見切りをつけイタリアに戻ることを決意した。その際、浪に一緒にイタリアに行かないかと誘う。

木ノ下 (きのした)

魚住陸生がフリーターをしていたコンビニの先輩。陸生とはシフトが重なることが多く、親しくなった。陸生、野中晴、森ノ目榀子、早川浪の人間関係を外から見つめる。自身はバンドマンであり、インディーズながらCDをリリースするほどで、動員もそこそこ。しかしバンドのメンバーが、現状に満足していることに次第に苛立ちを募らせていった。 その後、コンビニと掛け持ちでライブハウスでバイトをはじめる。陸生が写真スタジオで正社員になりコンビニのバイトを辞めることになったのと時を同じくして、ツアーミュージシャンとしての道を歩み始め、コンビニのバイトを辞めた。

木ノ下 楼子 (きのした たかこ)

木ノ下の妹で女子高校生。学校で撮影している短編映画の音楽を担当してほしいと木ノ下に依頼をするため、魚住陸生もアルバイトしているコンビニまで来た事で陸生とも顔見知りになる。気が強く、一度決めたら絶対に曲げない性格の持ち主。高校生にしては大人びた容姿をしており、狭山杏子には20歳と嘘をつき、杏子が経営する喫茶店「MILK HALL」でアルバイトをしても実年齢がばれる事はなかった。

早川 湧 (はやかわ ゆう)

故人。早川浪の兄で、家が隣同士だった森ノ目榀子の幼なじみでもある。生まれつき心臓に欠陥があったため病弱。榀子にはつっけんどんな態度を示してばかりだったが、心の底では互いに深く結ばれていた。しかし高校3年時、症状が悪化し病没してしまう。死後も榀子の心の大きな部分を占め、ある意味において彼女の行動を縛り続けることになる。

秋本 陽子 (あきもと ようこ)

野中晴の母親。中学校で国語教師をしている。晴が祖父(陽子の父にあたる)の遺した一軒家で暮らすことを認めるなどやや放任主義なきらいがあるが、母娘の仲が悪いわけではない。晴の父親と離婚したときに晴を引き取るが、晴が野中姓を名乗り続けることを許した。その後、再婚するが、その相手が性質の良くない男だったため、2度目の離婚に。 このときの失敗が晴の恋愛観に悪影響を及ぼしたのではないかと思い悩む。晴が魚住陸生と再会したころ、大学の先輩で同じ中学で働く川島省悟と3回目の結婚。なお、作中初期では表札に秋本陽子と掲げられてるシーンが描かれているが、作者インタビューやキャラ紹介などが収められた『イエスタデイをうたってEX』では「晴の本名は秋元」とされている。

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