帝都女記者伝 写・らく

帝都女記者伝 写・らく

文明開化以後の明治時代の東京を舞台に、手描きイラスト主体の新聞社で働く絵師兼記者の女性が、さまざまな猟奇的事件の謎と真相を追う。当時の史実を織り交ぜながら描かれる猟奇ミステリー物語。西洋化に伴って台頭した男勝りの主人公を狂言回しとした、歴史漫画としての側面も持つ。「モーニング」2001年17号から2002年2・3合併号にかけて不定期に掲載された作品。

正式名称
帝都女記者伝 写・らく
ふりがな
ていとおんなきしゃでん しゃ らく
作者
ジャンル
歴史IFもの
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概要・あらすじ

帝都の夜にアーク灯が灯った文明開化の明治時代初頭、1人の男が記事に抗議するため、新聞社「東京繪入世相新聞」の社屋を訪れた。男の言い分を確かめるために、牢獄の被疑者に面会した女性記者の朝日奈楽は、事件の裏にある悲壮な真実を知ることとなる。これをきっかけに、自身が手掛ける絵入り新聞が、世間ではキワモノ扱いされていることを理解しながらも、楽には庶民に真実の報道を伝えるという、正義の新聞記者としての使命感が芽生えるのだった。

そしてその後も、楽は次々に起きる猟奇的事件を追って活躍することとなる。

登場人物・キャラクター

朝日奈 楽 (あさひな らく)

新聞社「東京繪入世相新聞」の挿絵絵師兼記者。元士族の姫だが、文明開化を機に絵の才能を活かせる職業として、新聞の挿絵絵師を選択した。同時に、好奇心旺盛で男勝りな性格のため、難事件の真相を探る新聞記者となった。剣術の使い手で、普段は髪を短髪にした男の格好で取材にあたる。

山の内 信吾 (やまのうち しんご)

もともとは江戸の旗本の三男坊。明治維新後に東京の巡査となった。朝日奈楽とは幼なじみで親しい間柄。楽からはいつもやりこめられており、三尺の警棒を持って警らにあたっているので、「三尺棒」と冷やかされている。

俵屋 三太夫 (たわらや さんだゆう)

江戸時代に朝日奈家に御用人として仕えていた老人。明治維新後は東京は牛込の「市ヶ谷囚獄役所」で獄舎の看守をしている。囚人には厳しくあたるが、朝日奈楽の前では彼女を「姫」と呼び、まったく頭が上がらない。

荒畑 観山 (あらはた かんざん)

新聞社「東京繪入世相新聞」の主幹で、同新聞の編集長を兼ねる中年男性。朝日奈楽の絵師としての才能を買っており、彼女を「今様の写楽」と評価しているほど。博学のインテリで、ジャーナリストとしての使命感と大衆娯楽という、両者のバランスを考えた紙面作りを信条としている。

根本 (ねもと)

新聞社「東京繪入世相新聞」の編集者を務める青年。坊主頭で、ずんぐりとした体型をしている。朝日奈楽の先輩社員で、新聞に掲載する猟奇事件の低俗な絵に関しては、それを喜んで読む読者こそが低俗である、という割り切った考えのもとに誌面作りをしている。

中津井 (なかつい)

新聞社「東京繪入世相新聞」の編集者を務める青年。朝日奈楽の先輩社員で、いつも彼女をからかってばかりいる。もとは武士階級の出身だけに、剣法や腕利き剣士などの情報に長けている。廃刀令後に帯刀できず、自分の身が軽くなったことを嘆いている。

藤倉 新之介 (ふじくら しんのすけ)

上級武士の跡取り息子として生まれた青年。幼なじみながら、身分の違いにより離れ離れとなったお久美を一途に想い続ける、真面目で一本気な性格。事件を起こしたお久美の身を案じ、新聞社「東京繪入世相新聞」に駆け込んで来る。

お久美 (おくみ)

貧乏な下級武士の娘として育った薄幸の女性。明治維新後は病床に臥す夫を養うために、「夜鷹」と呼ばれる下賤な娼婦にまで身を落とした。藤倉新之介とは幼なじみで、かつては想いを寄せ合った仲。隅田川のほとりで劇的な再会を果たす。

土井 南人 (どい なんと)

銀座の書店「湖南堂」の主人。山の内信吾の知人の青年。探偵小説を好む本の虫で、この時代には極めて珍しいシャーロック・ホームズのマニア「シャーロキアン」を自称する。普段は陽気だが、外科医を目指していた学生時代に、女性問題で放校になったという暗い過去を持つ。

桐野 利秋 (きりの としあき)

元陸軍少将で、伝説の人物。西南戦争では自ら前線に立ち、西郷軍仕官として指揮を執って官軍と激戦した。かつては「人斬り半次郎」と異名をとった剣の達人で、薩摩示現流の使い手の男性。戦死したはずだが、夜な夜な姿を現しては政府の要人を襲っている。実在の人物、桐野利秋がモデル。

川又 猿鵞鳥 (かわまた えんがちょう)

明治時代初期に人気を博した女形の歌舞伎役者。役者となった最初の頃は「三文役者」と呼ばれて蔑まれる存在だったが、その後に人気が急上昇。政財界の大物の旦那衆が贔屓筋となり、新人ながら楽屋では一人部屋を与えられるまでに成長する。

春駒太夫 (はるこまたゆう)

吉原随一といわれた売れっ子の花魁。店に来た初見の若い男性客と相思相愛になり、2人で駆け落ちをする。逃走中に追って来た女衒が殺害されたため殺人の嫌疑をかけられ、その後に消息を絶ってしまう。

国政 亀次郎 (くにまさ かめじろう)

絵入新聞「浮頼亭」の男性記者。朝日奈楽のライバル。ゴシップネタを得意とし、強引な取材方法と、顔の刀傷と目付きの悪さによって「ゴロツキ記者」と毛嫌いされている。そのため誤解されやすいところもあるが、朝日奈楽に情報を提供する一面もある。

高根沢 進 (たかねざわ すすむ)

明治政府の外務高官の男性。井上馨の懐刀と言われ、明治維新後の鹿鳴館外交の影の中心人物。日本の文化財が海外に流失していることを憂慮する、真面目な愛国者でもある。美しい妻の高根沢華子が自慢の愛妻家。

高根沢 華子 (たかねざわ はなこ)

高根沢進の妻。洋装がよく似合い、文字通り鹿鳴館外交の美しい華と謳われた美貌の麗人。夫の命を受けて、鹿鳴館での外国人との舞踏会にたびたび参加している。鹿鳴館では横暴な外国人と日本の外交的立場との狭間に立たされて、窮地に陥る悲劇の女性。

ジェームズ・ジョンソン (じぇーむずじょんそん)

イギリスで貿易会社の社長をしている英国人の中年男姓。日本の文化財や美術品を収集し、それらを金儲けの手段にしようとしている強欲な悪徳商人でもある。鹿鳴館外交では日本側に無理難題を吹っかけて、外交の場を混乱させる。

井上 馨

明治政府で外務卿を務める高級官吏の男性。明治維新後の鹿鳴館外交を推進し、それまで西洋先進国主導で結ばされてきた国辱的な不平等条約を解消して、日本が欧米列強と肩を並べるべく尽力する。高根沢進に全幅の信頼を寄せている。実在の人物、井上馨がモデル。

日高 新太郎 (ひだか しんたろう)

海軍士官で、長身で凛々しい眉と精悍な顔つきの好青年。取材で知り合った朝日奈楽と恋仲になる。巡洋艦「浪速」が任官艇。艦長で海軍大佐の東郷平八郎を尊敬している。清国との海戦直前に出航となり、日本を離れる。

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