花園メリーゴーランド

花園メリーゴーランド

田舎の集落で引き継がれている「夜這い」の風習を偶然知ってしまった少年と、この地域でどうすればいいのか困惑していた少女が出会い、成長していく物語。民俗学的な検証が多くなされた作品で、成年式や村の性のあり方、乱痴気騒ぎの様子は、民俗学者・赤松啓介の研究をベースにしている。

正式名称
花園メリーゴーランド
ふりがな
はなぞのめりーごーらんど
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あらすじ

1巻

先祖代々伝わる刀「烏丸」がどうしても欲しくて、春休みに旅に出た中学3年生の相浦基一。父の故郷である谷竹村へ向かうバスに乗っていたが、うっかり寝過ごしてしまい、徒歩で村を目指すことにするが、日も暮れて道に迷ってしまう。そこに偶然バイクで通りかかった澄子に助けられ、柤ヶ沢という小さな田舎の集落にたどり着いのだった。澄子の実家が営んでいる民宿「まさがや」で1泊したが、財布を落としたことに気づき、親に現金書留を頼むことになる。

夜が明けて、谷竹村の寺を訪ねるが、「烏丸」の行方はわからなくなっていた。探して見つけたら連絡をくれるということになり、相浦は再び柤ヶ沢へと戻るしかなかった。戻る途中、車を運転するサキに会い、車に乗せてもらう。そのままサキの家が営む雑貨屋でお茶をご馳走になっていると、その場にいたヤエカナら主婦たちに無理矢理ズボンを脱がされ、性行為に及びそうになる。突然のことに気が動転した相浦は、その場を逃げ出し「まさがや」へと帰ると、今度は澄子の母・みづえが性行為を求めてきた。すんでのところで事なきを得たが、この村の異常さに怯える相浦であった。

翌日、民宿の手伝いを頼まれた相浦だったが、牛舎の掃除の仕方がわからなかったため、みづえがいるというお宮へ向かう。犬に吠えられたはずみでお宮内へ入ってしまった相浦は、村人たちの拒絶の視線に震える。慌てて戻った「まさがや」では、今度は村人たちの宴会が始まってしまい、騒がしさから逃れて相浦は澄子の部屋で食事を取る。そこで二人はお互いに「ザ・ブルーハーツ」が好きなことを知り意気投合する。

一刻も早くこの村を出たい相浦は、澄子の祖母から借りたお金を手に、大雪の中を車に乗せてもらい、バス停を目指した。しかし途中の橋が雪で倒木にあって通行止めになっていたため、しかたなく「まさがや」へ戻ることになる。戻った相浦に「まさがや」の面々は、口々に「まだいたのか」と辛辣な言葉を投げかけるのであった。

2巻

相浦が「まさがや」に戻ってきてしまった日の翌日は、村の特別な行事が行われる日だった。澄子の祖母に部屋から出るなと言われていた相浦だったが、澄子がお守りを落としたことに気づき、それを届けようと澄子の後を追って家の外に出てしまう。澄子のことが気になった相浦は、裏口から家の中に入り、そこで澄子の初体験の現場を覗き見てしまう。それに気づいた澄子に枕を投げつけられ相浦は家から逃げ出し、サキに助けを求めるべく公民館を目指した。

足を踏み入れた公民館では、まさに筆下ろしの儀式が始まろうとしていた。よそ者には見られてはいけない風習だったが、昔、よそ者も儀式に参加することで事なきを得たことがあったということで、相浦も参加することになる。その翌日、相浦は幸枝に会い、彼女がこの村の風習を忌み嫌っていることを知る。その後「まさがや」に戻ると澄子が待っていて、昨日なぜあの場面を見たのかと問い詰められる。やけになった澄子は服を脱ぎだし、相浦と無理矢理結ばれようとするが、相浦はこれを強く拒否してしまう。

そのまた次の日、澄子は谷竹村まで行き「烏丸」を手に入れて戻ってきた。しかし相浦に対してわだかまりを覚えていた澄子は、相浦の目の前で橋の上から「烏丸」を川に投げ込んでしまう。冬の冷たい川で必死に「烏丸」を探す相浦だったが、いつしか風邪をひいてその場に倒れてしまう。偶然車で通りかかった幸枝に助け出され、幸枝の部屋で介抱されて意識を回復した相浦は、幸枝の家にいることを「まさがや」に電話で報告する。その際、電話に出たマサシから幸枝の妹に夜這いをかけたいから協力してほしいと頼まれるのであった。

3巻

相浦はマサシに頼まれたとおり、幸枝の妹の部屋のドアノブに目印の輪ゴムをつけたが、このことは幸枝の妹に気付かれており、輪ゴムは幸枝の部屋のドアノブに付け替えられていた。そうとは知らないマサシは間違えて幸枝の部屋に侵入し、幸枝の布団に潜り込んできた。異変に気づいた幸枝は激しく抵抗し、マサシに続いて相浦も家から逃げ出す。相浦はそのまま「まさがや」に戻り、澄子に「烏丸」を捨てたことの文句を言おうと思ったが、澄子は玄関を開けてはくれなかった。そこで相浦は裏口から家に入り、いろいろなことで混乱していたためか、みづえに甘えるつもりが襲いかかってしまう。侵入してきたのが相浦だと気づいたみづえは、一晩中優しく相浦を受け入れるのだった。

翌日、相浦は川で「烏丸」を探していた。気がつくと、すぐ近くでこちらを見ている澄子の姿があった。澄子は昨夜の相浦と母との行為に気づいており、しかしこの村の風習を受け入れてくれたような気がして少し嬉しかったと言った。少し澄子との距離が縮まったかに思えたが、そこで相浦の身を心配して柤ヶ沢までやってきた春子と出くわしてしまう。相浦と春子が親しそうにしているのを見た澄子は、嫉妬心からか、相浦が自分の母親とセックスしたと春子に言い放ち、そのまま川に入って行ってしまう。澄子のことを放っておけない相浦は、川まで入っていって澄子を止め、そのまま成り行きで春子とともに「まさがや」に泊まることになってしまう。

川に入ったことで風邪が悪化した相浦を、春子は部屋で看病していたが、雑貨屋に買い物に行ったときに、性に奔放な村の人々を見て困惑してしまう。そして澄子のことも警戒し、相浦に近づけないよう振る舞う。夜になって病状が回復してきた相浦は、廊下で偶然会った澄子に「烏丸」の所在について尋ねるのであった。

4巻

澄子に「春子が寝たら部屋に来て」と言われた相浦は、言葉通りに春子が寝静まるのを待って澄子の部屋を訪ねる。「烏丸」は澄子が回収していたが、澄子は服を脱ぎだして強引に関係を結ぼうとしてくる。抵抗しつつも澄子と繋がってしまったところに、相浦を探しに来た春子が部屋に入ってくる。澄子は春子に罵倒されるが、「烏丸」を振り回した澄子に退出を促され、相浦とともに部屋を後にする。春子は相浦にも不信感を覚えるのであった。

次の日は村の祭で、「まさがや」の人間は既に出払っていた。「烏丸」とおぼしき刀は神社の奥に置かれており、部外者が入ることはできないようだ。いろいろ歩き回った挙げ句、ようやく神社に入ることができた相浦の前に澄子が現れる。しかし、またもや二人の気持ちはうまく噛み合わず、逆上した澄子によって相浦は神社に閉じ込められてしまう。神社にあった「烏丸」は、偶然それを見つけた幸枝の妹によって、春子のもとに届けられていた。いよいよ春子はこの村の人間の奇妙な拒絶感に恐怖を覚えていた。

5巻

ついに祭が始まり、相浦が閉じ込められていた神社に、面を被った男衆たちが侵入してくる。相浦は見つからないようにしていたが捕らえられ、神社の木に縛り付けられてしまった。相浦を探しに来ていた春子も村人たちに捕らえられ、倉の中に閉じ込められていた。数刻経った頃、相浦の前に幸枝が現れ、相浦の告白によってマサシの夜這いの件の誤解は解くことができた。しかし、祭の最中であるため解放することはできないという幸枝に相浦は噛みつき、強引に縄をほどかせて逃げ出した。その後、「烏丸」と面を手に入れ、倉に捕らえられた春子を解放しようと奔走する。

倉の鍵を持った者を探しているうち、相浦は酒を飲まされて前後不覚となってしまい、気づけば森の中ではあちこちで男女が睦み合っていた。偶然会った女性に興奮した相浦は、女の姿を求めて森の中をさ迷う。そして面を被った女を見つけ、欲望に突き動かされるままにその女に襲いかかった。だがその女の正体は澄子であった。そしてついに相浦と澄子は、自分たちの気持ちに応えるかのように結ばれる。幸せだったのも束の間、澄子が落とした倉の鍵を見つけ、相浦は澄子を置いて逃げ出した。

倉から春子を助け出し、自分たちの荷物も回収して村境の橋を目指す相浦。しかし村の風習を口外してほしくない村人たちは、必死の形相で相浦たちを捕らえようとする。真夜中の森の中、逃げる者たちと追う者たちの攻防戦が繰り広げられていくのであった。

登場人物・キャラクター

相浦 基一 (あいうら きいち)

先祖代々伝わる刀、「烏丸」を手に入れるため、春休みに父の故郷である谷竹村へと向かう。ところが途中バスを乗り過ごしてしまい、とても小さな集落・柤ヶ沢の民宿「まさがや」に泊まるはめになる。柤ヶ沢は生殖器崇拝が盛んな地域で、日常的に性行為を配偶者以外とも行う、夜這いの風習が続いている地域だった。 宿泊した宿のみづえからは何度も夜這いを迫られ、この集落に疑問を感じるも、豪雪が続き帰ることがままならなくなってしまいう。地域に根づいた秘事「おこもり」という、性教育としてのセックス交換の風習にも巻き込まれ、童貞を喪失。一方で、探していた烏丸は澄子によって川に捨てられてしまい、集落に残るはめになる。 春子が迎えに来た後も、澄子とのわだかまりが残ってしまい、帰ることがままならない。ついには、外部の人間がいてはならない祭の日まで村に残ってしまうことになる。

澄子 (すみこ)

柤ヶ沢の民宿「まさがや」の長女。谷竹村に辿りつけず道に迷っていた相浦基一を自宅に連れて行く。非常に寡黙で、最初はなかなか笑顔を見せないが、相浦が落としたコンタクトレンズを一人で探すほど、誠実な少女。地域の風習に変なところがあると感じており、外部から来て困惑している彼に、次第に好意を寄せるようになる。 しかしこの地域に根付いた秘事の性教育風習で、年上の男性に処女を奪われる。以降、軽蔑されたかもしれないという羞恥心と、この集落を馬鹿にしないでほしいという地元意識との狭間で、相浦に行き場のない感情をぶつけるようになる。彼の宝物「烏丸」を捨ててしまったあとは、さらに嫉妬心が強くなり、冬の川に飛び込んだり、逆夜這いをかけるなど、過激な行動を取るようになった。

マサシ

柤ヶ沢の民宿「まさがや」の長男。澄子の弟でタケシの兄。いがぐり頭の13歳。この集落の生活にはすっかり馴染んでおり、夜這い相手を品定めしている。澄子が相浦基一のことを好きなのではないかと見抜く。幸枝の妹への夜這いを決行しようとして、相浦に協力を求めてくる。

タケシ

柤ヶ沢の民宿「まさがや」の次男。澄子とマサシの弟。まだまだあどけない少年で、村の習慣などにも疎く、相浦基一にみづえの行き先を尋ねられた際も素直に教えてしまう。

みづえ

柤ヶ沢の民宿「まさがや」を営む女性で、澄子、マサシ、タケシの母親。村の外に働きに出ている夫に代わって、民宿を切り盛りしている。困っていた相浦基一を迎え入れ、優しくもてなす。ある夜彼の布団に忍び込んで、性行為に持ち込もうとする。相浦が集落の性教育を受けた後、価値基準がわからず混乱してしまった時、やけくそになった彼とセックスをして落ち着かせた。

澄子の父 (すみこのちち)

パンチパーマですごみのある容姿の男性。村の外に働きに出ていたが、相浦基一が村を訪れて数日後、祭のために帰省してきた。澄子との血縁はないが、澄子が男性恐怖症なのを知っており、泣かせるような相手に対しては容赦しない。

サキ

柤ヶ沢で雑貨屋を営んでいる女性。元気がよく、竹を割ったような性格で、お姉さん気質の28歳。車でよく走っていて、相浦基一を車に乗せるなど、接触する機会も多い。相浦が秘事を覗いてしまった際、くじで彼の性教育としての筆下ろしの相手になる。

ヤエ

「柤ヶ沢の不良」と呼ばれる成人女性たちのムードメーカーで、いつも飲んではみんなで大騒ぎしている豪快な女性。相浦基一がはじめて来た時にサキを脱がせてセックスさせようとしたこともある。

カナ

柤ヶ沢の不良成人女性たちの一人。相浦基一が集落で作業していた時に、彼を誘惑して外でセックスをする。

幸枝 (さちえ)

メガネをかけた知的な女性。普段は埼玉の中学校の教員をしており、柤ヶ沢の風習には激しい違和感を感じている。しかし村の性教育の習慣を外に漏らすと、それは児童福祉法にひっかかることを知っており、誰にも言えず苦しんでいる。相浦基一と出会い、村のことで悩んでいるならカウンセリングにも応じると提案する。しかし、マサシの夜這い事件をきっかけに、相浦のことを軽蔑するようになる。

春子 (はるこ)

柤ヶ沢に閉じ込められた相浦基一から、電話で助けを求められる。バスでこの村に降り立ったとき、ちょうど相浦が「烏丸」を澄子に投げ捨てられたところであった。村人の奇行に文化の違いを感じ、嫌悪感を覚えたため、早く相浦と村を出たいと願っている。村を脱出した後、この村での経験をもとに、マンガ家・柏木ハルコとしてこの作品を描いた、としている。

場所

柤ヶ沢 (けびがさわ)

他の地域から切り離されたところにある小さな集落で、隣近所がみな家族のような生活を送っている。かつてこの地域の城主が、敵に攻められて落城した際の隠れ里だったという。そのため、昭和の初め頃まで他の地域との交流もなかった。 生殖器崇拝が古くから盛んで、現代でも夜這いの習慣が残っていたり、街のどこででも性行為をするのが普通。誰が誰の子供かも曖昧な地区。ただ、外にこの地域の風習が漏れることは、皆非常に恐れている。

まさがや

柤ヶ沢で澄子の母親・みづえが切り盛りする民宿。道に迷った相浦基一を最初に泊めることになった。この地域の風習に混乱していた相浦は、乱痴気騒ぎをする女性たちに嫌気が差した澄子と、彼女の部屋でこっそり心を通わせるようになる。

その他キーワード

烏丸 (からすまる)

相浦基一の家に代々伝わる刀。谷竹村の桂隆寺に保管されており、どうしても見つけたい相浦はそれを探しにいく。ところが見つかった後、ムキになった澄子が先に取って、川に投げ捨ててしまう。

サクラタケ

軽い毒性のあるキノコ。とある伝承にもとづいて、柤ヶ沢ではよそ者にこれを食べさせ、体に異常が起きなければ、その者と性行為に及んでも良いとされている。相浦基一も村に着いた初日に、みづえによって食べさせられた。

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