ANIMAL X

ANIMAL X

謎の伝染病が流行し、世界の人口は減り続けていた。そんな中、人類とは異なる進化を辿ったダイナソーロイドの少年と、新薬の治験と騙されて、ダイナソーロイドとの生殖が可能な両性体に身体を作り変えられてしまった青年が出会う。やがて世界を巻き込む種族の対立に巻き込まれながらも、共生への可能性を求めて戦う二人を描いたSF作品。「増刊ASUKAミステリーDX」1991年秋の号から1992年新年特大号、「ミステリーDX」1992年3月号から1993年6月号、1994年に発売された「ANIMAL XオリジナルCD・BOOK」1から4、「Chara」1997年10月号から2004年6月号にかけて掲載された。

正式名称
ANIMAL X
ふりがな
あにまるえっくす
作者
ジャンル
その他SF・ファンタジー
レーベル
あすかコミックスDX(KADOKAWA)
巻数
全4巻完結
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あらすじ

荒神の一族(第1巻~第2巻)

遠藤ケミカル・メディカル・リサーチ・センター東北に勤める青年の鮎川裕司は、恩師の田所博士の勧めに従い、新薬の治験に参加していた。そんな裕司の前に、ダイナソーロイドの少年、浅羽湊が現れる。そこで裕司は湊になぜか女扱いをされ、彼の生まれ故郷である牛隈村に連れ去られてしまう。ここで裕司は貴重な雌として扱われ、解放してほしいと主張するたびに、暴力を振るわれる理不尽な扱いを受ける。そんな中、高熱を発した裕司は、4日間床に伏したあとに目覚めたところで、自身の身体の変化を自覚する。混乱する裕司に、湊は村の住人すべてと性交する事を強いる。そこへ北の白河族の四兄妹、白河旭白河辰也白河柾白河摩耶が率いる一団が現れ、雌を出すように要求。断った牛隈村の住民は殺され、村は焼き払われ、湊は郷里を失う事となってしまう。裕司は村が攻撃を受ける中、自分を逃がそうとした湊の支えになる事を決め、彼と共に生活を立て直すが、そこへ湊と同族と名乗る、沖縄で暮らす男達が現れる。雌の取り合いを避けるため、村同士は本来絶縁状態を保っており、牛隈村が攻撃されたのはどこかの村が裏切ったせいだ、と彼らは告げる。そして同族で団結すべきだとの古老の予言に従い、女を迎えに来たのだと言う。裕司はその誘いを受けるが、行った先で「宗教法人自然会」としての体面を保ちつつ、人と共生を目指す安里島比嘉銀次に、島に残って島民の血脈をつないでほしいと迫られる。湊は裕司を共有したいとの申し出を巡って銀次と対立。そこへ再度、摩耶達が襲撃し、古老に裕司の身柄を引き渡すように要求する。古老はその要求を拒み、混乱の中、老衰による死を迎えてしまう。襲撃者から人の信者を守り切った比嘉達は、元凶の田所博士と直接交渉を望む裕司達に、古老の遺言に従って古文書と石板を託し、ダイナソーロイドに理解を示す研究者の平塚昭生に解読してもらうよう依頼する。

こうして裕司は、遠藤ケミカル・メディカル・リサーチ・センター九州支部へ向かう事になった。そこで、直接田所博士と対面した裕司は、自分達を追うのを止めなければ、自分の身体を作り変えた一連の実験をマスコミに公表すると脅すものの、逆に捕えられてしまう。その後、裕司は遠藤ケミカル・メディカル・リサーチ・センター九州支部からの脱走を図るが、途中でX症候群が人為的なバイオハザードである事を知る。白河の兄妹達は人間の不法投棄が原因の複合環境汚染により、生まれつき疾患を抱え、奇形・短命で生まれる、未来のない村の長の一族であった。彼らは一族の存続をかけて田所博士の計画に乗り、人為的に作った雌を得る契約を交わしていており、裕司の身柄を求めていた。しかし、裕司と湊を追ううちに、摩耶は年齢も近い同族の湊に固執し、戦う事に執着を示すようになっていく。そして平塚を探して北海道に来た裕司と湊は田所博士に所在を突き止められ、湊は摩耶と戦って相討ちとなってしまう。その後、裕司は田所博士の管理下に置かれるが、その時には逃亡生活のあいだに湊に恨みを抱いたやくざの幹部、高取に囚われて強姦された時か、湊と一度だけ身体を重ねた時の子を身ごもっていた。田所博士は次に旭の子を産ませる計画を立て、妊娠期間中に裕司を手懐けるようにと旭を派遣する。しかし裕司は密かに脱走の機会を窺っており、それに平塚も手を貸していた。共に過ごすうちに裕司に好意を抱くようになった旭の協力も得た裕司は、遠藤ケミカル・メディカル・リサーチ・センター関係者が独占していたX症候群のワクチンを奪い、助けに現れた湊と共に去っていく。

大地の掟(第3巻)

ワクチンが流通するようになり、X症候群の流行は沈静化されつつあった。鮎川裕司浅羽湊は、田所博士の研究施設から助け出された借りを返すため、比嘉銀次の目指す沖縄の村の復興に力を貸す。そこへ柚ノ木大学の平塚昭生から紹介された、見城という青年が現れ、裕司を手伝い始める。しかし、見城は裕司が出産した子供を狙ってやって来たダイナソーロイドだった。そうとは知らない比嘉や裕司達の復興作業にも問題点が山積していた。裕司は一人目の出産が難産で、以降の出産は身体がもたないと診断されており、比嘉達は協力の見返りに裕司の卵子を提供してほしいと詰め寄っていた。しかし裕司と湊は互いを唯一の伴侶と思っており、それに同意する事は心情的に難しかった。そんな中、見城が沖縄の「血族」達から浮いてしまっている湊への疑惑が高まるように細工し、それがきっかけとなり、不満を募らせていた過激化した一団に裕司がさらわれて強姦されかける。混乱に乗じて、見城は目的を果たそうとするが、裕司の産んだ子は人間の子で、しかも既に里子に出されていた。

同族の庇護を受けるには、雌としての責務を果たす必要があり、それは裕司の負担となるため、湊と裕司は二人だけで暮らそうと、故郷の牛隈村を目指す。しかし、途中でウイルス感染が変異を続け、未だに人を苦しめている事を知った裕司は、研究者の募集に応募する。だが、そこは裕司の大学時代の先輩である北村所長が取り仕切る施設で、ダイナソーロイドを研究の対象としながら、投薬により変身能力を奪って従属させている場所だった。湊はそこで用心棒として飼いならされているダイナソーロイド達から、表向きは恭順しているが、施設の乗っ取りと研究者すべての殺害を計画していると聞かされ、研究者側と同族とどちらに付くのか決断を迫られる。裕司も湊を恋人と公言した事で、研究者達から浮いた存在となってしまい、ダイナソーロイド達からは、雌として子を成すための存在としてまたも狙われる事となる。

原始再来(第4巻~第8巻)

鮎川裕司浅羽湊は、ダイナソーロイド保護区で暮らし始める。しかし、人類とダイナソーロイドの共生への一歩と思われたその暮らしは、原因不明の疫病がダイナソーロイドに広まり始めた事で一変する。サマリー症候群と命名された熱病はダイナソーロイドの変身制御機能を損ない、暴走させてしまうとの症例が報告される。無差別に人を襲い始めた罹患者を警戒し、人類はダイナソーロイドへの弾圧を強めていく。対立は激化し、人はダイナソーロイドに少数民族と同等の人権を認めていたが、その権利を縮小しようとの動きを見せ始める。不安な世情の中、「少数民族の保護」を掲げながら、裏でダイナソーロイドの自由を奪って管理しようとするグローバー財団が台頭。そんな中、裕司と湊の娘であるが、貴重な研究サンプルとしてグローバー財団に目をつけられ、さらわれてしまう。

世界各地を訪ねて回って手掛かりを探す中、グローバー財団のレセプションに潜入した裕司は、そこで高取に再会する。高取は湊の行方を吐かせるために裕司を強姦した過去があり、裕司はその時の子供を生まれてすぐに里子に出していた。裕司の抱える事情を調べ上げた高取は、彼への過去の行いを謝罪し、協力と正式に妻として迎え入れる事を申し出る。やくざから足を洗い、大手建設業者として財力と社会的地位を得ていた高取は湊の不安定な立場を指摘し、人として生きる事の幸せを説くが、裕司は湊やダイナソーロイドとの共存の可能性を探り、結を探す困難な旅を続ける事を選ぶのだった。しかし、危険な旅を続けるうちに裕司の身体は衰弱していく。協力者として同道する事になった白河旭は、そんな裕司の姿に心を傷めるが、裕司が湊と共に在る事を望む限りは見守り、サポートに徹しようと決意していた。裕司は行く先々で貴重な雌のダイナソーロイドとしての責務、子孫を残す事を迫られ、あるいは人工の雌の身体を穢れだと罵られながら過ごす事を強いられていく。だが、そんな幾多の困難を乗り越え、ついに裕司と湊はダイナソーロイドの人権を認めようとする活動を根付かせ、結とも再会を果たす。しかし、それは束の間の平和に過ぎなかったのである。

登場人物・キャラクター

鮎川 裕司 (あゆかわ ゆうじ)

遠藤ケミカル・メディカル・リサーチ・センター東北に勤務していた若い男性。27年間男性として生きてきたが、上司である田所博士にビタミン薬の治験と騙され、服用した薬によって両性具有の身体に変化させられた。幼い頃から優柔不断な性格で、気が優しく、かつて結婚を約束した幼なじみの柳沢杏子には、女々しいと怒られる事が多い。 両性の身体に変化させられた事がきっかけで浅羽湊にさらわれ、ダイナソーロイドの存在を知る事となり、人類とダイナソーロイドの確執に巻き込まれていく。ダイナソーロイドは遺伝子欠陥により雌が極端に少ないため、赴く先々で比嘉銀次に求愛され、白河旭からは結婚の申し込みを受け、申竜には排卵誘発剤を盛られて人工的に盛りを迎えさせられるなど、多くの性的アプローチを受ける。 湊が手下のやくざ者を殺してしまった事をきっかけに、幹部の高取に拉致されて強姦された時に子を成したが、安全のためにと養子に出している。しかし、その子供は幼くして亡くなっており、裕司の知らぬ間に被検体扱いされて冷凍保存されていた。のちに実業家に転身した高取から妻に迎えたいと申し込まれたが、湊との生活を望んでそれを辞退。 その後、公私共にパートナーとなった湊とのあいだに女児の結を授かるが、貴重な生体サンプルとしてグローバー財団にさらわれてしまう。柔和な性格だが、それは他者を理解しようと歩み寄る意識が強いためであり、ダイナソーロイドと人の共存の道をつねに探している。 自分から強く主張する事は少ないが、納得できない事には、暴力を振るわれても屈しない強さを内に秘めている。料理や繕い物も自分でこなす器用さを持つ。

浅羽 湊 (あさば みなと)

最も純粋なダイナソーロイドの血族の若い男性。作中で17歳の少年時代から21歳の青年まで成長する。強靭で、再生能力の強い身体を持っている。牛隈村の出身で、村で生まれ育ち、社会勉強のために暮らした東京でやくざ者を四人殺害した事で捕まり、護送中に逃げ出した先で鮎川裕司と出会う。やくざ者を殺した事で、関西系暴力団矢口組の幹部、高取から追われる事となる。 湊は裕司を故郷の牛隈村に連れ帰るが、裕司の身柄を求めて現れた白河摩耶らの襲撃により牛隈村は壊滅し、故郷を失う。実験の結果両性の体となり、ダイナソーロイドと人両方の子供を宿す事ができるようになった裕司を、当初は子作りの道具としか見ていなかったが、行動を共にするうちに彼を理解したいと思うようになり、やがて無二の伴侶となる。 摩耶との戦いで死んだと思われていたが、左腕と右目を失いながらも生還し、裕司を助けに現れる。裕司とのあいだに女児の結を授かるが、グローバー財団にさらわれてしまい、奪還するために足跡を辿り、世界中を訪ねて回った。ダイナソーロイドの社会や風習、価値観の中で育ってきたため、裕司が成人男性として社会経験を積んで来た事に時に引け目を感じたり、価値観の相違で衝突したりもする。 しかし根底では裕司に好意を寄せており、誰にも渡したくないと強く思っている。東京にいた時には店のレジから金銭を奪って暮らし、人の社会の仕組みを理解し切れていないところがあったが、次第に学んで馴染んでいく。

柳沢 杏子 (やなぎさわ きょうこ)

鮎川裕司の婚約者で、幼なじみでもある若い女性。裕司と同じく遠藤ケミカル・メディカル・リサーチ・センター東北に勤めていた。ミディアム丈の黒髪ソバージュの髪型をした、思い切りのいい性格の人物。昔から優柔不断な性格の裕司を心配しており、彼の柔和な性格への心配やもどかしさから、男に生まれたんだからと、裕司の性格を非難するような言葉を投げ掛けていた。 のちに、これまで裕司に言って来た事が彼を傷付けていたかもしれないと思い至る。

田所博士 (たどころはかせ)

遠藤メディカル・リサーチ・センターに勤めている初老の男性。鮎川裕司と同じ大学を出た先輩で、裕司にビタミン剤の治験だと偽って投薬実験に参加させ、ダイナソーロイドの子供を妊娠する事が可能となる身体へと作り変えた。動物実験の段階で裕司に服薬させたと、本人の前で悪びれずに公言。目的のためなら手段を問わない過激な考えの持ち主。 北海道に集落を築き暮らしていたダイナソーロイドの一族、白河旭、白河辰也、白河柾、白河摩耶達と人工的に雌を作り出して種族を存続させる計画を立て、その実現に向けて指揮を執っていた。実は田所博士自身も、変身能力を持たないタイプのダイナソーロイドだった。

白河 摩耶 (しらかわ まや)

白河の娘で、若く美しい女性。北のダイナソーロイドの集落の首長を務めている。突然変異種で、高い戦闘能力を誇るが、生殖能力を持たない。変身すると、腕が4本の奇形の身体のダイナソーロイドの姿になる。田所博士と組み、白河旭、白河辰也、白河柾ら三人の兄と共にダイナソーロイドの血統を残そうと計画していた。 好戦的な性格で、浅羽湊と鮎川裕司を追い詰める事を楽しんでいた。ダイナソーロイドの中でも若い世代に生まれ、年が近い湊に対し、その純粋な血統にあこがれと嫉妬の混じった感情を抱いて固執している。北海道で湊と戦い、敗れて亡くなっている。

白河 辰也 (しらかわ たつや)

白河の息子で、次男の若い男性。北のダイナソーロイドの集落の首長を務めている。色覚異常を持って生まれた突然変異種。田所博士と組み、兄の白河旭、弟の白河柾、妹の白河摩耶らと共にダイナソーロイドの血統を残そうと計画していた。計画の中で作られた両生具有の存在である鮎川裕司を妻に迎える予定だったが、安里島で浅羽湊と戦って敗死する。

白河 旭 (しらかわ あきら)

白河の息子で、長男の若い男性。北のダイナソーロイドの集落の首長を務めている。生まれつき目が弱く、色を識別できない。日差しの強い土地では、サングラスを掛けなければ目を傷めてしまうくらいに視力が弱い。田所博士と組み、弟の白河辰也、白河柾、妹の白河摩耶らと共に、自分達の暮らす北の集落の血を後世に残すために活動していた。 田所博士から人工の雌、鮎川裕司を三人の兄弟の伴侶として譲渡してもらう計画だったが、浅羽湊と裕司を巡って戦う事となり、戦闘を重ねているうちに、弟の辰也や柾、妹の摩耶に先立たれてしまった。のちに目の治療を受け、色覚異常から回復する。田所博士から保護した裕司と子供を作るように言われ、施設で共に過ごすうちに、本心から裕司に恋愛感情を抱くようになる。 しかし裕司は湊に一途なため、報われないと知りながらも裕司の苦境を放っておけず、ドラムヘラーへ行ったり、中国まで裕司の求めている情報を伝えに行くなど、献身的に協力している。

白河 柾 (しらかわ まさき)

白河の息子で、三男の若い男性。北のダイナソーロイドの集落の首長を務めている。生まれつき色覚異常を持っている。田所博士と組み、兄の白河旭、白河辰也、妹の白河摩耶らと共に、自分達の暮らす北の集落の血を後世に残すために活動していた。田所博士から人工の雌、鮎川裕司を三人兄弟の伴侶として譲渡してもらう計画だったが、裕司を巡って浅羽湊と対決する事となる。 沖縄の安里島を襲撃した際に、兄の辰也を湊に殺されて以来、仇を討とうと湊を付け狙っていた。大分で、逗留していた鮎川裕司と湊を追い詰めたが、返り討ちに遭って命を落とす。

比嘉 銀次 (ひが ぎんじ)

沖縄本土の沖合にある安里島に住むダイナソーロイド。がっしりした体格の青年で、血族の未来を考え、人と共生の道を取ろうとしている。古老の指示で安里島に招いた鮎川裕司の事を、浅羽湊を殺してでも手に入れたいと望むが、裕司を巡って戦い、敗れた事で、以降は二人の協力者に徹する。

古老 (ころう)

100歳を超える高齢となり、寝たきりになっている両性具有のダイナソーロイド。手かざしで人を癒す事や、見えないものを見る事ができる。今や人間のあいだに疫病が蔓延し、人類の未来がないと感じた田所博士が、ダイナソーロイドとの混血により、お互いの種を永らえようとしているのではないかとの考察を、鮎川裕司に語って聞かせた。 その裕司を追って現れた白河摩耶は、古老が血族の歴史そのものだと語り聞かされていたため対話を望み、雌である裕司を差し出すようにと交渉した。しかし、その要求を拒んだあとに天寿をまっとうする。

平塚 昭生 (ひらつか あきお)

古モンゴロイドやオーパーツの研究家の中年の男性。学者であり文筆家でもある。古代文字にも詳しい。安里島を何度も訪れ、ダイナソーロイドの存在に理解を示している学者でもある。その活動実績を見込まれ、古老の遺言により、古文書と石板を託された。大分県の柚ノ木大学に在籍していたが、保守派の学長と意見が合わず、辞職。 書籍の印税で北海道に家を購入しており、そこで古文書や文化人類学の本を執筆しようとしていた。田所博士とは同期で、研究者としての実力実績は認め合っていた。白河旭が族長を継いだ北海道の集落にも調査研究に幾度も足を運んでおり、旭とも交流があった。鮎川裕司、浅羽湊と知り合い、二人のために元嫁の沢田陽子のツテも駆使して情報を集め、巨大なグローバー財団の陰謀を暴くのに力を貸す。

見城 (けんじょう)

平塚の紹介で鮎川裕司のもとに手伝いにやって来た青年。しかし、その正体は海棲生物のダイナソーロイドで、裕司が女児を出産したとの情報を得て、その子の身柄を狙って、身分を詐称して紛れ込んだ。沖縄の比嘉銀次が束ねる集落に裕司と浅羽湊が匿われているものの、馴染みきれていないのに付け込み、湊に濡れ衣を着せて混乱を生じさせ、子をさらう目的を達成させようとする。 しかし産んだ子供は人間で、既に里子に出されていると知り、裕司の事を身持ちが悪いと嘲る。だが、自分のように好奇の視線をわが子に浴びせられたり、わが子を研究対象にされる立場に置きたくなかったと語る裕司に、僅かながら共感を抱き、害を与える事はしなかった。浅羽湊と戦って敗れたが、命までは奪われずに見逃された。

豊田 均 (とよだ ひとし)

鮎川裕司とパソコンネットを介して知り合った研究者の中年の男性。X症候群で妻を亡くし、遺伝子研究所でワクチン開発に明け暮れるうちに、偶然ダイナソーロイドの変身抑制作用を持つ薬剤のもととなる物質を発見する。それがDIP社の北村所長の目に止まり、北村は保護したダイナソーロイドにその薬を投与し、飼い殺しにしてしまった。 その事で北村は共犯者だと主張し、豊田均を縛っている。DIP社の医療チーム主任で、強引な北村のやり方に耐えかねて、裕司と浅羽湊を追いこむなと苦言を呈したが、言いくるめられてしまった。

北村所長 (きたむらしょちょう)

DIP社の福井県にある施設の所長を務めている若い男性。肩に届くくらいの長さの髪をセンター分けにしている。部下の豊田均とパソコンネットを介して知り合った、鮎川裕司を雇用した。ちなみに裕司の大学時代の先輩でもある。大規模な施設の所長を任され、北村所長自身は一大プロジェクトを仕切っていると思っている。 しかし実際は近くにある原発の安全性啓蒙のための施設で、北村所長のポストもいいかげんなもの。そうとは知らず、自身の考えに異議を唱えるものを論理武装でやりこめ、保護したダイナソーロイドに対し、依存性の高い変身抑制剤を処方して警備員として雇用し、すべてを自分の好きなように管理している。義手を作る事に長けていて、浅羽湊の左腕のメンテナンスを引き受けるのと引き換えに、優れた血統を持つ湊を、自身が惚れこんでいるK-01の伴侶にしたいと考えていた。 声が大きく、自分に盾突く事を許せない性格で、湊に精子を提供させようとしたのを拒んだ裕司を疎んじ、施設内のダイナソーロイドに性対象として共有させる事を黙認していた。もともとバイオメカトロニクス研究をしており、より筋肉に近い義手義足を作る計画に携わっていたため、その技術は研究者のあいだでも一種の天才と評されていた。 湊の目と腕に当分メンテナンスが必要だと主張し、裕司と湊を足止めしていた。田所博士の論文で描かれている、二つの種を生かした新たな社会を作る事を夢見ていたが、心を通わせていると思っていたK-01に殺される。

井関 (いぜき)

DIP社で変身抑制剤を投与され、飼いならされているダイナソーロイドの青年。しかしその薬は痛覚を麻痺させ、依存性の高いもので、やがて命にかかわる副作用をもたらす事を知り、北村所長ら研究員を皆殺しにしようと活動を始める。北村所長が個人的に好感を抱いていたK-01と一度だけ遠目に出会っており、それ以降、K-01から研究所の内部データを、種族間だけで共有できる共鳴を使って送ってもらっていた。 浅羽湊に、仲間に加わらないかと誘いをかけたが、断られている。真逆の考えを持つ湊の事は嫌ってはいなかったが、研究所の人々を鮎川裕司と共に守ろうとした湊と戦って敗死した。

K-01 (けいぜろわん)

ダイナソーロイドの若い女性。生殖機能は備わっているが、染色体異常のため、心肺および内臓に重度の障害を抱えており、衰弱の一途を辿って寝たきり状態になっている。北村所長から好意を寄せられており、北村所長にはお互いに分かり合っていると思わせていたが、実は施設の中のダイナソーロイドに共鳴で知り得た情報を共有させ、裏切りの計画を進めていた。 クローンを作成され、オリジナルのK-01のほかにもう一体クローンが存在している。研究者のあいだでは、ジーンバンクやDNA研究用に生かしてあるだけの存在とされていたが、北村所長はK-01に私的に本を贈ったり、議論を交わしたりするのを楽しみにしていた。

リネア

ドラムヘラー大学に通う21歳の女子大学生。母親はアジア人のグエン・バン・ミン、父親がスウェーデン人のハーフ。だが、それはグエンの噓で、実はホーチミンで養子縁組された西洋系の孤児である。グエンに引き取られ、グエンが研究のテーマとしているダイナソーロイドと人間の遺伝子融合を実現するために、優秀なダイナソーロイドの遺伝子を注入されている。 そのため、身体能力や知性は人並み以上で、投げつけられたナイフを摑んで投げ返したり、建物の4階から飛び降りるなど常人離れした身体能力を誇る。ちなみに「リネア」の名は北欧の花の名前に由来する。一度心に決めた事はやり通す強靭な意志と、強い行動力を持つ。非常勤講師としてドラムヘラー大学にやって来た鮎川裕司に恋愛感情を抱き、猛烈にアプローチを開始。 のちにダイナソーロイドの血清を定期的に摂取しなければ死んでしまう身体のアリ・サカティと偶然出会い、二人で協力して、グエンの後ろ盾であるグローバー財団の非人道的な研究の内情を世界に向けて発信した。

(ゆい)

鮎川裕司と浅羽湊の娘。上にもう一人、父親の違う人間の姉がいたが、里子に出されたシンガポールの養子センターで、1歳1か月の時にすでに亡くなっている。幼い身でグローバー財団に研究目的でさらわれてしまい、親と離れて養育されている。レノ・シュトルムは婚約者のデルフィーヌに、結の事は孤児で我々の娘として育てるため引き取ったと紹介している。 グローバー財団の傘下の研究機関所属のグエン・バン・ミンが貴重なサンプルとして手元に置く事に固執していたが、中国で一度看護婦の裏切りにより浅羽湊の手に戻された。しかし、それからすぐにグローバー財団にダイナソーロイドの仲間を人質に取られた事で、再び結を引き換えに差し出さざるを得なくされた。 親元から離されたストレスからか発育が遅め。

グエン・バン・ミン (ぐえんばんみん)

リネアの育ての母ともいえる中年の女性。研究にすべてを捧げており、リネアの事を心配する過保護な母親のように振る舞っていたが、実際は無断で奥歯にGPSを仕込んで行動を監視し、娘の身体を使ってダイナソーロイドのDNAを移植して、人の身体能力の向上を図って人体実験をしていた。娘の事はグエン・バン・ミンなりに愛情を持って接してはいたが、人の情は研究の阻害だと感じるほどに研究を至上のものとしている。 アジアの貧しい小国に生まれ育ったと、ステイン・フォシュバーグの後任で所長の座に就いた時の就任スピーチで述べている。DIP社に所属していた過去がある。

テッド

リネアに恋愛感情を抱いている青年。ドラムヘラー大学に通う大学生で、リネアが恋愛感情を抱いている鮎川裕司に嫉妬し、黒板消しを落とすなどのいたずらを仕掛けて嫌がらせをしていた。リネアに好意は受け取ってもらえないまま、サマリー症候群の急激な流行により人とダイナソーロイドの対立が激化し、ダイナソーロイドの襲撃を受けた大学構内で、裕司を助けたが、ダイナソーロイドにかみ殺されてしまう。

ケイス・フィギス (けいすふぃぎす)

黒髪の中年の男性。対ダイナソーロイドの特殊部隊、BAMを率いている。瀕死の状態の時にダイナソーロイドの血清を接種し、強化された肉体を持って蘇ったが、公的には殉職した扱いにされている。ハンサムで感じのいい雰囲気を漂わせている。もともと妻子ある身だったため、BAMの隊員のユーリャ・スビリアから好意を寄せられているが、本人はそれに応じる気持ちはなかった。 だが隊員すべての命をつなぐための血清の支給が滞り、身体にも不調が現れだした事で先がないと知り、ユーリャの気持ちに応えた。ベトナムでダイナソーロイドの武装集団と戦い、命を落とす。

ウー・チャン (うーちゃん)

対ダイナソーロイドの特殊部隊、BAMのメンバーの中年の男性。瀕死の状態の時にダイナソーロイドの血清を接種し、強化された肉体を持って蘇ったが、公的には殉職した扱いにされている。体格がよく、任務に忠実で生まじめな人物。鮎川裕司の身柄を確保した際に、命を救われた組織、グローバー財団の恩義に報いるために動いていると行動理念を語ったが、裕司に自分の頭で考えなければ歯車と同じだ、と言われて逆上し、手を上げた。 裕司とリネアの身柄を確保する任務の遂行中に反撃され、頭を撃たれた事で死亡する。

ユーリャ・スビリア (ゆーりゃすびりあ)

対ダイナソーロイドの特殊部隊、BAMのメンバーの若い女性。瀕死の状態の時にダイナソーロイドの血清を接種し、強化された肉体を持って蘇ったが、公的には殉職した扱いにされている元女性警官。リーダーのケイス・フィギスに一途な恋愛感情を抱いている。無口で、寂し気な雰囲気を漂わせている。ベトナムでダイナソーロイドの武装集団と戦い、命を落とす。

ニコレ・カルバルホ (にこれかるばるほ)

対ダイナソーロイドの特殊部隊、BAMのメンバーの白人の若い男性。瀕死の状態の時にダイナソーロイドの血清を接種し、強化された肉体を持って蘇ったが、公的には殉職した扱いにされている元警官。オールバックで、目つきがきつい。思った事をポンポン口にし、好戦的で、仲間が負傷していても敵を追い詰める好機であれば、戦闘を優先するような性格。 ベトナムでダイナソーロイドの武装集団と戦い、命を落とす。

アリ・サカティ (ありさかてぃ)

対ダイナソーロイドの特殊部隊、BAMのメンバーの若い男性。瀕死の状態の時にダイナソーロイドの血清を接種し、強化された肉体を持って蘇ったが、公的には殉職した扱いにされている元警官。色黒の青年で、ロウ・ツェイと仲はよかった。ベトナムでダイナソーロイドの武装集団と戦った時に、ほかの仲間はすべて死んでしまい、一人生き延びてリネアと共に仲間の復讐を計画する。

バイロン・ハスキン (ばいろんはすきん)

対ダイナソーロイドの特殊部隊、BAMのメンバーの中年の男性。瀕死の状態の時にダイナソーロイドの血清を接種し、強化された肉体を持って蘇ったが、公的には殉職した扱いにされている元警官。妻帯者で子供もいた。ベトナムでダイナソーロイドの武装集団と戦い、命を落とす。

ロウ・ツェイ (ろうつぇい)

対ダイナソーロイドの特殊部隊、BAMのメンバーの若い男性。瀕死の状態の時にダイナソーロイドの血清を接種し、強化された肉体を持って蘇ったが、公的には殉職した扱いにされている元警察官。ユーリャ・スビリアに恋愛感情を抱いている。しかし、ユーリャがチーフのケイス・フィギスを好きな事を知っており、願いを叶えてやりたいとも思っている。 感情が豊かで、生き返らせるなら感情も取ってくれればよかった、と悩んで苦しんでいる。ベトナムでダイナソーロイドの武装集団と戦い、命を落とす。

ステイン・フォシュバーグ (すていんふぉしゅばーぐ)

中年の男性。対ダイナソーロイドの特殊部隊、BAMのメンバーの産みの親でもある。人間にダイナソーロイドの血清を与える事で人を強化できると考え、瀕死状態に陥った警官に対して生検実験し、彼らをBAMとして組織した。人間に興味は抱いておらず、人間以上の存在になれるマテリアルを手に入れる事ができたと、サマリー症候群のワクチンを独占している。 しかし、かつての教え子のグエン・バン・ミンに研究実績であっという間に上回られ、功名に焦るあまり、結をさらってサマリー症候群の血清、クレアシオンを独占しようとしてケイス・フィギスに射殺される。

レノ・シュトルム (れのしゅとるむ)

若い男性を装っていたが、両性体の若いダイナソーロイド。グローバー財団の実力者。被検体として著しく不自由な環境に置かれていたが、内部から組織を乗っ取り、グローバー財団を築き上げた。デルフィーナの婚約者だが、それは彼女の父親の影響力を利用するための計画の一つに過ぎなかった。浅羽湊が世界で最も純潔の血族と知り、湊とのあいだに子供をもうけたいと願っている。

沢田 陽子 (さわだ ようこ)

平塚昭生の元妻の中年の女性。現在は離婚し、東京の有楽町にあるビルに拠点を構える新聞社に勤めている。平塚が鮎川裕司、浅羽湊に協力し、さらわれてしまった二人の娘、結の行方につながる情報を調査してほしいと言ってくるのに応じ、さまざまな情報を渡している。娘の麻理恵が結婚を控えているため、危険な事に近づいてほしくないと思っている。 離婚して10年にもなるが、平塚との関係は悪くはなく、娘の結婚の支度のために二人で準備していた。お互いが仕事が好き過ぎて別離状態になったと割り切っている。

ダンクル

上院議員を務める中年男性。次期大統領候補。娘のデルフィーナが摂食障害で苦しんでいたが、みっともないと怒るばかりで、彼女の事をいっさい構っていなかった。デルフィーナが婚約者として連れて来たレノ・シュトルムの素性が不明な事を不審に思っており、調査を重ねていた。しかし、嗅ぎまわっていた事をレノに知られ、逆にロボトミー手術を施されて自我を失い、車椅子が手放せない身体にされてしまった。

デルフィーナ

若く美しい女性。上院議員を務めるダンクルの娘。摂食障害で100キロ以上も体重があった時期がある。レノ・シュトルムの手助けによりダイエットに成功した事で、レノの事を信頼し切っており、レノと婚約している。ダンクルはデルフィーナの事をみっともないと怒るばかりで、優しさや理解を示そうとした事がなく、親子の愛情が感じられない環境で育った。 レノが結を自分達二人で育てようと引き取った孤児だ、と紹介したのを鵜呑みにして喜び、結婚もまだの段階で子供用のおもちゃを大量に買うなど、盲信しがちで、夢見がちな性格をしている。

麻理恵 (まりえ)

若い女性。平塚昭生と沢田陽子の娘。鮎川裕司と浅羽湊の子供、結がさらわれ、平塚は情報を探ったりと裕司と湊のために協力していたが、麻理恵の結婚話が持ち上がり、結納の支度などで一旦別行動となった。結婚後ほどなくして子供を授かり、平塚と沢田も呼び、お宮参りをしている。

高取 (たかとり)

中年の男性。元やくざで、関西系暴力団矢口組の幹部を務めていた。のちに建設会社の重役になり、グローバー財団とコネクションを築いて一人娘のX症候群を治療したいと手を尽くしたが、ワクチンの出現を待たず、娘を亡くす。やくざ時代に鮎川裕司と浅羽湊が同行していた時に湊に手下を殺されたため、報復目的で裕司をさらい、湊の居場所を吐かせようと強姦した過去がある。 グローバー財団の日本進出計画を合併事業として進めており、日本のレセプション会場で潜入していた裕司に再会する。湊と裕司の子供の結がさらわれている事、その子のほかに高取の子供を産んだが里子に出した事を知り、裕司と湊に協力して子供の行方を探す旅に同行する。

申竜 (しんろん)

ダイナソーロイドの青年。年齢は25歳。故郷に血族のための学校を作りたいと願っている。翼竜に変身できるダイナソーロイド。自分の育った村でサマリー症候群の実験をされていた事を知り、グローバー財団の中国ホテルでのレセプション会場に乗り込み、ダイナソーロイドの人権とコミュニティの容認を認めるように、メディアを乗っ取り、TV放送を使って主張した。 しかしその時の映像は手を回されて発表前に回収され、公にされていない。会場にいたF・レスター教授の書いた絶滅種対策計画のルポルタージュを読んでおり、会えて光栄だとにこやかに挨拶している。鮎川裕司と浅羽湊に協力的だったが、ホテル会場での放送テロ行為を湊が止めに来た事で、湊は人間に寄り過ぎていると警戒した。 身体の弱っていた裕司に、滋養強壮剤だと偽って催淫性のある排卵誘発成分を含んだ漢方薬を飲ませ、自分の村のダイナソーロイド複数人相手と、血族の掟に従って性交するように仕向けた。しかし、裕司は一途に娘の結の身を案じ、平和に暮らすためにはダイナソーロイドと人の共生が不可欠だと、すべてを許容しようとする。 その姿勢に心を打たれ、裕司に恋愛感情を抱くようになる。

F・レスター教授

各方面に人脈の豊かな中年の男性。シドニー市長とは竹馬の友で親しい。「サイエンス」誌で絶滅種対策計画のルポを書いた。ロースクールも出ており、法律の知識もある。少数民族の保護活動に力を注いでおり、かなりの熱血漢で、精力的に活動を行っている。中国でテロを起こした申竜と出会って以降、彼に好意を寄せている。人権活動に情熱を注ぐ熱血漢で、ダイナソーロイドの権利の確立に手を尽くし、さまざまな働きかけを行った。

ドウック・ハン (どうっくはん)

ダイナソーロイドの若い男性。ベトナムで暮らしている。左目の下に傷がある。サマリー症候群が発生し、それを恐れた人間に焼かれた村に住み、酒の密造などで資金を稼いでいるマフィア。ビジネスのために日本語や中国語、フランス語、英語も習得している。人間が嫌いで、殺す事を何とも思っていないが、浅羽湊が人を殺すのを止めるように意見してきた事には耳を傾けた。 兄と仲がいい。派遣されて来たBAMと戦い、兄のドウック・チアムを逃がしたが、命を落とした。

ドウック・チアム (どうっくちあむ)

ダイナソーロイドの若い男性。ベトナムで暮らしている。ドウック・ハンの兄。たくましい体格の弟と違い、ごく標準的な成人男性の体格をしている。サマリー症候群が発生し、それを恐れた人間に焼かれた村に住み、酒の密造などで資金を稼いでいるマフィア。地雷を踏んだ足を適切な医療機関に治療してもらうのが遅れたため、浅羽湊と鮎川裕司が娘の結を探して訪ねて来た時には衰弱しており、弟のハンはこのまま死んでしまうと思っていた。 しかし裕司が看病して、きちんとした治療を受ければ治ると言われる。BAMの襲撃を受けて村は消失し、弟のハンも戦闘で死んでしまったが、その後シー・フエンのもとで治療を受け、回復していく。

シー・フエン (しーふえん)

ダイナソーロイドの若い男性。ベトナムで暮らす医師。浅羽湊が娘の結を取り戻すのに協力する見返りに、鮎川裕司を同行していた白河旭、申竜と湊とで共有したいと申し出た。それがベストな判断だと考えていたのだが、結果として裕司や湊の関係をぎくしゃくさせてしまった。頭の回転が速く、損得勘定のうまい人物だが、デリカシーに欠ける性格をしている。

タイラ

オーストラリアの先住民、アボリジニのダイナソーロイドの中年の女性。体格がよく、大きな声でしゃべる、陽気で親しみやすい性格をしている。浅羽湊のさっぱりした性格をかわいいと気に入り、鮎川裕司に一晩湊を貸してほしいと言ってきたりするなど、ストレートに考えや感情を表に出す。子供を10人産んでいるが、全員がグローバー財団にさらわれており、世界情勢が落ち着くまでは子供を作るのは止めた、と湊に語っている。

集団・組織

関西系暴力団矢口組 (かんさいけいぼうりょくだんやぐちぐみ)

高取が幹部を務めている暴力団。東京で八人の組員を浅羽湊に殺された事で、報復のために湊を探していた。

BAM

対ダイナソーロイドの特殊部隊。殉職した優秀な警官達で構成されている。ステイン・フォシュバーグが手掛け、実戦投入していた。以前の記録は抹消されてしまい、家族には殉職したものと伝えられている。メンバーはケイス・フィギス、アリ・サカティ、ニコレ・カルバルホ、ウー・チャン、バイロン・ハスキン、ロウ・ツウェイ、ユーリャ・スビリアの7名。 遺跡の名から取った部隊名だが、グエン・バン・ミンは、その名前は「死者の街」の意味だと口にしている。定期的に血清を打たねばならない身だが、それと引き換えに、ダイナソーロイドほどではないが、再生能力などを持ち合わせ、高い身体能力を得ている。職務に従事しているあいだに、次第に身体に不調が現れ、部隊ごと証拠を隠滅されてしまった。

グローバー財団 (ぐろーばーこーぽれーしょん)

アメリカの霊長類研究所が大規模化できた資金源となっている財団。LIVESと言うファーストフードのチェーン展開で巨額の資金を得ている。「オーガニック素材で全世界に健康を提供する」をうたい文句に、今世紀最も成功したといわれるビジネス展開を進めている。ハイレベルのバイオ技術を有しており、遠藤ケミカル・メディカル・リサーチ・センターやDIP社も買収し、傘下に組み込んでいる。

場所

遠藤ケミカル・メディカル・リサーチ・センター (えんどうけみかるめでぃかるりさーちせんたー)

大手製薬会社。鮎川裕司と柳沢杏子は、この会社の東北に所在する建物に勤めていた。九州にも支部があり、裕司はそこで研修していた期間もある。田所博士が陣頭指揮を執り、バイオエシックス、つまり生命倫理の観点から、人類とダイナソーロイドを一つにしようとの計画を秘密裡に進めていた。ただ一人のダイナソーロイドの人工の雌の成功例である裕司を逃がしてしまい、のちにグローバー財団の傘下に吸収された事で、研究実績もすべてグローバー財団に吸い上げられてしまった。

牛隈村 (うしくまむら)

ダイナソーロイド達の暮らす村。浅羽湊が生まれ育っている。「石女のおがちゃ」と呼ばれる老女と、村長が村を取り仕切っていた。遠藤ケミカル・メディカル・リサーチ・センター東北から約100キロの位置にある。田所博士の収集したデータによると、人口約50名、面積4平方キロだった。湊が鮎川裕司を招いた事で白河旭、白河辰也、白河柾、白河摩耶らの襲撃を受けて焼き尽くされてしまった。

安里島 (あさとじま)

ダイナソーロイドの村がある島。比嘉銀次が暮らしている。戦後急速に過疎化が進んだ事で、20年前までは無人島だったが、古老が琉球中のダイナソーロイドに声を掛けて呼び寄せて村を作った。この島には40人ほどのダイナソーロイドがいて、古老が村民を治めているが、「宗教法人自然会(じねんかい)」に属する人間の信者とも共存している。古老の住む御嶽(うたき)にはユタ(巫女)とクヴァンサー(巫女の手助けをする中年女性)が共にいて、神に仕えている。

DIP社 (でぃーあいぴーしゃ)

バイオスフィアを傘下に抱える科学技術系のベンチャー企業。福井県に70年代に設立され、小国家並みの経済力を保持している。早くからホリスティック医療やバイオエレクトロニクスに着目し、地球規模の環境保全活動戦術の一つとして、野生生物の保護繁殖を提唱してきた集団。バイオスフィアの目的の一つとして、人口生命体の完成をあげている。 北村所長はバイオスフィアJ管理主任の役職で、福井県のバイオスフィアのトップの座に就いていた。そこではボディーガード兼警備員としてダイナソーロイドを雇用している。海外から来たものも含め、ダイナソーロイドはコロニーを作って生活し、どんなものでも何不自由なく暮らせているが、悪くもないがよくもないと、井関は口にしていた。 筋弛緩と変身抑制作用のある常習性の強い薬の摂取を、ダイナソーロイドに義務付けている。しかし福井のバイオスフィアは、世界中の科学者や著名人を集めたシンポジウムの開催中に、ダイナソーロイドに反乱を起こされて壊滅的な被害を受ける。電気系統もダイナソーロイドに掌握されてしまい、満足な初期回避行動がとれなかった。 事件発生後、暫く閉鎖される事となった。福井県に造られていた北村所長のバイオスフィアは、実のところ近隣の近くにある原発の安全性啓蒙のための施設で、会社としてはそれほど重要視していない施設だった。

ドラムヘラー

カナダのアルバータ州にある町。浅羽湊と鮎川裕司が暮らしていた。恐竜の骨が発掘された事で、道路標識から街で売っているお菓子の形まで恐竜を模し、観光の目玉として復興した町。リネアとその母親のグエン・バン・ミンが暮らしている。平塚昭生とドラムヘラー大学の考古学部長が知り合いで、その縁で裕司は講師の職を得た。 ダイナソーロイドの保護区があり、少数民族と等しく扱われて職業訓練も受けられる環境が整っていた。しかしダイナソーロイドのあいだで熱病が流行し、人は熱で変身制御が利かなくなって暴れたダイナソーロイドを恐れ始めた。ダイナソーロイドは、ウイルスを人間がばらまいた、とのデマに踊らされて市街地を襲った事で、閉鎖地区となってしまった。

その他キーワード

X症候群 (えっくすしょうこうぐん)

世界的に猛威を振るっている謎の疫病。全米だけで10万人以上の感染者を出していると噂されていた。日本にもかなりの数の感染者が存在する。宇宙から来たウイルスとの説まで飛び交っていた。しかし実際は遠藤ケミカル・メディカル・リサーチ・センターが作ったウイルスで、人為的に作られたバイオハザードだった。猛威を振るっていたが、鮎川裕司がワクチンを持ちだし、流通させた事で沈静化された。

ダイナソーロイド

恐竜が進化した種族で、人とは異なる進化の道を辿った存在。己の意志で恐竜の姿に変身可能で、中には申竜のように翼竜に変身するものも存在する。興奮すると、自制が利かずに変身してしまう事もある。自分達でもいつから存在しているか不明確なくらいに古くから続いて来た種族。日本書紀などに記載されている荒ぶる神で、「荒神」とも呼ばれていた。 女性が生まれにくいという遺伝的欠陥を抱え、近親婚を繰り返さざるを得ず、生まれつき奇形の子供が増えた事で種族として衰退しつつある。浅羽湊や、白河旭、申竜らは自分達の事を指して「血族」と呼ぶ事が多い。特色は並外れた筋力・反射神経・生命力。血族の村は雌の取り合いを避けるため、基本的に絶縁状態で暮らしている。 コウモリやイルカなどど同じく、人に聞き取れない周波数で闇の中が見えたり、お互いに意志の疎通もできる。変身できないものは、人の社会で人のように暮らす事を余儀なくされ、仲間内からは無用のものと思われている。田所博士がまとめた資料の文言では、ダイナソーロイドと名付けられており、グエン・バン・ミンは「恐竜人間」とも呼んでいる。

実験体 (じっけんたい)

田所博士が手掛けた、ダイナソーロイドの繁殖に最適な生命体。鮎川裕司が実験体としてあてはまるが、裕司以外に成功例はない。最適なのは染色体XXYの男性であり、裕司は騙されて後戻りできない身体に作り変えられてしまった。高槻医科大学に保管されていた資料を読み、裕司はその事を知る。遠藤ケミカル・メディカル・リサーチ・センターはのちにグローバー財団の傘下に置かれ、研究資料はグローバー財団にすべて掌握される事となった。

サマリー症候群 (さまりーしょうこうぐん)

ダイナソーロイドの間で流行っている熱病。罹患すると高熱を発し、変身を制御する機能が低下する。暴走してしまったダイナソーロイドが人を襲い、人類との対立が深刻化するきっかけとなったもの。人は既に抗体を持っているが、人を介してダイナソーロイドに有害なウイルスに進化してしまった事実は、グローバー財団により意図的に隠蔽されている。 加えてグローバー財団は人には有害ではない事を故意に隠蔽し、人類を怯えさせ、対立を煽った。

クレアシオン

サマリー症候群に効果がある血清。鮎川裕司と浅羽湊とのあいだに生まれた娘の結の血から、裕司が生成した。しかし、結はのちにグローバー財団にさらわれ、財団は血清のレシピを独占して流通を管理するようになった。ステイン・フォシュバーグがグローバー財団傘下の研究所で作ったとされ、フォシュバーグにより仏語で「創造」の意味を持ち、人類とダイナソーロイドの未来を創造する意味の「クレアシオン」と名付けられた。

書誌情報

ANIMAL X 全4巻 KADOKAWA〈あすかコミックスDX〉

第1巻

(2019-04-24発行、 978-4041081495)

第2巻

(2019-04-24発行、 978-4041081501)

第3巻

(2019-05-24発行、 978-4041082751)

第4巻

(2019-05-24発行、 978-4041082768)

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