海賊とよばれた男

海賊とよばれた男

戦後日本を舞台に、出光興産創業者である出光佐三をモデルにした主人公、国岡鐡造の生涯と、彼が興した企業「国岡商店」が倒産寸前の状態から復活していく姿を描いた歴史ドラマ。小説『海賊とよばれた男』のコミカライズ作品で、「イブニング」'14年6号から連載。原作は百田尚樹。

正式名称
海賊とよばれた男
ふりがな
かいぞくとよばれたおとこ
原作者
百田 尚樹
作画
ジャンル
時代劇
 
自伝・伝記
 
その他歴史・時代
関連商品
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世界観

本作『海賊とよばれた男』は、実話を基にした歴史と経済を扱った作品となっている。主人公の国岡鐡造をはじめ、登場人物の大半は出光佐三と出光興産にゆかりのある実在人物をモデルに描かれており、モデルになった人物を知ると、さらに作品への理解を深めることができる。また、コミックス内には「海賊とよばれた男 THE TRUE RECORD」と題し、作中で描かれる実際に起きた出来事について補足する解説コーナーもある。そのため、本編と「海賊とよばれた男 THE TRUE RECORD」を併読することで、出光興産の歩みと、戦後日本の歴史も学ぶことができる。

時代設定

本作『海賊とよばれた男』は、国岡鐡造が生まれた明治18年以降の日本が舞台。主に昭和20年8月以降の、鐡造が莫大な借金を抱えた「国岡商店」を立て直すため奮闘する姿が描かれている。また、作中では鐡造の若き日のエピソードとして、明治38年、神戸高商(現在の神戸大学)を卒業した鐡造が、「酒井商会」での勤務を経て「国岡商店」を軌道に乗せるまでの「青春編」も描かれる。

あらすじ

第1巻

1945年8月。日本は敗戦国となり、国民は将来に強い不安を感じていた。国岡鐡造が店主を務める石油販売会社、国岡商店もまた、海外の営業所を失い、莫大な借金を抱える事態に陥っていた。しかし鐡造は店員達を叱咤激励し、どんなに経営が厳しくとも、一人の馘首(解雇)も行わずに国岡商店を生き返らせると宣言する。そこで鐡造は、まずは国策会社、石油配給統制会社へ向かう。石油配給統制会社は鐡造にとって敵同然であったが、今は過去を忘れて協力すべきと考えたのである。しかし、鳥川卓巳との交渉は決裂し、鐡造と卓巳は喧嘩別れに終わってしまう。だがその直後、鐡造のもとに、元海軍の藤本壮平がやって来る。壮平は逓信院から受けたラジオ修理業務を、国岡商店でできないかと頼みに来たのである。鐡造はこれを承諾すると共に、壮平を国岡商店に入社させ、ラジオ部の部長としていっしょに働く事にする。入社直後、軍人気質の抜けない壮平は資金調達に苦労するが、どうにか銀行の融資を受ける事に成功し、ラジオ部はついに業務を開始する。

第2巻

1946年2月。国岡商店は、旧海軍のタンク底に残った廃油をさらう業務を請け負う事になった。この仕事は命の危険を伴う過酷なものであったが、国岡鐡造は、この業務の成功こそが日本の復興につながると考えたのである。しかし6月、鐡造の事を快く思わない石油配給統制会社が、GHQに噓を吹き込んだ事で、鐡造はGHQから公職追放令を出されてしまう。すぐさま鐡造は抗議に向かい、話し合いの結果、鐡造の公職追放は再考される事になる。さらに鐡造は、公職追放状態でも提出できる建議書を書いて商工省に送る。しかしこれは無視され、鐡造はすべての元凶である石油配給統制会社が原因で大きな問題が起きる、と判断するのだった。そこで今度は、政府やGHQに石油配給統制会社を解散すべきとの意見書を提出。これを読んだGHQは石油配給統制会社に改革を迫るが、石油配給統制会社は、体裁だけを新しくして逃げようとする。一方その頃GHQでは、元陸軍士官の武知甲太郎のアドバイスのもと、石油業界に人脈のある、信用のおける日本人を探していた。

第3巻

1947年冬。国岡鐡造武知甲太郎から、GHQが国岡商店の人間とお互い身分を明かさぬまま極秘対談をしたい旨を聞かされる。GHQに正体を知られている鐡造は代理に東雲忠司を立て、忠司はGHQ法務局のアレックス・ミラー少佐、ソニー・レドモンド大尉と、日本の石油業界について語り合う事になる。ここで忠司が二人の信頼を得た事で、3月、鐡造はGHQ石油課責任者に呼び出される。そこで石油の自由化を訴えたのがきっかけで、鐡造は石油会社のスタンダード・ヴァキューム・オイルの責任者にして、かつてのライバルであるダニエル・コッドと再会する。そこでダニエルから、今は難しくとも、いつかいっしょに仕事をしようと激励されるのだった。そして6月。石油配給統制会社は廃止され、石油配給公団が設立された。しかし鳥川卓巳北山利夫達は、国岡商店を石油配給公団の指定業者にしないよう、邪魔をする。だが甲太郎が、アンドレー・チャンにかけあった事により指定業者になる資格を得て、29店舗が認められるのだった。

第4巻

時はさかのぼり、1905年。大学生の国岡鐡造は、資産家の日田重太郎にその才能を見出され、親しくなる。鐡造が卒業して酒井商店に就職したあとも交流は続き、鐡造は重太郎に見守れられながら成長していく。しかしそんなある日、鐡造は自分が仕事で日本を離れているうちに実家が商売に失敗し、一家離散状態になってしまっている事を知る。家族がまたいっしょに暮らすためには、鐡造が経済的に安定する事が必要だが、それはすぐには難しい。悩む鐡造に重太郎は、自分の資産を一部鐡造に譲るので、そのお金で独立し、家族を集めていっしょに働くのはどうかと申し出る。その厚意を受けた鐡造は、1911年九州の門司で国岡商店を設立。今度は酒井商店で扱っていた小麦ではなく、油を扱う仕事を始める。しかしなかなかうまくいかず、とうとう重太郎から受け取ったお金が底をつきかけてしまう。しかし重太郎は、であればもう少し資産を譲るので、とことん頑張れと鐡造を鼓舞するのだった。そこで商売を根本から考え直した鐡造は、灯油を燃料とする船の存在に気づく。

第5巻

1914年。国岡鐡造の売り込みは成功し、国岡商店は急成長を遂げていた。しかし、あまりにも売れているために、国岡商店はやりすぎだと釘を刺され、販売先を満州に移す決意をする。そこで鐡造は商品を軽油から機械油に変え、寒さに強い機械油として、満州鉄道への売り込みを始める。しかし満州では、外油の方が圧倒的に人気があった。しかも、このまま寒さに強いとは言えない外油を使っていたら、冬季事故が多発すると鐡造が伝えても、満州鉄道の職員はまるで聞き入れないのだった。そして冬、鐡造の指摘通り事故が多発し、寒さに強い機械油を求めた満州鉄道は国岡商店を含めた4社合同の耐久テストをする。これに勝利した国岡商店は大躍進を遂げ、優秀な店員、長谷川喜久雄の尽力もあり、さらに成長していく。しかし、1944年7月、鐡造が、喜久雄であれば国岡商店を任せられると考えていた矢先、喜久雄が乗っていた輸送機がアメリカ軍の戦闘機に撃墜され、喜久雄は帰らぬ人になる。そして終戦となり、鐡造は多くのものを失いながらも、再び立ち上がる決意をするのだった。

第6巻

1948年。国岡鐡造が切望した石油自由化が発表された。しかし、各石油会社が元売会社の指定を受けるには、石油タンクを所有している事が条件であった。石油タンクのない国岡商店は焦るが、大江清の協力もあり、銀行から融資を受け14基のタンクを獲得する。こうして国岡商店は無事指定を受ける事に成功するが、その先に待ち受けていたのは、アメリカの企業による妨害であった。日本の石油企業を次々乗っ取ったアメリカ企業達は、次の狙いとして定めた国岡商店がまともに営業できなくなるよう、さまざまな妨害を仕掛けてきたのである。事態に気づいたダニエル・コッドは、鐡造にスタンダード・ヴァキューム・オイルとの提携を持ちかけるが、鐡造はこれを断り、国岡商店の新たな武器として、タンカー製造を決意する。そして1951年。財政金融局長の後押しで国岡商店はタンカー製造の権利を獲得。しかし完成を前に、ジョイントユース制が適応されなくなった事で国岡商店は絶体絶命の危機に陥ってしまう。

第7巻

1951年9月。国岡商店は廃業の危機を乗り越え、ついにタンカー、日章丸(にっしょうまる)を手に入れた。その船長に新田辰男を迎え、12月、日章丸はサンフランシスコへ向かって出航する。重油は順調に持ち帰られ、これによって店員達の士気は大きく上がるが、国岡鐡造は、これからの日本に必要なのはガソリンであると考えていた。そして1952年4月、サンフランシスコ講和条約が発効された事により、国岡商店は早速ガソリンを輸入するため、ロサンゼルスへ出航。現地独立系企業、サンオイルと契約し、高品質で低価格のガソリンを「アポロ」と名付けて売り出し、好評を博す。しかし、これを危険視したアメリカ石油企業達、通称「セブンシスターズ」がサンオイルに圧力をかけた事により、取引が白紙となってしまう。そこで鐡造は急遽ヒューストンの石油企業からの輸入に成功するが、ここもすぐに取引不能になってしまう。そんな中、国岡正明モルテザ・ホスロブシャヒと出会い、イランの石油を買わないかと持ちかけられる。

第8巻

1952年8月。国岡商店は情勢不安定なイランから石油購入を決意した。11月、国岡正明武知甲太郎モサデク首相との交渉のためテヘランへ向かうが、現地の苦しい経済状況に、1年にわたるイギリスの経済封鎖がイラン国民を追い詰めている事を実感する。こうして正明達は日本のためだけではなく、イランのためにも商談を成功させようと誓うが、いざモサデク首相に会うと、30%引きで購入する予定の石油が、20%引きでなければ売らないと言われ、困惑する。そこで二人は、タンカーを斡旋する事で商談を成立させかけるが、そこにイランのNo.2であるハシビイが現れる。外国人に対して疑心暗鬼になっているハシビイはなかなか首を縦に振らず、交渉は難航するが、1953年2月、ついに正明達の納得のいく形で終結するのだった。しかし斡旋する予定のタンカーが、政府の圧力により突如キャンセルされてしまう。そこで国岡鐡造は日章丸を、極秘でイランに送ろうと決意する。

第9巻

1953年3月。日章丸はイランへの出航の日を迎えた。4月になり、ついにアバダンへ到着した日章丸は、ガソリンと軽油、合わせて2万リットル以上の輸入に成功する。しかし、イギリス軍はこれを快く思うはずがなく、帰国する日章丸を追いかけて来る可能性が高かった。イギリス軍艦が事故に見せかけて日章丸を撃沈させようとするだろうと考えた新田辰男は、わざとでたらめな動きをして航路を読めないようにしたり、危険な海域であるジャワ海を選んで進んだりと、命がけの航海を続ける。これが功を奏し、日章丸は見事イギリス海軍の哨戒ラインを突破する。しかし今後は、イギリスの国策会社であるアングロ・イラニアン石油株式会社が、日章丸が日本で石油の陸揚げをしたなら、あらゆる対抗措置を取ると宣言してくる。これに打ち勝つため、国岡商店は裁判所でアングロ・イラニアン石油株式会社との口頭弁論を行う事になるのだった。

第10巻

1953年5月。国岡商店はアングロ・イラニアン石油株式会社との裁判に勝利し、日章丸はイランとの貿易を続けられる事になった。モサデク首相はこの勇気を讃えて国岡商店に大きな恩恵を与え、日本とイランは石油という太いパイプで結ばれるのだった。しかし3か月後、イランでクーデターが起き、モサデク政権は崩壊。そして1954年10月、イラン国営石油会社と国岡商店は契約を解除する事になってしまう。だが、この1年半の取引により国岡商店は蘇り、業界3位にまで成長するのだった。そして1955年8月。国岡商店は製油所建設のため、国岡鐡造自らアメリカの銀行へ融資を受けに行く事になった。これは無事成功し、1956年3月、ついに世界最大級の製油所である徳山製油所が完成する。その竣工式には日田重太郎も訪れ、鐡造と重太郎は、再会と国岡商店の成功を喜び合うのだった。

タイアップ

『海賊とよばれた男』×ひらかたパーク

2016年11月から2017年1月にかけて、実写映画版『海賊とよばれた男』とひらかたパークのコラボレーション企画を開催。これは実写映画版で国岡鐡造役を演じる岡田准一が、ひらかたパークでイメージキャラクターを務めていることから生まれた。劇中で鐡造のかけている丸眼鏡をモチーフにした特別な眼鏡と、鐡造の会社「国岡商店」の社員が着用しているハッピをモチーフにしたオリジナルハッピを着用し、フリーフォールアトラクション「ジャイアントドロップ メテオ」に搭乗できるイベント「国岡ライド」を期間限定で実施するというもの。また、「国岡商店」をモチーフにした展示「枚方商店」など、さまざまな展示も同時に行われる。

『海賊とよばれた男』×明治ブルガリアヨーグルト

2016年10月、実写映画版『海賊とよばれた男』の公開を記念して、明治ブルガリアヨーグルトとのタイアップ企画「ヨーグルト大使とよばれた男」が行われた。キャンペーン内容は特設webサイト上にあるクイズに答えると、抽選で200組400名に『海賊とよばれた男』の明治ブルガリアヨーグルト特別試写会招待が当たったり、明治ブルガリアヨーグルト各対象商品を買ってポイントを貯めて応募すると、さまざまなプレゼントがもらえるというもの。

メディアミックス

実写映画

2016年12月、本作『海賊とよばれた男』の実写映画版が公開。監督は山崎貴、音楽は佐藤直紀が担当する。国岡鐡造役を岡田准一、東雲忠司役を吉岡秀隆、武知甲太郎役を鈴木亮平が演じる。

オーディオドラマ

2014年1月より、オーディオブック配信サービス「FeBe」にて、オーディオドラマ版の配信が行われている。国岡鐡造役を中村雅俊、東雲忠司役を川島得愛、ナレーションを上柳昌彦が演じた。

評価・受賞歴

百田尚樹の原作小説『海賊とよばれた男』は、2013年第10回本屋大賞を受賞している。

登場人物・キャラクター

国岡 鐡造 (くにおか てつぞう)

石油販売会社「国岡商店」の店主を務める初老の男性。前髪を上げ額を全開にした撫でつけ髪で、髪を一筋だけ前に垂らし、丸眼鏡をかけている。昭和20年8月、敗戦国となった日本で、莫大な借金を抱える「国岡商店」を立て直すため、1人も馘首(解雇)せず、店員全員で戦うことを決意する。どんな時も社是である「人間尊重」を守り、店員たちと、日本の未来を守るために行動する。 若い頃は苦学して神戸高商(現在の神戸大学)を卒業し、小麦と機械油を扱う個人商店「酒井商会」に入店。その後独立し、一代で「国岡商店」を築き上げた。明治18年生まれで福岡県出身。出光興産創業者である実在の人物、出光佐三がモデル。

甲賀 治作 (こうが じさく)

石油販売会社「国岡商店」創業時からの店員で、常務を務める中年の男性。前髪を左寄りの位置で分けて額を見せた撫でつけ髪をしている。国岡鐡造の片腕とも言える存在で、戦争で社員名簿が焼失した際は自らの記憶だけを頼りに再現するなど、抜群の記憶力を持つ。

柏井 耕一 (かしわい こういち)

石油販売会社「国岡商店」創業時からの店員で、常務を務める中年の男性。甲賀治作とは同期のような間柄。前髪を左寄りの位置で分け、襟足まで伸ばした髪全体を外にはねさせた髪型で、眼鏡をかけている。知的な切れ者で、経理責任者としても社内を支えている。常に冷静な判断を心がけており、時には国岡鐡造に鋭い指摘をすることもある。

東雲 忠司 (しののめ ただし)

石油販売会社「国岡商店」の店員で、南方調査団の課長を務める男性。前髪を眉上で短く切った髪型をしている。昭和21年2月に「国岡商店」に戻って以降は部長を務めることになる。帰国当初、「国岡商店」が石油販売以外の業務を中心に展開するようになっていた変化に驚き、本来の業務である油に関する仕事がしたいと強く願った。そのため商工省鉱山課から受けた旧海軍燃料廠のタンク底に残った油をさらう業務において、中心的な人物として活躍することになる。 出光佐三の側近であった実在の人物、石田正實がモデル。

武知 甲太郎 (たけち こうたろう)

石油販売会社「国岡商店」に昭和22年から入店した新しい男性店員で、元軍務局大佐。前髪を上げて額を全開にして撫でつけ髪にし、癖のある前髪を二房だけ垂らしている。英語が非常に堪能で、東京外事専門学校(のちの東京外国語大学)を卒業し、インド大使館やチリ公使館の駐在武官を務めた後、諜報・情報戦などを行う旧陸軍中野学校の教官となった異色の経歴の持ち主。 旧陸軍関係の戦後処理のためGHQに出入りしていたことからソニー・レドモンドとも旧知の仲。ソニーから「石油業界に詳しく、かつ信頼できる優秀な日本人」の紹介を頼まれた際に、元軍務局の永井八津次に相談して国岡鐡造を紹介され、鐡造に代わってアレックス・ミラーやソニーと会談することになった東雲忠司の通訳を務めることになる。 以来、通訳として「国岡商店」と深くかかわるようになり、入店を志願した。

日田 重太郎 (ひだ じゅうたろう)

国岡鐡造の恩人で、淡路島に実家を持つ資産家の男性。前髪を上げて額を全開にして撫でつけ髪にし、ちょびひげを生やしている。仕事はせずに茶や骨董を楽しむ風流人で、鐡造よりも13歳年上にあたり、鐡造が神戸高商1回生の頃、神戸高商近くの「橋本医院」で知り合った。いち早く鐡造の才能を見抜き、積極的に鐡造の相談に乗り、サポートするようになる。 やがて、鐡造が働いていた個人商店「酒井商会」からの独立を望んでいることを知ると、金銭的援助を申し出る。

長谷川 喜久雄 (はせがわ きくお)

石油販売会社「国岡商店」に大正7年に入店し、昭和10年の時点では部長を務めていた40歳の男性。前髪を目の上で切り、後ろ髪だけ肩につくほど伸ばした髪を外にはねさせている。頭頂部で三房だけ飛び出した「アホ毛」が特徴。国岡鐡造と同じ神戸高商出身で、知恵も度胸も兼ね備えた高学歴エリート。「国岡商店」の上海進出を見事成功させ、「国岡商店」の発展に大きく貢献する。 その才覚と実績は鐡造にも高く評価され後継者と考えられていたが、昭和19年に海軍の輸送機で移動中、アメリカ軍の戦闘機に撃墜され戦死した。

国岡 正明 (くにおか まさあき)

国岡鐡造の弟で、石油販売会社「国岡商店」の専務を務める中年の男性。前髪を右寄りの位置で斜めに分けてはねさせた癖のある髪の毛で、眼鏡をかけている。旧満鉄では部長を務め、終戦時にソ連に捕まって2年ほど収容所生活を送っていた。のちに帰国し、「国岡商店」に戻ってきた。その後、「国岡商店」のガソリン輸入拡大のための融資元を探す業務や、武知甲太郎とともに石油獲得のためイランへ向かう業務を担うことになる。

鳥川 卓巳 (とりかわ たくみ)

石油を扱う国策会社「石油配給統制会社」の社長を務める中年の男性。戦時中の石油元売会社日本最大手である「日邦石油」の副社長でもある。前髪を右寄りの位置で分けて額を全開にした刈り上げの髪型に、太く枝分かれした眉。「石油配給統制会社」に加入していない国岡鐡造と石油販売会社「国岡商店」のことを快く思っておらず、幾度となく敵として立ちふさがる。

藤本 壮平 (ふじもと そうへい)

元海軍大佐で、石油販売会社「国岡商店」の新入店員。髪型は短めのスポーツ刈りで、生真面目で責任感の強い男性。戦時中、海軍の技術部門で無線を扱う仕事をしており、敗戦後も縁の深かった逓信院から受けたラジオ修理の仕事について、密かに尊敬していた国岡鐡造に相談を持ちかけた。そして、その仕事を請け負うことになった「国岡商店」のラジオ部部長に任命され、「国岡商店」店員となる。

武田 新平 (たけだ しんぺい)

石油販売会社「国岡商店」の店員でラジオ部の次長を務める若い小柄な男性。くりくりのパーマヘアを刈り上げた髪型をしている。入店は藤本壮平よりも先だが、次長として彼の下に付き、ともに銀行に融資を頼みに行ったり、地方を回ってラジオ修理業務に励んだりして壮平を支える。

石川 秀樹 (いしかわ ひでき)

石油販売会社「国岡商店」の店員でラジオ部の技術部員を務める海軍出身の男性。坊主頭に丸眼鏡をかけ、前歯が1本抜けている。海軍時代は藤本壮平の部下で、軍を離れてからも壮平を「大佐」と呼んでしまうことがある。戦時中は戦場で死ぬものだと考えていたため、生き残って「国岡商店」ラジオ部の人間となったことに戸惑いを覚えてはいるが、新たな使命を果たそうと前向きに尽力する。

斉藤 健治 (さいとう けんじ)

商工省鉱山課で課長を務める初老の男性。前髪を眉上で短く切り、右寄りの位置で斜めに分けたストレートの短い髪型に、ちょびひげを生やして丸眼鏡をかけている。旧海軍燃料廠のタンク底に残った油をさらう業務を引き受ける業者を探していたが、石油の国策会社「石油配給統制会社」に加入しているほぼすべての業者から動員力がないという理由で断られ、石油販売会社「国岡商店」にその仕事を依頼する。

渡辺 欣也 (わたなべ きんや)

石油販売会社「国岡商店」の店員で、ラジオ部に所属する海軍出身の男性。坊主頭で、ちょびひげを生やしている。海軍時代は燃料機関参謀の大佐を務めており、終戦後も第二復員省の史実調査部にいたため、旧海軍のタンク底に関する知識を有している。そのため、商工省鉱山課から依頼されたタンク底の油をさらう仕事がいかに困難かを理解しており、詳細を「国岡商店」の店員たちに説明する。

アンドレー・チャン (あんどれーちゃん)

GHQ参謀部・第四部(G4)兵站部燃料補給班の部長を務める中年の男性。前髪を上げて額を全開にし、撫でつけ髪にしている。旧海軍燃料廠のタンク底に残った油をさらうという困難な業務を商工省鉱山課に命じたものの、引き受ける業者が現れず、また見どころのある日本人にも出会ったことがないため、すでに「日本にサムライはいない」と捉えていた。 しかし石油販売会社「国岡商店」が業務を引き受けたことから、「国岡商店」と国岡鐡造に関心を持つようになる。その後、旧海軍燃料廠のタンク底に残った油をさらう「国岡商店」の店員たちの仕事ぶりを目の当たりにし、過酷な環境にもかかわらず明るく前向きな店員たちと、彼らが慕う鐡造の素晴らしさを知り、鐡造に陰ながら協力するようになる。

宇佐美 幸吉 (うさみ こうきち)

石油販売会社「国岡商店」の店員で、東雲忠司らとともに旧海軍燃料廠のタンク底に残った油をさらう業務を行うことになった若い男性。前髪を上げて額を全開にし、撫でつけ髪にしている。頬にはそばかすがある。チームの中では最も若く、体力自慢。タンク底に降りるトップバッターを買って出るが、そこでタンク底の過酷な環境を知ることになる。

飯田 良太 (いいだ りょうた)

石油販売会社「国岡商店」の店員で、海外事業部に所属する通訳担当の若い男性。髪全体を立てて額を全開にし、刈り上げた髪型をしている。突如「公職追放令」を出された国岡鐡造がGHQへ異議申し立てをする際に同行し、通訳を務める。その際、鐡造の激しい怒りの言葉をそのまま通訳してよいものかと、冷や冷やさせられることになる。

ジョン・フジオ・アイソ (じょんふじおあいそ)

GHQ参謀部・第二部(G2)法務局に所属する男性。階級は少佐。日系人で、前髪を上げて額を全開にした撫でつけ髪をしている。「公職追放令」を出された国岡鐡造が、異議申し立てのためGHQに赴いた際に知り合いになる。鐡造に出会うまでは法務局に訪れる日本人は皆泣き落としばかりすると軽視していたが、鐡造の堂々とした態度に考えを改め、鐡造の主張を信じて再調査を行うことに決める。

北山 利夫 (きたやま としお)

商工省鉱山局石油課の課長を務める中年の男性。前髪を上げて額を全開にした撫でつけ髪をしている。目が細いため、いつも目を閉じているように見える。日本の石油会社を一致団結させようと石油政策について建議書を提出した国岡鐡造のことを快く思っていない。このことで鐡造に対して妨害工作を行ったため、鐡造は利夫たちが不当に守ろうとしている石油の国策会社「石油配給統制会社」こそが悪であり、組織解体が必要だと考えるようになる。

アレックス・ミラー (あれっくすみらー)

GHQ参謀部・第二部(G2)法務局に所属する男性。階級は少佐。前髪を右寄りの位置で分けて上げて額を全開にし、撫でつけ髪にしている。下まつげが長い。自分が日本にやって来たのは国家解体から新生する日本を助けるためだと自負しており、そのためには石油配給機構の新設が重要だと考えていた。しかし利益よりもコネクションを優先する日本人の体質に呆れ、石油業界に詳しく、かつ信頼できる優秀な日本人を探していた。 やがてソニー・レドモンドと武知甲太郎の協力により国岡鐡造のことを知り、鐡造の代理である東雲忠司と会談することになる。

ソニー・レドモンド (そにーれどもんど)

GHQ参謀部・第二部(G2)法務局に所属する若い男性。階級は大尉。前髪を上げて額を全開にし、撫でつけ髪にしている。アレックス・ミラーの依頼を受けて武知甲太郎と接触し、アレックスの望む「石油業界に詳しく、かつ信頼できる優秀な日本人」を紹介してもらうことになる。

ダニエル・コッド (だにえるこっど)

石油顧問団(PAG)のトップの1人で、巨大企業「スタンダード・ヴァキューム・オイル(スタンバック)」の横浜での最高責任者を務める男性。前髪を上げて額を全開にし、撫でつけ髪にしている。石油販売会社「国岡商店」とは以前、中国での石油販売で争ったことがあり、敗北したことから「国岡商店」を強くライバル視していた。しかし戦後「国岡商店」が危機に瀕した際も、店員を最優先に考え守った国岡鐡造の考え方に感銘を受け、強く尊敬するようになった。 そのため、石油の自由化を望む鐡造の力になりたいと考えており、たびたび手を差し伸べる。

酒井 (さかい)

神戸高商を卒業した国岡鐡造が就職した、小麦と機械油を扱う個人商店「酒井商会」主人の中年男性。前髪を左寄りの位置で七三分けにし、口ひげを生やしている。朴訥で誠実な人柄で、重い小麦の袋も自ら運ぶ働き者。鐡造のことを高く買っており、非常に大切に想っている。

国岡 徳三郎 (くにおか とくさぶろう)

国岡鐡造、国岡正明らの父親で、石油販売会社「国岡商店」の創業時からの店員。坊主頭のような短めのパンチパーマと、口ひげ、顎ひげが特徴。かつて染め物業に携わっていたことがあり、品質の良い油を手に入れるために悩む鐡造に思いがけないヒントを与える。

榎本 誠 (えのもと まこと)

「日邦石油」下関支店で明治44年時点の支店長を務めていた初老の男性。前髪を上げて額を全開にし、撫でつけ髪にして眼鏡をかけている。国岡鐡造とは、彼が個人商店「酒井商会」で働いていた頃からの知り合いで、鐡造が独立し新たに「国岡商店」を構えたことに驚く。「国岡商店」では油全般を扱いたいと考えている鐡造に対して石油を卸すことになるが、誠自身は石油には将来性がないと考えており、当初は鐡造の商いに対してやや否定的だった。 しかし鐡造の熱意とあっと驚かされるような販売戦略に感銘を受け、鐡造をサポートするようになる。

大江 清 (おおえ きよし)

東京銀行本店営業部常務を務める中年の男性。前髪を右寄りの位置で分けて額を全開にし、撫でつけ髪にしている。ややえらが張った頬が特徴。気難しい性格で、国岡鐡造は、清に良い印象を持たれていないと考えていた。石油タンク入手のため銀行の融資を必要とした鐡造が東京銀行を訪れた際、再会する。

新田 辰男 (にった たつお)

石油販売会社「国岡商店」が所有するタンカー「日章丸」の船長。あごひげと口ひげを生やした59歳の男性。16歳の頃から船に乗っているベテラン船長で、戦時中は海軍に徴用され輸送業務に就いていた。国岡鐡造から直接スカウトされる形で船長となった。

モルテザ・ホスロブシャヒ (もるてざほすろぶしゃひ)

貿易商をしているイラン人の男性。アメリカの市民権も持っている。もじゃもじゃしたパーマヘアを短く切り、口ひげと顎ひげを生やしている。イランの石油を他国に販売したいと考えているが、イギリスの妨害に遭って悩んでいた。「ブリヂストンタイヤ」の石橋正二郎の紹介で国岡正明と知り合い、正明から話を聞いた国岡鐡造はイランからの石油購入を検討するようになる。

モサデク

イランの首相を務める年老いた男性。両サイドにだけ髪の残った禿げ頭で、掘りの深い顔立ちをしている。シリアのクワトリ大統領、エジプトのナギブ首相と並び「中東の三傑」と呼ばれる存在。就任以来の激務が原因で現在は病臥しており、イランを訪れた国岡正明と武知甲太郎をベッドルームで迎えることになる。すでにイランの石油を欲しがる多くの国と契約を結んでいるが、イランの石油を運んでいたイタリア船籍「ローズ・マリー号」がイギリス軍艦に拿捕された事件以降、他の契約国が拿捕を恐れて姿を現さなくなった現状に腹を立てており、石油販売会社「国岡商店」にも強い不信感を抱いている。

ハシビイ

イランの国会議員で、対外石油販売委員会の一員の中年男性。前髪を上げて額を全開にし、肩につかない長さまで伸ばした長髪を撫でつけ髪にして、ちょびひげと顎ひげを生やしている。モサデクに次ぐ国内ナンバー2とされており、石油販売に関する権限も有している。石油販売のためイランを訪れた国岡正明と武知甲太郎と交渉を行うことになるが、モサデク同様強い疑心暗鬼に陥っており、正明と甲太郎は思うように交渉が進まず悩まされることになる。

国岡 多津子 (くにおか たつこ)

国岡鐡造の妻。前髪を右寄りの位置で分けて左へ向かって流し、肩につくほど伸ばしたセミロングの髪を1つに結んでまとめている。明るく前向きで穏やかな性格で、どのような苦しい状況にあっても鐡造を信じ、鼓舞する。

集団・組織

国岡商店 (くにおかしょうてん)

国岡鐡造が店主を務める石油販売会社。明治44年6月20日、鐡造が25歳の頃に九州の門司で創業した。「人間尊重」を社是とし、就業規則や出勤簿もなければ、馘首(解雇)も定年もないという独特の社風を掲げている。昭和20年8月の時点で国内の営業所は8店、海外には62店を展開している。店員は1000人を超え、うち700人弱は朝鮮、満州、中国、比島(フィリピン)、仏印(ベトナム)、蘭印(インドネシア)で活躍している。

石油配給統制会社

石油の流通と販売を統制するため、戦時中に軍部が作った国策会社。略して「石統」と呼ばれている。当時、石油業者は石統に加入しないと国内の石油を扱うことはできず、逆に言えば、加入すれば協定に守られ政府に認められた状態で、石油にいくらでも高値を付けることができた。しかし国岡鐡造は石油配給統制会社のやり方には反対であったため、石油販売会社「国岡商店」は加入していなかった。 のちにGHQから改革を迫られることになる。

クレジット

原作

百田 尚樹

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