フィルムは生きている

フィルムは生きている

昭和30年代のアニメ制作勃興期を背景に、アニメ映画に命を懸ける若者を描いた青春ストーリー。物語設定と主要キャラクターの名前は吉川英治作の小説『宮本武蔵』のパロディーである。

正式名称
フィルムは生きている
ふりがな
ふぃるむはいきている
作者
ジャンル
青春
レーベル
手塚治虫文庫全集(講談社コミッククリエイト)
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概要・あらすじ

アニメ作家を目指して上京した宮本武蔵は、同じ夢を持つ佐々木小次郎と知り合い、親友となる。彼らは2人でアニメ制作会社に勤めるが、「絵に動きがない」とクビになってしまう。発奮した彼らは、それぞれ武蔵が「二筆流」、小次郎が「ツバメ返し」の筆さばきをマスター。だが、意見の食い違いを発端に対立し絶交してしまう。 路上で似顔絵描きをしていた武蔵はヤクザ組長の一人娘である本位田通(お通)と知り合い、彼女は家出をして武蔵を支えていく。漫画雑誌の連載がヒットし、一躍人気漫画家となった武蔵だったが、アニメ映画制作の夢が叶わない現実を悲観。自殺を図るも、死の寸前で尊敬するアニメ作家の遺言によって思い止まるのだった。 その後、お通の父である本位田又八は娘のために組を解散し、武蔵に資金を提供する。そしてついに武蔵は「ムサシマンガスタジオ」にて、故郷の愛馬を主人公にした長編アニメ映画「アオの物語」を完成させる。一方、大富豪の父親から援助を受けた小次郎も「巌柳プロダクション」で自信作「タイガーランド」を完成させていた。再び同じ立場で競い合うことになった2人は、運命の劇場封切初日を迎えるのだった。

登場人物・キャラクター

宮本 武蔵 (みやもと むさし)

タンバササ山出身で、アニメ映画を作るという野望に燃えて上京してきた青年。空想と現実の区別がなくなり、騒動を起こすクセがある。苦しい時には知り合いの警官に励まされ「デカンショ節」を大声で歌い元気を取り戻す。漫画を描くスピードが速く、絵も人気作家の吉岡清十郎をうならせたほど上手い。アニメーターとしては未熟の烙印を押されるも、両手にペンを持って動きのある絵を描く「二筆流」の技法を編み出し再起。 路上で1枚50円の似顔絵を描いて資金を稼ぎ、物置と古い撮影機を借りて、1人で5万枚もの絵を描き貯め、知り合った本位田通(お通)を感動させる。幾多の苦難の末に、漫画雑誌編集長やお通の父親らの尽力で、自前のアニメ制作会社「ムサシマンガスタジオ」を設立し、念願のアニメ映画を完成させる。 一度は親友となった小次郎とは、初対面の1年後にお互いが自作したアニメ映画の人気投票で対決することとなる。

佐々木 小次郎 (ささき こじろう)

宮本武蔵のライバル。有名な佐々木財閥の御曹司で跡取り息子だが、家業を継ぐことを嫌い、アニメ作家を志望して家出する熱血漢。坊主頭で面長。巨大なペンを背負い、大きなインク壺を腰にぶら下げて歩く。自分の才能に絶対の自信を持つ傲慢な性格で、家出中に路上で武蔵と知り合い、50円を賭けてお互いの似顔絵早描き競争をして勝つ。その後、武蔵と意気投合し、将来は一緒にアニメ映画を作る夢を語り合うが、すぐに意見の食い違いで絶交し、終生のライバルとなる。 武蔵を敵視してはいるが、彼の健康を気遣う優しさも持っている。父親とはのちに和解し、資金援助を受けてアニメ制作会社を創立。武蔵と対決するためにスタッフを叱咤して作品を完成させる。

本位田 通 (ほんいでん つう)

宮本武蔵のガールフレンドで、通称「お通」。ヤクザ一家本位田組の組長である本位田又八の一人娘。路上で武蔵を恐喝していた組の若い衆を一喝して彼を救う。アニメ制作に打ち込む武蔵に好意を抱き、祖母である本位田杉の反対を押し切って武蔵の自宅に押しかけ金銭の援助を申し出る。一度は武蔵に拒絶されるも、断髪して男装し「自分を弟にしてくれ」と武蔵に迫るほどの激しい情熱を持っている。 武蔵との交際に大反対していた祖母とはいつも対立していたが、のちに病床の祖母を献身的に看病したことで和解。そして、武蔵のために獄中の父親を説得し、出所後に組の解散と武蔵への資金提供を約束させる。

本位田 杉 (ほんいでん すぎ)

本位田通(お通)の祖母で、本位田又八の母親。ヤクザ者ながら、一家に誇りを持っている気丈な老婆で、本位田組組長である又八が獄中にあるため、息子に成り代わって本位田一家を取り仕切っている。思い通りにならない時にはヤクザの本質を現し、相手を脅迫する。孫可愛さのあまり、宮本武蔵の自宅放火を子分に命じ、武蔵が描き貯めた5万枚の絵を家もろとも焼き払ってしまう。 しかしこれが新聞記事になったことで、結果的に武蔵は人気漫画家になるきっかけをつかむこととなった。根っからの悪人ではなく、お通の真の愛情によって改心する。

本位田 又八 (ほんいでん またはち)

本位田通(お通)の父親でヤクザ本位田組の組長。暴行罪で懲役10年の刑を受け服役中だったが、佐々木小次郎の父親と裏取引きをし、仮釈放される。しかし、出所後の本位田又八は母の期待を裏切り、組を解散しヤクザから足を洗い、娘の願いを聞き入れ宮本武蔵に財産を提供してアニメスタジオ設立に協力する。

断 末魔 (だん まつま)

アニメ映画制作にその身をささげて40年という大ベテラン。天狗になっていた宮本武蔵の絵を見て「動きがない」と彼の鼻を折り、食い下がる武蔵に「フィルムは生きている」ことを伝え、叱責する。アニメ映画界の長老的存在で、良い映画を作るためなら手段を選ばないという芸術家タイプでもある。反面、あまりに時間と金を使いすぎることで会社の経営陣から疎まれ、のちにアニメ制作会社を解雇されたことで自殺を図る。 病院に見舞いに駆けつけた武蔵に病床で絵の指導をし、ベートーヴェンの伝記本を託す。この本が、後に自暴自棄になった武蔵の命を救うこととなる。

吉岡 清十郎 (よしおか せいじゅうろう)

弟の伝七郎を始めとして大勢のアシスタントを雇い、多くの連載漫画を抱えている超人気作家。上京した宮本武蔵がアニメ制作会社への入社を断られ、次の訪問先に選んだ漫画界の大家。武蔵の絵を見た清十郎は彼の才能を見抜き、「あれは大物になる」と予言。のちにその予言どおり、連載漫画で武蔵に人気トップの座を奪われる。

磐台 庄助 (ばんだい しょうすけ)

大日本出版社の漫画雑誌「少年パック」を購買200万部の人気雑誌に育てた名物編集長。ダブルのスーツに身を包み白髪を逆立てた風貌で宮本武蔵の前に現れ、連載を依頼する。そして、出版社の社長の反対を振りきって武蔵の連載をスタート。結果として武蔵の漫画は大ヒットとなり、読者アンケートで人気トップの座を獲得する。武蔵が漫画連載を打ち切ってアニメ界への転身を打ち明けた際に、磐台は快く彼の漫画家としての「葬式」を出し、35ミリ撮影機をプレゼントするのだった。

宍戸 梅軒 (ししど ばいけん)

吉岡清十郎と並ぶ人気漫画家。「少年パック」の連載漫画で大ヒットを飛ばしていた宮本武蔵に対し、「君はヌケガラ」だと指摘するなど、ひょうひょうとした雰囲気ながら、鋭い目で本質を突いた一言を放つ。

アオ

宮本武蔵が故郷で背中に乗って遊んだ愛馬。武蔵は少年時代にアオをモデルにした走る馬の絵を何千枚も描き、アニメ作家になることを決心した。

書誌情報

フィルムは生きている 講談社コミッククリエイト〈手塚治虫文庫全集〉

(2011-02-10発行、 978-4063738209)

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