彼氏彼女の事情

彼氏彼女の事情

優等生を演じる女子高生宮沢雪野が、同級生の有馬総一郎と出会ったことで、本当の自分と向き合うという少女漫画。

正式名称
彼氏彼女の事情
ふりがな
かれしかのじょのじじょう
作者
ジャンル
恋愛
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あらすじ

第1巻

品行方正で才色兼備であり、周囲からあこがれの眼差しを向けられている宮沢雪野は、実はものすごく見栄っ張りで外面だけを取り繕っており、すべてにおいて完璧である事に命を懸けていた。しかし、北栄高校入学時に学年総代になって新入生代表になるという夢を、有馬総一郎によって潰されてしまう。総一郎は成績も優秀でありながら、性格もよく品行方正、なおかつ眉目秀麗で、雪野の存在を霞ませるほどの人物だった。総一郎に対して強烈な嫉妬心を燃やした雪野は、猛勉強の末に成績で一番を取る。しかし総一郎から素直に祝福された雪野は、己の浅ましさに恥じ入る事になる。ところがそんな雪野に、総一郎は愛の告白をする。突然の事で断ってしまった雪野だったが、後日突然訪ねて来た総一郎に、休日の気を抜いた恰好や粗雑な振る舞いを見られてしまう。(ACT1★彼女の事情)

休日のジャージ姿で、なおかつ出会い頭に飛び蹴りをするという粗雑な振る舞いを見られてしまった雪野は、その秘密を総一郎に握られて脅迫される事になる。クラス委員や校内の委員会活動、そして部活などで多忙な総一郎の仕事を手伝わされているうちに、自分と同じく総一郎にも裏の顔がある事を知った雪野は、総一郎に親近感を抱き、総一郎に好意を寄せるようになる。しかし、総一郎から利用されているだけだと雪野は虚しさを感じ、総一郎の下僕をやめたいと申し出る。(ACT2★シークレット)

親密になったはずの二人だったが、総一郎は突然雪野を避けるようになる。総一郎の気持ちを知りたいと願う雪野だが、総一郎から拒絶されても、どうしていいかわからない事から、自分がいかにこれまで他人とうわべだけの付き合いしかしておらず、誰とも深いかかわりを持った事がなかったかを気づかされる。総一郎は実は自分の生い立ちにコンプレックスを抱いていたのだ。実の両親に捨てられ、養父母に育てられた総一郎は、自由で明るい雪野のそばにいる事で、そのトラウマが刺激されて苦しんでいた。(ACT3★彼氏の事情)

第2巻

有馬総一郎から二度目の告白をされるが、宮沢雪野はタイミングを逃してしまう。自分の気持ちを伝えられずにいた雪野は、必死で告白するチャンスを模索していた。しかし二人きりになるチャンスが中々訪れず、逡巡しているうちに、自分に自信をなくしていた。そしてとうとう、総一郎から告白の返事を求められているにもかかわらず、泣きながら逃げ出してしまう。傷つくのを恐れている自分自身を恥じた雪野は、総一郎のためにたとえ自分が傷ついてでも勇気を振り絞ろうと決意する。(ACT4★恋になる日)

晴れて両思いになった雪野と総一郎だったが、春の体育祭の実行委員会として、それぞれの仕事が山積みの二人は、同じ校内にいながら多忙過ぎて顔を合わせる事さえままならない状態にあった。会えない時間をつらく感じ、総一郎への想いをつのらせる雪野だったが、体育祭の前日にようやく総一郎と少しだけ話す時間ができる。二人はお互いに会えなくて寂しかったと気持ちを伝え合い、体育祭へ向けてラストスパートする。(ACT5★学校迷路)

雪野は、総一郎と親しくなろうと付きまとう浅葉秀明とも交流を持とうと考えたが、浅葉からなぜか目の敵にされてしまう。それ以来、浅葉と雪野は顔を合わせるたびに張り合う仲になる。やがて、浅葉が女の子からモテるために総一郎を利用しようとしている事を知った雪野は浅葉を責めるが、逆に酷い言葉で傷つけられてしまう。その事で総一郎から責められた浅葉は、後日、雪野に素直に謝り、やがて総一郎と雪野と正式に友人関係を築く。(ACT6★彼の野望)

雪野と総一郎は優等生という仮面を捨て、本当の自分をさらけ出して生きていこうと互いに約束する。だが、本来持っていた個性的な面を開放していく雪野に比べ、自分がまったく無個性だった事に気づいた総一郎は、コンプレックスにさいなまれる。しかし雪野に、こうして出会えてお互いが理解できたのは、優等生としてやって来たからだと説得され、これまでの自分は決して無駄ではなかったと気づかされる。総一郎は、これからの自分と雪野との付き合いに希望を抱くのだった。(ACT7★クレイジー・フォー・ユー)

高校に入学したばかりの総一郎は、クラスメイトから慕われ、先生方からも気に入られ、部活では先輩から可愛がられ、周囲から一目置かれる特別な存在だった。しかし総一郎本人は、そんな自分をどこか冷静な目で見ており、集団の中ではいつも孤独を感じていた。完璧な自分を演じる事に疑問を感じていた総一郎は、改めて自分の生き方をハッキリ持っている雪野に対して強い衝撃を受ける。初めて心を動かされた総一郎は、雪野を好きだと自覚する。(番外編★桜の林の満開の下)

第3巻

入試をトップで入学した有馬総一郎と、続く中間テストで首席になった宮沢雪野は、付き合い始めてから勉強よりもデートに時間を費やしてしまい、一学期の期末試験では二人共に成績を落としてしまう。不本意な結果ながらも、共に過ごせる喜びに勝るものはないと納得していた二人だったが、成績の事で生徒指導室に呼びだされてしまう。そこで二人は学年主任の川島先生から、二人が男女交際をする事を反対される。(ACT8★カミナリ鳴って)

高校の3年間は学業に専念し、付き合うのは大学に入学してからにするべきと、干渉してくる川島先生に対して、雪野は強く反発する。かつては自分も、同級生とのなれ合いよりも自分が優等生である事が一番賢いやり方だと信じていた雪野は、本当の自分をさらけ出せるほど信頼し合える相手を作れた今の自分は、決して間違っていないと信じていた。真っ向から川島先生に食ってかかった雪野をかばい、総一郎もまた、勉強と付き合いを両立させると宣言して先生を黙らせる。(ACT9★カミナリ鳴って(2))

雪野と総一郎は後日、今度は親と共に呼び出されてしまう。二人が付き合いをやめるように、親を説得しようとした川島先生だったが、雪野の父親、宮沢洋之は雪野の人生は雪野自身が決める事だと考えており、なにひとつ強要するつもりはないと宣言する。一方、総一郎の父親、有馬総司もまた、総一郎になにも強要するつもりはないと言い、川島先生は納得するしかなかった。しかし雪野と総一郎は自分達の将来を心配してくれた川島先生に、付き合いと勉強を両立していく約束をする。(ACT10★カミナリ鳴って(3))

雪野はいつも毎日5時に起き、ジョギングやシャワー、朝勉強と、規則正しい生活を送っていた。期末試験の追試日のため、登校する必要がない雪野は、家族を見送ったあとは勉強の合間に家事の手伝いをするなど、充実した午前中を過ごしていた。午後から総一郎の家を訪ねた雪野は、浅葉秀明に邪魔されつつも、総一郎とお互いの想いを確かめ合い、ラブラブな時間を過ごす。(ACT11★その日、宮沢雪野は)

本当の自分を少しずつさらけ出せるようになった雪野だったが、クラスメイトのあいだではまだ優等生のイメージが強く残っていた。雪野をよく思っていない井沢真秀は、雪野が学年中の女子にとってのあこがれの存在である総一郎と付き合っている事や、同じく女子に人気のある浅葉と仲よくしている事を指摘し、女子達が内心潜ませていた反感を煽らせる。真秀の思惑通りに雪野に悪いイメージを抱いた女子達は雪野を無視し、雪野はクラスで孤立してしまう。(ACT12★たたかう女)

第4巻

クラスメイトの女子達に無視された宮沢雪野は、クラスで独りぼっちで過ごしていた。そんな時、有馬総一郎と同じ中学出身の美少女、芝姫つばさと知り合いになる。彼女は総一郎に片思いしていたのだが、高校入学して間もなくケガで入院しており、そのあいだに総一郎と付き合い始めた雪野の事を目の敵にしていた。しかし総一郎はつばさの想いにまったく気づいておらず、つばさの事は妹のようにしか思っていないのだった。つばさは雪野と顔を合わせるたびに攻撃をしてくるようになる。(ACT13★たたかう女(2))

雪野はクラスで孤立してしまっていたが、めげずに過ごしていた。ある日、雪野が無視されている事に気づいた総一郎は、女子達を説得しようとするが、自分の力で解決するからと、雪野に止められる。一方、面と向かって攻撃をするものの、陰湿ないじめをしないつばさとは好敵手のようになった雪野は、つばさの友達である佐倉椿、瀬奈りか、沢田亜弥と友達になる。それをよく思わない井沢真秀は、面と向かって雪野に嫌味を言う。(ACT14★たたかう女(3))

雪野へのコンプレックスから、雪野を陥れるためにクラスの女子を煽っていた事が明るみに出た真秀は、逆に自分が孤立する事になり、雪野のいじめは終結する。一方、つばさは総一郎の定期入れに入っていた雪野の写真を破って捨てた事で、強く責められてしまう。勢いで総一郎への気持ちを吐露したところ、それを総一郎に聞かれてしまう。これでつばさの片思いは終わり、雪野への攻撃はなくなる。そして、クラスで独りぼっちになった真秀と雪野は友達になるのだった。(ACT15★たたかう女(4))

つばさ、椿、りか、亜弥、そして真秀と友達になった雪野は、高校初めての夏休みを迎えるにあたってワクワクしていた。そんな雪野に総一郎は、インターハイに向けた部活動が忙しく、夏休みの半ばまでしばらく会えないと伝える。出会ってからそんな長い時間離れた事のなかった二人が、初めて離れ離れの時を過ごす事に、雪野と総一郎は寂しさを抑えきれないが、その前にお互いを思う気持ちを再確認するのだった。(ACT16★一学期の終わりに)

第5巻

宮沢雪野は新しく友達になった芝姫つばさ佐倉椿、瀬奈りか、沢田亜弥、そして井沢真秀と共に楽しい夏休みを過ごしていた。個性豊かな友達と話しをした雪野は、みんながそれぞれの分野で活躍している事を知り、勉強しかしていない自分を振り返って反省するのだった。楽しい1日が終わって解散の時間になっても、つばさは帰ろうとしない。実はつばさは父子家庭であり、父親が再婚する事に反対していたのだ。つばさは家出するための荷物を抱え、雪野の家に泊めてほしいと頼み込む。(ACT17★夏の休みの始まりに)

つばさとは幼なじみの椿は雪野から事情を聞き、宮沢家につばさを迎えに来るが、つばさは頑として帰ろうとしない。つばさの母親がつばさの出産で亡くなった事を椿から聞いた雪野は、生まれながらにして満たされない部分を抱えているつばさと有馬総一郎を重ね合わせ、総一郎が抱える孤独を慮る。つばさの父親、芝姫俊春と再婚相手である池田裕美が宮沢家を訪れるが、つばさは裕美を毛嫌いし、話を聞こうともしないのだった。一方、裕美の息子である池田一馬(のちの芝姫一馬)は、人気絶頂のインディーズバンド「陰陽」で活動をしていた。(ACT18★SPACE)

再婚に反対する事をあきらめたつばさだったが、心はまだ頑なに閉ざしたままだった。やがて裕美の息子である一馬と初めて顔を合わせるが、ロック好きでいかつい恰好をした一馬から中学生と間違えられ、最悪な印象を抱く。しかし後日、変質者にからまれて困っているところを一馬に助けられ、話をするうちに徐々に打ち解けて心を開いていく。お互いに寂しい思いをしてきた事を悟り、一馬に親近感を抱くようになり、つばさは素直な気持ちで俊春と裕美の再婚を祝福するのだった。(ACT19★西の少年 東の少女)

合宿中の総一郎と雪野は会えない日々が続いていた。ある日、宮沢家に浅葉秀明が遊びに来る。以前一度遊んで以来、雪野の妹である宮沢月野、宮沢花野の二人はすっかり浅葉に懐いていた。浅葉は自分の父親と徹底的にそりが合わず、進学校である北栄高校に合格するという条件で、親と離れて一人暮らしをする事を許されていた。浅葉の抱える複雑な家庭環境を聞き、雪野は総一郎の抱える孤独について考え、自分は総一郎の事を理解しているのか不安になってしまう。(ACT20★Telephone Line)

宮沢家の5人家族は、雪野の母親である宮沢都香の実家に遊びに行く。雪野の父親、宮沢洋之と都香の父親は仲が悪く、顔を合わせるたびにいがみ合っていた。洋之と都香とは幼なじみであり、懐かしい町並みを二人で歩くうちに、思い出がよみがえる。6歳ながら近所では評判の悪ガキだった洋之は、4歳の都香と初めて出会う。両親がおらず祖父に育てられた洋之と、やはり母親がいない都香のあいだには特別なつながりがあった。時は流れ、洋之が中学3年生になった時、初めて彼がかわいいと意識した女子が、入学したばかりの都香だった。(ACT21★ここより永遠に)

第6巻

お互いを意識するようになった宮沢洋之と宮沢都香だったが、幼なじみであるという間柄のせいで照れ臭さが先に立ってしまい、恋愛の一歩手前で足踏みをしていた。高校生になった洋之は、祖父が老いていく事に切なさを感じ、早く一人前になりたいと願っていた。洋之の祖父は次第に病がちになり、ある日、寝たまま息を引き取ってしまう。祖父の葬式を終えた洋之は、そばに寄り添う都香に心のうちを吐露し、お互いに支え合いながら生きていく事を決意する。早くに結婚した二人は、宮沢雪野、宮沢月野、宮沢花野という3人の娘に恵まれ、幸せいっぱいな生活を送っていた。(ACT22★ここより永遠に・2)

半月以上も有馬総一郎に会えない期間が続いている雪野は、寂しさを持て余していた。友達と過ごしていても勉強していても、総一郎の事を考えてしまい、次に会える日を指折り数えてしまう。雪野と同じく、付き合っている男性がいる井沢真秀は、雪野の気持ちに共感し、雪野を励ますのだった。そんな雪野の前に、インターハイから1日早く戻って来た総一郎が不意に姿を現す。(ACT23★不在)

会えないあいだに想いをつのらせていた雪野は、総一郎と再会したが、恥ずかしさのあまり必要以上に照れてしまう。素直に自分の気持ちを伝えて総一郎を喜ばせたいという気持ちがありながら、意識し過ぎてしまった雪野は、総一郎を避けてしまい、せっかくの久しぶりのデートがぎこちないものになってしまう。避けている理由を総一郎に詰問されて逃げ出してしまった雪野だが、正直に気持ちを伝えて、お互いを想う気持ちを確かめ合うのだった。(ACT24★恋)

総一郎の祖父、有馬怜一郎の法事のため、有馬家は本家へ赴く。有馬家は江戸時代から続く医者の家系で、家柄を重んじており、そんな一族から、問題児だった有馬怜司の息子であるという理由で、総一郎は白い目で見られていた。養父母である有馬総司、有馬志津音は総一郎をかばうが、総一郎は冷たい親戚達と自分自身の存在を呪っていた。雪野の存在に慰められながらも、埋められない孤独を感じる総一郎は、雪野と身も心も結ばれたいと願い、その気持ちを伝えるのだった。(ACT25★SHINKA(進化/深化))

雪野と総一郎は残りの夏休みを共に過ごしていた。友達みんなとわいわい過ごす時もあれば、二人で勉強したりするなど、充実した日々を過ごしていた。急な雨に降られた二人は、両親が出かけて誰もいない総一郎の家で、初めて身体を重ねる。幸せいっぱいの雪野に対し、総一郎は幼い自分が実の母親から容赦なく暴力と残酷な言葉を浴びせられる悪夢にうなされる。(ACT26★晴れた日に永遠が見える)

第7巻

夏休みが明けて二学期が始まったとたんに、有馬総一郎宮沢雪野はさっそく文化祭の準備に忙殺される。一方、北栄高校に十波健史という少年が転校して来る。十波はかつて総一郎らと同じ中学に通っており、その頃深いかかわりを持っていた佐倉椿に対して恨みを抱いていた。高校生でありながらプロの作家活動もしている沢田亜弥は、雪野と井沢真秀芝姫つばさのキャラクターを踏まえた芝居の脚本を書き上げ、文化祭で上演しようと提案する。(ACT27★14DAYS・1)

子供の頃は太っており、家がお金持ちである事を鼻にかける嫌味な少年だった十波は友達がおらず、クラスの男子達からはいじめられていた。そんな十波に、椿はなにかとちょっかいを出したり命令したりするが、そのあいだは十波がほかのクラスメイトにいじめられる事はなかった。中学1年で沖縄に引っ越す際に、椿が自分にかかわっていたのは、いじめ防止のために当時の担任から頼まれただけだと聞いた十波は、屈辱のあまり死に物狂いで自分を変える事を決意し、3年で別人のようになって戻って来たのだった。(ACT28★14DAYS<少年T>)

自分が書いた脚本を上演したいと願う亜弥から、雪野と真秀は逃げ回っていたが、改めて作品をしっかり読んだ雪野は、芝居への興味がわいてくるのだった。一方、椿と顔を合わせるたびに十波は好戦的な態度を取り、椿は腹を立てながらも十波の事が気になっていた。椿への復讐を考えている十波は、総一郎や雪野に自分の過去を打ち明け、口止めをする。しかし十波と雪野が打ち解ける様子を見て、総一郎は心穏やかではいられなかった。(ACT29★14DAYS<交わる糸>)

芝居をやると決めた雪野は嫌がる真秀を説得し、上演に向けて積極的に動き出す。実現は困難かと思われたが、学年主任である川島先生に知恵を借りて臨時部活扱いにする事にし、先生に顧問まで引き受けてもらう。浅葉秀明もいっしょに準備を手伝う事になり、芝居の計画は進んでいく。一方、椿への復讐が依然として進んではいない十波ではあったが、焦らずじわじわと時間をかけて実行するつもりでいた。楽しそうに話をする雪野と十波の様子を見て、心穏やかでいられない総一郎だった。ACT30★14DAYS<はじまり>)

各委員会の会議や打ち合わせなどと同時進行しながら、雪野は亜弥、真秀、つばさらと共に芝居の上演に向けて奔走していた。一方、椿と十波はケンカしながらもかかわり合っていく。椿に対して嫌いという言葉をぶつけた十波だが、それで椿を傷つけられるわけもなく、思い通りにならない十波は焦る。舞台の準備でへとへとになりながらも、雪野はこれまで勉強で感じた事のない充実感に包まれるのだった。(ACT31★14DAYS<放課後>)

十波と雪野が親しくする事に難色を示す浅葉は、総一郎のために、十波に対してこれ以上雪野になれなれしくしないように忠告する。十波は椿にケンカをふっかけながら、吸い寄せられるように椿にキスしてしまうが、自分でもなぜそんな事をしたのか理解ができない。雪野は総一郎のためにも世界観を広げていきたいと考えていたのだが、そのために総一郎は、雪野が自分から離れて行く事に強い不安を感じていた。(ACT32★14DAYS<木洩れ陽と月光>)

第8巻

宮沢雪野と親しくなったせいで、あこがれていた有馬総一郎から嫌われてしまい、十波健史はショックを受ける。一方、沢田亜弥は本業の小説家活動で行き詰っていたが、芝居の方も順調に進んでいた。十波は佐倉椿浅葉秀明が親しげにしている場面を見て、腹が立ってしまう。そして、圧倒的に自分より強いと思っていた椿が、自分よりも弱くてか細い事に気づき、初めて女性として意識する。そこで十波は、これまで椿に対して抱いていた思いが恋心だった事に気づいたのだった。(ACT33★14DAYS<知りたい>)

椿への恋心を自覚した十波は、同時にこの恋が困難である事を自覚していた。金持ちの家に生まれ、両親と祖父母に甘やかされて何不自由なく育った十波はかつて、自分の事を世界一幸せな存在だと思っていた。しかし椿によって本当の自分の姿を直視し、初めて世界を知り、そして孤独を知った。きっかけを作った椿ともう一度会って、彼女を見返す事だけが、十波を支える生きがいになっていたのだった。(ACT34★14DAYS<わたしの好きな人>)

十波は椿と二度目のキスをし、気持ちを伝えあう。恋する気持ちを知った十波は総一郎に不快な思いをさせてしまった事を反省し、雪野には近づかないと約束して謝罪する。一方、雪野らが取り組む芝居の方は、瀬奈りかが衣装を完成させ、ますます佳境に入っていく。雪野と総一郎はそれぞれ多忙な時間を過ごしながら、お互いを思い合っていた。(ACT35★14DAYS<気温31℃>)

付き合い始めた十波と椿だが、お互いを思う気持ちの温度差を感じ、十波は戸惑う。一方、文化祭の準備で忙しい総一郎と雪野達だったが、秋の台風が押し寄せ、文化祭の準備もそこそこに、生徒達は早めに家に帰る事になる。悪天候の中、雪野を家まで送り届けた総一郎は宮沢一家に引き留められ、泊まる事になってしまう。(ACT36★14DAYS<ハリケーン>)

第9巻

佐倉椿と自分との違いを強く感じた十波健史は、付き合いをやめたいと告げる。文化祭の準備は大詰めを迎え、とうとう当日になる。浅葉秀明がクラスの出し物であるディナーショーで大量に集客する一方、芝姫つばさの義理の兄である池田一馬が、いっしょに文化祭を見に訪れたバンド「陰陽」のメンバー達と共にステージに飛び入り参加して、大勢を魅了してしまう。(ACT37★14DAYS→文化祭はじまる)

クラスの出し物である喫茶店の当番を終えた宮沢雪野は、家族達と共に文化祭を楽しんでいた。一方、部活の出し物の当番を終えた有馬総一郎は一馬と親しくなる。井沢真秀はプレッシャーに押し潰されそうになっていたが、恋人である貴志優介が現れて緊張をほぐす。そしてとうとう、沢田亜弥の脚本による芝居「鋼の雪」の幕が上がった。物語は、天才科学者であるレン・クロフォードの人生を描いたフィクションだった。(ACT38★文化祭・1)

天才科学者であるレン・クロフォードは、富と名声をほしいままにしながら、150年前に「アンティーク」というアンドロイドを連れて突然地球を去り、航海図にもない辺境の星で暮らしていた。80年ぶりに冷凍睡眠から目覚めたレンの目の前に現れたのは、「ネオモデル」という最新型のアンドロイドだった。ネオモデルはレン・クロフォードのそばにいる事を希望し、役に立って認められたいと願っていた。(ACT39★文化祭・2)

かつて天才とうたわれたレン・クロフォードは、既に知能ではネオモデルに敵わない事に気づく。そしてそこからよみがえった昔のつらい記憶を、ネオモデルに対して語り始める。レン・クロフォードはかつて、頭が弱く、心の純粋な青年だった。そして唯一親しくしてくれたローズマリーという女性を愛し、その彼女に捨てられたという過去があった。前半はそこで終了し、劇を見ていた総一郎は、完璧さを求めて孤独になったレン・クロフォードに自分自身を重ね合わせる。(ACT40★文化祭・3)

「鋼の雪」の後半が始まった。若きレン・クロフォードはローズマリーを愛していたが、ローズマリーはほかの男性に騙され、娘を産み落として死んでしまう。残された娘にメイと名付けて育てたレン・クロフォードは、メイを束縛しようとしてケガを負わせ、死なせてしまう。後追い自殺をしたレン・クロフォードだったが一命を取りとめ、頭を打って天才になる。そしてメイそっくりのアンドロイド、アンティークを作るのだった。(ACT41★文化祭・4)

天才科学者のレン・クロフォードは、アンドロイド開発によって富と名声を手に入れたが、同時にアンドロイドの持つ弊害によって世間からのバッシングを受け、地球外へ逃れる。しかし冷凍睡眠までして生き延びたのは、人類の運命を見届けなければならないという義務感からだった。そこまで聞いたネオモデルは、既に地球は世界大戦によって壊滅状態である事を伝える。レン・クロフォードは地球を救うため、再び戻る事を決意し、希望を感じさせつつ芝居は終わる。一方、十波は椿を手に入れるのではなく、同じ方向を目指そうと考える。そして総一郎は新しい世界に飛び立っていく雪野に対し、自分の抱える孤独を伝えられないままでいた。(ACT42★運命の車)

第10巻

井沢真秀と貴志優介は、12歳という年齢差がありながら付き合っていた。二人の出会いは1年半前にさかのぼる。その頃の真秀はまだ中学3年生だったが、すべてにおいて学校内で一番優秀であり、彼女を慕う取り巻きを従えながらも、どこにも身の置き場がなく、退屈を持て余していた。ある日、いっしょにつるんでいた仲間の万引きを咎めたところ、逃げる途中でケガをしてしまう。その様子を見ていた貴志に手当をしてもらった事をきっかけに、二人は街で出会うたびに話をする仲になる。貴志の存在は、それまでつまらなかった真秀の日常を変え、貴志への恋心を自覚した真秀は告白をする。(ACT43★陽射しのいい部屋・1)

真秀に告白された貴志は、姪っ子のようにかわいがっていた真秀を恋人にするわけにいかず、きっぱりと断る。泣きながら立ち去る真秀の姿を見て、貴志は自分の高校生の頃の苦い思い出がよみがえる。その頃の貴志は、同級生の誰とも気持ちを共有する事ができず、孤独を味わっていた。真秀と会わなくなって、知らず知らずのうちに喪失感を抱えた貴志は、自分にとって真秀がいかに重要な存在だったかに気づくのだった。そんなある日、貴志の前に、高校に合格した真秀が半年ぶりに現れる。自分の気持ちに正直になった二人は恋人同士の関係となり、貴志は、日ごとに成長する真秀を、これからも見守っていきたいと願うのだった。(ACT44★陽射しのいい部屋・2)

宮沢雪野有馬総一郎らは京都への修学旅行に行く事になった。雪野、総一郎、真秀、十波健史は時間通りに集合したものの、佐倉椿芝姫つばさ沢田亜弥、瀬奈りか、浅葉秀明は集合時間に遅刻し、ギリギリで新幹線に飛び乗る。メンバー達は京都駅から自由行動で市内観光をするが、同じく修学旅行生である不良にからまれたりと、ハプニング続きの旅行が続く。一方、芝姫一馬もまた別の高校でありながら、同じ日程で京都に修学旅行に訪れていた。(ACT45★GO GO 京都・1)

次の日も京都観光をするメンバーだったが、ふと気づくと雪野と総一郎、真秀とつばさ、浅葉と椿、十波と亜弥とりか、というようにバラバラにはぐれてしまい、そのまま4グループに分かれて行動することになる。亜弥とりかと十波は朱雀大路を歩いてみたいという願望を叶えに行き、浅葉と椿は修学旅行中の他校の女の子達と遊び、真秀とつばさは偶然会った一馬と行動を共にする事になる。思いがけず二人きりになった雪野と総一郎は、京都の町をデートする。(ACT46★GO GO 京都・2)

一馬とつばさと真秀は保津川の川下りをするために、即興の路上ライブをしてお金を儲ける。一馬の歌唱力に感動した真秀は、一馬のファンになってしまう。一方、十波と亜弥とりかは三十三間堂を訪れており、雪野と総一郎は嵯峨野でデートを楽しむ。浅葉と椿は太秦の映画村でかわいい女の子達に囲まれていた。翌日の奈良観光では雪野が熱を出してしまい、雪野の体調の悪さに総一郎だけが唯一気づく。総一郎はポーカーフェイスを装いながらも、雪野を失うかもしれないと想像しただけで、心のバランスを崩しかけてしまう。(ACT47★GO GO 京都・3)

1年ほど時間をさかのぼった高校入試の日。雪野は県内トップの北栄高校に首席で合格するという野心を胸に燃やしていた。総一郎は待ち合わせた椿と亜弥とりかと別れ、寝坊したつばさを迎えに行き、少しだけ遅刻して試験に臨む。真秀はトイレで雪野と出会うが、高校に対して期待を抱いていなかった。浅葉は偶然見かけた総一郎に一瞬ライバル心を抱くが、入学したら親しくなろうと心に決める。試験が終了し、帰りに雪野と総一郎はすれ違いながらも、その時はお互いの存在に気づかなかったのだった。(アクト・ゼロ)

第11巻

芝姫つばさの義理のきょうだいになった芝姫一馬は、つばさ、母親である池田裕美、義理の父である芝姫俊春と共に楽しい毎日を送っていた。友達が多く、学校でも人気者の一馬は、有名なインディーズバンドである「陰陽」のメンバーとしてバンド活動もしていた。すでに成人であるバンドのメンバー達からもかわいがられ、幸せで申し分ない日常に満足している一馬だったが、時々ふと遠く、魂の深いところから、自分を呼ぶ声が聞こえるような気がするのだった。(ACT48★BEAUTIFUL DAYS)

人見知りだが、一馬に対してだけは心を開き、まるで本物のきょうだいのように慕ってくるつばさに対し、一馬は肉親に対するのと同じような感情を抱いていた。二人きりで過ごす雨の休日に、「陰陽」のメンバーが突然やって来て二人を誘い出す。一馬が初めて陰陽のメンバーと出会った時の話などが語られるが、一馬を他の人に取られてしまってつばさは面白くない。メンバー達に二人の仲を冷やかされるが、一馬の中には、つばさに対するよこしまな感情はなにひとつないのだった。(ACT49★RAIN)

一馬が「陰陽」のメンバーである事に嫉妬心を抱いた人から突然八つ当たりされ、一馬はひどくショックを受ける。さらに追い打ちをかけるように、学校では理解のない先生から嫌味を言われてしまう。自分がなぜ「陰陽」のボーカルに選ばれたのかを見失う一馬は、「陰陽」が音楽雑誌からの取材を断った事を自分のせいだと勘違いして責任を感じ、高校を辞めるか陰陽を辞めると宣言する。しかし、メンバーから本当に必要とされている事を知った一馬は、迷いを吹っ切る事ができたのだった。(ACT50★SING A SONG)

自分で作った歌を「陰陽」のメンバーの前で披露するようになった一馬は、笑われながらも音楽の魅力にどんどんとりつかれていった。一馬の学校が夏休みになると「陰陽」は活動を広げ、それに伴って一馬も忙しくなっていく。そして「陰陽」の人気はたちどころに高まっていった。一馬の歌がどんどんうまくなっている事に、メンバー達も気づいていた。しかし、一馬が離れて行く事で孤独が深まったつばさは、一馬を連れ去ろうとする音楽そのものを憎むようになる。そして一馬は、つばさがかつて父親の再婚と総一郎への失恋という二つの痛手を同時に受けた事を知り、つばさの抱える孤独に気づく。(ACT51★LIVE)

つばさが、かつて孤独のどん底に突き落とされながらも、自分に心を開いてくれたという事を知った一馬は、つばさに対してできる限り優しくしようと努める。自分の時間をすべてつばさのために捧げながらも、やがて自分の心がつばさではなく音楽を選ぶという事を、一馬はわかっていた。心は音楽に捧げていても、つばさの幸せな顔を見たいと願う一馬は、少年時代に終わりを告げて大人になろうとしていた。そしてとうとう、つばさに対して恋愛感情を抱いてしまうのだった。(ACT52★SLEEPIMG BEAUTY)

つばさを女性として意識してしまうようになった一馬は、自分に対して無垢な愛情を向けてくるつばさに対して、家の中では自分の気持ちを隠す事で精いっぱいだった。一馬が恋をした事を知った「陰陽」のメンバーは、悩んでいる一馬の事を心配していた。つばさに対する恋心を隠すため、一馬はつばさを避けるが、とうとう耐えきれなくなり、家を出て「陰陽」のメンバー達の住む部屋に転がり込んでしまう。(ACT53★LOVE)

第12巻

家を飛び出た芝姫一馬は、アルバイトをして生計を立て、母親の了解を得てしばらく学校を休む事を決める。芝姫つばさは、父親の再婚と有馬総一郎への失恋のトラウマに加えて、一馬からも捨てられてしまったと感じ、心の傷が増えてしまう。つばさを傷つけてしまった事を自覚しながらも、自らの恋心を葬り去るしかない一馬は、自分の中に生まれた音楽によって救われる。一馬が作った曲を聞いたメンバー達は、一馬の中で目覚めた恐ろしいほどの音楽の才能に気づく。(ACT54★BORN)

天才的な音楽の覚醒を遂げた一馬は、ライブで歌う事で自分の中に生まれた音楽を開放する。つばさへの愛情を音楽に乗せ、融合させる事が一馬にできる最高の、そしてただ一つの事だった。さらに有名になった「陰陽」はインディーズとしての限界を感じ、プロデビューを果たす。一馬は高校を自主退学し、一方のつばさは「陰陽」の音楽を避け続け、食も細り、成長する事を拒む。そしてとうとう心を病んだつばさは、「陰陽」の音楽がまったく聞こえなくなってしまう。(ACT55★YIN AND YANG)

音楽を遮断したつばさは食も拒んで、やせ細っていく。とうとう倒れて入院してしまったつばさのもとへ、一馬が現れる。つばさは再び一馬と共に過ごす事を願うが、一馬はつばさへの思いを告げる。きょうだいとしての愛しか望んでいないつばさに対して、一馬は自分がどれだけつばさを大切に思っているのかを伝え、好きになってほしいと望む。恋愛に対して恐怖心を抱くつばさだったが、そのトラウマを乗り越えて、一馬のために回復しようと心に決める。(ACT56★TSUBASA)

これまで恋愛によって傷つけられる事を恐れたつばさは、自分の殻にこもり、一馬をきょうだいとして存分に愛する事で、心の充足を味わっていた。しかし一馬の気持ちが愛に代わってしまった今、一馬と離れないためには、自分自身を守る事よりも強くなる事を選ぶしかないという事に気づく。そして、一馬から与えられた愛は決してよこしまなものではなく、きょうだいとしての愛も含めて、すべてを包み込む愛情だったと気づいた時、つばさは大人の女性として成長を遂げるのだった。「陰陽」のライブでつばさは一馬の歌を聞き、二人は恋人同士になる。(ACT57★YOU LIGHT UP MY LIFE)

料理と裁縫が趣味の瀬奈りかは、地味でおとなしく目立たないタイプだが、成績が優秀だった事から、中学生の時は責任ある立場を任され、苦しい思いをしていた。りか本人は埋没している方が自分らしくいられると自覚しており、現在は平凡な日常を楽しんでいる。だが、幼なじみの[◆沢田亜弥]の突飛な行動を尊敬するなど素直で素朴な性格で、そんなところが周囲の異性達の人気を集めている事に気づいていなかった。そんな性格から、亜弥の兄、沢田恭一とはお互いに思い合いつつも、恋人同士と呼べるほどの関係は築けずにいた。(ACT58★りかちゃんライフ)

第13巻

時は流れ、宮沢雪野有馬総一郎は高校3年生に進学し、現役高校生作家の沢田亜弥にあこがれる宮沢花野は、北栄高校に入学していた。生徒会長だった雪野と副会長だった総一郎は生徒会を引退し、本格的に将来の進路に向けてそれぞれに進み始める。雪野はかねてから法学部に進む事を宣言していたが、迷いが生じていた。総一郎と井沢真秀はそれぞれ医大へ、佐倉椿十波健史は大学へ行かず、共に海外を放浪する旅に出る事を決めていた。瀬奈りかは被服科のある大学を希望し、亜弥は受験のために創作活動を休む事を決めていた。芝姫つばさ芝姫一馬と結婚する事が決まっており、浅葉秀明はホストをしてお金を稼ぎながら、美大へ進む計画でいた。(ACT59★そして時は流れ)

総一郎は高校3年間のうちに剣道のインターハイで二度も優勝し、全国模試では8位を取っていた。顔も性格もよく、すべてにおいて完璧な総一郎は、校内のみならず他校の女子生徒達からも人気を集めていたが、本人はまったくそんな事にも気づかないほど恋愛に疎かった。そんなある時、総一郎は部活の顧問に頼まれてテレビ番組に出演する事になる。しかしそんな総一郎は、実は心の中では孤独を感じ、雪野を失う不安をずっと抱えていたのだった。(ACT60★“1”)

雪野と総一郎は共に受験勉強に取り組んでいた。話の流れから幼い頃の話題になり、総一郎が同い年の従兄弟達3人からいじめられていたという話を聞いた雪野は、どんな事も打ち明けてほしいと伝え、これからも味方として真っ直ぐな愛情を示す。しかしだからこそ、総一郎は自分の中にある憎悪の感情を伝える事ができないでいた。つねに完璧な自分であるために、幼い頃に卑劣な方法でいじめられた事や、親戚からひどい扱いを受けた事に対する憎悪を、誰にも言えずに自分の奥底にしまい込み、よい子としての仮面をかぶり続けていたのだった。しかし、親戚の結婚式で久しぶりに会った従兄弟達の前で、総一郎は本性を現し、腕っぷしでも頭脳でも自分の方が上回っている事実を突きつけ、復讐を開始する。(ACT61★Perfect word)

養父母からの愛情を受けても、総一郎の心を巣食う憎しみの気持ちを消す事はできないのだった。従兄弟の二人が総一郎の将来性を考えてすり寄ろうとするが、総一郎が拒絶すると、総一郎の養父、有馬総司の悪口を吐き捨てる。総一郎は自分に与えられたすべての能力を使って復讐しようと決意をする。宮沢家に招待された総一郎は、もし宮沢家のような家に生まれていたらと想像する。しかし総一郎は、進めば進むほど雪野との距離が開いていく事を知りながらも、復讐の道を選ばざるをえないのだった。(ACT62★足音)

ずっと優等生として過ごしてきた総一郎は、珍しく学校をサボりたい気持ちになり、雪野と共に平日の日中をのんびりと過ごす。もうすぐ高校を卒業してそれぞれの道に進む二人の、残り少ない貴重な時間だった。総一郎は自らの古傷を癒す事も、そこから目を背け続ける事もできないと悟り、復讐を決めた今の自分を後悔してはいなかったが、一番苦しい事は、それを決めた事で進む道が雪野と別になってしまった事だった。ただそばにいたい一心で、総一郎は雪野の前でいい恋人としての仮面をかぶり続ける事を決めていた。その頃、テレビで放映された総一郎の姿を見て涙を流していたのは、小さい頃に別れた総一郎の実の母親、涼子だった。(ACT63★君を離れ)

第14巻

自分の中の黒い気持ちを隠し通したまま、有馬総一郎宮沢雪野と楽しい時間を過ごしていた。ある日、総一郎が帰宅すると、総一郎の実の母親である涼子が訪ねて来ており、総一郎に対して泣きながら謝罪をする。抱きつかれて、封印したはずの過去を思い出しそうになった総一郎は涼子を拒絶する。自分にとっての両親は養父母である有馬総司と有馬志津音だけだと宣言した総一郎に、一度は引き下がったかのように思えた涼子だったが、次の日、総一郎に会うために校門の前で待ち伏せをするのだった。(ACT64★破綻)

拒絶する総一郎に大きな声で騒ぎ立てる涼子に対し、周囲の目を気にした総一郎はひとまず話を聞く事にする。涼子の口から語られた、捨てたくて捨てたわけではないという言い訳が噓だという事には気づきつつも、本当の父親、有馬怜司の話に興味を惹かれた総一郎は耳を傾ける。怜司は総一郎の祖父、有馬怜一郎が愛人に産ませた妾腹で、総司の弟でありながら、親子ほども年齢が離れていた。遺産と愛情を横取りされる事を恐れた本妻の子供である有馬詠子によって怜司の母親は自殺に追い込まれ、怜司を道連れに心中を図ったのだった。怜司が有馬家で酷い目に遭った話を聞き、自分の過去が少しずつ露わになる事に強く興味をそそられた総一郎は、また涼子と会う約束をしてしまう。(ACT65★序)

涼子のもとから浅葉秀明の家に向かった総一郎は、浅葉が何も聞かずに受け入れてくれる事に安堵する。雪野は校門で待ち伏せていた女性、涼子が何者なのかを総一郎に尋ねるが、総一郎は母親だという事を伏せて噓をつく。総一郎が噓をついているという事を直感的に見破った雪野は、ほんの少しだけ総一郎の本当の顔に気づく。涼子に再び呼び出された総一郎は、もう会いたくないと伝えるが、涼子は総一郎が知りたがっている過去の話をして気をひき、最後という約束で食事をする。しかし食事が済んでからも涼子は総一郎を離そうとせず、総一郎がよい子の仮面を必死でかぶろうとしている事を見破り、言う事を聞かないとまた校門で待ち伏せすると脅迫して、総一郎を自分の思い通りにしようとするのだった。(ACT66★破)

相手の弱点を突く汚い手口で、涼子は総一郎を呼び出し続ける。総一郎が母親から虐待を受けていた経緯や、引き取った直後の総一郎の様子から、志津音は総一郎を不憫に感じ、愛情を注ぎ続けてきた。総一郎のハンカチに残った涼子の香水の匂いに気づいた志津音は涼子に対して電話で抗議をするが、涼子はそんな志津音をあざ笑うだけで相手にしようとしなかった。総一郎はかつて封印したはずの暗い過去を思い出しそうになりながら、必死でそれを避けようとしていた。一方、雪野は総一郎がよい子の仮面の下に隠したもう一つの顔にやっと気づき、その存在について浅葉に問うのだった。(ACT67★急)

総一郎がこれまで自分に対して本心を隠しながら付き合ってきた、という事実に気づいた雪野は、初めは混乱するが、それがいつから始まっていたのかを必死で考える。出会ってからお互いに惹かれ合い、優等生の仮面を捨てて本当の自分を出そうと話し合った時までは、二人は同じ場所にいた。しかし雪野が新しい世界を広げ、本来の自分を開放していくかたわらで、総一郎は苦しんでいたのだった。弱音を吐かない総一郎のたった一度のSOSに、かつて気づいてやれなかったその時の自分を後悔した雪野だったが、総一郎を取り戻そうと決意する。一方、総一郎は涼子のマンションで、かつて幼かった自分が母親から虐待を受けていた事を思い出す。(ACT68★パンドラ)

第15巻

有馬総一郎は物心がつく前から、母親である涼子から日常的に虐待を受けていた。食べるものも与えられず、気に入らない事があると、容赦なく暴力を振るわれていたのだった。外に閉め出され、夜になって雨が降っても家に入れてもらえなかった事、暴力で腫れ上がった顔を近所の子供達から笑われた記憶がよみがえる。涼子のマンションを出て、朝になって帰宅した総一郎に、養父母である有馬総司、有馬志津音は、総一郎が涼子と会っていた事実について尋ねるが、総一郎はなにも話そうとせずに、再び家を飛び出してしまう。(ACT69★彼のソネット)

虐待を受けながらも母親にこびへつらって愛されようとしていたみじめな幼い自分の記憶がよみがえり、総一郎は浅葉秀明のもとを訪ねる。浅葉は、宮沢雪野が総一郎の持つもう一つの顔に気づいた事を告げ、雪野に理解してもらう事を勧めるが、総一郎はどうしても雪野に知られたくないと頑なに思っていた。雪野は総一郎を心配して奔走し、浅葉の家にやって来たが、総一郎に拒絶されてしまう。(ACT70★もうひとりの彼のソネット)

かつて総一郎に向けられた母親の涼子の感情は、愛情のかけらもなく、総一郎が育つにつれて憎しみだけがどんどん増幅していった。何日も家に帰らなくなる事が増え、残されたアパートでいつも飢えていた事、たまに帰ってきてはぐちゃぐちゃに殴り倒される事、そしてまた独りぼっちでアパートに取り残される恐怖を思い出した総一郎は、自分自身が保てなくなっていく。雪野は総一郎にすべてを打ち明けてほしいと考え、今の気持ちや考えを尋ねるが、総一郎は雪野を傷つけてしまう事を恐れ、本当の自分をぶつけられないでいた。(ACT71★彼女のソネット)

自分の事を必死で理解しようとする雪野を拒絶し、総一郎はかたくなに自分の殻にとじ込もろうとしていた。自分を取り繕う事が限界に達した総一郎は、自分を暴かれないために、雪野に酷い言葉を投げつけて拒絶しようとする。自分の苦しみを雪野と分け合う事をせず、独りぼっちで苦しむ事を選んだ総一郎は、雪野を必要としながらも、雪野をまったく信じていなかったのだった。誰よりも近くにいながら、二人の距離は遠く離れていた。雪野を失望させた自分に嫌気がさした総一郎は、雪野に対してさらなるひどい言葉を投げつけ、強引に性行為に及ぶ。そして総一郎の脳裏に母親との生活の最後の日がよみがえった。何日も放置され、極限までの飢えと発熱により動けなくなった総一郎は、死んでいる事を確かめに来た母親にすがりつき、振り払われて階段から落ちて大ケガを負い、病院に運ばれたのだった。(ACT72★彼と彼女のソネット)

雪野に本当に拒絶される事が怖く、そうされる前に自分から離れようとしてひどい言葉を投げつける総一郎は、心のバランスを完全に失っていた。それでも雪野を求める気持ちと、自分でもまだ認識していない自分自身を、雪野に暴かれそうで怖い気持ちが相反する。そんな総一郎の心に、雪野はかるがると入り込み、本当の気持ちを見破ってしまう。そして雪野は、総一郎が母親から愛されなかった事で苦しんできただけではなく、人を愛したい気持ちを殺しており、それこそがもっとも辛い事であったという事実に辿りつく。これにより総一郎は、誰も愛そうとせず誰にも心を開こうとしない呪縛から、完全に解き放たれるのだった。(ACT73★夜の終わり)

第16巻

有馬総一郎は3歳で今の家に引き取られた時の夢を見ていた。美味しいものをたっぷり食べさせてもらい、栄養失調で骨の浮いていた身体がきれいになる。両親から愛され、大切に扱われ、心の傷を癒していく日々の中、時々虐待の記憶がよみがえり、苦しむ事もあったが、両親が温かく包んでくれた。それなのに総一郎は、両親にも誰にも心を完全に開く事はできず、感謝の気持ちを表現するために、義務感のようによい子である事を演じ続けてきたのだった。そんな自分を振り返り、総一郎は自分が間違っていた事に気づく。人を愛する事を思い出した総一郎は、自分がいかに両親から愛されていたかを、心の底から実感する。(ACT74★夢の日々)

容姿端麗で成績優秀、なおかつ文武両道である総一郎は、これまでたくさんの女の子から告白されても、心を動かされる事がなかった。ところが宮沢雪野は、初めて出会った時から、いともたやすく彼の閉じられたはずの心を揺さぶる。生い立ちからなにもかもを告白した総一郎に対し、まだ隠している事が残っている事を雪野は見抜く。それは、総一郎がこれまで苦しんできた要因に、雪野自身がかかわっているという事実だった。雪野を傷つけたくないばかりに、総一郎は事実を心のうちに隠し通してきたのである。そんな重荷を共有する事で、二人は以前よりもっと強い絆を手に入れる。(ACT75★回帰)

つらい過去に目を背けるのではなく、正面から向き合いながら生きていく事を選んだ総一郎は、雪野に対して完全に心を開くようになった。隠し事をせず、完全に心を開いて人と付き合う喜びを知った総一郎の前に、再び涼子がしつこくまとわりつこうとする。総一郎は涼子と完全に決別する事を心に決め、雪野に勧められて友達に協力を仰ぐ。これまでいっさい他人を頼る事なく、一人で生きてきた総一郎の変化に気づいた十波健史佐倉椿芝姫つばさ沢田亜弥、瀬奈りか、井沢真秀は喜んで協力する。そして、同じく心の闇と戦い続けてきた浅葉秀明は、わずかな淋しさを感じつつも、総一郎の門出を喜ぶのだった。(ACT76★光の道)

健史、椿、つばさ、亜弥、りか、真秀らは協力して、涼子を総一郎に近づけないようにあらゆる作戦を立てる。連日のようにしつこく学校を訪れた涼子は、総一郎に近づく事さえできなかった。やがて涼子は学校に顔を出さなくなり、あきらめたかに思われたが、今度は予備校帰りの総一郎の前に現れる。しかし、総一郎から完全なる決別を申し渡されて激高した涼子が、総一郎に暴力を加えようとした時、有馬志津音が立ちはだかる。総一郎をかばってケガをした志津音は、涼子に対して平手打ちをし、総一郎の母親としての威厳を見せつける。(ACT77★MOTHER)

総一郎が闇の中で苦しんでいた事に唯一気づき、同じ苦しみを共有していた浅葉は、総一郎が雪野の力で闇から抜け出して光の中へ歩き出した事を祝福していた。そんな浅葉の目には総一郎がどのように映っているのかを、雪野は尋ねる。浅葉は、総一郎が深い闇を抱えながらも、同じような闇を持つ浅葉やつばさに対しては一線を置いていると感じていた。同じ闇を持つ相手を選び、理解し合って傷をなめ合うのではなく、まったく理解できず、またしようともしない雪野を選んだのは、無意識のうちに必死に光を求めていた心の表れだったのだ、と浅葉は雪野に伝える。これまで自分が気づかないあいだ、総一郎を支え続けた浅葉に感謝し、自分が浅葉の心を救う役に立たない事を詫びた雪野は、それでもこれからも友達としてそばにいる事を誓う。(ACT78★闇を切って飛ぶ鳥)

第17巻

高校が冬休みになり、宮沢雪野有馬総一郎とその両親と共に、蓼科の別荘で過ごしていた。古くて立派な別荘の屋根裏部屋を探検した総一郎と雪野は、そこでジャズのレコードが入ったカバンを見つける。それは総一郎の父親、有馬怜司が残していったものだった。そして総一郎は、別荘の敷地内にある小さな建物を見つける。そこにあるピアノは、総一郎が幼い頃に見覚えがあるものだった。一方、井沢真秀は留学中の恋人である貴志優介に会いにN.Y.を訪ねる。そこで二人は今注目を集めている日本人ジャズピアニストの怜司のコンサートチケットを手に入れていた。(ACT79★プレリュード)

総一郎の幼い頃の記憶がよみがえる。有馬総司、有馬志津音のもとに引き取られて間もなく、別荘を訪れていた総一郎は、敷地内にある小さな建物からピアノの音が流れてくるのを聞いた。そこにいたのは怜司で、そのピアノの音の恐ろしさに泣いてしまった総一郎を、総司がそっと連れ出したのだった。父親の事を知りたいと思いつつも、高校を卒業したら教えるという総司の約束を信じ、総一郎は無理に聞き出そうとはしなかった。しかし、夜になって別荘で談笑していた総一郎らの目に、N.Y.で活躍する日本人ジャズピアニストとしてテレビに出演する怜司が飛び込んでくる。(ACT80★ピアニスト)

最後に総一郎と性交渉して以来2か月ほど生理が来ていない雪野は、自分が妊娠している事を自覚していた。一方、怜司のコンサートに向かう真秀と貴志は、同じくN.Y.にやって来た芝姫つばさ芝姫一馬らとバッタリ出会い、同じコンサートへ向かう。舞台に現れた怜司のピアノに触発され、一馬は無意識のうちに歌い始めてしまうが、それがまた怜司を触発し、二人はセッションしてしまう。楽屋に招待された一馬達は総一郎とあまりにも似ている怜司に対し、総一郎との関係について尋ねる。怜司は総一郎の父親である事を明かし、次の日から総一郎に会いに日本へ行くと告白する。(ACT81★コンサート)

どんな父親が現れても総一郎を守ろうと決めた雪野は、別荘から戻ってからも毎日のように有馬家に通っていたが、怜司は突然総一郎の前に現れる。すぐに総司が追い払ったが、怜司は後日、学校帰りの総一郎と雪野の前に現れる。怜司は総一郎に拳銃を突きつけ、バイクの後ろに乗れと命令する。(ACT82★テンペスト)

怜司に従って共にバイクに乗った総一郎は、親として一つだけ総一郎にしてやりたいと考えている事があり、それまで少しだけ付き合ってほしい、という怜司の頼みを聞く事にする。怜司の泊まるホテルにいっしょに滞在しているうちに、総一郎は怜司に対する興味がわいてくるのだった。破天荒に見えて筋が通っている怜司の行動や、彼の発する言葉、スマートな振る舞いなどに惹かれた総一郎は、怜司の事が好きになっている自分の気持ちに気づく。(ACT83★A BOY AND A MAN)

第18巻

有馬総一郎有馬怜司と共に過ごしながら、怜司のいろいろな面について知る。経験も知識も頭のよさも、すべて自分を上回っている事を素直に認められる怜司の前では、総一郎は気を張って付き合う必要がなく、少年のように甘えたい衝動にかられるのだった。ある日、総一郎を心配した有馬総司が訪ねて来るが、会わずに追い払おうとする怜司を無視して、総一郎は総司と話をする。総司と怜司が実はお互いに大事に想い合っているという事に気づいた総一郎は、怜司について色々と尋ねる。怜司は有馬家の当主であった有馬怜一郎の妾腹として生まれたが、苛め抜かれてノイローゼになった母親に無理心中させられそうになり、海に沈む母親から逃れて一人だけ生き残ってしまう。心に深い傷を負った怜司にとって総司は兄であり、医師であり、そして父親でもある大切な存在だった。(ACT84★ラ・ヴィ・アン・ローズ)

怜司は総一郎と宮沢雪野を招待し、コンサートのあとに3人でいっしょに食事をする。楽しいひと時のあと、怜司は突然総一郎に対して、もう会わない事を告げる。少しでも親としての愛情があるのではないかと期待をしていた総一郎は、激しいショックを受けて家に戻る。総司は戻って来た総一郎に対して、かつて怜司が有馬家に引き取られてから、こうして断絶してしまうまでの話を始める。その頃、日本のテレビに放映された、有名ピアニストとしての怜司と彼のそばで笑顔で過ごす総一郎の姿を、涼子が激しい嫉妬の目で見つめていた。(ACT85★カデンツァ)

有馬家は江戸時代から続く由緒正しい医者の家系で、長男の総司は生まれた時から人生が決まっているようなものだった。総司の父親である有馬怜一郎はすべてにおいて完璧で、周囲を魅了する美貌の持ち主だった。しかし4人の子供達は誰も彼に似ておらず、平凡な子供達に対して一つも期待などしていない怜一郎の前で、総司はいつも惨めな思いを味わっていた。総司より一つ年上の有馬詠子は、なんとかして父親に認められたいと願い、父親の愛と期待を勝ち得るために血のにじむような努力をしていた。純粋で傷つきやすく、生きるのが不器用な詠子は、傷つく事を繰り返すうちにヒステリックで意固地になっていく。医者になった総司は安らぎを求め、親友の妹だった有馬志津音と結婚するが、子宮の病気になった志津音は子宮を摘出し、子供が産めない身体になってしまう。しばらくして総司は詠子から、怜一郎が愛人に産ませた子供である怜司を引き取ったという話を聞く。(ACT86★ノクターン)

身体を壊した父親に代わって、予想外の若さで病院を継いだばかりの総司は仕事に忙しく、腹違いの弟の存在など忘れてしまっていた。そんなある日、実家に呼ばれた総司は、怜司の母親が怜司を道連れに心中しようとして亡くなった事、怜司だけが生き残った事を知る。父親譲りの美しい顔をした怜司と初めて出会った総司は、詠子に代わって実家と弟の面倒を見ていく事を決める。幼いながらも彼をいざなおうとする闇と誇り高く戦う怜司を、総司は支え続ける。総司にだけは心を開いた怜司はやがて立ち直り、優秀な頭脳で社会復帰を果たした。そして自分を苛める親戚に臆する事なく、自分の置かれた過酷な環境をゲームのように面白がる事に決めたのだった。(ACT87★ゲーム)

怜司は持ち前の才能で、たいして勉強せずに、父親と兄の母校である学校で首席を取り続ける。そして亡くなった母親の影響でピアノを始め、非凡な才能を発揮していった。父親そっくりの美貌が際立ち始め、どこへ行っても注目の的で、それを楽しむ強靭な精神力と華やかさは、総司とは対極のものだった。そんな怜司を見ているうちに、総司はかつて自分が父親に感じていたコンプレックスを呼び起こされてしまう。怜司が賞賛を受ければ受けるほど、自分がちっぽけである事を責められているようで、長年築き上げてきたものまでむなしく感じてしまうのだった。そんなある日、総司は怜司に対してほんの小さな針を含んだ発言をしてしまう。それはささやかな一言ではあったが、察しのいい怜司を絶望に突き落とすには充分であった。(ACT88★The Way We Were)

第19巻

有馬総司のささやかな一言から、有馬怜司は心を閉ざしてしまう。怜司を傷つけた事に気づいた総司はすぐに謝るが、怜司は自分がいかに大好きな兄を苦しめる存在だったかに気づき、その事に絶望していたのだった。前向きに生きていく事を放棄した怜司は不良グループとつるみはじめ、悪事を重ねる。仲直りをしたいと歩み寄る総司を拒絶しながらも、大好きな兄と決別してしまった事に苦しんでいた。そんなある日、不良グループのリーダーの恋人である涼子が鑑別所から戻り、お金持ちの息子であるという怜司に興味を抱く。(ACT89★兄弟)

総司は家に戻らなくなった怜司を探し回り、過労で倒れてしまう。久しぶりに家に戻った怜司は有馬志津音と顔を合わせる。志津音は、悪いのは総司でも怜司でもなく、歪んだこの家なのだと説得するが、怜司は素直になれないでいた。涼子に目をつけられて一方的に迫られる怜司は、嫉妬に狂った不良グループのリーダーから殴られ、ほかのメンバー達からも無視されるようになり、居場所がなくなってしまう。逃げ回り、捕まったら殴られるという生活を続けた結果、怜司は憂さを晴らす気持ちで、一度だけ涼子と寝てしまう。胃潰瘍で倒れてしまった総司を病院に運んだ怜司は、やっと素直に兄に謝罪する。再び学校にも通いだし、医者を志す事を目指し始めた怜司だった。(ACT90★螺旋)

大好きな兄と再び親密な関係に戻れた怜司は、その事をとても幸福に感じていた。しかしやっと取り戻した幸福を、一通の手紙がかき消してしまう。手紙は涼子から届いたもので、生まれたばかりの赤ん坊の写真だった。そしてその赤ん坊は自分にそっくりなのだった。たった一度だけ肉体関係を結んだ事で、涼子のお腹には赤ん坊ができており、涼子はその子を怜司に黙って産んでいた。涼子の目的は怜司のお金であり、養育費と称して多額のお金を要求するようになる。総司に嫌われたくないという気持ちから、怜司は誰にも内緒でお金を送り続けるが、やがて怜司がたいして金づるにならないと知った涼子は連絡を断つ。興信所を使って探し出した家に向かうと、そこには3歳の有馬総一郎が虐待の果てに雪の中で血まみれて倒れていたのだった。(ACT91★息子)

怜司から連絡を受けて駆け付けた総司は、初めて知った甥の存在に驚く。総一郎がろくに食事も与えられずに暴力を振るわれていた事を知り、総司は総一郎を引き取る事を決める。そして総一郎に新しい環境を与えるために、彼に生き地獄を味わわせた原因である怜司を、総一郎に会わせないと決めたのだった。怜司は兄であり医師であり父親でもあった総司と再び決別し、失意のままN.Y.に渡る。そこでピアノを弾きながら生きていく事を選んだのだった。(ACT92★長い旅)

総司からすべての過去の話を聞いた総一郎は、自分を守ろうとしてくれた二人の父親、怜司と総司への感謝の気持ちを感じていた。そして、自分の過去を前向きに捉えられるようになる。しかしそんな総一郎の前に、涼子が現れる。総一郎と怜司がなかよくしている姿をテレビで見た涼子は、総一郎に対して自分も怜司に会わせろと恫喝する。そこに現れた怜司は駆け寄る涼子を蹴り飛ばすと、これ以上総一郎の人生を邪魔するのなら許さないと、ピストルを向ける。怜司が日本にやって来て総一郎と会った目的は、実は総一郎のために涼子を殺す事だった。(ACT93★贖罪)

第20巻

和解した兄とこのまま幸せになると信じていた日々を自分から奪った涼子を、有馬怜司は心底憎んでいた。そして、有馬総一郎という不幸な子供を誕生させた自分と涼子を加害者だと思っていた。総一郎の人生がこの先涼子に狂わされ、不幸の連鎖を続けないためにも、怜司は涼子を撃ち殺そうとするが、総一郎に力づくでそれを阻止されてしまう。怜司は総司が16歳の時にこっそり会いに来た事を告白する。それまでは兄を失って自分だけが不幸になったと思い、総一郎を誕生させてしまった事を後悔していたが、完璧な仮面をかぶりつつも幸せそうではない総一郎の様子を見て、なんとかして総一郎を救いたいという気持ちに代わる。その感情の変化はピアノの音を変化させ、怜司はその頃からピアニストとして認められるようになり、今は多くの人に愛されるピアノを弾いている。怜司は今では心の底から総一郎が生まれてきた事に感謝している、という気持ちを伝える。(ACT94★救済)

帰宅し、総司にありのままを伝えた総一郎は、総司と怜司にも和解してほしいと勧める。総司は怜司の泊まるホテルのバーで、怜司と久しぶりに昔語りをする。大好きな兄によく思われたくて少しだけ緊張していた幼い自分を思い出し、怜司は涙を流す。日本での最終公演を終えた怜司は再びN.Y.に戻るが、再び総一郎に会いに日本へ来る事を約束する。(ACT95★旅の終わり)

つらい過去の話を知り、それらを乗り越えた総一郎は、それまでのよい子であらねばならないという仮面を脱ぎ捨て、両親の前でもリラックスした表情を見せるようになった。そんな総一郎を眺めつつ、有馬志津音は幼い頃を思い出す。その頃の志津音は病気がちであまり学校へも通えなかったが、優しい家族に囲まれて幸せな少女時代を過ごしていた。主治医である有馬怜一郎の長男である総司とは幼い頃からの知り合いで、二人は自然に愛を育み結婚する。温かい家庭を築く事だけが願いだったが、志津音は子宮を摘出する手術を受け、赤ちゃんを産めない体になってしまう。やがて総司とは親子ほども離れた兄弟である怜司が現れ、そして二人のあいだに亀裂が走り、そして思いがけず怜司の子供である総一郎を育てる事になった事を、志津音は不思議な運命のいたずらと考えながら受け入れていた。そして、総司と怜司の血を引く総一郎の母親になれた運命に、感謝しているのだった。(ACT96★志津音、語る)

宮沢雪野が妊娠していた事に、雪野の母親、宮沢都香は気づいていたが、雪野を自立した大人だと思っている都香は特に口出しせず、本人達に任せるつもりでいた。これまで総一郎に対して妊娠の事を告げられずにいた雪野だったのだが、やっと伝えた雪野に対し、総一郎は一瞬だけ動揺しつつも、瞬時に立て直して、雪野とのこの先の人生に責任を持つ事を決意する。(ACT97★アカルイミライ)

総一郎と雪野は産婦人科に行き、赤ちゃんの検診を済ませる。本当にお腹に赤ちゃんがいる事実がハッキリした二人は、これからの事を話し合う。雪野は大学受験をせず、高校卒業後はひとまず専業主婦になり、何人か子供を産んで手が離れてから大学へ行こうと考えていた。それを聞いて、総一郎もまた大学へは行かずに、かねてからあこがれていた仕事に就職する事を決意する。総一郎はまず、宮沢家に挨拶に行き、結婚と妊娠の報告をするが、雪野の父親、宮沢洋之はショックを受ける。有馬家で報告を済ませた総一郎は、実は警察官になりたいという希望を伝える。そして雪野もまた医者になりたいと思っていた気持ちを伝え、総一郎の医大への費用として貯めてあったお金で、医大へ進む事を決めるのだった。(ACT98★シャイニング スター)

第21巻

浅葉秀明と同じ中学に通っていた同い年のとある少女は、地味でおとなしく、誰ともつるまなかったため、同級生にいじめられてしまう。しかし浅葉が女子の持つ恐ろしい一面に拒絶反応を示したため、彼に幻滅されたくない女子達は少女をいじめる事をやめる。それ以来、浅葉と少女は親しくなった。北栄高校を受験するために猛勉強が必要な浅葉は、少女に勉強を教わる。自分の家族と合わずに孤独を抱える浅葉の心を理解しつつも、少女は浅葉に恋をする事をしなかった。同じ高校に進んだ浅葉と少女の時間は流れ、別々の進路に向かって歩き出す。浅葉が運命の女性と出会い、幸せになる事を願いながら、少女はこれからは顔を上げて生きていく事を決意する。(ACT99★語られない話)

学校の友達や先生に結婚と妊娠の事実を告げた宮沢雪野有馬総一郎は、周囲を驚かせていた。超進学校でありながら、学年1位の成績を収めている総一郎や、優秀な雪野が進学しないという事実は先生にショックを与えるが、友人達には祝福され、二人は希望に満ちあふれていた。二人が有馬家に行くと、折しも有馬詠子が訪ねて来ており、さっそく総一郎に対して嫌味を言うが、自己紹介した雪野は将来医者になりたいという気持ちを伝える。迷いなく医者になると決めた雪野に対し、詠子はかつて自らが諦めた医学の道を思い出すのだった。その頃、4か月ぶりにN.Y.での音楽活動を終えて日本に戻って来た「陰陽」のメンバーは総一郎と雪野を見かける。古い殻を脱ぎ捨てて幸せを手に入れた総一郎を目にした芝姫一馬は、新しい曲のインスピレーションがわいてくるのを実感する。(ACT100★卒業までの毎日)

浅葉、井沢真秀沢田亜弥、瀬奈りかはそれぞれの大学に合格し、総一郎もまた警察官採用試験に合格する。とうとう3年間の高校生活が終わって北栄高校の卒業式を迎え、総一郎は卒業生代表として答辞を読むのだった。佐倉椿十波健史はその足で成田空港からエジプトへ飛び立ち、真秀は恋人である貴志優介の一時帰国を迎えに成田空港へ、芝姫つばさは結婚式の準備へ、亜弥は原稿の締め切りと、りかはそのサポートのために家に戻ってしまう。女の子達に囲まれて写真を撮っている浅葉を眺めつつ、雪野と総一郎は過ぎ去った高校生活の余韻にひたるのだった。(ACT101★春三月)

雪野と総一郎が北栄高校を卒業し、16年の年月が経った。総一郎は敏腕刑事として数多くの手柄を挙げており、雪野は総一郎の父親の経営する病院で医師として活躍していた。浅葉は画家として活動しつつも、有馬夫婦のとなりに家を建てて暮らしており、忙しい雪野と総一郎のため育児を手伝っていた。雪野と総一郎のあいだには有馬咲良、有馬蘇芳、有馬藍という3人の子供が生まれており、長女の咲良は北栄高校に入学する。生まれつき優秀な頭脳を受け継いだ咲良はすべてにおいて完璧で、手がかからない子供だったため、雪野はすぐに大学受験をして、医師への道を進む事ができたのだった。「陰陽」のライブで16年ぶりに集まった懐かしい仲間達は、それぞれに輝きながら人生を謳歌していた。(最終話★これほど倖せな人生はない)

登場人物・キャラクター

宮沢 雪野 (みやざわ ゆきの)

県立北栄高校に通う高校一年生で、成績優秀・品行方正の優等生で通っているが、本当は欲深く俗っぽい性格。人から良く見られるのが大好きで、ずっと優等生を演じてきたが、有馬総一郎との出会いをきっかけに、本当の自分をさらけ出すようになる。

有馬 総一郎 (ありま そういちろう)

スポーツ万能・成績優秀・容姿端麗の完璧超人。幼少時のトラウマから完璧な人間でなくてはいけないと思い込み、家でも外でも完璧な優等生として振舞うが、内面には深い闇を抱え苦しんでいる。宮沢雪野に出会い、彼女に恋をしたことによって、少しずつではあるが救われてゆく。

浅葉 秀明 (あさば ひであき)

宮沢雪野の同級生。かなりの美形であり、女子たちのアイドル的存在となっている。自身も相当の女好きであるが、どんな女性とも分け隔てなく付き合うので評判は良い。一見チャラチャラしているが、思慮深く、友情に篤い一面もある。

芝姫 つばさ (しばひめ つばさ)

宮沢雪野の同級生。「妖精のよう」と称される小柄な美少女だが、性格はぶっきらぼうかつ暴力的で、人見知りも激しい。中学時代に同級生だった有馬総一郎に恋をし、彼と同じ高校に入るために猛勉強した過去を持つ。そのため、彼と交際を始めた宮沢雪野を敵視するようになる。物語の途中で、父の再婚相手の連れ子である芝姫一馬とよい仲になる。

井沢 真秀 (いさわ まほ)

宮沢雪野の同級生。プライドの高いクールビューティ。中学では何をやらせても常にトップだったが、高校に入ってからは宮沢雪野にどうしても敵わず、嫉妬心を抱いていた。有馬総一郎と出会って自分を解放した宮沢のことを「ボロを出した」と称し、クラスの女子を煽動してシカトなどのいじめを行ったが、のちに和解を果たして親友となる。 一回り年上の歯科医師と交際している。

佐倉 椿 (さくら つばき)

宮沢雪野の同級生。スポーツ万能で、所属しているバレー部では一年生ながらレギュラーを獲得している。奔放でサッパリとした性格で、下級生女子から宝塚的な人気がある。自身も女の子が大好きで、同じくモテる浅葉秀明とは互いにライバル視し合っている。小学校時代はガキ大将的な存在で、同級生の十波健史を「いじめから守る」という名目で下僕のようにこき使っていた。 高校で彼と再会し、紆余曲折を経て交際関係に至る。

瀬奈 りか (せな りか)

宮沢雪野の同級生。とても手先が器用で、特技は刺繍。優しく穏やかな女の子らしい性格だが、怒らせると怖いところも。沢田亜弥とは家が隣の幼なじみで、後に亜弥の兄の恭一と結婚する。

沢田 亜弥 (さわだ あや)

宮沢雪野の同級生。腹黒い性格の皮肉屋。佐倉椿とつるんで、いつも悪事を働いている。小さい頃から文章を書くのが得意で、「沢井綾希」のペンネームで活動している現役の小説家。文化祭で演劇をやることになった宮沢雪野たちのために、「鋼の雪」というタイトルの脚本を執筆した。

十波 健史 (となみ たけふみ)

宮沢雪野の同級生。物語の途中で登場する転校生。小さい頃は性格の悪いデブだったため、小中学校を同じくした佐倉椿にいじめられていた。転校をきっかけに椿への復讐を誓って肉体改造を行い、色黒の長身美男子に変貌。正体を隠して椿に近づき復讐を狙うが、椿に拘るその感情が好意であることに気づき、交際関係に至る。

芝姫 一馬 (しばひめ かずま)

人気インディーズバンド「陰・陽(イン・ヤン)」のヴォーカル。母親が芝姫つばさの父と再婚したことで彼女の義弟となる。性格は温厚そのものだが、金髪にピアスという出で立ちなので、不良と誤解されやすい。芝姫つばさとは初めこそギクシャクしていたが、後に心を通わせ恋人同士となる。

有馬 怜司 (ありま れいじ)

有馬総一郎の実父。ニューヨークで活躍するジャズピアニスト。有馬総一郎に瓜二つの麗しい容貌に、息子を上回る頭脳と運動能力を誇る。優しさと残忍さを併せ持つ複雑な性格の持ち主で、総一郎を利用しようとした妻の涼子を殺すために、ニューヨークから帰国している。

集団・組織

陰陽 (いんやん)

『彼氏彼女の事情』に登場するロックバンド。インディーズバンドだが、熱狂的なファンが多く、井沢真秀は有名になる前から『陰陽』のファンだったことを告白している。メンバーはヴォーカル:芝姫一馬、ベース:潮(うしお)、ギター:敦矢(あつや)、ドラム:マーティン、キーボード:ジョーカーの5人構成で、皆兄弟のように仲が良い。

その他キーワード

鋼の雪 (はがねのゆき)

『彼氏彼女の事情』作中で上演された劇中劇。沢田亜弥の書いた脚本が、宮沢雪野らによって演じられた。天才科学者レン・クロフォード(演:宮沢雪野)と、彼の作ったアンドロイド、アンティーク(演:芝姫つばさ)とネオモデル(演:井沢真秀)との対話と通して、人間の存在意義と自己実現のあり方を問う内容となっている。

アニメ

彼氏彼女の事情

神奈川県下随一の進学校県立北宋高校の1年A組のクラス委員宮沢雪野は、文武両道で品行方正な優等生だったが、その内心は他人の賞賛を浴びるためには手段を選ばない虚栄心の塊だった。そんな宮沢雪野の前に現れた、... 関連ページ:彼氏彼女の事情

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