いいね! 光源氏くん

いいね! 光源氏くん

現代日本に住むOL・藤原沙織のもとに、ある日突然『源氏物語』の主人公である架空の人物・光源氏が現れる。『源氏物語』の時代の世界に帰る手段を探す光源氏と、次元と時代を超えて現れた光源氏に混乱しつつも彼に協力する沙織の、奇妙な同居生活を描いた歴史コメディ。「FEEL YOUNG」2015年12月号から掲載の作品。また、作中にはこの作品用に現代歌人の甲村秀雄と孝之助が書き下ろした短歌が多数登場する。2020年テレビドラマ化。

正式名称
いいね! 光源氏くん
ふりがな
いいね ひかるげんじくん
作者
ジャンル
ギャグ・コメディ
 
時代劇
 
和風ファンタジー
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あらすじ

第1巻

雑貨メーカーに勤める27歳のOL・藤原沙織がある夜自宅でくつろいでいると、突如謎の男性が部屋に現れる。彼を不審者と思い込んだ沙織は、彼を殴って気絶させ、警察を呼ぶ。しかし、よく見ると彼はまるで平安時代の人のような服装をしているうえ、自分を平安時代の人間だと思い込んでいるようだった。自分が殴ったことにより記憶が混濁したせいだと考えた沙織は、責任を感じ、警察に突き出すのをやめて彼を保護することにする。しかし、話を聞けば聞くほど、彼は『源氏物語』に登場する光源氏その人だった。ある日、光源氏は右大臣の娘に手を出したのがばれ、須磨へ逃げる途中で道に迷った末に、次元と時代を超えて藤原家にたどり着いたのだという。その境目となったのが、藤原家にあるすだれらしいということが判明するものの、平安時代に帰る方法はわからないままだった。そこで仕方なく、当面のあいだ、光源氏は藤原家に居候することになる。こうして現代で暮らすことになった光源氏だったが、沙織が連絡用にスマートフォンを渡したのをきっかけに、特技の短歌を再開してインターネット上で人気者になっていく。光源氏はSNS経由で友人を作ったり、短歌の先生として働いたりと充実した日々を過ごしていたが、ある日、沙織を助けようとして交通事故に遭ってしまう。

第2巻

光源氏は、交通事故に遭ったのがきっかけで平安時代に戻れるかに思えたが、現代の違う場所に飛ばされてしまう。藤原沙織は、そんな彼を心配しつつも何もできずにいたが、ある夜、今度は光源氏の友人・頭中将が平安時代から飛ばされて来る。頭中将もまた、光源氏を訪ねて須磨に向かっている途中で道に迷い、すだれを通じて藤原家に辿りついたのだという。そこで沙織は、頭中将の存在が光源氏と再会する手掛かりになるかもしれないと考え、今度は頭中将を居候させるのだった。こうして頭中将の現代での生活が始まるが、彼は光源氏とは対照的に、順応力が非常に高く、要領もよかった。そんな頭中将がSNSを始めたことで、沙織と頭中将は光源氏らしき人物を見つけ、ついに再会を果たすのだった。これによって光源氏は藤原家に戻るが、藤原家は三人で暮らすには手狭になっていた。そこで沙織は妹の藤原詩織の友人・伊集院海斗が同居人を探していることを知り、頭中将は今後そちらに住んでもらうことにする。これと同時に頭中将は、生活費を稼ぐ目的で、海斗の働くホストクラブ「RED」で働き始める。こうして「麻呂」の源氏名で働き始めた頭中将は、初日こそなじめずに苦労するが、すぐに女性客たちの心をつかみ、人気ホストになるのだった。

第3巻

藤原沙織のもとに、光源氏がアメリカ滞在中にお世話になったフィリップとその妻がやってきた。フィリップは日本の古典文学の研究者で、困っていた光を助けるうち、彼が本物の光源氏ではないかと考えるようになった。しかし、本来架空の人物である光源氏が現代に現れたことは説明できず、やがて光源氏のことを、次元と時代を超えて現れたエイリアンだという仮説を立てる。そこで、現在光源氏がお世話になっている沙織と話をしにきたのだという。そんなフィリップの勧めで、沙織たちは京都府へ行くことになる。『源氏物語』の舞台となった京都に行けば、光源氏と頭中将が現代にやってきた原因がわかるのではないかと考えたのである。こうして京都に到着した三人だが、手がかりはまったくつかめず、さらに沙織は別の心配もしていた。沙織は光源氏と頭中将が、自分自身が架空の人物であることを理解したら、ショックを受けて自暴自棄になってしまうのではないかと考えたのである。その不安は的中し、頭中将は自分が架空の人物であるだけでなく『源氏物語』の脇役に過ぎないと知ったことで、もう平安時代には戻らず、現代で自分らしい暮らしをしたいと言い出す。そんな頭中将に伊集院海斗は、それなら今後いっしょに店を出そうと提案するが、この申し出を頭中将が承諾した途端、海斗は姿を消してしまう。

第4巻

伊集院海斗は、頭中将に飲食店経営をしようと提案したことにより、平安時代に飛ばされてしまう。幸い、すぐに現代に戻ることができたものの、これによって藤原沙織は、誰かが『源氏物語』のストーリーを大きく変えるような行動をすると、何者かがこれを修正するために、その人物を違う次元に飛ばすのではないかという仮説を立てる。これを利用すれば光源氏と頭中将を平安時代に帰すことができると考えた沙織たちは、バンジージャンプなど、以前の交通事故のような死の危険が感じるほどの行動を試みるが、なかなかうまくいかずにいた。そんなある日、沙織は現代に来ているのは光源氏と頭中将だけではなく、作者の紫式部も現代で暮らしているのではないかと考える。紫式部が二人を呼び寄せたのなら、この状況にも説明がつくからである。そこで沙織は、フィリップに相談して紫式部らしき人物を探し出し、彼女に会うことになる。すると紫式部は、沙織もまた自分の作品の登場人物であり、光源氏と頭中将は、元いた『源氏物語』だけでなく、沙織が主人公の物語にも登場し、二つの作品の登場人物になったことにより、二人に分裂したのだと語る。そのため、仮に現代の光源氏と頭中将が平安時代に戻れても、そこに二人の居場所はないという、衝撃の事実を知る。

メディアミックス

TVドラマ

2020年4月から5月にかけて、本作『いいね! 光源氏くん』のTVドラマ版『いいね! 光源氏くん』が、NHK総合にて放送された。脚本はあべ美佳が担当し、藤原沙織役を伊藤沙莉、光源氏役を千葉雄大、頭中将役を桐山漣が演じた。

登場人物・キャラクター

藤原 沙織 (ふじわら さおり)

現代の、とある雑貨メーカーの企画課に勤める会社員の女性。年齢は27歳。顎の高さまで伸ばしたショートボブヘアで、この髪型は平安時代では尼僧がするものであることから、光源氏や頭中将と出会った当初は、尼僧であるとカン違いされていた。心やさしい性格で、ある日突然自宅に現れた光源氏の境遇を案じて、居候させるほどのお人好し。しかし、あまり自分に自信が持てずに美形の光源氏と並んで歩くことを嫌がったり、派手な容姿の妹・藤原詩織に比べて自分は目立たないと自虐的な言動をしたりと、卑屈な態度を取りがち。また、周囲に天然気味な人たちが多いことから、誰かと会話する時は、つっこみ役を担うことが多い。恋愛にはあまり積極的ではないが、友人たちが結婚したり、親からも結婚を迫られたプレッシャーから、恋人を作るべきなのかと悩んでいる。そのため、心の奥底では光源氏を恋愛対象として意識しつつも、彼が架空の人物であり、平安時代に帰りたがっていることも知っているため、それを顔に出すことはない。その結果、光源氏と頭中将が元の時代に戻るために協力し続けることになる。詩織とは仲がよく、頭中将が現代にやってきたことで自宅が手狭になった際は、詩織から伊集院海斗を紹介してもらった。剣道一級と合気道三級の腕前を持ち、初めて光源氏が家に現れた時は、彼を不審者とカン違いして、バットを持って応戦した。

光源氏 (ひかるげんじ)

紫式部の作品『源氏物語』に登場する架空の人物。平安時代の京都二条院に住んでいる、貴族の若い男性。誰もが振り向くほどの目鼻立ちの整った美形で、身長も高い。当時の風習から人前で帽子を脱ぐことを嫌っており、基本的には烏帽子をかぶっている。出かける時は藤原沙織からニットキャップなどを借りている。平安時代は周囲から「光る君」と呼ばれており、SNS上のアカウント名は「puple_amore」。穏やかでマイペースな性格で、感受性が非常に豊か。日常の些細なことに着目しては感動し、美しいもの全般を愛でる雅な人柄だが、大の女性好きでもあるために、恋愛がらみのトラブルも多い。ある日、妻子や付き合っている女性がありながら右大臣の娘に手を出し、これがばれて牛車で須磨へ向かっていたところ、道に迷う。そこで偶然見かけたすだれを開けたところ、なぜか現代日本の沙織の家にたどり着いてしまう。当初は沙織に不審者とカン違いされ警察に突き出され、住居侵入罪で逮捕されそうになる。しかし、その過程で自分の正体を知った沙織によって助けられ、しばらく藤原家で暮らすこととなった。その後、沙織から連絡用に渡されたスマートフォンの存在がきっかけで趣味の短歌を再開し、SNSに投稿するようになる。その後、この特技を生かして歌を詠む会の先生として働くようになった。好きな食べ物は抹茶フラペチーノとチョコレート。

藤原 詩織 (ふじわら しおり)

藤原沙織の妹で、キャバクラで働く若い女性。肩につくほどまで伸ばした巻き髪ロングヘアに、派手なメイクが非常に栄える、美しい容姿をしている。明るく物おじしない性格で、初対面の人物ともすぐに仲よくなれる。ある日、沙織の家に遊びに行った際に光源氏と出会い、光源氏と沙織が交際しているとカン違いする。それからは光源氏と親しくなり、のちに頭中将とも出会う。住むところがなくて困っている頭中将に、友人の伊集院海斗が同居人を探していることを教えて紹介した。

伊集院 海斗 (いじゅういん かいと)

ホストクラブ「RED」でホストとして働く若い男性で、藤原詩織の友人。店での源氏名は「カイン」。ウルフカットの髪型にしており、糸目でいつも笑っているように見える。そのため、一見チャラチャラと軽薄な雰囲気を漂わせているが、周囲を和ませる力があり、コミュニケーション能力が非常に高い。また、過去の恋人が別れる際に置いていったパグ犬のエルメスを大切に飼い続けるほど面倒見がいい。ある日、伊集院海斗自身が不在の際、エルメスが寂しがらないように同居人を探していたところ、詩織の紹介で藤原沙織や光源氏、頭中将と出会い、頭中将とルームシェアをすることになる。また、この時に頭中将に仕事を紹介してほしいと沙織に頼まれたことで、頭中将をホストクラブ「RED」に紹介した。将来的には独立して店を開きたいと夢見ており、海斗が酒を出し、頭中将が料理を作る店にしようと考えていた。しかし、ある日これを頭中将に提案したところ『源氏物語』のストーリーを改変しようとした人物とみなされ、『源氏物語』の世界に飛ばされてしまう。

頭中将 (とうのちゅうじょう)

紫式部の作品『源氏物語』に登場する架空の人物。平安時代の京都二条院に住んでいる、貴族の若い男性。光源氏の友人でもある。藤原沙織たちが暮らす現代に飛ばされてからは、ホストクラブ「RED」でホストとして働いている。甘い雰囲気を漂わせた美形で、たれ目で右目尻に泣きぼくろがある。現代にやって来てからは主に「中ちゃん」と呼ばれており、SNS上のアカウント名は「koko_izuko」。また、ホストクラブ「RED」での源氏名は「麻呂」。明るく穏やかな性格で、柔軟で順応能力も非常に高い。ある日、光源氏に会いに須磨へ向かったところで道に迷い、現代の藤原家に飛ばされてしまう。光源氏同様大の女性好きで、ホストの仕事は海斗の勧めで始めたものの、天職といえるほどすぐになじんで人気ホストとなった。そんな中、現代では順調な暮らしを送っていたが、沙織たちと共に平安時代に戻る方法を探るうち、自分が架空の人物であるだけでなく、光源氏の引き立て役であることに気づいてしまい、悩むようになる。派手好きで現代では、ヒョウ柄のような目立つ服装を好む。また、海斗の見立てで、次第にピアスやジャラジャラしたアクセサリーなど、チャラチャラしたファッションを身につけるようになる。女性客たちのことを「姫」と呼び、店での接客だけでなく、メールでの小まめなやり取りで心をつかんでいる。料理は現代に来てから習得したが、要領がよくて器用なことからプロ並みにうまい。

フィリップ

日本の古典文学や宇宙、SFを研究している、年老いたアメリカ人の男性。禿げ上がってきた頭をオールバックにし、口ひげを長く伸ばして眼鏡を掛けており、知的で上品な印象の人物。しかし見た目と違って、不思議なことが大好きなオカルト好きの変わり者である。ある日、偶然ヒッチハイクしている光源氏と出会い、日本好きなのが高じて光源氏に話し掛ける。その後、しばらくいっしょに暮らしていく中で、光源氏が『源氏物語』に登場する光源氏本人ではないかと考えるようになる。しかし架空の人物であり、さらに平安時代のキャラクターである光源氏が次元と時空を超えて現代日本にやって来た理由は、解明できずにいた。光源氏が日本に帰ってしまったために研究は中断していたが、ある日、光源氏が藤原沙織の家にいることを知り、沙織のもとに現れる。そして、それからは光源氏と頭中将が元の世界に戻れる方法を探すため、アメリカからサポートするようになる。光源氏たちはエイリアンではないかという仮説も立てており、CIAにいる知人の協力を得て、光源氏の体を調査したこともある。

紫式部 (むらさきしきぶ)

作家である中年の女性。『源氏物語』の作者で、光源氏や頭中将、藤原沙織たちを生み出した張本人でもある。ベリーショートヘアで高価な服装を身につけ、知的で上品な印象の人物。SNS上のアカウント名は「Wisteria_m」。好奇心旺盛な性格で、面白いことが大好き。平安時代で作家として暮らしていたが、3年ほど前のある日、突然現代日本に飛ばされてしまう。そこで知り合った弁護士一家に助けられて日本で暮らすようになり、その後は作家として、エッセイや評論などを書いて生活をしている。そんな中、手慰みに小説を書こうと考え、自分の作品『源氏物語』の主人公である光源氏が、自分と同じように現代にタイムスリップし、現地人に助けられるという物語を書き始める。しかし、途中で飽きてしまって筆を止めたところ、その物語どおりに光源氏が現代に現れたことを知り、驚愕する。そこで、自分の書いた物語が現実になってしまったことを理解し、光源氏と物語の登場人物として作り出した沙織たちの暮らしを、主にSNSを使って遠くから見守るようになる。光源氏だけでなく頭中将が現在にやって来たのも、光源氏と沙織が出会ったのも、紫式部の筋書きどおりである。実在の人物、紫式部がモデル。

ヒカル

ホストクラブ「RED」の代表を務める若い男性で、伊集院海斗の友人。コミュニケーション能力が高い気配り上手で、仕事でもプライベートでも非常に優秀な人物。頭中将が「RED」で働くことになった際も、平安時代からやって来た話を信じず、平安時代キャラクターとして売り出す方針で「麻呂」という源氏名を付けた。その後、藤原沙織たちと海に行くことになった際も、知らない人たちになじめずにいた沙織を助けて楽しい時間を過ごした。この人柄のために周囲からは慕われているが、それ故にヒカルに夢中になる女性も多く、何人もの女性を泣かせた危険人物としても知られている。

その他キーワード

かをりたつ 抹茶にしびれ かの春の 若草山に 帰りしかとも (かおりたつ まっちゃにしびれ かのはるの わかくさやまに かえりしかとも)

光源氏が、喫茶店で飲んだ抹茶フラペチーノに感激した詠んだ短歌。抹茶の香りがする未知の飲み物、フラペチーノを飲むと、春の若草山に帰ったかのような思いがする、という思いが込められている。以来、抹茶フラペチーノは光源氏のお気に入りの飲み物になった。歌を制作したのは甲村秀雄。

散る花の 儚さ留め 常春の 爪に描きし 花手折る日は (ちるはなの はかなさとどめ とこはるの つめにえがきし はなたおるひは)

光源氏が、藤原しおりの爪に描かれたネイルアートに感激して読んだ短歌。指先に描かれた絵の花を、散らない「永久の花」と捉え、しかしその花をいつか自分が手折る日が来るのだろうか、という思いが込められている。しかし、あまり短歌に明るくないしおりは、短歌を「お茶のペットボトルに書いてあるもの」としか認識できなかった。 歌を制作したのは孝之助。

囚われの 板に触れども 艶やかな 見初し君を 抱けざる世は (とらわれの いたにふれども つややかな みそめしきみを いだけざるよは)

光源氏が藤原沙織とテレビで『源氏物語』を鑑賞した際、登場する女優に惚れ込んで詠んだ短歌。光源氏がテレビについての知識がないために、テレビを「女優を閉じ込めている板」と勘違いし、女優を見初めても決して触れられない世をはかなんだことから生まれた歌。歌を制作したのは孝之助。

秘めし君 世の痴れ者に 思わしむ 人には醜女と 君を領ぜん (ひめしきみ よのしれものに おもわしむ ひとにはしこめと きみをりょうぜん)

光源氏が藤原沙織たちとスイーツビュッフェに出かけた際、チョコレートフォンデュの存在に感激して詠んだ短歌。チョコレートフォンデュを沼だと勘違いした光源氏が、チョコレートフォンデュを「醜女」に例え、その真の良さがわからないものには「醜女」と思い込ませておいて、自分が一人占めしようという思いが込められている。歌を制作したのは孝之助。

苦の道も 開けば成りて 天翔ける 斑駒の如 吾速駆けり (くのみちも ひらけばなりて あまかける ふちこまのごと われはやがけり)

光源氏が藤原沙織とランニングシューズを選びに出かけた際、ランニングシューズの歩きやすさに感激し、ダイエットのためにランニングを開始して詠んだ短歌。世の中の多くのことは初めのうちは苦しく感じられるが、それを打開すれば道は開けるという思いが込められている。歌を制作したのは孝之助。

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