バチバチ

バチバチ

大相撲史上最悪といわれた力士、鮫島 太郎の息子である鮫島 鯉太郎が、一度はあきらめようとした相撲と改めて向き合い、空流部屋の一員として横綱を目指す姿を描いた本格大相撲ストーリー。秋田書店「週刊少年チャンピオン」2009年24号から2012年19号にかけて連載された作品。物語は続編の『バチバチ BURST』に続く。

正式名称
バチバチ
ふりがな
ばちばち
作者
ジャンル
相撲
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あらすじ

第1巻

大相撲の地方巡業が行われたある日、ファンと交流試合をしていた虎城部屋序二段の力士を倒したのは、謎の学生、鮫島 鯉太郎だった。もっと強い力士を連れて来いと息巻く鯉太郎を気に入った空流部屋の親方、奥村 旭は、幕下の小林 哮と勝負をさせ、鯉太郎は見事勝利する。さらに鯉太郎の姉的存在である斎藤真琴が彼の名前を呼んだ事により、旭達は鯉太郎がかつて大相撲史上最悪といわれた力士、鮫島 太郎の息子だと知り、驚愕する。太郎はかつて圧倒的な実力を持ち、将来は横綱間違いなしといわれていた力士だった。しかしある日、一般人と暴行事件を起こして除名された事ですべてを失い、酒浸りとなった果てに交通事故で亡くなったのである。それから少し経ったある日、太郎の七回忌の法事が行われるが、遅れてやって来た鯉太郎は、突如太郎の墓石を破壊する。そして、これまで自分は相撲をやめたあとの太郎の事が大嫌いだったし、太郎のようにならないために、相撲もやめるつもりだったが、これからは太郎を超える力士になると宣言する。そして鯉太郎は、旭のスカウトを受け、空流部屋の力士になるが、その入門初日、幕下の高杉 剛平にあっさり敗北してしまう。

第2巻

空流部屋にやって来た鮫島 鯉太郎は、その生意気な性格が災いして、奥村 旭の娘である奥村 椿には入門を認めてもらえず、兄弟子達には空流部屋の伝統でもある勝ち押し負け押し稽古をつけられる。これは、兄弟子達複数人を相手にしたぶつかり稽古で、鯉太郎は一人で全員を相手にするという厳しいものだった。しかし鯉太郎はこれを耐え抜き、稽古後に正式に空流部屋の一員となるのだった。それから3週間後、新弟子検査の日を迎えた鯉太郎は、体重が合格ラインに達しているか不安になりつつも会場に向かう。そこで鯉太郎は虎城部屋の親方、後藤 昇と、その息子であり、新弟子試験を受けに来た後藤 剣市と出会うが、昇に鮫島 太郎を侮辱された事で激怒し、殴りかかる。その場は剣市があいだに入り、昇の代わりに剣市が殴られた事で収まるが、これは剣市の計算によるものだった。自分を特別な人間だと捉えている剣市は、いずれ鯉太郎も空流部屋も自分の手で潰すために、あえて温厚で優しい人間を演じたのである。剣市の思惑通り、翌日この暴行沙汰は、あたかも鯉太郎と空流部屋のみが悪人であるかのように報じられる。

第3巻

五月場所が始まり、鮫島 鯉太郎の兄弟子達はバッシングにも負けず順調に勝利を重ねていた。一方の鯉太郎は、前相撲初日にブーイングを一瞬で止めるほどの作法の美しさと、強烈なぶちかましを決めて勝利する。対する後藤 剣市は、先日鯉太郎に殴られた箇所を骨折したふりをしながらも、余裕で勝利していた。この対照的な姿に、マスコミやファンは、ますます二人の対立を煽るのだった。こうしてこの日の取り組みを終えた鯉太郎達は、いずれ剣市と戦う事を考慮して、剣市対策を練る。奥村 旭は、現状では剣市とまともに戦っても勝つ事はできないが、自分を特別な人間だと信じて疑わない剣市の傲慢な性格を利用すれば、勝機があると分析する。具体的にはぶちかましではなく、鯉太郎の隠されたもう一つの武器であるハリ手を使えば、勝機はあるというのだ。しかし取り組みでは、剣市は予想に反してぶちかましを使い、二人の激しい戦いが始まる。

第4巻

鮫島 鯉太郎後藤 剣市の戦いは、鯉太郎が不利に思われた。しかし鯉太郎は、鮫島 太郎の得意技でもある下手投げを決め、見事勝利する。しかし、後藤 昇が審判にクレームを唱えた事で物言いとなり、取り直しとなってしまう。だが鯉太郎は、この物言いを喜んでいた。下手投げは運よく決まっただけで、本当の勝利とは言えないと思っていたのだ。対する剣市は、本来余裕で勝てる鯉太郎にここまで追い詰められた事に激怒し、冷静さを欠いていた。そしてこの慢心が仇となり、今度は誰の目にもはっきりした形で、鯉太郎の勝利となるのだった。こうして二人の取り組みは終わり、翌日から剣市は噓の骨折を理由に休場。一方、満身創痍の鯉太郎は前相撲を3連勝で飾り、一番出世を摑む。次に鯉太郎はお披露目の儀式である新序出世披露に出る事になるが、ここで斎藤 真琴と父親の斎藤 正一が、まわしを届けにやって来る。それは太郎が生前使っていたまわしだった。当日、このまわしを締めて参加した鯉太郎は、以前とは雰囲気の変わった剣市に出会う。一方その頃、剣市の兄弟子である小林 哮は、自分が十両に上がったら剣市を自分の付け人にしてほしいと、親方に頼んでいた。

第5巻

高杉 剛平と小林 哮の、関取がかかった幕下の取り組みが始まった。剛平は怪力を活かした戦いで優位に立つが、哮に強烈な下手出し投げを食らい、哮の勝利に終わる。こうして五月場所は終了し、鮫島 鯉太郎の一番出世を皮切りに、全員が大躍進した空流部屋は後援会の人々を招いて打ち上げを開催する。そして和やかな雰囲気の中、打ち上げを終えた鯉太郎達は、また来場所の戦いに向けて動き出すのだった。その後、鯉太郎は兄弟子達とは別行動で、相撲教習所に通う事になる。これは新弟子の時には必ず通わなくてはならない学校のようなもので、鯉太郎は田上 大や石川 大器達と共に相撲教習所で学び始める。しかしここには、鯉太郎に絡んで暴力沙汰を起こそうと企む竹虎 昌雄が、指導員として虎城部屋から派遣されていた。しかし鯉太郎は、昌雄の嫌がらせにも屈する事なく耐え、昌雄は力士としての自分に見切りをつけ、廃業を決意するのだった。こうして昌雄は去り、代わりに大森山 太一がやって来るが、その初日の稽古で、鯉太郎は村神 凛太郎の圧倒的な強さに打ちのめされる。

第6巻

新弟子でありながら幕下力士を倒した村神 凛太郎は、相撲教習所内で一目置かれる存在になっていた。そんな凛太郎との力の差を見せつけられた鮫島 鯉太郎は、奥村 旭から今の鯉太郎は基礎力を高める事が大切だと諭され、地道なトレーニングに励む。こうして相撲教習所の一期目は終わり、名古屋で行われる七月場所が始まる。その移動中、鯉太郎はかつて吉田 亘孝にケガをさせ、番付を降格させた力士の林田 弘巳に出会う。弘巳に兄弟子達を侮辱された鯉太郎は思わず殴りかかりそうになるが、決着は自分が土俵でつけると亘孝が言った事で引き下がる。いよいよ初日の取り組みが始まるが、鯉太郎は先場所より明らかに観客が減っている事にショックを受けつつ、これが今の自分の実力なのだと気を引き締める。結果、初日の空流部屋の力士達は、高杉 剛平が敗北したものの、鯉太郎と亘孝、川口義則の三人は勝利を収めるのだった。そして次の取り組みで、鯉太郎は石川 大器と戦う事になる。二人はお互いを認め合っているからこその真っ向勝負で、最終的に鯉太郎が勝利。そして二人は、取り組みを通じて友情を深めるのだった。

第7巻

以前、林田 弘巳は吉田 亘孝だけでなく、亘孝と高杉 剛平の兄弟子の村神 裕也に対しても故意にケガをさせていた。結果、亘孝は復帰できたものの裕也は廃業する事となり、亘孝と剛平は、今でも弘巳を憎んでいたのである。さらに裕也は、村神 凛太郎の兄でもあった。裕也は昔から有望視されていた力士で、凛太郎はその背中を見て育って来たのだ。しかし裕也はケガが原因で、プロになってまもない序二段の頃に、相撲部屋から逃げ出してしまったのである。その後、凛太郎も力士になったが、裕也といっしょにされたくないと思うあまり、周囲と距離を置き、見下すような態度を取っていたのだ。そんな凛太郎と鮫島 鯉太郎の取り組みが始まるが、凛太郎はまるで鯉太郎を相手にしていなかった。しかし、この日のために鍛え上げた鯉太郎は、奥村 旭に教えてもらった基礎を大切にする戦い方が功を奏して逆転勝利する。そして取り組み後、亘孝は凛太郎に改めて声を掛ける。そこで凛太郎は、裕也は相撲から逃げ出したのではなく、弘巳に負けて以来、取り組みで負けるとケガを言い訳にする自分では、とても頂点は目指せないと考えて廃業した事を知る。これによって凛太郎は考えを改め、自分に欠けていたのは、鯉太郎や裕也のような、本気で戦う姿勢だったと気づくのだった。

第8巻

七月場所は12日目を迎え、鮫島 鯉太郎吉田 亘孝高杉 剛平の三人はすでに勝ち越しを決めていた。特に鯉太郎は、全勝優勝も夢ではないと囁かれていた。そんな鯉太郎と渡辺 仁の取り組みが始まり、鯉太郎は鯉太郎を研究し尽くしている仁に、開始数秒であっさり敗北。鯉太郎は、これまでの稽古は無駄だったのではと落ち込むが、白水 秀樹に𠮟咤激励され、さらに仁をはじめとする周囲の力士の苦労を知って、考えを新たにするのだった。一方その頃、秀樹は林田 弘巳に亘孝を侮辱されて反論するが、殴られて大ケガを負わされる。周囲の力士が心配し、医務室に行くべきだと言われる中、秀樹は亘孝の取り組みを見るため会場へ向かう。そしていよいよ亘孝と弘巳の因縁の戦いが始まるが、弘巳は相変わらず、亘孝の目玉や、かつて自分がケガをさせた左足を狙うという卑怯な戦法に出る。しかし亘孝は、ケガの原因は自らの馬力不足を強引に投げで補おうとする悪い癖にあったと分析しており、足腰を鍛え直す事でパワーアップを図っていた。亘孝は苦戦するものの、死闘の果てに弘巳に勝利する。

第9巻

吉田 亘孝は林田 弘巳に勝利するが、弘巳は決着がついたあとまで亘孝を卑怯な手段で痛めつけ、亘孝は再び左足に大ケガをしてしまう。奥村 旭は、すぐに医者に診てもらおうとするが、亘孝は今処置をすると膝が固まってしまい、次の取り組みに出られないと判断して拒否。このまま明日も出場し、必ず優勝すると宣言するのだった。一方その頃、鮫島 鯉太郎空流部屋の力士達は、ケガをした白水 秀樹を医務室に運ぶ途中で弘巳に出会う。あんな勝負などどうでもよかったと言い放つ弘巳に腹を立てた鯉太郎は、思わず弘巳に殴りかかるが、高杉 剛平に制止される。そして13日目、鯉太郎や秀樹、川口 義則は、全員勝利して亘孝に最高の流れを作る。そしていよいよ剛平と弘巳の取り組みが始まる。弘巳のこれまでの行いに激怒している剛平は弘巳を圧倒し、自分達がその気になればいつでもお前を壊せると弘巳に告げる。こうして空流部屋の力士達は、亘孝の取り組みを残して全員勝利。亘孝は今回が引退試合となる竹虎 昌雄との取り組みだが、昌雄は後藤 昇に、亘孝を完全に潰す事ができなければ、紹介した仕事の話はなくなると思えと脅されていた。

第10巻

竹虎 昌雄は後藤 昇の脅しに屈する事なく真剣勝負を挑むが、吉田 亘孝の前に敗北。昇は負けた昌雄を罵倒するが、田上 大と小林 哮は素晴らしい相撲だったと励まし、昌雄は涙する。こうして七月場所は亘孝が幕下優勝を飾り、空流部屋の力士達もいい成績を収める。その後の夏巡業には参加しない空流部屋は、夏合宿を開始。しかし、相撲教習所に通う鮫島 鯉太郎は、遅れて参加する形になり、そのあいだは奥村 椿と二人きりで生活する事になる。そんな中、相撲教習所ではバットバートル・モンフバイヤルというモンゴル人力士の話題で持ちきりだった。彼はそこまで強そうには見えなかっだが、非常にしつこい戦いを信条としており、七月場所では全勝で序ノ口優勝を飾っていた。鯉太郎はそんなバットバートルをさほど気にしていなかったが、稽古ではまったく勝てず、バットバートル以外の力士にも押し負けるようになっていた。これを稽古不足と感じた鯉太郎は稽古に励み、そのまま合宿に合流する。しかし本当の問題は、鯉太郎が稽古に夢中になるあまり、身体を作れていない事にあったのだ。亘孝からそれを指摘された鯉太郎は反省し、自分を支えてくれる後援会の人々のためにも、さらに強くなろうと決意する。

第11巻

夏合宿中、奥村 旭鮫島 鯉太郎をもう一段階強くするために、鯉太郎の得意の型である押し相撲を封印させた。代わりに四つ相撲ばかりを練習する事になった鯉太郎は混乱するが、これは旭が鯉太郎の握力を活かすために考案したものだった。それを理解した鯉太郎は、小指、薬指、中指の3本だけで金網登りをするなど、着実に握力を強めていく。こうして夏合宿は終わり、鯉太郎が相撲教習所に戻ると、そこには別人のように大きくなった渡辺 仁、村神 凛太郎がおり、鯉太郎は新たに気を引き締める。そして再び稽古が始まり、鯉太郎は失敗を重ねながらも四つ相撲を繰り返していた。一方その頃、虎城部屋では以前の約束通り、後藤 剣市が小林 哮の付け人になる事が決まっていた。鯉太郎に負けて以来、自暴自棄になった剣市は拒否するが、哮はそんな彼を叱咤激励する。さらに自分が高みに上るために、剣市の強さが必要なのだと正直に告白した事で、剣市はようやくやる気を取り戻すのだった。この直後、相撲教習所第2期目が終了し、番付が発表されるが、鯉太郎よりも番付が下がった白水 秀樹は落ち込んでいた。

第12巻

九月場所が始まり、4日目時点で空流部屋の力士達は全員が全勝と絶好調だった。鮫島 鯉太郎の次の相手は渡辺 仁で、前回あっさり仁に敗北した鯉太郎はリベンジに燃える。そして迎えた当日、鯉太郎はしっかり策を練って戦う仁に苦戦しながらも投げで勝利するが、鯉太郎はこの勝利に満足していなかった。今回の投げは、吉田 亘孝から教わったものとは程遠い、強引な投げだったのだ。続いて石川 大器と村神 凛太郎の取り組みとなり、凛太郎に馬力負けしている大器は、速攻の押し出しで勝機を見出そうする。しかしそれでも凛太郎には太刀打ちできずに、今回も凛太郎の勝利に終わるのだった。迎えた6日目の白水 秀樹と田上 大の取り組みは、個性的な二人の容姿から色物対決と呼ばれて話題となっていた。結果、吉田 亘孝と高杉 剛平に稽古をつけてもらった秀樹が自力を発揮して勝利する。そして8日目、ついに鯉太郎とバットバートル・モンフバイヤルの取り組みが始まる。

第13巻

鮫島 鯉太郎は、バットバートル・モンフバイヤルとの取り組みで開始早々ぶちかましを決めるものの、寸前に察知された事で効果は半減していた。その後も鯉太郎は連続でぶちかますが、まだバットバートルの押し返しに耐えられるだけの身体ができておらず、ついに右目を負傷してしまう。さらにバットバートルの野性的な勝負勘により、鯉太郎の勝機を無意識に潰してしまっていたのだ。二人は血を流しながら壮絶な戦いをするが、最終的に鯉太郎が下手投げを決めて勝利する。取り組み後、負けを極端に嫌うバットバートルは、これで部屋をクビになってしまうと怯えていた。しかし、そこで待っていたのは親方からの𠮟咤激励で、その優しさにバットバートルは涙するのだった。こうして8日目は終わり、空流部屋川口 義則以外の四人がすでに勝ち越しが決めるほど好調だった。10日目は白水 秀樹と村神 凛太郎の取り組みになるが、鯉太郎の兄弟子でありながら鯉太郎より番付が下がってしまった秀樹は、強気に振る舞いつつもプレッシャーを感じていた。秀樹は凛太郎に自分らしい戦い方で勝つ事で自らを奮い立たせようとするが、誤って引いてしまった事で、望まぬ引き落としでの勝利になってしまう。

第14巻

高杉 剛平は大森 海太二に勝利し、全勝優勝が見えて来た。一方で吉田 亘孝の膝は限界に達しており、主治医の反対を押し切って無理やり出場している状況だった。それを知らない周囲は、剛平と亘孝があと一勝で十両に昇進できる事に加え、鮫島 鯉太郎白水 秀樹も序二段優勝を狙える状況に喜んでいた。そんな中、亘孝は秀樹から、鯉太郎と村神 凛太郎と思うような取り組みができなかった件で気まずくなっている事を知る。そこで亘孝は、面と向かって鯉太郎とうまく話せないなら、土俵で語ればいいと秀樹を励ますのだった。その直後、奥村 旭奥村 椿、剛平の三人は、主治医から亘孝の膝の状況を知らされる。しかし剛平は、亘孝の真の望みは十両昇進ではなく、今場所を全勝する事で、本来戦えない同部屋の自分と戦う事であると理解していた。そこで剛平は主治医に土下座し、どうか今場所だけでも亘孝の膝をもたせてほしいと頼むのだった。そして11日目が始まり、剛平と亘孝は勝利して揃って昇進を決める。しかし秀樹は、まだ凛太郎との取り組みを悔やみ、もはや廃業した方がいいのではと悩んでいた。だが、椿から亘孝の膝について聞かされた事で考えを改め、自分が空流部屋を支える強い力士になる決意をする。

第15巻

九月場所15日目、序二段で全勝した鮫島 鯉太郎白水 秀樹、幕下で全勝した高杉 剛平吉田 亘孝の四人は空流部屋の同部屋対決で優勝決定戦を行う事になった。まずは鯉太郎と秀樹の取り組みとなるが、秀樹は鯉太郎に心の迷いが生まれないように、殺す気で来いと伝え、さらに亘孝の膝の件も伝えずにいた。これによって鯉太郎は、今の自分のすべてをぶつける事を決め、取り組みは出だしから激しい戦いとなる。その後も二人は一歩も引かず、鯉太郎はついに両目が見えなくなってしまうが、秀樹の声が聞こえる方こそが自分の向かう場所だと感じ、投げを決める。しかし秀樹がこれを正面からねじ伏せ、秀樹の勝利となる。こうして序二段は秀樹が優勝を飾り、続いて剛平と亘孝の幕下優勝決定戦となるが、秀樹はここで鯉太郎に亘孝の膝の状態を伝える。それを知った鯉太郎は愕然とし、二人の取り組みを止めようとする。しかし秀樹から、亘孝の事は剛平が誰よりも理解しており、二人の邪魔をしてはならないと言われた事、亘孝のすさまじい気迫を感じた事で、この取り組みを見守る事にする。

第16巻

高杉 剛平吉田 亘孝の幕下優勝決定戦では、亘孝は怪力の剛平相手に力で正面から挑む事を決めていた。鮫島 鯉太郎は二人の容赦のない戦いに圧倒される。剛平が仕掛けると亘孝はこれを察し、勝負は亘孝の勝ちに思えたが、ここで亘孝の膝が限界に達し、亘孝は体勢を崩す。剛平は思わず亘孝に手を差し伸べてしまうが、亘孝はこの戦いは殺し合いに等しいもので、自分達の関係はそんな情けをかけ合う関係ではないと激怒。これで目が覚めた剛平は全力で亘孝にぶつかり、勝利するのだった。そして取り組み後、自分は今後も戦えるだろうかと亘孝に尋ねられるが、剛平はもう無理だと引導を渡し、亘孝は引退を決意する。十両に昇進してすぐの引退に周囲は亘孝を引き留めるものの、その意志は固かった。こうして亘孝は廃業し、空流部屋の仲間達にはなにも告げずに部屋を去ろうとするが、そこに鯉太郎達がやって来る。そして剛平は亘孝に、これまで自分達は「阿形」と「吽形」という、二人で一つの名前を名乗って来たが、今後は四股名を変えて「仁王」と名乗ると宣言するのだった。

登場人物・キャラクター

鮫島 鯉太郎 (さめじま こいたろう)

大海一門「空流部屋」の新弟子である男子。年齢は16歳。元大関の鮫島太郎の息子でもある。坊主頭で、額の真ん中に、右上から左下に向かって斜めについた大きな傷跡がある。身長178センチ、体重75キロと力士としてはやや小柄な体型で、特に体重は合格ぎりぎりライン。そのうえ太りにくい体質のため、体型にコンプレックスを抱いていた時期もあった。目は吊り目で、目つきが悪い。得意の型は押し相撲。まじめな性格の努力家だが、自分が間違っているとわかるとすぐに反省し、改められる素直さを持つ。幼い頃、太郎の相撲を見て育ち、自分も将来は太郎のような力士になりたいと考えていた。しかし、太郎が暴力事件により力士としての道を断たれて酒浸りになり、その果てに亡くなってからは、そんな太郎を憎むようになった。そこである日、相撲の地方巡業の交流試合に参加し、それを最後に相撲をやめようと決意する。しかし、この試合で小林哮に勝利し、奥村旭に見出された事で、空流部屋への入門を決意。空流部屋に入門する前は感情的になりやすく、近しい人間が貶められると、怒り狂って暴れる事が多かった。しかし、相撲を通じて精神が鍛錬され、次第に落ち着いた性格になる。自己流で鍛えたぶちかましや張り手、吉田亘孝から伝授してもらった投げ技で闘う。出身地は山形県。高杉晋作を尊敬している。

斎藤 真琴 (さいとう まこと)

鮫島鯉太郎の幼なじみの高校3年生の女子。年齢は18歳。鮫島太郎の死後、鯉太郎を引き取った斎藤家の長女でもある。前髪を長く伸ばして真ん中で分け、肩につくほどまで伸ばした黒のセミロングヘアにしている。身長160センチで、体重48キロ。あだ名は「マコ」、鯉太郎からは「マコ姉」と呼ばれている。心優しい性格で、気が強く情に厚い。6年前、太郎の死をきっかけに斎藤正一が鯉太郎を引き取り、以来鯉太郎と姉弟同然で育つ。そのため、鯉太郎の事を非常に大切に思っており、気性の荒い鯉太郎も、斎藤真琴には頭が上がらない。無茶をしがちな鯉太郎を叱りつけたり、時には鉄拳制裁を加えたりする事もある。出身地は山形県。特技は料理で、好きな男性のタイプは岸辺一徳。

鮫島 太郎 (さめじま たろう)

元大関の男性。故人。鮫島 鯉太郎の父親でもある。体型は大柄で、がっしりとした筋肉質。目は吊り目で、目つきが悪い。四股名は「火竜 太郎」あるいは「火竜」。不遜で好戦的な性格で、ヒール力士として絶大な人気を博した。力士としても非常に強く、横綱も夢ではないといわれていたが、ある日その実力を妬んだ後藤 昇の策略により、一般人15人を相手に暴行事件を起こす。これにより角界から除名され、廃業せざるを得なくなってしまう。相撲が出来なくなってからは連日連夜酒に溺れ、鯉太郎からも嫌われていた。しかし、力士を目指す鯉太郎の姿にかつての自分を重ね、親としてあえて厳しく接しながらも期待をしていた。6年前に泥酔して街を歩いていた際、トラックと衝突事故を起こして亡くなる。

奥村 旭 (おくむら あさひ)

大海一門「空流部屋」の親方を務める中年の男性。年齢は51歳。現役時代の最高位は小結で、四股名は「春風」。前髪を額が見えるほど短く切った白髪の短髪。右目は失明しており、無精ひげを生やしている。明るくおおらかな性格で、お酒が大好き。そのため、酔っぱらって赤らんだ顔でいる事が多い。現在の角界については、「神事としての相撲」がおろそかにされているうえに、数々の問題を抱えている事を憂慮していた。また、そんな現状を変えるには、崇高なる力士が必要だと考えていた。そんなある日、相撲の地方巡業の交流試合に出場した鮫島 鯉太郎を気に入り、さらに鯉太郎が鮫島 太郎の息子と知った事で強い関心を抱く。そこで、斎藤 真琴を介して鯉太郎に名刺を渡し、空流部屋にスカウトした。以後、鯉太郎を厳しくも温かく見守っている。後藤 昇とは現役時代のライバル同士で、当時の旭は「虎城キラー」と呼ばれて昇の天敵であった事から、現在も目の敵にされている。出身地は石川県で、好きなお酒は麦焼酎。

後藤 昇 (ごとう のぼる)

相撲協会の理事の男性。次元一門「虎城部屋」の親方を務める。年齢は55歳。現役時代の最高位は横綱で、四股名は「虎城昇」あるいは「虎城」。優勝25回、殊勲賞3回、敢闘賞3回の輝かしい受賞歴を持つ一代年寄。前髪を長く伸ばして上げた撫でつけ髪にしている。体型は背が高くがっしりしており、目が細い。政治活動に長け、狭量で陰湿な一面を持つ。そのため、虎城部屋の力士達からは恐れられており、力士達に卑怯な命令を下す事も多い。かつての自分の付け人で、横綱になる力を秘めていた鮫島 太郎を強く恐れ、謀略で角界から追い出した。太郎が亡くなった今も、彼の影におびえている。出身地は青森県。

高杉 剛平 (たかすぎ こうへい)

大海一門「空流部屋」に所属する力士。年齢は20歳。位は幕下で、空流部屋の部屋頭も務めている。髷を結っており、眉が太く三白眼で、顎ひげを生やしている。身長185センチ、体重115キロで、がっしりとした筋肉質な体型をしている。四股名は「阿形 剛平」あるいは「阿形」。この四股名は吉田 亘孝の四股名と対になっている。得意な型は四つ相撲。粗野な性格で口が悪く、下品なところがあるが、面倒見がいい事から、弟弟子達の信頼は厚い。取り組みでは、すさまじい怪力を生かして、真正面から立ち向かう正攻法。子供の頃から腕っぷしが強く、みんなに認められようと頑張りすぎては相手にケガをさせてしまい、乱暴者扱いされては孤独を感じていた。そんなある日、高杉 剛平の噂を聞き付けた奥村 旭にスカウトされ、相撲を始める事となる。亘孝とは空流部屋に入った時からの仲で、お互いに認め合っている。出身地は東京都。好みのタイプの女性は、叶恭子と叶美香。非常に大食いで、弟弟子達の食事まで食べてしまう事がある。

吉田 亘孝 (よしだ のぶたか)

大海一門「空流部屋」に所属する力士。年齢は20歳。位は三段目。髷を結っており、顔は目が細く、いつも目を閉じているように見える。身長180センチ、体重107キロで、がっしりとした筋肉質な体型をしている。四股名は「吽形亘孝」あるいは「吽形」。この四股名は高杉剛平の四股名と対になっている。得意な型は、押し相撲も四つ相撲も取れるが、基本的には押し相撲。穏やかで落ち着いた性格で、弟弟子達の相談に乗る事も多い、頼れる兄貴分的な存在。しかし怒ると非常に凶暴になり、気性は剛平に負けないほど荒く、酒乱の気がある。相撲を始めるまでは岩手県の進学校と名高い高校に通っていた。しかし、学業成績を異常に重視する学校の考え方に疑問を持ち、ある日、テストの解答用紙を白紙で提出する。これが原因で教師と喧嘩になり、殴ってしまった事で高校を去った。そして空流部屋に入門して、剛平と出会い、お互いを認め合うようになる。力士としての才能に恵まれ、ストイックな性格もあり、剛平よりも早く幕下まで出世する。しかしある日、林田弘巳との取り組み中に卑怯な戦法により膝を痛め、休場に追い込まれて降格する。その後、復帰して鮫島鯉太郎に吉田亘孝自身の得意技である投げ技を伝授する。出身地は岩手県で、父親の吉田務は岩手県議会委員を務めている。好きな音楽のジャンルは、ハードコアパンク。

白水 秀樹 (しらみず ひでき)

大海一門「空流部屋」に所属する力士。年齢は18歳。位は序ノ口。撫で付け髪が伸びてきてからは髷を結うようになる。顔は三白眼で下まつげが長い。身長192センチ、体重90キロ。空流部屋一の長身で、がっしりとした筋肉質な体型をしている。四股名はまだない。得意な型は押し相撲。高杉剛平と吉田亘孝の助言によって、体格を生かした自身のスタイルを確立する。明るくお調子者な性格ながらプレッシャーに弱く、いざという時に実力を発揮できない。そのため、思うように結果を出せない事に悩んでいる。兄弟子である剛平とはいつも喧嘩ばかりしているが、心の底では尊敬している。鮫島鯉太郎とは入門を機に出会い、教育係を務める事になる。しかし、伸び悩んでいる自分に対し、順調に番付を上げていく鯉太郎の事をつねに意識し、嫉妬するようになる。七月場所のあと、番付を抜かれた際には悔しさのあまり涙したほど。しかし剛平と亘孝の叱咤激励により、自分らしい戦い方を見出して勝ち星を重ねていく。出身地は東京都で、好きな俳優はユン・ピョウ。

川口 義則 (かわぐち よしのり)

大海一門「空流部屋」に所属する力士。年齢は不明。位は三段目。髷を結っており、吊り目の三白眼。いつも笑顔を浮かべているが、少々不気味な薄ら笑いな事から、周囲にはなにを考えているかわからないと評されている。四股名はまだない。謎の多い人物で、身長や体重、出身地などは一切不明。さらに、本名も川口義則であるかどうかも謎である。あだ名は「川さん」。非常に無口で、基本的に声を発する事はないが、心優しい性格で、誰かが困っている時はさりげなく現れて助けに入る。しかし無言であるため、不気味がられてしまう事が多い。また、何事にも動じない事から不思議なカリスマ性があり、動物に懐かれたり、老人には神様のような存在と勘違いされて手を合わせられる事がある。好きな食べ物はカニで、寝る時は目を開けながら寝る。

奥村 椿 (おくむら つばき)

大海一門「空流部屋」に所属し、亡くなった母親に代わって女将を務める少女。年齢は16歳。奥村旭の娘でもある。前髪を目が隠れないように、右寄りの位置で斜めに分けた黒のショートカットヘアにしている。身長155センチ、体重45キロの細めの体型をしている。クールで落ち着いた性格ながら気が強く、力士達だけでなく、父親の旭に対しても手厳しい。事前に旭から鮫島鯉太郎の入門を聞かされていなかった。さらに鯉太郎がかつての問題児、鮫島太郎の息子であるため、彼を入門させれば貧乏部屋の空流部屋にますます厄介事が増えると考え、最初は彼を空流部屋の一員として認めなかった。しかし空流部屋の伝統行事である勝ち押し負け押し稽古をまっとうした事で鯉太郎を認め、応援するようになる。料理は苦手。好きな男性のタイプは菅原文太。

山岡 薫 (やまおか かおる)

床山を務める中年の男性。大海一門「空流部屋」に所属する。位は二等床山。前髪を額が見えるほど短く切って切り揃え、髪の毛を耳の高さまで伸ばして切り揃えたショートボブヘアにしている。化粧に加えて女装をしており、オネエ口調で話す。「おっさん」と男扱いすると怒り、また自称24歳であるため「じじい」と呼ばれても怒る。あだ名は「床上手」。明るくノリのいい穏やかな性格で、力士達に愛情を持って接している。特に高杉剛平とは、喧嘩しつつも仲がいい。身体に触れただけで、力士の体質をある程度当ててしまう特技を持つ。人手の少ない空流部屋では、ちゃんこ番も担当している。出身地は神奈川県で、好きな男性のタイプは昭英、スティーヴン・セガール、スコット・スタイナー、サモ・ハン・キンポー、ミスター・サスケ。

後藤 剣市 (ごとう けんいち)

次元一門「虎城部屋」の新弟子の男性。年齢は17歳。後藤 昇の息子でもある。前髪を上げて額を全開にし、髪の毛を襟足の高さまで伸ばした撫で付け髪にしている。身長195センチ、体重115キロ。四股名は「王虎 剣市」あるいは「王虎」。得意の型は四つ相撲。父親同様の相撲センスを持ち、将来を嘱望されているが、父親以上に計算高く、腹黒い性格をしている。そのため、マスコミの前では爽やかな好青年のように振る舞っているが、実際は他人を自分がのし上がるための道具としか捉えていない傲慢さがある。鮫島 鯉太郎とは、鯉太郎が新弟子試験を受けに来た時に出会う。その際、鯉太郎が昇に鮫島 太郎を侮辱された事で激怒し、殴りかかった事で、鯉太郎を利用できると思いつく。そこで昇の代わりに殴られ、鯉太郎を許すといったパフォーマンスで、自分が善人、鯉太郎が悪人という印象を周囲に植え付けた。鯉太郎に殴られて骨折したふりをして五月場所に出場するが、鯉太郎に敗北。自分よりも実力が劣る鯉太郎に負けたという事実を受け入れられず自暴自棄になってしまうが、小林 哮に叱咤激励され、稽古に励むようになる。出身地は東京都で、好きな映画は『ゴッドファーザー』。

斎藤 正一 (さいとう しょういち)

公務員を務める男性。斎藤真琴の父親で、年齢は42歳。鮫島太郎の死後、鮫島鯉太郎を引き取って育てた。前髪を眉の高さで短く切った短髪にしている。いつも目を閉じているように見え、眼鏡をかけている。身長173センチで細めの体形をしている。心優しい性格で、引き取った当初は非常に荒れていた鯉太郎を、辛抱強く見守り続けた。妻と真琴、鯉太郎の四人で暮らしている。出身地は山形県で、特技は空手。

村神 裕也 (むらかみ ゆうや)

トラック運転手をしている若い男性。かつて山獄一門「若竹部屋」に所属していた元力士で、村神凛太郎の兄でもある。最高位は序二段。前髪を長く伸ばして上げて額を全開にした撫でつけ髪にしている。長身で、がっしりとした筋肉質な体形をしている。右腕には、かつて林田弘巳につけられた傷跡がある。現役時代の四股名は「天雷」。明るく爽やかな性格で、高校時代は全国大会で優勝するほどの実力を誇り、周囲の人気者であった。プロになってからもその人柄で高杉剛平や吉田亘孝など、別の部屋の力士からも慕われていた。しかし、そんな村神裕也を気に入らない弘巳の策略によって、取り組み中に右腕にケガを負ってしまう。それからは、負けるとケガのせいにしてしまう自分に嫌気がさし、このまま力士を続けても、思うような結果は残せないと判断する。そこで廃業し、実家には戻らずにトラックの運転手となった。しかし現在も相撲には関心があり、凛太郎の活躍をひそかに見守っている。

大山 太一 (おおやま たいち)

月山一門「柳川部屋」に所属する力士。年齢は23歳で、位は幕下。髷を結っており、つり目で目が細く、二重顎。身長198センチ、体重230キロの巨漢で、幕下最重量力士。四股名は「大森山太一」あるいは「大森山」。得意な型は押し相撲。のんびりとした性格で、非常に大食い。支給金がいつも食費で消えてしまうが、それでも食べ足りずに困っている。そこで、竹虎昌雄に代わって相撲教習所の指導員となれば給料がもらえると知り、鮫島鯉太郎と出会った。出身地は栃木県。好きなタイプはこってりした女性で、嫌いなタイプはあっさりした女性。

渡辺 仁 (わたなべ じん)

戸部一門「北里部屋」の新弟子。年齢は16歳。前髪を眉上で短く切った短髪にしている。目が大きく、かわいらしい中性的な顔立ちをしている。新弟子になったばかりの時は身長175センチ、体重79キロと力士としては痩せ型だったが、夏を境に大きくなり、別人のようになった。四股名はまだない。得意な型は四つ相撲。鮫島鯉太郎と石川大器からは「ドングリ」と呼ばれている。綿密な作戦を立てて戦う戦略家で、有名力士はもちろん、鯉太郎をはじめとした同期の情報も完璧に頭の中に入っている。また視力と記憶力が非常によく、力士たちの些細な行動も見逃さない。鯉太郎とは新弟子になった際に、相撲教習所で知り合って親しくなる。その後七月場所では鯉太郎と対戦し、事前にしっかり対策していた事で圧勝した。実家は両親と自分を含めた九人兄弟の大家族で、家計を支えるために力士となった。そのため早く昇進して、家族に楽をさせたいと考えている。出身地は千葉県で、好きなことわざは「石橋を叩いて渡る」。

林田 弘巳 (はやしだ ひろみ)

次元一門「十文字部屋」に所属する力士。位は幕下だが、以前は十両だった。髷を結っており、目が細くて唇が厚く、二重顎。体形はかなり太めで、四股名は「大鵠弘巳」あるいは「大鵠」。高杉剛平からは非常に嫌われており、「ブタフグ」呼ばわりされている。語尾を伸ばした、人を小ばかにしたような口調で話す。つねに他人を見下し、さげすむ事に喜びを感じる、歪んだ性格をしている。そのため、力士として高い才能を持ちながら、それを生かしきれずに卑怯な手段で対戦相手を負傷させ、時には再起不能にして楽しんでいる。剛平と吉田亘孝とは同期だが、新弟子の頃は二人を圧倒して痛めつけていた。それを兄弟子である村神裕也から諫められていたが、裕也が自分よりも年下であるという理由だけで憎んでいた。そこである日、取り組み中にわざと裕也にケガを負わせ、結果的に廃業に追い込んだ。その後、亘孝にも大ケガを負わせて休場に追い込み、剛平と亘孝から激しく憎まれるようになる。それでも二人を見下していたが、七月場所では二人に完敗を喫する。

バットバートル・モンフバイヤル

山ノ上部屋の新弟子である男性。前髪を目の上で切って右寄りの位置で斜めに分け、肩につかない長さまで伸ばした長髪にしている。つり目で目が細く、顎が長い。体形は細めで筋肉質。四股名は「蒼希狼」で、モンゴルでのあだ名は「バーキ」。日本語は片言で、意味を理解する数少ない言葉は、山ノ上部屋親方の口癖である「バカ」。そのため、いつも周囲に「バカ」と言っては挑発している。喧嘩っ早く反抗的である事から、周囲とトラブルを起こしてばかりいるが、根は純朴で仲間思いの性格。ウランバートル出身のマンホールチルドレンで、貧困層でも最下層で喧嘩に明け暮れていた。そんなある日、国家ナーダムという祭典を日本の相撲部屋が見に来ており、彼らが強いモンゴル人力士をスカウトしようとしている事を知る。そこで参加資格もないまま会場を訪れ、その場にいた力士たちに勝った事で、山ノ上部屋親方にスカウトされ、入門する事となった。新弟子では無名の存在だったが、七月場所で序ノ口優勝し、相撲教習所でも話題の人物となる。鮫島鯉太郎とは、この七月場所のあとの相撲教習所で知り合った。

田上 大 (たうえ まさる)

次元一門「虎城部屋」の新弟子。年齢は22歳。角刈りで、髪質が剛毛で直毛なため、伸びると上に向かって大きく膨らむ。垂れ眉、垂れ目で二重顎が特徴。身長183センチ、体重125キロで四股名はまだない。得意な型は押し相撲。穏やかで落ち着いた性格で、その人柄と新弟子たちの中では年長である事から、相撲教習所ではトラブルの仲裁役を務める事が多い。鮫島鯉太郎とは五月場所の前相撲で敗退した事から一目置くようになる。その後、相撲教習所で再会し、不器用な鯉太郎によく声を掛け、親しく付き合うようになる。出身地は北海道で、上杉謙信を尊敬している。

竹虎 昌雄 (たけとら まさお)

次元一門「虎城部屋」に所属するベテラン力士。位は幕下。髷を結っており、筋肉質でがっしりとした体形をしている。後藤昇からの命令で相撲教習所の指導員となり、鮫島鯉太郎を猛烈にしごく事になる。しかし鯉太郎がまるで屈する事なく、明らかに自分よりも実力が上であると理解した事で、自らの限界を悟る。そこで七月場所を最後に引退を決意し、次の職を昇に紹介してもらう事となる。しかし、最後の取り組みでまたも昇から、対戦相手の吉田亘孝を再起不能にしてくるように命じられ、それができなければ仕事の紹介もなかった事にすると脅される。しかし、これに屈せず自分らしい相撲を取って敗北。昇からは無能扱いされるが、最後まで見守り、認めてくれた田上大と小林哮の優しさに涙する。

石川 大器 (いしかわ だいき)

大海一門「新寺部屋」の新弟子。年齢は16歳。前髪をツンツンに立て、額を全開にした短髪にしている。三白眼のつり目で、鼻の左右にかけて一本線の長い傷跡がある。身長180センチ、体重81キロで四股名はまだない。得意な型は押し相撲。明るく、細かい事を気にしないさっぱりとした性格をしている。将来は横綱になる事を信じて疑わない自信家で、強い力士を戦う事を望んでいる。相撲を始める前は、神奈川県では知らぬ者はいないといわれるほどの札付きの不良だった。ある日数人から喧嘩を売られた際、反撃をした事で大ケガをさせてしまう。この事件で、このままではいけないと考えた担任教師の勧めもあり、新寺部屋の見学へ行く事になる。そこで、相撲の世界には自分よりも強い男がいくらでもいる事を知り、猛省する。鮫島鯉太郎とは新弟子になった際に、相撲教習所で出会った。話題となっていた鯉太郎と戦いたいと考え、積極的に絡むようになる。その後に七月場所で対戦し、戦いの中でお互いへの理解を深め、友情を築くようになった。のちに村神凛太郎とも親しくなるが、なぜか彼には名前を覚えてもらえず、いつもまったく違う名字で呼ばれている。出身地は神奈川県。趣味はパチンコで、好きなリーチは魚群。

小林 哮 (こばやし たける)

次元一門「虎城部屋」に所属する力士。年齢は24歳で、位は幕下。髷を結っており、つり目。身長182センチ、体重123キロ。四股名は「猛虎哮」あるいは「猛虎」。得意な型は押し相撲。まじめな性格をしている。元学生横綱で、番付は幕下付け出しから始まるエリート中のエリート。さらに強烈なぶちかましで、過去兄弟子を二人も再起不能にしているほどの当たりの強さを誇る。しかし、強い力士のいない虎城部屋の現状を憂いており、彼らと稽古をしても、自分が成長できないと感じて悩んでいた。鮫島鯉太郎とは、まだ素人だった鯉太郎が力士との交流試合に参加した地方巡業で知り合う。そこで鯉太郎と試合をして敗北し、後藤昇や後藤剣市から冷遇されるようになる。しかしその後、剣市が鯉太郎に敗北して自暴自棄になったのを見て、剣市を鍛え直し、自分の稽古相手にする事で、自分の出世と虎城部屋復活につながると考えるようになる。そこで七月場所で優勝して十両に昇進したら、剣市を自分の付け人にしてほしいと昇に頼む。そしてみごと十両に昇進して、剣市を立ち直らせる事にも成功する。出身地は熊本県で、好きな音楽のジャンルは演歌。

村神 凛太郎 (むらかみ りんたろう)

山獄一門「若竹部屋」の新弟子。年齢は18歳。元力士の村神裕也の弟でもある。前髪を完全に目が隠れるほど伸ばした、癖のある短髪にしている。夏を境に髪形を変え、前髪を上げて額を全開にした撫でつけ髪にした。身長190センチ、体重120キロ。四股名は新弟子の頃はなかったが、のちに裕也が現役時代に使っていた「天雷」に決める。石川大器からは「クラゲ」と呼ばれている。得意な型は四つ相撲。尊敬する裕也の背中を見て育ち、自分も相撲を始めるが、気弱な性格が災いして思うような結果が出せずにいた。その後、裕也はプロとなって地元を離れるが、突然廃業して行方不明になった事に激怒する。そこで、自分も力士を目指す決意をし、裕也の廃業から3年後、若竹部屋に入門した。その後は同期の新弟子たちの中で圧倒的な力を発揮するが、周囲の誰ともかかわろうとせずに見下していた。鮫島鯉太郎とは新弟子になった際、相撲教習所で出会うが、当初は彼をまったく相手にしていなかった。しかし、七月場所で鯉太郎に敗北し、自分に欠けていたのは真摯に相撲に取り組む姿勢だと認識し、心を入れ変える。その後は相撲への姿勢だけでなく髪形も変え、性格も以前より明るくなった。出身地は愛媛県で、趣味は釣り。

集団・組織

空流部屋 (くうりゅうべや)

『バチバチ』に登場する相撲部屋。元小結の春風こと空流旭が親方を務めているが、空流旭の妻の没後に経営が悪化し、鮫島鯉太郎が入門した時点で彼を含めて5人しか力士がいなかった。また元有った相撲部屋の半分を駐車場にしてしまったことが原因で力士たちの居住スペースも広くない。

虎城部屋 (こじょうべや)

『バチバチ』に登場する相撲部屋。元横綱の虎城昇が親方を務めているだけあって、力士の数も多い。しかし親方である虎城昇が稀にしか姿を現さない上、腐敗した練習風景や後輩いびりもはびこっているなど、その実態は芳しくない。親方である虎城昇を怒らせれば廃業させられてしまうこともあるため、親方を恐れている力士も多いが、力士を辞めた後のケアがされていたりするなど、あながち単に親方が狭量というわけでもない。

続編

バチバチBURST (ばちばちばーすと)

佐藤タカヒロの『バチバチ』の続編。若き幕下力士たちの土俵上での熱い戦いを描いた相撲漫画。個性的な力士たちと熱いストーリー展開、迫力のある取り組みシーンが魅力。秋田書店「週刊少年チャンピオン」2012年... 関連ページ:バチバチBURST

鮫島、最後の十五日 (さめじまさいごのじゅうごにち)

佐藤タカヒロの『バチバチ』『バチバチ BURST』の続編。激しすぎる取組の中で、とうとう慢性外傷性脳症となってしまった力士の鮫島鯉太郎が、死も覚悟して九月場所の十五日間を戦う姿を描いた大相撲巨編。秋田... 関連ページ:鮫島、最後の十五日

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