悪魔の寵児

悪魔の寵児

縁を黒く塗りつぶされた、情死を匂わす文面の葉書が届けられたことから始まる、連続猟奇殺人事件の謎に名探偵、金田一耕助が挑む、本格ミステリー作品。横溝正史の小説の公式コミカライズ版。「ミステリーDX」2003年5月号に掲載された。

正式名称
悪魔の寵児
ふりがな
あくまのちょうじ
漫画
原作
ジャンル
推理・ミステリー
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概要・あらすじ

レインコートを頭から羽織り、顔を隠した謎の「雨男」。のちに「悪魔の寵児」と呼ばれるようになった彼によって行われた猟奇的な殺人事件は、ある一葉の葉書から始まった。 ある日、銀座のバー「カステロ」を訪れた東都新聞の記者、水上三太は、目当ての女性である石川早苗と、バーのマダム、城妙子、洋裁店主人、宮武益枝、美容院主人、保坂君代の四人が、ある葉書について話しているのを盗み聞きしてしまう。縁を黒く塗りつぶされた禍々(まがまが)しい葉書には、男女の情死を暗示する文が綴られており、差出人として、早苗の兄、石川宏と、風間産業の社長である風間欣吾の妻、風間美樹子の名が書かれていた。 欣吾の愛人である妙子、益枝、君代の三人は、真相を確かめるべく早苗の家へと出向くが、そこで彼女達が見たのは、半裸で絶命した美樹子に折り重なり、意識を失っていた宏の姿だった。物陰から様子をうかがっていた三太は、想いを寄せていた早苗が、事件の関係者として世間のさらし者になることを阻止しようとするが、そこに大阪に行っていたはずの欣吾が姿を現し、早苗の兄である宏をダシに三太を脅迫。脅しに屈した三太は、それらをいち早く記事にすることを条件に、殺人事件のもみ消しの片棒を担ぐことになってしまう。しかし、三太が翌日に欣吾邸を訪れると、欣吾が家に持ち帰ったはずの美樹子の遺体が、何者かによって持ち去られていた。一連の犯罪が自身への恨みにあると考えた欣吾は、容疑者として美樹子と結婚するために捨てた前妻の望月種子や、美樹子の元夫だった有島忠弘の名を挙げる。 そんなある日、君代が主人を務める美容院「ブーケ・ダムール」の開店披露パーティーにやって来たミュージカル女優の湯浅朱と、彼女を迎えに出た早苗の前に、「雨男」を名乗るレインコートの男が現れ、彼女に4つの鍵を預けていく。パーティー会場の舞台には四隅に鍵穴の付いた大きな木箱が置かれいたが、欣吾の合図で三太が鍵を開けると、中には欣吾を模した人形の首に手を回し、交わる形で事切れた君代の絞殺死体が入っていた。思わぬ事態に騒然とする会場内に、欣吾が調査を依頼した名探偵、金田一耕助が姿を現し、事件の調査を開始。 人形師である猿丸猿太夫の聴取を行った耕助は、彼が「雨男」に頼まれて君代の生き人形を作ったと証言する。しかし、警察が情報の裏取りをしている最中に、またしても「雨男」が現れ、入院中の宏を病院から連れ去ってしまう事件が発生。続けざまに、廃墟の中で死後三日は経った全裸の益枝の遺体と、それに覆いかぶさる猿太夫の遺体が発見される。 その後、種子が毒殺され、一連の事件の犯人は「悪魔の寵児」と呼ばれるようになる。後手に回り続ける捜査陣に対し、世間から厳しい非難の声が浴びせられる事態になってしまう。遅々として進まない捜査の中、ついに妙子までもが遺体で発見されたうえ、耕助も正体不明の犯人に狙撃され、重傷を負ってしまうのだった。

登場人物・キャラクター

金田一 耕助 (きんだいち こうすけ)

探偵を生業としている男性。ウェーブのかかったボサボサの髪に、着物に袴という書生のような格好をし、足元は下駄という、とても「名探偵」には見えない風貌をしている。風間欣吾から依頼を受け、今回の猟奇的殺人事件の真相を調べる。血液型はO型。

水上 三太 (みずかみ さんた)

東都新聞文化部の記者である男性。亡くなった父親の遺産で、一生食べていけるほどの金を持っている独身貴族。新聞記者として大きなスクープを狙う、貪欲で好奇心旺盛な一面がある。銀座のバー「カステロ」の従業員である石川早苗に淡い恋心を寄せており、彼女目当てに「カステロ」に通い詰めている。

石川 早苗 (いしかわ さなえ)

銀座のバー「カステロ」の従業員。石川宏の妹である女性。兄と二人でボロ家に住んでおり、おとなしく気の弱そうな性格をした美女。宏が自宅で風間美樹子と心中を図ったとみられる現場の第一発見者だが、兄がそんなことをするはずがないと、宏を信じていた。

石川 宏 (いしかわ ひろし)

石川早苗の兄。無口な男性。早苗と二人でボロ家に住んでいる。絵を描くことを生業にしており、風間美樹子とは、彼女の肖像画を描いて親交を深めていた。自宅で心中を偽装した殺人事件に巻き込まれるが、幸い一命は取り留めた。しかし、犯人に強い薬を注射されていたため、意識が混濁している。

風間 欣吾 (かざま きんご)

風間産業の社長を務める中年男性。風間美樹子の夫で多数の愛人を抱える富豪。大戦直後の闇物資の取引で財を成し、その後、商社として体裁を整えて急成長を遂げた、戦後成金の中でも超が付く大物。10年前、中学時代に書生として世話になっていた旧主五藤家に現れ、すでに結婚していた一人娘、美樹子を略奪して世間を賑わせていた。美樹子と結婚する際、彼女の元夫、有島忠弘と、自身の前妻、望月種子に多額の金を渡している。 現在は忠弘の邸宅を買い取り、そこに住んでいる。

風間 美樹子 (かざま みきこ)

風間欣吾の妻で和装の美女。何者かによって、石川宏と心中に見せかけて殺害された。没落した上流階級である五藤家の一人娘で、子爵である有島忠弘に嫁いでいた。だが昭和23(1948)年に、美樹子を見初めた欣吾の妻となった。当時二人の結婚は、忠弘が妻もつけるという条件で法外な値で邸宅を売りつけた、もしくは忠弘の無能ぶりに美樹子の方が愛想をつかした、などの噂が飛び交うスキャンダルとなっていた。

保坂 君代 (ほさか きみよ)

風間欣吾の愛人である女性。渋谷の美容院「ブーケ・ダムール」で女主人を務めている。女性を美しくするための、ありとあらゆる施設を集結させた「美の殿堂」を作るため、欣吾に出資を頼んでいた。その店の開店披露パーティーの前日、行方不明になっていたが、パーティーの席で無残な遺体となって発見された。

宮武 益枝 (みやたけ ますえ)

風間欣吾の愛人である女性。池袋の洋裁店「からたち」で女主人を務めている。欣吾に関係する風間美樹子に続き、保坂君代が殺害されたため不安を募らせ、城妙子と共に欣吾に別れを切り出すが、一蹴されてしまう。その後、行方が分からなくなっていたが、廃墟にて凄惨な姿で発見された。

城 妙子 (じょう たえこ)

風間欣吾の愛人である女性。銀座のバー「カステロ」で女主人を務めている。欣吾の周りの女性が次々と殺害される中、店を閉めてあちこち転々と逃げ回っていたが、赤坂のホテルで首を絞められ、全裸のまま遺体で発見された。

湯浅 朱実 (ゆあさ あけみ)

風間欣吾の愛人である女性。その存在は、世間やほかの愛人達にも秘密にされている。ミュージカル界の女王と呼ばれる美女で、水上三太もファンの一人。有島忠弘の現在の妻だが、世間に公表はしておらず、現在は別居している。

有島 忠弘 (ありしま ただひろ)

有島家の子爵。風間美樹子の元夫。世間に公にはされていないが、現在は湯浅朱実の夫である。美樹子と別れた際、風間欣吾に法外な値で邸宅を売りつけていたが、朱実のことも取引のネタとして欣吾に売りつけようとしていた。

望月 種子 (もちづき たねこ)

風間欣吾の前妻。現在は上野近辺で「望月蝋人形館」を経営している女性。かつての欣吾の上司で、A級戦犯として処刑された望月大将の娘。欣吾と別れる際には多額の金を貰っているが、未だに欣吾への強い執着がある。サディスティックな性癖の持ち主で、マゾヒストの猿丸猿太夫に夜な夜な鞭を振るっている。

猿丸 猿太夫 (さるまる さるだゆう)

「望月蝋人形館」の人形師を務める男性。本名は黒田亀吉だが、望月種子に猿丸猿太夫と名付けられ、種子からは「猿丸」と呼ばれている。元は浅草馬道に工房を構える親方で、生き人形作りの名人と呼ばれていた。種子と出会ってから特殊な性癖に火が付き、毎夜鞭に打たれて雄たけびを上げている。

等々力 (とどろき)

警視庁で警部を務めている中年男性。オールバックの髪形に、口髭を蓄えている。金田一耕助とはすでに顔見知りで、事件の捜査も共に行っている。耕助の推理力を高く評価しており、彼の意見を求めたり情報提供などもしている。

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