「天使」、「箱庭の王国」、「王子へのあこがれ」、「黒い翼」、「奇異の視線」、「破滅の予感」。
これらワードを結び付けた上でふわっと像を膨らませていけば本作『クオーツの王国』がいかなる物語なのかは説明抜きでも読めてくるはずです。いっそ感性で追った方が面倒がなくて良いかもしれませんが……。
それでも軽く説明してみますと。
これは「聖類(セレス)」と呼ばれる翼持つ人々の住まう、箱庭じみた王国の物語です。
そこで黒い翼を持って生まれたがゆえ、周囲から奇異の視線にさらされる少女「ブルー」が自分を認めてくれたあこがれの王子に尽くすため、長じて国の最高戦力である「大天使」を目指すというのが発端です。
ブルーは共に育った仲間の過半に加え育ての親たるシスターまでも謎の襲撃にさらされ、失いました。
そこで自らもわかっていない制御できない闇の力を発露して、襲ってきた悪魔を狂乱のまま打ち倒します。
直後、王子の呼びかけに応え正気を取り戻したブルーは、王子直属の大天使を目指して奮起することに。
そして三年後、大天使となるべく士官学校の門戸を叩いたブルーはそこで新たな出会いを迎えて――、といったのが簡潔な、一巻時点でのあらすじでしょうか。
……、先に懸念とすべき点を列挙しておきますね。
言ってはなんですが、どこかで見たことがありそうなストーリーラインなので把握しやすいかと。
二巻からは共に育った孤児の子との再会、裏側で暗躍する何者かの示唆など、順当に世界観の掘り下げを行っていきます。主人公に向けられる理不尽も、やがてそれを跳ね返してくれるだろう予感がありました。
作者がカナダ出身の俊英という売り文句に則って、王道路線で巻を積み重ねると期待していたのが私です。
にもかかわらず、四巻からは読者置いてけぼりの唐突極まる急展開がはじまって、そこから全五巻コースでの第一部完です。打ち切りというにはやや重ねた巻数なのが悩みどころでしたが。
打ち切りなのか、本当に第二部がはじまるのかは定かではありませんが正直私、面食らってしまいました
よって物語の構造としてはかなり歪であり、最新刊の方に評価軸を置けばかなり星の数は落ちるでしょう。
ですが、圧巻のビジュアルと将来性に心惹かれた一巻時点の単独評価なら星五といったところになります。
と。評価点については後述するとして、懸念の方から続けて挙げていくとしますか。
まず「天使と悪魔」、「光と闇」という王道の対立項をテーマに据えているのはいいと思います。
けれど肝心の悪魔の方が抽象的で言葉を持たないクリーチャーなのが痛い。
倒すべき敵というより理不尽な災害としての性質が強く出ている上、掘り下げ自体たいして進まない。
眼前の敵を打ち倒して、経験や名声を高めていく爽快なラインをストーリーとして目指していたわけではないのは構いませんけどね。映えるアクションを繰り出しながら個々のキャラクターの魅力を広げていくという試みが取れなかった。それがのちのち響いてきたんだなと思わなくもないのです。
本作はどちらかと言えば、ブルーを取り囲む内側のままならなさについて注目されていたようですね。
たとえば王国内部で渦巻く権力者の駆け引き、それに翼の有無だけで差別されるような民衆の意識など。
必然主人公その人に迫るため、彼女の秘めた力の謎を追うという形で大枠は問題なかったように思えます。
一応本作は当初から「ダークファンタジー」と銘打たれていた通り、雰囲気がわりとダーク寄りです。
一見煌びやかで美しい王国が、おぞましい暗部を隠していたというのも一周回って王道ですからね。
でもわりと最初からきな臭く、血なまぐさいので読者としてはあまり意表を突かれた感じがしなかった。
前代未聞の個体に遭遇したとはいえ、いきなり悪魔に最強戦力である大天使の一角が落とされるというのは衝撃というべきか拍子抜けというか、どう評していいのかわからない。
事件はダークなのに日常はライトなのがメリハリを生む一方、最初から最後まで程度の差こそあれ急展開。
ブルーが純真で理想を信じるスタイルを貫く一方で、だんだん真相を垣間見せるという感じもしない。
むしろ一気に見せていくスタイルなのが、読者にも追いつく暇を与えずせわしない。
なのでブルーがどう自分の中で呑みこんで進んでいくかも不明瞭なまま問題の四巻に突入してしまったのが痛いのです。理不尽にさらされ続けたブルーがあきらめの境地に達してしまうのもわかる気がしました。
要するにこの作品、衝撃的なパートは申し分ないとしてもかなり繋ぎが悪く、溜めが足りないのです。
自問自答をして、周囲に信頼できる人を集め、どのような形であれ決断を下す。
そういった、主人公が行動に移るまでの過程を描く暇なく、矢継ぎ早に凄惨な事態がやってくるので。
というより、話を急くあまり仲間集めなどの前提になる段階が抜け落ちている。
その結果として、主人公がただひとり孤独に突っ走る羽目になる。
行き着くところはあの結末と考えれば、衝撃であると同時に納得としか言いようがありません。
納得はできても、読んでいて愉快かどうかについては別の話なんでしょうけどね。
以上。
まず、通しの評価と単独の評価はまた異なるということは重々ご理解いただきたいのですが。
五巻発刊後、本当に第二部がはじまろうが、打ち切りが明言されようが私がこの『クオーツの王国』という漫画に対する評価は変えません。
一巻、二巻、三巻と、その巻単独での評価をその都度送っていくことにします。
で、ここまででお察しいただけたことでしょうが、私が一巻の評価を落とさないのは、ビジュアルに惹かれたからに他なりません。
浮遊する中央区画を目にして焦がれる少女の視線、少女は高くのぼり過ぎて転げ落ちて王子の手の中――、といった導入はたとえありがちと言われようとも好き以外の何物でもなく、私は大好きです。
そうして生まれる、強烈な白と黒のコントラストが鮮烈でした。
どちらに染め上げられようと作品は不穏に傾くのでしょうが、そんな茶化しは抜きにしても。
ひるがえっては、いにしえの活版印刷を思わせるはっきりとした陰影の持たせ方もとても魅力的でした。
きっと多くの方が思うのでしょうが、温かみのある昔話のソレに近しかったこともあって。
でもこの昔話はきちんと躍動し、空を翔けることだってできたのですけれどね。
一枚の絵画であるとも空間を切り取った瞬間とも解釈できる、空を見据える構図がなんとも美しい。
それに光と闇をモノトーンの色彩で創出するのも簡単なようでいて、きっと難しい。
淀みやおぞましさと言わんばりにブルーから湧き出るナニカはきちんと禍々しい。
かと思えばカラーイラストで現出される輝きもわかりやすく、万人を魅了する趣が強烈といえましたから。
加えて独自性が強いのに絵柄に振り回されていない安定感が素晴らしい。間違いなく、作者の強みでした。
総じて、絵の力でだいたいの不穏な予感は塗りつぶせると思えたのでこの一巻のことを私は好きです。
同時に、絵の力でだいたいの不穏さが実際に描き出されてしまえば同じことだととして。
すなわち、不穏な方向に物語が呑みこまれてしまったと言うと何とも皮肉な話なのでしょうけれどね。
ただ、いずれにせよ。
物語がいかなる結末を辿るか抜きにしても、ブルーは王子に応える形で自分はかくありたいと選びました。
ゆえにブルーがいくら黒に染め上げられようとも、彼女は美しいのだと私は思うのです。
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クオーツの王国(1) (アフタヌーンKC) コミック – 2023/5/23
BOMHAT
(著)
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購入オプションとあわせ買い
「天使」ーー彼らは女神の意思に従い、クオーツ王国を悪魔から守る英雄。黒い翼をもって生まれた孤児のブルーは、天使を夢見る平和な毎日を送っていた。だがとある日、とある王子との出会いを境に、彼女の運命は動き出す。カナダ出身の超俊英が描く、圧倒的な世界観のダークファンタジー!
- 本の長さ180ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2023/5/23
- 寸法13 x 1.3 x 18.3 cm
- ISBN-10406531688X
- ISBN-13978-4065316887
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商品の説明
著者について
漫画家、イラストレーター。誕生日は2月14日。焼肉大好きです。
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2023/5/23)
- 発売日 : 2023/5/23
- 言語 : 日本語
- コミック : 180ページ
- ISBN-10 : 406531688X
- ISBN-13 : 978-4065316887
- 寸法 : 13 x 1.3 x 18.3 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 55,870位コミック
- カスタマーレビュー:
著者について
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カスタマーレビュー
星5つ中4.6つ
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上位レビュー、対象国: 日本
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日本人にはない感覚を感じさせる作品です。
コミックに寄せてきているので読みやすさがあるものの
キャラクターや世界観に新鮮さがあるのが魅力的。
クォーツの魔法にかかってみましょう。
- 2023年8月4日に日本でレビュー済みAmazonで購入白黒の絵本としては非常に魅力的なんですが。
漫画としてもキャラや背景もしっかりして動き、展開も判りやすくて
非常に読みやすいです。
が、正直世界観やストーリーは微妙。
次回作は原作アリで漫画作画を担当してくれたら化けるかも?