端的に申し上げれば手堅い筋書き――というのが、ここ二巻に対する評価でしょうか。主人公である女勇者「リザ」から見た現状として、将来復活する魔王を倒すという目標は今のところズレていません。
作品世界の裏側に存在し勇者を認定する「義の女神」が、理屈倒れの一本調子という不安要素も相も変わらずです。一方で女神が認定する「悪」もまた不気味なのですね。どうも単純な逆張りとはいかなそうです。
きっと当たらない予想については一巻のレビューでも申し上げましたのでそちらもご照覧いただくとして。
いずれにせよ本作『囿者は懼れず』は先が読めそうで案外読めません。序盤で申し上げるのもなんですが。
連載が軌道に乗ったと仮定してシナリオの予測不能性がセールスポイントとして挙げられるかもしれません。
とまれ、読者目線も兼ねる主人公が見据える目標自体は前述の通り「魔王打倒」で変わりありません。
いたってシンプルだと思います。それにまとわりつく思惑がまどろっこしいんですけどね。
時代背景を考えれば当然なのかもしれませんが「男尊女卑」に代表される貴族社会の欲得が絡み合う裏事情が見え隠れします。まるでヒロイック・ファンタジーだけでは終わらないことを言外に主張するように。
だからこそすっかり擦れて人間味を失い気味な主人公リザの、竹を割ったような性格が冴え渡るのです。
主人公の人間性を支えるヒロイン「メイ」の屈託のない笑顔が輪にかけて貴重なのです。
支えあうふたりの絆がいっそう、輝くわけです。俗にいうところの百合ですね、素晴らしい。
また、単に不快な話で終わらせないように工夫も施しているのできちんと読ませてくれると思います。
たとえばこの二巻でも引き続き、主人公から見て腹の内に含むものがある国から距離を取っているのですね。
権力から離れたうえで四人パーティーで独立独歩、旅路を着実に重ねていくのはきっと正解かと。
話は飛びますが、道中で説明されたこの世界特有の魔法体系も渋い設定でなかなかに好みでした。
この場合は俗にいう四元属性（地水火風）ではなく、物質の三態（気体・液体・固体）＋αに、治癒魔法などの例外を加える方式らしいです。字面で説明されてわかりやすいかと言えばそうでもないのですが。
ただ、劇中でメイが披露した複合的な応用例を見ると、学術的に体系だっているのも納得で理にかなっているなと思う次第でした。読者相手には実戦を通して感覚的に理解させようとする狙いなのかもしれません。
あと治癒魔法の使い手が希少で制約も多いのも作品の緊張感を高める一助となっていてこれまた好みです。
そんなわけで主人公一行が道中で遭遇する事件ですが、どこか別の文化圏から流れてきったぽい、謎の通り魔が本当に謎のまま主人公によって斬り捨てられてしまったりします。
善良な老父と不良息子の確執が真に解決を見ないまま見送られてしまったりもします。
一応解決はしますけど、どこかやりきれない思いを引きずって道中を急ぐスタイルは逆に新しいと思います。
主人公自身の人間性はまだまだ保たれているのですけれど、「正義」という理に従い動くことに変わりはないのですけどね。悪漢はもちろんのこと、一定のラインを越えたもの相手に情をかけたくもないようですし。
そのために、一巻で触れた通りの抜き身の刃のような繊細さが見て取れます。さっそく危うい。
必然、情を謳いながらも確固たる芯を持つメイはリザを勇者でなく人間の側に留め置くため訴えかけるのです。両者は対峙し、葛藤を演出するわけです。まだまだ破局は遠いとはいえ、末恐ろしくもありました。
あと仲間内から明かされるそれぞれの家の事情も含め、前述した道中で一行に降りかかる事件はどこにでもあるたぐいの話であって、総じて真新しさという意味合いでは薄かったのですが……。
装飾がなく簡潔に綴られる分、じとっとのしかかるような嫌な感じになれるのが特徴ですね。
私見ですが事件がドラマチックではないために、快刀乱麻な解決ができないとも考えられます。
ひるがえっては、ファンタジー世界なのにどこまでもリアルで地に足着いた実感が身に突き刺さってしまうわけです。好意的に捉えれば、世界の厳しさを伝えながら作品への没入感を高めるための工夫ともいえますが。
ただ、現時点ではダークファンタジーというほどでもありません。嫌な意味で現実染みているだけです。
以上。
まだまだ序盤ということもあって、話の進行が見えにくいということもあって多少評価は辛めにしようかと考えたりもしましたが、先への期待を込めて星五つの評価を送りたいと思います。
なにせ二巻は一巻に引き続き魔王打倒のための下準備が主だったとはいえ。地固めの日常パートも目立ちましたから。それは必要な寄り道であり駆け足でもあるという、なかなかに奇妙な性質の旅路を表すようでした。
一行は文無しなので金策に走らざるを得ないという、市井の人々とかかわりを持つための理由づけも上手い。
結果、前述した事件や一般人との交流を介し、世界を護る意義を読者にも早々に示せたことは大きかった。
付随して、パーティー四人のうち貴族出身のクリフトンと平民出身のオーガストからなる男二人の仲間たちも個性を高めています。さっそく存在感を増して、失えない戦友であることを旅の中で証明していますね。
結果、多少地味に思えようともキャラと世界の掘り下げに徹した意味合いがこの上なく見えてきました。
それから主人公リザの魅力と強さは一巻で紹介した通り。揺らいでいません。
けれど、その分仲間によりかかることができない側面が強調されていたりもします。
その辺は言うならば強さにして弱さなのですが――、二巻ではそこが強調されている風でありました。
よって今後どう彼女の内面が動いていくかに期待したいですね。
一貫性を求める一方、ゆらぎも求めたくなるのは一読者のわがままなのでしょうか？ 「理」と「情」の両面で、葛藤するか、ブレないか？ そのさじ加減が難しいわけですが、それこそ余計な心配か。
時に、勇者リザは昔日の笑顔を名残たりとも宿していません、代わりとばかりに圧倒的な眼光を宿します。
浪漫に対しては塩対応、言い換えれば合理的、質実剛健としていることも確かです。
けれど同時にファンタジー世界の華ある文物がよく似合うことも事実でした。
実に、今の時代の女性主人公らしい造形に仕上がっています。
彼女の足跡を追ってみたいと思わせた時点で制作サイドの勝ちでした。もちろん私もその中のひとりです。
ではレビューをそろそろ〆に持っていくとしましょうか。
次巻の開幕はファンタジーの王道ドラゴン退治なのですが……。
王道の西洋竜のくせに（だからこそ？）、実に禍々しい造形をしていたりします。
いずれにしても、長々と語ることではありませんね。今の私が言っておきたいのはただ一点のみでした。
勇者リザとその仲間たちがドラゴンとの戦いを終えて、何か無形の物を持ち帰れるかに注目したい！
なぜなら彼女なら悪意や善意はおろかそれ以外にも、果敢に真摯に接してくれると、そう信じていますから。
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