マニアックな漫画という評判なんで、なかなか手が伸びなかったのだけど
ふとしたきっかけで手に取ってみると…。
正直、すごい才能だ。ただしアブない。
こんな怪物が隠れているから、日本の漫画界もまだまだ捨てたもんじゃない。
世界設定はほど良く現実からズレていて、モラルもいい具合に壊れている。
主人公は完全に狂っているのだけど、
その狂い方がまた静かで余計にリアルだ。
普通の人はすごく退屈に描かれ、狂った人たちが生き生きしている。
もう少し主人公の背景を知りたかったとも思うが
それを説明すると作品の魅力が減損するのかも知れない。
トーンを使用せず、手書きで描かれた絵は
かつての福山庸治やすぎむらしんいちに通ずるものがあり、
ヒグチさんなどクールな女性像は諸星大二郎が描く女性キャラを連想させる。
現実との折り合いをつけられない神経症患者はたくさんいるが、
それが周りの世界を徐々に巻き込み浸食していく描写は見事という他ない。
作者は、なんでこんなにビョーキの人たちの気分がわかるのだろうか。
多分、この作品が絶妙なバランスのまま完結したのは、
作者が「かろうじて」正気を保っていたからだと思う。
元々正気の人なら、徐々に作品自体が正気に戻って退屈になっただろうし
後戻りできないくらい狂っているなら、作品が自己崩壊して未完に終わったはずだ。
もちろん万人向けの商業漫画ではないが、
日本の漫画表現の水準はここまで来たか、と思わせる作品。
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