ああ、人間とは素晴らしい。
昭和の迫力を残しながら、やはり人への愛情を忘れていない。
登場人物の怖い真顔だけではなく、コミカルなタッチで和やかな雰囲気になる。まるで一瞬別の作品になったかのように(かつては反則だったかも。)。
きれいごとで片付かない時代の話を、爽やかに描いている。
今回登場するのは、小説家の岩崎富子。月光壮に引っ越してきて、神宮寺の取材を始める。大家さんの計らいで、皆で食事することもある。昭和という時代のことが、想像できるようになった。
「なあ太陽さをを見えまっか？中略見渡す限りの焼け野原や。中略私の大切な物ぜーんぶなあ。これが戦争ですわ。中略でもな私は生き残ってん。中略必ず這い上がったる。ウチも日本も、絶対にっつ。」
著者のメッセージは、誰もが困難を乗り越えて日本を復興させた、それが昭和なのだ。といったところか。
このマンガの登場人物は、癖のある人でも、何の理由もなく悪い人などいない。病と戦う三崎、行き詰まりの人生を救われた黒田、理解ある極道のおかけで将棋に打ち込めるようになった花山。棋士以外でも、夫に捨てられた香織、戦争で子供達を失う家主夫婦。
あの田中七郎名人でさえ、困難な時期を乗り越えてのしあがったのである。
ただ、過酷な困難は、時として副作用を起こすらしい。困難を乗り越えた自分は特別だ、だから何でもしていいと勘違い、他人に対して横柄になる。端からみれば狂っていると、誰にもわかる。
著者は書いている。もし神宮寺が簡単に名人になっていたら、どうなるか？田中以上の暴君になっていたのではないか？
神宮寺は挫折を経て成長したのだ。別れを経て、今新たな出会い。
「変わった。いや変われたと言うべきか」
意識的に変わることなどできない。幸運が重なって変わることができたと言うべきか。
私たち読者は、すでに知っている。
神宮寺が釣りを愛するおじさんになり、桐山や若手棋士のさながら後見人のように世話して、棋戦のスポンサー集めに四苦八苦している現在の神宮寺会長を。
だから、彼の苦闘をある意味安心してみられると言えよう。
神宮寺や柳原の詳細はまだすべて明らかではない。続刊で、彼らの更なる成長を見届けたい。
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