ふらり。

ふらり。

江戸深川に居を構えた隠居した中年男が、測量に情熱を覚え、江戸中を歩測しながら景色を見て回る、15話からなる連作長編時代劇漫画。さらに、主人公は作中で植物や動物の見たもの・見ているものを幻視するという趣向もある。名前は作中にまったく出てこないが、主人公は日本中を歩いて測量した伊能忠敬をモデルにしたと思われる。ただ、9話に登場するインドゾウの江戸到着の年や、測量の旅に妻を連れて行こうとするなど、史実とすこし違っているため、厳密な伝記ではないようだ。

正式名称
ふらり。
ふりがな
ふらり
作者
ジャンル
時代劇
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概要・あらすじ

江戸深川黒江町に居を構えた隠居した中年男は、毎日江戸の街を歩いて、おのれの歩幅で測量を行う訓練をしていた。多くは一人で、時には妻のお栄を伴い、江戸中を歩き、植物や動物の目で風景を幻視する。実は彼は正確な子午線一度の長さを求め、それによって地球の大きさを割り出そうという大望があり、そのため幕府の天文方の人間とも懇意になっていた。

子午線一度の長さを得るためには、江戸からはるか蝦夷の地までの長い距離を測る必要があったが、それには幕府の許可と援助がなければならなかった。「蝦夷地の地図を作る」という名目でようやく許可をもらった主人公は、ある雪の日に「一年後の四月に蝦夷地へ向かって測量の旅に出る」ことを決心するのだった。

登場人物・キャラクター

隠居した中年男 (いんきょしたちゅうねんおとこ)

『ふらり。』の主人公。作中まったく名前が出てこない。江戸深川黒江町に居を構え、江戸中を歩きまわっておのれの歩幅で測量をする訓練をしていた。正確な子午線一度の長さを求め、それによって地球の大きさを割り出すことがその目的である。が、懇意にしていた幕府の天文方の役人に、正確な子午線一度の長さを求めるには、江戸から蝦夷地までの距離くらいの長さを測る必要がある、と言われて蝦夷地への測量の旅を計画する。 江戸中を歩きまわるのみならず、近くにいる植物や動物の見たものを共有してしまう(幻視のように描かれる)。隠居した中年男の名前は作中にまったく出てこないが、日本中を歩いて測量した伊能忠敬をモデルにしたと思われる(ただし虚実が取り混ぜてある)。 史実通りなら、伊能忠敬は1795年に50歳で江戸に居を構えたのだが、年号(西暦)や年齢はまったく作中で示されない。

お栄 (おえい)

『ふらり。』の登場人物。隠居した中年男の妻。美人で、文章に関する教養もある。夫がやたらと外へ出かけて歩きまわったり、家の中が測量や天体観測の機器だらけになっていることに不安を覚ているが、芯のところでは夫を信じている。終盤で、夫から蝦夷地測量の旅への同行を求められる。史実通りならば、この女性は伊能忠敬の四人目の妻である(前の三人は全て死別)、女性漢詩人の大崎栄をモデルにしていると思われる。 実際は、大崎栄は蝦夷地の測量に参加しなかった様子。

一茶 (いっさ)

『ふらり。』の登場人物。5話の「星」に登場。夜に星を見ながら歩いていた隠居した中年男が出会った俳人。頭巾の上に菅笠をかぶった旅装束で、まだ若い男性。二人が出会ったのは、百年ほど前に松尾芭蕉が住んでいた芭蕉庵の近く。俳人は「風流とは縁がなくても、私なりの句風を見つけたい」と語る。別れ際、隠居した中年男に、自分の俳号は一茶だ、と言う。 第12話の終わりで少しだけ再登場し、「名月を とってくれろと 泣く子かな」という小林一茶の有名な句が示されることから、この俳人が小林一茶をモデルにしていることが明確となった。小林一茶が伊能忠敬と実際に出会ったかどうかは、資料がない。

絵師 (えし)

『ふらり。』の登場人物。夕方、大川(隅田川)の河原で写生をしている若い男性の絵師。短いあごヒゲを生やしている。8話の「蛍」に登場。隠居した中年男は、散歩のたびに河原にいる彼を見ており、ある日声をかける。「真にして立ち、行にして歩み、草にして走る。つまり、筆意は筆にまかせず自分の手に心を用いるという運筆の心得です」と語り、隠居した中年男を悩ませる。

天文方暦局の役人 (てんもんかたこよみきょくのやくにん)

『ふらり。』の登場人物。10話の「雷」に登場。蔵前にある徳川幕府の天文方の建物にいる役人で、隠居した中年男より若い男性。薄い八の字ヒゲを生やしている。隠居した中年男と測量の話をし、正確な子午線一度の長さを求めるには、江戸から蝦夷地までの距離くらいの長さを測る必要がある、と言う。 そして、蝦夷地の地図を作成するという名目で、幕府に測量許可の申請をしようと約束する。13話の「馬」に再度登場し、蝦夷地測量の許可が下りたことを隠居した中年男に告げた。史実通りならば、この役人は伊能忠敬の暦学・測量の師である高橋至時(たかはしよしとき)をモデルにしたキャラクターと思われる。

噺家 (はなしか)

『ふらり。』の登場人物。10話の「雷」に登場。作中まったく名前が出てこないので、噺家と表記する。蔵前の天文方から帰宅する途中で落雷に巻き込まれて腰を抜かした隠居した中年男を助けた男。近所の料理屋の大座敷で隠居した中年男を介抱する。声色(歌舞伎役者の声帯模写)芸人だったが、今は烏亭焉馬(うていえんば)の下で話芸の修行中と話し、座敷の客を前に落語「もといぬ」(元犬)を演じる。 烏亭焉馬は、江戸後期の「落語中興の祖」と言われている。

(とんび)

『ふらり。』に登場する動物。1話の「鳶」に登場。大川(隅田川)の上空を飛び、船で釣りをしていた男の獲物を空中で横取りする。その光景を見ていた主人公は、鳶の眼で、はるかな高みから見る江戸の町並みを幻視する。

(かめ)

『ふらり。』に登場する動物。3話の「亀」に登場。深川八幡の放生会(ほうじょうえ)で隠居した中年男が十文で購入して川に戻した亀。放生会とは、捕らえた動物を再度野に戻し、殺生を戒め功徳を積む仏教の儀式。隠居した中年男は亀の眼で川の中を泳ぎ、河原にいる女性たちを見る。これ以外にも、2話で桜、4話で猫、11話で蜻蛉、14話で蟻、といった具合に隠居した中年男は、それぞれの視点から見た世界を幻視する。

その他キーワード

量程器 (りょうていき)

『ふらり。』に登場する測量用の機器。7話の「雨」に登場。隠居した中年男が使用した歩数計。平賀源内の苦心の作品らしい(その時点で源内はすでに死んでいるが)。雨の日に使ったため、足がぬかるんでうまく作動しなかった。

量程車 (りょうていしゃ)

『ふらり。』に登場する測量用の機器。7話の「雨」に設計図だけ登場。車を移動し、その動輪の回転数を歯車で数え、距離を表示するように作った測量器具。隠居した中年男は脚気で足が動かなくなった男が乗る車いすを街で見かけ、この仕掛を思いつく。12話の「馬」で、この機器を馬に引かせれば良いと考える。もちろん実在の機械で、伊能忠敬はこれを用いて測量を行った。

垂揺球儀 (すいようきゅうぎ)

『ふらり。』に登場する測量用の機器。9話の「象」に登場。お栄は振り子時計と思ったが、実際は天体観測に用いる機械。振り子の振動数から、時刻を換算するもの。

象限儀 (しょうげんぎ)

『ふらり。』に登場する測量用の機器。9話の「象」に登場。土地の起伏や山の高さを測る機器。円を四分の一に切ったようなもので角度をはかる。作中で隠居した中年男はお栄に、この器具の使い方を教えたようだ。

羅針 (らしん)

『ふらり。』に登場する測量用の機器。12話の「馬」に登場。杖のような棒の上に、方位磁石が付いた機器。正確な方位を測定する。

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